[1498] 電子出版社は可能か(2)

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.1498    2004/03/31.Wed発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 19293部
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        <ディズニーの魅力とは私有の魅力>

■Powerbook Publishing Project 79
 電子出版社は可能か(2)
 8月サンタ

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 グラフィックデザイナーズ年鑑2004-2005
 CG&映像クリエイターズ年鑑2004-2005

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■Powerbook Publishing Project 79
電子出版社は可能か(2)

8月サンタ
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今週の水曜デジクリは、不動のレギュラー、まつむらさん&笠居さんがお休み
なのをいいことに、場所をお借りして不肖8月サンタがお届けいたします。来
週は元に戻りますので、お楽しみに!

●電子出版社は可能か(2)

そう、夢の『デジタル出版』はもはや現実のものである。しかし、採算ベース
の『デジタル出版社』は可能だろうか。先週木曜日に続き、今週も更に追いか
けていきたい。

前回の結論は「インターネット以前も以後も、人は共有可能なものに金を払お
うとしない」という、実に即物的なものだった。

人は私有可能なものになら、実にくだらぬものでも金を出す。どんなに素晴ら
しいものであっても、共有物には金を払おうとはしない。首を伸ばしてまわり
を見てもらいたい。例外と呼べる例外はあるだろうか。

たとえばWebサイトの表示技術というのは、完全同一データを複数の場所へリ
クエストに応じて展開するため、(ブラウザが同じなら)事実上のWebページ
複数人共有状態となる。で、Webにさらされているテキストや画像に、あえて
楽しんだ代価としてお金を払う人がほとんどいないのはご存じの通り。

見た目が本と同じである、というだけでは駄目で、パスワード付けたり会員制
にしたり高クォリティのPDFにしたり、いろいろとやるのだが、今ひとつブレ
イクに至らない。手に取れない、自分のものになった気がしないなど、いろん
な不満点を追っていくと、結局「私有出来ない」ということがデジタル資産の
購入をためらわせる根源にあるようだ。

だがデジタル・コンテンツでビジネスをしたい側は、あまりその「私有できな
いから金にしにくい」という面には着目せず、内容が良ければ売れるはず、ブ
ランディングがあれば大丈夫、というどこぞの国の出版界みたいなことを言っ
て、アメリカ産黒ネズミ漫画の版権を、採算無視の高額で購入したりしている。

仲介した代理店・マーケ屋に乗せられてるとしか言いようがないのだが、その
話は、後で詳しく。

だがどんなに素晴らしいものをつくっても、それをどんな数大量にばらまいて
も、それだけじゃ商売にならない。その代金を客の手からもぎとって、回収し
てこなくてはならない。

例えば日本の大新聞は、基本的に同一の内容を数百万の単位で配布しているが、
全国津々浦々の家庭を網羅した、新聞配達員・新聞拡張員という、泥臭いが最
強の営業&配送&代金回収軍団を抱えているがゆえに、商売として成立するわ
ざである。

アサヒ・コムがどんなにページ・ビューを伸ばしたところで、経営者はそれを
商売の根底に据えようなどとは考えたこともないはずだ。(あれ、Webのクリ
ック広告モデルはどうなの? それについては今後詳しく書いていく)

●実はコンテンツではなくてパッケージ

ビジネスとは顧客の創造だという。自分の提供するものに、惜しまず金を投じ
てくれる客を育成して、マーケットを創ってなんぼということである。コンテ
ンツ・ビジネスと言うからには、コンテンツに惜しまず金を投じる顧客が誕生
して、はじめてビジネスとして成功したといえるはずだが、いま客が現実に惜
しまず金を支払っているのは、その入れ物、パッケージである。

先ほど例に書いたアメリカ産黒ネズミ、ディズニーなどは、コンテンツ産業に
見えながら、実際にはパッケージビジネスとアトラクションビジネスに徹底し
てこだわることで稼いできた。むしろ複製可能なコンテンツそのものの価値は、
根底から揺らいでいる危険な状態であり、デジタル配信などに手を出すことは、
この会社の存亡に関わると言っていい。ディズニーの魅力とは私有の魅力にほ
かならないからだ。

考えてみればディズニーはマクドナルドと同じく、その内容自体は至高の芸術
ではなかったが、私たちにとって、「ちょっと上に手を伸ばせば」手に入る、
期待を裏切らない絶妙のポジションにいた。ちょっとだけ高めの値段設定、ち
ょっとだけ少なめの生産量(しかし在庫を切らすことは絶対にない)失望させ
ない程度には期待に応える内容、その親密な距離感こそが、ディズニーを私た
ちにとってずっと特別な存在にしていた。

いわゆる「隣のきれいなお姉さん」である(いやらしいな)。ディズニー作品
数ある中で、作品性に徹底的にこだわった『ファンタジア』のコケっぷりも納
得である。だがデジタル技術は、その企業としてのディズニーの絶妙な舵取り、
コントロールを、崩壊させる可能性がある。

●物流としてのISP

新聞の例が顕著なように、コンテンツそれ自体は単独でビジネスとしては成立
しない。コンテンツはビジネスの表層の部分であり、それを支える物流システ
ムと決済システムがなければ、商売としては無意味なものである。

ここでインターネットに戻る。インターネットにおける物流事業とは、回線接
続を提供するインターネット・サービス・プロバイダ(通称ISP)である。決
済事業とは、決済機能を提供する銀行とクレジットカード会社の、決済サービ
ス・プロバイダである。前者は接続そのものを提供し、後者はEC、電子商取引
の基盤を提供する。

クリエイターが活躍し、情報を発信するコンテンツ・サービス・プロバイダは
この二者の手のひらの上で商売をすることになる。どれほどユーザーを集め、
どれほど多くの人に閲覧されても、基本的にはISPと決済サービスプロバイダ
に依存することなしに不可能なビジネスである。

中でもインターネット上で本質的に一番権力を握っているのはISPである。決
済サービスプロバイダは、マーケットの取引額の中の数%が売り上げとなるた
め、収入額はつねに顧客の売上高に翻弄される。ライバルも多い。電子商取引
の売り上げの波の激しさは、そのまま決済側の経営に影響している。

しかしISPは接続そのものを提供している。全世界で、全てのネットユーザー
が確実に負担し、支払っている金がプロバイダという接続維持会社のコストで
ある。しかもそのサービス内容は、全ての人間が必要とするが、全ての人間を
十分満足にさせなくてもよいという構造の上に成り立っている。100MBの高速
回線だが、「100MBの高速接続を保証するものではありませんよ」と自ら宣言
している。これは別に背任でも何でもない。

インターネットを道路に例えれば、「道路の維持費は誰でも払うが、誰もが車
を所有して常時猛スピードで乗り回しているわけではない」から、今のところ
これで成り立っている。猛スピードで走りたい人には、それなりの道路がエク
ストラコストを払うことで用意される(この提供されるサービスと、ユーザ
が使う度合い、満足度のズレの意味については、次週、詳細に解説する)。だ
が、道路はなくてはならないものだから、誰もがそのコストを負担する。

●ビジネスとしての底堅さ・振り幅とは?

そして、今週語っておきたいのはその商売の底堅さだ。人はWeb上では1クリッ
クでページからページへと飛び移り、わずかな努力で気に入ったページをお気
に入りに入れ画像は保存し、つまらなければさっさと別のページに乗り換える。
だが、使用しているISPはそんなに簡単に乗り換えられない。まず、適当なス
ピードさえ出ていればそれほど不満も出ないサービスであり、もし気に入らな
いからと言って、乗り換えようとするならば、驚くほどの人的手間を必要とす
るのである。

ISP各社が自社の契約を解除するのを妨害するために、手続きをどれほど頻雑
にしているか、もうこれは芸術の域である(入会する時は、街を歩いて赤い紙
袋を受け取って、ボールペンでちょちょいと記入するだけだったっつーのに)。

ISPの契約には最低何ヶ月は乗り換えられません、という通称「縛り」という
特約がついている上に、この解約しにくさ、また銀行引き落としなど、コスト
の負担を感じにくくする決済法もあり、一度入会した客はなかなか流動しない、
させない仕組みになっている。

これは何を意味するか? 「インターネットを巡るビジネスで、次の月も確実
に入ってくる金の当てがあるのはISPだけだ」ということなのだ。

良く華々しいWebショップの成功や、新しい電子決済の取引高の成長っぷりが
話題になるが、今日売れても明日売れると限らないのがインターネット上の商
売である。今日の宮殿が明日の廃墟、ということが十分あり得る恐ろしい世界
である。

仮にインターネット・ビジネスになにがしの金を投じるとして、直視すべきは
そのリスク、安定性なのだ。先がある程度読めもしないのに金を突っ込むのは
スロットマシーンと変わらない。そんな中、ISPは実にわかりやすく、安定し
た構造を持っている。不確実なデジタルの世界の中で、確実なものを拾ってい
くときに、とても参考になる(ISPだってもちろん大変な世界である。その
話もまたしていく)。

●出版業とはサービスなのか

ちょっとビジネス話に矛先を向けすぎたようだ。来週は軌道を修正して、デジ
タル・コンテンツと出版ということに話を戻す。現実と、夢のお話である。よ
ろしく!

【8月サンタ】santa8@mac.com
LondonとLyallとLeCarreを愛する35歳元書店員。某超大手取次社員の経験アリ。
・今回前フリが長すぎて、本題をやっつけで、はしょってしまった部分あり。
反省してます。次週で更にフォローします。伝えたいことが一杯状態!

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しく、より楽しい年鑑に仕上がっています。また、新たに秋山具義、アリヤマ
デザインストア、ストアインク、グッドデザインカンパニー、エンライトメン
ト、グルーヴィジョンズ、佐野研二郎、SOUP DESIGNなど、注目を集めている
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講義内容などをお知らせします。また受講者数、受講料金額は毎週月曜日に個
別に報告します。
問い合わせ先:tdo@green.ocn.ne.jp サブジェクトは「大学院セミナー」

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■編集後記(3/31)
・誰かに頼まれたわけでもないのに、商業用印刷物、出版物のネットワーク時
代におけるワークフローを模索している(ゲームのようでおもしろいことはお
もしろい)のだが、やっぱりPDFを中心とした流れになるのは間違いない。非
常にシンプルでスマートなワークフローが描けるのだが、そのときクライアン
ト、制作、印刷それぞれの立場で捉えかたが違ってくるのは当然である。また、
本流には支流も生じるわけで、そう考えると様々なケースを想定しなければな
らない。いろいろな人の話を聞けば聞くほど、正直、わからなくなってきた。
唯一よく分かっているのは編集者の立場だ。後戻りのできないワークフローに
おいては、正真正銘の完全データを入稿しなければならない。従来のように、
印刷会社にあと始末を頼むことはできなくなる。DTPの導入のときと同じよう
に、新しいワークフローの導入を最後まで拒むのは編集者であろう。(柴田)

・携帯にスパムが届いた。「メールホスト募集」だって。中身を読むと、想像
通りホストのお仕事をメールでするというものだった。ネットで使われるメー
ルホストという言葉は、メールの送受信処理などをするホストコンピュータの
ことなんだけどなぁ。                  (hammer.mule)
http://yougo.ascii24.com/gh/74/007402.html  ホストコンピュータ

<応募受付中のプレゼント>
DTPWORLD70号(2004.4月号) 1496号
Web Site Design vol.10 1497号
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CG&映像クリエイターズ年鑑2004-2005 本日号

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発行   デジタルクリエイターズ <http://www.dgcr.com/ >

編集長     柴田忠男 <mailto:shibata@dgcr.com >
デスク     濱村和恵 <mailto:zacke@days-i.com >
アソシエーツ  神田敏晶 <mailto:kanda@knn.com >
リニューアル  8月サンタ <mailto:santa8@mac.com >
アシスト    吉田ゆうみ <mailto:yoshida@days-i.com >

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