Otaku ワールドへようこそ![260]意識は機械に宿るのか? 人工知能研究の最前線より/GrowHair

投稿:  著者:  読了時間:28分(本文:約13,800文字)



人工知能が人類を超える日を「技術的特異点(Technological Singularity)」というが、それを日本から起こそうとの狙いを掲げ、神戸大学名誉教授である松田卓也氏は2015年1月10日(土)、議論の場を立ち上げた。

『シンギュラリティサロン』。それの第22回:2017年5月27日(土)と第23回:7月9日(日)を聴講してきたので、レポートしたい。

私は意識の問題に自分の意識が絡め取られており、人工知能やシンギュラリティの話題においても、意識との関連性がどうしても気になってしまう。

第22回はスーパーコンピュータを駆使した脳シミュレーションについて、理化学研究所の研究員が解説した。意識の問題には直接的には言及されなかったが、機械に意識を宿らせるためのハードウェア環境は、整いつつあるように感じられた。

第23回は、ずばり、意識の問題を論じている。億円単位の国家予算をあてがわれ、機械に意識を宿らせる研究を進める会社の代表取締役が、研究の最前線について講演した。それの実現にはまだまだほど遠いものの、数式表現された仮説を提示し、問題を客観の土俵に載せたことは、大いなる進展と感じられた。



●『シンギュラリティサロン #22』5/27(土)聴講レポート

  名称:シンギュラリティサロン #22
  日時:2017年5月27日(土)1:30pm〜3:30pm
  場所:グランフロント大阪北館 B棟7F
     ナレッジサロン・プレゼンラウンジ
  主催:シンギュラリティサロン
  共催:株式会社ブロードバンドタワー、
     一般社団法人ナレッジキャピタル
  講師:五十嵐潤氏
     (理化学研究所 情報基盤センター 上級センター研究員)
  講演:『京・ポスト京コンピュータによる脳の大規模シミュレーション:
     ペタスケールからエクサスケールへ』
  定員:100名
  http://peatix.com/event/262465

【シンギュラリティサロンの設立趣旨】

『シンギュラリティサロン』は、「日本からシンギュラリティを起こそう」との狙いを掲げ、2015年1月10日(土)、松田卓也氏(神戸大学名誉教授)が立ち上げた議論の場である。

世話人として四人がいる。
・塚本昌彦氏(神戸大学教授)
・保田充彦氏(株式会社ズームス〈XOOMS〉)
・根本 茂氏(株式会社ブロードバンドタワー 執行役員)
・山寺 純氏(株式会社Eyes, JAPAN 代表取締役)

シンギュラリティサロンの設立趣旨について、松田卓也氏が、公式ウェブサイトに、下記のように書いている。
http://singularity.jp/
http://singularity.jp/statement/

シンギュラリティ(技術的特異点)とは、人工知能の能力が人類のそれをはるかに超える出来事または時点と定義され、それ以降の人類の歴史は予測できないとされている。またその時点で人工知能の能力が爆発的に進化する知能爆発が起きるとも言われている。

シンギュラリティは、レイ・カーツワイルによれば2045年頃に起きるという。他の専門家の意見分布を見ても、2070-80年代までには起きるとする人が90%を占めている。

シンギュラリティが起きると、人類の生活は一変する。人類の多くの課題が解決すると期待する楽観論が、カーツワイルをはじめとする専門家には多い。

一方、超知能は人類を滅ぼすとか、隷属させるといった悲観論が、宇宙物理学者ホーキングやテスラモーターのマスクたちにより懸念されている。

本会ではシンギュラリティに関する公開講演会や勉強会を定期的に行い、シンギュラリティを様々な側面から議論することにより、主として専門家と一般市民の意識改革を行うことを目指している。さらには指導層にまで影響力が行使できれば、願ってもないことである。


【第22回の趣旨】

スーパーコンピュータを用いた脳の詳細な神経回路モデルのシミュレーションでは、膨大な数の神経細胞からなる神経回路の振る舞いを調べられるようになりつつある。

約11ペタフロップス(1秒間に1.1×10の16乗回の浮動小数点数演算)の理論性能を持つ京コンピュータを用いて、約17億個の神経細胞と約10兆個のシナプス結合からなる大脳皮質局所神経回路モデルのシミュレーションを達成している。

しかし、一方、人間の脳は、約860億個の神経細胞が約1000兆個のシナプス結合を介して信号のやり取りを行い、ひとつのシステムとして情報処理を行っている。

この膨大な数の神経細胞の相互作用を全て一度に観測して調べることは、京コンピュータを含む現在の“ペタスケール”の計算性能のスーパーコンピュータをもってしても難しく、実現していない。

そこで、我々は2022年頃に登場するエクサフロップス(1秒間に10の18乗回の浮動小数点数演算)級の計算機、ポスト京(仮称)を用いたヒト全脳規模のシミュレーションに向けて、取り組みを行っている。

本講演では、前半に、これまで京コンピュータで行われてきた脳シミュレーションについての取り組みについて紹介し、後半に、ポスト京によるヒト全脳規模の脳シミュレーションの展望についてお話しする。

【タイムテーブル】

13:30〜15:00 五十嵐潤氏(理化学研究所)講演
『京・ポスト京コンピュータによる脳の大規模シミュレーション:ペタスケールからエクサスケールへ』
15:00〜15:30 自由討論

【ケバヤシが聴講する狙い】

今のところ分かっている限りにおいて、人間の脳神経細胞の一個一個は、それのつかさどる情報処理としては、割とシンプルな機能しか果たしていない。

他のいくつかの脳神経細胞からシナプス結合を介して信号を受け取り、それらの線形和をとり、活性化関数に食わせ、出力値をシナプス結合を介して他のいくつかの脳神経細胞に送り出す。

そんな単純な機能しかもたない素子が、860億個も集まると、意識が芽生えて、自己を認識したり、自由意志を働かせたり(あるいは少なくともそう思ったり)、クオリアが生じたり、喜怒哀楽の感情を発露したりするようになるもんなんだろうか。

いっそのこと……作ってみちゃえばいいじゃん。理化学研究所が、そういうことをごちょごちょやってるらしい。今回のサロンにおいて、理化学研究所の人が、それについて、なんかしゃべってくれるらしい。

このアプローチによって、意識の謎(「心脳問題」)について、なんらかの進展が見込めるのであろうか。そこをぜひ聞いてみたい。

【内容】

オープニングで、この講演会の発起人である松田先生が登壇し、導入的な話を
した。続いて、五十嵐氏が登壇。講演は下記のような構成。

1・シンギュラリティと脳のシミュレーション
2・脳とはどのようなものか
3・スーパーコンピュータとは
4・ペタスケールの京で実行するパーキンソン病シミュレーション
5・エクサスケールの次世代スパコン、ポスト京による全脳シミュレーション

人間の脳神経細胞は360億個。それらどうしを相互につなぐシナプス結合は100兆個。つまり、一個の脳神経細胞から、平均1,000から10,000の結合の腕が伸びていることになる。

いまの日本のスーパーコンピュータ「京」は、1秒あたり1.1京回の浮動小数点計算ができる性能をもち、世界第7位。

これをもっと速くしようとすると、お金よりも、場所よりも、消費電力がいちばんのボトルネックになる。

スーパーコンピュータを用いた脳シミュレーション例として、パーキンソン病における手の震えのメカニズムを解明したものがある。

大脳基底核を構成する300万個の脳細胞の状態遷移をシミュレーションした。

ドーパミンが枯渇した際、屈筋と伸筋に収縮命令を送る脳神経細胞が約5Hzの周期で交互に発火し、現実の震えの症状と一致した。

現時点における最高性能のスパコンでは、10億〜17億個程度の脳細胞のシミュレーションができ、猫や猿の全脳に匹敵する。人間まではあと数十倍。

スパコンの性能が、現在のペタスケールからエクサスケールになると、可能になる。2020年ごろか。

つまり、2020年ごろになれば、人間の全脳細胞を対象とするシミュレーションができるまでにスーパーコンピューターの性能が向上するであろう、という見通し。

【所感】

松田氏には下記の著書がある。

松田卓也『人類を超えるAIは日本から生まれる』廣済堂出版(2015/12/28)

非常におもしろかったので、勢い余ってAmazonにカスタマーレビューを書いている(自慢だが、現在、トップに)。

天文学者、宇宙物理学者として長年にわたって学術畑にいた著者は、事実や論理に基づいてしっかりと地に足のついた議論を展開する。だからこそ怖い。技術的特異点はついそこまで来てるぞ、という調子で煽る煽る。

拝顔の栄に浴することができたことひとつをもっても、行った甲斐があったってもんだ。

五十嵐氏の講演は非常におもしろかったが、聴講後、頭の中は疑問符だらけになった。疑問は全般的に、脳神経細胞どうしのシナプス結合のジオメトリ(幾何学的な構造)と、意識に関するもの。

パーキンソン病の手の震えは、おそらく本人が意識的にコントロールできないであろう症状であり、脳内の信号伝達は、意識が介在することなく、きわめてメカニカルに働いているはずだ。

ところで、300万個もある脳神経細胞の相互間の結合の重みの初期状態を、どうやって設定したのか?

講演後、五十嵐氏に直接聞く機会が得られた。

位置の近さなどによる結合確率分布のデータが、実際の人間の脳から取得できているので、それに基づいてランダムに生成した、とのこと。

読みかじり・うろ覚えの知識だが、意識は、大脳や小脳にはなく、視床系のあたりに宿っているらしい。そのあたりが損傷を受けるとただちに意識がどうかなっちゃうが、それ以外のところは意識そのものにはそんなにダメージが及ばないらしい。

で、脳神経細胞の数で言うと、肝心なところは、その他のところに比べて、遥かに少ないらしい。

もしかして、今現在のスパコンのパワーをもってすれば、意識を宿す脳の部位のシミュレーションって、すでにできちゃうんじゃなかろうか。

われわれがものを記憶したり、記憶を参照して思考したり、意思決定したり、感情を発露したりできるのは、脳神経細胞間の結合のジオメトリいかんによるんじゃないかって仮定の上に立てば、スパコンの上でそいつを実現するための環境はすでに整備できていたりするのではあるまいか。

人格を京に移植! それがまだ実現できていないのは、われわれ人間の、意識や人格を宿す脳の部位のシナプス結合の状態のジオメトリを移植することがまだできていないから。それに尽きるのではあるまいか。

だとすると、それの実現を阻むボトルネックは、スパコンの性能が足りないことにあるのではなく、人間の側の脳細胞の結合状態を知ることがまだできてない点にあるのではあるまいか。

で、そこんとこはきっとたいへん困難なんだろうなぁ、というのは、私にもよく分かる。

この分だと、2020年頃になって、全脳シミュレーションができるくらいにスパコンの性能が上がったとしても、状況はたいして変らないのではあるまいか。

もし人間の全脳シミュレーションができるようになって、病気の治療などに新たな道が開けるのであれば、それはそれでたいへん有意義なことであって、研究自体は大いに進めてほしいけども、その路線では、あくまでもランダムな結合状態をモデルとする以外になく、意識の問題にはあえて触れない領域でやろうとしているようにみえる。

そこは、まあ、いいけど、じゃあ意識の問題はどうなるの?

意識をもつ人工知能を「強いAI」と呼び、そうでないものを「弱いAI」と呼ぶ。

シンギュラリティが起きるためには、「強いAI」が実現することが必須条件だと私は思っていた。だけど、意識の謎は根が深くて、解明までにあと300年はかかるであろうと私は踏んでいる。

それなら、シンギュラリティは、それより早くは来ないってことになるわけなんだけど、そのへん、どうなんだろう?

それを松田先生に聞く機会が得られた。松田先生によれば、弱いAIでじゅうぶんにシンギュラリティは起こせるのだという。

え? チューリングテストみたいなのにかけたら、意識がないのってすぐにバレませんか?
「いや、バレません」。

だったら30年ぐらで出来ちゃう可能性もありますねぇ。
「10年で出来ます」。

うっは、左様ですか。

私の中でのシンギュラリティのイメージは、人間が読むよりも速いスピードでコンピュータが論文を書いていっちゃうので、人間はとうてい追いつけず、それ以降の発明や科学的発見は、すべてコンピュータが勝手になしていくような状況。

そうなってからヤバいと察知して停止させようとしても、コンピュータのほうが知恵が回るので、先回りして対策を打ってしまい、もはやわれわれの側からは手出しができなくなる。

松田先生のイメージでは、そこまで行くのはまだ先で、人工知能は拡張現実(Augmented Reality; AR)みたいな補助機能として働き、常に裏でサポートしていて、人間どうしの会話において、裏でこっそり問い合わせるとささっと答えを返してくれるので、それを受け売りするだけで、すごーく賢くみえるという、究極のカンニング。

ほほう。いずれにせよ、弱いAIでシンギュラリティが実現できるというのは、私にとってはまったくの想定外だったもんで、非常にびっくりした。

このサロンに参加したことそれ自体は、非常に意義深く感じられたのであった。


●『シンギュラリティサロン #23』7/9(日)聴講レポート

  名称:シンギュラリティサロン #23
  日時:2017年7月9日(日)1:30pm〜3:30pm
  場所:グランフロント大阪北館 B棟7F
     ナレッジサロン・プレゼンラウンジ
  主催:シンギュラリティサロン
  共催:株式会社ブロードバンドタワー
     一般社団法人ナレッジキャピタル
  講師:金井良太氏(株式会社アラヤ代表取締役)
  講演:『人工意識の実現』
  定員:120名
  http://peatix.com/event/276334


【第23回の趣旨】

講演に先立ち、告知ウェブサイトには、「講演概要」として、次のように述べられていた。
http://peatix.com/event/276334

▽ここから

意識という主観的な現象も自然現象の一部であり、何らかの普遍性を持つ自然法則に従っているはずであり、どのような物理的条件または情報的条件において生じるかの基準は存在するはずである。

また自然現象としての意識は、生物学的な脳のみが生み出すのではなく、脳以外の物理的基盤であっても、意識生成の必要十分条件を満たす物理システムであれば生み出すことが可能であると予想される。つまり原理的には人工意識の構築は可能であると考えられる。しかしながら、その本質的な条件が何であるかは、現時点ではわかっていない。

心理学や神経科学の研究から意識を必要とする認知課題とその神経学的機構を同定することで、意識と密接に関わる機能が浮かび上がってきている。意識と関連の深い機能として代表的なものとして、非反射的行動、トレース条件付け、短期記憶、行動のプランニングが挙げられる。

このような機能の共通項の分析に基いて、意識の本質的な機能は「反実仮想的な状況の感覚表現を内的なモデルに基いて生成する能力」であるという仮説を構築した。これを「意識の情報生成理論」と呼ぶ。

本理論では、現在目の前で起きていることではなく、数秒程度の過去や未来の出来事を、視聴覚等の感覚情報のフォーマットによって内的に生成することが意識の機能であると考える。そのような機能を実現する必要条件としては、感覚運動ループを通じた環境との相互作用により「自己」を含んだ生成モデルの獲得が必要である。

この「意識の情報生成理論」によって、意図・注意・思考といった主観的な心理状態に対してメカニズムとしての解釈を与えることができる。さらに、我々は反実仮想の生成過程を現代的なニューラルネットワークによって実装し、反実仮想的に未来を生成することで、行動の方策を選定するエージェントを構築した。

「意識の情報生成理論」では、このような方針で人工意識のプロトタイプが構築できる可能性を含意している。本研究を通じて、情報生成するエージェントのプロトタイプでは、新しい目標が設定されてもフレキシブルに対応ができ、新しい環境を効率的に探索する「好奇心」を自然な形で実装できるという利点があるということが明らかになった。

また、このような反実仮想を扱うために必要となる「情報生成」という観点が、これまでの脳の中やコンピュータ上での「情報処理」というものと、どのように違うのかについて検討する。

特に両者はそれぞれ、機械学習的な文脈では、デコーディングとエンコーディングに対応し、予測符号化理論の観点では、予測と予測誤差に対応し、意識の統合情報理論の観点では、結果情報と原因情報に対応付けられる可能性がある。

これまでは、脳の中での「情報処理」がなぜ意識的経験を生み出すのかとハードプロブレムが問われてきたが、今回の情報生成理論では、新たな「情報生成」という観点から意識の問題を捉え直すことで、情報とクオリアの関係に新たな視点をもたらすことができるのではないかと期待している。

△ここまで

【タイムテーブル】

13:30〜15:00 金井良太氏(株式会社アラヤ代表取締役)講演『人工意識の実現』
15:00〜15:30 自由討論

【ケバヤシが聴講する狙い】

意識がどういうメカニズムによって生じるのかという問題自体は、古くからあった。

ルネ・デカルト(1596 - 1650)は、物質と精神は脳内にある松果体を介して相互作用するという説を唱えた。しかし、後に否定されている。

意識の問題は、本来、科学で扱われるべきものであるが、解明に寄与するような観察や実験がどのようになしうるのか、手掛かりすらつかめないため、長年にわたって放置されてきたのではないかと思う。

代わりに、哲学の問題として論じられてきた。しかし、それには限界があると思う。思考が無限ループに入り込んでいきやすいような気がするのだ。

一般に、Aというものを定義するのに、その定義の中でAを使ってはいけない。再帰的定義としてぎりぎり助かっているケースもあるが、それはまた別として。

Aの定義の中で、Aを使っちゃうと、それだけでもう論理が回ってしまい、抜け出せなくなる。Aが「意識」である場合もしかりである。

意識を研究の対象にしようとするならば、研究者の視点は、意識の外に出ていなくてはならない。しかし、意識の領域の外に出たら意識がなくなってしまう。

意識という対象について考えをめぐらすという行為をとるためには、意識を必要とする。意識の外に出て意識を眺めてみることはできないのである。

たとえて言えば、クジラの腹の中にいて、クジラについて解明しようとしているようなもんである。クジラの外に出て、その全体像を眺めてみるという視点が決定的に欠けているのである。

その場所にいる限り、議論は堂々巡りに陥るしかないような気がする。

哲学方面からのアプローチで、意識を考察対象にしようとすると、この限界にぶち当るのだと思う。いわゆる「無理ゲー」ってやつである。

この陥穽から抜け出して、外からの視点を獲得するためには、数学や物理学の流儀にしたがい、客観的な言語(記述方式)をもって、意識を定義しなおす必要があるのだと思う。

最近、わずか数十年の間に、脳科学と人工知能研究が急速な発展を遂げ、おかげで、ようやく意識の問題に科学方面からアプローチするためのお膳立てが整い始めてきたのではないかという気がする。

で、そこの最先端がどういうことになっているのか、常々、気になっている。

この講演の趣旨が、まさにそこ、という感じがして、何を措いても聴講しに行かなくてはという思いであった。

究極的には正解を知りたいのだけれど、個人的には、意識の問題が解明されるまでに、あと300年ぐらいはかかるんじゃないかと思っている。

ロジャー・ペンローズ氏とホーキング氏とのやりとりをみていると、どの山に登ったら、埋まっている宝が掘り出せるか、ぐらいの、とっかかりレベルであり、この分じゃ、解明に至るのは当分先になるなぁ、と。

なので、せめて、どういうアプローチが有望そうとみられているのか、そのへんが聞ければよし、と考えていた。

【内容】

□イントロ

オープニングで、塚本先生が登壇し、導入的な話をした。いつもの例では松田先生の役割のようだが、塚本先生によると、松田先生はシンギュラリティを実現するために意識は必要ないという立場をとっており、金井氏と逆なので、遠慮したということらしい。

□自己紹介

金井良太氏。株式会社アラヤの代表取締役。もともと研究者。会社のミッションは、意識を人工的に作ること。作ることによって意識を理解しようとしている。

□意識は何もしていない?

意識は、何も機能を果たしてないんじゃないか。ほとんどのことが無意識でできる。

□人工知能(AI)について

現状のAIは意味を理解していない。われわれは感覚を通して理解している。

現状のAIは、将棋など、目的に特化してものであって、「汎用人工知能(Artificial General Intelligence; AGI)」に至るまでには、まだまだ非常に大きなギャップがあるんじゃないか。

意識:主体的に自分の目標を決めて、なにかを始める。新しい情報を創造する。

AGIのためには、意識を理解することが必要。

□「メタ認知」は意識と関係が深い。

【メタ認知】(Wikipediaに見出しあり)
メタ認知(メタにんち)とは認知を認知すること。人間が自分自身を認識する場合において、自分の思考や行動そのものを対象として客観的に把握し認識すること。それをおこなう能力をメタ認知能力という。

□「意識の問題」

主観的。

(図)
現実の物体としてのリンゴ →目が捉える →脳内にリンゴのイメージが生成される
ディープラーニングはなにかを経験できるのか?

□困難な問題の所在

(図)
・「物理世界」と「意識」との間にはギャップがある
・両者を仲介する位置に「情報」がある
・「物理世界」と「情報」との間をつなぐのが、「統合情報理論」
・「情報」と「意識」とをつなぐのは何か? そこに困難な問題がある

□意識の理論が必要

われわれは意識の理論を必要とする。

Access Consciousness
- Objective 第三者から観察可能
- Reportability

Phenomenal Consciousness現象的意識
- Subjective
- Qualia

(ここで言う「現象」とは、フッサールの「現象学」でいう現象らしい)

□人工意識における双対問題
 Dual Problem of Machine Consciousness

(1)意識の生成(Creating Consciousness)
意識をもった機械をどうやって作るか

(2)意識の証明(Proving Consciousness)
その機械に意識があることをどうやって証明するか

(Wikipediaに「人工意識 / Artificial Consciousness」の見出しあり)

□4種の人工意識

(1)MC1:意識があるかと想起されるような外的挙動を伴う機械(見た目だけ意識があるようにみえる)
(2)MC2:意識があるかと想起されるような認知特性を伴う機械
(3)MC3:人間の意識の原因あるいは要因であるとされる構造をもった機械
(4)MC4:現象的に意識をもった機械

□最近出現した理論(Emerging Theories)

(1)Karl Friston氏の提唱する「自由エネルギー原理」(Free Energy Principle; FEP)

生物は自由エネルギーを最小化し、予測の精度を上げるように、行動を選択するという仮説。

(Wikipediaに"Free Energy Principle"の見出しあり)

(2)Giulio Tononi 氏の提唱する「意識の統合情報理論」(Integrated Information Theory)

(3)John Searle 氏の提唱する「生物学的自然主義」(Biological Naturalism)

□「ティンバーゲンの4つのなぜ」Timbergen's four questions

1・機能(適応)
2・系統発生(進化)
3・至近要因(直接的な原因)
4・発達(個体発生)

ほとんどのことは意識なしにできてしまう。

(Wikipediaに「ティンバーゲンの4つのなぜ」の見出しあり)

(聴講者補足)

意識の機能についての極端な仮説として、眺めているだけで何もしていないとする「随伴現象説」がある。「意識やクオリアは物質の物理的状態に付随しているだけの現象にすぎず、物質にたいして何の因果的作用ももたらさない」というもの。

工場が稼働すれば煙突から煙が出るが、煙突から出る煙は工場の稼働に対してなんの寄与もしていない。意識とはこの煙みたいなもんだと。

金井氏は、この立場ではないようだ。

(Wikipedia に「随伴現象説」の見出しあり)

□議論のポイント:意識がないとできない、決定的なことは何か?

・時間のギャップをブリッジする機能

(海馬に損傷を受けた?)被験者は、傾いたスリットを見せられ、それが目の前から隠された後、その傾き方向がどうだったかを答える。結果、正答率が低い。

しかし、一方、目の前にスリットがあるときは、そこに正しくコインを挿入することが常にできる。

□意識に関する仮説

・反実仮想的情報生成仮説
 (A Counterfactual Information Generation Hypothesis)

Counterfactual:いま、目の前にあることと切り離して情報処理する

手を伸ばして触ったらおそらく冷たいだろう
→予測がはたらいている。

モデルを使って、将来どうなるかを予測している。

手を動かす前に、将来どうなるか、想像できる。

そこに「意図」がはたらく?

□Dennett's Creatures

・Darwinian creatures
・Skinnerian creatures
・Popperian creatures
 counterfactualsから学習できる
・Gregorian creatures
 他者とのコミュニケーションから学習できる

□意識の機能についてまとめ

意識の機能とは、現在の環境から切り離して出来事を描写する能力である。

□情報を生成するとは?

ニューラルネットにおいて、入力層および出力層よりも隠れ層のほうがノード数が少ないケースを考える。

入力層から隠れ層までが、符号化に相当。情報処理。
隠れ層から出力層までが、復号化に相当。情報生成。
無意識でできる。

隠れ層から遡って入力層を予測する。これが意識のはたらきに相当?

□意識を測定する

意識の統合情報理論 (Integrated Information Theory; IIT)。
ニューラルネットのコネクションジオメトリから
一意に決まるΦという指標。

定義はできるけど、実際に算出するのは、分断の組合せが多くてたいへん。

□究極的には

意識はプライベートなものであって、共有できないと思われがちだが、究極的
には、他人の脳を観察して、意識の内容を直接読み取ることができるようにな
るのではないか。

【参考資料】

(1)金井良太氏のスライド
  https://www.slideshare.net/ryotakanai/creating-consciousness

今回の講演で用いたスライドそのものではないが、だいたい似ている。

(2)大泉匡史氏による「意識の統合情報理論」解説

  意識・無意識の神経科学
  『意識の統合情報理論』
  大泉匡史 (理化学研究所脳科学総合研究センター)
  http://www.brain.riken.jp/labs/mns/oizumi/CNS_oizumi_2014.pdf

【所感】

本講演のテーマ自体は自分の興味のド真ん中であった。

「意識」の問題は、根源的な問いであるが、その手の問題に限って、一見あた
りまえのことをわざわざ小難しくこねくりまわしているようにみえがちで、問
いの意味にピンと来ていない人が世の中には多い。

その点、問いの意味の理解と、問いの根の深さ(困難性)の感覚において、議
論の出発点をしっかり共有しているのが確かなことして心強く感じられ、この
ジャンルの第一人者から話を聞くことができるという、そのこと自体への期待
感&満足感が、まず大きかった。

しかし、このテーマに強い興味があると言っている割には、自身の事前の勉強
が足りておらず、本講義によって入ってきた情報が多すぎて、消化不良気味で
あった。

意識の統合情報理論(IIT)については、下記の書物に目を通してはいた。

 ジュリオ・トノーニ(著)、マルチェッロ・マッスィミーニ(著)
 花本知子(翻訳)
  『意識はいつ生まれるのか ─ 脳の謎に挑む統合情報理論』
  亜紀書房(2015/5/26)

専門外の読者を想定し、平易に書かれているのはありがたい。けど、能書きしか書いてなく、理論の中身についてほとんど触れられていない。

もう少しちゃんとしたものを読んで、IITに関する理解を進めたいと思う。しかし、そういう動機に対して、ちょうどいい書物がないらしい。

Tononi氏には、意識の統合情報理論について、もうちょっと中身まで立ち入った続編を書いてほしいなぁ。

「株式会社アラヤ」は、ミッションとして、「意識を人工的に作り出すことによって、意識を理解する」ことを掲げており、億円単位の国家予算があてがわれて研究を進めているようであるが、もし、「もうここまで実現しています」なんてもんが提示されたりしたら、こっちがびっくりしてしまう。個人的な感覚として、あと300年はかかると思っているので。

なので、そういう実践的な成果が提示されることは、もとより期待していなかった。アプローチの方向性を定める基礎的な仮説について聞ければじゅうぶんと考えていた。

それが実際に提示されていることが、まず、スゴいと感じられた。意識の問題を、客観の土俵に引っ張り出そうという指向が現れている。

しかし、私にとっては、「自由エネルギー原理」だの、「生物学的自然主義」だの、「反実仮想的情報生成仮説」だの、まったくなじみのなかった概念があれやこれや、急に入ってきたので、消化しきれず、妥当性が、残念ながら、ちっともピンときていない。

しかし、ほんのちょっとだけ扉が開いて、中から光が差してきたな、という感じは受け取っている。

意識の問題に対して、哲学的な思索によってなんとかしようとするアプローチは、結局、意識の中にどっぷり浸かった状態で意識をうんぬんするという自己撞着感から逃れられないような感じがしていたが、科学からのアプローチをとることによって、客観的な形式で記述された仮説が出てきている。それ自体が大きな前進であるとみてよいと思う。

生物は、常に予測を行い、予測と入力との誤差を算出しており、その誤差の大きさが「驚き」となり、その驚きを小さくするように行動する。それは、エントロピーを減少させようとするはたらきに相当する。こういう行動原理は、ちゃんと数式で記述できる。

そういう仮説が出てくること自体はすばらしいと思うんだけど、懸念がないわけではない。われわれの行動の動機が「エントロピー最小化」のような形で数式表現できるとなると、あとはそれを解くだけの問題となり、そこは意識なしにできちゃうんじゃなかろうかと。

もやっとしてつかみどころがないようにみえていた、「主観」という名の対象をうまく客観化できたと思った瞬間に、もはやその対象は主観ではなくなっている。

「主観」はそこからすいっと逃れて、主観と客観の分裂は、依然としてそこにある、みたいな。「わたし」はどこへ行っちゃったのか?

意識の尻尾をつかんだと思った瞬間、獲物はするりと抜けて、手の届かない距離のところへ逃げていっている感じ。

しかし、意識の問題の根の深さがいっそう明らかになっていくことは、一種の前進とみてよいのかもしれない。そうやってどこまでも追いかけていく試みこそが、「意識を人工的に作ることによって、意識を理解しようとする」ことなのであろう。

そもそも、意識は、ニューラルネットの基盤の上に乗っかりうるのか、という疑問がある。

ロジャー・ペンローズ氏は、「ゲーデルの不完全性定理」まで持ち出して、われわれの心の作用は計算的ではないと言っている。ニューラルネットの上に意識を載せるのは土台無理な話で、量子力学における波動関数の収縮にからむ、新たな物理法則が発見されない限り、意識の問題をちゃんと解明するのは無理だろう、と言っていたような。

それが合ってるかどうかは私には見当もつかないけど、めっちゃ頭のいい人が、真剣に考えた結果、意識の問題の根の深さに気がついて出てきた見解なので、いちおう耳を傾けておく価値はあるんだろうな、と。

もしかすると、物理学だけではなく数学が絡んでくる問題で、数学においても基礎的な領域で飛躍的な前進がない限り、意識の問題には迫れないのかもしれない。……などと考えてしまった。

私見ながら、どうも、この意識の問題について、多くの人が楽観しすぎており、解明が進めば進むほど、問題の困難性がいっそう浮き彫りになっていく、ってなことが当分続くんじゃないか、って気がしている。当分って、あと100年ぐらいは。

それはともかく、今の自分への課題は、まず、先人たちの研究をもっと勉強して、ちゃんと理解すべしってことだ。それが先決。

そこはこれから追い追いなんとかしていくことにして、その端緒を開くきっかけとして本講義を聞けたことがたいへん意義深く感じられる。


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セーラー服仙人カメコ。アイデンティティ拡散。
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本文を書きすぎました。この欄は割愛します。すみません。