Otaku ワールドへようこそ![118]セーラー服にヒゲ三つ編みでぶいぶい言わす
── GrowHair ──

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小心者の私は、まだセーラー服を着て新幹線に乗る勇気はない。なので、京都へはセーラー服持参で行った。京都駅のコンコースに修学旅行の中学生や高校生があっちに100人、こっちにまた100人と整列している横を、セーラー服姿の私が5月の風のようにさわやかに歩き抜ける、なんて図を想像すると、わくわくしちゃうんだけどね。

妄想スイッチ、オン! どう反応してよいか困って唖然とする制服集団。かわいく微笑み、手を振る私。それをキューに、とりあえず撮っとけー、とケータイのカメラを一斉に構える少年少女。慌てる引率の先生たち。修学旅行とは学を修める旅行、教育の一環として京都までわざわざ連れてきたというのに、教育に悪そうなもんにのうのうと闊歩され、ウチの純な生徒たちの思想を穢されてたまるかぃ! 捕まえて一言言ってやる!

ケツまくって韋駄天走りで逃げ去る私。いやいや、外の世界は広いんだなー、と勉強するいい機会になるかもしれないし、ああいう大人になりたくないと思うなら、どういう大人になりたいか自分の頭で考えるいい機会になるかもしれないし、教育にそれほど悪くはないと思いますよーーーん。......ってなことが実際にできたらさぞかしスカッとすんべぇ、と思うのだが。

なかなかできない引っ込み思案な性格をなんとかしたいという思いで、徐々にではあるが、歩ける範囲を広げていき、自己鍛錬のステップを一段一段上がっていっている。今回はその過程を記録する日記のようなものと思っていただければ。まずは、デザフェスのことから。写真はこちら。
< http://picasaweb.google.com/Kebayashi/RlhCsJ#
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●キャンディ・ミルキィさんをセーラー服姿で迎撃

去年の10月24日(土)、25日(日)のデザイン・フェスタでは、2日目に偶然、女装界のカリスマであらせられるところのキャンディ・ミルキィさんにお会いした。40年来の女装歴をもつ、押しも押されもせぬ大御所である。安達加工所のブースで、自主的に広告塔を務めていた。今回は来られるのかどうか、前日の5月14日(金)にmixiメッセージを送って聞いてみたところ、ほどなく返事が来て、日曜の午後に行きます、とのこと。

この時点では、セーラー服姿を生でさらすつもりはなかった。けど、キャンディさんに立ち寄っていただけるのなら、こちらもそれなりの姿でお迎えするのが礼儀にかなっているんじゃないかという考えがふと浮かんでしまった。デザフェスは、東京ビッグサイトの西ホールの上と下とを全部使って開催され、2日間でたしか、約5万人が来場するのだった。私にとってはちょっとばかり敷居が高い。

けど、キャンディさんはあの姿で平然と電車に乗って来ちゃうのである。この程度でぐだぐだ言っていては、恥ずかしい。しかし、まあ、まわりの反対を押し切ってまでするほどのことでもないので、まずはお伺いを立ててみよう。というわけで、1日目はいつもの普段着で行き、周囲の人々の意見を聞いてみた。

今回は「妖怪横丁」の一員として、人形の写真を展示した。妖怪横丁は、通路を挟んだ両側にミニブースを12個借りて、妖怪というカテゴリを緩〜い縛りで解釈したつながりで、それぞれのブースにそれぞれの作品が掲げられる。その中で、人形関係では3ブース占め、人形作家4人の作品と、私の写真を展示した。

なので、人形作家さんたちと、妖怪横丁のリーダーにお伺いを立てておくのが筋というもの。明日、セーラー服姿でいていいですか、と。誰かが反対したら、それを言い訳にして思いとどまろう、という後ろ向きの考えが多少あった。ところが、さすがはデザフェス出展者たちである。誰も反対しない。どころか、ぜひぜひと推す声まで。

どなたかがブログかなんかでデザフェスについて、上手いことを言っていた。普段はまわりから変人扱いされている人たちが、普通になれる年2回の機会だと。なるほど、集まっちまえば、いいわけだ。いや、デザフェス自体は、自分で作ったものを展示すること、がブースを構えるための唯一の条件であって、変人うんぬんとは一言も言ってないのだけど。世の中全体からすると、クリエイティブな指向をもった人々というのは、変人の部類なのかもしれん。

少女主義的水彩画家のたまさんのブースに、ごあいさつがてら立ち寄った際にも聞いてみたのだが、ぜひ見たいという、大変力強い肯定のお答えが返されたのであった。思いとどまる機会どころか、かえって、退路が断たれちゃった感じで、もうこの時点で完全に引っ込みがつかなくなっていた。

運命とは奇妙なもので、去年の4月5日(日)に秋葉原の秋月電子の上の階のコスメイトプラスでセーラー服を一式揃えた際には、着た姿を人前にさらそうなんて考えはまるっきりなかったのだけど。シャイな性格を克服したいとお悩みの向きには、いい手なのかもしれない。とりあえず一着持っておけば、自然ななりゆきでちょっとずつ指向が外へ向かっていく、と。

そういう経緯で、抗しがたい運命の波に乗せられて、日曜はセーラー服持参で東京ビッグサイトへ。自分で三つ編みが編めない不器用な私は、妖怪横丁の人にやってもらう。ヒゲで。左右に細いのが2つできた。自分で言うのもなんだけど、これはけっこうかわいいかもしれない。

度胸試しに、比較的人の少ない午前中に、歩き回ってみる。ウケは上々。たまさんとの2ショは、妖怪で一緒に出展している人形作家の八裕沙さんに撮ってもらった。撮っているところを見て人が集まってきて、人だかりができ、周りからもずいぶん撮られた。おお、なんか気分いいぞ。

人形作家の西條冴子さんは、去年たまたますぐ背中合わせのブースだったが、今年は4〜5列ばかり離れていた。前日に一度ごあいさつしているが、セーラー服のことは予告していなかったので、サプライズ。後ろから「おはようございます」と声をかけると、「おはようございます」と言いながら振り返り、絶句。なんか言おうとするが言葉にならないって感じで。繊細な感性を粉砕しちゃったみたいで、すいません。

屋内の長いエスカレータに乗り、4階へ。歩いているとブースから「素敵!」といった反応が聞こえてくる。追いかけてきて、「撮らせてください」とお願いされることも。だんだんとアイドルの気分に。安達さんのところに行くと、大笑いしながら「もう、どこからツッコんでいいやら」とか「かける魔法を間違えたかのよう」とか。

午後になって人が増えてくると、もう、すっかりアイドル。歩いていると、どんどん写真を撮られる。多かったのが、若い2人連れの女の子が声をかけてきて、撮る人と私の横に立つ人とで交代してそれぞれの2ショを撮っていくというケース。ブースから、近くの自販機までお茶を買いに往復するくらいでも、軽く10回や20回は声がかかる。俺、こんなにモテたの初めて! なんでもっと早くやらなかったのだろう。

映像の寺嶋真里さんに来ていただけた。わ、池袋のときに引き続き、またしても足をお運びいただいちゃって、恐縮です。口枷屋モイラさんと引き合わせていただけた。前の日にもモイラさんの姿は拝見していて、強烈なインパクトを受けていたが、距離を置いて眺めるだけだった。上がセーラー服のようなデザインになっているスクール水着を着て、空気で膨らませる丸いビニールの子供用プールに入って遊んでいた。プールは水の代わりに、たくさんの小さな風船で満たされていたのだけど。

モイラさんと私の2ショを寺嶋さんが撮ってくれた。それはもう大はしゃぎで。「もっとセクシーに!」とか、監督の声が飛んでくる。その光景が面白くて、人が集まってくる。はいはいどうぞ、みなさんもお撮りくださいませ〜。一日を通じても、このときの人だかりがいちばん大きかった。コミケのコスプレ広場のように、カウントダウンしようかと思ったくらい。

夕方になってキャンディさん登場。私の姿は、すごくほめていただけた。「わたしの40年はいったいなんだったのでしょう」。いやいやまたまた口が上手いんだから。おほめにあずかれたのも光栄なら、私のブースの前で一緒に写真を撮らせていただけたのも光栄であります。

そういうわけで、今回アイドル・デビューしたデザフェスは、人々の肯定的な反応に支えられて、ノリノリで過ごすことができた。批判的というわけではないが、よく注文がついたのは足まわり。特に、人形作家さんからのは細かかった。「靴下は白の三つ折かクルーソックス、または紺のハイソックス(赤いエンブレム刺繍付き)希望。靴はローファーがベストだけど、真っ白のスニーカーも可とします」。つまりは、制服・校則という制約の中で精一杯おしゃれしたいという乙女心をもっとちゃんと理解してしっかりやりなさい、というメッセージと受け止めた。うーん、女装って奥が深い。

妖怪横丁の人からは、「妖怪・乙女男(オトメオトコ)」という名のマスコット的な存在として、次回もよろしくと言われる。もしかして、今後のデザフェスで、毎度おなじみのキャラとして乙女男が定着していくことになるのか。いったいどこへ向かっているのだ、俺。

●京都、おったまげたのはこっちだった

オタクが背負って歩くリュックは往々にしてぱんぱんに膨らんでいるものだが、中に何が入っているのか、けっこう謎だったりする。セーラー服が入っているのは、例外的なことなのか、どうなのか。とにかく、一着背中に忍ばせて、5月23日(日)11:53東京発のひかりで京都へ。

Rose de Reficul et Guiggles のイベント「Esprit et Ridicul(エスプリ エリディキュール)」を見に。恒例のローズさんの誕生日イベント。場所は二条城の近くの「夜想(やそう)」。去年は、永井幽蘭さんと紅日毬子(あかひまりこ)さんによる「電氣猫フレーメン」の公演があった。今年は、Rose de Reficul et Guigglesの出演する映像「アリスが落ちた穴の中 - Dark MarchenShow!!」の上映がある。映像制作は寺嶋真里さん。収録と並行して撮影したという、中村キョウ(漢字では[走喬])先生の写真の展示もある。< http://www.rose-alice.net/
> アリスが落ちた穴の中

ローズさんとお会いするのは、2月28日(日)、浅草橋のパラボリカ・ビス以来になる。寺嶋さんの映像に清水真理さんの人形作品も出演しているというつながりで、清水さんの人形展の週末イベントとして、2月27日(土)には Rosede Reficul et Guiggles の公演があり、28日(日)には寺嶋さんの映像の上映があった。そのときに中村先生と初めてお会いして、図々しくも、ローズさんとの2ショを撮っていただいた。
< http://picasaweb.google.com/Kebayashi/xUfqJL#5444452837829321058
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さて、行ってみると、セーラー服なんか吹っ飛んじゃうくらいのビッグ・サプライズが私のために用意されていた。光を通して見るワインのような、鮮やかな赤のスーツ上下。「とりあえず、これ、着てみてもらえますか?」とギグルスさん。え? あの話、生きてたの? たいへん光栄な話だけど、私なんぞではマイナスの誕生日プレゼントになってしまいやしないか、ちと心配ではあるけど、精一杯がんばることで祝意とさせていただければ。

その話があったのは、2月27日(土)のことだ。ローズさんから、一緒に舞台に立ちませんか、とお誘いがあったのである。いい話だけど、私に務まるような気がしない、というようなあいまいな返事をしていた。その前日には、VANQUISHの青炎(セイレーン)さんから神父役を仰せつかったばかりである。

舞台に立ったこともないどころか、演じる練習をしたこともなく、それ以前に役者という方向性すら考えたこともない私のところへ、2日続けて別々のところから舞台に上がるお誘いが来るとは、奇妙なことではなかろうか。才能あるアーティストたちの目から見ると、私の中になんらかの特別な素質でも見えるのだろうか。自分としては、ごくごく地味に生きてきたつもり、見て面白いものではないなずなのだが。

その後、ちょこちょこっとメールをやりとりしたけれど、何も決まらない宙ぶらりん状態で音信が途切れてそれっきりだったので、てっきり話が立ち消えになったのだと思っていた。3月7日(日)に「燕尾服かスーツありますか?」というメールが来て、「ビジネススーツならあります」と返信して、そのまま。

イベントの前々日の金曜、前売りチケット申込みのメールを送ると、スタッフ扱いで入れるように手配しておくので、4時までに来てくださいと、土曜に返事が来た。まあ、写真撮る係と言えば言えなくもないので、お言葉に甘えることにして、舞台の話は勘弁していただいて、セーラー服で客席をうろうろ、ぐらいで許していただければ、と。

で、行ってみると、私のために衣装が、というわけである。サプライズ出演と言えば普通、出演者が予告なしに登場してお客を驚かすものだが、出演者がサプライズを食らった格好だ。しかし、ここまでお膳立てしてもらっておきながら、お断りする図太さは、私にはない。無理にとは言いませんが、と言ってくれるが、正直言って、嫌ではないのである。ただ、せっかく舞台が用意されても、それに見合う芸のない自分が申し訳なくてしかたがないだけである。

幕が開くとき、カメラを持った自分が幕の舞台側に立っているというのが、とてつもなく間違っている感じがして、ちょっと笑えた。ローズさんの魅力に引きずり込まれて、我を忘れて、気が狂ったように撮りまくる、という役。舞台側にいるか、客席側にいるかの違いだけで、いつもと変わらないとも言えるか。そう言えば、もし自分も舞台に立って、至近距離からローズさんを撮れたらいいだろうなぁ、なんて妄想に耽ってたこと、あったような。念じていれば、いつかはそこへ行けるの法則?

自分が何をしているのか、よく分からなくなっていた。けど、いつも撮るときに出ている脳内モルヒネが、このときも激しく出まくっていたようであるから、カチンコチンに固まって自分の自然な姿が出せなくなっていたということはなく、調子は出ていた模様。なら、いいか。この日は、客席がキャパシティいっぱいいっぱいの超満員であることは最初っから知っていたので、この前の舞台みたいに、顔顔顔にビビッてひるむ、ということはなかったし。

ただそれが見る側からどう映っていたのかが不安で不安でたまらなかったが、最後に、一人一人が決めポーズをしていったとき、私の番でも暖かい拍手がいただけたので、少なくともネガティブに見られてはいなかったと受け取り、間違ってはいなかったのだと思うことにした。楽屋に戻ると、よくこれだけの汗がかけたものだと自分で感心するくらい衣装が重くなっていた。

セーラー服に着替えて客席に出て行くとき、これでやっと普通の姿に戻れて緊張が解けた気分になれた。寺嶋さんからも好評であった。改善の余地はいろいろあるけど、基本的に私は、人々の注目が集まる中で、なにか芸ができる人なのだそうで。うーん、そう言われてみると、小学生時代はそういう道化者だったかな。見られる側として、なんかやれそうかも? 写真撮るのやめちゃおっかな。冗談だけど。孔子は40歳にして迷わずの境地に達したらしいけど、私は50歳間近にして迷走気味なのであった。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp

カメコ。6月18日(金)からの浅草橋「パラボリカ・ビス」での人形と写真の展示の準備、着々と進行中。5月22日(土)は、草ぼうぼうの空き地で吉村眸さんの人形を撮影。人形撮影では、たいていの場合、対象の人形作品が先にあって、その表現の方向性とマッチする背景をイメージし、そういうロケ地を探すという手順を踏む。けど、今回は逆に、ロケ地が先だった。4月11日(日)にロケハンに行ったとき、赤色メトロさんが「ここは大きい人形が合いそう」と言ったのがヒントになって、ピンときた。3月6日(土)に吉祥寺の「リベストギャラリー創」で見た子がいい。上に向かってヒョロピンと立ち上がった耳。するっとした輪郭。宇宙船が難破して地球に漂着しちゃった宇宙人の子供のイメージで。こんな。
< http://picasaweb.google.co.jp/Kebayashi/fBIAkK#
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案内ハガキも出来上がり、好評配布中。パラボリカ・ビスのサイトにも情報が載りました。ハガキの方では6月26日(土)のイベントの出演者がVANQUISHになっているが、都合によりMONT★SUCHTに変更になっています。私の神父役の再演もナシに。MONT★SUCHTは由良瓏砂さんが中心になって、このイベント向けの演目を鋭意制作中です。7月4日(日)の電氣猫フレーメンは、由良瓏砂さん、永井幽蘭さん、大島朋恵さんが出演します。大島さんは劇団「月蝕歌劇団」にも所属し、心の内に広大な宇宙空間を秘めた少女という感じ。目は内側を見ていて、外の世界は内側に取り込むための素材の転がっている小さなガラクタ箱にすぎないんじゃないか、なんて。とてもしっかりした芸をお持ちの女優さん。2月20日(土)に渋谷のLE DECO で開かれたMONT★SUCHT主催のイベント"Rosengarten I"では、明治通りに面したウィンドウに入って、こんなパフォーマンスも。
< http://picasaweb.google.com/Kebayashi/KgjJfJ#
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それぞれテイストは異なるけれど、どちらのイベントもダークで耽美な世界をお楽しみいただけると思います。
< http://www.yaso-peyotl.com/archives/2010/05/post_782.html
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