Otaku ワールドへようこそ![44]フィボナッチデイジーの咲かせ方
── GrowHair ──

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ウェブサイトのアクセスカウンタやミクシィの足跡の数字が30,000とか、77,777とか、12,345のようなきれいな並びになると、ちょっとした幸福感が得られるものである。いわゆる「キリ番」。実際、10,000を越えたあたりからは、無個性な数字がひたすら続くような気がして、たまに見た目のいい数字が来ると、砂漠でオアシスを見つけたように、ほっとする。だけど、見た目はぱっとしなくても、成り立ちが美しい数字というのもあるもので。ミクシィの私のところは、1月31日(水)に17,711を通過し、ひとり祝賀気分に浸っている。よくキリ番を記念して、絵を描いたりする人がいるが、それにならって私もこの数字にちなんだやつを描いてみようかと。


●美しい数列

まず、17,711のどこがそんなにめでたいのか。ポーカーならフルハウスだけど、それだけならまだ大したことはない。実は、この数、フィボナッチ数列の中に出てくる数なのだ。

1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, 233, 377, 610, 987, 1597, 2584, 4181, 6765, 10946, 17711, 28657, 46368, 75025, 121393, 196418, 317811, 514229, 832040, ...

これがそのフィボナッチ数列だが、隣り合う2つの数を足すと、その次の数になっている。1+1=2、1+2=3、2+3=5、……という具合に。先に行けば行くほど疎らになっていき、5桁のフィボナッチ数はたったの5個しかない。今回の17,711の次28,657までないのである。

フィボナッチ数列には驚くべき数理がいろいろと潜んでいて、そういうのを土中に掘り当てて光彩を放つのを見ると、美しさにホレボレする。中でも、「フィボナッチデイジー」と呼ばれる、螺旋形がよい。(図1)
< http://www.geocities.jp/layerphotos/FigDGCR070209/FigDGCR070209.html#Fig1
>

この例は、104個の玉を螺旋状に配置したもので、左右の図は玉の配置が同じで、色の塗り分け方が異なる。左側は、8色の玉がそれぞれ13個ずつあり、右側の図は13色の玉がそれぞれ8個ずつある。この8と13という数字は、フィボナッチ数列の中ではお隣さんどうしである。図2〜4は、それぞれ13:21、21:34、34:55の組合せで描いたものである。

これらの図の左右の絵は、双子の姉妹のようなものである。見方(色のつけ方)を変えるだけで、螺旋の「本数」と「長さ」という2つの概念が対等に入れ替えられることを示している。長方形を寝かしたり起こしたりして「縦×横」を「横×縦」と入れ替えるような感じに似ている。こういうのを「デュアル(dual)」な関係という。「双対(そうつい)」と訳される。

ところで、この配置は「フィボナッチ螺旋」と呼びたくなるが、そう呼ばれている別の図形がすでにある(図5)ので、こっちのは「フィボナッチデイジー」と呼ぶことを推奨したい。ちなみに、フィボナッチ(1170s or 1180s - 1250)は大変美しい顔をしていて、フィボナッチ螺旋で近似できることが知られている(図6)。

●黄金比との深い関係

フィボナッチ数列が美しいとされる別の理由として、黄金比との関係が深いということが挙げられる。1という長さを
  1=0.618033...+0.381966...
のように分割すると、全体と最初の部分との比が、最初の部分と残りの部分との比に等しくなる。
  1:0.618033...=0.618033...:0.381966...
この分割のしかたを「黄金分割」といい、その比率を「黄金比」という(図7)。
ものを2つに分けるなら、この比率で分けるのが最も美しいとされる。1周360°を黄金分割した角度を黄金角という(図8)。

フィボナッチ数列のお隣さんどうしで割り算すると、黄金比に近づいていく。
  1 ÷ 1=1
  1 ÷ 2=0.5
  2 ÷ 3=0.666666...
  3 ÷ 5=0.6
  5 ÷ 8=0.625
  8 ÷13=0.615384...
  13÷21=0.619047...
  21÷34=0.617647...
  34÷55=0.618181...
  55÷89=0.617977...

●デイジーの咲かせ方

さて、以上のことを踏まえた上で、先ほどのフィボナッチデイジーをどうやって咲かせたかをご紹介しておこう。

フィボナッチ数列から、4つ続きの塊を取ってきて、それらをk、l、m、n とする。このmとnが、後でフィボナッチデイジーの巻き数になるので、例えば、8:13のやつを咲かせるには、k=3、l=5、m=8、n=13 としておく。これで種まき完了。

角度θ(ギリシア文字のシータ)と成長比率aを次の式で算出する。

  θ=2π(km+ln)/(m^2+n^2)

  (m^2とは、mの2乗、すなわちm×mのこと。本来はmの右肩に小さく2を書
  くのだが、テキストではこれで代用するのが通例)

  a=e^{2π/(m^2+n^2)}

  (eは自然対数の底(てい)。e=2.718281...)

この角度θは、種のとり方によらず、黄金角に非常に近い値になる。どうしてそうなるのか気になる方のために、ヒントだけ。フィボナッチ数列の第n項をF(n)と表すと、

  F(n)F(n+2)+F(n+1)F(n+3)=F(2n+3)

  F(n)^2+F(n+1)^2=F(2n+5)が成り立つ。あとは自力でどうぞ。

これで成長率を決定する肥料の準備が完了。あとは水をやって成長を見守る。デイジーの中心を定め、そこから右へいくらか行ったところに丸を描く。芽が出た。その丸から角度θ回転し、中心からの距離をa倍に延長したところに2番目の丸を描く(図9)。この調子で続けていき、nm個の丸を描いたら、できあがり。

ところで、このように黄金角ずつ回して位置を順々に決めていく手法は、多くの植物が葉っぱをつけていくときに実践している。こうすることにより、2つの葉っぱが同じ向きに突き出ることはないので、下の葉っぱが上の葉っぱの陰を避けて、日光を効率よく受けることができる。しかも、上から見るとデイジー状に広がっていて、美しい。植物って頭いいなぁ。

●2重にして、立体にすると...

フィボナッチデイジーを形成するひとつひとつの玉を、すべてフィボナッチデイジーで置き換えることにより、2重構造のやつができる(図10、11)。
これは、さらに中へと繰り返すことが可能。このように、全体が、自身と相似な部品で構成されており、その部品ひとつひとつも、自身と相似なさらに小さな部品で構成されており、その部品もまた、...という具合に、自己相似な入れ子構造をもった図形を「フラクタル図形」という。

この、フラクタルなデイジーを立体化した造形があり、「フィボナッチカリフラワー」と呼ばれている(図12)。よくぞこんな面白い造形を考えついたもんだ、と作者に軽く嫉妬と羨望を覚えたのだが、よくよく見れば、ヤキモチを妬いてた相手は神サマだった。「ロマネスク」という種類のカリフラワーで、こんなのが本当に生えてるらしい。しかも食えるらしい。ちっとも食いたくならんけど。で、それをデイジーに配置してみた(図13)。

●複素力学系という名の迷宮

フラクタルなフィボナッチデイジーを描く、別の方法がある。「複素力学系」と呼ばれる数学を使うものである。「複素数」とは、平面上に広がる数である。通常、長さや時間などを表すのに使っている数は「実数」と呼ばれ、一直線上に延びる1次元の数である。これに対して複素数は平面上に広がる2次元の数。この平面を「複素平面」という。複素数は、2つの実数の組として表現することができ、実数と同じように四則演算(足し算、引き算、掛け算、割り算)ができる。

複素力学系というのは、ひとつの複素数を別の複素数へ移す操作を次々にほどこしていったとき、どんな挙動を示すかを調べる、数学の一分野である(「力学系」といいながら、物理とは関係ない)。この「挙動」を分類すると、
・一目散に遠くへ飛び去っていく
・何回目かにひとつの点に到達したら、そこに永住する
・ひとつの点に引きずり込まれて限りなく近づいていくが、決して到達することはない
・いくつかの点を巡回し続ける
・巡回ルートに限りなく近づいていく
・いつまでもふらふらと放浪し続ける(カオス)
となる。複素平面上の各点を、挙動別に色分けすると、絵が描ける。これが、往々にして、フラクタルな絵になる。

ある数を別の数に移す操作を「関数」と呼ぶが、その関数の例として、
  y=x^2+c
  (ただし、c, x, y は複素数)
というのを考えよう。cは定数(固定した数)。xが与えられれば、このxを上記の式に代入することにより、yが決まる。つまり、xをyに移す操作をしたことになる。

いま、ある適当な地点x0を旅の出発点に定めたとしよう。x0に対して上記の関数をほどこすと、結果として、どこかの地点が得られる。そこをx1とする。つまり、x0の地点からx1の地点へとジャンプした感じ。さて、x1に同じ関数をほどこせば、次の飛び先x2が得られる。これを繰り返して、x3, x4, x5, ... を得る。あっちへこっちへと蚤のようにジャンプして放浪の旅をすることになる。

cの値は固定してあるとして、出発点x0をどこにとるかによって、挙動が変わってくる。x0の複素平面上で挙動を塗り分けた絵をジュリア集合という。一方、x0を(0, 0)に固定したとき、cの複素平面上で挙動を塗り分けることもできる。これをマンデルブロ集合という。自慢だが、マンデルブロ氏が来日したとき、講演を聞きに行ったことがある。

複素力学系によるフラクタル図形を描画するフリーのソフトで "Fractint"というのがある。これを使って、ジュリア集合の中からフィボナッチデイジーを見つけてきた(図14〜17)。見つけ方は次の通り。まずマンデルブロ集合を描画し、その黄金角のところを拡大すると、フィボナッチ数の分岐路がごちゃっと見つかる。8分岐路がくっついている玉の岬に至る道と、13分岐路がくっついている玉の岬に至る道との分岐点のあたりで、それに対応するジュリア集合を描くと、8:13デイジーが現れる(図18、19)。Windows版のFractintでは、右ボタンでマンデルブロ集合とジュリア集合とを往き来できる。

今回のキリ番にちなんで17,711分岐するところを見てみようとしたが、計算精度と表示の限界で、何も現れなかった。細い道がいたるところで17,711個に分岐する迷宮が現れるはずなのだが。144分岐のところで、やっとこんな感じ(図20)。見ることのできない絵ってあるんだね。
しかたがないので。55:89と89:144のデイジー(図21)。玉の総数は55×89+89×144=17,711 いかがでしょ?

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
ぼーっとしている。英語では "away with the fairies" という表現があるけど。「妖精さんたちと、どっか遠くへ行っちゃってる」感じ。/次のキリ番は19,683です。じゃんじゃん踏んで下さいまし〜。
< http://mixi.jp/show_friend.pl?id=152827
>


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フィボナッチのうさぎ―数学探険旅行
キース ボール Keith Ball 佐藤 かおり
青土社 2006-12
おすすめ平均 star
star「娯楽数学」な本ですが、タイトルほどソフトな内容にあらず


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黄金比とフィボナッチ数
R.A. ダンラップ Richard A. Dunlap 岩永 恭雄
日本評論社 2003-06

自然にひそむ数学―自然と数学の不思議な関係 黄金比はすべてを美しくするか?―最も謎めいた「比率」をめぐる数学物語 フィボナッチ数の小宇宙(ミクロコスモス)―フィボナッチ数、リュカ数、黄金分割 黄金分割 神の図形―生命と宇宙の根源的な謎を解く二つの比率「大和比」と「黄金比」

by G-Tools , 2007/02/09