[4665] ショート・ストーリー 天気の良い日は片付けを

投稿:  著者:  読了時間:15分(本文:約7,100文字)



《ダーリンは私のものよ!》

■ショート・ストーリーのKUNI[236]
 天気の良い日は片付けを
 ヤマシタクニコ




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■ショート・ストーリーのKUNI[236]
天気の良い日は片付けを

ヤマシタクニコ
http://bn.dgcr.com/archives/20181025110100.html
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朝から青空がひろがる気持ちよい秋晴れの日だ。

「今日はひさしぶりに片付けをするわ、ね、ダーリン!」

サユリータは写真立てに向かって言った。写真立ての中ではでっぷり太ってメガネをかけた、髪ぼさぼさのおっさんが中途半端に笑っている。五年前に死んだサユリータの夫だ。ちなみにサユリータの本当の名前は小百合だが、ダーリンはいつもそう呼んでいたのだ。

「ダーリンって、本たくさん持ってるもんねー。本棚からあふれて床のあちこちに積み上げてた本はかなり処分しちゃったけど、ごめんね。だって掃除しにくいし。やっと掃除できるようになったら、なぜかお皿が三枚も出てきてびっくり。でも、この本棚の中の本は大事な大事な本だもんね!」

ダーリンが生きていたころと同じように写真に話しかけながら、サユリータは片付けを始める。いつものことなので気にしないでいただきたい。

「ねえ、ダーリン、この古い高等地図帳ってやつ、処分していいかな? まだ大阪湾に『関西国際空港予定地』っていう点線の四角が書いてあるけど?」

「ねえ、ダーリン、このAction Script辞典は? まだ置いといたほうがいい? それから、このインドネシア語辞典は? インドネシア語なんて勉強してたっけ? この英英辞典もすっごくきれいで使った形跡ないけど、あたしも英語のお勉強なんてしないからいいわよね? ね? それともメルカリに出す?」

と言いながらもサユリータの右手は、それらの本を「処分予定」と書いた箱のほうへ移動させていた。

はっ。

サユリータはおどろいた。

「あたし……やだ、ダーリンの本を勝手に処分するつもりでいる! 今までそんなことなかったのに。今まではとてもそんなことできなかった。だって、ダーリンがまだそばにいるような気がするから。だって、ダーリンが」

はっ。

サユリータはもう一度おどろいた。

「そうだ、いつもあたしが本を処分しようとすると『何すんねんサユリータ……』『何すんねん……おまえ……』って声が聞こえて、あたしを止めてくれたわよね! だからあたし、ああ悪かった、ダーリンはまだここにいるのにあたし、ひどいことした、悪かったと思ってまた本を元に戻した。なのに、今日はどうしたの? どうしたの?」

サユリータがしばらく待っても、どこからも何の気配もしなかった。しーん。ダーリン、おかしい。こんなことあるはずがない。はじめは、五年も経ったので自分自身の気持ちに変化が起こったのだろうかと思わないでもなかった。みんな言うのだ。

「ようそんなもん、いつまでも置いてるなあ」「私なんかすぐ処分したわ」「あんたもそのうち……」って。でも、でも、そうじゃない、そんなはずない! とサユリータはかぶりをふった。

これはきっと、あの世にいるダーリンに、何か異変が起こったということなのよ! そう、きっとそうよ! これはたいへん! でもでも、あたし、どうしたらいいの? こんなこと、お隣の奥さんにも町内会の会長さんにも相談できない! ばかじゃないかと思われるだけよ! だって自分でもちょっとそんな気がしないでもないし。あたしにはきょうだいはいないしママもパパもとっくに死んじゃったし……あ、そうだ、あれがあるわ!

サユリータはスマホを手に取り、ブックマークしてあるサイトにアクセスした。そう、こんな変な相談、誰もしていないだろうと思ってもそんなことはなく、たいていの場合、同様の相談がすでに何人もから寄せられているという、「Ahoo! 知恵袋」だった。そして、やっぱり、あった。似たような相談が!

〔相談1〕私の夫は三年前に亡くなりましたが、亡くなったような気がしません。亡くなった直後から、よく幽霊になっていっしょにテレビを見て笑ったりしてました。だじゃれが好きで、私がだじゃれを言うとずっこけてもくれました。ところが最近とんと出てこなくなったのです。これはどういうことなのでしょうか? 気になって仕方ありません。

〔回答1〕これまであなたのご主人は、あの世とこの世の境にいたのです。それがいまは完全に「あの世」に行かれたのです。いわゆる成仏したということです。三年は長いほうだと思いますが、個人差があるのでしょう。トピ主さんには残酷なことかもしれませんが、もう二度と現れないものと思われます。

〔回答2〕夫があなたに振り向いてくれなくなったということですね。そんなとき、原因は新しい女ができたに決まっているではありませんか。天国では酒はうまいしねーちゃんはきれいだとフォーククルセダーズも歌ってたくらい有名な話です。すみません。古すぎました。でもいいではありませんか。あなたも負けずにこれからの人生を楽しみましょう。

〔回答3〕よく幽霊になって出てきた? あなた、頭はだいじょうぶですか? 一度病院に行ったほうがいいですよ。

〔回答4〕麗しき夫婦愛のお話、しかと承りました。いまどき珍しい美しい話に心洗われるような心地がいたします。あせらず待てば必ずご主人はまた幽霊になって出てきてくれます。今は新たなだじゃれのネタを仕込んでおられるのだと思います。あなたもせいぜい腕を磨いておくことです。私でよければお手伝いいたします。


人はいくつもある回答の中から無意識に自分の好みの回答を探し出すものだ。サユリータは青ざめた。女! 女ができた、ダーリンに……! って決まったわけじゃないけど、でもそれに違いない。やっぱりそうなんだ。新しい彼女にすっかり心を奪われて、心ここにあらず、地上の古妻なんかどうでもよくなったのね! くやしい! あなたも負けずに、だなんて、そんなことできるわけないじゃない! ダーリンは私のものよ!

サユリータは片付けをやめた。写真立てを取り上げ、「ぜーったい、そんなこと許さないから!」とにらみつけた。でも、どうするのだ。どんなふうに許さないのだ。

「その新しい女、たぶんぶさいくで性格悪くて足が臭くて頭も悪いに決まってる。その女のところに行って、『何考えてんねん、あほ!』と言ってやる! ボコーンと一発殴ってやる! 殴ったくらいじゃ、きっと気が収まらないとは思うけど……取り急ぎそんなとこで!」

でも、どうするんだ。どうやって、取り急ぎそうするのだ。ひとごとながら心配になる。しかし、この局面でも似たような事例は見つかるに違いない。探した。あった。

〔相談〕至急、天国に行かなければならなくなりました。といっても、私が死ぬのではありません。まだ死にたくありません。天国にいる夫に急用があるのです。どうやって行って、また帰ってきたらいいでしょう。よろしくお願い致します。

〔回答1〕これは難しい相談ですね。ここは「Ahoo! 知恵袋」ですが、「発展小町」に行ってみたほうがいいんじゃないでしょうか。

〔回答2〕新大阪から山陽新幹線に乗って下さい。福山と広島の間に、乗り換え駅ができて、そこから新しい線に乗れると聞いたことがあります。私は乗ったことありませんが。

〔回答3〕そんな新幹線は出ていません。そんなものができるくらいなら「なにわ筋線」がとっくに100本くらいできて北海道新幹線はオホーツク海まで伸びていますよ。鉄道は無理ですが、確かピーチから直行便が出てるのでは。こちらのほうが断然安いです。早めに予約することをおすすめします。

〔回答4〕その新幹線でしたら、構想段階で頓挫したのでは。なんでも軌道幅の問題で、乗り入れが難しいそうですね。私も期待していただけに残念です。やっぱりピーチですね。関空から乗れるんじゃないですか。


そうか。新幹線はできそうでできなかったのね。でも飛行機があるのね。ピーチか。それに乗ればいいんだ。よっしゃー。関空だな。とりあえず関空。そこで総合案内に聞けばわかるわよね。

そして、そして、向こうに着いたら、ダーリンを探して、とっちめてやる! まさかあたしが行くとは思わないだろうからびっくりするかな。いい気味だわ。サユリータをみくびっちゃあいけないわよ!


そして、サユリータは天国に着いた。そこはよく天国のイメージイラストにある通り、一面ふかふかの雲が敷き詰められていて、超絶気持ちよかった。

「きゃー、天国だ! まじ思ってた通りなのね! 感激! 写真撮ってインスタにアップしなきゃ! 帰ったらブログも更新しなきゃ。いや、あたし、ブログやってなかったっけ。とりあえずは自撮り……あ、もっと派手な服にすればよかった。せっかくバックが白で何色でも映えるのに!って、それよりダーリン、ダーリンはどこ?!」

サユリータはところどころに設置された案内表示を見ながら、ふわふわと歩いた。いくら歩いても疲れない。
すると前方に何やらむさ苦しい一角が。

「あれは……何だろ……ええっ? まさか?」

サユリータが近づくと、それは古本・新本がランダムに積み重なって発生した「山」、いや「山脈」であった。そして、その山脈に取り囲まれるように男がひとり、パソコン机に向かい合って座っていた。でぶでぶ太ったぼさぼさ頭のメガネ男。

「ダーリン!」

男がふりむき、目を丸くした。

「なんやサユリータやないか。どないしたんや」

「どないした……って。んもう、ダーリンったら!」

サユリータが早口で説明するとダーリンはあきれたように言った。

「おれに女ができると思うか」

「そんなの、わかんないじゃない! 世の中は意外性に満ちているのよ!」

「いやあ、こっちでもあっという間に本がたまってなあ。そっちの本のこと忘れてたわ」

「そうだったんだ! ほんとにそれだけ? ならいいけど」

「高等地図帳はこっちでは同じものがないみたいやから、何やったら今度持って来て。ひょっとしたらレアものかも」

「うん、いいよ、高等地図帳ね……」

ダーリンが微笑んだ。と思ったら


「小百合さん、山田小百合さん!」

大きな声で呼ばれて、サユリータは目をぱちっと開けた。

「ああ、気がついたようだ」

「やれやれ」

なんということだ。サユリータは病院のベッドにいた。

「まったく困った人だ」

「えっ」

「あなたは車にはねられ、運良くかすり傷ですんだものの三日間意識不明だったんですよ」

「そうなんだ!」

「何を熱心に読んでおられたのか知りませんが、ながらスマホは危険だと言われているのは知ってますよね? 今度から気をつけてください」

「……はーい」

サユリータはなんだか気が抜けて、もう一回意識不明になりそうだった。そういえば、気持ちがあせったあまりスマホを持ったまま家を出て、読みながら歩いていたような記憶が。

窓から外を見ると、お天気は相変わらず良かった。

これ以降、サユリータはどんどんダーリンの本を処分したそうだ。高等地図帳を残して。


【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net

http://midtan.net/
http://koo-yamashita.main.jp/wp/

姪っ子の結婚式に行った。最近の結婚式でいつも思うのだが、ケーキカットとかファーストバイトのとき司会の人が「カメラをお持ちの方、どうぞ前へ!」と言い、スマホ持った人がわらわらと前に出て行き、立ったままふたりを囲んで撮影するので、写真撮らずにテーブルに残っている人たちには全然ふたりの様子が見えないというあの現象、どうにかならないものか。いや、それ以前にファーストバイトというやつが、どうも(以下略)。

ミュウツーレイド、うちの近所でもけっこう人が集まり、勝った……のだけどゲットできなかった。レジアイスに続く失態。どんくさいなあ私。ふー。


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編集後記(10/25)

●江崎禎英「社会は変えられる 世界が憧れる日本へ」を読んだ。現在、日本の社会保障制度は危機的な状況にある。年金がヤバイのならわたしもヤバイのだが、これは皆がちゃんと掛け金を払っていれば年金制度に大きな問題は生じない。それ以上に遥かに深刻な問題を抱えているのが「国民健康保険制度」だ。

誰もが当たり前のように利用している公的医療保険制度が危機的状況にある。加えて「介護保険制度」も既に赤信号が点滅中である。消費税が10%に引き上げられても、両制度を維持するために必要な金額は、増税分を遥かに上回る規模となる。厚労省の試算では、医療や介護に必要な金額は2025年には現在より20兆円以上増加すると見込まれている。何度目かの消費税増税が来る。

もし消費税の増税や保険料の引き上げができなければ、医療サービスは制限される。世界に冠たる日本の国民皆保険制度の終焉である。そうなる前に制度の見直しをすればいいと思うが、その改革は容易ではない。現行の国民皆保険制度の手厚い給付制度は、医者にも、患者にも、家族にも、優しすぎるからだ。日本人は人類の理想といえる制度の下、でぬくぬくと暮らしているのだ。

それは患者として実感する。わたしも内科で医者にかかるが、わずか二割の負担で、仰々しい検査が受けられる。患者はほぼ自由に医療機関を選べて、少ない負担で最先端の治療が受けられる。特に「高額医療費制度」の導入で、月額何千万円の医療サービスを受けても、自己負担は十万円程度で済む。しかも所得に応じて自己負担は減る。生活保護を受けている者は負担額ゼロである。

日本の医療制度は、いったん乗船すればいつでも自由に最高の飲食を楽しめて、目的地まで運んでくれる「豪華客船」のようなものだ。筆者は断言する。この船は遠からず沈没する。一つの予算が国家予算の三割を超えると、社会は破綻に向かうといわれる。社会保障関連予算はすでに三割を超えているのだ。

「次の世代のために何を行うべきか。実は誰もが心の中では分かっています。ただ、多くの関係者が集まって論議すると、かえって問題の本質がぼやけてしまうことがあります。そこで、一人の部外者の視点から社会保障制度に対する課題の整理と取り組むべき方向性について論じてみたい」と筆者は最初に書く。

世界一の経済力を謳歌した時代に生まれた社会保障制度が、現在の21世紀型の安定社会でうまく回らないのは当然である。過去の恵まれた条件に合わせて、無理やり制度運営を行うのではなく、今の社会に相応しい経済社会の仕組みや制度を作ることが必要だ。いま制度を利用し尽くしている高齢者&予備軍からは恨まれるだろうが、勇気をもって取り組む政治家、官僚はいないのか。

「社会保障制度改革」で論議すべきは、不足する財源確保ではなく、主たる疾患が感染症から生活習慣病に変わったのにもかかわらず、従来の医療保険の仕組みに頼ったままになっていることだ。健康管理に努めていようが、不摂生な生活をしていようが、病気になればまったく同じよう医療給付が受けられる。

まさしく「奇跡の制度」が、人々の健康管理の優先順位を劣後させたというべきである。そんな状態が半世紀続き、皆で支え合うことによる「恩恵」が、いつのまにか「権利」に変わった。このままでいくと、日本は後に「沈滞と絶望の時代」と呼ばれるようになる。すでにそのド真ん中にいるのだ。 (柴田)

江崎禎英「社会は変えられる 世界が憧れる日本へ」国書刊行会 2018
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4336062781/dgcrcom-22/


●知恵袋と小町に爆笑した。/ミュウツー交換でお渡ししますよ〜。レジアイスも二体あります。今からギフト交換しまくって仲良し度を上げて、次にお会いした時にでも〜。

/昨日からの続き。そして、「やってみて失敗」で、最近本当に失敗をした。デジクリ用Twitterのプロフィール欄が気になり変更したら、誕生日も入力しなければ更新できなかった。

創刊21年目に突入していて未成年ではないよね(笑)と、創刊日を入れたら、「Twitterはじめた時にあなたは13歳未満でしたねっ!」と言われて、アカウントがロックされた。

は? はじめた時に未成年だったからって何なのよ。今は成年でしょうが。未成年時代の発言は隠さなきゃってこと?

「有効な広告キャンペーンを一時停止するわ」ということで、未成年時代のツイートには広告を出せないから一括停止ってことかな。GDPRだっけ。

アカウントの復旧のためには選択肢が4つぐらいあって、企業や団体の創業年を入れた場合というのを選び、代表として自分の名前と生年月日を入力し、身分証明書の画像をアップロード。

二日経ったけど、まだロックされたまま。こういう時に限って、Twitterでのプレゼント応募受付中なのよね……。すみません。プレゼント応募はinfo@dgcr.com宛てにメールでお願いします。       (hammer.mule)

プレゼント&イベント情報
発売2週間で重版決定!「著作権トラブル解決のバイブル! クリエイターのための権利の本」ボーンデジタル
http://bn.dgcr.com/archives/20181018110100.html

Twitterが13歳以下のアカウントを凍結したのは新データ保護規則「GDPR」によるものだった
https://article.auone.jp/detail/1/3/7/48_7_r_20180613_1528860622732985