[1129] 傷つく人々=傷つける人々

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.1129    2002/07/19.Fri発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 21274部
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     【デジクリは「メディア規制三法案」に反対します】

■デジクリトーク133
 傷つく人々=傷つける人々
 十河 進

■金曜ノラネコ便
 節煙のススメ
 須貝 弦

■展覧会案内
 石川浩二「100ぴきのいぬがかえる本」出版記念個展

■セミナー案内 無限ループセミナー'02 #002
 カラーコーディネータが教える色の組み立て方 WEBデザイン配色のポイント



■デジクリトーク133
傷つく人々=傷つける人々

十河 進
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●加害者であり同時に被害者でもある悲劇

作家は妻の浮気を知り、子供たちを連れて家を出る。食事の後、映画館で時間
をつぶす。しかし、自宅に電話しても妻が出ないのをいぶかり、映画を途中で
切り上げて帰宅を急ぐ。土砂降りの雨の夜だ。彼は苛立っている。

彼はいつも自宅の前の坂道をライトを消して疾走し駐車場まで一気に走り込ん
でいた。その夜も、彼は後部座席にいるふたりの息子たちの「まるで水の中を
走っているみたい」という言葉に促されて、ライトを消し浮遊感を感じながら
駐車場へ走り込む。

妻は夫に浮気を知られたために相手である教え子に電話で別れを告げるが、彼
は承知しない。教え子は車で自宅にまでやってくる。彼女は「帰ってくれ」と
懇願する。教え子は自分の車の中に彼女を乗せ、ある行為をしてくれと言い出
し、それをやれば帰ってもらえると思った彼女は彼の要求に応える。

その結果、教え子と妻のオーラルセックス中の車に夫の車が追突し、主人公と
妻は怪我をし、長男は片目を失い、次男は死ぬ。妻の浮気相手だった大学生は、
ペニスを3分の2ほど噛み切られてしまう。

これは悲劇か、喜劇か。こんなシチュエーションを考える作家は尋常じゃない、
と僕は思った。僕が読んだ範囲でのことだが、ほとんどの作家の想像力は僕の
理解を超えることはなかった。しかし、この作家だけは頭の中を覗いてみたい
と思う(他には、デビュー当時の筒井康隆くらいしか思い付かない)。

主人公の身になれば、救いようのない悲劇である。妻の裏切りを知った衝撃、
その肉体的な行為を目の前につきつけられた時の癒しようのない嫉妬、同時に
愛する子供を失った絶望的な悲しみ。憎しみをぶつける加害者もいない。いや、
加害者は自分であり、同時に被害者でもあるのだ。

ジョン・アーヴィングのベストセラー「ガープの世界」は1982年にジョージ・
ロイ・ヒル監督によって映画化され、ガープをロビン・ウィリアムスが演じた。
母親を当時30歳そこそこのグレン・クローズが演じ、映画界にデビューした。
ガープの妻を演じたのはメアリ・ベス・ハートだ。彼女はウッディ・アレン監
督作品「インテリア」(1978)にも出ていて、僕の好きな女優さんである。

アーヴィングは「オウエンのために祈りを」(1998年に「サイモン・バーチ」
というタイトルで映画化された)では、病気で躯が成長しないけれど野球が好
きな少年オウエンが生まれて初めて真芯で捉えた打球がファールとなり、親友
(彼が語り手で主人公だ)の母親を直撃して殺してしまうという設定を作品の
前半の核にして語る。

これも悲劇的なシチュエーションだが、ファールボールが当たって死んでしま
うということが、悲劇の中に喜劇的ファクターを忍ばせている。同時に両親や
クラスメイトたちによって常に傷つけられている存在のオウエンが、ある時、
人を傷つける存在になってしまうことを象徴的に描いた。

イノセントな存在などない。人は傷つき、傷つける存在なのだとアーヴィング
は言っているのだろうか。

●誇張したシチュエーションで人物たちは深く描き込まれる

誰かが「ジョン・アーヴィングの小説は壮大なほら話」と書いていたが、確か
にそうだと僕も思う。しかし「壮大なほら話」だとしても、彼は現実をほんの
少し誇張するだけであり、もしかしたらあり得るかもしれないというリアリテ
ィはなくさない。

誇張したシチュエーションによって、登場人物たちはより深く描き込まれるし、
要素を凝縮することで「人間たちが生きている世界」を現実以上に明確な輪郭
で描き出すのだ。

その手法を彼は初期作品の「ガープの世界」ですでに確立している。「ガープ
の世界」がベストセラーになった後、処女作の「熊を放つ」が村上春樹さんの
訳で出版されたので僕も買って読んだのだが、「ウーム」と唸り腕組みする他
なかった。確かに才気は感じたのではあるけれど……。

僕が読んだアーヴィングの小説は「熊を放つ」「ガープの世界」「ホテル・ニ
ューハンプシャー」「オウエンのために祈りを」であり、「サイダーハウス・
ルール」(アーヴィング自身が脚色した)は映画しか見ていない。最も印象深
く残っているのは、小説なら「ホテル・ニューハンプシャー」であり、映画は
やはり「ガープの世界」だろうか。

「ガープの世界」には魅力的なキャラクターがいろいろ登場するが、中でもガ
ープの親友になる元NFLイーグルスのタイトエンドだった女性(?)ロバータが
素晴らしい。こういうキャラクターを創造してしまうところも、アーヴィング
が作家として尋常じゃない証拠である。

このロバータを演じたのが、大男の俳優ジョン・リスゴーだった。ジョン・リ
スゴーは顔の真ん中に目鼻などのパーツが集まった感じのしゃくれ顔(室田日
出男に似ている)で、絶対に女装が似合わないと思うのだが、なぜか「ガープ
の世界」を思い出すたびに真っ先に浮かぶのが女装したジョン・リスゴーのロ
バータなのだ。

看護婦であるガープの母親は肉欲を否定し子供だけが欲しくて、入院中の瀕死
の兵士と交わりガープを妊娠する。その兵士はテクニカル・サージャント(技
術軍曹)だったので、息子にT・S・ガープと名付ける。彼女は、男と肉欲を否
定して生きてきた人生を本に書いてベストセラーになり、それはフェミニスト
たちのバイブルになる。

金持ちになった彼女の所には、男たちによって(男中心の社会によって)様々
に傷ついた女たちがやってきてコミューンを形成する。男に触れられただけで
錯乱する女、11歳の少女が男二人にレイプされ証言できないように舌を切り取
られた事件に抗議して、自らの舌を切り取る運動を展開している女たちなどが
いる。

ロバータもそのコミューンにやってきたひとりだ。彼女は性転換者である。20
年前、映画の公開当時はジェンダーという言葉は一般的ではなかったが、現在
なら性同一性障害(GID)と呼ばれるだろう。

●常に悲劇的で悲哀感が漂っている物語

「ガープの世界」は喜劇的なシチュエーションでストーリーが語られていくの
だが、そこで語られるエピソードは常に悲劇的であり、悲哀感がどこかに漂っ
ている。

特に後半、母親の家に集まってくる女たちは皆、何かによって傷ついた存在だ。
しかし、傷ついた結果、彼女たちはどこか精神的にいびつになり、狂信的であ
ったりする。男を排除し、女たちだけの世界を夢見ているのかもしれない。

11歳の少女が男二人にレイプされ証言できないように舌を切り取られた事件に
抗議して、自らの舌を切り取る運動を展開している女たちは、その被害者の女
性(すでに大人に成長し、誰も知らないところで暮らしている)から「自分の
ために舌を切るなんていう抗議行動はやめてほしい」という手紙をもらうが、
みんなで話し合い(もちろん筆談だが)運動の継続を決める。

だが、傷ついているのは女たちだけではない。自分の運転する車で事故を起こ
し、次男を失い長男を片目にし妻に愛人のペニスを食いちぎらせてしまった男
は、どうすれば再生できるのだろう。どう気持ちを整理すれば、妻と再び愛し
合えるのだろうか。彼に救済はあるのだろうか。

母親が生殖のためだけにただ一度性交し生まれた子であるガープは、作家とし
て現実の世界で様々な受難に遭う。おそらくアーヴィングは、ガープを処女懐
胎によって生まれたキリストになぞらえている。傷ついた人々、そして傷つい
た人々同士の敵対と闘争。なぜ、人々は愛し合えないのか? ガープの受難は
そのことを問いかける。

母親が凶弾に倒れ、その葬儀は女たちだけの出席で執り行われるのだが、ガー
プはロバータの手引きによって女装して参加し、狂信的な女に見破られて糾弾
される。その時、ひとりの女性が彼を救い出すのだが、彼女こそがふたりの男
にレイプされ証言できないように舌を切り取られた女性だった。

狂信者たちは世界を狂わせる。自らを正義と確信する人間たちは、敵対するも
のを滅ぼそうとする。フェミニストたちの象徴として尊敬されていたガープの
母親が狙撃されたように、狂信的なフェミニストによってガープ自身にも最後
の受難の日がやってくる。

人々はなぜ理解し合えないのか? 傷ついた人々は、ある時、他の人間を傷つ
ける存在になる。傷ついた人々が常に被害者であり受難者であるという描き方
は幻想にしかすぎない。誰をも傷つけないイノセントな存在など、どこにもな
いのだ。

人は自分が傷つくことには敏感だが、他人が傷つくことには救いがたいほど鈍
感だ。人間は不条理な生き物だ。世界は不幸に充ちている。運命は理不尽だし、
世の中は残酷だ。不幸で心優しい者たち同士で傷つけ合い、暴力は常に傍に存
在している。

しかし、そんな風に世界を描きながら、アーヴィングの小説を読み終えた時、
なぜか、気持が明るくなっているのに気付く。おそらくアーヴィングの小説の
基調に「救済」があるからだ。どんな悲劇的な状況であっても、ユーモアを感
じさせるアーヴィングの語り口からは救いを感じるのである。

──過酷な世界で徹底的に傷ついたとしても救済はある。きっとある……。
アーヴィングが創り出す物語は、すべてそう語っているように僕には思える。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
雑誌編集者。久しぶりに飛行機に乗った。気流が悪くて揺れるという機長の予
告通り、かなり揺れた。横揺れは平気だが、縦に揺れる(急に墜ちる)のはカ
ンベンして欲しい。一時間の飛行だったけれど、それが限度。以前、沖縄から
の帰り、2時間半かかった時は「降ろしてくれ~」と言いそうになった。

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■金曜ノラネコ便
節煙のススメ

須貝 弦
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ライターや編集者、デザイナーが、タバコをくわえつつ頭をかきながら原稿執
筆したり校正とニラメッコしたり、アイディアをメモにとってみたり、眠い目
をこすりつつデータに修正を加えたり……というのはよくある情景である。お
そらく今でも多くの出版社やデザイン事務所で、ゆらゆらと煙が立ち上ってい
るだろう。

しかし近年私は、タバコの量がすっかり減った。もともとそんなにたくさん吸
うわけではなかったが、いちばん多いときは2日で1箱ほど吸っていた。むかし
勤めていた会社はデスクで喫煙が許されていて(そういう時代だった)、気弱
な(?)私はときどき周囲に「吸ってもいい?」と声をかけてから吸っていた。

タバコが減ったいちばんのキッカケは、転職した会社がデスク禁煙だったこと
である。給湯室などで吸う分には許されていたのだが、デスクを離れて吸う=
仕事していないワケで、気分的にはそうしょっちゅうタバコ休憩をするわけに
もいかない。となると、2日で1箱だったのが、とりあえずは3日で1箱くらいの
ペースまでは落ちる。

そもそも、2日で1箱とか3日で1箱とか言っているくらいなので、(喫煙者の中
では)喫煙量はそう多くない部類だ。私の喫煙量がそれほど増えなかったのは、
まず自宅を禁煙にしたことが奏功していると思う。そこにデスク禁煙が加われ
ば、量が減るのは当然だ。

少し喫煙量が減らせると、もう少し減らそうと思うようになる。私の場合はハ
ナッから(どういうわけか)禁煙しようとはまったく思っておらず、ただ量が
減ればいいと思っていた。ムリして禁煙しようと思うよりも、むしろそのほう
が気楽だし、何年か習慣的にやっていたことをパッタリやめるなんて基本的に
はできっこない性格なのだ、私は。

じゃぁ、もうちょっと減らすためにどうすればいいか。自宅禁煙に続いて導入
されたのが、飲み会のとき以外の食事中禁煙。「飲み会のとき以外」としたこ
とに何の根拠もないのだが、ひとまず食事の前後などの一服は、控える。これ
で、4日で1箱くらいのペースまで落ちる。

よし、もう少しやってみようか……ということで「歩行禁煙」「電車待ち禁煙」
「ドトール禁煙」などを導入することとなった。とくにドトール禁煙、タバコ
買ってドトール行くくらいならスタバ行け! 作戦はなかなか有効で、ここま
でくると1箱が1~2週間は持つようになってくるのだ。まったくタバコを吸わな
い日が出てくるようになるし、吸っても1日の喫煙量が2~3本くらいで落ち着く
ようになる。

それでも私は、どういうわけかタバコを完全に絶つところまでは至らない。今
でも、深夜のデニーズで仕事が行き詰まったらフーッ一服するし、みんなで飲
みにいったときは(きっとまわりが吸うせいもあるが)やっぱり吸うし、たま
にドトール禁煙を破ったりもする。

でも、ここ3日は吸ってない。ある意味私は、おかしな人間なのだろう。今で
は私のことを非喫煙者だと思っている人のほうが、圧倒的に多いくらいだ。

●今週の画像:それでも私は。
http://www.macforest.com/dgcr/021.html

【すがい・げん】sugai@macforest.com
私が今までの人生の中でもいちばんタバコを吸ったとき、とはいえコレだけは
絶対にやらないし、やってる人間が許せないということがあった。それは、雨
の日の駅のホームでの喫煙+缶コーヒー。いくらなんでも、これほどの悪臭コ
ンビはないぞ。

・週刊Mac使い on the Web(最近は自転車部がメイン?)
http://www.macforest.com/

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■展覧会案内
石川浩二「100ぴきのいぬがかえる本」出版記念個展
http://www1.odn.ne.jp/koji/
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会期 7月22日(月)~31日(水)日休 12時~19時(最終日は17時まで)
場所 K.S.ギャラリー原宿
   渋谷区千駄ヶ谷3-62-1 Tel.03-3470-7337
地図:http://www1.odn.ne.jp/koji/new/20020617.html
(JR原宿駅竹下口から2分、地下鉄千代田線明治神宮前駅2番出口から3分)

この7月9日に出版する「100ぴきのいぬがかえる本」(いしかわこうじ著、学
研刊)の出版記念の個展です。この本は、私が創作した犬のペーパークラフト
(ペーパ ーわんこ)の展開図と、パリ、ベルギー、イタリア、香港、ハワイ、
東京などで私自 身が撮影したペーパーわんこの写真を楽しめる、新感覚絵本
です。

ペーパーわんこは、ハサミで切り抜いて簡単に組み立てることができ、戸棚や
パソ コンモニターの上などで「飼う」ことができます。今回の個展では、組
み立てたペーパーわんこの他、本には未掲載のペーパーわんこ秘蔵写真も出品
します。さらに、この本に登場したわんこをモチーフにした、新作デジタル絵
画も展示します。

会場のK.S.ギャラリー原宿は、並木道にウィンドウが映える素敵な画廊で、昨
年もここで個展をさせていただきました。作家は、会場に毎日いる予定です。
「100ぴきのいぬがかえる本」の他、オリジナルプリントフォトとデジタル絵
画の限定販売もいたします。どうぞお気軽に、遊びにいらしてください。
                             (石川浩二)

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■セミナー案内 無限ループセミナー'02 #002
カラーコーディネータが教える色の組み立て方~WEBデザイン配色のポイント
http://www.mugenloop.com/seminar.html
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切り貼り実習などで色の基礎を学び、色の心理効果を考えるセミナー。実践WE
Bサイトサンプルの解説も行う。またセミナー終了後18:30より交流会も開催。
交流会だけの参加も可能。(会費\3,000~3,500)

講師 坂本邦夫氏 (Color de Fortuna 代表)
   ※実習で使用しますので、糊を各自持参してください
日時 7月20日(土、祝) 14:30開場、15:00スタート、17:30終了
会場 WAO!大阪校
   http://www.dccwao.com/statics/school/map/08.html
参加費 1,500円(消費税込) 定員35名
    <領収書の必要な方は、申し込み時にお申し出ください>
問い合わせ info@mugenloop.com

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■編集後記(7/19)
・昨日のつづき。驚きました。昨日の「読書犬ハニー号」が一挙に読者数をの
ばし、突然ベスト10入りしました。現在29ある日記の中で、今まで低迷してい
たようですから、これは快挙です(この情報は非公開ですけど)。オールアバ
ウトの日記プロジェクトに参加し、まあ読書記録のつもりで選んだテーマでし
たが、毎日1冊読めるはずがない。ノンジャンルにしたらよかったと後悔。け
っこう大変です。でも、1回好成績を残すと欲が。またアクセスして。(柴田)
http://allabout.co.jp/diary/virtualbeauty/

・戸川京子さん。悲しい。                (hammer.mule)

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発行   デジタルクリエイターズ <http://www.dgcr.com/>

編集長     柴田忠男 
デスク     濱村和恵 
アソシエーツ  神田敏晶 

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