Otaku ワールドへようこそ![13]ロリ服が好き
── GrowHair ──

投稿:  著者:


ファッションの一ジャンルに「ロリータ」というのがある。ロココ時代の上流階級のお家に暮らす、12歳ぐらいの少女のお出かけスタイルといったイメージのいでたちである。刺繍やフリルやリボンによる装飾がこれでもかってくらい施され、乙女チックな可愛らしさが強調された服である。実際には現代の10代から20代向けであるが。

ロリータ服の代表的なブランドに "Baby, the Stars Shine Bright" というのがある。去年の夏ごろ上映された映画「下妻物語」でフィーチャーされて、一気に人気が高まった。深田恭子の演じる主人公桃子がこのブランドのお洋服をとっかえひっかえ着て登場するのである。

中でも特に可愛いのが「はわせドール」と名前のついたワンピースのピンクである。おフランスの野山の空想シーンや茨城県下妻の牛のシーンなどで着ていて、ポスターにも使われている。ピンクの綿の生地には薔薇の刺繍が施され、白の細かいレースが縦にも横にも走り、さらにピンクのリボンがあっちにもこっちにも、ばってんばってん、蝶結び蝶結び。今、それを着てこれを書いている。はぁ~ん♪(うっとり)

いや、以前から密かにそういう趣味があったというわけではなく、特にロリ服を着るのは今日が初めてである。しかしまあ、着てみたかったのは否めないところで。これはKotoiっちにお願いして譲り受けたものである。彼女とは、4月に新宿のロフトプラスワンで開催された「ローゼンメイデン決起集会」で知り合った。その後も何回か会っているが、ほとんどいつもロリータ姿であり、しかも同じ服を二度見ることはなく、クロゼットにはいったいどれだけあるんだか計り知れないぞってあたり、下妻の桃子に通ずるものがある。そう言えば、深田恭子の出演する「富豪刑事」にはエキストラで出て、撮影終了後に本人ともあいさつを交わしたそうである。

5月にバラ園にて、Kotoiっちと彼女の分身のスーパードルフィー「ローズ」ちゃんとをお揃いの姿で撮らせてもらったのだが、そのときのを最近譲り受け、今着ているというわけである。はぁ~ん♪


●遠い思い出

初めて女装したのは小学校1年のときである。した、というか、させられたのだが。あのころ私は、クラスの女の子のスカートをめくることを人生の目的としていた。朝、1時間目の授業が始まる前にはクラス中の女の子がどんなパンツをはいているかを把握しておくのが日課になっていた。今でもあの子たちを思い出すときは、パンツとともに記憶がよみがえってくる。医者の娘であるゆき子はシルキーな光沢のある白だったし、かおるの赤に黒の縁取りのあるやつとか、たか子の緑色の毛糸のなんかが珍しかったのを昨日のことのようにありありと覚えている。

教育熱心な鈴木道子先生は、そんな私の将来を案じ、この悪癖をなおす策を練って下さった。で、クラスの前で大恥をかかせればきっと懲りるに違いないと思い至られ、再三の警告の後、ついに私にスカートをはかせた。そのスカートはひろみのはいていたものである。真っ赤なプリーツの吊りスカートで、吊り紐が背中でクロスしていた。クラス中の視線が集まる中、教卓の陰で先生は私のズボンを脱がせ、ひろみのスカートをはかせた。ちなみに私の位置からひろみは丸見え、クリーム色の毛糸のパンツをはいていた。私はポーズをとってみせたりして、クラス中がやんやと沸いた。

鈴木先生、ひとつ誤算がありましたね。それ、罰にも何にもなってませんでしたよ。ウケる快感を学習してしまいました。もし今どこかで同じようなことがあったら虐待とか人権侵害とかで問題になりそうであるが、私としては今振り返ってもそういう解釈はぴんとこなくて、トラウマどころかむしろいい思い出である。仰げば尊しわが師の恩。

まあ、スカートめくりのほうは、ほどなく止んだ。しかし、小学校の高学年まで、女の子から髪留めなどを借りては自分につけたりしていた。もともとは笑われるためにしたことだったが、意外と目が慣れるようで、すぐに誰も反応しなくなった。それを逆手に取り、市民権を得たものとして、一日中つけていたりした。そうこうするうちに、そういう装飾品がけっこう好きになっていった。ただし、それをきっかけに女装に目覚めちゃったというほどではない。中学高校は一貫の男子校へ行き、女の子自体が遠きにありて思うものになった。

目覚めたのはつい今しがた、それも本格的にというほどではなく、半分はシャレである。これからどんどんエスカレートしていくことは多分ないと思う。まあ、着心地はすこぶるよろしいのだけど。はぁ~ん♪

●ロリ服と悪戦苦闘

普段は着るものにほとんど頓着しない。高校時代からさして変わらぬ格好である。こういうファッションにも最近は名前がつくようになり、「アキバ系」、「アキバカジュアル」、「A系」などと呼ばれる。

アインシュタイン方式とにな川方式の採用により、朝起きてから10分で出かけられる態勢が整う。アインシュタイン方式とは、何を着て行くかというような些事に囚われる時間を最小限に抑えるために、アインシュタインにより考案され実践された方式で、同じ服をたくさん揃えておくというものである。にな川方式とは、綿矢りさの小説「蹴りたい背中」からで、にな川が部屋に干しっぱなしの洗濯物を直接もいで着ることから。

ところがロリ服を着てみると、女性がお出かけの準備に途方もなく時間がかかるというのがよ~く理解できる。まず、上下揃いのパンティーとブラを付け、さらにドロワーズという下着をはく。これはKotoiっちに買ってきてもらったのだが、Babyの純正品で9,345円もした。裾のレースが大きくて、かなりリアルな薔薇の花の模様になっている。

それからワンピースを着るのだが、一番苦労したのは首の後ろでホックを留めるところ。小さな輪にホックをひっかけないといけないのだが、見えないので手探りだし、後ろ手なので、どっちにどう力をかければよいのか、感覚がつかめない。思っていた向きと反対に動かした瞬間、偶然ふっと留まった。

それで終わりではない。首の下あたりと胸の両脇とに一対ずつ長いリボンが垂れているのだが、これをどうしたらいいのか。Babyのホームページへ行って調べる。首のリボンは、前で交差させて、首の後ろで蝶結びに。難しい~。胸の脇のリボンは背中で蝶結びに。一段と難しい~。他にも蝶結びにするとこがいっぱい。袖のリボンがほどけると大変で、着たままでは結べない。幸い袖だけ着脱可能になっているので、全部脱がなくて済むのは助かるけど。まさに悪戦苦闘。仕上げは同色の大きなカチューシャリボン。

これは恥ずかしいのであんまり言いたくないのだが、実は背中のファスナー、上がりませんでしたー。私の体型はB92・W90・H93、でかすぎるらしい。中学高校時代は背が低いのを引け目に感じていたものだが、今となってはでかくなってしまった自分が恨めしい。なんと、Babyのお洋服は、ひとつしかサイズが用意されていないのでした。お洋服が着る人を選ぶというコンセプトのようで。私じゃ、だめですか? Babyの社長兼デザイナーであらせられる磯部様、どうか大きいサイズのも作っておくんなまし~。

●これはお薦めかもしれない

悪戦苦闘の甲斐あって、着心地は最高。ああ、もう、どうかなりそう、ってくらい。着ているものの色が淡いピンクだと、それだけでがらっと気分が変わる。人間の内部に本来備わっているのに、ともすると忘れられがちな、生きようとする原動力みたいなものを、可愛いお洋服が引き出してくれる感覚。

現代社会は高度に文明が発達し、暮らしが超便利になっている反面、どこか精神を疲弊させ、元気を萎えさせるものがある。内部が疲弊しきっているのに、表層的な意識がそれを認めず、がんばらねばと意思の力で何とかして自分を奮い立たせようとするとき、本来内発的に湧き出してくるはずのエネルギーまで表層意識の支配下に置いて管理しようとする無理な力が働き、エネルギー源はかえって抑え込まれてしまう。そんなときこそ、ピンクのひらひらを着てみよう。ロリ服セラピー。

日本人の平均寿命を見ると、女性85.0年、男性77.8年と、女性の方が7年も長い。また、一般的に女性の方がストレスに強いと言われる。これにはいろいろな要因があろうが、着るものの違いというのは効いていないのだろうか。女装する男性はしない男性よりも長生き、なんて統計はないかな? 来年はクールビズを一歩進めてキュートビズで行かないか、小泉さん。

試しにと「女装サロン」でググってみた。おおーっ、やってる、やってる。メジャーなところでは、百人にもおよぶ女装者たちを美しく撮った写真が載っている。うわっ。...しばし絶句...。みんな表情がいい。顔のいかつい造形はどうにもならんとして、微笑む表情が女性そのものなのである。こんな表情は普段の男性からは決して見ることができない。心が開放されて嬉しそう。

それともうひとつ、女装する男性というのは、男性から見るとおぞましいイメージがあるかもしれないが、女性からは意外とウケがいい。それは、女性の側に立ってものごとを見てみようとする姿勢に対する親しみ感なのかもしれない。世に女好きの男性は多いが、ややもすると、獲物かトロフィーのように、対象を獲得しようとの強い思いに駆られているばかりで、女性の内面を深く理解しようという姿勢が伴わないことがある。対象として相対するのではなく、壁の向こう側に回って同化しようとしてみるときに初めて見えてくる女心みたいなものがある。

例えば、女性が着飾るのは、男性の気を引きたい心理からくるものだと信じている男性が多いようだが、それは大きな勘違い。私がBabyのお洋服を着るのが男性の気を引く目的でないのと同じである。すべては自分の気分を高めるため。

ストレスを溜め込んで参りそうになっている世の男性諸君、だまされたと思って女装してみよう。美しく着飾って、ちょっとはにかみつつにっこりと微笑んでみれば、あ~ら不思議、元気百倍ですぞ。お互い長生きしようではないか。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
カメコ。いくら何でも半年以上放ったらかした無精ヒゲとロリ服とでは相容れないものがあった。でも、脱色して同系の淡いピンクに染めればヒゲもそれなりに可愛く見えそうな気がする。さすがにやる勇気ないけど。
< http://www.geocities.jp/layerphotos/
>