[1046-2] ある日、私はFlashを始めた

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.1046-2    2002/03/13.Wed発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 20394部
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 <そして足元はオーダーメイドのインディアン型革靴です>

■デジクリWEBデザイン研究室
 ある日、私はFlashを始めた
 北岡久美子

■デジクリトーク
 コールタール感触。
 白石 昇

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 ニューヨーク縦横無尽、ライターAkicoの1週間の旅が
 ウェブマガジン「バジリコバジリコ」にて好評連載中



■デジクリWEBデザイン研究室
ある日、私はFlashを始めた

北岡久美子
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イラストレーターにとって、アニメーションとは永遠の憧れだ。

普段私は、四角に区切られた紙やモニター上のキャンバスの中に、決して動く
ことのない世界を描いている。いや、絵の中にも時間は流れている。水も流れ
ているし、風だって吹いている。正確に言うと、時間を切り取って紙(モニタ
ー)の上に映し出しているのかもしれない。

絵はしゃべらない。静止画の面白いところは、人の数だけ絵のストーリーが増
えることである。絵は教えてくれない。いくつかのヒントはあるが、見る側は
その制止したポーズから想像するしかないのである。

仕事の場合、見る側の想像を、ある程度導かなくてはならない。Webサイトの
アイコン(リンクボタン)などは、その小さな絵を見て、どこに繋がっている
のか理解できなくてはならないからだ(文字だけよりも、イラストが入ったほ
うが分かりやすい)。

しかし、オリジナルの作品の場合、絵が右を向こうが左を向こうが自由である。
展示会などで、他人(作者と)のふりをして何気なく絵の側にいると、いろん
な発見がある。何とか絵を理解しようと、描かれた部分のひとつひとつに理由
を付ける人。細かいことはいっさい抜きにして、好きだーとか、嫌いだーとか
一言で片づける人。自分が何を描きたかったのか、第三者の言葉でなるほどと
気づかされることもある(これは…私だけかな?)。静止画は面白いのである。

アニメーションは時間の流れが見える。泣きそうな少女は大粒の涙を流し、堅
く閉ざされていた扉は開かれて、部屋の中が見えて住人が挨拶までするのであ
る。見る側は想像している時間はない。考えている間に目の前の映像は流れて
いくのだから。

私にとってアニメーションは憧れだ。動かないはずの自分のキャラクターが瞬
きしたり、感情を表現する。難しい意味は何もなく、ただ単純に動くのが楽し
いのだ。だけど、自分はアニメーターになるつもりはない。アニメ世代の私に
とってあこがれではあるが、今からアニメーターを目指すのは無理というもの
である。

3Dでアニメーションもいいかもしれない。でも、これはひとりで作るものでは
ない(と、思う)。今では、私がもっとも使用度の高いソフト、Painterでも
アニメーションがつくれる。でも、もっとなにか簡単に遊べるものはないか?
そう思ったときに目の前にぶら下がったのが、Macromedia Flashであった。

●ソフトの使い方は仕事で覚える

UFOに載った犬(何でUFOで犬? と言う突っ込みは横に置いといて)を描いて、
回転させたり、大きくしたり、徐々に消えたりをしていた頃、私はあるWebサ
イトのグリーティングカードの仕事をすることになった。

仕組みは、送り手がカードを選び、コメントを記入して相手のアドレスを打ち
込み『送る』ボタンを押す。受取人には「○○さんからグリーティングカード
が届いていますよー」というメールが来る。そのメールに載っているURLをク
リックすると○○さんからのメッセージ付きのカードが見れるのだ。私はその
カードの制作を始めていた。

最初は静止画とGIFアニメで納品していたが、担当者から「Flashやりませんか
?」との声がかかった。やりたい。でも、回転や移動しか知らない。
私「まだ始めたばっかりなんですよー」
担当者「だいじょうぶですよー。教えますからー」

ソフトの使い方は仕事で覚えることを信条としている私は、こうして無謀とも
言えるアニメーションを作り始めた…。 (^ ^;;;)

グリーティングカードは始めにテーマが与えられる。「年賀状」とか、「バレ
ンタイン」とか、「母の日」などなど。そのテーマに沿ってイメージを作り、
場合によっては物語を展開していく。おおまかな絵コンテを描いて、それを元
にFlashでアニメーション化するのが、大体の流れである。

ご存知のように、Flashで作られたものは軽い。その軽いデータを、さらに軽
くするためにいろいろ方法がある。入れ子のグループ(グループの中にグルー
プがある)にしないとか、一つのムービークリップを何度も使うようにする、
とかである。そうは言っても、軽くなるようにいろいろ小細工しても、実際に
は逆に重くなっていることもある不思議なソフト。初めて作ったカードは100
KBをなかなか切れなかった(当時は100KB以下が基準だったのだ)。

その後、月2~3枚のカードというハイペースで作り続けた結果、実戦で大体の
ことは覚えたのである(感謝!)。

人の目は、動くものには魅かれる。猫は動くものをじっと目で追い、物体が止
まったら攻撃を仕掛ける。人は動くものをマウスで追いかけ、やたらクリック
攻撃を仕掛ける。クリックして、目の前のあるイメージが動き出すのはとても
楽しい。…人は猫以上に動くものに弱いのかも知れない。

いろいろと賛否両論あるけれど、私にとってFlashは夢を叶えてくれる宝箱の
ひとつだと思う。

イラストレーターの望むものは、小さなアニメーションなのだ。子供のころか
ら憧れていた動く世界なのだ。その小さなアニメーションが、いつの日かひと
つの形になればいいなぁ…と夢は抱いているけれど。

【きたおか・くみこ】kitaoka@air.linkclub.or.jp
大阪人イラストレーター。1999年、ディジタル・イメージに参加。painter、
Flash、Expressionを主な画材として、広告・Webにて、静止画・動画を制作中。
ソフトがバージョンアップするたびに悩んでいる。頭がついていかない。小さ
な変更でも、私にとっては大問題の時もあるのだ。最近はよ~く確かめて、バ
ージョンアップするかしないかを検討する。Flash MX。楽しみだけど不安です。
http://www.linkclub.or.jp/~heel-toe/

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■デジクリトーク
コールタール感触。

白石 昇
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白石昇です。あけましておめでとうございます。中国正月です爆竹うるさいで
す。そしていろいろな形で応援の御言葉有り難うございました。
 
今回は前回に引き続き昨年十二月二十日時点での報告です。前回までのバック
ナンバーはここ↓です。
http://hp.vector.co.jp/authors/VA028485/shiryou.html

なにしろ相手はいわゆる超大物なのです。

そして、自分が演出する舞台のオープニングテーマで、

♪でもタイにいられないことだけはわかっている、政府に飽きたんだ♪
 
という前衛テイストな歌詞を書き、アタクシが訳している本の最終章において
も、
「俺は他人からどうやったら金持ちになれるかよく聞かれるけど、一度も謙遜
なんかしたことはない。誇りを持って、ああ金持ちです凄く裕福になりました、
と答えている」
と書いてらっしゃるほど不可思議な強気さを持つ、主体がきっちりと確立され
た表現者なのです。
 
まあ、翻訳するくらいなのですからにアタクシとってはもちろんなのですが、
実績だけを見てみればそんな著作者の表現がこの国で大多数の国民に一流だと
認知されているのは間違いありません。
 
その表現者のアシスタント氏と今、アタクシのとなりの運転席でハンドルを握
っている友人が、携帯電話で会話しているのです。
 
そうです。著作者の事務所の場所がよくわからないのです。車はなんかよくわ
からないまま住宅街に入ってしまっているのです。
 
携帯電話を切った友人がその住宅街の道脇に書かれている番地を確認しながら、
このへんだよ、と言って車を停めました。停めた場所には普通の住宅以外何も
ないのです。いわゆる紋切り型事務所的な建物はなにひとつないのです。友人
は 、ほんとにここなのだろうか、と言うような表情をしています。
 
しかし、車を停めた向かいの家から、興味深そうにこちらを見ていた男性がい
ました。手にはラーメンのどんぶりを持っています。藤子(F)不二雄の漫画
に出てくる小池さんみたいなたたずまいです。その家には中国語で大きな看板
が出ています。
 
ここだよ、間違いない、アタクシはそう友人に告げました。確かにそこは庭が
あって一台分の駐車場がある、パッと見には事務所だとは思えないただの家な
のです。友人が不思議そうな顔をしているのも無理はないのです。
 
でも間違いないのです。アタクシはその小池さんが電話で何度か話したアシス
タント氏だと確信しました。アタクシは彼の顔を見たことがあったのです。著
作者が製作した舞台のヴィデオで。
 
映像の中でこの小池さんは、舞台裏からとても大事なものをカートに乗せて運
んでくるという重要な役割を担っていました。だから、かなりの責任を担った
マネージャークラスの立場の人だと思います。それに、著作者が何冊も本を出
している出版社の書籍レーベルロゴが書かれたTシャツを着ています。

どこから見てもクロです。
 
とりあえずアタクシはサングラスをかけたまま車から降りました。十四年穿い
ているジーンズにボブ・マーリィがプリントされた黒いTシャツという格好で
す。そして足元はオーダーメイドのインディアン型革靴です。
http://www.geocities.co.jp/Hollywood/2444/n121114.html
(靴に関する参考資料↑。別に見なかったからといって不眠症になったりはし
ません)

ええアタクシ的にはこれ以上ないほどのよそゆきなよそおいなのです。
 
そんなよそおいに身を包んだアタクシに気づいたラーメン男性があたしを見て、
ああこいつだ、というような表情をなさいます。アタクシはサングラスを外し
入り口を通って庭に入るとその人に、はじめまして白石昇です、と合掌を伴っ
た挨拶をしました。

至近距離で見るとどんぶりの中にはスープが入ってませんでした。汁なし蕎麦、
というヤツです。おそらくさっき住宅街の中で見かけた屋台で買ったものなの
でしょう。
 
友人は狐につままれているような表情をしたままアタクシの後からマネージャ
ー氏に挨拶をします。友人の頭の中には、著作者が製作した舞台の観客動員数
やヴィデオ、関連書籍の派手な売れゆきなどの世間的事実があるのでしょうか
ら、こんな普通の住宅を事務所にしている、という目の前の現実がにわか信じ
がたいのでしょう。無理もありません。
 
しかし、この八ヶ月間、著作者が記したぐるぐると曲がりくねった泰文字の文
章を毎日チマチマと解読して、ほとんど洗脳状態で著作者の美意識を頭に刷り
込まれるハメになったアタクシからしてみれば、事務所のこのフツーっぽさは、
すごく納得がいくものでした。
 
アタクシと友人は家の中に招き入れられました。そして、著作者の美意識を十
二分に反映させたシンプルな応接テーブルとソファに座りました。家の奥には
何台かのパソコンがあり、何人かの方が作業をされていますが、基本的に室内
は著作者の美意識を反映されたものに満たされています。
 
彼はここに住んでるんですか? 友人がミーハー根性を丸出しにして、マネー
ジャー氏に聞きます。今仕事が忙しくて疲れているのでまだ上で寝ている、と
マネージャー氏は頷きながらそう答えます。

アタクシはすぐさま立ち上がり、階段を駆け上がって著作者をたたき起こし、
 
コラおどれ辞書に載ってないようなスラングと潮州語満載でたまに文法無視し
た文章織り込んだこんな本書きよって翻訳する立場になってみいオラ儂が収入
もなく八ヶ月も引きこもるハメになったのはお前のせいやわかっとんのかコラ
ああああ、
 
と激しい河内弁で蹴り込んでやりたい衝動に四秒ほど駆られましたが、そのま
まおとなしくマネージャー氏と話をすることにしました。
 
印税の配分は七三じゃなくて是非五分五分でやりたいと著作者は言っている、
いきなりマネージャー氏はそう言います。当然ラーメンを食いながら。

なんだこの意表を突いた申し出は?
 
アタクシは謎にまみれたままとりあえず、誰か知ってる日本人にアタクシが送
った翻訳のサンプルを見せたのですか? と聞いてみました。アタクシが送っ
たサンプルは確かに日本語としては何とか意味は汲み取れますが、日本語の文
章としての品質はまだあまりいいとは言えません。
 
マネージャー氏は、見せてません著作者はあなたに翻訳して貰えると言うこと
をすごく喜んでいるんです、と堂々とお答えになりましたラーメンを咀嚼しな
がら。

なんだこの根拠なき大好感触は?
 
更に謎にまみれまくりです。アタクシはワケが分からずクラクラしてましたが、
五分五分はイヤだし自分にとってラッキーナンバーだから、と言う理由で自分
の印税取り分を四割にして貰いました。
 
ただ、舞台の準備で忙しいので出版社との交渉に関してはこちらが手を貸すこ
とは出来ないですまかせちゃいますからそっちの方で勝手にやっちゃって下さ
い、とようやくラーメンを食べ終えたマネージャー氏がそうおっしゃいました。

なんだこの全権委任は?
 
アタクシは謎というコールタールの中に首までどっぷりと浸かりながらクラク
ラした頭を何とか冷静に戻そうと、自分が耳で聴いているマネージャー氏が放
った言葉の意味を取り違えていないか何度も頭の中で咀嚼し直してみましたが、
どう解釈してもそこに放たれた泰語はそのままそういう意味なのです。
 
アタクシの真正面に座っている友人は、よかったねー、と言うようないかにも
育ちが良さそうな笑顔をアタクシに投げかけてきます。
 
いいんですかそれで? あたしが何度もマネージャー氏に視線を移し心の中で
念波を送ると、マネージャー氏は、無表情に満腹感を加味したような表情をし
ながら時折微笑みを携えて頷かれます。
 
なにひとつ問題を含まない穏やかな空気の中でひとりだけ困惑していると、軽
やかに階段を駆け下りる足音が聴こえてきて、アタクシたちがいる応接セット
の方に人影が近づいてきました。

著作者でした。                       (つづく)

【しらいしのぼる】noboru@geocities.co.jp
言語藝人。昭和44年5月1日長崎県西彼杵郡多良見町生まれ。『抜塞』で第12回
日大文芸賞を受賞。

公式サイト
http://www.geocities.co.jp/Hollywood/2444/
今年の日記
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藝道日記メールマガジン ↓
http://www.geocities.co.jp/Hollywood/2444/mailmagazine.html

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JFKは成田より遠い!

NYまでの12時間をどうやって過ごすか、チープな私は日頃高くて行けない映
画をここぞとばかりに全部観る。が、座席のオーディオ装置が故障で映画の音
声が聞こえない。文句を言うと1000ボーナスマイルの券をくれた。ラッキー。
災い転じて福となす。これが後で役に立ったのだった。しかし我ながらうるさ
い客だ。そこで、タダの赤ワインを飲んで酔っ払い、その勢いで眠りに雪崩れ
込む事にしたが、どうも最近腕が落ちて(何の腕だ?)小瓶二本以上は頼めず、
酩酊も仮眠もできず、フライト(flight)ではなくfright(恐怖)の12時間だ
った。<続きは www.basilico.co.jp/ へゴー!>

短期集中連載[ニューヨーク7泊、航空費・滞在費オール込10万円の旅!]

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発行   デジタルクリエイターズ <http://www.dgcr.com/>

編集長     柴田忠男 
デスク     濱村和恵 
アソシエーツ  神田敏晶 

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