電子浮世絵版画家の東西見聞録[100]最終回 伊坂芳太良展、鯛のカルパッチョとバジルソース
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●ふたつの伊坂芳太良展

1960年代、細密な線画で日本国中を包み込み、あっという間に逝ってしまった伊坂芳太良。ペロの愛称で親しまれた彼の作品は、流れるような線、ダイナミックな構成、そして彩度の高い色使いの孤高の絵でした。当時、学生だった私のあこがれの存在で、その線を真似てよくイラストを描いたものでした。その伊坂芳太良原画展が都内に二カ所で行われていますので、先週末にハシゴしてきました。

はじめに行ったのは、イラストレーター「ペーター佐藤」さんの「PATER'S Shop and Gallery」です。
「Pero 伊坂芳太良原画展」
1月29日(金)〜2月10日(水)木休
< http://www.paters.co.jp/schedule/2010/20100129.html
>
< http://www.paters.co.jp/index.html
>

01.jpgGalleryは原宿から新宿よりにちょっと離れた、むかし寛斎ショップがあった付近にあります。Galleryは目立たない入り口の奥にある、二階建ての洒落た佇まいです。一階には原画が数点と印刷物が展示されています。入り口すぐ右側にある階段を上った二階には原画が10数点と印刷物が10点ほど。私は今回、一階で伊坂さんの原画をはじめて目にました。



伊坂芳太良は、60年代後半にイラストレーターとして、ファッションブランドEDWORSの広告に登場しました。当時、学生だった私はその広告イラストのエロティシズムと不思議な存在感に圧倒され、その後も様々に展開される彼の作品を見続けたものです。その頃活躍していたイラストレーターには横尾忠則、宇野亜喜良などがいて、文壇には五木寛之がいたのです。

異彩を放つ人物が、様々なステージで湧いて出てくるような時代でした。舞踏家として活躍する土方巽、赤テントの唐十郎、天井桟敷の寺山修司、黒テントの佐藤信、浅葉克己、石岡瑛子、篠山紀信、丸山明宏(美輪明宏)、伊丹一三(伊丹十三)、そして三島由紀夫。私は学生の身で、その時代の少し後の人間なのでメディア(当時は紙媒体中心)で見るしかなく情報は乏しかったのですが、彼らの作りあげる世界のパワーをピリピリと感じ、すべてがあこがれの存在だったのです。

02.jpg今あたり前のように使われる、デザイナーやイラストレーター、アートディレクターなどのカタカナ用語もその時代にできたものですが、私自身はすでに世の中にあるものとしての認識でした。それほど、急激な勢いで浸透した言葉、そして仕事だったのです。そんな中で伊坂芳太良と五木寛之が出会うのも当然だったのでしょう。そして、作りあげた作品が「奇妙な味の物語」という一冊の本でした。今その本が復刻されて再びよみがえり、青山ブックセンターで原画展が開催中です。1月30日には、五木寛之のトークイベント「時代を作ったアーティストたち」が開かれました。

『奇妙な味の物語』伊坂芳太良原画展
1月27日(水)〜2月9日(水)青山ブックセンター本店
< http://www.aoyamabc.co.jp/15/15_201001/gallery_20100127.html
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トークイベント会場はフラットで少人数、講演者の手の届く距離感という事もあり、五木寛之氏さん普段は話さないというプライベートな事柄から、かつての時代の人々、出会いなど、気の向くままに話を綴っていました。彼の若かりし頃と私は時代が少しずれているのですが、共通する場所や時間があり、話し上手な五木さんの話に引き込まれていきました。

伊坂作品に話を戻しますが、彼の作品は原画と印刷物の差異がほとんどないという事にビックリしました。もちろん当時はDTPはなく、イラスト部分以外は写植を切り貼りした原稿なのですが、それを外すと、ポスターその他の印刷物もどちらが原画なのか見分けの付かないほどのクオリティーを保っているのです。当時の印刷は、職人技でカラーインクの発色を再現していたようです。今のデジタルデータは、はじめから印刷では色が違う事を前提にして作業しているのですが、何かが間違っているのではないかと感じてしまいます。

絵についてもう少し書きたい事もあるのですが、会場で出会った人の話をしたいと思います。それは、当時の伊坂さんの作品にベタ惚れして、グッズを製作した人です。彼女は個展を開いていた伊坂芳太良に偶然出会い、その場で彼の作品を商品展開しよう思いついたそうです。当時を知る人は、伊坂作品が突如として数多くのグッズとして市場に現れたのをご存じだと思います。その仕掛け人です。

彼女は、原宿にある伊坂さんのアトリエに作品を取りに日参していたのですが、その場所というのが現在の「PATER'S Shop and Gallery」だったのです。ちなみに隣に田中一光氏が居たそうです。伊坂さんは非常に気さくな人でよくおしゃべりをしたそうです。そして多くの仕事を抱えていたにも関わらず、納期は完全に守り通したそうです。五木寛之さんの話の中にも、それはありました。伊坂芳太良の写真はほとんどこの一枚につきるというものしかないので、見た事のある方もいると思いますが、目の前に糸紡ぎの輪があるという不思議な和の空間です。撮影場所は現ギャラリーの二階、彼のアトリエです。

そして伊坂さんの奥様は「PATER'S Shop and Gallery」のオーナーである、故ペーター佐藤さんの奥様の妹なのだそうです。そんな血縁もありながら、伊坂芳太良とペーター佐藤は一度も会った事がないままに、二人とも生き急ぐように逝ってしまったという不思議な関係です。五木さんの話では「そのまま突っ走っていった人は皆短命で、私のように矛先をかわしてきた人間は、皆うまく生き続けている。美輪明宏や篠山紀信のように」との事でした。

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◇本日のお薦めYouTube Music

今回はペロの活躍していた時代、世界中を嵐の渦に巻き込み、ペロ同様にあっという間に去ってしまったアメリカンロック・クイーン、ジャニス・ジョプリンの紹介です。

彼女は「◇本日のお薦めYouTube Music」で紹介させて頂いた、ジミ・ヘンドリクスとほぼ時を同じにして現れ、去っていき、その死因もジミ同様に謎とされています。ジョージガーシュウィンの作ったスタンダードナンバーであるサマータイムを、彼女の個性で歌いあげた声を聞いた瞬間、私の脳裏に鮮烈なショックが残され、未だに彼女の歌声は時代を超えたパワーを継続させています。この詩って本来は子守歌なんですよね。

ジャニス・ジョプリン(Janis Joplin、1943年1月19日─1970年10月4日)
< http://ja.wikipedia.org/wiki/ジャニス・ジョプリン
>(Wikipedia)
Janis Joplin - Summertime (Live Grona Lund 1969)
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Janis Joplin - Cry Baby (live in toronto 1970)
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Janis Joplin - Get it while you can
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Janis Joplin - A Woman Left Lonely
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その他の女性シンガーが歌いあげる「サマータイム」
Billie Holiday
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Ella Fitzgerald
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◎本日の料理:鯛のカルパッチョ

脂肪分の少ない白身の魚「真鯛」は、冬から春にかけてが旬です。冬を乗り切るために身にしっかり脂肪を蓄え、春の産卵を迎える直前です。美味しいのは当たり前の時期なのです。今日はこの真鯛を使ったカルパッチョをご紹介します。本来カルパッチョは牛肉を使った料理ですが、白身の魚を使ってスパークリングワインと共にサッパリと頂くのも良いですよ。

03.jpg・鯛のカルパッチョ材料:鯛または白身の魚の刺身を一冊、完熟トマト小1、バジルの葉3枚、塩・胡椒適宜、ケイパー適宜、レモン適宜

トマトは皮をむいてバジル共にみじん切りにし、塩胡椒とオリーブオイルを加え良く混ぜておきます。盛りつける皿にはニンニクの切り口を押し付けるように擦り込み、薄く削ぎ切りした鯛を並べて冷蔵庫で冷やしておきます。食卓に出す直前、鯛には塩少々とケイパー、オリーブオイル、レモン汁をしぼりかけ、上にトマトソースを乗せて完成です。簡単で、チョッピリ豪華な前菜です。

さて、まだワインは残っていますよね。カルパッチョの後には、バジルソースのペンネはいかがでしょうか。ソースさえ作っておけば、ペンネを茹でて和えるだけです。タイミング良く出せば最高のごちそうになりますよ。

04.jpg・バジルソース又はジェノバソース
材料:バジルの葉50グラムほど、ニンニクひとかけ、オリーブオイル100グラム、松の実30〜50グラムまたはクルミ、塩・胡椒少々

ニンニクはすりおろし、少量のオリーブオイルを使い、香りが出るくらいにフライパンで熱を加えさましておきます。バジルは洗って水分を取り、松の実は軽くから煎りします。全てをフードプロセッサーにかければソースの出来上がりです。このソースは煮沸消毒した瓶に詰めて、上にオリーブオイルを流し込み空気に触れないようにしておけば、しばらくは冷蔵庫で保存できます。ペンネは堅めにゆがいてこのソースを絡めるだけです。写真はペンの上にソースとバジルの葉を盛りつけてみました。
< https://bn.dgcr.com/archives/2010/02/01/04 >

〈ボヘミアンナイトのお知らせ〉
2010年がスタートして、はや1ヶ月! 今年も残すところあと11ヶ月となりました。そして今年第1回目となります、第5回目のボヘミアンナイトを2月19日(金)に開催いたします。会場は青山にあるお洒落な大人の遊び空間「FIAT SPACE」。参加者の皆さんがより多くの方と交流できるように、毎回好評のNAMEビンゴをはじめ、新企画「Bohemian Queen コンテスト」など様々な展開の楽しい演出の中、作品のPR、新雑誌・商品のPR、ビジネス的交流、ネットワーク交流、異性交流など深めてください。ボヘミアンは伊坂芳太良の時代を新しい目で見つめ、今のなまぬるい世間の状況を打破したいと考え動いている人間達の集まりです。熱い心を持った人達、是非ご参加下さい。
詳しくはWebサイトで。< http://bohemian.jp/night/index.html
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さて、「東西見聞録」は初回の韓国話から始まり、私が何となく見聞きした事を拾いながら書き綴っていました。途中から、音楽や料理まで書きたい事を勝手に書かせて頂いていました。それもついに100回を迎えました。振り返ってみると、初回は2007年6月18日、連載は2年半を超えた事になります。まとまった文章などほとんど書いた事のない私が、デジクリに寄稿させて頂き、100本も書けたのは編集長・柴田さんのおかげでした。

日常でも頭の中は単語が散乱し、人と話をしていても日本語自体が下手な事を痛感していた私です。はじめの頃の文章はその頭の中をそのまま晒していたので、すっかり編集長に体裁を整えて頂きました。ここにあらためて柴田さんに感謝したいと思います。そして、今まで稚拙な文を読んで下さった読者の方々にも感謝しつつ、この100回を以て最終回といたします。

4月には横浜マリンタワーで、本業の電子浮世絵版画家としての作品展を開催が予定されています。詳細が決まったらデジクリでも紹介して頂こうと思います。また何かクリエイティブな役立ち情報があった場合は、随時投稿させて頂きますので、その時にまたお会いできたらと思います。長い間のお付き合い、本当にありがとうございました。

【HAL_】横浜在住アーティスト hal_i@mac.com
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