Otaku ワールドへようこそ![4]薔薇の乙女人形に愛の誓いを:ローゼンメイデン決起集会
── GrowHair ──

投稿:  著者:


13年ぶりに左手の薬指に指輪をはめた。

嘘ではない。けれど実は、そういうこと、でもないわけで。どういうことかというと……。28歳のとき、聖書に右手を置いて「誓います」と言ったような覚えがある。けれど、1年2ヶ月後、それは結果的に嘘になってしまった。同じ過ちを繰り返しては進歩がないので、今度は人形と契りを交わすことにしたのである。

この指輪は「ローゼンメイデン」というテレビアニメのオフィシャルグッズである。銀色のリングに金色の薔薇の花がついている。リングには棘に見立てた突起がぽちぽちと。

今回レポートするイベント「ローゼンメイデン決起集会」で、一緒に行ったバレッタ氏から譲ってもらったものである。まるで測って作ったかのごとく、左手の薬指にぴったり。

つけ心地がすご~くいい。それに、簡単には抜けそうにない。それよりも何よりも、単行本で読んだコミック版、DVDで観たアニメ版ともに面白く、決起集会がすばらしかったので、作品に愛着し、キャラに惚れ、制作関係者全員に敬服するその思いを形として身につけていられるということが嬉しくて仕方なく、はずす気がしない。

2週間経つが、まだつけている。電車に乗って、会社に行ったりもした。こういうことに目くじら立てて大騒ぎするような職場ではなくて助かった。けど、イタいおっさんになってるかも。


●ひきこもり中学生の心を開かせる人形たち

まずは「ローゼンメイデン」という作品の紹介から入りましょう。原作者は PEACH-PIT(女性2人)、月刊コミック BIRZ(バーズ)に連載中。コミック版とアニメ版とではストーリー展開の異なるところがあるが、設定はほぼ同じである。

ひきこもり中学生の桜田ジュンの唯一の楽しみは、ネット通販で胡散臭い商品を注文し、届いた商品を笑ったら、期限ぎりぎりに返品してスリルを味わうことだった。ある日「まきますか、まきませんか」と書かれた紙を見つけ、「まきます」に丸をつけると、人形が届く。精巧な乙女人形。

同封されたぜんまいを背中の穴に差し込んで巻いてみると、ぱっちりと目を開き、ジュンを下僕(しもべ)と宣言する。いつの間にか、ジュンの左手の薬指には指輪がはまっていて、抜けない。これが件の指輪である。

人形の名前は「真紅(しんく)」。丸顔にぱっちりとした目、小さな鼻と口。金髪の髪はストレートで長く、先の方だけくるくるくると巻いている。真紅 (色)のベルベットのドレスに緑色の大きなリボン。リボンのまん中にはピンクの小さな薔薇の花。凛とした気品があり、女王様口調。紅茶の淹れ方になかなかうるさい。

真紅は伝説の人形師ローゼンが作った七体の生きた人形のうちのひとつ。他の人形たちも徐々に登場する。水銀燈、雛苺、翠星石、蒼星石、……。一人が勝ち残るまで、お互いに戦わなければならない宿命にある。

ジュンは高校生の姉のりと二人で暮らしている。両親はどういう経緯か、外国へ行ったきり。ジュンは過去に負った心の傷に縛られ、外の世界のすべてに敵対心を抱き、家から一歩も出られない。何もできない自分は眠ったまま目覚めなければいいと思っている。のりはジュンを心配し、何とか学校へ行かせようとする。やさしい心を持っているが、天然ボケなところも。ジュンはのりに対してもかたくなに心を閉ざし、反発する。

そんなジュンも根はやさしい心をもっている。人形のために、必死でトラウマを乗り越えて、外へ出ようとしたり。次第に人形たちと心が通い合うようになる。この作品、生きた人形という現実離れした設定でありながら、心に刺さった棘の痛みはリアルに感じ取ることができる。

●特異なテーマソング

アニメ版のオープニングとエンディングのテーマソングもよい。アニソン(アニメソング)によくありがちな幼稚っぽさが微塵もないところが。

オープニングの「禁じられた遊び」は、ALI PROJECTが手がけている。「マリア様がみてる」のときはバッハの平均律を思わせる崇高な美を表現していたが、こちらでは背徳の快楽を思わせるような黒い美を表現している。

refio+霜月はるかによるエンディングテーマ「透明シェルター」は絵の美しさとあいまって、幻想的だ。夢の世界に引っ張り込まれて、出て来られなくなりそう。

両方ともカラオケの曲目に入っているが、特に後者、難しすぎてなかなか歌えない。いい曲なのでマスターしたいのだが。

●決起集会って?

ヘルメットかぶってゲバ棒持って、エイエイオー! ではない。だけど行くまではどんなイベントなのか、ちょっと不安だった。

テレビアニメ版は昨年の10月から12月まで12回構成で放送された。毎週木曜日の25:55~26:25に一体誰が起きてるんだ、なんてことは聞かないで下さい(オタクに決まってるでしょ)。その第2期「ローゼンメイデン トロイメント」の製作決定を記念して4月30日に新宿のロフトプラスワンで開催されたイベントがこの「ローゼンメイデン決起集会」である。

事前には、監督の松尾衡氏と脚本の花田十輝氏が出演して何かしゃべってくれる、ということぐらいしか知らされていなかった。それって面白いのかなー、などと逡巡していると、4月2日に販売開始されたチケット(1,500円)は3日で売り切れた。4月15日に追加販売されたチケットはその日のうちに売り切れ。その人気ぶりを見てから急に行きたくなった私はヤフオクにて元値の3倍で落札するはめに。

●声優さんたちも飛び入り参加

さて、当日。会場は地下2階にあり、居酒屋風のライブハウスといった感じのところ。丸テーブルにスツールが所狭しと並べられ、100人ほどの来場者ですし詰め状態。ざっと男性8割、女性2割。男性は秋葉原でよく見るタイプがほとんどだが、中にはパンク風のオシャレな人たちも。女性はみんなフリフリ、ヒラヒラ、ロリロリ、君たちお人形さんになりきってるだろ、な感じ。

最初はまったりとトーク。松尾監督と脚本の花田氏が、どのキャラが好きとか、声優オーディションはどうだったとか。途中から、ジュン、真紅、翠星石、くんくんの役の声優さんたちが飛び入り参加。会場、めっちゃ盛り上がる。桑谷さんが翠星石のキャラ声で大サービス。「ミーディアムになりやがれですぅ」に一同、撃沈。

番組制作の裏話もたくさん聞けた。特に失敗談。声優さんが来てみたらあるはずの出番がなかったり。台詞が足りなくてつけ足したり。これは松尾監督自身がずっと心に引っかかっていたことをこの場でさらけ出して謝ることで、すっきりした、という感じだった。花田氏の失敗談で可笑しかったのは、脚本の台詞の間違い。真紅が高いところを見ようと、ジュンに「抱っこしてちょうだい」と言うところが、「抱いてちょうだい」になっていた(もちろんアフレコ前には訂正された)。それってフロイディアンスリップ(フロイト的言い間違え、深層心理の露呈)だろ。

真紅の強さはどこから来るか、これは監督からの解説がなければ、自分では見過ごしていたところだ。真紅は女王様然として、強い。それは弱さを隠蔽する強がりではなく、本当に、心が強い。「生きることは戦うこと」と言い切り、戦いのときには全くひるまない。戦うドールとしての運命をしっかりと受け入れ、少しも逃げていない。なぜそんなに強い? ヒントは真紅の回想シーンにある。あれはつまり、真紅には過去があるということだ。

「それが全部うまくいってないから、今、ジュンといるんだよ」と監督。
「(清純そうに見えるからといって)だまされちゃ、いけない」。

もうひとつ、監督から聞けてよかったのは、ローゼンメイデンは「萌え」を意識して作ったのか、という話題。「全然」なんだそうで。他の作品で「なんだよ、萌えだけじゃん」みたいなのがあると、自分はあんな(中身のない)の作るもんかと思うんだけど、そういうのが売れたりすると嫉妬心を禁じえないのだとか。

作品は売れてナンボだから「萌え」を軽視しているわけではないし、ローゼンメイデンに結果として萌えてもらえるのは嬉しい、とのこと。それ聞いて、なぜ私がここに来ているかやっと気づかされた。萌えだけじゃ、きっと来なかっただろう。ちゃんと内容があるからこそなんだ。この作品のもつ、人を動かす力を「萌え」と表現したのでは安っぽすぎる。

6:00pmに始まった決起集会は10:30pmまで続いた。司会の小林氏の「ご満足いただけましたでしょうか」に盛大な拍手。

●ちょっとした出来事、邂逅

蒼星石の声優さんの名前「森永理科」に見覚えあると思っていたが、ふと思い出した。5年前だ。原宿の「橋」でビジュアル系のバンドのファンの人たちを撮ってたのだが、その中にLareineのえみるコスをしたコがいた。ライブネームを「羽藍(うらん)」といった。彼女は月蝕歌劇団に所属する女優さんで、誘われて阿佐ヶ谷へお芝居を見に行ったことがあった。そのとき同じ劇団に所属する新人女優として森永理科の名前があった。ということは姿を見ているはずだ。思い出せないが……。

ローゼンメイデンでは、夢の世界に「世界樹」という一本の木があって、その枝の一本一本が人間一人一人に対応している。人はみな根っこではつながっているのだ、という観念を象徴している。そう言えば羽藍さんともしばらく会ってないが、どうしているだろう。

そんなことを考えていた翌日、茨城のポティロンの森で開催されたコスプレイベントで声をかけられた。お~っ、羽藍さんではないか! わぉ! こりゃびっくり。デスノートの海砂(ミサ)のコスだね。

会うのは実に4年ぶりだ。この前は大学に入りたてで、仏教の大学行って何するんだよ、なんて言ってたわけだが。卒業してた。卒論、何書いたのか聞いたら、袈裟を制作したんだとか。コスプレイヤーの得意技発揮かよ。やるなあ。やっぱりあのとき森永理科さんと一緒に舞台に立っていたか。この邂逅、ひょっとして指輪の力? いよいよはずせんぞぃ。

●付記:関連情報

・アニメ版公式サイト
< http://www.tbs.co.jp/rozen-maiden/
>
・アニメ版のDVDは第一期放送分の12話を6巻に収録して発売中。
・コミック版は単行本が第4巻まで出ている。
・グッズはTBSのページに陳列されている。指輪の画像もあるが、品物は売り切れ。
< http://www.tbs.co.jp/rozen-maiden/part1/menu/info/goods.html
>

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
イタいおっさん。孔子は不惑の域に達したという歳なのに、迷いに迷って人形と契ってしまった。まあ脳内でそれなりに幸せだから、いっか。これを書くにあたってバレッタさんから絶大な協力をいただきました。彼はコミック連載の頃からのコアなファン。ところで、前回「カメコる技術」の前編を書いたので、今回は後編を書くつもりでしたが、ちょいと後回し、旬の話題を優先しました。
・GrowHair Photo Gallery
< http://i.am/GrowHair/
>