[1201] 網民音楽革命宣言

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.1201    2002/11/19.Tue発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 21293部
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           <九十一万五千九百九十一!>

■デジタルサウンズ研究室
 網民音楽革命宣言
 モモヨ(リザード)

■web bau -蜘蛛の糸から理念を紡ぐ-09
 伝えたいことは何?(2)
 UZ



■デジタルサウンズ研究室 
網民音楽革命宣言

モモヨ(リザード)
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まず、以下のURLのページを見て欲しい。

http://artists.mp3s.com/artists/78/atp.html

これは、ATP(Adenosine Tri-Phosphate)というバンドのmp3.comページのも
のである。ここで注目していただきたいのは、ページ左側のアーティスト写真
の下にあるTotal Playsという欄に掲げられた数字である。この原稿を書いて
いる11月17日現在、915,991と表示されている。

これは、このアーティストの曲が、これまで合計で、ダウンロードされるか、
Hi-Fiでプレイされるかした回数だ。この数字をクリックすると、

http://artiststats.mp3.com/artist_stats/78/atp.html

このページに跳ぶ。

こちらは、このアーティストの曲が、毎日、どれぐらいダウンロード、あるい
はHi-Fiプレイされたかを一覧表示している。しかし……、

915,991!

九十一万五千九百九十一!

これは、どこから見ても驚異的な数字である。

mp3.comといえばワールドワイドな音楽配信サイトであり、その最大のものと
して知られるが、このサイト全体を見ても、これほどの実績あるアーティスト
は幾人もいない。それほどの成果である。

そして何よりも驚くべきは、このATPが日本の、それも東京のバンドだという
ことである。

皆さんは、このバンドを知っていただろうか?

私は、ここであえて問いたい。

皆さんは彼らの業績を知っているだろうか? 音楽雑誌などで、彼らの名前を
見たことのある人、このmp3.comでの活動を伝えているのを見たことがある人
はいるだろうか?

いや、答えは、すでに、わかっている。

デジクリを読んでいる方々は皆それぞれインターネットを利用しているはずだ
し、自ら作品を生み落としもする方々であろう。であるならば、ネット上のど
こかで、ATPの名前を見知っているかもしれない。しかし、活字の側、ことに
音楽系の雑誌は、いまのところ沈黙したままでいる。雑誌等のメディアで彼ら
の奮闘を伝えた記事は、掲載されたためしがない。

あるいは、ウェブなどでATPの活躍を目にした人々も、メディアが伝えない以
上は、ここに記載された数字には裏があるもの、トリックのあるものと考えて
しまっているのかもしれない。

そもそもネットユーザーであれば、サイトのアクセス数やヒット数などで、い
いかげんな自慢話を耳にするから、よけいに感覚が麻痺している。アクセス数
何十万といわれても、実際のところ、デザインが凝ったページだと、トップペ
ージに一回アクセスしただけで多数のファイルを参照する仕組みになっている
し、検索エンジンが走らせているロボットもかなりの数に登るだろう。実際の
ところ、ユニークなユーザーを正しくカウントすると、かなり悲惨な数字にな
る。そういうサイトは多いだろう。

ウェブに関わっている人なら皆、このことは思い知っているはずだ。で、この
数字にもそうしたトリックがあるのかもしれない、そう考えるのは無理からぬ
ことなのである。

しかし、mp3.comというところは、トップページにバナー広告が掲載されてい
ないアーティスト(プレミアムサービスを受けているアーティスト)の場合、
そのダウンロード数に応じて、サイトはギャラを支払う仕組みになっているの
で、カウントもかなりシビアだ。

IPアドレスを変えて自分の曲をダウンロードしまくって荒稼ぎをしたり、友人
等と語らって一つのステーションに曲をまとめて、それを一日中メンバー全員
でプレイしてダウンロード数を稼いだりと、これまで幾度もそうした被害にあ
っているmp3.comである。今ではカウントのシビアさも尋常ならぬものと化し
ている。IPアドレスが近しいところからのアクセスでは、二日間の間に幾度ダ
ウンロードしても一度のダウンロードしか認めない仕様になっている。

このような状況下で、ATPの場合、毎日、500から1000のダウンロード数を稼い
でいるのだ。これは大変なことなのだ。

しかし、音楽業界は、それを無視している。

この驚異的な数字を彼らが認めようとしない理由については推測で語るしかな
いが、私の経験を元に言わせて貰えば彼等は怖がっているように思う。

mp3.comとかこれに類似した音楽配信サイトに対して、我が国の音楽産業が故
のない敵愾心を燃やすのも同じ理由だ。変化を恐怖しているのだ。旧態然とし
た著作権管理や芸能プロダクションシステムに執着する人間にとって、インタ
ーネットは邪魔な存在としか映らない。そういうことである。

断っておくが、私が言いたいのはATPの音楽を認めるべきだとか、そういう話
ではない。彼らがどのようなバンドであっても、どのような音楽家であっても、
まずこの数字は認めるべきではないか、そう言っているのである。問題なのは、
海外のメジャー音楽配信サイトで孤軍奮闘している彼らを、同じ日本人である
音楽雑誌が平気で無視しているこの現状である。

歴史を捻じ曲げ、現実を捻じ曲げ、どこまで時代を欺きつづけるつもりなのか、
今一度、音楽評論や音楽雑誌の姿勢を問いたい。

モモヨ(リザード)
http://www.babylonic.com/

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■web bau -蜘蛛の糸から理念を紡ぐ-09
伝えたいことは何?(2)

UZ
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●Webデザインのための議論

Webは勝手なメディアで、自分にだけ伝えるためのメディア、自己満足メディ
アとしても無料で気軽に使える。

でも、ものを作るということは、それ自体すでに何かを伝えたいという思いか
ら来ているのだ。Webサイトは、使いようによっては、どんなユーザーにも、
比較的共通な感覚を持って、何かを伝えることが可能だと思う。

・ユーザーは、自分で自ら探して見ている。
 すなわち受け入れ態勢ができている。
・全世界、どんな環境下でも、見ているシチュエーションが似ている。
 現状、大抵はPCやTVの前で、キーボードやマウスを操作しながら見ている。
・ユーザーの知識レベルや、前提となる経験が似ている。
 PCから取り入れられる情報を得たことがあるし、それで情報を得られると
 いうことを知っている。

だからこそ、デザイン(グラフィックや写真のイメージの他、サイト構成やコ
ンテンツ企画も含む)を起こす前に、もう一度考えなければ。誰が、誰に、何
を伝えるために、デザインするのか。

PCの前のユーザーには、目的がある。ただのきれいな絵を見たかったり、暇つ
ぶしをしたいなら、雑誌かTVを見ればいい。ゲームやFlash、3Dなどは少し別
だが、企業サイトや、もしくは日記サイトでも、それが誰かに伝えたい何かの
情報であるなら、伝えられるデザインにしなくてはいけない。

そう考えると、まずサイトを作るというときに、誰が誰に何を伝えたいのか、
の議論なくして、デザインは起こせない。

ブランドイメージは、順番としてデザインから考えるものではない。ブランド
とはその企業が、企業活動を行う動機の根本なのだ。「BMWみたいなIT企業を
作りたい」というコンセプトを立てたからといって、「色はシルバーで、文字
は太くて...」とデザインに直結するのはおかしい。

何を表したくて、色をシルバーにするのか。すべてにおいてコンセプト、対象
者、効果の3点について説明がつかないデザインは、デザインではない。デザ
インの前段として存在するコンセプトに対しての議論が足りないと考えるべき
かもしれない。

もちろん、デザインが完成してからも、伝えたい内容は刻々と変化する。変化
のタイミングで、その意思に沿うように見直しを加えていく必要はあるだろう。

●伝わる議論の基盤を作る

伝えたいことは何か、という議論をするためには、それ以前に互いの意思を伝
え合うための、議論の場を作る必要がある。表現には理由があり、理由を追求
するにはその場所があり...ああ遡り人生である。

しかしこの議論の場、互いの意思を伝え合うための前提や共通認識がない場合
が、よくある。これなくして進むと、なにが原因で議論がまとまらないのか、
よくわからなくなり、核心で議論はループするだろう。

この共通認識の必要性を痛感する出来事があった。

昔自分が聞いていた、英語のヒアリングテキストで、恋人同士が喧嘩をして、
最後に仲直りする、というトピックがあった。
 Jane「どうして解ってくれないの?」
 Pole「解らないなんていってない、僕はただ君のことを思うあまりに...」
みたいな話。最後に
 Pole「僕がわがままだったんだ。ごめんよ」
 Jane「私こそ、言い過ぎたわ。ごめんね。I Love You」
怒りの表現と甘い囁きの声色が入って、なかなか参考になるテキストだ。欧米
の人を口説くときに使おう。

この筋書きには、なんら違和感はないのだが、最後の「自分が悪かった」とい
うのは、両者合意が確実に取れた場合に使わなければならないことを、自分は
最近まで、認識していなかった。

「自分が悪かった」と、なぜ言うのか。それは、素直に悪かったと思っている
からだろう。しかし、京都で箒を逆さに立てるとか、「ぶぶづけ食べていかは
りますか」と同じで、相手に対して逆説を伝えるという意味で使ってしまうの
が、自分の癖だった。要するに、「自分が悪かった」の対になる答えは「いえ
いえ、私も悪かった」。

このような促し方は、日本のあらゆるビジネスシーンで、ビジネスマナーとし
てまだまだ横行している。時には営業マンの研修なんかで、謝り方、謝らせ方
のようなトピックで教えている場面すらある。しかし決定的な場面で使うと、
ただの負けであり、賠償問題なら不利な条件を作ってしまうことにさえなる。
そして、制作というコアで突っ込んだ作業をしている中で、この解りにくい逆
説を使うことは、全く効果がないどころか、誤解を呼ぶらしい。

ある出来事に対して、反省と逆説の混ざった気持ちで、自分は「自分が悪かっ
た」を口にした。誤解や不信を呼んだに違いない。ずいぶんと内向きで発展性
のない人間だと思われたようだ。相当、後引く自己嫌悪な出来事であった。

●違いは違い

日本にいると、相手も自分と同じ思考を持っていると思いがちで、違うのが当
たり前という考えになりにくいらしい。結果、同じ思考を持っている人たちだ
けで仲間が出来上がり、その中で物事を進めようとする。(友人に聞くところ、
同じ島国のイギリス、イングランド人も同じ傾向があるそうだ)

もちろん、違いを違いと認識して、それを組み合わせるというリミックス作業
を楽しめるようになれば、議論は発展するだろうし、違えば違うほどよいもの
が作れるようになるだろう。そんな基盤があれば、どんな人とも仕事はできる
だろうし、逆に方針が合わずに会社を辞めたとしても、恨まれないだろう。

しかし、日本人的な個性も、ある一つの違いとして尊重しつつ、組織を作って
いかねばならない。欧米生活が長い人が、日本企業になじめないという話をよ
く聞く。しかし、まとめていく役目の人が、日本人の心理を認めながらも、違
いを違いとして組み合わせ議論をまとめていくように誘導しなければならない
のだろう。

自分の場合は、「自分が悪い」という表現に対して、相手が反応を返してくれ
たことは救いだった。反応がなければ、違いを認識することが難しく、互いに
相手に理解を得られないと思ったまま、すれ違っただろう。
レスポンスを得られる環境を作ることから、まず始めなければならないのかも
しれない。それも本気のレスポンス。環境の保全や自分の保身や、時間の浪費
や互いのダメージを考えて、衝突を避ける姿勢は、自分が本当に伝えたいこと
をも不明確にしてしまう。それ以上のものを、力を合わせて作るなんて、でき
るわけがない。

制作を会社単位で行うことのメリットを、きちんと生かせるような組織作りを
してきたかどうか。それは議論の場所を作ってきたかどうかと言い換えること
さえ、できるように思う。今、試される局面に、どこの組織もぶち当たってい
る気がする。

【uz】
某コンピューターパッケージベンダー勤務を経て、現在はWeb系ライター、
Webサイト構築業務に携わる。
「映画を研究する人々のためのサイト Urban Cinema Squad」
http://www.u-c-s.org/ もよろしく。

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■編集後記(11/19)
・日光で猿が大暴れというニュース特集を見た。夕方、なんとなく見ていたの
だが、その映像には驚いた。猿が観光客の持つ白いコンビニ袋(の中の食品)
を奪おうと追いかけたり、走行中の車のあいている窓から侵入して食品を奪っ
たり、みやげもの屋さんの店先からかっぱらったり、まさにやりたい放題、し
かも凶暴だ。原因は、観光客が野生の猿に安易に食べ物を与え続けたからであ
り、もはやとりかえしがつかないことになっている。なんという凶暴な猿ども
だと言うが、そうさせてしまったのは人間側、それもその土地を通過するよそ
の人たちである。野生のスタイルを変えさせられた猿たちが哀れだ。これから
冬になって彼らはどう過ごすのだろう。と同時に、甚大な被害にあっている地
元の人たちも気の毒である。日本人はますます無責任になっていく。(柴田)

・1198号の柴田さんの後記に、ガリ板のことが書かれてあった。休み時間にな
るたびに職員室に行って先生と話す生徒っている。そういう行為の何が楽しい
かわからない、ひとりでぼーっとしているトロい小学生だったが、そのトロさ
ゆえ白羽の矢が立つ。職員室に出入りする生徒には声をかけないくせに、何故
かこっちに文集や遠足のしおり作りを頼んでくる。何を考えているかわからな
いからコミュニケーションをはかろうとしたのかなぁ。内容を考え、先生と相
談し、休みの日に出てきては、輪転機(っていうんだっけ?)をまわし、手を
真っ黒にしながら紙を折り、ホッチキスでとめる。新聞委員も楽しかった。模
造紙にマジックで書き込んでいく。B4サイズの新聞を作り、クラスに配ったこ
ともあった。あれが原点なら、先生に感謝しないとなぁ。  (hammer.mule)

<応募受付中のプレゼント>
 ノート=ウドム・テーパニット著 白石昇訳書「エロ本」1197号。

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編集長     柴田忠男 
デスク     濱村和恵 
アソシエーツ  神田敏晶 
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