Otaku ワールドへようこそ![3]カメコる技術(前編)
── GrowHair ──

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花が咲けば虫が集まり、猫がいればノミがたかる。レイヤーにはカメコが...。

レイヤーとはコスプレイヤーのこと、カメコとはレイヤーさんたちを撮りに来たカメラ小僧のことである。コスプレイベントで繰り広げられる、ありふれた光景。今回はカメコをテーマにしたい。

この話題については、語りたくて語りたくて仕方がなかったのである。何しろ私自身がカメコだから。生粋のオタクからすると邪道な入り方と怒られるかもしれないが、コスプレイベントでカメコることが、私にとってはオタクワールドへの入り口だった。


●じわじわと人気高まるコスプレイベント

日曜日には、都内や近辺だけでもほぼ毎週のように、コスプレイベントが開催される。会場は有明のTFT(東京ファッションタウン)や蒲田のPiO(大田区産業プラザ)のようなイベントホール、あるいは、豊島園やよみうりランドのような遊園地がよく使われる。思い思いの漫画やアニメのキャラクター等に扮したレイヤーさんたちが集い、カメコたちはお願いして撮らせてもらう。

レイヤーさんたちはコスプレを楽しむために入場料を払って来ているのであり、必ずしも撮られることが目的でない。カメコには勝手に撮る権利はないのだ。しかしながら、ひと声かければ、たいてい快く撮らせてもらえる。レイヤーさんたちも、後できれいに撮れた写真をもらったりするのは嬉しいことに違いなく、概して共存共栄の関係にある。

コスプレイベントは、じわじわとだが、年々規模が拡大している。5年ほど前は月に1~2回の開催で、場所も東京ビッグサイトの西ホールひとつを半分に区切って同人誌即売会と分かち合うのが典型的だった。来場者は数百人程度。地味だった。それが今では、同じ日に都内および近辺2~3か所で開催されることもざらで、そういうときでも来場者はそれぞれ 2,000人を優に超える。混雑するのだ。

このまま行くと、今にコスプレユビキタス時代が到来するのではあるまいか。道を歩いていると普通にセーラームーンや犬夜叉とすれ違い、オフィスでは金曜日をコスプレフライデーと定め、十二単のお姫様が会議を仕切ったり、猫耳の妹キャラがパソコンをたたいたりする。ぐはっ! 想像しただけで萌え~!

●カッコいいもんではないカメコ

撮ってどうする、という疑問はある。人はなぜカメコるか。--- そこにレイヤーがいるから。カメコの醍醐味は理屈で説明しきれないものがある。

コスプレ撮影をどう楽しむかは、こうあるべきだ、と指針を示すようなものではなく、人それぞれ、多様な楽しみ方があってよい。ポートレート撮影の腕を上げる実践の場と捉えるもよし、ひたすら撮り集めてコスプレ辞典を編纂するもよし、撮った写真を家宝として子孫に代々受け継がせるもよし。

しかしまた、大きいお兄ちゃんの考えていることは大体読めるぞ、という見え見えな部分もあり。時として、ひとりのレイヤーさんの前にカメコが列をなして順番を待っているという、傍目にはいかにも間抜けな光景が出現する。

行列ができるレイヤーの条件は、若い、かわいい、露出度高い、の三拍子そろっていることである。特に露出度はキーファクターであり、覆っている面積xとカメコの列の長さyはほぼ反比例することが経験的に知られている。xが0に近づくとyは無限大に発散していくはずである。

実際にはそれほど極端なことはないが、まず長いカメコの列が目に入り、この先頭にはどんな素敵なレイヤーさんがいるのだろうと目をやると「あ、あー、なるほど、そういうわけね」ということはしばしばある。

体操着であったり、スクール水着であったり、レースクィーンであったり。いや、もちろんレースクィーンが好きでコスプレしていること自体はいいのであって、また、それが好きで撮る分にはいいのだけれど、単に露出度に吸い寄せられただけだろってのが見え見えなカメコの群にちょっと頭痛、眩暈が...。「なっさけねえなぁ」と心の中でつぶやく自分。

本格派のレイヤーさんたちは、作品やキャラへの熱い思いを原動力に、材料費と手間暇を惜しまず、夜な夜な衣装作りに励む。2次元キャラを3次元に起こすのは、単純な模倣などでは決してなく、美的センスと服飾制作の技量が大いに発揮される。そして、イベントは、がんばった成果のお披露目の舞台である。それはそれはきらびやかな衣装を、元キャラの雰囲気たっぷりに着こなして登場する。そういうレイヤーさんが一番の人気を博してしかるべきではないか。

そのあたりにレイヤーとカメコの意識のずれを感じる。これじゃあ尊敬されないわな。オイ、カメコよ、見るとこが違うんじゃないのかい?

... などとごにょごにょ考えつつ、ふと我に返ると、なぜか自分も列に並んでいたりする。アレ? 「まあ、いちおう撮っておくか」。

●あっぱれなカメコ

しかしまた、侮れないのがオタクワールド。カメコの中にも、レイヤーの情熱に呼応するかのように、美しく撮ることに尋常ならぬ情熱を注ぎ込む、こだわり派がいる。

肌は清潔感のある明るい色調に、かつ、滑らかな陰影で立体感を強調したい。鼻や髪の毛の影がくっきりと頬に落ちているのは駄目、テカっているのも駄目。後ろの壁に影がつくのはもってのほか。できれば瞳の中にキラキラを入れたい。コスチュームは色鮮やかに。全体的にハイキー(high key:明るい調子)だが、締めるところは締めて、コントラストの高さで緊張感を演出したい。構図はバランスよく決め、背景はごちゃごちゃさせず、すっきりとまとめたい。以上を基本とした上で、味のあるポーズや表情を捉え、レイヤーさんの魅力を最大限に引き出したい。

さらに、ファッション写真ではなく、コスプレ写真であることの特色として、元キャラの雰囲気をしっかりと再現すること。必ずしも写実的であることをよしとしない。お化けキャラは半透明がよい。飛べるキャラは飛んでいるとよい。

さて。これをひとりで何とかしようとすると、とっても大変。適当に撮っておいて、後でPhotoshoopのような画像加工ソフトを使えばどうにでもできそうな感じがするが、実際にやってみると、どうにもならない場合が多い。汚い写真がきれいに蘇る、ということは、まずない。やはり撮るときにちゃんと撮っておかないと駄目なのだ。影を消し、滑らかな陰影をつけるには、面積の広い光源が、少なくとも2灯は要る。しかも、真正面から当ててはテカる。さてどうするか。

カメラに丈夫な柄を取り付け、その先にストロボを取り付ける。カメラのシャッターとシンクロして光るようにする。光源の面積を広げる効果を得るために、ディフューザやレフ板も取り付ける。これを2本以上延ばす。

そうすると、撮ってる姿はカミナリさんみたいになる。この装備を通称「デンドロビウム」という。アニメ「機動戦士ガンダム」に由来する。ガンダム本体は蘭の花のおしべであり、シールドがめしべ。合体してデンドロビウムになると、もともとの本体よりも遥かに大きな姿になる。突拍子もなく大げさなアクセサリをつけたカメラはこれにたとえられるのである。

こういう姿のカメコを見かけると、カッコいいと私は思う。なりふり構わず、脇目も振らず、荒行に没我する求道者のようではないか。

ただし、レイヤーさんたちからどう見えているかは保証の限りではない。最近の混雑した環境では、邪魔だしなぁ。

●かくありたし ...カメコ3原則

カメコの楽しみ方は多様であってよいが、臨む態度としては、かくあらまほしきところ、という理想像を思い描くことができる。ここに「カメコ3原則」として提唱したい。

カメコ3原則
1)レイヤーに対して謙虚で礼儀正しくあれ
2)美しく撮る心意気と技を持て
3)コスチュームの出典作品を深く理解せよ

しょせんは猫あってのノミ。身の丈をわきまえ、撮らせてもらっているのだという立場を忘れてはならない。

レイヤーさんたちがどれだけの手間隙をかけてコスチュームを作ってきたかを思えば、それをきれいに捉えるのはカメコの使命である。手を抜いてはいけない。美的センスの研鑽と撮影技術の習得に努め、常に創意工夫の労を惜しむな。

コスチュームの題材となった作品を深く理解してこそ、どういうふうに撮るのがふさわしいかというコンセプトを描くことができる。

もちろんこれは自戒を込めて言っているので、言っている本人も、耳が痛い。だけど、これが正しいカメコの道。この道を究めれば、カメコにもカメコなりの幸せが訪れる。

「カメコの幸せって何よ?」と聞かれても、私なんざ、まだまだ道半ば、ちゃんとお答えできないのが心苦しいところではあるのだが。

私に降りてきた、ささやかな幸せと言えば...。一眼レフにポジフィルムを入れて撮っているので、現像の仕上がりを見るまでは落ち着かない。月曜なんて、てんで仕事が手につかない。現像が仕上がってきたポジをライトテーブルにのせた瞬間、美しい絵が目に飛び込む。「よっしゃあ!」と、思わずひとりでガッツポーズ。と同時に緊張感がほぐれていき、ふーっと息が抜ける。つまるところ、この瞬間に勝る幸せはないのかもしれない。

・付記
コスプレイベントのスケジュールを調べるのは、コスプレイベント情報誌
"C-NET" のホームページが便利。
< http://cnet.cosplay.ne.jp/
>
過去のイベントの模様も写真で見られて、楽しい。近々開催される中では、5月の「ポティロンの森」がすご~く楽しみ。この開催地は初めてなので。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
カメコ歴5年。まだまだ駆け出しか? しっかし、カメコがカメコについて薀蓄を語り出したら、もう、止まらん、止まらん。実は、これを書き始めた時点で書こうと思っていたことがあったのだが、そこまでたどり着かず、まだ触れてもいない。とりあえず「前編」と銘打ったが、後編、続編、続々編、完結編、復活編、もういっちょ編、と際限なく続く可能性も...。
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