[4421] 陸海空こんなところで世紀の救出

投稿:  著者:  読了時間:20分(本文:約9,800文字)



《稲刈りと言えばイナゴ》

■腕時計百科事典[45]
 腕時計のブランド(ブライトリング)
 吉田貴之

■クリエイター手抜きプロジェクト[517]VR編
 Insta360 Oneでバレットタイム
 古籏一浩

■映画ザビエル[42]
 陸海空、こんなところで世紀の救出
 カンクロー




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■腕時計百科事典[45]
腕時計のブランド(ブライトリング)

吉田貴之
http://bn.dgcr.com/archives/20170925110300.html
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ロレックスと並び、日本国内での人気が高い腕時計ブランドが「ブライトリング」です。腕時計に詳しくない人にも「カッコイイ」「着けてみたい」と思わせてしまう、不思議な魅力を秘めたブライトリングの腕時計。

その秘密を解く鍵は、航空時計メーカーとして成長してきたブライトリングの歴史にあります。

●ブランドの興り

創設者、レオン・ブライトリングが、スイスのジュラ山脈にあるサン・ティミエに小さな時計工房を構えたのは1884年。

グライダーによる世界初の飛行(1891年)が行われる7年前、ライト兄弟の初飛行(1903年)より20年以上前の話です。

しかし、空を飛ぶことに対して強い憧れを持っていたレオン・ブライトリングは、いずれ訪れる「飛行機の時代」を見据え、航空機の計器と成り得るクロノグラフの開発に情熱を傾けました。

●腕時計型クロノグラフ

工房の後継者であり、レオンの息子でもあるガストン・ブライトリングは、世界初となる腕時計型クロノグラフの製造に着手しました。

ガストンは非常に優秀な時計師でした。腕時計型クロノグラフの開発過程で、腕時計型クロノグラフの原型とされる「30分タイマー」を完成させ、その後ストップウォッチ「ヴィテス」を発売しました。

スピードを意味する名を持つ「ヴィテス」が、スピード違反の取締りに採用されたことで、ブライトリングの時計に対する評価と信用が高まりました。

●軍の公式時計

ガストンによる技術革新は時計業界に大きな影響を与え、ブライトリングは「クロノグラフのブライトリング」として知られるようになりました。

ガストンの死後、1932年まで社長不在となりますが、レオンの孫にあたるウィリー・ブライトリングが社長に就任後は、さらに40種類にも及ぶクロノグラフを発表。

また、イギリス空軍から公式採用されたことを機に、航空時計と腕時計型クロノグラフのメーカーとして、世界的な地位を確立しました。

●経営危機

1969年、ブライトリングはホイヤー社と、「自動巻クロノグラフ」の開発に成功します。しかし、大抵の時計メーカーがそうであるように、1970年代に時計業界をおそった「クオーツ・ショック」はブライトリングにも大きな影響を与えました。

当時、高齢で病気がちだったウィリーは、この苦境を乗り越えられる人物としてアーネスト・シュナイダーに経営を託します。アーネストはクオーツ化の波に逆らうかのように、「機械式の高級時計をつくる」という決断をします。

その結果、新生ブライトリングを象徴する「クロノマット」を完成させました。クロノマットはイタリア空軍アクロバット飛行チームの公式時計に採用され、長く機械式時計を待ち望んだ時計ファンから熱烈な支持をうけました。

●航空時計メーカー

このように、ブライトリングは航空時計メーカーとして発展してきたブランドです。ブライトリングはクロノグラフの祖として、創設当初には懐中時計型の、その後は腕時計型のクロノグラフ製作に力を注いできました。

ブライトリングは航空時計を開発する中で、「視認性」「操作性」「耐久性」
の三つのテーマを重視しています。

これらに対するこだわりは必然的にデザインにも表れており、ブライトリングの腕時計をみた男性の本能の部分、機械や工業製品に対する憧れを刺激され、文句なしに「カッコイイ」と思うようです。

●プロフェッショナルのための計器

1999年以降、腕時計の全モデルに公認クロノメーター・ムーブメントを搭載するという厳しい目標を掲げ、実際にそれを達成しています。

ブライトリングの製品はもはや時計ではなく「プロフェッショナルのための計器」であり、その専門的機能と徹底した品質管理で、高い信頼性を維持しています。

プロ仕様へのこだわりが、存在感あふれる機能美を実現させ、クロノグラフ腕時計において他の追随を許さないブランドへと発展を遂げた、それがブライトリングです。


【吉田貴之】info@nowebnolife.com

イディア:情報デザインと情報アーキテクチャ
http://www.idia.jp/

兵庫県神戸市在住。Webサイトの企画や制作、運営を生業としながら、情報の整理や表現について研究しています。


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■クリエイター手抜きプロジェクト[517]VR編
Insta360 Oneでバレットタイム

古籏一浩
http://bn.dgcr.com/archives/20170925110200.html
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今回は、VR編(ヴァーチャルリアリティ)ということで、話題(?)のInsta360 Oneについて少し書きます。少しというのは、このカメラが今月出たばかりなので、とりあえず使ってみました程度でしかないからです。

ただ、とても面白いカメラなのでリコーのTHETA Vを買うのをやめて、こっちにしました。

●Insta360 One
https://www.insta360.com/product/insta360-one/

●THETA V
https://theta360.com/ja/about/theta/v.html

THETA Vは手元にないのですが、静止画動画の画質はInsta360 Oneよりよさそうな感じはします。

THETA VはTHETAシリーズが普通に進化したという感じですが、Insta360 Oneは変な機能をつけてきました。それはバレットタイムという機能です。

すでに多くの動画がアップされているので、見た人もいるかもしれません。古いところでたとえるなら、映画の「マトリックス」のような感じでしょうか。

自分を中心にして、ぐるりと回転するような動画を撮影できます。その際、スローモーションになるので、映画のようなシーンを撮影することができます。(最高240fpsまで)

バレットタイムの撮影方法は簡単です。付属のアクセサリ&紐を取り付けて、振り回すだけです。Insta360 Oneのページでもサンプルがあります。

https://www.insta360.com/product/insta360-one/

バレットタイム撮影時は紐にカメラを取り付けて回すのですが、撮影された映像には紐は映りません。ちなみに自撮り棒でも撮影できます。

バレットタイム機能は面白いのですが、このカメラを買った目的はそれではありません。普通に4K動画を撮影するためです。

Insta360 Oneの4K動画の解像度は、TVでの4KHDと横幅は同じですが、縦幅が異なります。TVでの4KHDは3840×2160ですが、Insta360 One(Theta Vも)では3840×1920となっています。

Webサイト上では3840×1920で30fpsと書いてありますが、実際に撮影してQuickTimeやAfterEffectsで見てみると、59.97fps(60フレーム)となっています。AfterEffectsでコマ送りしてみると確かに60fpsです。

http://www.openspc2.org/HDTV/VR/Insta360-One/0.png

VRの場合、VR酔いを起こさないためには90fpsほど必要とのこと。4Kサイズであと1.5倍高速撮影できれば90fpsになるので。臨場感あふれる映像を再現できるのかもしれません。

しれません、と書いたのはVR関係の機材をまったく持っていないからです。オキュラスやWindowsのホロレンズは体験はしましたが、体験だけなので自分で撮影した映像を試すようなことはできません。

Insta360 Oneは、2048×512サイズにすれば120fpsまで撮影できるとあるので、それで撮影すればいいのかもしれません。が、思ったほど臨場感はでない可能性があります。

というのも、Insta360 Oneで撮影してみるとSDカードに記録しているせいか、ビットレートが不足気味です。実際に撮影した動画の一部を切り取ってみたものが、以下の画像です。山の斜面など潰れてしまっているのがよくわかります。

http://www.openspc2.org/HDTV/VR/Insta360-One/1.png

SDカードに記録するため、10MB/sが限界なので仕方ないのかもしれません。が、そこは中国なので、来年にはこの画質のビットレート不足も何らかの方法で解決してくるかもしれません。

シンプルなのは、カメラ内部にメモリを搭載し、そこに一時的に記録しておきSDカードに書き出すという方法です。別の方法としてはH265で書き出すという方法もあるかもしれません(今はH264が使用されている)。

もっとも、そこまで品質を求めるなら、より上位のカメラであるInsta360 Proを買ってください、ということなのかもしれません。Insta360 Proなら8K動画まで撮影できます。

●Insta360 Pro
https://www.insta360.com/product/insta360-pro/

多分、ここで書いた不満は、翌年には新しいカメラが出て解消されてしまっているかもしれません。でも、それまではInsta360 Oneで楽しめるかと思います。

Insta360 Oneで撮影したVR動画のサンプルは、以下にアップしてあります。フリーなので、VRやってみたいという人はご自由にお使いください。というか、これが使いものになるのかどうか分からない、というのが何ともです。

●Insta360 One 4K/60pのVR用映像サンプル
http://www.openspc2.org/HDTV/VR/Insta360-One/


【古籏一浩】openspc@alpha.ocn.ne.jp
http://www.openspc2.org/

Insta360 OneのファイルをSDカードから直接コピーすると、ファイルの拡張子が.insvになっています。

.insvの拡張子を.mpegにすると、2枚のレンズで撮影した動画がそのまま出てきます。もし、AIを使えるならば、この映像からVR動画を生成した方がきれいかもしれません。

今年の稲刈りは簡単に終了。山に夕食のおかずであるキノコを採りに行ったら、豊作でした。質の悪いキノコは採らずに、いいものだけを採ってきました。

稲刈りと言えばイナゴ。イナゴは「懐かしい味」ではありません。毎年食卓に上るおかずです。イナゴを採ってペットボトルにたくさん入れるのですが、イナゴの数が増えるとまさに地獄絵図。

・InDesign CS6 JavaScript Reference
http://www.openspc2.org/reibun/InDesignCS6/ref/

・Photoshop CS6 JavaScript Reference
http://www.openspc2.org/reibun/PhotoshopCS6/ref/

・Illustrator CS6 JavaScript Reference
http://www.openspc2.org/reibun/IllustratorCS6/ref/

・みんなのIchigoLatte入門 JavaScriptで楽しむゲーム作りと電子工作
https://www.amazon.co.jp/dp/4865940936
[正誤表]
http://www.openspc2.org/book/error/ichigoLatte/

・After Effects自動化サンプルプログラム 上巻、下巻
https://www.amazon.co.jp/dp/4844397591
https://www.amazon.co.jp/dp/4844397605

・IchigoLatteでIoT体験
https://www.amazon.co.jp/dp/B06X3X1CHP
http://digiconcart.com/dccartstore/cart/info/2561/218591

・みんなのIchigoJam入門 BASICで楽しむゲーム作りと電子工作
http://www.amazon.co.jp/dp/4865940332/

・Photoshop自動化基本編
http://www.amazon.co.jp/dp/B00W952JQW/

・Illustrator自動化基本編
http://www.amazon.co.jp/dp/B00R5MZ1PA/

・4K/ハイビジョン映像素材集
http://www.openspc2.org/HDTV/

・クリエイター手抜きプロジェクト
http://www.openspc2.org/projectX/


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■映画ザビエル[42]
陸海空、こんなところで世紀の救出

カンクロー
http://bn.dgcr.com/archives/20170925110100.html
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◎ダンケルク

原題:Dunkirk
公開年度:2017年
制作国・地域:イギリス、フランス、オランダ、アメリカ
上映時間:106分
監督:クリストファー・ノーラン
出演:フィオン・ホワイトヘッド、トム・グリン=カーニー、
バリー・コーガン、ハリー・スタイルズ

●だいたいこんな話(作品概要)

第二次世界大戦。ポーランド侵攻に勝利したドイツ軍は、その後一年足らずで北フランスまで勢力を広げ、新兵器の圧倒的火力と戦法で英仏連合軍を追い詰める。

イギリス首相チャーチルは1940年5月26日、フランス北部の港町ダンケルクに取り残された兵士の救出を命じ、民間船舶まで総動員したダイナモ作戦が発動される。それは史上最大の撤退作戦だった。

●わたくし的見解

今年の一本は「ラ・ラ・ランド」と、春に豪語してしまった気がするのですが、本年度観ておくべき作品の双璧をなす映画。それが「ダンケルク」です。(また、豪語してしまった。えへへ)

史上最大40万人の救出作戦! であるとか、実話!! など、プロモーションで大々的に打ち出している表現は、軽く受け流してもらった方が映画をより楽しめるかと。

監督自身の言葉を借りれば、戦争映画というよりは「サバイバル・アクションムービー」であり、そのジャンルとしては超大作で、かつ本年度最高の出来と言って過言ではありません。

少なくとも(前作「インターステラー」の時も言いましたが)クリストファー・ノーラン監督作品では、最高傑作です。

クリストファー・ノーラン監督作品は、そのファン以外にとっては少し小難しかったり、ちょっと面倒、くどく感じられたりするものでした。たとえ、それが「バットマン」のような、アメコミ原作の娯楽作品であったとしてもです。

しかし、本作「ダンケルク」は、もっのすごシンプル。一人の若い英国人兵士が、敵国ドイツ軍から包囲されたフランスの港町から、ドーバー海峡を越え無事に祖国イギリスまで戻って来られるか、ただそれだけの物語。

そのため、サバイバル・アクションムービーと位置づけるのが、極めて妥当と言えます。

主人公の若い兵士は、登場シーンに象徴されているように、ウンコしたいのに矢継ぎ早に訪れる命の危機に直面し、なかなかゆっくり用をたすことが出来ない不憫な若者なのです。

このように文章にすると、ブルース・ウィリスあたりが演じる、ややコミカルで飄々とした、しかしながら無敵で不死身の主人公が登場したかのようですが、残念なことに本作の彼は「ランボー」や「ボーン・アイデンティティー」シリーズの主人公のような特殊スキルをまったく持たない、本当にただの若者。

たまたま生きた時代のタイミングで兵士になっただけなので、ヒーロー的に描かれるのは主人公ではなく、彼(を含む30万人以上の兵士)を救出するべく、ダンケルクにやってくる人々です。

ダンケルクの沿岸で待つ兵士を救出にくるのは、海軍に加え民間の船舶、そして援護のためにやってくる空軍のスピットファイア(戦闘機)。

それぞれの視点から、救出作戦が時系列どおりに進行します。シンプルな構成の中にも、ノーラン監督らしい演出だと感じたのは、陸海空ごとの時系列は狂わないものの、それぞれの視点が合流するまでの時差を巧みに利用し、緊張感に拍車をかけているところです。

また効果として素晴らしかったことの一つに、時計の音。主人公がウンコしたいのに、なかなか出来なかった冒頭からチッチッチッと時を刻み始め、その音が鳴り止むまで、緊張の糸は張りつめたまま。

その緊迫感は、映画のほぼ全般にわたって維持され、映画体験として見事です。ノーラン作品としては、非常にタイトな106分の上映時間も、この体験に一役買っています。

私は勝手に、ノーラン劇団と呼んでいるのですが、クリストファー・ノーラン監督は、同じ俳優を何度も起用することで有名。本作は、主人公こそ無名の若手俳優を起用しているものの、やはり脇を固めるのはノーラン作品ではお馴染みの顔がちらほら。

もはやノーラン作品の代名詞に近いマイケル・ケインは、今回は声のみの出演でしたが、キリアン・マーフィーとトム・ハーディーが主要キャストであったのは、ファンとして嬉しいところ。

個人的に愉快だったのは、ノーラン監督は同じ俳優を使うだけでなく、彼らへのイメージがほぼ固定されているんだなと確信したこと。俳優に、今までのノーラン作品とは違うイメージのキャラクターを演じさせようとはしない。

今回も、ヒロイックな役柄は当ててもらえないキリアン・マーフィーと、自己犠牲の男トム・ハーディーを、ファンはご堪能下さい。

ファン以外の方にとっても「ダンケルク」は、絶対に充実した映画体験の出来る作品として、強く推奨します。好き嫌いが大きく分かれるミュージカルではないという点でも「ラ・ラ・ランド」以上に、お勧めの今年の一本です。


【カンクロー】info@eigaxavier.com
映画ザビエル http://www.eigaxavier.com/

映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。


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編集後記(09/25)

●朝井リョウ「風と共にゆとりぬ」を読んだ(2017/文藝春秋)。この作家の本を読むのは初めて。映画「桐島、部活やめるってよ」は鬱陶くて、原作を読む気にはなれなかったが、タイトルはナイス。堂々たる造本で地味カバー(格調が高い? 虚勢を張った感じ)のこの本、三部構成のエッセイ集である。

第一部「日常」。小説に込めがちのメッセージや教訓を「込めず、つくらず、もちこまず」をモットーに綴った17編。結婚式へ押しかけ傍迷惑な余興、懲りなく参加する知り合いのいないバレーボール参加での空気の読めなさ、座談会でのはずしまくり、気の毒なエピソードの連続はけっこう読んでてつらい。

第二部は「プロムナード」。新聞購読者を読者にしたいという野心に司どられて綴ったという、日経の半年間連載、見開きコラム21編。あまり面白くないが、「私は、物語を作る人間の実力は、どこをどう書くか、ではなく、どこを書かないか、という選択に宿ると思っている」という決心みたいのが潔いと思う。

ここまでで全体の約3/4。もうやめようか思ったら、第三部「肛門記」ときた。なんじゃこれは〜。こんなタイトルありか。痔瘻の発症、手術、入院、そのすべてを綴った「肛門界激震の一大叙事詩」であった。この部は字体が古くからある名作みたいな感じである。フォント名は……フォントおじさんに聞いてね。

彼が肛門に違和感を抱き始めたのは4年前、会社員だった頃。って、人体の最も微妙な部分の異常をカミングアウトしたのは、前作「時をかけるゆとり」で、読書界ではよく知られているらしい。わたしは尻ません。軽めの痔だろうと舐めていたが、やがて自転車のサドルに尻を置くと激痛。だましだまし暮らしていたが、ある朝、血液と膿のようなものが出て激震が走る。「粉瘤」の発症だ。

といってもよくわからん。「粉瘤」で画像検索せよというが、しないほうがいい。「粉瘤はもはや、私のアイデンティティを宿した相棒のような存在」なんてバカを書いていたバカだったが、苦痛に耐えきれず粉瘤専門クリニックに行くと「痔瘻を併発、専門医に行け」と言われる。「痔瘻」とは何か。彼はネットで調べてどどっと血の気が引く。「お尻にもうひとつ、穴が開く」のである。

意味不明の「痔瘻」ではなく、「肛門じゃないところから便とかが出ちゃうかもしれない病」と改名すべきだ」と主張するのだが、まだ「エッセイのネタになる」と思っている。その病院で紹介された病院に行くと患部を撮影され、モニタで自分の肛門を初めてマジマジと見た。それを女医にも見られる恥辱も味わう。

だがその病院では、検査が続き手術まで半年を要すると判明、病院を変えることにする。なぜなら、間に合わないのだ。このエッセイの締切に。この時点で彼の動機は「お尻の平和を取り戻したい」から「自分の身に起きた辛い出来事をエッセイにしてお金をもらいたい」に明確に変貌する。ここまでで1/4、ここからあとが、いよいよ入院と手術と術後が、詳細に文学的に語られるのだ。

ものすごく面白い。他人の不幸を見ているのは楽しい。肛門ファースト病院で、楽観していた彼に看護師が宣告する。見開き最後の行で「手術の前に尿道カテーテルを入れることになります」、次の見開き最初の行は64ポイントの「尿道カテーテル。」この衝撃は理解できる。二度やってる。とにかく面白く、とにかく実用的な「痔瘻物語」(とは書いていないが)でありました。 (柴田)

朝井リョウ「風と共にゆとりぬ」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163906681/dgcrcom-22/


●イナゴ!/ダンケルク気になってます。CGでごまかしていないのだとか何とか。/朝井リョウ「スペードの3」の話を友人としたばかり。元タカラジェンヌのファンクラブの話だとか。

/先週の続き。「作業中は無言でもいい」わかります。しかし、ミスはだいたいコミュニケーション不足から生まれるっ。

せっかく人数がいるのに、質問や技術の引継ぎができないってのはどうなんだい? 「せんぱ〜い、これどうやったらいんですか?」「これはね……」「わーい、ありがとうございます!」ってもんじゃないのかねぇ。

わたしゃ人に質問するという技能すら退化しちまったよ。ぽろっと愚痴ったら、「それは、あれこれだとできますよ〜」なんて一瞬で返ってきた日にゃありがたくて涙が出るっての。「会社っていいなぁ」って思うんだかねぇ。 (hammer.mule)

スペードの3
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062936135/dgcrcom-22/