[0411] 私もあなたも、かわいそうな人生

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.0411   1999/09/07.Tue発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 13957部
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 <幕張はやっぱり遠かった>

●デジクリトーク
 私もあなたも、かわいそうな人生
 海津宜則

●新刊案内
 MdN10月号特集は「『人』の修整&加工テクニック」 

●展覧会案内
 GRAPHIC WAVE 1999 鈴木守・松下計・米村浩展
 ギンザ・グラフィック・ギャラリー 開催中(25日まで)



■デジクリトーク
私もあなたも、かわいそうな人生

海津宜則
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前回のテキストはブーイングの嵐だったろう。まだアノ原稿が掲載される前に
コレを執筆しているので結果は分からないが、大いに予想出来る。何を書いて
も良いと言ってくれた柴田さんは、さぞ胃が痛くなったことだろう。申し訳な
い。というわけで、少しだけまとも(どこがだ? という突っ込みは無し)な
原稿を執筆するように努力してみた。本当のところ、前回の原稿も意地悪やふ
ざけ半分で書いたわけではない。だから前回同様、大いに深読みしていただけ
ると私は嬉しい。

さて、私自身、デザインやイラストを生業としているが、デジタル関係の雑誌
類は自分が原稿を上げているもの以外は読んでいない。言い換えると定期購読
している雑誌はない。コンピュータを使ってデザインやイラストを作成するか
らと言って、関係メディアを血眼になって読みあさっても良い作品が生まれる
はずはないのである。技術やテクニックを追い求める暇があたら、私は人外魔
境(そんなの日本にあったか?)に湯治にでもいったほうがいいとさえ思って
いる。それって過激~と思うあなたは、かわいそうな人生なんです。

   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  

自分にとって当たり前の事は、他人にはまったく理解してもらえない事がほと
んどだ。だから人生は面白かったりする・・・はずだ。極端な例を言えば、食
べ物が解りやすい。私の知り合いに、果物は一切食べないという人がいる。彼
の果物嫌いは主義ではなく、単においしいと思わないから食べないということ
だ。毎日、旬の果物を食べないと思考回路が凍結する哀れな私から見たら、な
んとかわいそうな人生なんだと言うことになる。

ところが、その私自身も一応江戸っ子の端くれ(世田谷生まれは江戸っ子とは
言わないとか?)にも関わらず、刺身や寿司といった生魚が口に合わないとい
う変わり者だ。彼からみたら決定的にかわいそうな人生なのである。そして、
この話はコンピュータを使う人と使わない人にそのまま当てはめて見ると面白
い。いや、Macだ! Winだ! と目くじらを立てている方達に当てはめたほう
がいいかもしれない。

さて、コンピュータを仕事に使うようになって、どの程度たったのだろうか。
もうすっかり昔の手作業は忘れてしまった。まっ、これは善し悪しの問題では
ないが、願わくば戻りたくない。机の上に散在したカラーインクの瓶や水彩絵
の具のチューブ、中途半端に洗われた絵筆の山、ペン先が乾ききって使えなく
なったものと、使えるものが区別できずに転がっているテクニカルペン。悪夢
以外のなにものでもない。しかし、ポストイットを張り付けたCD-Rや、プリン
トアウトした紙が地層化し、その中からキーボードとマウス、タブレットペン
を発掘しながら仕事をしている今と何が違うのかという気もする。だが、少な
くとも、絵の具の乾燥やカラーインクのボトルの転倒におびえることは無くな
った。だから、きっと、凄く便利になったのだろう。深く考えないことも長寿
の秘訣である。

ところで、ある程度コンピュータに慣れてくると、突然ノートタイプが欲しく
なる。これはヲタクの宿命というべきだろうか。そんな私も、気が付いた時に
は、DOS系ノートを2台、PowerBookを4台も買いあさっていた。実際、それらで
どれほどの仕事をしたのだろうか? という現実を振返って見ると、明らかに
私にとって無駄遣いであることは明白だ。いつでも持ち歩いてデータを修正・
作成出来る環境を構築すると、余計な仕事が増えてしまう。クライアントは、
その場ですぐに直せるという頭が働いて、ギリギリまで本気で校正を入れてく
れない。こんな本末転倒の日々に泣かされたことを思い出した。

そんな暗い過去にもめげず、今年購入したPowerBook G3/266は、ちょっと様子
が違う。さて、このPowerBookだが、実は非常に適当な理由で衝動購入してし
まった。4月にあるセミナーの依頼を受け、先方で用意してくれる予定のマシ
ンを聞いたときに決断したのである。大きい声では言えないが、セミナーや講
演などで、事前に用意してもらうマシン環境と言ったら、背筋が寒くなること
がほとんどだからだ。セッティングスタッフからの『聞いていませんよ~』と
いう返り討ちに何度遭っただろうか。もう私は全身傷だらけである。指定した
ソフトすら用意してもらえないことは当たり前。まさにセミナーの怪談だ。

そんなわけで、そのセミナーのためだけにPowerBook を買ってしまった(本当
は既にもっていたPowerBook1400 でスターウォーズの予告編をまともに見るこ
とが出来なかったことが引き金なのだが、いくらなんでもコレは内緒にしてお
こう)。

こう書くと、セミナーのギャラが良かったと思う方がいるかもしれない。しか
し、このセミナーは参加費無料であったため、ノーギャラで受けている。もっ
とも、参加費が法外であっても、講師のギャラは無関係な場合が多いなんてこ
とは、口が裂けても言ってはいけないコトなんだそうだ。

ということで、この買い物は衝動買いの帝王の面目躍如ということになった。
自分でもあきれる買い方である。ところが購入してみると、このPowerBook は
想像以上に使える環境である事に気が付いた。なにせ、私のメインマシンの次
に速いのである。もうサブマシンと通信マシンはすっかり色あせてしまった。
でもなかなか成仏してくれない。成仏してくれないと貧乏性の私は、永遠にこ
れらを持ち続けることになる。口が裂けてもSE/30 を踏み台がわりに使ってい
るなんてAppleの方に言えないしな~。

セミナーの怪談と言えば、今までで、一番私を焦らせたのは、既に第一世代の
G3マシンがリリースされて久しい時期にもかからわず、32MBのメモリーしか搭
載していないPowerPC603 のマシンで、Photoshopを使うセミナーを行ったこと
だ。事前の話では最速マシンにメモリーてんこ盛りだったのにである。無けれ
ば無いと最初から解っていればネタも検討できたのに。セミナーはネタが命。

いったい私に何をしてほしかったのだろうか? 私は関東人である。爆笑トー
クショーを求めるのは筋違いだ。もちろんそんな場合ばかりではない。逆の意
味で驚いたのは、某メーカー主催のセミナーのリハーサルで、その時点での最
速マシンに十分過ぎるメモリーを搭載したマシンが2台用意されていたのを見
た時だった。2台用意した理由は、突発事故の時に瞬時に切り替えるためだそ
うだ。幸い私は危ない状況には至らなかったが、いつもこの位だと気持ちがい
い。ただし、自分のメインマシンよりパワーがあったりすると自己嫌悪に陥る
という弊害もある。意外とこれが精神衛生上いちばんまずいパターンかもしれ
ない。確実に立ち直れなくなることは、デジクリでも確認(嘘)されている。

さて、機動力のあるノートパソコンがあれば、常時携帯して仕事に活用すると
いうイメージが強い。だから、このPowerBook を私は常時持ち歩いているかと
いうと、そうではない。ほとんどは3階の仕事部屋に常設か、せいぜい移動し
ても2階のリビングぐらいが関の山だ(※1)。さすがにトイレに持ち込んだ
ことはない。じゃ、なんのために使うのか? という疑問をもたれる方もいる
だろう。答えは簡単である。ネットワークに対応していないSCSI接続の大型周
辺機器(たまにしか使わない)を利用したりするのがメイン用途だ。だが、実
際は単なる気分転換なのである。デスクトップ型のパソコンの前に座り続けて
いると、私は途端にアイデアが詰まってしまう。しかし、いくら気分転換とは
言っても、プライベートな旅行にPowerBookを持っていくことはない。

ところが、よくプライベートな旅行にノートパソコンを持っていき、旅先で仕
事をするという話を耳にする。このような革新的な行為をどうも『モバイルす
る』というらしい。モバイルって動詞? しかし、それって私にはかわいそう
な人生としか映らない。それでも文筆家なら絵になるが、クリエータ系じゃ哀
れささえ漂う。旅行の予定は既に決まっているはずだ。仕事はその前日までに
徹夜をしてでも完了すればいいことである。そうでなければ、せっかくの旅行
が台無しとなってしまう。もっとも、台無しを楽しむなら別だ。凡人(私)に
は理解出来ないからこそ、彼も彼女もアーティスト(?)でしょ。

取りあえず、携帯電話で通話しながらゴルフ(※2)をする図、だけは避けた
いものだ。ところが、そうは言っても、土日祭日を挟まない4日以上の長旅の
場合は、さすがにメールを無視することは出来ない。所謂ビジネスチャンスを
逃す(らしい)というアレだ。もちろん、そんな場合であっても私は深夜に1
回アクセスする程度だ。ところが、そんな時に限って重要なメールなどは一通
も届かないことが世の常であったりする。まさに、かわいそうな人生の縮図で
ある。世の中案外面白く(意地悪に)仕組まれているのかもしれない。

※1 しかし、3階の仕事部屋から2階のリビングまでEther ケーブルを引っ
張っている図というのは滑稽だ。そこまでして狭い家の中をPowerBook をもっ
て移動する私は、家庭内モバイラーという事か? 明らかに変な人である。

※2 私自身、今だかつてゴルフを体験したことが無い。大昔、おじさんとお
にいさんの境界線はなんだろうか? という話を仲間内で真剣に語り合った事
があった。その時の結論は、こうである。『ジーンズが似合えば永遠におにい
さん。ゴルフウェアが同化したら立派なおじさん』これが私に潜在イメージを
植え付けているのかもしれない。

【かいづ・よしのり】グラフィックデザイナー/イラストレーター
http://www.kaizu.com
mailto:yoshinori@kaizu.com

・生ネギとニンニクのきらいな私は、かわいそうな人生、ぢゃない!(柴田)

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■新刊案内
MdN10月号特集は「『人』の修整&加工テクニック」
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オフィスのすぐそばに写真スタジオがあり、ショーウインドウには「美しいポ
ートレート」たちが並べられています。デジタルフォト技術が進んだ今日では
それらがすべて生の写真かどうかはわかりませんが、やはりどうせ撮られるな
ら、多少ウソでも(?)カッコよく、あるいは美しく仕上げてもらいたいです
よね。

さて、MdN10月号では、そんな「人間の願望」にお応えしまして、「Photoshop
による『人』の修整&加工テクニック」を特集しています。ポートレート写真
の基本的なレタッチ手法から、目、鼻、口といった顔のパーツ、あるいは手足
や胴体といった体のパーツや全体バランスを修整&加工するためのテクニック
を満載しました。
付属CDに収録のデータで元写真と完成写真をレイヤーで切り替えて見ると、そ
の差がよくわかっておもしろいですよ。デジタル加工で理想の体型、美貌に近
づき、それが本物であると自己暗示かければ、実際にその姿に近づけるかもし
れません!(ホントに!) ただし、修整&加工がうまくないと逆効果でしょ
うが…。

そのほかは、Photoshop 5.5 日本語版のスペシャルレビューや、3Dアーティス
ト・ハヤシ ヒロミさんのギャラリー、プレイステーション用のゲームソフト
「I.Q」の制作で知られる中村至男さんのインタビューなどなど… 。表紙も顔
がメインのアートワークですが、何となく顔(人)がたくさんの1冊となりま
した。

野口理佳 MdN編集部編集長
http://www.MdN.co.jp/

MdN 10月号(9月6日発売)
定価1,470円(本体1,400円)
Mac & WinハイブリッドCD-ROM付き

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■展覧会案内
GRAPHIC WAVE 1999 鈴木守・松下計・米村浩展
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 開催中(25日まで)
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<詳細は本誌406号>

会期 9月2日(木)~9月25日(土)
会場 東京都中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル
開館時間 11時~19時(土曜日は18時まで)日祝休 入場無料

ギャラリートーク
日時 9月17日(金) 6:30-8:00pm 先着70名様 入場無料
会場 DNP銀座ビル5階
出演 鈴木守+松下計+米村浩
参加ご希望の方は、ギンザ・グラフィック・ギャラリーまでお問合わせ下さい。
担当:今・中島 TEL=03-5568-8024

3人の作品を見る
http://www.dgcr.com/three/

ギンザ・グラフィック・ギャラリー
http://www.dnp.co.jp/gallery/ggg/gki/g160/g160ki.html

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■編集後記(9/7)
・昨日はWORLD PC EXPO のイベントホールで行なわれる「ディジタル・イメー
ジギャラリーin幕張」の展示設営に一日を費やす。幕張ってよほどアーティス
トにとっては遠いらしく、106 人が出品しているにもかかわらず設営を手伝い
に来た作家は8人だった。B1パネルに統一したので展示は楽な方だったが。な
かなか整然とした美しい展示になったと思う。WORLD PC EXPO にiBook を見に
きたついでに寄ってください。感想を投稿してください。疲れた、、(柴田)

・タイミングが悪いと全てぶち壊し。あ~あ、もう。秘書が欲しい。さぁ、今
日も頑張るぞ。(hammer.mule)

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発行   デジタルクリエイターズ
     <http://www.dgcr.com/>

編集長     柴田忠男 
デスク     濱村和恵 
アソシエーツ  神田敏晶 
        森川眞行 

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 担当:濱村和恵
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