[3690] どんな言葉も始めは造語である

投稿:  著者:  読了時間:16分(本文:約7,700文字)


《そういうのを「字引き原理主義」という》

■私症説[58]
 どんな言葉も始めは造語である
 永吉克之

■3Dプリンター奮闘記[36]
 3Dプリンター銃製造に関する徒然
 織田隆治




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■私症説[58]
どんな言葉も始めは造語である

永吉克之
< http://bn.dgcr.com/archives/20140515140200.html >
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【難書】

この二字熟語は、辞書には載っていない。いかにも載っていそうだが載っていない。難解な書物を言い表す単語としては、これほど適切なものはあるまいと思うのだが載っていない。

難しい問題は「難問」、難しい言葉は「難語」、通行が困難な所は「難所」。いずれも辞書に出ている。その伝でいけば《難》しい《書》物で「難書」。いったいなんの問題があるのだ。なぜ、この語を世間は認めないのだ。

「難書」という字を見て、大理石かなんかでできていて重くて「開くのが難しい」書物だとか、金正恩だけが読むことのできる「入手が難しい」書物だとか、そんなイメージを抱く人は少ないだろう。やはり「理解するのが難しい」書物しかイメージできない。

【誤選】

これが辞書にないというのも合点がいかない。てっきりあると思って遣おうとしたが、念のために辞書を見たら出ていなかった。ググれば見つかるが少ない。中国語としてならかなりヒットするようだ。

「誤読」「誤聞」「誤解」「誤嚥」「誤飲」「誤記」「誤見」「誤殺」「誤算」「誤写」「誤射」「誤称」「誤植」「誤信」「誤診」「誤審」「誤想」「誤認」

などなど、これら以外にも《誤》のつく熟語は辞書にもてんこ盛り出ているのに、どういうわけか、「誤選」がない。《誤》って《選》ぶのだから「誤選」。熟語としては完全無欠ではないか。なんでや? なんで辞書にないねん!

「ミス・ユニバースの栄冠を獲得して喜んでたら、あれは誤選でしたって取り消しの通知を送ってきやがったのよ、畜生!」

なんて場合にはお薦めの熟語なんですがね。遣えないんですかそうですか。

【善民】

この言葉なくして、いづくんぞ我らが民の徳性を云ひ表さんや。

まさに日本人のためにあるような言葉ではないか。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」国民の気質をこれほど的確に表現した言葉はない。

ちなみに「賢民」も辞書に出ていない。「愚民」はあるのに、いったいどういうつもりで「賢民」を外しているのか? 民衆とはいつの時代も愚かなものだと、辞書の編纂者たちは言外に匂わせているのか?

その他、見るからに辞書に載っていそうだが、載っていない熟語をいくつか挙げてみた。すべて音読み。

「狭路」「速進」「急止」「激風」「泥眠」「健育」(すこやかに育つ)「妨眠」(眠りを妨げる)「美詩」「凡説」「遭災」(災いに遭う)など。

造語の濫用は感心しないが、的を射た言葉であるにもかかわらず辞書にないからといって使わないのは創造的ではない。そういうのを「字引き原理主義」(←造語)と言う。私は、今後これらの熟語を恐る恐る濫用しようと決断したのであった。

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造語であっても、意味が十全に伝わるのであれば遣っていい。私が許す。

例えば、京都の女は「京女」(きょうおんな)として辞書に出ているのだから、大阪の女も「大女」(おおおんな)として辞書に載る権利がある。となれば熊本の女は「熊女」、鹿児島の女は「鹿女」である。ちなみに鹿児島の男は「鹿男」だが「鹿男あをによし」にすると奈良の男になるから注意したい。

また、怒っているスズメを言い表すのなら「怒雀」(どじゃく)で充分である。「憤雀」(ふんじゃく)でもいい。困っているウシなら「困牛」(こんぎゅう)。卑怯なマグロなら「卑鮪」(ひゆう)。野菜が襲撃してくることは「菜襲」(さいしゅう)。

「菜襲」という字を見るだけで、野菜が群をなして人びとに襲いかかり殺戮の限りを尽している凄惨な光景がありありと浮かんでくるではないか。これまで日本語には、野菜の襲撃を言い表す言葉がなかったのだ。なぜ、この言葉が遣われなかったのか不思議でしかたがない。

また、畳職人の家に飼われているブタなら「畳豚」(じょうとん)。旅館で仲居をしているタコなら「旅蛸」(りょしょう)。林業をいとなむ家に住む3人の平民なら「林家三平」。←四字熟語だが、まあ面白いからいいではないか。

女性に振られることは、「女振」(にょしん)で充分に伝わる。もっと具体的に、「三田佳子に振られる」というのなら「三振」(さんしん)でいい。

「どうしたんだい今日は。なんだか元気がないじゃないか」「うん......三振しちゃってね」

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★ QUIZ ★ 辞書に載っていない二字熟語を探せ!

【問題】以下の文中で辞書にない二字熟語って一体全体どれなんだよ、おい!

──電車が遅着したせいで、いつも始業前に寸食を取っていたスターバックスに寄ることができず、私はキオスクで買った岩煎餅をばりばりと噛砕しながら会社に急歩で向かった。

スターバックスでの裕憩。新聞を読みながら悦味するホットベーグルサンド、そしてコーヒー。それら毎朝の愉楽を奪われた私は、憎憤にかられていた。

途中、こうなったのは電車が遅れたせいだと気づき、私は電車に報讐すべくUターンして駅に戻り、乗車券も買わずに改札内に突侵し、ちょうど接駅しようとしていた電車に殴りかかろうとしたら駅員に拘引されて、駅長室で叱譴された。とても楽しかった──。

※正解は読者のみなさんがこの問題をすっかり忘れたころに発表します。多分そのころは私も問題のことなんかすっかり忘れているでしょう。

【ながよしかつゆき/戯文作家】thereisaship@yahoo.co.jp

「汚名挽回」は誤りで「汚名返上」もしくは「名誉挽回」が正しい、という説が覆されつつある。「汚名挽回」は誤用ではないらしい。しかし卑怯者の私は、日本国民が日常的に「汚名挽回」を遣うようになるまでは遣わない方が無難だからと、洞が峠を決め込んだのであった。

・「汚名挽回」は誤用じゃなかった。国語辞典編纂者のツイートが話題に。
< http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1405/02/news068.html >

ここでのテキストは、ブログにも、ほぼ同時掲載しています。
『怒りのブドウ球菌』電子版 前後編 Kindleストアにて販売中!
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無名藝人< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz >


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■3Dプリンター奮闘記[36]
3Dプリンター銃製造に関する徒然

織田隆治
< http://bn.dgcr.com/archives/20140515140100.html >
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さて、巷では3Dプリンターで製造された銃についての話題がもちきりです。テレビのニュースでは、3Dプリンター銃の事が毎日のように報道されています。だが、ちょっと待って。なんか、論点がかなりズレている気がしています。

どうしようかなぁ、なんて思ってみていたんですが、さすがに毎日3Dプリンター使っている僕にとって、「それ、ちゃうやろ?」って思う事が多々あるわけです。

まあ、ちょうど、この記事を書いているタイミングが良かったので、その事についてちょっと僕なりの意見を書いてみようと思います。『僕なり』なんで、それが合っているとか、間違っているとかは、分かりませんよ。

そもそも、3Dプリンター、しかも、コンシューマー向けのプリンターで銃を作ったところで、性能的にどんなものになるかって事を、公開していないですね。僕が見てない番組ではちゃんと報道されているのかもしれませんけど。

ネットで流れて来るニュースなんかも、あたかもそれが直ぐに誰にでも出来て、「直ぐにパンパン打てるし、本当あぶない! もう危険すぎるぅ!」って言い回しが多いように感じます。

まあ、日本ではまず弾丸自体が普通には手に入らないものですからねぇ。

コンシューマー向けの3Dプリンターは、以前にも書いた通り、熱でABSやPLAといった樹脂を熱で溶かし、0.3〜0.5mmのノズルからニュルニュルって出して形を作るものです。

精度や硬度もあまり良くないプリンターで、ガタガタで、しかもうまく積層が行われず、そういったプリンターで出力した銃なんて、その辺の強化ABSで出来たモデルガンやエアーガンより強度は落ちるものです。

そんなもので本物の弾丸を射った日にゃ、マグレで一発射てたとしても、二発目なんてかなりヤバイ状態になっているわけですよ。

PLAなら160度くらい、ABSでも280度くらいで溶けちゃう樹脂ですよ? そんな樹脂の本体で高温の火薬が炸裂し、バレル(弾丸が通る穴)を猛烈な摩擦をおこしながら弾頭が走って行くんです。

結果は直ぐに分かりますよね? そう、「溶ける積層面が炸裂」しちゃいます。

何らかの方法で、弾丸を入手出来たとして、それを撃つ、というのは、撃つ人にもかなりのリスクが伴うわけで、僕なら絶対にやりません。

じゃ、「金属をプリント出来る3Dプリンターで出力すればいいじゃな〜い!」

と思うでしょうけど、例えば、3Dプリンターの出力サービスで、「これ、金属で出力してくださ〜い」とか言って銃のデータを持って行ったり......な〜んて、よっぽど想像力のない人にしか出来ませんよね。

じゃ、「そのプリンターを買えばいいじゃな〜い!」

となるんですが、チタンや鉄等を出力できるプリンターってのは、今のところ5000万とか、それ以上のお値段になるわけですよ。

しかも、3Dプリンターで金属を出力した場合、レーザー照射で金属の粉を固めるわけで、やはりどうしても積層した跡が残ります。

それを磨くにはマシニングゼンタ等の工作機械で研磨するか、凄い職人さんが研磨するか、って事になるわけです。

それなら、始めからマシニングセンタで作った方がはるかに早いわけですよね。

そんな高額出して苦労するすくらいだったら、どうにかして本物を入手する方がかな〜り安価なのでは? ...って思いませんか?

弾ないと、銃なんてただの飾りかゴミにしかなりません。弾丸に関しても、旋盤等かなり高度に使って、しかも火薬も手に入れて...ってなるわけです。

この問題は、銃に限った話ではなく、「ナイフ等も出力出来るじゃん! 危ない!」な〜んて事になるんですが、それはホームセンターとかで包丁買う方が安いし、簡単なんですよね。

ABSやPLAなんかでできたナイフなんか、厚手の服来てたら服で受け止められちゃいますって。

では、そういった工作機械を使って仕事をしている人が危ない! って事にはならないでしょ?

要は、3Dプリンター自体に問題があるわけでも何でもなく、使う人に問題があるんですね。

最近のコピー機では、お札をスキャンとかコピー出来ない機能も付いていますが、昔のは付いてなかったでしょ? 硬貨にしても、型とってある程度低温で溶ける金属を流し込んで作るって事もできるわけです。

それでも、みんなコピーしましたか? そして、使いましたか?しませんよね。リスクとかモラルを考えたら。

しかしながら、残念ながら、それをやってしまう人がいます。興味本位なのか、本当にどないかしたろう、って事なのかは分かりませんが。

それと同じなんですよね。今回の3Dプリンター銃の問題も。

そうやって、3Dプリンターが悪だ! とか言い出して、それが浸透しちゃう事で、3Dプリンター登録法だ! 購入時に許可性に! とかハイパーナンセンスな事になりかねません。

そんな事をしていると、今でさえ他国に大幅に遅れをとっている、日本の3Dプリンター技術や3Dプリンターの普及なんかの速度に、急ブレーキをかけてしまう事になります。急ブレーキって言っても、まだ助走くらいなんですけどね。

今年から来年にかけて、また3Dプリンター技術の特許が切れて行きます。そこで、そろそろ日本も本腰を入れて開発を進めていくべき時期に、なんといううまいタイミングでこんな事件が起こるのかなぁ、なんて思いますよね。

では、「そういった事を野放しにしていいのか?」と言うと、やはり絶対にそんな事はいけないんです。

で、結局取り締まるのは3Dプリンターの方ではなく、3Dデータの方なんですよね。後は、モラルと法律の問題なんだろうな、と思います。

データの方ですが、これはかなりやり方は難しいでしょうね。ネットで拡散するわけですから。

音楽配信や、本なんかでも、かなり問題になってますよね。基本、同じようなものだと思っています。それを食い止めるの方法は、僕には難しすぎて分かりませんので、専門の方に期待するしかないでしょう。

硬貨、紙幣の偽造、ってのは相当に重い罪です。それと同じような罰則をちゃんと法律で決めるのもいいでしょう。今なら、ただの銃刀法違反くらいでしょ?

最近では、ネットを通じて未成年の○○の画像なんかも、DLして個人所有も罰則! なんて法律もあるようで、これと同じくらいの決まりを作るべきなんでしょうね。

まあ、これは僕の持論なんて、これが社会的に正しいかどうか分かりません。それなりの制御力にはなるんじゃないかな〜と思います。

僕なんかビビリなんで、例の銃のデータが拡散した時も、DLどころかそのDLサイトに行く事もできませんでした(笑)

さて、皆さんはどう思いますか? 先頃の報道?

【織田隆治】FULL DIMENSIONS STUDIO(フル ディメンションズ スタジオ)
< http://www.f-d-studio.jp >

はあ〜。もう今年も1/3終っちゃった。色々やらんとね......。


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編集後記(05/15)

●妻は歴史的な西洋絵画が大好きで、大型企画展がかかると必ず鑑賞に行く。時々ご相伴とあいなるが、この分野わたしは妻ほど熱心ではない。正直、退屈な時間になることが多い。世界史を学ばなかったこともその理由になるかもしれない。それでも若い頃はマグリット展に感銘を受けたし、名前が思い出せないが細密画の作家の画集を眺めてあきなかった時期もある。好きなのは浮世絵の北斎、広重による名所絵だ。中学生の夏休みには、きまってそれらを模写していたものだ。ヘンな奴。だが、ピカソもルソーもそのよさがわからない。

原田マハ「楽園のカンバス」をようやく読んだ(新潮社、2012)。筆者の専門分野であるアートをテーマにした初めての作品で、構想30年、アンリ・ルソーを中心に置いた壮大で美しい嘘である。ストーリーは虚構と事実の境目が曖昧だ。小説家になったからには、どんな嘘でもいいから、その場にいたように感じてもらえるような嘘をつきたいと思った、と楽天ブックスのインタビューにある。筆者はルソーと名のつく展覧会はすべて行き、パリに3か月滞在しルソーとその時代を徹底的に調査したという。この物語には、ミステリーに加えルソー論や伝記、恋愛まで入っている。ありえない話のはずだが、強い説得力にぐいぐい引き込まれた。ピカソもルソーもわからなくてもおもしろい。

ルソーの研究家であるMoMAのアシスタントキュレーターと、26歳の若さでソルボンヌの博士号を取得したルソー研究者オリエ・ハヤカワのふたりは、世界的な絵画コレクターからルソーの知られざる名画の調査を依頼される。スイスの屋敷に赴くと名画「夢」とそっくりの「夢をみた」を見せられ、その作品の真贋の判断と、その根拠となる作品講評を求められる。一冊の古書があり、七章からなる物語が書いてある。それを一日一章読んで、七日目に真贋を判断せよという。読者であるわたしもその場にいるような感覚になり、ふたりと一緒にルソーやピカソの時代に思いを馳せる。そして、七日目。それぞれの判断と作品講評は......すごいことになっている。

中心となるのはMoMAのアシスタントキュレーターが主役のスリリングな鑑定合戦の模様で、その前後は彼と戦った17年後の早川織絵が主役。そして、謎の古書の内容が鑑定合戦の中で公開される。それはルソーやピカソの青春物語で、都合三つの物語を組合わせた構造だ。じつにうまい。また、名画が名画たる所以の解説が興味深い。いわく「構図や、色彩や、バランスや、技巧の秀逸さばかりではない。時代性、対象物への深い感情、ひらめき、引きの強さ、言うにいわれぬむずむずした感じ。見る者の心を奪う決定的な何かが、絵の中にあるか。『目』と『手』と『心』、この三つが名画を名画たらしめる決定的な要素なのだ」。うーん、よくわかんない(←ベッキー風に)。(柴田)

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楽園のカンバス


●修理交換の続き。同じく昔買って放置していた時計。使うことないんだけど、電池(工具がいるから頼んだ)とベルトを交換してみた。雰囲気が変わっていい。たまにつけることにした。

近くに出かける時に便利な大きさで、今使ってもおかしくないデザインのバッグ。マグネット式ホックのネジがすぐにとれてしまう。それ以外は壊れていないのに捨てるのもったいないなぁとずっと思っていた。ベルト交換の勢いで思い出し、ねじのメスが広がっているのだろうと、セロファンテープをはじめ、いろいろ噛ませてみたがダメ。

ねじ→ステンレス板→布→穴の空いた革→装飾付ねじメスとなっていたので、布部分をはずし、直接ねじオスとねじメスをくっつけてみたら、カチッとはまる。ええーー? バッグの設計ミスってこと? 布の補強部分(厚みが違う)がずれた?

セットで大小持っていて、大の方も同じトラブルがあり、ねじや鉄板部分を落としてしまったため捨てていた。それなりのブランドなのに、そういうこと? たった1mm?(hammer.mule)

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昨日書いたアラン編み。検索かけたらYouTubeでヒット。今ってこんなのも動画で見られるのか!

< http://www.tezukuritown.com/lesson/knit/code/ >
編み目記号の本をバイブルにして、編図の解析をすることから始めていたのに。もう本いらないんじゃ......。

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アラン模様100 トラディショナル・パターン・ブック