土壌(後編)
── GrowHair ──

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<1520号からつづく>
https://bn.dgcr.com/archives/20040514140200.html


今まで「オタク」と呼ばれる人たちを(反社会的とまでは言わないまでも)積極的に社会に関わりたがらない非社会的存在として低くみてきた投資家や起業家が、このごろ急速に注目度が高まったのを見て、あわてふためいて情報収集に乗り出した。

オタクってホントはどんな人? どんなこと考えてる? 何が人気? 最近のトレンドは? そういったことを手っ取り早く包括的に知るには、アニメ制作者、漫画家や出版社、ゲーム制作者、キャラクターグッズ開発者、同人誌即売イベント主催者等々、その道の達人にインタビューしてみるのは効率的である。

しかし、もっと個別にオタク研究を掘り下げ、オタクの側の立場からその世界の理解を試みる、試しにオタク生活をしてみることによって一時的にせよ、みずからなってみようとする、といったところまで突っ込んだアプローチをする人は少なかったのではなかろうか。


「成長が期待される分野なら何でも構わないけど、GNCは今後も伸びるようだから、このトレンドに乗じてひと儲けしよう」とたくらむオジサン世代と、漫画・アニメ・ゲームを栄養にして育ち、「人生の大事なことはすべて漫画から学んだ」と豪語する若者世代との温度差が気になる。

まあそういうオタクに追いつくだけの暇がとうてい作れないのは分かるとして、せめて1週間でも、漫画喫茶&インターネットカフェに「出勤」して、手当たり次第に漫画を読んだりゲームで遊んだりして、家ではテレビでアニメ番組を見たりすれば、大分違ってくると思うのだけど。

試しにそういう生活をしてみると、おそらく気がつくであろうことがひとつある。若者をターゲットに流通している商品は、オジサンにとっても面白いのである。今のポップな文化は決して栄養価の貧弱なものではない。その面白さに触れると、ものの考え方が豊かになる。

世のオジサンたちって、毎日あくせく働いて、出世したのしないの、給料が上がったの下がったの、リストラされたのされないのと一喜一憂し、そればっかにかまけてこんな面白い世界を全然知らないなんて、かわいそうな奴らだなー、そう思えてくればしめたものである。

最近、私がハマったのは「マリア様がみてる」(略称「マリみて」)。集英社の「Cobalt」という隔月刊雑誌に連載されている小説で、文庫がすでに17巻出ている。6巻までのストーリがテレビアニメ化され、1月から3月まで水曜日の25時から30分間放映された。乙女心のせつなさが非常によく描かれている。男が読むと性別が変わる。

「マリア様のお庭に集う乙女たちは、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。... 私立、リリアン女学園。ここは乙女の園」。声に出して読むとちと顔の赤らむ日本語。書店で手に取ってレジまで持って行くには勇気が要るが、「カバーをおかけしましょうか」と聞かれて「ぜひ」と答えたら大ウケした。

もうひとつ、感銘を受けたのは、「シャーマンキング」(略称「マンキン」)。こちらは漫画。週刊少年ジャンプに連載中。すでに単行本が27巻出ている。受験生の小山田まん太が霊を操るシャーマンたちと出会い、彼らの世界を知りはじめる。いろいろな心の傷をもった人たちが登場し、戦いや友情を通じて刺々しい心が癒されていき、新たな目標を見つけて元気を回復していく。テーマが深い。

こういうのを読むと、「人生の大事なことは...」発言がしみじみと理解できる。実は私はこの漫画のことを、イタリア人から教えてもらった。原宿の通称「橋」でコスプレしているところを撮らせてもらったのが知り合ったきっかけ。夏コミでもコスプレしていた。そのためにイタリアから東京に来たそうで。筋金入りの漫画ファンである。日本にはこんなにいいものがある、そのことを外国の人から教えてもらうとは、人生いろんなことがある。

気分がスカッとする空想に耽るならば、「テニスの王子様」(略称「テニプリ」)がいい。週刊少年ジャンプに連載中。単行本23巻。青学(せいがく)という中学校のテニス部で、抜群の才能をもった主人公、越前リョーマが自惚れた先輩らをぎゃふんと言わせてやる話から、他校の強豪テニス部に試合を挑む話へと発展する。他校生のエピソードも魅力いっぱい。派手なパフォーマンスにスカッとしつつも、自分に克つこと、試合に勝つことについて考えさせられる。

ついこの間、東京ビッグサイトで「アジア最大級の写真の祭典」と謳ったイベント「フォトエキスポ 2004」が開かれたが、実は同じ会場の上の階で別のイベントが催されていた。テニプリ関連に限定の同人誌即売会である。かかっているコストはともかく、来場者数では負けてない。パンフレットを買って入場するのに2時間並んだ来場者もいたと聞く。アジア最大級の写真の祭典よりも大規模なテニプリオンリー系同人誌即売会。恐れ入りやした。そこで作品を売ってたコ(やはり原宿で知り合った)いわく、「最近はもうテニスさえあればなカンヂで」。

いい作品を次々に紹介していったらきりがない。オジサンたちは知らないだけ。ちょっとしたきっかけでこの世界に入ってくることができれば、ずずずとハマること請け合い。若者が作ってオジサンが買う。この流れができるポテンシャルは大きいように思う。この流れができれば、従来のオジサンが作って若者が買う流れも同時に拡大し、経済が回っていくに違いない。

それをビジネスに展開するならば、こういう具合にするのはどうだろう。

まずオジサンたちの集いの場として狙い目は居酒屋。居酒屋に入ってテーブルにつくと、注文する前から突出し(お通し)と称する小鉢が出てくるが、そのとき一緒にコピー本も出てくるというのはどうだろう。コピー本とは、コピー機で複写してホチキスで閉じて作った冊子のこと。例えば「ドラえもん」のパロディー漫画なんかがいいかもしれない。あるいは、あらすじで読む最近の人気漫画、とか。で、会計のときにふと見ると、レジの横に同人誌がどどどんと積みあがっている。一冊700円ぐらい。ついでにフィギュアなども。

帰りの電車を待つ駅のプラットホームでは、オジサンたちが同人誌を広げて読みふける姿があっちにもこっちにも。ウムウム、そうか、よく何を考えているのか分からないとよく言わる最近の若者たち、実はこんなことを考えていたのか。面白いじゃないか。ウムウム...。

オジサン活性化計画。日本経済活性化計画。これがうまくいった暁には、副産物として楽しみなことがひとつある。世のオヤジたちが面白いギャグをかますようになる日が来るかもしれない。

・GrowHair
 世代を踏みはずしたサラリーマン、41歳。
 < http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Studio/2967/
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