[1757] 眼の中

投稿:  著者:


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
【日刊デジタルクリエイターズ】 No.1757    2005/05/30.Mon.14:00発行
http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 18358部
情報提供・投稿・広告の御相談はこちらまで mailto:info@dgcr.com
登録・解除・変更・FAQはこちら http://www.dgcr.com/regist/index.html
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

          <今日はいきなり"18禁"(笑)>          

■ショート・ストーリーのKUNI(11) 
 眼の中
 やましたくにこ

■クリエイター手抜きプロジェクト(47)
 InDesign CS編 フォント(書体)の指定
 古籏一浩

■イベント案内
 ジャパン デジタル アニメーション フェスティバル2005



■ショート・ストーリーのKUNI(11) 
眼の中

やましたくにこ
───────────────────────────────────
あるところに黄という男が妻と二人で暮らしていた。

夏の夕べ、いつもより多く酒を飲んでうたた寝をした妻の顔を何気なく見てい
た黄は、妻の眼の中に女がいることに気がついた。妻は若い頃から時々薄眼を
開けて眠ることがある。少し薄気味悪いと思わないでもなかったが、いまその
左眼の中に黄はたいへん美しい女の姿を見つけ、吸い寄せられるようにのぞき
込むと向こうでもこちらを見て婉然と微笑むのである。それは不思議な感覚で、
眼の中にいるほんの小さな女のはずが、実際には生身の女と相対しているよう
な気がするのだ。眼の中の女は黄の眼をまっすぐにとらえ、声は出さず直に心
に届く話し方で話しかけてきた。
(やっとお会いできましたね)

その日から黄は女のとりこになった。

寝ても覚めても女の面影が離れない。いつも会えるわけではない。そのことが
ますます思いをかきたてる。妻が酒を飲んだときは女が現れる可能性が高いが、
それも必ずというわけではない。あまりにもぐっすり寝入って瞼は固く閉じら
れていることもある。夜、寝床でいつ女が現れるかと妻の顔を窺っているうち
に空が明るんでくることもしばしばだ。寝不足は身体にこたえたが、それでも
何日かに一度は女と会うことができた。
(君を知らなかったこれまでの日々が信じられない)
(私もですわ)

黄の妻に対する興味はすっかりさめており、久しく交わることもしなかったが、
女を前にしているとにわかに欲情が起こり、眼の中の女を見つめながら眠って
いる妻の身体をまさぐることもあった。そうすることで黄は女を抱いているよ
うな錯覚を持つことができた。できたとはいえ、それはあくまでも錯覚だ。そ
のことを黄は自分でわかっている。
(そこから出てこれないのか)

思いあまって黄が女に聞くと女が答えた。
(西に三里ばかり離れた地に仙人が住んでいます。私がここから出るための薬
を処方してくれるはずです)

黄は苦労して仙人の元へ行き、自分が来たわけを話したが、仙人はその薬を調
合するにはかなりの熟練技と日数を必要とすること、材料の入手が最近とみに
困難であることなどを長々と説明した後、代価を黄に示した。それは思ってい
たよりかなり高価であったので黄は出直すしかなかった。
(悪いが少し時間がかかりそうだ)

黄が言うと眼の中の女は不満そうに黙り込んだ。黄は気づかぬふりをしていつ
ものように交わりを持った。眼の中の女を思いながら、妻の体と。

黄は家の金をそっと持ち出し、親しい友人から借金もしていくらかまとまった
金を懐に仙人のもとへ行ったが、仙人はさらに口実を設けて値をつり上げた。
黄はすごすごと帰り、女に言った。
(金が足りないのだ)

女はこともなげに言った。
(あなたの妻の着物を売ればいいわ)

黄はその通りにした。着物はかなりの額で売れたが、やはり仙人は足りないと
言う。
(帯も売れば)

黄は言われるまま、妻の帯も持ち出した。

その頃になって妻は夫の変化にやっと気づき始めた。理由も告げずに時々どこ
かへ行く。衣装箱の中からいつの間にかめぼしい着物が消えていく。気に入っ
ていた紅梅白梅をあしらった着物、金糸銀糸の刺繍で飾った帯もなくなってい
る。どこか疲れたような表情を見せることが多くなっていた。

そこである日、妻は夫が出かけるのを見送るふりをしてそっとついて行った。
そして仙人の住まいを突き止め、夫が何度もそこを訪れていたらしいことを知
った。

別の日、妻はひとりで仙人を訪ね、夫がいったい何の目的で仙人を再三訪ねて
いたのかを問いつめたところ、仙人はあっさりと「眼の中の女」のことを教え
た。
「あなたはお気づきかと思っていた。何か、身体で感じてはおられませんでし
たか」

妻は真っ赤になった。酒のせいで熟睡しているとはいえ、かすかに意識が覚醒
している部分があり、どこか遠いことのようではあっても夫の体を感じないは
ずがなかった。妻は夫をいまだ深く愛していたので、それは彼女のなかでひそ
かに、奇妙な歓びとなっていたのだが。

妻は悩み始めた。夫は相変わらず彼女の衣類や飾りもの、自分の秘蔵していた
古書類などをそっと持ち出しては金に換えているようだ。このままでは生活自
体が立ちゆかなくなる。だが、自分の愛する男がやつれるほどに願っているこ
とがあるなら、それを叶えてやれるものなら叶えてやりたい。彼女は夫と、夫
の与えてくれる夜の不思議な楽しみを失いたくなかった。だが、その薬を得た
とき、夫と自分はどうなるのだろう?

ある晩、妻が深く眠った後、眼の中にいつものように女が現れた。
(薬はまだなの)
(すまない。金が足りないのだ)

黄が力なく答えると女は
(簡単なことじゃないの)と言う。
(私は知っているの。あなたが大事にしまっている、あの青磁の壺を売ればい
いわ。あれは高価に売れるはず)

黄はにわかに気色ばんで思わず大きな声を出して言った。
「何を言うんだ! あれは私が命の次に大事にしている壺だ。おまえにはわか
らんだろうが、見る人が見れば値打ちがわかる。一度手放せば二度とこの世で
巡り会えるかどうかわからない、特別な壺なのだ!」

女も負けずに言い返した。
「ふっ。いままでさんざん私に甘い言葉をささやいてきたのは嘘だったのね!
私のために壺ひとつも売れないなんて、情けないったら!」
「なんだと!」

どこか遠いところで声がするような気がして妻は眠りからさめた。そしてまだ
瞼を半開きにしたまま、自分のすぐ眼の前で眼を血走らせ、醜く顔をゆがめて
いる夫を見出した。その視線は彼女に向けられているようでそうではなかった。
夫が自分をまったく無視して自分の左眼の中に向かって話しかけているのを、
彼女はまじまじと見てとった。これ以上はないと思える悲しみが彼女を襲った。
「おまえは!」

黄がそう言ったとき、妻は自分の髪に挿した簪を素早く抜き取った。そして迷
わずそれを自分の左眼に突き立てた。ぎゃっという声が、妻の口からではなく、
眼から漏れたという。

【やましたくにこ】kue@pop02.odn.ne.jp
http://www1.odn.ne.jp/%7Ecay94120/

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■クリエイター手抜きプロジェクト(47)
InDesign CS編 フォント(書体)の指定

古籏一浩
───────────────────────────────────
今回は書体(フォント)の処理を行ってみます。フォントは1文字ごとに指定
できるので、処理する場合には文字単位で行う必要があります。まずは、選択
したテキストブロック内の、先頭の1文字のフォントを表示させます。

sel = app.activeDocument.selection;
fntName = sel[0].characters[0].appliedFont;
alert(fntName.name);
alert(fntName.fontFamily);
alert(fntName.fontStyleName);

最初に表示されるのがフォント名、次がフォントファミリー名、最後がフォン
トスタイルになります。フォントスタイルは「小塚明朝 Std R」であれば「R」
の部分になります。フォントはappliedFontの部分に設定し、次に太さなどの
設定をfontStyleに設定します。さらにフォントは以下のようにしてフォント
オブジェクトを指定します。

fntObj = app.fonts.item("フォント名");

フォント名は日本語で指定できます。Illustrator CSやPhotoshop CSでは英語
名でのフォント指定ですが、InDesign CSでは日本語名で指定できるので便利
です。文字パレットに表示されるフォント名をコピーして利用するのが、ミス
が少なくて安全でしょう。

以下のスクリプトは、選択された最初のテキストブロックの、最初の1文字の
フォントを"ヒラギノ角ゴ Pro W6"に設定するものです。

fntObj = app.fonts.item("ヒラギノ角ゴ Pro");
sel = app.activeDocument.selection;
sel[0].characters[0].appliedFont = fntObj;
sel[0].characters[0].fontStyle = "W6";

次に以前、Illustrator CSでもやりましたが、以下のスクリプトは平仮名のみ
フォントを変更するものです。選択されたテキストブロック内の文字が平仮名
であれば、小塚明朝 Std Rにフォントを変更します。フォントのみの変更で、
それ以外のスタイルなどは変更されません。

fntObj = app.fonts.item("小塚明朝 Std");
fntWeight = "R";
sel = app.activeDocument.selection;
for (j=0; j {
selObj = sel[j];
for (i=0; i {
cObj = selObj.characters[i];
result = cObj.contents.match(/[あ-ん|ぁ-ゎ]/);
if (result)
{
cObj.appliedFont = fntObj;
cObj.fontStyle = fntWeight;
}
}
}

●正規表現による検索

InDesign CSでも正規表現を使うことができます。上記のスクリプトでの正規
表現の部分は

result = cObj.contents.match(/[あ-ん|ぁ-ゎ]/);

です。平仮名を指定していますが、数字のみフォントを変更する場合は以下の
ようにします。

result = cObj.contents.match(/[0-9]/);

同様にアルファベットの場合は以下のようになります。

result = cObj.contents.match(/[a-z]/i);

InDesignの場合は標準でフォント検索、チェック機能が付いていますが、スク
リプトでも以下のようにして使用されているフォントを調べることができます。

sel = app.activeDocument.selection;
for (j=0; j {
selObj = sel[j];
for (i=0; i {
fntObj = selObj.characters[i].appliedFont;
fntName = fntObj.fontType;
if (fntName == FontTypes.truetype)
{
alert((1+i)+"文字目がTrueTypeフォントです");
}
if (fntName == FontTypes.bitmap)
{
alert((1+i)+"文字目がビットマップフォントです");
}
}
}

得られるフォントの種類には以下のようなものがあります。マニュアルでは
FontTypes.trueTypeになっていますが、マニュアルの間違いです。他にも大文
字小文字が間違っているため、以下の指定でないと正しく認識されません。

FontTypes.type1
FontTypes.truetype
FontTypes.cid
FontTypes.atc
FontTypes.ocf
FontTypes.opentypeCFF
FontTypes.opentypeCID
FontTypes.opentypeTT

InDesign CSのスクリプトは結構いろんなことができますので、活用すれば効
率的な仕事ができるかもしれません。ただし、「かもしれない」だけで、仕事
によっては全くメリットがないこともあります。InDesign自体が、かなり後発
のソフトであるため、必要十分な機能が最初からメニューに盛り込まれていま
す。どうしても、スクリプトでないとできない処理は少ないのかもしれません。

【古籏一浩】openspc@po.shiojiri.ne.jp <http://www.openspc2.org/>
フォント名の指定など、Adobeアプリケーションで共通化できるところは、な
るべく共通化して欲しいところです。そのようにすれば、プログラムを関数化
してライブラリ化でき、それを使い回しが容易になるんですが。
NASA World Wind用の日本、世界の都市などの座標ページを用意してます。
World Windを入れてからクリックすれば、自動的に指定した都市などに移動
します。
<http://www.openspc2.org/reibun/WorldWind/>

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■イベント案内
ジャパン デジタル アニメーション フェスティバル2005
<http://www.jdaf.gr.jp/index.html>
───────────────────────────────────
JDAF(ジャパン デジタル アニメーション フェスティバル)は、日本が世界
的競争力をもつアニメーションに着目し、制作過程でコンピュータを使ったア
ニメーションを対象に、若い才能を発掘・支援していくための国際コンペティ
ション「デジタル・アニメーション・コンペティション」を中心とするイベン
トで、1999年にスタートして4回目の開催となる。
今回の応募は個人・グループあわせ国内123作品、海外11カ国29作品の計152作
品。この中から事前審査を通過した19作品を、審査委員の浜野保樹氏(東大大
学院教授)、押井守氏(映画監督)、石川光久氏(プロダクションI.G代表取
締役・プロデューサー)、トム・シート氏(映画監督)、安田孝美氏(名大大
学院教授)が公開で審査し、グランプリ(賞金100万円)を決定する。

会期:6月3日(金)~6月5日(日)
会場:ナディアパーク/国際デザインセンター(名古屋市中区栄3-18-1)
・主な内容
6月3日(金)18:00~ レセプション(関係者によるフェスティバル前夜祭)
6月4日(土)
13:00~17:15 公開セミナー
17:30~18:30 特別企画「対談:押井守氏×石川光久氏」
13:30~17:00 クリエーター・プレゼンテーション(非公開)
6月5日(日)
10:30~12:00 アニメーション上映会「DEAD LEAVES」「Production I.Gマル
秘お宝映像」
13:00~15:30 コンペティション公開審査
15:30~16:00 特別企画「JDAFから巣立ったクリエーター」
16:30~17:30 授賞式(お楽しみ抽選会)
※全てのイベントに、どなたでも参加できます。入場無料。
(ただし、クリエーター・プレゼンテーションをのぞく)
※4日(土)・5日(日)の2日間、アトリウムにて、身近にあるデジタルアニ
メーション(技術)の紹介を行います。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■編集後記(5/30)
・やっぱり買ってしまった。デアゴスティーニのパートワーク(分冊百科シリ
ーズ)の創刊号。今回は「世界の昆虫DATA BOOK」、スーパー・リアル・フィ
ギュア「ニジイロクワガタ」のオスがオマケだ。実際の標本をもとに、実物大
(全長70ミリ)で作られたみごとな仕上がりだ。生産国は中国。緑と赤の何と
も表現できない美しいグラデーションが特徴だ。プラスチックのきれいなケー
ス入りで、高級感もある。これがオマケというか本体というか。昆虫好きなら、
とりあえず買うでしょう。そして、2号のフィギュアは全長18センチもある世
界最大のオオカブト、「ヘラクレスオオカブト」である。これも欲しい。貴重
な生態系を傷つけることなく、世界の昆虫をコレクションする。しかも原寸大
の精巧なモデルで。これなかなかいいコンセプトだ。肝心の本の方は、6つの
章で構成されており、毎回自分でばらして章毎にとじこんでいく方式だ。レイ
アウト、写真、イラストもかなりいい出来、印刷も満足できる。かつての昆虫
少年として、今度こそパートワークを完成させたいと思ったが、なんと100号
予定とか(新聞広告にも、創刊号にもそれは触れられていない)。2号目以降
は1,390円だから、13万円近くをこれから遣わなければならない。と考えると、
これは無理だなあ。でも、昆虫の形体っておもしろいし美しい。見ていて飽き
ない。いずれ美しい蝶のモデルも出てくるのだろうと考えると、全部を制覇し
たい気もする。まったく、この商法はうまいしかけだ。      (柴田)

・先週のお宅訪問の続き。お家は気に入ってらっしゃらないが、環境は楽しん
でらっしゃるようだった。渋谷まで数駅という便利なところなのに、公園は多
く緑道があったりする。あちこち探検しては、のんびり過ごされるのだそうだ。
慣れないヒールつきのサンダルで訪問してしまったのだが、散歩のためにかか
とのないサンダルを貸してくださった。素足になってぺたぺた歩く。東京へは
仕事を兼ねて行くことが多く(仕事を入れるといったほうが正しいかもしれな
い……汗)、足下が無防備なのってはじめてだ。重い荷物を持たずに歩いてい
ると住人になったような気分になれる。ぺたぺた歩いて世田谷公園に行き、ミ
ニSLが走っているのを見る。乗りたい~。噴水近くのベンチで、買ったコーヒ
ー片手に過ごすのが好きだと話されていた。私なら魔法瓶水筒にコーヒーを作
って(せこいっ)、ノートパソコン連れて公園で仕事してそうだ。バッテリー
がなくなったら午前中の仕事終わりって。注文していたプランターが届いたと
のことでアンティークショップに寄り、お店の奥のサンプルガーデンやアンテ
ィーク品を見る。なんだかイギリスに来たみたいだった。そのままカフェでお
茶。東京って好きじゃなかったけど、こういう場所なら住みたくなってしまう
な。いいなぁここ。                   (hammer.mule)
http://www.globe-antiques.com/  グローブ

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
発行   デジタルクリエイターズ <http://www.dgcr.com/>

編集長     柴田忠男 
デスク     濱村和恵 
アソシエーツ  神田敏晶 
リニューアル  8月サンタ
アシスト    鴨田麻衣子

情報提供・投稿・プレスリリース・記事・コラムはこちらまで
                        
登録・解除・変更・FAQはこちら <http://www.dgcr.com/regist/index.html>
広告の御相談はこちらまで  

★等幅フォントでご覧ください。
★【日刊デジタルクリエイターズ】は無料です。
お友達にも是非お奨め下さい (^_^)/
★日刊デジクリは、まぐまぐ<http://mag2.com/>、
E-Magazine<http://emaga.com/>、カプライト<http://kapu.biglobe.ne.jp/>、
Macky!<http://macky.nifty.com/>、melma!<http://www.melma.com/>、
めろんぱん<http://www.melonpan.net/>、MAGBee<http://magbee.ad-j.com/>、
のシステムを利用して配信しています。配信システムの都合上、お届け時刻が
遅くなることがあります。ご了承下さい。

★姉妹誌「写真を楽しむ生活」もよろしく! <http://dgcr.com/photo/>

Copyright(C), 1998-2005 デジタルクリエイターズ
許可なく転載することを禁じます。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■