[0665] テレフォン・ノイローゼ

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.0665   2000/07/31.Mon発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 16494部
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お知らせ■日刊デジクリは8/7から8/20までは夏休みになります。夏休み中も
情報や原稿を受け付けますが、その期間は掲載ができませんのでご了承下さい
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 <金融商品を販売したい田中さんでした>

■デジクリトーク
 テレフォン・ノイローゼ
 神田敏晶

■デジクリトーク
 「対決!現世浮世絵娘」その5
 うきよえっこか、うきよえむすめか
 飯田HAL_

■連載「ip2000」プロジェクト奮闘記 0123 7/31
 豊かな時間が流れた、海と星と一人の老人の話
 ------(フェーズ1)航海日誌75日目-------
 川井拓也@sea

■公募情報
 DTPWORLD別冊「デザイナーズ年鑑2000年度版」
 掲載募集のお知らせ



■デジクリトーク
テレフォン・ノイローゼ

神田敏晶
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KNN神田です。

先週は突如お休みしてしまい申し訳ありませんでした。
本日は電話にまつわるお話を…。

1876年2月14日、聾唖学者であった、アレキサンダー・グラハム・ベルが、音
声の共鳴の研究中に"電話"を発明し、特許を申請した。その2時間後には、エ
ライシャ・グレイが特許を申請、その30日後にはエジソンも同じ特許を申請。
電話の発明はまさに"シンクロニシティ"のごとく誕生したのでした。

インターネット時代ならともかく、100年も前の時代に突如として同じアイデ
アで数時間の差で特許が申請されるというのも運命的なテクノロジーの誕生と
いえるでしょう。しかし、電話の基本的なしくみは100年前の技術そのままな
のです。IPテレフォニー、VoIP、CTI、さまざまなコンピュータとの融合はあ
るものの、基礎技術はまさにそのまま。

また、独占的な企業や寡占市場という市場構造も、そのまま継続されてきてい
ます。もっと電話ビジネスの新鋭ベンチャーが生まれる環境が必要でしょう。
米国の無料電話サービスの
http://www.dialpad.com/
のような会社が日本に誕生できない事象を問題にすべきでしょう。

近い将来「20世紀の後半まで、世界の人々は、インターネットを利用する時は、
電話線を使ってPPP接続されていました」と歴史を学習する時がきっとくるは
ずです。携帯電話の普及は、固定電話をしのぎ、一台の携帯電話で複数の電話
番号を使いわける時代がやってくることでしょう。そのうち、固定電話という
ニーズは完全になくなってしまうのかもしれません。

唯一固定電話を使用する理由があるとしたら、それは通信料金でしかありませ
ん。マーケティング的に考えると、固定電話の料金よりも、携帯電話の方が、
安くなる日は完全に近づきつつあります。広告付き電話や、動画電話、データ
電話などいろんな可能性は携帯電話側で広がります。

●迷惑電話お断りサービス???

では、固定電話のメリットは? イエローページに無料で掲載されることぐら
い? それにもまして、固定電話でのトラブルも後をつきません。

KNNの神戸にかかってくる電話は、1位、証券会社 2位、先物取引 3位、いた
ずら電話という順序なので、ほとんど留守番電話が対応しますが、敵もさるも
の巧妙の手口がすすんできます。

「田中と申します。ごぶさたしております。***-****にまでお電話いただけま
すでしょうか?」というメッセージ…。田中さん…、頭の中に数人の田中さん
が駆け巡りますが、折り返しかけた田中さんは、金融商品を販売したい田中さ
んでした。

財団法人 日本消費者協会に相談しても、被害にあっていないのであれば…と
いうニュアンスで、対応方法がまったくありません。
http://www1.sphere.ne.jp/jca-home/
【苦情相談】財団法人 日本消費者協会
   生活に関する苦情、問い合わせを電話でお答えします。
   受付時間:月曜~金曜 10:00~12:00 13:00~15:00
〔土日祝日を除く〕電話 03-3553-8606(直通)

NTTの「116」に相談すると、「迷惑電話お断りサービス」というのがある事を
教えてくれました。しかし、工事代金2000円、6件までで月額600円、30件まで
で月額700円という費用があります。月額料金はなんとなくわかるのですが、
工事代金がよく理解できません。「何を使って工事するのですか?」と聞くと、
データを書き換えるだけだそうです。

こうじ 【工事】
(名)スル土木・建築などの作業をすること。また、その作業。「―中」
「水道―」----大辞林 第二版三省堂
http://dictionary.goo.ne.jp/ 

とても今でも、土木・建築レベルの工事をしているとは考えられません。つま
り、局内工事とは、"NTTの人件費が高い人を動かすために、かかる諸々の経費
を含んだ収益モデル"なのかも…。

"受益者負担"が原則というNTTのルールで考えると、迷惑電話を受ける"非受益
者"がこの金額を負担するのはとてもおかしいと思うのです。NTTさん、局内で
キーを押す作業がなぜ「工事」なのかを語彙をもっと明確に使う必要があると
思うのです。

●NTTダイヤルQ3サービス!?

こんな電話課金の事例があります。

米国大使館に電話をかけると、必要な情報をひきだすのに1分間300円もかか
るシステムになっています。しかもそのメッセージはすべてCTIによる録音情
報です。HPアメリカのカスタマーサポートに、人間を出すには10ドル課金さ
れます。必要な事はFAQでの録音に用意されているからです。

そこで、NTTさんに提案ですが、迷惑電話をかけた人に課金するシステムを提
供すればいいのではないでしょうか? また、これからは、電話をかける人が
かけられた人の時間コストを負担するというような有料制があってもいいはず
です。当然、NTTには数%のコミッションが転がり込むわけですから…悪い話
とはいえないでしょう。

たとえば、証券会社からの電話、
「はいKNNです」
「シャ、社長さん、おってですか?」
「どちらにお電話をおかけですか?」
「社長と話しがしたいんですけど…」
「どういったご用件ですか?」
「社長さんでないとダメなもんでして…」
「わかりました。おまちください…」

ここで迷惑課金サービススタート!です。

「ゴチュウイクダサイ。NTTデス。
     今から1分間100円の有料サービスにはいります。
 それでよければこのままお話ください」
「社長の神田です…。もしもし…」
「ツーツー」
という事で、撃退する事が可能なはずでしょう。「ダイヤルQ3」というような
名称もありかと…。

深夜の迷惑電話には、「コノデンワハ、NTTダイヤルQ3サービスによって今よ
り課金されています」とメッセージを流してもいいのではないでしょうか?

迷惑電話をかける人には、それなりの負担を強いてもいいかと思います。特に
夜中の迷惑電話が現在ひどくて悩んでいます…。迷惑電話には、もう慣れてい
るのですが、有用な電話がそこにまざるからそれが悩みなのです。

先週の夜中に母親が倒れ、緊急の電話が病院からあったにもかかわらず、あや
うく電話を取り損ねるところでした。幸いにして命に別状がなかったのですが、
人命を左右する電話とイタズラ電話が混在している、今の電話のシステムはそ
ろそろ明確にわける必要がありそうです。

先週は、原稿を書いている途中に、母の緊急手術を聞き、承諾書にサインがい
るという事で病院にかけつけたのでした。夜中の電話で病院にかけつけるまで
の間、小さな子供の頃に母につれていってもらった思い出など、いろんな事が
走馬灯のように頭を駆け巡り続けましたが、病院について説明をうけ、事情を
聞ききました。

結論は、サインがないと手術ができないので来ていただいたということでした。
手術は良好で、命には別状がありませんでした。しかし、承諾書にサインがな
いと手術もできないという事実を聞いてまた、病院のシステム面を考えること
がありそうに思いました…。夜中に呼び出される患者の家族の心境も…。

The smallest digital TV station in the world
KandaNewsNetwork http://www.knn.com
Toshi Kanda mailto:knn@rr.iij4u.or.jp

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■デジクリトーク
「対決!現世浮世絵娘」その5
うきよえっこか、うきよえむすめか

飯田HAL_
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●改名しました

話が突然ではあるが天声を聞いた飯田HALは名前を改めHAL_となった。もとも
と[HARUSAN]と呼ばれることがほとんどであるので、身近な人達には何の不便
も感じさせないが、雑誌関連等名前の表記が必要な所ちょっと戸惑うとは思う。
こちらデジクリも表記を変えてくださいませ。

●現世浮世絵娘の読み

さて、現世浮世絵娘も第五回目になったところで、デジクリ読者は「浮世絵娘」
をなんと読んでいるのだろうかと気になる。音楽を聴いてわざわざその曲の作
者に解説を求めることはないと思うが、絵画については、特に抽象絵画におい
ては何が描いてあるのか解説を求める人が非常に多いと感じる。

歌詞のない音楽を聞いて何の情景を歌ったものだとか、どのような感情を表現
したものだとかいちいち考える前に、この曲が好きとか嫌いとか単純に判断し
言葉に出して言える場合がおおいのではないだろうか。絵画も同じような捉え
方が出きればそれで良いのだと思うのだが、いちいち解説を求めたくなるのが
人情のようだ。

話は読みに戻るが「浮世絵娘」を桑島さんは[ukiyoe-ko](うきよえっこ)と呼
んでいる。HAL_ は[ukiyoe-musume](うきよえむすめ)と読んでいる。

桑島さんが[ukiyoekko]と読むのは何故だろうか。それは彼自身が今のオンナ
ノコ達を非常に可愛いと感じ、自分の作風と照らし合わせた所に「浮世絵娘」
と言うのだと思っている。彼の描く絵自体にも、彼の感情が行き届き作品を見
るにつけ「彼はこの娘を愛しているんだなぁ」と感じる。見る側に素直に伝わ
ってくる浮世絵娘達に何の解説もいらないのだ。[kko]と読むのは「子」に通
じ、「子」は小さい子供を表現し、ひいては若者を表現する、愛玩の対象とし
て捉えられる。

●HAL_の対象は「おんな」であること

HAL_の描く浮世絵娘[ukiyoe-musume]達にも愛を感じそれを表現している。し
かし、いちいち解説する気もないのだが「子」(っこ)と呼べない部分に非常に
興味があり、その感じた部分を絵にするには(むすめ)とあえて呼ばなければな
らない。

もとより「娘」は女と良とで、美しい「むすめ」の意を表し、少女や未婚の女
の意味ではあるが、娘子(ジョウシ)と書くと夫人や母、妻の意味まで表してし
まう。「むすめ」と読むと、表面可愛い娘であっても、女である事が前面に出
てくる。

「おんな」と表現すると、これまた特別な意味を持ってくる。「女の髪の毛は
大象をもつながる」と言う言葉をご存知だろうか。これは、おんなは男をひき
つける大きな力を持つことを表現している。そう、私は女である彼女らに引き
付けられているのだ。よろよれの髪の毛が引き千切れそうになったモップ頭の
彼女達にもだ。

桑島さんが、原宿の女の子達を取材しやすいと言うのは良くわかる。彼女達は
取材されても可愛いのだ。自分を可愛いと表現しようとしているのが良くわか
る。自分を可愛いと思う娘達はそのまま可愛いのがあたりまえだ。何かどこか
ズレテいてもそこがまた可愛くなる。原宿系の可愛い子達は「はい、はい。君
はかわいいよ」と言ってあげる事ができる。それは勝手な意識だが、自分の手
の内にあるから、見えてしまっているから私にとって素直に言える言葉だ。そ
れは、表現者としての私の対象としては不充分だ。

しかし、渋谷系の近寄りがたい彼女達はどうだろうか。彼女達も自分達同士で
「かぁわぁいぃいぃ~~~」とは言っているが、その可愛さはどう見ても社会
に反抗している。ケバケバシイ化粧にしても、身につける装飾にしても、他と
違う部分に共通点を見出しその地域性の中での可愛さである。それも、いわゆ
る方言だと私は思っている。

しかし、その裏側に相反するもの、女であることの弱さを感じざるをえない、
いや、勝手にそれを感じて見てあげなければいけないのではないかと思ってい
るだけなのかもしれない、、、。そして、それが、女であること、弱さを抱え
持っていることが、彼女らの無意識のうちの私に向けての手綱となる。

●言葉は時代を表現する

外見は非常に極端である彼女らは、行動に関しては極端なことを望まない。言
葉使いにそれが端的に現れている。原宿、渋谷どちらも私にはまだ相違点が感
じられないが、彼女らに共通の部分としてハッキリしていることは、表現が非
常にあいまいであると言うことだ。いったいこれで会話が通じるのだろうかと
思うほどボキャブラリーは少なく、論点がずれてもお構いなしの会話はあいま
い言葉によって成立している。

ようは自分の言いたいことだけを述べ、しかも言いたいこと自体はあいまいに
しているので相手に反感を与えることもなく、聞いているほうは聞いているほ
うでと言うか、ほとんど聞いていない。それも、私にとっては非常に面白い。
彼女らのボキャブラリーも表現の対象にしたくなる。

言葉使いの話までかくと、「なんだぁ、論点が複数あるじゃないかぁ」と感じ
る人もおおいと思うが、それは私の作品を見れば理解できると思う。

話が長くなったが、こういう文章を書いていると、自分の頭の中が整理されて
くる。そして、ここまでの私の少ない皺の脳のまとまった結果として私の表現
したいものは、私自身の見えない部分を視覚化したいという事なのかもしれな
い。浮世絵娘という形をとって。

●展覧会企画
RE-LATION-S 2ND SEASON 2ND EXHIBITION
「対決!現世浮世絵娘」
飯田HALと桑島幸男が描く渋谷・原宿のコギャル達
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 飯田HALは数年前よりはじめたペイント系の表現方法を発展させ、昨年夏よ
 り渋谷の女の子達をターゲットに取材をはじめ徐々に形にし、発表の場を探
 していた。時をほぼ同じくし、桑島幸男は子供の誕生を機にドロー系ツール
 による「今!」を生きる街の女の子達の表現の模索をはじめ、5月のディジ
 タル・イメージ東京展(前期)では大きな評価を得てきた。その二人が描く
 現代東京のコギャル達の表現を「現世浮世絵娘」として、新作対決が行われ
 る事になった。
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会期 8月1日(火)―8月31日(木)
会場 ダブルクロック渋谷ギャラリースペース
主催 光陽社/ダブルクロック
入場無料 会期中無休/24時間営業
http://www2.gol.com/users/dnest/

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■連載「ip2000」プロジェクト奮闘記 0123 7/31
豊かな時間が流れた、海と星と一人の老人の話
------(フェーズ1)航海日誌75日目-------

川井拓也@sea
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【現在の船の位置=凸】
東京>>香港>ベトナム>シンガポール>スリランカ>セイシェル>ケニア>
エリトリア>エジプト>イスラエル>ギリシア>クロアチア>イタリア>カナリア
キューバ>メキシコ>凸>>カナダ>ロシア>東京
Transported by http://www.peaceboat.org/
Planning&Produced by http://www.taiyokikaku.com

【ip2000チームが航海しながら制作・発信中のコンテンツ】
●「ビデオサロン8月号」発売中
カラー4ページip2000奮闘記撮影編掲載!
●「週刊ウルトラ1」
はなこが世界を行く!好評連載中!

【今日のコラム】
□□□□テクニカル度
■■■■旅行シズル度
□□□□おもしろ度
□□□□制作プロセス度

今日は初めて甲板でコラムを書いている。今まで塩風を恐れてさすがに外でわ
ざわざコラムを書くことはなかったのだが、今アカプルコを出航する際に非常
に素敵な時間を過ごし、まだその記憶が新しいうちに書きたくなったので甲板
にパソコンを持ってきた。

目の前にはアカプルコの夜景が広がっている。船首が波をかき分ける音がする。
時間は夜の9時30分だ。回りを通り過ぎる人は「なにもここまできてパソコン
をしなくても」という顔をする。それはそうだ、ディスプレイの照明で、暗闇
で無心にタイプしている男は相当不気味なはずだ。

しかし、ここでしか書けない文章もあるのだ。船内はどこでも冷房が効いてお
り、後部デッキは大音量の音楽が深夜まで流れている。波の音、風の音を聞き
ながら思考に浸れるのはこの前方甲板しかないのだ。デジクリのコラムは平均
30分程度で書き上げるが、感情が入ると1時間に及ぶこともある。

出航の時にはいつも音楽が鳴り響き、「別れ」を惜しむ人で陸地側の甲板はい
っぱいになる。今日は趣向を変えて前方甲板から出航を見てみようと思った。
すると不思議なもので、右舷甲板では賑やかに聞こえる音楽もぴたりと聞こえ
なくなり、その音は港の倉庫に反響してまるで港から音楽が流れているように
聞こえる。

前方甲板の下では、ウクライナの船員が大きなクレーンで錨を上げる作業を行
っていた。私はそこで、その作業のひとつひとつを非常に熱心に見ているおじ
いさんを見つけた。どこかで見覚えのある・・・そう、この人は船に関する講
座をしていた人だ。

●海に向って話す人

数日前にあるおばあさんが、セロテープを借りにプロダクションルームにやっ
てきた。手に船の絵を書いたポスターを手にしたそのおばあさんは、うれしそ
うにこう説明してくれた。「この前のね、パナマ運河あったでしょ。あの時に
にね、ひとつひとつの運河での船の動作を説明しているふたりの男性がいたん
ですよ。私ね、横で聞いているだけで楽しくてね。あの国旗はこういう意味だ
とか、あのロープの縛り方にはなになにがあってとか話していてね。それで、
これはみんなにも是非聞かせたいと思いましてね、ぶしつけだけど講座やりま
せんか? ってお願いしたんですよ。これそのポスター、ほら、そこの○○さ
んが船の絵まで書いてくれたの」

なるほど、デッキの数まで正確なオリビア号のイラストと共に「船と海の話」
というポスターを握っていた。時間の関係上、少ししかその講座には出られな
かったがそれは非常に興味深い話だった。

今自分の目の前で、じっくりと船の出港作業を見守っているおじいさんはその
講師だった。だから見覚えがあったのだ。私は早速横に行き、てすりに手をか
けながら話をしてみた。

「こんばんは、講師されていた方ですよね? とても興味深い話でした。あり
がとうございました。あの、船の話」
すると日焼けした顔がにこりと笑い彼は静かに話し始めた。
「あ、いやいや、お恥ずかしい・・もっといろいろと話したかったんだがね・
・・。いま、あそこで錨を巻いているでしょ? 日本の船だと水で洗いながら
巻いたりするんだよ。それであそこで船の下を覗き込んでいるのが多分一等航
海士だな。錨がしっかり船に上がるか目視してるんだよ。錨が曲がっていたら
かっこ悪いだろ?」

彼は戦争中に引き上げ船の船員で、その後水産会社等に勤めた経歴の持ち主で
あることがそれから話してみて分った。船は斜め後ろに向って港から離れてい
った。ちょうどUターンをするようなかたちだ。船は入港の姿勢によりけりで、
まるで電車がプラットフォームを離れていくように直線に出航する場合もある
し、Uターンしながらダイナミックに出て行く場合がある。今回は後者だ。

「プロペラを右は前進、左は後進しているわけですよ。戦車と同じでね」なに
げなくみていた船の一挙手一投足が、俄然おもしろいものに見えてくる。
「汽笛がね、この船はマストについているんだよ。昔の船は煙突につけたもん
だ。それはね、ちゃんと意味があったんだ。煙突は空洞だろ? それが共鳴す
るんだよ。だから音が響くわけだ。港ではみなその音を聞いてああ、あの船戻
ってきたとか分ったもんだ。漁船なんかだとああ、うちの父ちゃんの船が戻っ
てきたってね。船の男は汽笛の音はこだわっていたもんだよ。相手の汽笛を聞
いてありゃなんだ、うちのほうがいい音してるぞ、なんて話したもんだ」

オリビア号は、汽笛は鳴らさずに静かにアカプルコ港をあとにした。灯台のラ
ンプが数秒ごとにこちらを照らす。

「どうも汽笛を鳴らさないな」「港によって騒音規制とかあるんですかね?」
「そうかもしれんな。しかし味気ないな。なんか夜逃げするみたいだよ。ブア
ーってここで鳴らせばアカプルコの人にオリビアが出るぞ! ってわかるのに」

さみしそうな表情をした彼は遠くを見ながらこう続けた。

「むかし、晴海にイギリスの船が止まりたいってんで、うちの港に止まらせた
ことがあるんだ。ぼくは宿直だったんでね、朝早く起きてねロープをはずして
やろうと思ったんだよ。そしたらその船からパーッと船員が出てきて『いや、
大丈夫だ、自分でやるから』と言うわけだよ。それで自分たちでロープをはず
して、すべり出した船にサッと飛び乗るわけだ。それからまーっすぐ船は行っ
てね、汽笛をブアッーと鳴らしたら90度スッと曲がって去っていったよ。そり
ゃー、かっこよかった。ちきしょめ、さすがイギリスの船だって思ったね。う
ん、ありゃ今でも覚えている。かっこよかった・・・」

彼はもはや私に話しているのではなかった。海に向って話していた。そして穏
やかな表情で自分の思い出を味わっていた。私もこんなふうにこの旅のことを
語れるようになるだろうか? こんなにもいい顔で・・。

オリビア号は静かに外洋に出て行った。船のランプが消え突然星が見えるよう
になる。しばらく海を見つめていると、左舷でザブンザブンと船の波の音とは
違う音がした。それはイルカだった。そして進行方向の遠くに光る雲が見える。
彼はそれを見ながらゆっくりとした口調で「では、失礼しました。私はこれで」
と丁寧に会釈して部屋に戻っていった。

すでに60日近く船に乗っているが、とても豊かな時間が流れた。今日の私の宝
物だ。私はしばらくそこに居残り星を見ながら波の音を聞いていた。船の生活
も私にとっては残り5日を切っていた・・・・。そしてまたこの甲板に立つた
めには多くの問題をクリアしなければいけないことも分っている。

http://www.ip2000.net/

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■公募情報
DTPWORLD別冊「デザイナーズ年鑑2000年度版」
掲載募集のお知らせ
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デジクリ読者の皆さんこんにちは。『DTPWORLD』編集部の小木昌樹です。今日
は2000年9月26日刊行予定の別冊『デザイナーズ年鑑2000年度版』のご案内を
させていただきます。

『デザイナーズ年鑑2000年度版』は、エディトリアル、グラフィック、WEBと
いったフィールドで活躍されている個人、デザイン事務所、編集・制作プロダ
クションなど、デザインを業務としている方々のプロフィールと作品を紹介す
る、ビジュアルなイエローページです。

現在、掲載をご希望するデザイナーの方々の募集を行っておりますので、掲載
ご希望の方は弊社WEBサイトよりPDFファイルのエントリーシートをダウンロー
ドし、必要事項をご記入の上、最近手がけられた作品のコピーとともにFAXで
下記までお送りください(※掲載は無料です)。締切は8月10日(木)です。

●エントリーに当たってのお願い

・エントリーに当たっては、法人・個人、SOHOなど活動の形態および、活動す
る地域を問いません。またDTPであるか否かを問いません。ただし、業務とし
てデザインを行っている方に限らせていただきます。
・誌面の都合上、ご希望に添えない場合もありますので悪しからずご了承くだ
さいますようお願いいたします。
・掲載に当たっては、掲載料その他の費用を徴収することはありません。また
掲載誌の買い取りなどを強制するものでもありません。
・エントリーシート確認後、掲載をお願いする方には図版などのご提供につい
てこちらからご連絡いたします。
・エントリーシートのダウンロード先
http://www.wgn.co.jp/dtpw/

・問い合わせ先
有限会社ファルコンウッズ 担当/鈴木志央(すずきしお)
東京都港区南青山1-10-6 ファミリー青山ビル3F
TEL 03-5410-3255 / FAX 03-5770-8385
falcon@mba.sphere.ne.jp

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■編集後記(7/31)
・「グランステージ南浦和」というらしい。いま建設中のマンションの名前。
いま話し合いは中断したまま建設は進んでいる。解体工事の被害と迷惑にたい
する補償をやっとスミマセン付きで応えてきた。モデルルームもだいぶ離れた
場所に8月中頃からオープンするとか。それまでに誠意を持った話し合いがも
たれなければ、建築現場には反対の看板や横断幕が出たまま販売が始まるわけ
だ。あせるべきは業者側だ。いましばらく攻防は続く。もう飽きたが。(柴田)

・太ってきた。体重は変わらないが、ウエスト周りの肉が厚くなってきた。な
んで? 夏やせってないんか? 病気やせから、一日三食とおやつを心がけて
いるのだが、体力はついてきたものの明らかに運動不足。その上はまりはじめ
たのがビーズ。目や指を酷使するものばかり。このビーズ、いくつかの映像を
QTに落としている間に完成する。待ち時間のストレス解消にいい。うちのマッ
クが遅すぎるのかもしれないが。このビーズ、有名クリスタルガラス会社の銀
入りガラスを使ったゴージャスなものから、オーガニック系のものまで、いろ
んなものが手軽に楽しめる。ここも↓ある意味スゴイよん。 (hammer.mule)
http://homepage1.nifty.com/iStrap/home.html

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http://www.nagesen.gr.jp/  <投げ銭システムをすべてのhomepageに>
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編集長     柴田忠男 
デスク     濱村和恵 
アソシエーツ  神田敏晶 
        森川眞行 

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 担当:濱村和恵
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