デジクリトーク 土壌(前編)/GrowHair

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こんな寓話はいかがだろう。

じめじめとした日陰に生える草がある。日本固有の種であるが、古来からあったわけではなく、戦後のあるとき突然変異で生じたらしい。目立たないけど、何を養分にしてか、やせた土地でもよく育つ。知らぬ間にけっこう増殖していたらしい。別段ものの役に立つわけではないので、雑草扱いで踏みつけにされてきた。

ところが最近になって海外の好事家が試しに食してみると、意外といい味を出しているという。それを知った日本人の起業家は、さっそくこの草を栽培する大規模農場の経営に乗り出した。彼もいちおう食してみるが、実はあまり美味いとは感じなかった。

不思議なことに、彼の農場では、この草は生育があまりよくなかった。出荷してみても、売れ行きがいまひとつ伸びない。農場の経営は苦しくなってしまった。その草の名をオタ草という。

バブルがはじけて以来10年以上にわたって、日本の経済は停滞しっぱなしで、「失われた10年」と言われている。どっちを向いても元気の出る材料の見当たらない昨今の日本だが、「なんのなんの、元気じゃん」の声を挙げたのは、海外のお方である。


アメリカのジャーナリストであるダグラス・マグレイ(Douglas McGray)氏は、国際政治・経済の雑誌「Foreign Policy」'02年5/6月号の中で、「日本は新しい意味で再びスーパーパワーになりつつある。よく言われているような政治的・経済的逆境に押しつぶされることなく、日本の文化の世界的影響力は増大する一方である。実際、ポップミュージックからコンシューマエレクトロニクス、建築からファッション、アニメーションから食文化に至るまで、今の日本を見ていると、1980年代の経済的スーパーパワーから、文化的スーパーパワーに変貌した様相を呈している。」と述べている。

「ポケモン」は30カ国語以上に訳され、65カ国で放送されて、世界の覇者(Pokemon Hegemon)となり、「千と千尋の神隠し」はベルリン映画祭で金熊賞を獲得し、「ハローキティー」は1年間で10億ドル売れた。

マグレイ氏は、この文化的パワーをGNC(Gross National Cool)と呼んだ。これはGNP(Gross National Product 国民総生産)のもじりである。"Cool"とは、「かっこいい」、「いけてる」といった意味である。「国民総文化力」とでも言えばよいか。

マグレイ氏は、GNCは数字で測れるようなものではない言った。ソフトパワーの一種である。「ソフトパワー」とは、10年以上前にハーバード大学のジョゼフ ナイ ジュニア氏が提唱した造語で、ある国が別の国の人々の購買意欲に対して非伝統的な形で与える影響力をさす。その頃は、日本の潜在的なソフトパワーは認識されていたが、日本の島国的閉鎖性から、それがグローバルな影響力を持つに至るとは目されていなかった。

'02年7月に、丸紅経済研究所の杉浦勉氏が、GNCの数値化を試みた。レコード、テープ、書籍、絵画、写真、映画、美術品の輸出総額等を指標としてみると、1991年から2001年までの10年間に5兆円から14兆円へ2.8倍に伸びていた。同期間の輸出総額は42兆円から49兆円へ1.2倍弱しか伸びていないことと比較すると、いかに日本のGNC関連指標の伸びが高かったかがわかる。

これをきっかけに、投資家や起業家が「オタク文化」に目を向け始めた模様である。どっちを向いても右肩上がりの要素が全然ないと思われていた日本の経済が、こんなところで活況を呈していると分かったのだから、それで一儲けしてやろうと考えるのは自然なことである。

また、購買層として若者を狙うのも妥当であるように見える。2002年9月、景気低迷の真っ只中にあって、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)は、表参道にブティックをオープンした。この店は本拠地パリの店よりも高い値札をつけて、世界のどの店よりも高い売上を計上している。景気低迷の折にそんなぜいたく品が売れるのは矛盾しているようだが、可処分所得(disposable income)で見たときに、若者の方が「お金持ち」だからと言われている。

しかし、本当にそうだろうか。若者の購買力はもうとっくにサチって(飽和して)いないか。彼らがいかに「お金持ち」といえども、欲しいものを何でもかんでも買えるというわけではない。欲しいものはいっぱいあるのに、買えるものは限られている。だから、欲しいものに優先順位をつけて、本当に欲しいものだけを選んで買っている。かなり我慢しているのである。

なのに、若者の財布を当てにして、企業は次から次へと魅力的な商品を出してくるものだから、結局相対的につまらないものは見捨てられる。そんな状況の中で、新たに投資してより面白い商品を開発しても、それは限られたパイの取り合いとなり、全体的な景気の向上は見込めないのではなかろうか。

海外輸出は伸びるかもしれないが、国内のお金の流れがどこかで停滞していては、景気はよくならない。経済は、お金がぐるぐるぐるぐる循環してこそ活況を呈してくる。一国の景気とは、国民がどれだけお金を持っているかではなく、お金がどれだけ動いているかが問題なのである。

いまつっかえているのは、オジサン世代から若者世代へのお金の流れである。若者の主な収入源は、親や親戚からのお小遣いやお年玉、それとバイト料である。お小遣いの方は親の財力に余裕がなければ話にならないし、一般的な学生のバイト料はたかが知れている。この堰をどっと開くことができれば、一気に循環が加速するに違いない。

だから、オジサンがオモシロイモノを作って若者に売りつけよう、というのは発想の向きがまるっきり逆。近い将来、GNC関連ビジネスの成功は、オジサンから若者へのお金の流れを、それも健全な形で、仲介した者にもたらされるであろう。(つづく)

・GrowHair
世代を踏みはずしたサラリーマン、41歳。
< http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Studio/2967/ >