[0851] 最も美しく輝いている時

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.0851    2001/04/27.Fri発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 17969部
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■デジクリトーク
 最も美しく輝いている時
 十河 進

■デジクリトーク インターネットの紆余曲折(6)
 信じようと、信じまいと  <インド人解決編>
 8月サンタ





■デジクリトーク
最も美しく輝いている時

十河 進
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●男のまなざしを感じさせる映像

映像のエクスタシーというものは、確かにある。そう思わせられる映画に久し
ぶりに出会った。美しく官能的で、最初から最後まで背中がゾクゾクし通しだ
った(別に風邪を引いていたわけではない)。

朝日新聞映画担当記者の秋山登さんは「映画に酔うという至福の時間をもたら
せてくれる作品である」と書いていた。同感だ。映画に酔う至福の時間を過ご
したのは、20年前に鈴木清順監督の「陽炎座」(1981/139分)を見て以来か
もしれない。

映画を見終わってからロビーでサウンドトラックのCDを購入して帰り、毎日、
繰り返し聴いている。メインテーマに使われている曲を聴き、その時の映像を
反芻している。

チャイナドレスを着て髪をアップにした女は、ハイヒールを履き端正な姿勢で
屋台への階段を降りていく。そのスローモーションの動きは、男の視線が捉え
た姿に他ならない。その映像は彼女の姿を少しでも長く留めおきたいと願って
いる男の想いを表現する。

そこに重なる音楽は鈴木清順の「夢二」(1991/128分)で使われたテーマだ。
ヴァイオリンとチェロの弦の音が心に沁みる。いつまでも耳に残る。その音と
映像が最初に現れた時、僕は本当に背筋がゾクリとした。女優の美しさ、影を
強調した照明の見事さ、ハイスピード撮影の動き、男の主観的な視界を映画は
創り出していた。

その時、すでに男は女を恋している。恋をした男のまなざしが捉えた女の姿は
美しい。そのひとつひとつの動きを見落とすまいとする男の視線は、女の動き
をゆっくりと追いかけていく。

この映画は「視線の映画」であり「まなざしの映画」だ。60年代風にアイライ
ンを強調した女のメイクは、キリリとした彼女のまなざしに観客の視線を集め
るためのものに違いない。

男と女は同じ日に隣同士に引っ越してくる。香港の建て込んだ住宅事情を別に
しても、狭い廊下をふたつの引っ越し荷物が行き交い混乱するのは避けられな
い。男は自分のものではない本が紛れ込んでいるのを見付けて、初めて女と口
をきく。

男のまなざしには、すでに女への好意が見える。女の視線はまっすぐに男を射
抜き、男をすくませる。何かが起こる予兆をはらんでいる。

やがて、女は夫の不倫に気付く。それも、相手は男の妻なのだ。隣の部屋に夫
がいるのを知った女は、シャワールームで声を殺して泣く。初めて女が激情を
表すシーンである。

男も妻の不倫を知る。それを確認し合った男と女は、それぞれの夫と妻の行動
を辿ろうとする。ふたりの関係はどのようにして始まったのか、最初にどちら
が誘ったのか、男と女はそれぞれ自分たちの伴侶の不倫相手になり、それを知
ろうとする。だが、それはいつしか本物の想いになっていく……。

女は常に緊張を強いるチャイナドレスに身を包み、高い襟で強調される端正な
姿勢を崩さず、一度もチャイナドレスを脱がない。それは彼女の生き方の象徴
だ。崩れを見せず、常に己を律して生きている。だが、背を伸ばし視線を高く
上げた黒い瞳には強い意志が漲り、内面の燃え上がる想いをうかがわせる。

男も同じだ。常に髪を乱さず、ネクタイを外さない。だが、男は何度か上着を
脱ぎネクタイを緩める。その外面の変化はふたりの心のすれ違いの象徴として
読み取れる。女は男の部屋から出られなくなり、そのベッドで横たわる時でさ
え、髪もドレスも乱さずハイヒールさえ履き続けている。

相手に惹かれる気持ちを抑え続けたように……

ウォン・カーウァイ監督の「花様年華」(2000)は昨年のカンヌ映画祭に出品
され、トニー・レオンが主演男優賞を獲得した。美しい映像を創り出したスタ
ッフは高等技術院賞を獲得した。「カンヌで一番美しい作品」と評せられた。

「花様年華」とは、女性の人生でその人が最も美しく輝いている最盛期のこと
を示す言葉であるらしい。女を演じたのはマギー・チャン。28着のチャイナド
レスを着替えるマギー・チャンは本当に美しく見惚れる。

「満開の花のように、成熟した女性が一番輝いている時」というタイトルは、
マギー・チャンによって体現されている。

●抑制することの美しさに酔う

「花様年華」とは女性に対して使う言葉らしいが、この映画はふたりの男女の
「人生で最も美しく輝いている時」を描いている。互いに伴侶に裏切られた辛
さに耐え、そして相手を想うせつなくやるせない日々……、しかし、それはふ
たりにとっては「花様年華」であり、「人生の時の時」だったのだ。

映画の設定は1962年。男女の関係に寛容な時代ではない。世間をはばかり、身
を潜めて男女は会う。軒端で雨を避ける男と女、ホテルの廊下に佇む女、ホテ
ルの部屋で女を待つ男、夜更けのタクシーの中の男女、囁き合うような会話、
そんなシーンのひとつひとつが見事な情感を漂わせる。

女は男の胸に飛び込むことはできない。男は、女の夫になりきり自分の妻を誘
惑する設定でなければ、女の手さえ握れない。ふたりは抑制する。耐える。堪
えている。

当たり前のことだが、抑制することでふたりの内面で想いが募っている。伴侶
に裏切られた痛みがふたりを近付けるのだが、それは結局、きっかけにしか過
ぎない。ふたりは出会った時から惹かれ合っていたのだ。

もちろん裏切られた者同士の辛さややるせなさがふたりをさらに親密にし、そ
れぞれの夫と妻になって彼らの関係を想像し再現することが共犯者的な意識を
高めていく。それは、やがて相手をかけがえのない存在にしてしまうのだ。

この世でただひとりのかけがえのない存在……

女は耐えきれず「苦しいほど悲しい」と嗚咽を洩らす。隣室で夫が他の女と寝
ているのに気付いた時に続いて二度目の激情の発露だ。だが、今度の彼女の涙
は男への想いを抑えきれない苦しみが生んだものである。

なぜ、それほど抑制する──思わず僕はそう思った。

しかし、スクリーンの男女が抑制し耐えていることで、僕はその映画の美しさ
に酔っているのである。じっと自分の気持ちを抑え、密かに思い続ける。惻々
と主人公たちの想いが画面から伝わってくる。

だが、主人公たちの耐え難いほどの想いが我が身に感じられ、ヒロインの「苦
しいほどの悲しさ」が胸に迫って、「もういい。それほどまでに押しとどめる
ことはない」と僕は言いそうになったのだ。

この映画は「カンヌで一番美しい作品」と評せられた。それはもちろん物語、
俳優、女優、映像、音楽などすべてが美しいのだが、美しさを感じさせる最も
大きな要素は「相手への狂おしいまでの想いを自分の中に留め、抑え耐えて生
きている美しさ」なのである。その慎ましさが美しい。

女は、もう一度涙を流す。想いが募り苦しく耐えられなくなった男がシンガポ
ールへ行くことを決意したことを知った夜に、である。男は、ついに女への想
いを告白する。女は「本気になるなんて…」とつぶやく。

夫の相手としてではなく、妻の相手としてではなく、初めて自分たち自身にな
ってふたりは手を握り合い、別れを確認する。だが、立ち去る男に耐えきれず、
女は涙を流す……。

すぐれた映画は言葉では語らず、画面のすべてで何かを伝えてくる。女優のほ
んの少しの仕草、まなざし、女を浮かび上がらせるわずかな光、闇の中に溶け
込もうとする男の背中……そんなすべてのものが僕に彼らの哀しみを伝える。

その後のシーンも忘れがたい。深夜のタクシーの後部座席で女は初めて「帰り
たくない」とつぶやき、男の肩にもたれるのである。その後の出来事を、僕ら
は想像するだけだ。映画は何も描かない。

●ぼくたちに花様年華はあったか

満開の時、盛りの時は過ぎてゆく。

「花様年華」の男と女は「人生で最もせつなくやるせなく辛かった、しかし、
かけがえのない相手と過ごした最も輝いていた時」の記憶を胸に生きていく。

この映画を見ている時に、僕は自分の「花様年華」はいつだったろうと記憶を
探った。いや、正直に言うと、記憶を探らなくても、それは勝手に浮かび上が
ってきたのだったが……。

「あれが俺の最も輝いていた時だった」と思えることが、僕にもひとつはあっ
た。いや、規準を下げれば、もうひとつくらい増えるかもしれない。50年近く
生きてきたのだ。ひとつもなかったら、本当に哀しい。

若い頃の僕の口癖のひとつに「ぼくは二十歳だった。それが人の一生でいちば
ん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい」というポール・ニザンの言葉があ
った。当時、有名だったフレーズだ。

それと同時に僕はランボウの詩のフレーズをよく口にした。

──時よ、こい
  ああ、陶酔の時よ、こい

──ああ、心がただ一筋に打ち込める
  そんな時代はもう再びこないものか

その頃の僕には、人生で一番美しい時期、あるいは陶酔の時というものが想像
できなかった。いや、今から振り返れば、人生そのものが想像できなかったの
だと思う。「あれが俺の一番輝いていた頃だった」と思える時だって、今から
振り返るからそう思うのであって、その時は辛い時期だったに過ぎない。

人は「陶酔の時よ、こい」と願いつつ、陶酔の時に気付かずに過ごしてしまい、
過ぎ去った後で「心がただ一筋に打ち込める、そんな時代はもう再びこないも
のか」と悔やむばかりのような気がする。

「花様年華」には、最初と最後に詩のようなフレーズが掲げられている。エピ
ローグとして出る字幕は次のような意味であるらしい。

──男は過ぎ去った年月を思い起こす。
  ほこりで汚れたガラス越しに見るかのように。
  過去は見るだけで触れることはできない。
  見えるものはすべて幻のように、ぼんやりと……。

そう、過去は振り返れるが、もう二度と触れることはできないのだ。

しかし、「花様年華」の男女は、抑えに抑えていた想いを最後に堰が切ったよ
うに溢れさせ(もちろん、その表現は控えめで慎ましやかだったが)、一夜と
はいえ充実した「人生の時の時」を迎えたのだ。

だから男はアンコールワットの壁面の小さな穴にすべての秘密を封じ込めたの
かもしれない。封じ込めなければ、その後の人生を生きていけないほどの想い
が残ってしまうからである。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
雑誌編集者。黄金週間とは、昔、映画界が名付けた言葉だ。全盛時代のことで、
みんな映画を見に行った。今でも、それは生きているらしい。この時期の映画
館はみんな混んでいる。僕は混んだ映画館が嫌いなので、この時期は繁華街に
も近づかない。

昔書いた文章が「投げ銭フリーマーケット」に出ています。デジクリに書いた
文章も数編入っています。
http://www.nagesen.gr.jp/hiroba/

花様年華
http://www.shochiku.co.jp/kayounenka/

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■デジクリトーク インターネットの紆余曲折(6)
信じようと、信じまいと  <インド人解決編>

8月サンタ
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<前回までのあらすじ>
私、8月サンタは1998年4月、日本の紙加工用機械を、フィンランドに輸出する
手伝いをすることになった。ところが融資の段階でトラブルが発生し、仕切直
しのために関係者が日本に集まった。現れたフィンランドの発注者、Gはイン
ド出身の誇り高い男だった・・・。

●結局、どうなったの?

Gという男が実際に日本に現れて、つくづく分かったのは、この男にとってメ
ールというのは、ささやかな連絡手段の一つに過ぎず、我々に一日五通のメー
ルを欠かさず送ってきた一方で、フィンランドのオフィスでは一日中、電話・
FAXを使い、全ヨーロッパの連中と、なにやら交渉に明け暮れていたということ
だった。

Gの主張はこうだった。

・私はヨーロッパの見込み客を山ほど抱えている。また、この事業に関心を寄
せる投資家も数人、心当たりがある。機械が届いた場合の設置予定地も、人員
も確保した。ヨーロッパで機械を販売する場合には、CEマークというユーロ圏
内での認定証が必要になるが、これもフィンランドにおける私のコネでクリア
出来る自信がある。(※で、最初の一台を買う件はどうなったのか?)

・既にフィンランドの有名広告代理店ともコンタクトをとった。七月のヘルシ
ンキのショウに間に合えば、全ヨーロッパに大規模なキャンペーンが出来るは
ずだ。(※誰もそんなことは頼んでいない)

・銀行の件は不幸な事実だが、おそらくは頭取は、この業界での、最大勢力の
アメリカの某メーカーに圧力をかけられて、腰が引けているに違いない。私は
それを許すことが出来ない。地元新聞に告発する。(※で、結局誰がカネを用
意するのか?)

・私は十分に努力したし、この通り口座も設けて自分のカネを投資している。
(懐から取り出した通帳を振りかざして)ここには私の出資分のカネが入って
いて、銀行に担保として預けてある。銀行に誠意を見せている。なのに、銀行
は自分の投資分を出さないので大変に資金的に苦しんでいる。(何故、そんな
複雑なカネの流れになるのか)

以上のような話を展開、私は一流のセールスマンであり、銀行は不誠実で、私
はいわば被害者である。
「銀行が約束を守らないことで、私を避難するのはお門違いだ」
と主張した。

●見え透いた嘘の先に

日本側はがっかりだった。S製作所は派手な宣伝も、いきなり大量の機械を販
売することも、先の見えない大きな投資話も、望んでいなかった。

S製作所は別に焦ってはいない。自分たちの機械には自信がある。だから、フ
ィンランドのような、森林国にして高度な工業国のような国に買ってもらって、
まずは小規模でも良いから地道に運用し、自然に評判が上がるのを待つ、とい
うような商売を望んでいた。

そして、Gこそが、その小規模だが確実なパートナーとして、堅実な取引を始
めてくれると期待していたのだ。しかし話だけは接触するたびにふくれあがる
が、最初の融資の約束が、守られる気配はどんどん無くなっていった。

実は、Gの立場は、この話を皆の前でした時点で、ほとんどジ・エンドだった。
「大手メーカーから圧力がかかっている」という詐欺師の常套句を、よもや
まさか、外国人からも聞くことになる羽目になるとは思っていなかった。

自分のカネを犠牲にしている、という証明のつもりでフィンランドの預金通帳
を我々に見せたのだが、では残額を聞きたい、というと書面で申請して一週間
かかるという。実は私たちはGが来るまでに、まさにその銀行の駐日代表部に
東京で接触しており、そこのスタッフから、その銀行の口座の内容は全て、イ
ンターネットで世界のどこからでもリアルタイムで確認できます、と聞いたば
かりだった。(98年4月ということを考えると、それは先進のシステムだった)
Gのはったりは、数分でネットで確認することも出来たのだ。

そしてその銀行の駐日スタッフは、事態の概略を聞くと、大きく首を振って話
をしてくれた。
「フィンランドの銀行が、そのような約束破棄をする、という話を聞いたこと
がありません。私は本国のスタッフと、駐日代表くらいしかフィンランドの知
己がいませんが、彼らの特徴は一言で言って「飾り気がない」です。愛想笑い
はほとんどしないので、無愛想な印象ですけど、責任感が非常にあって、他の
欧米人より、余程日本人に近い存在だと思います。」

やはり最初の印象は、それほど間違いではなかったということだ。するとどう
考えても、Gが饒舌な説明の裏で、何か隠しているとしか考えられない。

●もうだめだと思ったが

今回のミーティングは、
・小さくとも、裏付けのあるきちんとした契約がしたい、
・出来ないのであれば、いったんご破算にする。
という日本側の要求に沿って行われた。ところが、Gの話は何から何まで裏付
けが取れない。私は訳しながら、もう駄目なんだろうと感じていた。

Gは最後に、今回の提案として、もったいぶって次のような話をした。

「私は新しいフィンランドの投資家を見つけてきた。彼らは最初の機械を購入
するのに賛成している。ついては日本のあなた方にも、その機械の代金の半額
を、投資してくれないだろうか」

信じられない、虫のいい話だ。S製作所はフィンランドの事業主ではない。只
のメーカーだ。それが、いつの間にか、フィンランドに機械だけでなく、カネ
まで出資させられる話にすり替わっていた。一番安い機械の半額を、フィンラ
ンドの新しい投資家が出すから、半分は出してくれ、というのだ。

ところが驚いたことに、S製作所の社長は、この提案を受け入れた。突っ込め
ばいくらでもぼろの出るGの話を、裏もとらず、その投資家と直接話をするこ
ともせず、ただ一言、

「今日決めたことを、ここで紙に書き、直ちに履行してもらいたい」
と告げた。

●大逆転のあとの大逆転

私は目の前で決められたことが信じられないでいたが、社長はその場で経理の
人間を呼んで送金を決め、弁護士を呼んで文書を作成した。

私は、これはGが目先のカネが欲しいためだけの、苦し紛れの提案なのだから、
S製作所のs社長の考えが、まったく理解できなかった。わざわざ小遣い銭をか
すめ取られる、マヌケな行為ではないのだろうか?

結論から言うと、この取り決めが行われてから数ヶ月後、大逆転が待っていた。

Gはずっと交渉をリードしてきたが、実はGの裏には、今回の取引をGに依頼し
ていた本当のスポンサーがいたのだ。それがGの会社のオーナーであり、Gはず
っと自分が雇われの身分であることを隠していた。

そして日本での取り決めはフィンランドの新しい投資家によって忠実に履行さ
れたのだが、それはこのオーナーにとって寝耳に水の話だった。その本当のオ
ーナーは、Gがどこからか資金を手に入れ、機械をフィンランドに持ってきた
ことの説明をGに求め、それで全ての事実が発覚した。

Gはそもそも昨年の9月に、フィンランドで融資の契約を取り付けたその後、日
本側に相談なく、自分にも別枠の融資をセットで要求していたのだ。それはG
の新しい営業用の車の予算であり、新しい事務所と家具一式、従業員用の福利
厚生用のサウナまで、それを全部「日本人が要求している」と頭取に伝え、融
資を迫っていた。

頭取は当然そのような話は聞いていない、融資は機械に対してだけだ、と返答
したが、Gは「日本人は機械が売りたいのではなく、この私、Gのセールス力が
欲しくてこの話を持ってきたのだ」と話をすり替え、執拗に、銀行にカネを貸
せ、と迫った。

その間、日本側には銀行はカネを出さない、あの頭取は信用できない、と言い
続けていたのだから、あきれた話だった。

本当のオーナーは、Gに日本の機械を輸入するよう命じたのに、気が付いたら
別の投資家に話を奪われていたことになる。そこでフィンランドでは投資家同
士の話し合いが行われ、そこでGの悪行が全て露見、話は改めて仕切直され、
フィンランドの地域振興の予算が投入された新事業が、銀行も参加の上で、再
スタートすることになった。

●信じようと、信じまいと

あとでS社長に詳しく話を聞いた。社長は日本から数名の従業員とともに渡欧、
現地でフィンランド人のスタッフたちと合流したそうだが、彼らは実に誠実に
仕事をこなす、理想的なパートナーだったという。また、事業が仕切直された
時点で、半額持った資金は全て返却されてきた。カネに関しても、クリアでク
リーンな連中だったという。機械は既に一億円以上のものが販売されており、
事業は順調に進んでいた。

Gは社長をクビになり、新事業の平のセールスとして再出発することになった。
私はGについてのことをS社長に聞いてみた。

「僕は、Gがどんな話を持ってこようと、彼をこの件からはずす意志は一切な
かった。信じようと、信じまいと、彼は今回の話の仲介者の一人なんだ。
それが一番大事なことで、こういうチャンスをつなげてくれた男を一方的に外
すようなことをすれば、誰が自分たちの誠実な代理人になってくれるだろう?

それが商売のモラルっていうもんだと僕は思う。そして君のお父さんも、だか
らこそ辛抱強くGとつき合っていたんだと思うよ。彼にも、Gを切るつもりは一
切なかったはずだ」

判っていなかったのは私一人だった。帰りの新幹線で、不覚にも涙が出た。
                              (つづく)
【8月サンタ】ロンドンとル・カレを愛する32歳
24日に英国政府観光庁主催の観光誘致ミッションに参加してきました。自分の
サイトで提携した、ロンドンの旅行会社の社長も来ていたのですが、待ってい
たのはMrパランという、インド出身の・・・
 帝国ホテル横のインド料理店で昼食をご馳走になりました。彼の家族は1922
年にボンベイをボートで脱出、アフリカで成功した後、1970年にアミン政権に
追われてまた着の身着のままで英国に逃げてきたんだそうで・・・
「インド人を笑うものはインド人に泣く」うわ~ん・・・
santa@londontown.to

ロンドン好きのファンサイト(この夏はロンドン行こう!)
http://www.londontown.to/

▼デジクリサイトの「★デジクリ・スターバックス友の会★」お越しやす~!
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■編集後記(04/27)
・メーリングリストなんかでのもめ事はいやだなあ。ネット世界では、なにも
そこまで言わんでも……(書かんでも、か)というようなこと平気でやちゃう
し、責めることには容赦ない。一番いやらしいのは、相手の書いたことの引用
だ。お前はこう書いていたじゃないか、これが証拠だ、てな具合。この世界に
はこの世界のベテランがいて、相手を責めるのがじつに巧みであげあしとりの
テクニックなど芸術的。責められたほうじゃたまったもんじゃない。パソコン
通信時代からの口舌の徒には絶対に勝てない(でも、会って話すとすごいわか
りやすい人だったりして)。ネット社会は人格を歪ませるのか。話が不毛に導
かれそうだったらさっさと打ち切るしかない。ひま人には勝てない。(柴田)

・「花様年華」見てみたい。十河さんのコラムを途中で読むのをやめた。神田
さんの「ハンニバル」も。すみません、私の校正甘いです。以前「ダンサーイ
ンザダーク」がMLで盛り上がっていたが、これまたサブジェクトだけで中身は
読んでいない。そう、いつかは見るつもりなの。見たい映画はいっぱいあるの。
この休みで少しは潤いを取り戻すぞ!          (hammer.mule)

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編集長     柴田忠男 < mailto:tdo@green.ocn.ne.jp >
デスク     濱村和恵 < mailto:zacke@days-i.com >
アソシエーツ  神田敏晶 < mailto:kanda@knn.com >
        森川眞行 < mailto:morikawa@siliconcafe.com >

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