youtubeでドラム解説してます──ジャズミュージシャンの頭の中を視覚化
── 岩渕泰治 ──

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デジクリへの寄稿は10年ぶりぐらいになるでしょうか。デジクリ立ち上げ時、関係者の近くにいて初回から読んでいるので、あらためて随分時が経過したなぁと思う次第。

そういえば、ニックネームでASCIIアート4コマ漫画とかを掲載させていただいたような。ググればわかるかもしれないけど、確かめはしません(笑)。

さて、ちょっとyoutubeに動画を作ってみているので、思うところを書いてみます。ジャズドラムをネタにした動画表現です。




●ジャズという音楽

まずはジャズというものから。ジャズは即興演奏と言われます。せーのでみんなで合わせて音を出す! 確かに聴くとよくわからんが、雰囲気いいしBGMとしては高級な感じもあって、最近では蕎麦屋でもかかっていたりしますよねぇ。

雰囲気がよい。うん、雰囲気が......雰囲気? ところで、何がよくて、何が悪いのか、いや何が心地よくて何が騒音なのか。うーん、これが音楽の謎......

これこそ人間の感性に働きかける、ジャズというか音楽の面白いところだと思います。ある人にとってはただただ騒音だけど、別の人にとっては素晴らしい音楽!

ということは名演、名曲というのは確率的に「心地よい」と思う人が「騒音」と思う人より多いということなんでしょうね。

そもそも音楽の心地よさって何? 誰かが言ってて、的を射ていると思うのが、「自分の予想した通りに展開する心地よさ」と「自分が思ってなかったところに展開してオッと意表をつかれる心地よさ」という説。

確かに、その説に自分が好きな音楽の好きな部分を当てはめていくと、理解できるような気がします。和音の進行が当たり前の心地よさ。でも、当たり前の心地よさを求めて、ずっと童謡を聴きつづけていくわけでもない。

当たり前すぎてやがて飽きてしまい、サビで意外な展開をするところに心地よさを求めてしまったりする。

「この歌に入る部分の急展開の変わり様が、なんともいいね!」みたいな。リズムも同じ。

で、ジャズ。その心地よさの「予想した展開」「予定調和的な展開」の心地よさと、「意外
性の展開」「裏切られた展開」の心地よさをその場で作っていく音楽なんでしょうね、たぶん。

ちなみに、クラシック以外はソロや即興パートが存在します。なので、実はジャズだけが即興ということでもないのですよ。

●あ、表現できるかも?

その大きくわけて二種類の心地よさ、これをその場で表現する性質の強いジャズ。一言にジャズといっても範囲が広く、何の制約もなくドシャーっと演奏するフリージャズから、決め事だらけのフュージョン(死語?)まであります。

制約がないと「わからん」という人が増えるし、1980年代に流行った聴きやすいフュージョンなどは、いま毎日耳にするアイドルの音楽の方がもはや複雑構成だったりするぐらいで、単なるインスト(歌なし音楽)で「わかりやすい」となります。

そのジャズの「わからん」の部分をいかに解説して公開することができるか?ん? 動画youtubeつかえば出来るじゃん! と。

申し遅れましたが、私はミュージシャン"も"やってて、ジャズドラマーとして週一、二回ペースで都内を中心にライブをしてます。というか、ライブのブッキングが定期的に入るようになりまして、ありがたいことです、ハイ。

●ジャズミュージシャンの頭の中

ということで、ジャズドラムを叩く人の頭の中を、演奏の映像中に吹き出しコメントを入れることにより、幅広くみなさんに知っていただこうということを思いつき、世界で誰もやっとらんだろうと動画を作ってみましたー。

正確に言うと「みなさんに知っていただく」というより「ドラマーに対する自分の考え方の提示」なので、音楽、ドラム専門用語が適度に入ります。

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早い話、「予定調和的な心地よさ」は他の楽器がどういう展開しているから、ドラムはこう合わせていきますよ、だったり、「意外性の心地よさ」は同じく他の楽器の展開がこうなったから裏切りますよ、を解説してるだけ。

例えば、ジャズ(オーソドックスな自由度が高いジャズ)はコード進行(曲上での和音の進行構成)のルールを守りながら、ベースが高いところに行ったり低いところに行ったりする自由が許されています。

低いところに降りたときに、ドラムでドカーンとアクセントをつけると「予定調和的な心地よさ」が出ます。逆に、ドカーンとなるだろうなと聴衆が期待しているところでアクセントを抜くと、それは裏切りとなり、聴衆側に「おおっ」と思う気持ちよさが出たりするわけです。

パッと見ぃ、どうやって合わせているのか、合わせていないのか、わからない即興音楽は、実は人間が心地よいと思うところを見越して、演奏その最中のストーリーの中で先読みしながら、お互いの音を突き合わせるという行為。それを垣間見ていただこうと。

ピアノやサックスなんかがこの手の解説をすると、コード進行がこうだから、などとかなり音楽的な解説を多くせざるを得ないですが、ドラムの場合はガツンといくか、はたまた引くか、とまあ単純なので一般的にもわかりやすいハズです。

●混乱していく様子

ラッキーなことに、私はわかりやすいボーカルが入る「歌もの」から、先の展開がまったく読めない「フリージャズ」まで演奏する機会があります。大きな箱(ステージやライブハウスのこと)で満席のときもあるし、お客さん二、三人ということもあります。

なので、いろんなパターンを作ってみちゃえ、と。まずは、ジャズと言っても「歌もの」はわかりやすい。

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わかりやすいものとは逆に、メンバー含めて混乱含みでその場で作っていく音楽の面白さも、ジャズの一つの特徴です。混乱含めてうまく対応していくと、音楽としてかなりウケる、つまり曲全体に「意外性の心地よさ」が発生することがあります。

これは大阪の市民主催の音楽イベントで、200人超の満席立ち見の中、面白く混乱しながらも力強く進んだケース。

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私が途中、メンバーを裏切ってドラムを止めてしまうことで、混乱や緊張が走ります(同時に客席側にも混乱と緊張が生まれる 3:00すぎ)。

動画だからわかりやすい。その混乱する様子を、ドラマー視点でどう考えて対応しているのかを解説してみると、聴いてると音楽として面白いけど「何が起こってるんだ?」が、「そういうことね」の理解になると思います。

そもそも混乱も目的に内包している側面があるフリージャズなんかも解説してみると案外わかりやすく理解してもらえたりするみたい。

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ステージ全体、次の曲が何かわかっておらずに進むステージ進行の様子も。

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演奏の混乱ではないものの、ジャズならではの飛び入り演奏みたいな、全体ステージ上での混乱とかもあります。いつぞやの「時の人」がメディアを賑わしていたタイミングでまさかの飛び入り(笑)。

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●動画制作での発見

解説動画を制作するにあたり、興味深い発見がありました。プロミュージシャンとの共演などは、動画制作公開するにあたって許諾含めて会話をするのですが、演奏を"素"で公開するのは「この演奏はぜったいダメ」NGとなるのが、同じ演奏を解説コメント付きにすると「演奏失敗してるけど、これは面白い」と絶賛OKになるケースが出るのです!

つまり、視点が変わるわけです。音楽視点から映像全体の視点に。そういうと「当たり前じゃん」なんですが、けっこうこれは興味深い発見としてミュージシャン仲間内で盛り上がりました。

ある程度失敗やミス、それのリカバリーが入っていると、動画視点では面白い要素がたくさんとなり、逆にメンバーの心意気がぴったりでかなりよい演奏をすると、解説動画としては面白くなくなる。

あと、アングルについては正面から撮ったものではなく裏側から撮るので、聴衆側ではなくミュージシャン側になります。ここは案外重要かもしれません。裏から覗き感があるから(笑)。

●動画表現に向くもの

ドラムに限らず、ミュージシャンの教則動画というのは、まあ星の数だけUPされています。ドラムの場合、スティックの左右をどの順番で叩くか、みたいな手順の解説が山ほど出てくる出てくる......。

音楽は手順をやっても、合奏したときに音楽になるかならないかが重要であって、ホントはドラム手順だけ完璧になっても、一人でやる体操がめちゃ上手くなりました、ってぐらいの話なのですが、これだけyoutubeに動画がUPされていてもほぼ手順にフォーカスってのは、まあ「表現としての動画」の考えでUPしている人は稀ということなんでしょう。

この手順解説へのアンチテーゼとしての演奏解説動画でもあるのですが、少し専門的になるものの、リズムのタイミングを解説してみたり、複雑なドラム手順をしなくても音楽として成立するのでは、というものを提示してみたりしています。

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とは言え、音楽以外もそうですが、教えるため、学ぶための動画というものは有効ですよね。

楽器の場合、手順の解説を欲する人たちはたくさんいるし、思えば私なんかがドラムを必死に練習してた頃は、レコードを手回しでゆっくり回して、どういう手順で叩いてたのかを、スローで低音で再生される音から推測するというやり方しかなかったですからねぇ。

●編集と演奏をミックスさせる試み

解説は一つの表現ですが、手軽なデジタル編集が可能となったことで、様々な試行ができる気がしています。

あまり考えずに作ったのですが、ドラムなしのジャズ演奏を動画編集ソフトでバラバラにし、繋ぎ合わせたものにドラムを付けるという試み。

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たぶんまだ世界で誰もやってないんじゃないかなー? 音だけだとバック(ドラム以外の楽器)が何をやっててごちゃごちゃになっているのかがほぼ理解できないでしょうが、映像を切り貼りすることで、その意図はわかりやすくなるかも......と思って作ってみました。

アナログ演奏だけではできない、デジタル編集だけでもない、手軽に編集できるようになったのを利用してアイデアをトライしてみれるということですね。ちょっと前に同じことやろうとするとかなりコストかかったわけですから、いい時代になったというか、表現の多様化が生まれやすい環境になっているというか。

これが音楽として聴けるかどうかは、うーんオーディエンスに委ねるしかありません......、騒音と思う人の方が多数だろうけど(笑)。

●で、恥を忍んでUPする(笑)!

私は自分自身でヒドい演奏をしてしまったと、落ち込むことも多々あるミュージシャンですが、失敗の多いミュージシャンだからこそ適する、新しい表現の提示ができるような気がしてます(笑)。

そこは演奏能力というより、様々なもののミックスアイデアだから。動画も画質悪いし、そこにこだわる気もなく、編集ソフトも最低限のものしか使ってないですが、意図はそこにありません。

プロミュージシャン仲間と会話してても、前はCDせっせと買って聴いてたのが、みな今はyoutube徘徊に時間かけてしまっているのを実感します。

動画はそれだけ魅力的であり、お手軽に公開できる時代になっているということ。この時代背景を考えると、やはり表現としてはまだまだ試行できるものがたくさんあるのでしょうね。

アイデアを具現化した映像表現は早いもん勝ちだと思うので、みなさん作りましょう。で、恥を忍んでUPする(笑)! 2万円の高音質&低画質録画機材と、3千円の動画編集PCソフトのみで制作公開できちゃうわけですから。

おかげさまで、解説動画は中学生から「私もジャズドラムをやろうと決心」とコメントもらったり、聴くのが専門の方から、「そういうことだったのか」と言っていただいたりして、少しは意図が伝わったように思えて嬉しい限りです。フランス人からドラム教えろ、ってのもありました(汗)。

ふと気づくと「ジャズドラム」でググったら私の解説動画が出てきたりして、素晴らしいミュージシャンより私のが上に来るのはマズいな、と焦るのが正直なところですが、面白いと思ってもらってちょっとでも音楽の裾野が広がればいいかな、と考えています。

解説シリーズでマンネリ化せず、これからも新しい表現を試行していこうと思っていますので、見つけたらまたアホなことやってると指摘ください!(大阪出身の人間としては「アホなことやって」と言われるのがステータスなのです)

【岩渕泰治 いわぶちやすじ】iwabuchi@jazz.email.ne.jp
< http://www.youtube.com/user/2100387
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昔CGを制作して柴田編集長にもお世話になりましたが、終了。ジャズ演奏したり、鉄道模型作ったりしてますが、基本ビジネスマンです。大阪から関東に移ってはや10年。すっかり赤信号を渡るのを躊躇するようになってしまいました。