[2176] 熱海の熱い夜

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<祝! 日本冒険小説協会最優秀映画コラム賞>

■映画と夜と音楽と…[328]
 熱海の熱い夜
 十河 進

■Otaku ワールドへようこそ![48]
 愛ゆえに人は美しい撮影会
 GrowHair


■映画と夜と音楽と…[328]
熱海の熱い夜

十河 進
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●勘違いは最初から始まっていた

まず、受付のときから勘違いは始まっていた。熱海の金城館に着くと「第二十五回日本冒険小説協会全国大会」と大きな看板があり、ロビーに入るとスタッフが受付のテーブルを出していた。そのテーブルの上には参加者の名札が並んでいた。

名札の横に造花がついた赤と白のリボンに名前が書かれたものが何人か分置いてある。僕の名前はそちらにあった。そのリボンは受賞者の印なのだ、と僕は誤解した。そのリボンで参加者は僕が受賞者だとわかるのだと思い込んだ。しかし、受賞を誇っているような気がして、僕はそれを胸にはつけずポケットに入れた。

宴会が始まるまで一時間ほどあった。六階の指定された部屋に入ろうとすると客室係の女性が開けてくれ、リストを取り出して僕の名前を確認した。そのリストには同室者として「大沢在昌」という名と僕の名ともうひとりの人の名と「編集1」「編集2」と書かれていて、五人の相部屋になるようだった。

そのときにも、僕はその部屋は受賞者の部屋なのだと理解した。ということは大賞は大沢さんであり(おそらく「新宿鮫・狼花」だ)、担当編集者が一緒なのだろう。受付で記帳したときに、僕の前に「幻冬舎」と書いている人がいた。やはり文芸書関係の出版社の人がきているのだなと思った。

僕は部屋のソファに腰を降ろし、「日本冒険小説協会」二十五周年記念の分厚い会報を読んだ。多くの作家たちが原稿を寄せている。そのとき、年輩の人が入ってきた。僕が挨拶したら相手の人が名刺を出してくれる。慌てて僕も名刺を出す。

あたりさわりのない会話をしているうち、その人がかつて週刊プレイボーイや月刊プレイボーイの編集長を歴任した人で、内藤陳さんが月刊プレイボーイに書評コラム「読まずに死ねるか」を連載しているとき、一緒に日本冒険小説協会を立ち上げたのだとわかってきた。二十五年前のことである。

宴会を始めると知らせがあり、僕らは部屋を出た。手洗いに寄ると言うその人と別れて僕はひとりで宴会場に向かった。誰も僕を知らないし、僕の方も知った人はいない。僕の本を出してくれた水曜社の編集担当の北畠さんが奥さんと二歳のお嬢さんと三人できているはずだったが、見あたらなかった。

僕は入り口にいたスタッフらしき人に手に持ったリボンを見せ、「どこか座る場所が決まっているのでしょうか」と聞いた。「作家席に…」と言われ、座布団の上を見ると演壇に近い真ん中の列が作家席になっていた。かなりな数である。僕はいちばん端に腰を降ろした。北畠さんがやってきた。

目の前に真っ黒な上下を着たダースベイダーがいた。胸に僕と同じリボンをつけていた。名前は「西村健」となっている。昨年、日本冒険小説協会の大賞を「劫火」で受賞した西村さんだった。周りの人の話から推察すると、昨年、ビンゴで当てたダースベイダーの面と兜をかぶっているのだった。

そのときにも僕は気がつくべきだったのだ。だが、僕は「ああ、昨年の受賞者もリボンをつけているんだな」と思った。作家席を見渡すと、リボンをつけている人が何人かいる。僕は「今年は受賞者が多いんだなあ」と思った。それも勘違いだった。後でわかったことだが、作家の人は全員造花のリボンをつけていたのだ。

●スピーチで「僕もおしっこしてきます」と…

作家席の端に座るとき、座布団の上に会報が置いてあったのを僕は誰かが席をとっているのだと知らずに、その会報をどけて座っていたのだが、そこへひとりの男性が戻ってきた。「すいません。そことっといたのですが…」と言われ、この人も有名な作家なのだろうと僕は慌てた。

すぐに席を立って見渡すと、作家席の真ん中には大沢在昌さんが腰を降ろし、隣の人と話している。有名作家の近くでは気が引けた。列の中の方に腰を降ろすのは居心地が悪い。北畠さんにも「作家席は恥ずかしいんだよねえ」とつぶやく。結局、一般席の端に座った。

式次第を見ると「大賞発表」に続いて「作家挨拶」と書かれているが、その順番を入れ替えることが矢印で訂正されている。「おかしいなあ、先に受賞挨拶をするのかな」と思ったが、ここでも僕は勘違いした。すでに発表は終わっており、そこにいる人たちは今年の受賞者を知っているのだと思い込んだのだ。

開会は内藤陳会長の挨拶で始まった。やがて「作家挨拶」になる。大沢在昌さんが最初にスピーチする。ダースベイダー姿で登壇した西村健さんは挨拶の最初から「おしっこしたいんだよね」と言って笑わせていた。続いて登壇した怖い小説ばかり書く女性作家の桐生祐狩さんも「私もおしっこしたいのよね」という言葉で挨拶を始めた。どの挨拶も二十五周年を祝う内容だった。

続いて僕の名が呼ばれた。「えっ、もう挨拶するの」と思ったが登壇し、「そうそうたる方ばかりで、凄いところにきてしまったなあ、と足が震えています」と僕は始め、続いて「今度、特別賞をもらったらしいので…」と言った途端、司会の人が慌てた。ジョーク混じりに取り繕う発言をする。

「えっ、みんな知ってるんじゃないの」と思ったが、そのとき初めてリボンが受賞者の印じゃないのだとわかった。「しまった。言っちゃいけなかったんだ」と思った途端、さらに緊張した。陳さんが笑っているのが見えた。「すいません。まずかったみたいですね。僕もおしっこにいってきます」とそのまま降壇した。

数分後、目立たないように宴会会場の後方の襖を開けて席に戻った。やれやれ、と息をついたが、いつものように人前に出た後の胃痛がやってきた。僕は人前で話すと、極度に緊張する。今回は百数十人も参加者がいる。はあ〜、というため息が出た。

●名前を彫り込んだコルト・ガバメントがもらえる

座が賑やかになったところで、ようやく大賞発表が始まった。日本軍大賞は大沢在昌さんの「新宿鮫・狼花」だった。大沢さんは先ほどの挨拶で「佐久間公では受賞しているのに、鮫島ではまだもらっていない。是非ほしい」と言っていた。会長から賞状と記念品の名前を彫り込んだコルト・ガバメントを受け取り、恒例だというシャンパンの一気呑みをする。

続いて外国軍大賞が発表になる。ディック・フランシスの「再起」だった。早川書房の人が代理で賞状とコルト・ガバメントを受け取り、シャンパンを呑みスピーチをした。続いて、僕の名が呼ばれた。司会者が「皆さん、うすうす感づいていると思いますが…」と言って笑いをとる。内藤陳会長が長い賞状文を読み上げる。

──第二十五回日本冒険小説協会最優秀映画コラム賞「映画がなければ生きていけない」……あなたは狂おしいまでの映画に対する愛情と該博な知識を全二巻、一千二百頁に注ぎ込んだ本書によって、我等活字と映画の両刀遣い無慮数百名を欣喜雀躍させ、見事、最優秀映画コラム賞を獲得されました。
時には山口瞳のエッセイから「深夜+1」を経由して「酒とバラの日々」に及び、また或る時は某名門球団オーナーの暴言からヒッチコックを経由して「カサブランカ」のボギーに及び、はたまた或る時はゴールデン街の飲み屋から「赤いハンカチ」へ、更にはスペンサーの科白から「あばよダチ公」にまで到る縦横無尽の夢想旅行に我々は笛に導かれるハーメルンの子供たちのようにただ夢中で追い縋るしかありません。
映画を楽しむだけでなく、映画と共に人生を歩む貴方の生き方に感動の念を禁じえません。我々を映画というもう一つの別天地に導いてくれた貴方の栄誉を称えここに賞します。 二〇〇七年三月三十一日

その後、会長は「刻印が間に合わなかったから…」といいながら副賞のコルト・ガバメントの目録を渡してくれた。スタッフがワインクーラーにシャンパンを注ぎ渡してくれる。呑む。拍手が聞こえる。家で書いてきたスピーチも頭からすっとんでいた…

二次会は本部の部屋だった。会長が真ん中に座り、その前に僕の席を作ってくれた。会長がやさしくうなずいてくれる。座って気付いたが、隣で何人かを相手にひっきりなしに話しているのは大沢さんだった。ようやく冷静になった僕は話し相手もなく、しばらく聞いていた。

それでわかったのは、大沢さんが話している人たちはどうも大沢さんの担当編集者らしかった。さっき僕が作家と間違った人もその中のひとりだった。ポツンとさびしげだったのか、徳間書店の女性編集者が「凄い労作ですね」と話しかけてくれた。

大沢さんの話が少し途切れたとき、「ちょっと気後れしていたのですが…」と話しかけ、僕の本を二冊出し「荷物になりますが、よろしければ…」と差し出した。大沢さんは「さっきの会長の読み上げを聞いていて読みたいと思ったんですよ」と喜んでくれたようだった。

そこから、話が弾み始めた。大沢さんは僕よりずっと若いと思っていたのだが、四歳しか違わないという。テレビドラマや映画など、かなりディープな話が妙に合う。「『新宿鮫』は映画版の真田広之さんの方がいいと思うんですが」という僕の不躾な発言も聞き流してくれる。

「さらば友よ」を見て、なみなみ水を注いだコップにコインが何枚はいるか友人たちと賭けをした話、「冒険者たち」「サムライ」の話など映画の話もつきなかった。「僕の本の話はやめましょう」と言う大沢さんだったが、「失礼ですが…」と断って僕は言った。

──佐久間公の次作を待っています。
──あれは…命削って書いているんです。

そうだろう、と僕は思った。佐久間公シリーズの中でも「雪蛍」「心では重すぎる」の二作は僕に深い印象を残している。確かに作家が血を流し、命を削って書いていることが伝わってくる。読後感は重いかもしれない。だが、その素晴らしさは読んでみなければわからない。

──十年後でもいいですから、待っています。

そう僕が言うと「ありがとうございます」と大沢さんは頭を下げる。こちらが恐縮する。その夜は、今や「大沢オフィス」として宮部みゆきさんと京極夏彦さんを抱える代表者であり、ベストセラー作家である大沢在昌さんと過ごせた熱い夜になった。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
今回、熱海から帰ってすぐに書いたので、手前みそになっていたらご免なさい。自分が受賞した話ですから、どうやったって手前みそになるのですが、近況報告だと思っていただければ幸いです。皆さんのおかげで、こんな貴重な体験をすることができました。ありがとうございます。

●第1回から305回めまでのコラムをすべてまとめた二巻本
完全版「映画がなければ生きていけない」書店・ネット書店で発売中
出版社< http://www.bookdom.net/suiyosha/suiyo_Newpub.html#prod193
>

・大会に参加されたBUFFさんのブログに動画が掲載されています。
< http://buff.cocolog-nifty.com/buff/2007/04/post_3567.html
>

・大会の集合写真などはこちらに
< http://homepage1.nifty.com/buff/2007zen.htm
>

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■Otaku ワールドへようこそ![48]
愛ゆえに人は美しい撮影会

GrowHair
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和歌山にカメコ遠征してきた。3月25日(日)、中世の地中海の港町をモチーフにしたテーマパーク「ポルトヨーロッパ」で開かれたコスプレイベントで、「ベルサイユのばら」のコスを中心に撮ってきた。

会場は、ヨーロッパの古めかしく重厚な町並みがいい具合に再現されている。土色の壁に挟まれて狭く曲がりくねった路地あり、噴水の脇に彫像の置かれた中庭あり、遠景には城壁ありと格好のロケーション。それを狙ったように、日本のトップレベルのコスプレイヤーたちが集まり、場と一体になったファンタジーの世界を作り上げてくれた。

写真は上々で、ヨーロッパでロケしてきたと言ってもまかり通りそうなほど。それが和歌山で撮れるのだから、むしろお手軽とも言える。
< http://growhair2.web.infoseek.co.jp/PortoEuropa070325/PortoEuropa070325.html
>

●背景が美しいところならどこへでも

ここ一年ぐらいは、おそらく毎週日曜には欠かさず東京近辺のどこかでコスプレイベントが開かれている。屋内のイベント会場系のときもあるが、最近は遊園地系のほうが多い。日によっては 二か所三か所で同時開催になるときもあるが、それでもどこも盛況だったりする。イベントのスケジュールは「イベント情報誌 C-NET」で調べることができる。
< http://cnet.cosplay.ne.jp/
>

この環境は、五年くらい前に比べると、劇的に変わったと言える。あのころは、東京ビッグサイトや大田区産業会館PiOといった屋内イベント会場系しかなく、開催頻度も月に一〜二回ほどで、しかも半分は同人誌販売スペースだったりして、来場者数も数百人のレベルにとどまり、なんとなく「日陰者の集い」みたいな地味な雰囲気だった。

反面、世の中から知られていないところで、人々の想像の及びもしない異様な空間が形成されているという、秘密めいた雰囲気がわくわく感を盛り上げ、共犯者的連帯感に満ち満ちていた。世間の常識的な基準からすれば、俺たちどう見たって変人の集まりだよな、まあ、仲良くしようぜ、みたいな。

それに比べると、今の環境は開かれすぎて平板になってしまったという寂しさがなくはない。しかし言い換えれば、オタクが世の中に認知されつつあり、以前ほど異様には映らなくなってきたわけで、そのおかげで、遊園地などで一般来場者と混ざってのイベントができるようになったとも言える。

コスプレ環境がこれだけ整ってきても、わざわざ遠征する狙いは、ひとえにロケーションの美しさである。漫画やアニメなどの作品への思い入れを原動力に、全精力を傾けてコスチューム制作に励む、筋金の入ったコスプレイヤーにとっては、適当な会場で記念撮影的な写真を撮ったのでは満足がいかず、背景も入れた全部で作品の世界を表現したいものである。

というわけで、昨秋、バラ園で個人撮影させてもらった汐音(しおね)さんからお誘いをいただいて、和歌山まで行ってきたというわけである。

●宝塚入門DVDで美しさつまみ食い

つい最近まで、私は宝塚歌劇団や「ベルサイユのばら」について、何も分かっていなかった。だけど、知りたいとは思っていた。

ひとつには、カメコたるもの、コスプレイヤーの扮するキャラをある程度は理解しておくべし、との信条がある。守れてないけど。元の作品を知って撮るのと知らずに撮るのとで写真の仕上がりに歴然と差異が表れるというほどではないかもしれないが、撮るにあたって作品の感想など、二言三言、言葉を交しておくと、撮っているときに作品への思いが共振しあって増幅され、どんどんノリノリになっていくという感覚はある。

もうひとつには、個人的に今までたまたま宝塚に縁がなかったけれども、見ればきっとのめり込む素質のようなものが自分には備わっているだろうという予感が漠然としていた。新宿の地下道などでポスターを見かけると思わず立ち止まって見入ってしまい、ふと我に返ったとき、「傍目にどれだけ変なおじさんに映ってたか」と恥ずかしくなることもあった。

今回の和歌山行きに先立って、汐音さんが、宝塚入門DVDを送ってくれた。「ようこそ!『ベルサイユのばら」の世界へ」というタイトル。これがとてもよくまとまっている。時代背景、登場人物、宝塚歌劇のキャスト、ステージのハイライトシーンなど。映像がものすごくきれい。

もし、もっと若くて、純粋で、多感だったころに宝塚に出会ってたら追っかけにすべてを投げ打っても、何の後悔もないと言い切れたろうなぁ。ヅカファンの気持ちがちょっとだけ分かった気がする。

●ヅカファンを無理矢理オタクと対比してみる

本来ならば、ここで「ヅカファン」とはどういう生態の生き物であるかを、実態に即して解説したかったところである。しかし、前述のとおり、昨日今日初めて少しばかり扉を開き、まだその世界に足を踏み入れてもいない私にそんな大それたことのできるはずもなく。

中本千晶氏の「宝塚(ヅカ)読本」がなかなかよろしいようである。この世界に触れたことのない人にも分かるように、素朴な疑問にていねいに答えている入門書で、多くのヅカファンからも評判がよい。

まじめな解説はそちらの本に譲ることにして、ここには、いつか私自身が宝塚の世界をある程度理解できてきたころに振り返って「あのとき俺は、こんなことを言ってたぞー」とネタにして笑い飛ばす材料として、今の時点での印象を書いといてみようと思う。

それは、一言で言って「ヅカファンってオタク〜」ということである。いや、ヅカファン全体をオタクという網でひとくくりにするのはいくら何でも乱暴すぎる。だけど、濃ゆ〜いオタクから非オタに至るまでのオタクスケール上に広く連続的に分布していて、多様ではありながら、たどっていけば、少なくともオタクの世界と地続きにはなっているよな〜、ということである。

宝塚歌劇の十八番である「ベルサイユのばら」は、池田理代子氏の漫画が原作である。その関連からか、少女漫画やアニメにも親しんでいる人たちが多くいる。実際、日曜にベルばら合わせをした四人と、イベント終了後にお茶したときは、オタ話に花が咲いた。「のだめカンタービレ」を絶賛する人あり、「プリンセス・プリンセス」や「桜蘭高校ホスト部」といったやおい系漫画の話題にもついてくる人あり。

ヅカファンとオタクが、ある種のメンタリティを共有しているなーと思える点は、もうひとつある。それは、世間から「特異な人」という目で見られがちで、実態がなかなか正しく理解されないことが、あたかも刺さりっぱなしの棘のようにどこかでうずいているようだ、という点である。

最近はずいぶんイメージが向上したとは言え、ステレオタイプなオタク像として「性格が暗い犯罪者予備軍」、「現実逃避して非社会的」、「虚構の世界を現実と混同している」というイメージが根強くある。それが実態とかけ離れている上に、何か悪い事件が起きるとスケープゴートにされて叩かれてきたことに対して恨み辛みを述べる人が多くいる。

ヅカファンも、世間からは、「清く正しく美しく」の純粋で閉鎖的な世界に浸りきるあまり、埃っぽく胡散臭く粗雑な現実と折り合いがつかなくなっている人たち、というイメージで語られやすいことは否定できない。型にはめて単純化したがる元凶として、マスコミを嫌っている人もいる。

私もけっこうそういうところがあったが、最近、違ったふうにも考えるようになっている。社会の常識の中心から外れた位置に置かれることにより、あたかも、動物園の動物の檻の中から人間を観察し返すような視点を獲得できたのではないかと。これはクリエイティブに生きる上で大事な素養のひとつであり、よいものを頂戴したと喜んでいいのではなかろうか。

このように、興味の対象と、社会的位置という二重の意味で、ヅカファンとオタクに共通する空気を感じるのである。...要らぬことを書いたような気がして、ちょっとむずむずするが、先へ進もう。

●イベント当日は、雨のち晴れ

新大阪から特急くろしおで一時間ほど南下すると和歌山駅で、その次に停まるのが海南駅。そこからバスで15分ほど西に行き、海にかかる橋を渡った人工島内に和歌山マリーナシティがある。その中の一区画がポルトヨーロッパである。周辺にはリゾートホテルやリゾートマンションがどーんどーんと建ち、ヨットクラブなどもある。

私は土曜の午後の新幹線から特急に乗りついで、夜、和歌山に到着。直前まで準備を怠っていたら、和歌山市駅近くのカプセルホテルしか空きがなかった。しかも、ひどい暴風雨。駅前のコンビニで買った525円の折りたたみ傘は、あっという間に傘の集合と傘でない物の集合との境界線を踏み越え、発散していった。

翌朝も雨。傘と時間がなく、タクシーで会場へ。すでに長い列ができている。イベント主催者に入場料プラス参加費を払う関係上、一般来場者とは受付が別になっているが、一般来場者の姿はほとんどなく、こんな荒天でも当然のごとくやってきて、にぎわいを見せているのはコスプレイヤーばかりなり。根性あるなぁ。傘がない私は、仕方なしにひさしの下へ入って、伸びていく列を眺めていたら、9:45受付け開始の時点で100人を優に超えていた。

雨はほどなく止み、屋外でも撮ることができた。ラッキー。これだけの人がいて、屋内限定だったら、大混雑で撮るどころじゃなかったかも。午後からはどんどん天気がよくなり、青空が広がった。

大阪から来るにしても時間と交通費がかかる場所なので、コスプレイヤーの気合いの入り方が違うように感じられる。ファイナルファンタジー、アンジェリーク、ハリーポッター、ローゼンメイデン、などなど、重厚で装飾品がいっぱいなコスが多い。みんなレベル高い〜。

だけど、汐音さんたち四人組がベルばらの衣装で登場すると、完全にまわりを圧倒していた。撮っているときは、ファインダーごしに被写体しか見えないのだが、それまでざわざわしてたのに静まり返っちゃって、みんな呆気にとられて見とれてるのが分かる。集まる視線が肌に痛い。もっとも、それは私の主観であって、後で汐音さんに聞くと、それほどでもなかったと否定していたが。

万鯉子さんと蝶子さんにもお会いすることができた。このお二人は、去年の世界コスプレサミットで国内予選を勝ち抜き、名古屋の本戦では、三分間の演技でベルばらの衣装を五着も早替えするという妙技を披露してくれて、結果はブラジルに次ぐ第二位を獲得している。まさに日本のトップレベルのコスプレイヤーである。

今回は、「のだめカンタービレ」の千秋真一と野田恵で登場。撮らせていただくこっちの腕が一流でもなんでもないところが心苦しい。汐音さんたちとも仲がよく、しばし立ち話。聞いてると、「コミケの前は三晩、寝ないよね」とか「作った覚えもない衣装が出来てるときってあるよね」とか、恐ろしい話がぽんぽん出る。

というわけで、カメコりに遠征すると、すごいコスプレイヤーさんたちを撮ることができ、行けば行っただけの収穫にあずかれるもんだと、嬉しい余韻をかみしめて帰途につくことができた。次回の遠征先としては、5月中旬の燕趙園(鳥取県)あたりが気になっているところである。
< http://www002.upp.so-net.ne.jp/camel-st/Chai-Cos.html
>

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
Mandala、読みました。火曜日の柴田氏のコメントに異論はありません。
...で済ませては手抜きすぎるか。昨今の漫画の潮流が、下手をすると、萌える、軽く笑える、分かりやすい、コスプレしてちょーだい、に収斂して均質化しかねないと懸念していたところへ、いい風穴開けてくれた感じで、嬉しい。漫画を娯楽として「消費」する感覚ではなく、美術として鑑賞する感覚に近い。ただ、描き手の真剣な姿勢をストレートにぶつけて来られると、読んでてつらくなってくる。自身を茶化すような脱力要素を入れて余裕をかましてくれると、のど越しがよくなるかなー、と。必須ではないけど。これがひとつの新しい潮流の始まりになったら、いいなぁ。

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■編集後記(4/6)

・十河さん、第二十五回日本冒険小説協会最優秀映画コラム賞受賞、おめでとうございます。

大阪人はなぜ振り込め詐欺に引っかからないのか―カンニング竹山と考える・原稿を依頼していたクリエイターから、「だいぶ前に送りましたが届いてませんか? ボツですか?」とのメール。削除済みのフォルダを開き、メールアドレスで検索したらすぐに発見できた。件名が問題だった。「お待たせしました」では、出会い系と間違えても仕方がない。毎日大量に届く出会い系や怪しい勧誘メール、もちろん速攻で捨てているがたまにこういうミスもある。それにしても、こんな見え透いたお誘いに応じる人がいるのだろうか。いるんだろうな。ところで、振り込め詐欺は相変わらずはびこっている。ほとんど毎日、被害が新聞に出る。なんで簡単にひっかかるんだろうと、不思議でならない物件ばかりだ。妻はこんな詐欺電話が来たら、必ず撃退できると息巻いている。家族の声を聞き間違えることは絶対ないと言う。音楽家の耳だからそれはそうだ。また、金銭に関わることなら絶対に疑って突っ込むわと言う。芦屋生まれの関西人だからそれはそうだ(笑)。「カンニング竹山と考える 大阪人はなぜ振り込め詐欺に引っかからないのか」という新書がある。またまたキャッチーなタイトルだ。引っかかってはならぬ。でも、多分そのうち読む。(柴田)

・十河さんの受賞がとても嬉しい。そうそうたる面々が、「ハーメルンの子供たちのように」楽しまれたなんて素晴らしい。/おーっほっほっほ。タカラヅカのお話をなさいましたわね。そういえば、もう随分行っておりませんわ。天海祐希のアンドレや、涼風真世や真矢みき、一路真輝のオスカルを観劇したよ(あの時期のベルばらは役代わりも含めてほぼ制覇)。昨日登場のS氏ともう一人のS氏は古くからの宝塚ファンで、チケットをとってくれたり、生写真を分けてくれたり、どう見ると面白いかとか、歴史から何から手取り足取り教えてもらった。入手困難の楽日や新人公演、バウホール(大ホールとは別に若手育成のための公演や、トップが小規模公演をやったりする。座席が少ない)まで見たりした。そういや、さよなら公演の楽日になぜか見知らぬ人からこっそり声かけられてチケットを分けてもらったりしたな〜、バウの時も。昨日のS氏は娘役さんのおつきまで。タカラヅカの人たちは、お肌が透き通るように美しかった。子供の頃、お昼に宝塚中継をしていたのをたまに見て、つまらないと馬鹿にしていたから、誘われても行くのに抵抗があった。でも生で見ると全然違うのよね。やっぱプロなのよ、舞台なのよ。日本ものが多いのにも驚いたなぁ。タカラヅカを観た帰りは背筋が伸びる。自分って下品だわ〜などと思って反省するのだ。ああ、また観に行きたくなってきた。いやいや、今年は吉田都さんの「海賊」を観に行くのだ。バレエを観るのだ。いや、でも……。(hammer.mule)
< http://kageki.hankyu.co.jp/
>  宝塚歌劇
< http://ja.wikipedia.org/wiki/
>「ベルサイユのばら_(宝塚歌劇)」で検索
< http://www.k-ballet.co.jp/topics/performance.html#07corsaire
> 海賊