Otaku ワールドへようこそ![30]日本の舵は誰がとるのか/GrowHair

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さすがにネタが尽きてきたので、たまにはオタクのテーマから離れ、がらっと趣向を変えて書いてみよう。どうせなら、一番苦手な分野で。

●魅力的な新聞「Japan Times」

中学・高校時代、社会科はどうしようもない苦手科目で、日本史も世界史も地理も政経も倫社も赤点大行進だった。その影響は今も尾を引き、一般常識の方面では"人後に落ちる"こと遥かなるものがある。実は2年前のオリンピックで気がついて仰天したのだが、ギリシアという国は古代のうちに消滅して、今はイタリアになっているものだと思い込んでいた。

そんな私だが、6月4日付け「Japan Times」紙で読んだコラムがちょっと面白かったので、この話題を取り上げようと思ったのである。1972年当時、米大統領補佐官だったキッシンジャー氏の「ジャップは裏切り者」発言について、Roger Pulvers氏が解説したものである。

その話に入る前に、「Japan Times」というのはなかなか魅力的な新聞である。日本のメジャー紙が右寄りだとか左寄りだとか、よく取り沙汰されるが、私から見るに、中心がほんの少しだけどちらかに寄っていて、散らばりの範囲が非常に狭い。それに対して、「Japan Times」は、あっちの極端からこっちの極端まで広範囲に意見を載せるので、どこに中心があるのか、よく見えない。特に親米・反米の意見をよくカバーしている。ジャーナリズムの精神、かくあるべし。もっとも、日本の新聞が真似たら、あらゆる方面から不評を買いそうだが。

新聞というものは、公共性が高く、公平・公正を要求されるとは言いながら、売って対価を得る商品であることには変わりがなく、売上げを伸ばすためには、読者を批判するのは得策ではないという限界がある。その点、英字新聞は日本人に読まれる心配がないので、対日批判などもずけずけと書ける。日本の新聞が、どういうクサいものにフタをしているかが、よく見えてくる。

言い換えると、日本語でしかものを読んでいないと、非常に狭い範囲の情報にしか触れることができない。国際ニュース解説のメルマガを発行する田中宇(さかい)氏も、情報源の9割方は英語だそうである。


●キッシンジャー補佐官の「ジャップは裏切り者」発言

これ自体は日本の新聞でも報道されているが、1972年の日本と中国の国交正常化をめぐり、当時ニクソン米大統領の補佐官だったキッシンジャー氏が、「あらゆる裏切り者の中でもジャップ(日本人の蔑称)は最悪」と発言していたことが5月26日、米民間シンクタンクが情報公開法に基づき入手したホワイトハウスの極秘文書で明らかになった。さらに「品性に欠く性急な国交正常化だけでなく、訪中日として国慶節を選びよって」とも。

Pulvers氏の解説によれば、背景には次のような事情があった。1971年7月に、キッシンジャー氏自身が極秘裏に中国に渡り、米中国交正常化への道をつけた。翌年2月にニクソン大統領が北京に渡り、毛沢東と握手をした。日本には何の事前告知もなかった。そりゃそうだ。アメリカの外交方針を、なぜいちいち日本に知らせる必要があろうか。

出し抜かれた田中角栄首相は、波に乗り遅れまいと、極秘裏に中国と交渉を進めて1972年7月に訪中し、日中国交を完全正常化すると宣言した。これが今度はアメリカを出し抜く結果となり、同年8月、ハワイ・オアフ島のホテルで行われた会合の席上、前述のキッシンジャー発言につながった。

この発言から伺える本音は、世界の国々の友好・敵対関係を変えるシナリオを書いていいのはアメリカだけであって、たとえ和平交渉といえども、他国が勝手に進めるのは許されない、ということである。

●ロッキード事件で角栄氏有罪

Pulvers氏の解説はここまでで、実際、日中関係との関連性は藪の中だが、1976年2月にロッキード事件が明るみに出た。全日空はダグラス社の旅客機を正式発注する直前の状態だったが、土壇場で覆され、ロ社のものを発注した。工作費用としてロ社から30億円が日本に渡り、うち5億円が田中首相の懐に入ったとされる。1983年に田中氏に収賄の有罪判決が下った。

田中角栄氏といえば、小学校しか出ていない身でありながら努力一筋で首相の座まで登りつめ、「日本列島改造論」の構想を打ち立てて日本を明るい未来へ導こうと志す、国民的英雄だった。子供に角栄と名づける親も多くいた。ところが、ロッキード疑獄により、一挙に金権体質の極悪人へと評判は転落。全国のリトル角栄君たちにはお気の毒さまである。

「我々庶民は額に汗して働いてなお貧しいのに、権力の影で汚い手を使って私腹を肥やしているやつがいる」という暴露話に世論は抗しがたいようで、昨日まで英雄だった者の評判が一瞬にして地に堕ちるという構図は定番である。

憶測の域を出ないが、もし田中氏の失脚が、日中国交回復のしっぺ返しとして仕組まれたものだとしたら、第2次大戦の敗戦国である日本がアメリカに首根っこを押さえられ続けていることをよく象徴していないか。アメリカ原作のシナリオを外して動いた役者にはスキャンダルが降りかかり、世論もなぜか同調する。日本には独立独歩の道はないのか? この状態で国連の常任理事国入りしても、意味がないだろ。

●もしかして北朝鮮の件も?

そうなると勘ぐりたくなるのが、北朝鮮の件である。2002年9月17日、小泉首相は弁当持参で北朝鮮の平壌を訪れ、金正日総書記との日朝首脳会談に臨んだ。日本は過去のことを謝罪し、北朝鮮は拉致を認めて謝罪し、両首脳は「日朝平壌宣言」に署名した。拉致被害者の5人生存、8人死亡という情報には青ざめたが、言いづらいことを正直に言ったという点においては誠実さが感じられる。松茸を土産にもらい、日朝間の和平が一挙に進展しそうな風向きであった。

同年10月15日、5人の拉致被害者を乗せたチャーター機が羽田空港に到着した。ここへ漕ぎ着けるまでに最も功労があったのは、当時の外務省外務審議官、田中均氏である。拉致問題の解決と日朝国交正常化に向けて、約1年間にわたって北朝鮮と水面下で交渉を続け、交渉相手に足る一定の役割と権限を握る人物(通称「ミスターX」)を見つけ出し、外交交渉に必要な信頼関係を築き上げた。

このあたりのことは、田中均氏自身が、外務省退官後に、「月刊現代」2005年11月号に10ページにわたって書き綴っている。タラップを降りてくる5人の姿が画面に映し出された瞬間、一種の達成感と、5人が無事に帰国できたことへの安堵感で、執務室の中でひとり涙を流したという。

米国のブッシュ大統領は「これもアメリカが辛抱強く北朝鮮と対話路線を進めてきたことが背景にあってのことだ」とコメントしたが、何となく出し抜かれて狼狽した観がなくもなかった。

その翌年、北朝鮮に核開発疑惑が持ち上がり、日朝関係は一気に悪化した。以降の交渉は、米国、韓国、ロシア、中国を加えた6ヶ国協議へと枠組みを移したが、北朝鮮への態度は強硬姿勢に転じ、拉致問題は進展しなくなった。あっち側から見れば、5人を帰したとたんに、日本は態度をころっと豹変させ、太陽政策から北風政策に切り替えたのである。怒って当然。おかげでこっちは今、いつテポドンが降ってくるかと、頭がすーすーする。

やはり、シナリオはアメリカが書くのだと言わんばかりである。小泉首相が失脚を免れたのは、田中均氏を切り捨てて、ブッシュ大統領にすり寄ったからであろう。日本の世論も、田中氏を悪者のように言った。が、前述の手記によれば、首相や外務大臣ともよく相談をしながら交渉を進めたとあり、「秘密主義の田中均氏が独断で交渉した」という批判はあたらない。むしろ長年の膠着をほぐし、5人を帰国させた功労はノーベル平和賞に値しないか。

●大東亜共栄圏の再来を恐れるアメリカ?

米国は「大東亜共栄圏」の再来を阻止したいように見える。大東亜共栄圏とは、1940年代、東南アジアの国々が欧米列強に次々と植民地化されていく流れの中で、対抗策として、日本を盟主としてアジアの国々が結束を固めようという構想である。構想自体は立派だが、実践のしかたが狂気じみていて、アジアの国々をかえって苦しめた。

現在、アメリカの横暴ぶりが世界中から危険視されている中で、アジアもヨーロッパ共同体(EU)にならって結束を固めたほうがよいのだが、大東亜共栄圏の悪夢があるので、なかなかすんなりとは運ばない。これではアメリカの思う壷で、本来、日本は中国や韓国を敵視している場合ではないのだが、どうしてもシナリオ通りにしか進んでいかない模様である。

田中、田中と来たら、もうひとつ、2002年1月に田中真紀子氏がスカートの裾を引っ張られて外務大臣の椅子から引きずりおろされた件についても勘ぐりたくなる。スカートの裏には何かあったのではなかろうか。

●指させて指す

将棋には「指させて指す」とか「相手の手に乗って指す」という戦略がある。部分的には相手に譲った形をしているが、それだけでは負けてしまうので、相手が気を抜いている、どこか別のところでポイントを稼ぐ高等戦術である。

相手が位を取りたい(序盤で自陣と敵陣の中間である5段目まで歩兵を進めることにより、自陣を広く確保し、敵陣を圧迫すること)なら取らせてやり、駒を交換したいならさせてやり、駒を成り込みたいなら成らせてやる。相手のシナリオに乗っかりながら、しかし、大局的には形勢を損ねていない。こういうのは、実力が相当高いレベルにないとできない芸当ではあるが。

日本の外交も、アジアとアメリカの板挟みで、舵取りが非常に難しい。行政レベルではアメリカのご機嫌を損ねないように尻尾を振りつつも、草の根レベルではアジアの国々と対話を重ね、協定や条約を結ぶといった格式ばった動きをせずとも、がっちりと友好関係が築かれていくのがよい。

日本海の両岸でお互いにズボンを下ろしてケツを向け合いながら(mooningと言い、相手を侮辱するジェスチャー)、その実、パソコン画面では親密にチャットしているような構図が麗しい。

嵐の只中にあっては、不可視作戦というのも面白いかも。国際社会の中で、日本は毒にも薬にもならない、善良で無能なでくのぼうというイメージを演出し、存在感を消すのである。宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の人物像。世界からナメられても意に介さず。しかし、イメージでは沈没しても、実利と安全では沈没しないよう、したたかに舵を取る。バカの鎧。

それと、万が一、日本がテロにあっても過剰な反応をせず、冷静に対処できれば。反イスラムの世論が一気に高まったのでは、西側の思う壷だ。そういう柔軟な動きのできる人に時期総理になってほしいものである。



何しろ常識欠乏症の私のことなので、ひとつ、肝心なところが分からない。上記のことは、たいていの日本人なら思っていることで、「今さら何をか言う」のレベルなのか、それとも、勝手に繰り広げたとんでもない妄想、ギリシアの件と同レベルの勘違いなのか。まあしょせんはネタに詰まったオタクのたわごと、忘れて下さい。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
カメコ。これが配信される頃には、出張で台湾にいるはず。台湾は海外で初めてメイド喫茶ができた国、あ、いやいや地域。ネタ探しが楽しみ。
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