[1929] 失われゆくものたち

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.1929    2006/03/03.Fri.14:00発行
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   1998/04/13創刊   前号の発行部数 17866部
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<いつも瞳にシニカルな光>

■映画と夜と音楽と…[282]
 失われゆくものたち
 十河 進

■Otaku ワールドへようこそ![23]
 アニメの感動よみがえる、ローゼンメイデンファン感謝祭
 GrowHair


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■映画と夜と音楽と…[282]
失われゆくものたち

十河 進
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●ずっと気になっていた映画だった

「ハッド」という映画をずっと見たかったのは、監督がマーティン・リットであることと同時に、ポール・ニューマンが自分のフィルモグラフィーの中でもこだわった作品であること、それに、パトリシア・ニールがアカデミー主演女優賞を獲得した作品だったからだ。

その「ハッド」をワウワウのアカデミー賞特集の放映で、ようやく見ることができた。モノクロームのワイドスクリーンが始まったとき、僕はちょっとわくわくした。何も予備知識がなかったから、「ハッド」が主人公の名であることも知らなかった。

だから、最初にテキサスのハイウェイを走るトラックから降りた青年の顔を見て「シェーン」の子役じゃないかと驚いた。「シェーン」の主題曲「遙かなる山の呼び声」は「シェーン…、カムバック」と叫ぶ少年の声が有名だが、その少年(ブランドン・デ・ワイルド)が成長し、青年として登場してきたのだ。

「ハッド」は1963年の作品で、その前後にマーティン・リットはポール・ニューマンを主役に何本も撮っている。同年に撮影された「暴行」(何というミもフタもない邦題だろう)もニューマン主演である。何とこれは黒澤明の「羅生門」のリメイクで、ニューマンは三船敏郎が演じた盗賊の役だ。

京マチ子が演じた暴行される妻役はチャップリンの「ライムライト」でヒロインを演じたクレア・ブルーム(リット監督の「寒い国から帰ったスパイ」でもヒロインを演じた)だった。森雅之が演じた殺される夫はローレンス・ハーヴェイ(イギリスの名優でした)である。

1961年制作の「ハスラー」がヒットし、「ハッド」の評価も高かったポール・ニューマンは「H」がつくタイトルにこだわり、ロス・マクドナルド原作のリュウ・アーチャー・シリーズ「動く標的」を映画化する際にアーチャーの名をハーパーと変更させた。だから「動く標的」の原題は「ハーパー」である。

「ハッド」の登場人物は少ない。テキサスの牧場主である老人バノン(メルヴィン・ダグラス)、その次男のハッド、事故死した長男の息子ロン(ブランドン・デ・ワイルド)とメイドのアルマ(パトリシア・ニール)の四人だけであると言ってもいい。

そのアルマの役もそれほど重要ではない。出番も少ない。それでも、翌年、パトリシア・ニールはナタリー・ウッド、シャーリー・マクレーン、レスリー・キャロン、レイチェル・ロバーツという有力な候補者たちを尻目に主演女優賞を受賞する。

彼女が演じたアルマは人生の苦汁をなめ、今はテキサスの牧場主の家で家事をする中年女である。身なりに構わず、いつも口の端にタバコをくわえ、乱れた髪のまま男のような口をきく。口を開けば皮肉な口調で吐き捨てるように答え、いつも瞳にシニカルな光を宿している。

人生を諦めてはいないけれど、投げ出しているようには見える。男に散々な目に遭わされて懲りているが、それでも男の甘えを許す部分も持っている。いろいろな経験をしたせいか、ちょっと違う高みから人の生き方を見ることができる。そんな汚れ役を、パトリシア・ニールはリアルに演じていた。

●青年の目から見る新旧モラルの対立

映画の視点は、ブランドン・デ・ワイルドが演じる青年ロンに設定されている。彼は祖父バノンと叔父ハッドの対立する関係を見つめ、アルマの人生を想像し、彼らの葛藤を目撃する。ハッドの無頼な生き方に憧れていた彼は、祖父の敬虔な生き方を学び成長する。

映画はロンがハッドを探しに町にやってくる早朝から始まる。酒場の主人が割れたガラス窓を片づけている。「ハッド?」とロンが聞くと、「そうだ」と主人が答える。昨夜、酒場で酔ったハッドが喧嘩したのだ。そんな描写が続き、ハッドの無頼な生活が間接的に語られる。

ある家の前でロンはハッドの車を見付ける。ハッドは亭主が留守の人妻のベッドに潜り込んでいたのだ。そこへ亭主が帰ってくる。言葉巧みに間男をロンだと思い込ませてハッドは猛スピードで車を発進させる。そんな破滅的な生き方の叔父をロンは憧れの目で見ている。

牧場に帰ると一頭の牛が死んだと知らされる。「禿鷹に食わせてしまえ」と言うハッドをたしなめてバノンは「悪い病気かもしれない」と獣医に知らせ検査結果を待つ。やがて、死んだ牛が口蹄病だと判明する。だとすれば、接触した牛すべてを処分しなければならない。

このシーンを見ながら、僕は鳥インフルエンザにかかった鶏が発見されたあの養鶏会社の悲劇を思い出した。鳥インフルエンザかもしれないと思いながら鶏を出荷し、そのことをマスコミに報道され、経営者の老夫婦が自殺したあの事件である。

同時に、今のアメリカ牛肉の輸入問題も連想した。テキサスの牧畜業者は今もハッドとその父親のような口論をしているのかもしれない。「国の補償なんて何の役にも立たない。口蹄病の判定が出る前に牛を売ってしまおう。そうしないと破産だ」と言うハッドに、父親は「おまえはどうしてそんな男になってしまったんだ」と嘆く。

ハッドはかつて交通事故を起こし、その巻き添えで兄を死なせてしまったことによって父から疎まれているのだと思っていた。何かにつけて兄の方が自分を上回っていたことも、彼が屈折する要素だった。父は、自分ではなく兄を愛していたのだとハッドは思っていた。

しかし、「口蹄病の判定が確定する前に牛を売ってしまおう」と言うハッドに父親バノンは「事故の前からおまえはちっとも変わっていない」と言う。事故の前からおまえのことはもう諦めていた…。

──誰にもわかりゃしない。

そういうハッドをバノンは絶望の表情で見つめる。

●消え去ってゆく古きよき生き方

バノンの気持ちが僕にはわかる。手塩にかけて育てた息子が平気で不正をしようと言っているのだ。確かに破産するかもしれない。だが、伝染している可能性のある牛を売ればテキサス中の、いや、国中の牛に病気が蔓延するかもしれない。そんなことも息子はわからないのか。

そんなモラルは、古いテキサスと共に滅び去ったのだろうか。ハッドのような世代が生まれているのだろうか…。バノンの胸をよぎった想いは想像できない。しかし、彼は情けなく思っただろうし、我が子だけに絶望したに違いない。

だが、自分が破産しても迷惑はかけられない。自分の牧場の牛を殺せば防げるのなら殺すしかないのだ。病気が確定した後、彼らはブルドーザーで掘り返した大きな穴に牛たちを追い込む。男たちが一斉にライフルを撃つ。一頭残らず、牛を処分する。まるで虐殺だ。

そのときのバノンの辛さが、悲しみが…、硝煙の中から漂ってくる。ひしひしと伝わってくる。無表情にライフルを撃つハッドは何を思っていたのだろう。

バノンが一頭の牛の病死を獣医に診せ、伝染性の口蹄病だとわかれば潔くすべての牛を処分したのは、そうすることが当然だったからだ。正しいことだったからだ。営々と築いてきたすべてのものを失っても、もしそこで不正をしたら彼は自分を許せない。

「誰にもわかりゃしない」と息子は言う。そうだとしても、自分にはわかっている。そんなことをする自分にプライドは持てない。誇りを持って生きていけない。牛が病気になったのは、もちろん不運だ。だが、また立ち直れる。老牧場主はそう思ったに違いない。

死が迫りながらも不運に敢然と立ち向かうバノンの生き方を見たロンは、ハッドに批判的な言葉を口にする。バカ正直な父親を非難するハッドは、もうロンのヒーローではない。女を寝取り、無意味な喧嘩三昧に明け暮れ、平気で病気の牛を売ろうとするハッドは、ロンの反面教師でしかない。

バノンによって体現されていた古きよきモラルや意固地なまでの生き方のこだわりは、消えゆくものたちではあったけれど、若いロンに繋がるのだという希望を感じさせて映画は終わる。だが、現在、現実の世界ではバノンのような生き方は失われてしまったのかもしれない、と僕は思う。

「ハッド」は、1960年、テキサスの牧場主の息子だったラリイ・マクマートリイが24歳のときに発表した処女小説の映画化である。僕にはロンが作者の分身のように思えた。それは青年が人生の真実を知る物語だ。物語が進む中で、青年は成長を遂げる。

ラリイ・マクマートリイは6年後に三作目の小説「ザ・ラスト・ピクチャー・ショー」を発表する。テキサスの田舎町の少年少女の成長と青春の終わりを、たった一館しかない映画館の閉館に重ねて描いたこの小説もラリイ・マクマートリイ自身の脚色で映画化され、「ラスト・ショー」の邦題で封切られた。

ラスト・ショーの主人公たちもそうだったが、ラリイ・マクマートリイはマッチョなイメージの強いテキサスを舞台にしながら、繊細な青年たちを描き出す。テンガロンハットにカウボーイブーツ姿のロンも繊細な青年だ。彼がメイドのアルマに人生とは一体何なのかと聞くシーンが印象に残る。

──それはね…、ほかの人に聞くんだね。

だが、アルマの過ごしてきた人生を想像できるまでに成長したロンには、そう答えるアルマの想いが、優しさが…、伝わったはずだ。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
僕が知っているシズカさんは静だった。一時はモテ男の代表みたいだった伊集院静は男である。静香という字を見ると思い出すのは「眠狂四郎無頼控」に登場する薄幸の美女。この一週間、静香という字を何度見聞きしたことだろう。

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■Otaku ワールドへようこそ![23]
アニメの感動よみがえる、ローゼンメイデンファン感謝祭

GrowHair
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テレビアニメ「ローゼンメイデン」の放送が終了したのを受けて、2月19日(日)5:00pmから2時間半以上にわたって、横浜BLITZにてTBSテレビ主催の「ローゼンメイデンファン感謝祭」が行われた。11人の声優によるトークと、歌手宝野アリカさんによる主題歌の歌唱に、約2,000人のファンが聞き入った。アニメの感動がよみがえり、舞台も客席も涙、涙。

●ローゼンメイデンはひきこもり中学生とドールの話

「ローゼンメイデン」は女性2人のユニットPeach-Pitが「月刊コミックBIRZ」に連載中のコミックである。一昨年末からテレビアニメ第一期(12話)が、昨年末から第二期が放送された。

「ジュン」は、小学生時代は優等生だったのに、中学に入ってからは学校に適応できず、ずっと家にひきこもっている。両親は遠くに行ったきりだが、姉の「のり」はジュンを心配し、何とか学校へ行かせようとする。やさしい性格だが、どこか天然ボケなところもある。

ジュンはパソコン通販で怪しげなグッズを注文し、見たら即返品という暗い趣味をもっているが、ある日「まきますか、まきませんか」と書かれた紙を見つけ、前者に丸をつけると、精巧な人形が届く。「真紅」である。ねじを巻くと動き出す。女王様然とした誇り高きドール。

七体のドール姉妹は、一体が勝ち残るまでお互いに闘わなくてはならない宿命を負っている。「水銀燈」は黒い翼を持ったゴスロリ人形。一見、悪の象徴のようだが、実は不治の病をかかえる「めぐ」を助けたいという動機をもっている。真紅と水銀燈との最初の闘いの中で、ジュンは真紅と契りを交わし、お互いの左手の薬指に「誓いの薔薇の指輪」がはめられる。

「雛苺」は学級委員「巴」のところにやってきたドール。子供子供して、ぎゃーぎゃーびーびー騒々しい。「翠星石」と「蒼星石」は双子の姉妹。人々の生命力を象徴する樹に働きかける如雨露と鋏をそれぞれ持つ。翠星石は口が悪く、ジュンをチビ人間だの駄目人間だのとけなす。第二期で、「金糸雀」と「薔薇水晶」も登場する。

●深まる絆

私がこの作品を知ったのは、一昨年の冬のコミケのコスプレ広場でドールたちの衣装の人々を見かけ、美しさに目を奪われ、撮らせてもらったのがきっかけである。年明けには中野のメイド喫茶「Tea Room Alice」にてコミックを読み、そこのメイドさんがテレビアニメで泣いてしまったという話を聞き、DVDを見て、どんどんのめり込んでいった。

4月末に、第二期制作決定を受けて、新宿のロフトプラスワンで開かれた「決起集会」では、松尾監督と声優さんたちのトークに聞き入った。そこでロリータ姿のKotoiっちと知り合った。また、真紅を脳内妻に迎えることに決め、左手の薬指に「誓いの薔薇の指輪」をするようになった。

Kotoiっちとはその後、薔薇園でスーパードルフィーの「ローズ」ちゃんと一緒に撮らせてもらったり、当時新大久保にあったメイドバー「エデン」で騒いだり、ロリ服を譲ってもらったりした。

8月には、誓いの薔薇の指輪を、ゴールドとプラチナで特注した。12月25日(日)、Volks主催のドールのショウ「ドルパ」で真紅のスーパードルフィーがお披露目された。一体約10万円で、数百体が販売されたようだが、注文が殺到して当たる確率が低く、私は「お迎え」することができなかった。ヤフオクでは24万円の値がついていた。(((無理)^2)^2)^2

冬のコミケのコスプレ広場では、ドールたちの姿があっちにもこっちにも。このアニメの人気の爆発ぶりを物語っている。素材のベルベットや別珍はめちゃめちゃ高いけどがんばっちゃうところに、「ここまでやったんだ」という気持ちの入れ込みようが現れている。

そして、今回のファン感謝祭である。第三期制作決定か、の期待が高まる。イタリアのBarbaraからもメールが来て、それを聞いてきた。全く遅延なく、同じことが話題になっているのに驚かされた。

●感動映像の再現と声優のトーク

往復はがきでの応募に、落選。ヤフオクでは、整理番号の若い当選はがきに24,000円の値がついていたが、私は慎ましく1,100番台を100円で落札。

4:00pmの開場時刻には、整理番号順に入場待機列ができている。9割以上が男性。ちらほらといる女性は水銀燈コスだったり、ロリータだったり。前の方にKotoiっちを見つけることができた。本人は桜葉巴コス、そして薔薇のトランクの中には雛苺コスのローズちゃん。コスチューム作りに4連続徹夜したんだとか。

入場すると、一階はすべて立ち席。私はほぼ一番後ろに。開演5分前になるとブザーが鳴り、真紅の声で諸注意。「あなたたちは誇り高きローゼンメイデンのファン。ケータイで撮影なんて、もってのほかね」。苦笑。5:00pmに開演し、まず司会者が登場。ニッポン放送の吉田尚記アナウンサー。えっ? TBS 主催なのに?

最初の催しは、手紙の読み上げ。舞台の両袖に交代交代でスポットライトが当たり、一人ずつ、キャラの声で近しい相手に宛てた手紙を読み上げる。

真田アサミ:桜田ジュン → 真紅
沢城みゆき:真紅 → 桜田ジュン
力丸乃りこ:桜田のり → 桜田ジュン
河原木志穂:柿崎めぐ → 水銀燈
田中理恵:水銀燈 → 柿崎めぐ
後藤沙緒里:薔薇水晶役 → お父様

あまりの迫力ある演技に、会場はしーんと静まり返り、拍手も声援も出ない。空気を壊したくない。緊張感がどんどんどんどん高まってゆく。余命いくばくもないことを自覚しているめぐは水銀燈に宛てて、「黒い羽の天使に、空の向こうへ連れていってほしい」。

終わってから司会者がよろけながら登場。拍手のないのはよほど想定外だったようで。次に、別の5人の声優さんが登場。一番印象に残ったシーンを流し、それについて語り。

野川さくら(雛苺役)
倉田雅世(柏葉巴役)
志村由美(金糸雀役)
桑谷夏子(翠星石役)
森永理科(蒼星石役)

倉田さんと野川さんが、巴コスのKotoiっちと雛苺コスのローズちゃんに気がついて、舞台から手を振ってくれていた。

森永さんが選んだ映像は、蒼星石が死ぬ間際に薄れゆく意識の中で、翠星石にお別れを告げるシーン。翠星石と蒼星石は一心同体のような双子の姉妹なのに、泣いてすがる翠星石を振り切って蒼星石が水銀燈と戦い、散る。森永さんは泣かずに台詞が言えるように、あらかじめ何度も何度も見慣れるまで映像を見ておいたんだとか。桑谷さんの方は、翠星石が泣きながら言う台詞なので、本泣きしながらアフレコ、だそうで。

雛苺が力を使い果たして、ほとんど止まりそうになりながら巴にありがとうを言うシーンでも、野川さんが泣かずに台詞を言うのに苦労したんだとか。あれが放送された直後は、mixiのコミュでも泣いた、泣いた、泣いた、泣いた、って書き込みが続々だった。くんくん役の津久井さんは、泣きながら収録室から外へ退避してしまったそうで。

先ほどの手紙を読み上げた声優さんたちが再登場して同様に。力丸さんが選んだのは、のりがジュンに平手打ちを食らわせた後のシーン。あれは、ローゼンメイデン全体の中でも一番いいところだ。ジュンは駄目人間として周囲のお荷物であり続けることに自己嫌悪が募り、もう、生きるか死ぬかという瀬戸際まで追い詰められている。ジュンの生命に対応している樹は枯れかけている。のりに「もうすぐいなくなるからね」と言う。それまで腫れ物に触るようにジュンを見守ってきたのりは、ジュンに平手打ちを食らわせる。そして涙ながらに言う。「この世に駄目じゃない人間なんていない」。みんな何もできなくてつらいのに、一人で逃げないで、と。それでジュンはようやく生きる方向へと向き直る。

田中さんが選んだのは、水銀燈が真紅に敗れ、炎に包まれて崩れ落ちて死んでいくシーン。もともと不完全な体にできてしまった人形。戦いに勝ち抜いて完全な体に生まれ変わりたかったのに、思いかなわず、恨み言。そしてお父様のもとへ行けなかった無念さの吐露。鬼気迫る壮絶な最期。

真田さんが選んだのは、桜田家の階段で展開するどたばたコメディシーン。それまでシリアス路線で進めてきて、この回になっていきなり3等身デフォルメでどたどたばたばたとやって、視聴者のド肝を抜いてくれたところだ。何度見ても笑える。ジュンが探偵犬くんくんの物まねで真紅を釣ろうとする。このシーンの裏話は春の決起集会のときに松尾監督から暴露されているけど、今回は真田さんの口から。

真田さんが監督に、「くんくんの物まねがうまく出来ない」と言ったら、「似てないところが面白いんだからいいんだ」と言われて安心して演技したら、監督が入ってきて「似てないにもほどがある」。くんくん役の津久井さんから演技指導を受けたんだとか。真田さんがみんなを楽しませようと自分で選んだシーンなのに、見ていて恥ずかしさに耐えられなくなったようで、「何だこの羞恥プレイは?」を連発していた。

声優さんが入れ替わり、手紙の読み上げ。続いて、総出演で大喜利。合間には、関連情報のお知らせも。4月29日(土・祝)に福岡県芦屋で開かれる人形感謝祭のテーマキャラがローゼンメイデンの人形に決まったとのこと。この催しには麻生外務大臣もご参加の予定らしい。あのお方は羽田空港でローゼンメイデンのコミックを読んでいたという目撃情報もあったりして。実はオタク?

テーマソングを歌ったALI PROJECTの宝野アリカさん登場。ピンクハウスをもっとひらひらさせた感じの衣装、フワフワの髪の両サイドには大きな薔薇の飾り、そして腕にはスーパードルフィーの真紅。みずから並んで入手したんだとか。第一期と第二期のオープニングテーマ「禁じられた遊び」と「聖少女領域」を歌ってくれる。

最後に、今日出演した声優さん11人全員が再登場して、一言ずつ、ごあいさつ。登場したときから志村さんが泣いてて、桑谷さんに抱きかかえられるようにして出てきた。歌を聴いたら収録時のことを思い出したのだとか。ぼろぼろべそべその涙声で「ありがとうございました」と。隣りの後藤さんが思わずもらい泣き、倉田さんの肩を借りていた。

最後の最後、司会者が締めかけたところで、いきなり照明が落ち、割り込みアナウンス映像。「ローゼンメイデン特別編制作決定」とな。ここまでじらしてきたのは演出だったわけね。詳細は明かされず、追々ウェブ上で発表だそうで。2時間の予定を大幅にオーバーして終了。閉幕後、翠星石の声に送り出される。「とっとと帰りやがれですぅ」。

ずっと立ち通しだったから、膝が突っ張ってまともに歩けなかった。新高島駅で電車を待ちながら、余韻に浸る。原作、監督、作画、声優、音楽、みんなの才能が結集して調和しあい、制作者全員の気持ちがひとつになってできた、奇跡のようなアニメ作品だったのだと感じられた。TBSよ、ありがとう、そして、第三期、よろしくんくん!

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
カメコ。21日(火)~26日(日)はニューヨーク出張だった。往きの機内からはオーロラが見えた。カーテン状ではなく、ぼうっと明るいだけだったが。ナイアガラの滝も見てきた。流れ落ちる大量の水の裏側は、巨大なつららがお互いにくっついてできたような氷の壁。夢のような旅から帰って目の当たりにした現実は……。トイレのタイルに散らばる30個ほどのねずみの糞。排水溝以外に進入経路はありえない。トイレに用を足しに来るとは、どんなねずみだ! つーか、この落差は何だ!
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■編集後記(3/3)
・「はるのうららのすみだがわ~」と妻と孫がエレクトーンを弾いて歌っている。この「花」がえらくお気に入りの孫は、何度も何度も妻に歌わせていた。その次は「早春賦」を歌っていたようだ。後で妻が言うには、歌の意味を聞かれて、そういえばよくわからないので困ったという。「さては時ぞと思うあやにく」とはなんだ。わたしもわからなかった。そして、昨日の読売の「日本語日めくり」という小さなコラムで、この一節が出てきたのはラッキー。この回は「あいにく」について。驚きや感動の「あや」と「憎し」が合わさった「あやにく」(ああ、憎い)の変化した言葉だという。くだんの「あやにく」は「あいにく」だった。「ああ春だと思ったら、あいにく(まだ本格的な春ではない)」ということか。さらに、夜の「クイズミリオネア」を見ていたら、「仰げば尊し」の歌詞の「思えばいととしこの年月」の「いととし」とは何かという問題が出た。知らなかった。考えたこともなかった。でも、すぐに分かった。いと・としとはすごく早いことである。あとでネットで見たら「いと疾し」と歌詞があった。すばらしい唱歌は多いが、あらためて意味を問われるとわからない部分が多いものだ。大学の恩師が長かった教育の現場から去るとき、我々が集まってイベントを開いたことがある。まさしく「仰げば尊し」を歌いたい雰囲気だったが、先生はその歌も校歌も拒否して「花」を3番まで朗々と歌われた。いまは花も川も美しい広島市にお住まいである。(柴田)

・電話にて。「イナ・バウアーがね……。」「いなばうあ?」「知らないの?嘘でしょ?」「え、ジャック・バウアーなら知ってますが……。」荒川静香の演技はダイジェストで見たので、氷の上でよく体が曲がるなぁ、こりゃ凄いなぁと思っていたのだが、技の名前までは知らなかった。人名ってことだけは、当たったな。(hammer.mule)

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