[4797] エセー物語◇朝(あした)の話◇またまた西安に行ってきました

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《ただ静かな熱を感じた》

■エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[35]
 朝(あした)の話
 水色の散歩道
 海音寺ジョー

■エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[36]
 またまた西安に行ってきました
 カレールーの盾
 柴田友美




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■エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[35]
朝(あした)の話
水色の散歩道

海音寺ジョー
https://bn.dgcr.com/archives/20190530110200.html

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◎朝(あした)の話

最近、美食問題を考えている。巷にある名歌セレクションとか名句アンソロジーを読むと、良い歌・良い俳句にどっぷりと浸ることができる。

ネットでも甚大なアーカイブ(貯蔵庫)がある。各新聞紙にもウン十倍の競争率で選び抜かれた、秀歌佳句が週ピッチで掲載される。加えて総合誌と呼ばれる専門の月刊誌、季刊誌などが大量に良い言葉を……と、もう例え毎日の睡眠時間3秒にしても読み切れたものではない。

このことがインフレをもたらすと思うのだ。例えば、新人の歌人の方が失恋の悲しみを歌に詠んだとする。するとその歌を読むぼくは、またこのパターンか、と感じてしまう。

言葉が消費され尽くされて、その人にとっては真剣そのもののかけがえのない言葉だったとしても、その慟哭が感じ取れないのだ。心が言葉に慣れ、鈍化してしまって。これをぼくは短歌の美食問題と定義している。

単純な、ありきたりの言葉で編んだ詩は、じゃあ低得点、価値がないのかと言えば、そんなはずはねーだろ、と反発心が湧く。美食に慣れきった評者選者に読んでもらうために、技術とか工夫とか「枠」の部分を異常発達させざるを得ない現況に、一条の光のようなヒントが欲しい、と思った。

去年新宿の砂の城で、屍派最年少コンビに会う機会があり、俳句甲子園のことを有紀さんと望さんに聞いてみた。

「相手のチームはとてもふざけた句で勝って、それが悔しかった」「こちとら考えに考えて、練りに練ったガチ真剣な句で臨んだのに」と、当時のことを思いだしたのか、キッとなった表情で話してくれた。

朝(あした)は、才守有紀と新妻望の二人で構成される俳句短歌ユニットだ。有紀さんが俳句、望さんが短歌担当である。文芸活動メインだが、ライブで歌も歌う。あとで聞いたのだが、もともと高校の軽音楽部で知り合ったのが、朝結成のきっかけだったとのこと。

ところで、急に話を変えてなんですが、流れ星って見たことありますか?これまで50年近く生きてるけど、ぼくは一回しかない。しかし高校生の頃、鳥取県・大山登山の修学旅行で宿舎に泊って、その高原で「あっ、見えた!」と誰かが叫んだので、自分にも見えた気になったのかもしれない、程度の「見た」である。

それは見たことになるのだろうか? しゅっ! と流れ去る光の軌跡が見えた、気になっただけなのでは? あるいは見えたとしても、それは実際の星じゃなくて、花火や夕陽の残像のようなものでは? と考えていくと、星が定点から任意の位置まで動くまでの「時間」を見ることなんて不可能じゃないか、と思えて来る。

いったい、自分はこの世の何を覚知でき得てるのだろう? と、足場を見失っておぼつかなくなる。

「朝」の二人が同じような喪失感を抱いたのかどうかは知らないけれど、卒業文集のようなものを出そうと、どちらかが言い出したか、両者が同時に思いついたのだろう。2018年、「朝(あした)」という冊子が出来た。高校卒業記念と銘打って、プリントして希望者に配布した。その一部が、僕のところにも縁あって届いた。

もらった夜に、通読した。掲載されていた作品はとても良かった。何がどう良かったかというのを克明に訴えたいのだが、技術的なことはどう伝えてよいかわからない。説明がしづらいことはないのだが、ただ静かな熱を感じた、熱に圧迫されたというのが一番正確な感想だ。

その熱は情熱というやつだろか? そんなわかりやすい、熱血っぽいものではない。もっと斜に構えている。正面衝突は避けるが戦いには勝ちたい、というような粘着的な熱だ。現代的で、現実的な。深海で眠っている燃える氷・メタンハイドレートのような、埋蔵量が未確定の熱源。二人の句作、歌作に、そういう印象を受けた。

ただ生きることしか能のないぼくが一番弱い理由を言えよ

「朝」所収の、新妻望さんの歌。ぼくはこの歌が、ミニ文集の中で一番好きだ。音読する時は、叫ぶ。叫ぶように読むのが、最も正しいと思う。望さんにとって、学校ってどういう場所だったのだろう?

周りに好きな者同士のグループが自然発生的に形成されていった時、どれかに属さなければという強迫観念が生じるけれど、属すことに成功してからでも常に疎外感と同居している、ぎこちない不安がなかっただろうか。

そんな途切れない不安の海中から、渦(うず)のように逆巻いてくる咆哮だと思った。

手の甲を破れば蛇の生まれくる

「朝」所収の、才守有紀さんの句。この文集で、一番不思議な句だった。4月に砂の城で本人に尋ねてみたら、これは自傷のことだと教えてくれた。そういう喩えだったのか。ただ変異のことを、文字通りに想像した。

蛇は、蛇だけだと夏の季語だが、蛇穴を出づとすると春の季語になる。この不穏。春の愁いと同期したような狂気が、やたら説得力がある。この俳句から、やはり有紀さんの高校生活の事を想像する。

二人にとって、言葉は逆境を抜ける為の大切な鍵なのだろう。もっと言葉の上手な使い手はいる。何人もいる。だけど、彼女らは彼女らの戦い方を掴んでいて、さらに磨きをかけようとしている。

先に書いたような名歌、名句の数々。そういう過去の宝石群の輝きに目をやられているぼくにとって、一つの回答を「朝」から得られた気がした。

自分が読みたいと思う、最高の傑作というのは、まだ不確定の靄(もや)の中なのだ。一番ぼくが見てみたいのは今からこの世に生まれる、未明暗黒の空から降りてくる、まだ誰も見たことのない言葉だ。

「朝」VOL.2は、2019年4月末に刊行予定だという。


◎水色の散歩道

「散るが愛しい」詩人にそう言われて赤色は削ってもらってて、水色にはそれが面白くない。水色は詩人が大好きであったので、自分も削ってもらいたかった。紫色はクールに、水色の羨望に満ちた顔を無表情で観察していた。

まったく詩人に触られたことのない白色は、水色に少なからぬ同情を抱いた。長身を起こし、「気散じに、ちょっと出ないか?」と誘いの声をかけた。白色に連れ添うようにして、水色はコロコロと一緒に転がっていった。

白色と水色のささやかな反逆を、赤色や青色や茶色は他人事として横目に眺めていた。しかし黒色は薄目をあけて、白色と水色が何処まで行くのかを、静かな情熱をもって見届けようとしていた。

黒色の瞳は、他のすべての色を真っ直ぐに見据えることに長けていた。他は皆偏った見方しか出来なかったが。

白色は机のわきのゴミ箱に落ちてしまったが、水色はまだ勢いを残し、階段まで達し転がり続けていく。皆気づいてなかったが、黒色はずっと目で追っている。見えなくなってもカン、コンと水色の足音を聴いている。

(500文字の心臓タイトル競作「水色の散歩道」応募作品)

(付記)屍派、砂の城については、拙バックナンバーの「城に泊まった話」に詳しく載ってます。

「朝」VOL.2、どなたにも予算の限界部数まで無料配布してくれるとのことなので、気になった方は「朝」のツイッターアカウントをチェックして下さい!

「朝」のツイッターアカウント https://twitter.com/___asita


【海音寺ジョー】
kareido111@gmail.com

ツイッターアカウント
https://twitter.com/kaionjijoe

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■エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[36]
またまた西安に行ってきました
カレールーの盾

柴田友美
https://bn.dgcr.com/archives/20190530110100.html

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◎またまた西安に行ってきました

映画の「キングダム」見ました! めっちゃ面白かったです。中国の自然と思われる風景が美しくて、おー、と思いました。

そして1月に引き続き、また西安に行ってきました。今回は3泊4日です。同じ「超短編ナンバーズ」の松岡永子さんが、何かの懸賞で西安への往復航空券を当てたらしく、ペア券ということで私を誘ってくれました。

前回行ったのは真冬で、公園の池に氷が浮いている状態でしたが、今回は春で気候がよかったです(ゴールデンウィークに行きました)。そして、前回は全然日本人を見かけなかったのが、今回は行きの飛行機で日本人の西安へのツアー客の人達と一緒だったし、西安の街中でも日本人らしき人を見かけました。前に日本人がいなかったのはきっとオフシーズンだったからですね。

今回の「キングダム」の映画の舞台は中国の咸陽(かんよう)で、西安からちょっとだけ離れてます。咸陽には西安・咸陽国際空港があり、私達はそこに行って、空港リムジンバスで西安市内まで行きました。

今回の映画を見て、咸陽や西安に行く人がいるかなー、と思いました。西安には始皇帝のお墓と兵馬俑があります。そこも西安の中心からはちょっとだけ離れてます。

あと今回の映画は中国のどこかの撮影所でも撮影が行われたようで、そこは中に観光客向けの宿泊施設もあるということでいつか行ってみたいなー、と思います。かなりスケールの大きな撮影所らしく、いろんな中国の時代劇が撮影されているようです。

今回、前回行かなかった所としてはイスラム教の寺院と、中国茶のお店に行きました。金康路茶文化街の甲畳茶室というお店です。

イスラム教の寺院、何ヶ所か行きましたが、どこも素敵でした。建物が中国風の所とモスク風の所と、色々あって興味深かったです。寺院の周りには大きな市場があり、熱気があって楽しかったです。

中国茶のお店では試飲もさせてもらって、中国茶の事を色々教わりました。日本人は何を飲むのかと聞かれて、中国のとはちょっとちがうけど日本人も緑茶を飲むと答えました。しかし、もう日本人も食後にお茶を急須でいれて飲むなんてしないかもしれないですね……。

中国は中国だけで発展してきたわけではなくて、となりの中東との交易を通して文化が発達してきたということを、今回の旅行で改めて感じました。

前回に続き、また陝西歴史博物館を訪れたのですが、そこに中東の影響を思わせる宝物がありました。奈良の正倉院にも中東(?)の文化が感じられるお宝がありますよね。

お茶の文化も、中国から世界に広がって行ったんやなー、と思いました。前回の冬のプチ留学で、現地コーディネーターとしてお世話をしてくれたゲイさんによると、日本の緑茶は元々は西安から来たそうです。

映画の「キングダム」、中国で上映される予定はあるんですかねー。西安の人があの映画を見たらどう思うのか、是非感想を聞きたいです。長安の都の人が見ても、絶対面白いと思うなー。(西安は昔の長安です、念のため!)

今回行ったお茶屋さん。甲畳茶室というお店ですが、畳と言う字が難しいです。
https://wemp.app/posts/2ab03659-ce81-4a26-942f-d0c21a6285a7


今回の西安旅行の日記
(私のブログ mrs mayonnaise diary)
http://mrs-mayo.babyblue.jp/rice/blog/2019/05/5312.html



◎カレールーの盾

スーパーでカレーのルーのパックを買い、それを盾に頑張ろうと思った。でも全然だめだった。私は盾にしていたカレールーを大量に浴びて、真っ黒になってそのうち丸い石になった。

誰かが転がっている私、丸くて黒い石、を見つけて、それを紙コップに放り込み、どこかの喫茶店の窓際に置いた。そんな紙コップが窓際にいくつか並んだ。(私のような人が何人かいたのだ)

いつかその席に座った人が、紙コップの外側に切手を貼っていくようになった。紙コップは色んな切符でカラフルになっていった。


【柴田友美(しばたともみ)】

短いお話を書いています。
huochaitomomi@gmail.com

群青コースター(Kindle版)発売中!
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B01MF8HE57/dgcrcom-22/


私個人のホームページ
http://mrs-mayo.babyblue.jp/menu/index.html



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編集後記(05/30)

●偏屈BOOK案内:「未来年表 人口減少危機論のウソ」高橋洋一

世間で騒がれているのが「少子高齢化で人口減少時代に突入するから日本は大変なことになる」という虚構である。2017年6月に出版された河合雅司「未来の年表」が45万部の大ベストセラーになり、類似本がいくつも出た。元ネタは国立社会保障・人口問題研究所による「日本の人口は2065年に約8800万人にまで減少する一方で高齢者の割合は4割近くに上昇する」という推計である。

「人口減少危機論=人口増加幸福論」なるものを支持する「世間」とは、主に地方公共団体の関係者だと筆者は見ている。人口減が進んで自治体が合併するとポストが減る。リストラで職場を失うかもしれない。自己保身的な危機感から人口減少危機論を支持する。約274万人いる彼らと、その家族を含めて1000万人近くの関係者がいる。天下りした元公務員を含めればもっと増える。

人口減を煽るのはコメンテーターとかいう輩で、何でも人口減が原因と言っておけば済む。誰も傷つかない方便である。出生率は確かに低下している。その要因はまだ正確には解明できていない。本当の危機とは「想定外」の事態であり、人口問題についてはいまのところ「想定内」にとどまる。「未来の年表」にあるような問題点のほとんどは「特に問題はない」の一言で片付いてしまう。

どこどこの地方で人口増があるといった話題はほとんどまやかしだ。その成功事例が東京でも同じ効果を期待できるわけがない。政府は「人口減少は大きな問題ではない」と考えている。そもそも子育て支援やコストなど金銭面から少子化を論じたところで、頓珍漢な議論にしかならない。政府は「働き方改革」「子育て安心プラン」などで、出生率低下に歯止めをかけようとしている。

だがそれは(人口減少を不安視している)国民の要望に応えるという、政治的な意味で取り組んでいるに過ぎない。性行為の結果である出生を、政府がコントロールできるわけがない。子供を産ませる政策と、生後の子育て政策はまったく別物である。出生率を増やすのに最も効果的と考えられているのは、人工妊娠中絶の禁止・抑制であるが、日本では決してそんな政策はとらない。

政府は一応「出生率1.8」を掲げてはいるが本気ではないし、その必要もない。国民の幸せ=人口の増加ではない。実は人口減少危機論はたいした話ではないし、それ自体が何となく雰囲気で書かれているではないか。この本では、人口減少は大した問題ではないという見方が正しいことを逆説的に検証する。

「まあ人口は減るだろうが、出生率もこれからほとんど横ばいだろうから、社会保障制度の設計に支障は何もない」というのが筆者の答えだ。移民政策などによって無理やり人口を増やす必要もない。政府が移民受け入れに本腰を入れた、などと煽る人も増えてきたが、移民が望ましいと思った人がそう叫んでいるに過ぎない。安倍首相も移民は望ましいものではないと考えているはずだ。

人口減少は日本社会に危機をもたらさない。人口減少が経済に与える影響と、年金制度に与える影響はたいしたことはない。地方分権さえ進めれば各地方自治体も創意工夫で強くなり、生き残っていける。財務省やマスコミによる、日本財政は危機であるとのしつこい宣伝を信じてはいけない。ところで、「しょうしか」と入れると「笑止か」が出るわたしのMacはふざけた奴だ。(柴田)

「未来年表 人口減少危機論のウソ」高橋洋一 扶桑社 2018
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4594080855/dgcrcom-22/



●ATOK続き。パッケージ版の利点は、WordやExcelの連携ツールがあることぐらいか。「文書から単語を抽出してATOKの辞書に登録し、変換に使用することが可能」とのことだが、持っているWordやExcelが2011で、ツールは2016対象であった。

ということで、いつまで使えるかわからないATOK 2017を買った。辞書の種類が違うので、辞書付きにする。価格差は3,780円。

2017の辞書は「岩波国語辞典」「明鏡ことわざ成句使い方辞典」「大修館四字熟語辞典」「ジーニアス英和/和英辞典」。ジーニアスの英和は版が4から5へ。和英は据え置き。2014の辞書は追加できた。もちろん、紙の辞書の方が情報量は多いよ。(hammer.mule)

第4回 語数の多い国語辞典がほしい!―辞典選びは収録語数が決め手?
https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/column/kok_nyumon04


「どの辞書も大差ない」は間違い
『三省堂国語辞典』編集者が辞書ごとに異なる特徴を紹介
https://logmi.jp/business/articles/238825

「『三省堂国語辞典』で勉強すると理科ができなくなるっていう、恐ろしい辞書です。」

国語辞書の購入の手引き 市販15種徹底比較【1種追加】
http://fngsw.hatenablog.com/entry/2017/02/17/195320


ATOK辞書も広辞苑は9,504円
https://www.justmyshop.com/app/servlet/cc42


文書を参照しているときにことばの意味を調べる[Ctrl]キーを2回押します。
https://www.justsystems.com/jp/products/atokmac_2017/feature3.html


Mac Office 2016連携ツール for ATOK 2017
http://support.justsystems.com/faq/1032/app/servlet/qadoc?QID=056617


スタートアップツールで辞書を引き継ぐ
http://support.justsystems.com/faq/1032/app/servlet/qadoc?QID=056568

移行先のコンピュータのデスクトップなど、分かりやすい場所に辞書ファイルをコピーしておいてください。

ATOKのユーザー辞書は、インストール直後の状態では、旧バージョンのATOKをインストールしたボリュームの次の場所にあります。
http://support.justsystems.com/faq/1032/app/servlet/qadoc?QID=044843