Otaku ワールドへようこそ![148]二塔問題(←私が勝手に命名)を解く
── GrowHair ──

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人事異動で移ってきた新職場は、都内にあるオフィスビルの22階。竣工からまだ6年足らずでぴっかぴかだ。15年間通っていた埼玉のだだっ広い工場とは大違い。朝着くと、まず休憩室に行き、紙カップを引き抜き、飲み物サーバーにセットし、50円を入れて、コーヒーのボタンを押す。熱いブラックコーヒーをちびちびすすりつつ、外の景色を眺める。

東京タワーはやはり目立つ。分かりやすいから、とも言える。高層ビルはたくさんあって、どれが何なのか、ぜんぜん分からない。少なかったころは、池袋のサンシャインとか、新宿の京王プラザとか、住友三角ビルとか、見れば一目で分かったし、それで方向が分かったりしたものだが。

池袋や新宿の高層ビルは、今や手前のビルの陰に隠れてほとんど見えない。東京タワーの少し右に、東京スカイツリーが見える。目立たないなぁ、最初、気がつかなかったよ。遠いからということもあり、少し霞んでいる。東京タワーとほぼ同じ高さにみえる。

じりりりりりりりりんっ! はい? 天の神様からだ。専用回線を通じて脳内に直接メッセージを送ってくる。今日は謎かけだという。スフィンクスじゃあるまいし、なんでしょ?「東京タワーと東京スカイツリーが同じ高さに見える曲面を求めよ」。はい? えーと、まずここがこうで、ああなってこうなって、だいたいこんなもんかな? あれれ違う。あ、これ、意外と面白い問題かも。

●問題

(問1)地上から東京タワーと東京スカイツリーがぴったり重なって同じ高さに見える地点はどこか。その地点を作図によって求めるにはどのようにしたらよいか。
(問2)地上から東京タワーと東京スカイツリーが正反対の方向に同じ高さに見える地点はどこか。その地点を作図によって求めるにはどのようにしたらよいか。
(問3)空中も含め東京タワーと東京スカイツリーが同じ高さに見える点の集合はどのような曲面をなすか。

ただし、ここで言う「地上」とは標高ゼロメートルの平面とし、地球の丸みは考慮しなくてよいものとする。

東京タワーの高さは333メートル、東京スカイツリーは634メートルだが、これらの数値は用いず、それぞれのてっぺんの標高351メートル、637メートルを用いよ。また両者間の地上距離は8,220メートルである。

神様ってば、こんな問題を送ってきました。挑戦意欲のある方は、この先を読む前に自力で解いてみてください。




●ヒントなど

まず空中は脇に置いておいて、地上で考えましょう。東京スカイツリーの実際の高さは東京タワーよりも圧倒的に高い。にもかかわらず、同じ高さに見えるとはどういうことでしょうか。遠近法ですね。遠くにあるものは小さく、近くにあるものは大きく見えるというわけです。だから、両者が同じ高さに見えているということは、東京スカイツリーよりも東京タワーに近い地点に立ってないとならないってことですね。

両方からうんと離れると、より客観的な視点で見れるというか、どうしたって実際に高い東京スカイツリーのほうが高く見えるようになります。なので、両者が同じに見える位置というのは、両者からあんまり離れていない、東京タワーの周辺、ぐるっと一回り、みたいな感じになりますかね。

ところで、遠くのものが小さく見えるのはなぜでしょうか。目の錯覚でしょうか。いやいや、写真を撮っても遠くのものは小さく写りますよね? この見かけ上の大きい小さいって、いったい何なんでしょうか。そもそも我々は、どうやってものを見ているのでしたっけ?

ありとあらゆるものに当たった光が、ありとあらゆる方向に乱反射され、そのうち、我々の目に飛び込んで来るものを像として捉えることができます。その光を逆向きにたどれば、我々は、自分を中心に据えて、放射状にものを見ているってことになりますね。見かけの大きさって、ズバリ言って、その対象物を見込む角度のことです。

東京タワーと東京スカイツリーが同じ高さに見えているとしたら、両者のてっぺんを見上げる角度(=仰角)が等しいってことです。満月の直径を見込む角度は宵の口も真夜中も明け方も変わりません。じゃあ、なぜ地表付近の月が大きく見えるかというと、......これは目の錯覚ですね、たぶん。

さて、東京タワーのてっぺんから地表へ下ろした垂線の足を考えます。つまりは、東京タワーの足下ですね。東京タワーのてっぺん、足、自分、の3点のなす三角形を考えます。直角三角形ですね。東京スカイツリーについても同様の三角形を考えることができます。仰角が等しいということは、これらの2つの三角形は互いに相似ということになりますね。

ということは、対応する辺々の比率が等しいということでありまして。自分からそれぞれのタワーへの距離の比率は、それぞれのタワーの高さの比に等しいってことになりますね。言いかえると、この問題は、2地点からの距離の比が一定であるような点の集合はどのような曲線をなすか、ということになります。その一定の比率とは、両者の高さの比、すなわち351:637ってことです。

さて、以上は地上での話ですが、空中も考えるとどうなるでしょう。自分が地上から10メートル上昇したとしましょう。これって、自分が上昇しなくたって、2つの塔が10メートルずつ低くなったと思えば、問題の本質は一緒ですね。比率の値が変わっていくだけです。さっきは351:637だったのが、(351-10):(637-10)になりますね。

両方の塔の高さを同じずつどんどん下げていって、東京タワーが爪楊枝くらいになったとき、東京スカイツリーはまだ280メートル以上残っています。両者が同じ高さに見えるのは、爪楊枝のすぐ近くの一回りだけですね。つまり、地上の一回りが、空中を上昇するにつれ、だんだんだんだん小さくなっていき、最後は東京タワーのてっぺんに収束する、って感じですかね。......まだ起きてますか?

●解答と解説

じゃ、答え、行きますよ。問1。東京スカイツリーのてっぺんから東京タワーのてっぺんへ直線を引きましょう。それを東京タワー側に延長して、地表との交点を求めましょう。その地点からは両者がぴったり重なって見え、高さも同じに見えます。ただし、途中に障害物があって陰に隠れてたら見えませんが。

比例計算により、その地点は東京タワーから10,088メートル離れていることが分かります。田園調布駅の東南、宝来公園の一本手前の道あたりです。ただし、標高ゼロメートルという前提で計算してますので、実際にはもっと手前になるでしょう。

もし見えなかったら障害物を破壊してしまうというのもひとつの手ですが、それはちょっと過激です。さきほど引いた直線上の、東京タワーと地上の間なら、どこからでも成立します。つまり、最初に当たった建物からなら見えるってことですね。それは一箇所しかないはずです。どこなんでしょうね。どなたか、見つけて写真撮ってきませんか? もしその建物に入れなかったら、もっと東京タワー寄りのどこかで空撮してもいいわけです。

有人だと大掛かりな上に危険を伴うので、おっきな風船を用意してヘリウムガスを充填して、カメラをくくりつけて上昇させてみるとか。どっかへ飛び去っていかないように、長い紐をつけといて一端を握りしめ、そろそろと延長していけばいいのではないかと。ウエハラZENさん、いかがでしょ?

あるいはいっそのこともうひとつタワーを建てちゃって、そこからなら重なって見えるってのを売りに観光名所にしてしまうとか。石原さん、いかがでしょ?

問2。東京スカイツリーを引っこ抜きます。逆さにして、同じ地点の地面に打ち込みます。全体が埋まるまで。地中にある先端と東京タワーのてっぺんとを直線で結びます。その直線と地表との交点が求める点です。別の作図法として、それぞれのてっぺんから相手の足へと引いた2直線の交点はどうか、と言った人がいますけど、それ、不正解ざんねん。高さの比じゃなくて、高さの平方根の比になっちゃいますね。

比例計算により、その地点は東京タワーから2,920メートル離れていることが分かります。東京駅の東南、八重洲富士屋ホテルの北東の交差点あたりです。

さて、その地点からは障害物があってタワーが見えなかったらどうしましょう。問1では、引いた直線上ならどこから見てもよかったわけで、問2でも同様なんじゃないかと思いたくなります。でもそれは早とちりってやつです。今度はそうはいきません。

地表から10メートル上昇したとしましょう。自分が上昇するだけでなく、地表も丸ごと上昇させてしまいましょう。問題の本質は一緒で、数値が変わるだけですね。タワーが両方とも10メートルずつ低くなります。東京スカイツリーを逆さにして、新たな地面に打ち込むと、10メートル低くなったタワーを10メートル浅く打ち込むことになるので、先端は20メートル浅くなりますね?

先端どうしを結んだ直線は、さっきよりも傾斜が緩くなります。だから、新たな地表との交点は、元の直線との交点に比べると、東京スカイツリー側にずれます。ここがこの問題のハマりやすい落とし穴。

問3。まずは地表で考えましょう。東京タワーのまわりをぐるっと一回りする曲線だってことはすでにだいたい予想がついているのですが、どんな曲線でしょうか。その曲線上の2点はすでに分かっています。問1と問2の答えです。

では残りの曲線は? 東京タワーの足と東京スカイツリーの足という2地点からのそれぞれの距離の比が一定値になるような点の集合です。この一定値とは、それぞれの高さの比、すなわち351:637です。

それはどんな曲線をなすか、自力で考えようとするとけっこう苦労するのですが、ここは知識に頼っちゃいましょう。円になります。「アポロニウスの円」といいます。問1と問2で求めた2点を直径とする円です。両者の中点を中心として、両者の距離の半分を半径として円を描けばいいわけですね。

「2点からの距離の比が一定であるような点の集合は、内分点と外分点とを直径の両端とする円である」。このことは2,000年以上前から知られていました。人類ってひょっとしてどんどんバカになっていってる? って考えるとちょっとヘコみますけど。まあ、気にしないことにしましょう。テクノロジーのおかげで労役ばかりでなく思考まで省力化できて便利なのが現代社会ってことで。キャワイイもん見て萌え萌えしてればいいんです。

その間にも数学自体は進歩してます。高校で習う微分積分いい気分がだいたい300年ちょいばかり前の数学です。じゃあ、現代数学はどこまで行っちゃってるんでしょうか? 普通の人が「数学」という言葉からイメージするものとはだいぶんかけ離れたところへ行っちゃってるかもしれない、とだけ言っておきましょうか。道元禅なんかとちょっと似てます。『正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)現成公案(げんじょうこうあん)』の読後感は現代数学の教科書と似てましたマジで。

あ、それで思い出したんですけど、余談です。『不思議の国のアリス』を読んだ人が著者のルイス・キャロルに手紙を書いたんだそうです。感動したんで、他にも著書があったら紹介してほしい、と。そしたら位相幾何学の論文が送られてきたそうです。やりますね、キャロルおじさん。7歳の女の子に求婚して母親から足蹴にされた、って話は実話なんですかね? いや、数学って摩訶不思議です。

そういうわけで、アポロニウスの円についてもっと詳しく知りたい方は、ギリシア時代の人に聞くか、ググってみるかしてくださいませ。

さて、以上は地表での話でしたが、上昇していくとどうなるでしょう。まあ、すでに言ってしまっているように、2つのタワーが低くなっていくのと同じことなわけで。アポロニウスの円がだんだん小さくなっていって、東京タワーのてっぺんへと収束します。円の中心は、地表では東京タワーとは別の地点でしたが、これがだんだん東京タワーに寄っていくわけです。

ならば、曲面全体は円錐を斜めにしたような形か、といえば、そうではありません。これも先ほど注意したとおり、内分点は一直線に沿うわけではありません。曲面を真横から見たシルエットは、片側は直線なのですが、もう片側は膨らんだ曲線になります。この曲線はどんな曲線かを知るためには、いよいよ数式を持ち出さないとならないのですが、結論だけ言うと、双曲線になります。

いや、数式を持ち出して解説しようかとも思ったのですが、デジクリ読者多しといえども数式萌えな方は3人ぐらいしかいらっしゃらないようで。過去にも数学の話題を取り上げたときはブーイングのほうが多かったですからね。自粛しときましょう。

で、代わりに図を出しておきましょう。あるんだったらもっと早く出せ、ってご意見はあるかもしれませんが。
< http://www.geocities.jp/layerphotos/FigDGCR120302/FigDGCR120302.html
>
図1:問1の答えを地図上で
図2:図1の拡大図
図3:問2の答えを地図上で
図4:図3の拡大図
図5:横から見た図
図6:問3の答えを鳥瞰図で
図7:問3の答えを等高線表示
図8:問3の答えを地図に重ねて等高線表示
どう見てもおっぱいです。ほんとうにありがとうございました。

東京に横たわる巨乳。乳首は東京タワーの先端。実は、もう片一方もあります。東京タワーを逆さにして、先端と先端とを合わせて東京スカイツリーの上にくっつけます。逆も同様に。そうすると、元の地表は逆さになって、平行に向かい合わせになりますね。元のおっぱいも逆さになって、そこにできるわけで。二塔を見下ろす角度が等しくなるような点の集合です。

図8を見てると冒険心がそそられませんか? どの地点へ行って、標高何メートルまで昇ると二塔が同じ高さに見えるかが示されています。この曲面を突き抜ける建物を見つけ、しかるべき高さまで昇ればいいわけです。行って写真を撮ってきませんか>どなたか。このときあなたはおっぱいの表面のホクロです。

で、結局これは何の謎かけだったのでしょう? 神様、ひょっとして私の前途にまもなく巨乳が現れるって示唆でしょうか?
......返事がありませんね。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
セーラー服仙人カメコ。アイデンティティ拡散。

ウチの最寄駅の真ん前に女装メイドバーがあるのを、不覚にもつい最近まで知らなかった。「あゆむバー」。メイドさんがいわゆる「男の娘」であるばかりでなく、衣装と更衣室が用意されててお客さんも女装できるお店。常連さんからツイッターで教えていただいた。その方がどうやって私を発見し、アカウントにたどりついたのかは謎であるが。

2月24日(金)、仕事から帰ってからセーラー服に着替えて行ってみた。その方とは入れ違いになってしまったが、みんななぜか私のことを知っていて、初めて行った感じがしない。男の娘メイドさんが二人。お客さんも女装子さんが多く、女装して来る方もいれば、衣装を持ってきて店で着替える方もいる。バレないレベルの女装子さんもいて、けっこうチャーミングでうらやましい。お店は繁盛してて、オールナイト営業の金曜日は遠くから電車で来て朝まで過ごすお客さんもいるという。女装美少年総合専門誌「オトコノコ時代 vol.2」にも紹介されている。

女装の道に戻る道がないことには、みんな同意見。これで離婚したって話もよく聞くという。「私と女装とどっちをとるのッ!」「はい女装をとります」って感じだろうか。酒やギャンブルみたいに溺れやすく、ついには家庭の安定を顧みなくなってしまうのだろうか。お客さんの一人は、最初は宴会で戯れに女装しただけなのに、それがハマるきっかけになったと言っていた。「その戯れが恐いんです」とかつてキャンディ・ミルキィさんも言ってたっけ。

現代社会って、人々が何かと依存症に陥りやすい構造になっているように感じる。しかし、そのことを利用したマーケティング戦略っていかがなものかという疑問も感じている。ネット通販とかアイドルとか。顧客を依存症にしちまえば勝ちだ、みたいな。その戦略を仕掛けてる側も、マーケティング依存症なんじゃなかろうかと思えたりする。

人々を刺激に反応する機械のようなもの、というモデルの下に、統計でしか捉えていないだろ、みたいな。仕掛ける側は、ただの一サンプルとは一線を画する高みに立てるって錯覚の快感にハマるんだろうなぁ。広告やアンケートなどでそういう失礼さが見え隠れすることがしばしば。

その線で行くなら、女装なんて、いい儲けの種になるかもしれない。アパレルメーカーとコスメティックメーカーが手を組んで、女装体験イベントみたいなのを開く。行くと、プロのメークさんやスタイリストさんが寄ってたかって完璧な女装子さんに仕立て上げてくれる。これ、やってくれるなら、ぜひ応募したいって人、けっこういるのではなかろうか。

で、その場で女装セット一式をお買い上げいただいた方は、お試し女装代はサービス。決断がつかなかった方は、実費だけいただいて、ネットで一式注文できるサイトや実店舗などの情報をお持ち帰りいただく、と。

この戦略が当たれば、街はきれいな女装子さんだらけになり、女性向けのグッズが男性にもばんばん売れるようになる、と。そう言えば男性用ブラって意外と売れ行き好調なようで、それに乗じてかショーツやらキャミソールやらネグリジェやら、次から次へと出てきていますね。変な時代になったものです。

ところで私はまだ依存症というほどのもんではないと思う。セーラー服着て出かけたのなんて、まだ数えるほどだし(42回)。エスカレートするといってもせいぜいラーメン食いに行くとか、新幹線に乗って京都・奈良に行ってくるとかぐらいだし。さきほどの、宴会戯れ女装からエスカレートしていったという方は、その方向性がすごい。ついにはパートナーとして男性を求めるようになったという。え? その方向もあるの? 自分のこととしてはちょっと考えられないんだけど。

お店のマスターは普通のお方。ナイスなダンディー。映画がテーマの「座ライオン」というバーなのだが「あゆむバー」がときおり間借りしてこういうことになっているのだそうで。たくさんの女装者を見てきたけど、型というものがなく、一人ひとり志向や醸し出す空気がみんな違っているという。女装というものがどういうものなのか、見れば見るほど分からなくなっていくという。奥の深い、個性の光る世界、なのかな?
< http://d.hatena.ne.jp/ayumu_bar/
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ライブ予告です。来たる3月11日(日)、田町 Quarter Note にて
『JUKE POINT vol.4』というイベントが開かれます。前回お話ししたアイドルグループが出演します。リアル女子中高生。私はセーラー服着て客席から写真撮ってます。ニセ女子高生。16:30開場、17:00開演。2,000円、ドリンク別。
< http://www.ness2000.com/event.html
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