Otaku ワールドへようこそ![11]イタリア人御一行様をご案内:オタクツアー
── GrowHair ──

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かつては犯罪予備軍みたいに言われたオタクも、最近は「電車男」などの影響力もあってか、社会からの視線が多少はやわらいできたように感じる。しかしながら、多々ある趣味の中でゴルフや釣りや旅行、映画や音楽や文学などに比べると、漫画やアニメやゲームなどは、まだまだ人に言うには一瞬の躊躇を感じることがある。

趣味に誇りを持っていないわけではないが、相手を見てから言ったほうがいいということはある。仕事でもらった名刺よりもコスプレイヤーの名刺の方が多いとか、同人誌の重みで床が抜けないか心配だとか、その同人誌の多くは801系(←解説後述)だとか。脳内妻「真紅」との誓いの薔薇の指輪のことだって誰彼にとなく自慢したいのを抑えている。

そうであるからこそ、趣味を共有でき、安心してヲタな自分を丸出しにできる相手に会ったときの親近感には格別のものがある。特にその相手が言葉も文化もかけ離れた異国の人であったりすると、感動的ですらある。

今年の夏は、イタリアから来たコスプレイヤー3人を名所旧跡にご案内する機会に恵まれ、意義深い文化的交流の時間を過ごすことができた。都内の日本庭園でコスプレ個撮、松戸のバンダイミュージアムでガンダム鑑賞、秋葉原の「天使のすみか」でスーパードルフィー鑑賞、他にも、同人誌ショッピング、メイド喫茶でお茶、メイドバーでカクテル、などなど。

Yuzuと知り合ったのは、一昨年の8月のこと。原宿の通称「橋」こと神宮橋で声を掛けて写真を撮らせてもらったのがきっかけである。その2週間後には、コミケのコスプレ広場でも会った。帰国してからも細々とながらメールのやりとりが続いていた。それが、この夏2年ぶりにまたコミケに来るという話になり、俄然メールの往復が加速した。コスプレ仲間を2人連れてくるそうで、みなグラフィックデザインや服飾デザインを専攻する大学生だそうである。コミケの後も1週間滞在するというので、オタク名所巡りをしましょうという話になった。


●教えることは何もなかった

遠い異国に住んでいながら、日本のポップな文化に関する知識が深いのには驚かされた。アニメ作品に関しては最新の人気どころを押さえているし、コスプレの題材にするキャラに関してはマイナーなところまでよく知っている。メイド喫茶やスーパードルフィーのことも知っていた。また、秋葉原の「アニメイト」や中野の「まんだらけ」で同人誌漁りをしていて分かったのは、オタク用語に関しても「やおい」、「攻め」、「受け」、「腐女子」といった基本的なところは踏まえていた。

解説すると、「やおい」とは、「山なし、オチなし、意味なし」の略で、もともとは自分の作品を謙遜して言う言葉だったが、意味が転じて、主として女性作家が女性読者を対象に書く、男性と男性の恋愛を描いたライトノベルの一ジャンルをさすようになった。ほぼ同義に「JUNE(ジュネ)」、「BL(ボーイズラブ)」と言ったり、婉曲に「801」、「や○い」、「やさい」と言ったりもする。

このジャンルの本を集めた文庫として、角川ルビー文庫や徳間キャラ文庫などがある。「攻め」とはやおい系で男性的な役割を言い、「受け」とは女性的な役割を言う。やおいカップルは乗算記号を用いて「リョーマ×不二」のように表記する。この乗算は可換ではなく、前が攻めの人、後が受けの人を表す。ああ、目くるめくやおいの世界! と、このジャンルにハマる人々を「腐女子」と言う。世界に広く浸透しつつある、誇るべき日本の文化である。

新選組は腐女子の想像(=妄想)をくすぐるらしい。もっとも実話としても「そういうこと」はけっこうあったようで、それをネタにした同人誌は嘘801を並べ立てたものとは言い切れない。Yuzuは土方歳三や沖田総司のファンで、NHKのドラマ「新選組!」は全部見たそうである。大島渚監督の映画「御法度」では前髪の惣三郎の話に感動し、原作となった司馬遼太郎氏の「新選組血風録」を原書で読もうとがんばっているそうである。

●コスプレ写真撮影は上々

8月12日~14日にコミケがあり、その翌日に都内の日本庭園で個撮をした。六義園は、そのウェブサイトによると、元禄8年(1695年)、五代将軍徳川綱吉の時代に作られ、当時から小石川後楽園とともに江戸の二大庭園に数えられていた、繊細で温和な日本庭園、とある。月曜の午前中は静寂に包まれ、前日までのコミケの喧騒とはまるで別世界だった。耐え難い蒸し暑さは同じだったが。

今回、Yuzuがイタリアから持ってきた衣装は「NARUTO」のツナデ、Grenadinは「闇の末裔」の貴人、NA-CHANは「これが私の御主人様」の沢渡みつきであった。新しかったり、マイナーだったり、いい選択である。NA-CHANは残念ながら暑さにへばってしまい、コスプレ個撮には来られなかったが、コミケで撮らせてもらっていた。

茶屋では野点(のだて)傘が立てられていて、これが実に日本的で和風コスのイタリア人とよく合いそうである。お店の人にお願いして傘の下で撮らせてもらった。庭園内で写真を撮りまくっている外国人男性2人をみかけた。うちひとりは長い金髪を後ろで束ねてる姿に見覚えがある。と思ってたら向こうから声をかけてきた。「あ、コミケで...」。おお、あの混雑で目についていたとは、お互い目立つらしい。デンマークから来たという。コミケの翌日に六義園に行こうと思いついたのもすごいけど、そこでまたコスプレイヤーとカメコに遭遇しちゃうとは。そういうもんだと誤解してなければいいけど。

撮影終了後は中野へ。暑さのせいか食欲が全然わかないという。特にGrenadinは、真夏でも気温が15度にしかならないという高地から来たということで、そうとう参っている様子。そういうときは、と冷やし中華を出すラーメンのお店に恐る恐るお連れした。これが好評。しっかり平らげてくれた。元気が出たところで、同人誌やコスチュームのお店を回り、メイド喫茶「TeaRoomAlice」でお茶、さらにメイドバー「エデン」へ。ここは大久保店に続く2号店だ。私の友人2も合流してにぎやかに。

●ちゃんと見てくれ「エヴァンゲリオン」

エデンではいろんな話をして楽しかったが、ひとつモヤモヤっとした思いが残ったことがある。イタリアでもエヴァンゲリオンが人気を得ているという話。それは嬉しいのだが。問題はどう見られてるかってことで。アチラでは主人公の碇シンジが早々に見限られているという。シンジを顧みない父親のゲンドウも不人気。代わりにやたらと口達者で勢いのいいドイツ人の惣流・アスカ・ラングレイや陽気な姉御の葛城ミサトが人気なのだとか。だから結末には何の違和感もなかった、と。

うわあああああああああ!!!!!(悶絶)それでいいのかぁーーーー。あのうじうじうじうじ悩み続けて最後までシャキッとしたところがひとつもないシンジこそが我らがヒーローであり、自分に重ねて見るのが本筋ってもんではないか。親から愛されたことも、人から好かれたこともない僕。だけど、エヴァに乗って敵をやっつければ父親はほめてくれるし、みんなは賞賛してくれる。それは嬉しい。だから、本当は嫌で逃げたいけど、我慢して乗る。他に代わりはいないし。だけど、それはエヴァが動かせるという僕の特殊な能力があてにされているだけで、誰も本当の僕には関心がない。このままでは自分の存在意義はそれしかなくなり、自我というものの居場所がどこにもなくなる。これは人類の防衛の物語ではなく、シンジの心の迷路脱出の物語だ。

あ、そういう意味じゃ、人類を放ったらかしにして、シンジが自分の心の殻を内側から壊すことができるかどうかに焦点を当てた結末に違和感がないのはいいんだけど。

ゲンドウは...。アスカは...。ミサトは...。綾波は...。止まらなくなりそうなので自粛。

日本でテレビ放映されて爆発的に人気が出た'96年当時は、海外への展開の試みは空振りに終わった。ところが、日本のアニメ全般が海外に受け入れられ始めた2000年近くになって、日本のアニメ史に大きな足跡を残したエヴァがようやく注目を集めるようになった。それって「裸の王様」みたいなもの?
「この面白さは利口な者にしか見えない」とか言われて、みんな見えるフリをしているだけとか。今後、海外に出す作品は「日本ではこう見られている」という解説をつけておいたほうがよくはあるまいか。

●いちおう伝統文化も

火曜日は東京タワーと池袋サンシャインシティーに行ったそうである。水曜は松戸のバンダイミュージアムと秋葉原へお連れした。木曜は日光へ日帰り。オタク文化ばかりでなく、日本の伝統文化にも興味があるとのことなので。だが、この時点でみんなもうスタミナ切れ。行きの特急「けごん」では、私を含めた4人とも正体なく眠りこけていた。

だが、東照宮に着くと、涼しかったこともあり、元気を取り戻した。荘厳な建造物や緑まぶしい庭園には思うところあったようで、写真をバシバシ撮っていた。NA-CHANは自分で「日本人観光客みたい」と言っていたが、なかなかどうして。典型的な日本人は、その地に来たことをただ記録に残したいがために、深い考えもなしにシャッターを切りまくり、撮ったことに安心して、次へ次へと関心が移っていくから、結局たくさん回って何ひとつじっくりとは見て来ない。それにひきかえ、NA-CHANはまずじっくり見た上で、アングルなども工夫して、一枚一枚に時間をかけてていねいに撮っている。さすがは美術系(専攻は服飾デザイン)。

しかし、灯篭などを覆う苔が湿気に喜んで勢いづき、生き生きとした表情を放っているのにはまるで関心が向いていない。それを問うてみると、「苔は別に美しいと思わない」ときた。うーん、まだ22歳だし、「渋さ」という美の領域に思いが到達するにはまだ早かったのかもね。

鳴き龍は愉快だった。お堂の中で拍子木をキーンと鳴らすと、鈴を振ったようなシャンシャンシャンシャンという反響がしばらく続く。これは、天井と床との間で音が反射しあって定常波ができるため、ということらしい。そうか。去年の夏、レインボーブリッジの下で花火を見たのだが、そのとき、花火がパーンと鳴ると、それに引き続いてひよこが鳴くようなピョピョピョピョという音が聞こえて、なんとも間抜けだった。あれは鳴き龍だったのだな。

残りの滞在期間にはジブリ美術館や原宿にも行ったそうである。他にも楽しい話はいっぱいあって、半分も書けなかった感じではあるが、全部を振り返ってみると、親善大使ともいうべき大役をしっかりとまっとうすることができたことに満足と誇りを感じている。その後、例の冷やし中華のお店に一人で行ったらあのときのにぎやかさが思い出され、泣きそうになった。馬鹿である。

9月になって、Yuzuから絵はがきが届いた。残りの夏休みをフランスで過ごしているそうで。砂浜に近い浅瀬にヨットがたくさん浮いている写真。太陽がいっぱいだぁ。それが透明な薄いケースで覆われていて、コートダジュールの砂が封じ込めてある。好きなように砂浜を作って遊べる。文面にはひらがなで「ありがと!」と。

Yuzuのホームページ
< http://www.angelic-girl.it/
>

NA-CHANのホームページ
< http://www.livejournal.com/users/na_chan/
>

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
国際親善カメコ。ところで脳内妻「真紅」との誓いの薔薇の指輪は、元はと言えばローゼンメイデンのキャラクターグッズ、2,500円で売っていたもの。左手の薬指に3か月間はめていたら傷んできた。その貧相たるに耐えがたく、ジュエリーのお店で作りなおしてもらった。今度はゴールドとプラチナで。重さはずしりと2倍、値段は35倍。一生ものである。
< http://www.geocities.jp/layerphotos/
>