Otaku ワールドへようこそ![52]ケータイを使いこなそう
── GrowHair ──

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前回、カメコ話が続くと予告しましたけど、やっぱり話題変えます。ごめんなさい。カメコ活動はほぼ毎週末のペースで進行中なのですが、それよりも急にケータイの話をしたくなったので。

●ケータイと私:トラブル一切なし

そそっかしい私だが、自慢できることがひとつある。私はケータイをどこかに置き忘れたことも、水に落としたりして破損したこともなく、電池切れにしたことすらない。なにしろ、所有したことがないのだ。

まあ、もっともこの論理で行けば、競馬や競輪や競艇でスッたこともなく、宝くじではずれたこともなく、株で損したこともなく、運転免許の試験に落ちたこともなく、世界征服の野望を仮面ライダーに阻まれたこともなく、フィギュアスケートの4回転ジャンプに失敗したこともないわけで、実にラッキーな人生だ。

話がいきなり逸れた。ケータイの話である。オタクな私とて、人づきあいをぜんぜんしないわけではなく、ぜひともケータイを持ってくれと言われることはたまにある。にもかかわらず、なぜ所有することをかたくなに拒否し続けているのか。

いや、それほどのポリシーがあってのことでもないのだけれど、かつてケータイというものは女子高生の持つものだというイメージがあり、私なんぞが持つと女子高生に人生をめちゃめちゃにされてしまうのではないかという恐れがあって、ずるずる引き延ばしていたら、今に至ったという感じである。誰でも持つ時代になった今なら抵抗なく持てそうなものだが、今度は、今さら大幅に遅れをとりながら、時代の後ろをのこのことついて歩くようなことはプライドが許さない。

大きな駅のコンコースなど、人の流れがあるところで、異様に遅歩きして、後ろの人をイライラさせている人を見かける。具合でも悪いのかと覗き込んでみると、うつむいてケータイの画面を凝視している。こういうことはよくある。この前などは、高田馬場駅前の歩道にゲロが吐き散らしてあって、スーツを着たおじさんがケータイの画面と睨めっこしながらそっちのほうへ歩いていた。いつ気がつくかと見ていたら、一向にその気配なく、ついに踏んでしまった。それでも気がつかずに歩き去っていった。

どうも、歩きケータイしてる人というのは、傍目に見て、あんまり模範的ではないなぁと思えることが多い。もちろん全員がそうだというわけではなく、自分を見失わず、周りに迷惑かけず、ちゃんと使いこなせていればよいのだが、もし使い慣れない私が今更急にケータイを持ったらああいうふうになるのは目に見えている。それはあんまりうれしくない。

それと、ケータイ社会の暗黙のルールみたいなのも、よく分かっていない。着信記録があったのにかけ返さなかったりすると、傲慢不遜な人みたいに言われてしまうのだろうか。なんか恐い。そんなことを言って二の足を踏んでいたら、ミクシィのアカウントを取るにもケータイが必須という時代になっていた。ケータイを所有していないと、ネット上の基本的人権すら与えられないという事態になっていたのだ。


●評価が両極端なケータイ小説

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる「ウェブ進化論」、「フューチャリスト宣言」の梅田望夫氏のブログ
< http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/
>
を見に行ったら、5月25日(金)に「ケータイ小説」について書いている。
< http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20070525/p1
>

赤い糸 上 「中央公論」に連載中の「時評」欄に次回は「ケータイ小説ブーム」で書い
 てほしいとのリクエスト。でもケータイ小説のサイトなんて一度ものぞいた
 ことがないし、書籍化されたケータイ小説のベストセラーも読んだことがな
 い。ケータイ小説を読まずしてケータイ小説を論ずるわけにもいかないので、
 編集部から渡された「恋空」(上・下)と「赤い糸」(上・下)を読んでみ
 た。ふらふらの身体に鞭打って、総計1,200ページを読破。世代ギャップゆ
 え苦しい修行だったけど、得たことも大きかった。6月10日発売の「中央公
 論」誌をお楽しみに。

フューチャリスト宣言明後日ではないか。これは要チェックだ。梅田氏は「フューチャリスト宣言」の中で、「もし将来グーグルにとって代わるような存在が台頭するとしたら、グーグルに吸収されない異質なパラダイムを提示しないとならない。そういうのは、今の中学生ぐらいの世代から出てくるのではないか」と述べている。穿った見方だが、中央公論の編集者は「そうおっしゃるけど、今の中高生ってこんなですよ? ご存知でした?」と問いかけ、梅田氏は「いやいや知りませんでした」と白状しちゃったような格好にも受け取れる。

てなことを言っている私もケータイ小説なるものは、読んだことがなかった。まずは熱帯雨林で「恋空(上)」をチェックしてみる。57人の人がレビューを書いているが、面白いことに、評価が両極端!

☆☆☆☆☆: ##########(10人)
☆☆☆☆−: ##(2人)
☆☆☆−−: ####(4人)
☆☆−−−: #########(9人)
☆−−−−: ################################(32人)

肯定派の感想:とても感動した/泣けた/気持ちに嘘はない/素敵な恋愛してる/今まで辛い思いをした人と心が豊かでキレイな人に感動を与える小説/ジェットコースターのように、いろんなできごとが次から次へと起きる/多少の矛盾も、葛藤や大人になりきれなさを描いているようで好感。

否定派の感想:文章表現が稚拙/日ごろ本を読まない中高生向き/頭の弱い若者だけに賞賛される/小説ではない/矛盾が多い/構成がぐちゃぐちゃ/読みづらい/自分に都合の良すぎる見栄張りな文章が目立つ/こんなモノより、良質で感動的な本は沢山ある/私は中学生ですが、それでも年上が書いたとはとてもとても思えない、ひっどい文章/こういうのは携帯内に収めておこうよ/確かに泣けた、あまりの情けなさに。

この見事な評価の分かれっぷり、これも「情報のセグメンテーション化」という、今の時代の特徴の表れの一例なのではないかと思う。情報はひとつのコミュニティ内ではまんべんなく流通するのに、コミュニティの壁を越えて外には出ていきづらい。多分、肯定派と否定派の間には接点がなく、相互理解の機会がほとんどないのではなかろうか。

●社会の有機的構造の崩壊か?

情報のセグメンテーション化は、誰かが意図的に情報の流れをブロックしているために起きているわけではない。われわれの心の側にブロック機構が働いているようである。人間、自分のよく知らない方面のことについては「どうせ大したことなかろう」、「きっと面白くないだろう」とナメてかかる傾向がある。もしそうなってなくて、ありとあらゆるものを見ていちいち感心していたのでは、逆に自分の側が大したことないということになり、劣等感にさいなまれる。自己防衛機構として、自らの興味の範囲を小さなセグメントに閉じ込めたがる傾向があるのが今の時代のようだ。

人間の知り合い関係のネットワークも、脳細胞どうしのシナプス結合によるネットワークも、「スモールワールド」と呼ばれる類似の構造をもっていると言われる。これは、近隣どうしの間だけで結びつきがあるというわけでもなく、かといって、まったくランダムな結びつきというわけでもなく、それらの中間の状態、すなわち、近隣との結びつきが多いけれど、たまに遠くともつながりがあるというネットワーク構造である。どの二つの要素(ノード)を取っても、意外と少ない中間介在者をたどって一方から他方に至ることができる。「狭い世間」というわけである。ところが、情報のセグメンテーション化が進むと、このスモールワールド性が損なわれていく。

「フューチャリスト宣言」で梅田氏と対談している脳科学者の茂木健一郎氏は、我々の脳は、単調でもなく、ランダムでもない、中間的な、ほどよい気まぐれを好むと言っていて、これを「偶有性」と呼んでいる。情報のセグメンテーション化により、偶有性も損なわれ、ひとつのコミュニティ内の人々は空気の淀みに飲み込まれ、画一的になっていく。

ところで、私はケータイ小説肯定派と否定派のどちら側にいるのか。いつもの調子なら、若者たちの側に立って、エスタブリッシュメント(確立された社会システム)側の人間の頭の固さを笑い飛ばすのが性分というものだが、こればかりはどうにも持ち上げる気が起きないというのが本音である。

恋空〈上〉―切ナイ恋物語ミクシィの日記を「恋空」で検索すると400件近くヒットし、絶賛の嵐、泣いた泣いたのオンパレードで、否定派はほとんどいない。また、映画化が決定し、現在、ロケが進行中らしい。それだけの人気を博し、商業的に成功しているからには、ある種の面白さはあるに違いない。「お前がもっと面白いものを書いてみろ」と言われても、書けるわけでなし、著者にはある種の「才能」を認めないわけにもいかんのだろう。

書籍版が出版されても、ネットではタダで読めるので、ざっと読んでみた。
< http://ip.tosp.co.jp/BK/TosBS100.asp?I=hidamari_book
>
けど、残念ながら、ちっとも面白さが感じられなかった。深い世界観や独自の視点が提示されることもなく、会話主体のストーリーがどんどん進んでいく。人物像や情景の描写はほとんどなし。骨も肉も皮もなく「筋」しかない文章。小説というよりは、プロットだ。

出来事は矢継ぎ早に起き、それに伴う感情の起伏はあるので、いちおう退屈はしない。だけど、扱う題材が、高校の図書館でのセックス、レイプ、妊娠、中退、駆け落ち、流産、薬物使用、友達の裏切りなど刺激的な割には思想の深まりがなく、一本調子。傍目には無鉄砲な行為を、まるで愛の証であるかのような楽観性をもってためらいなく決行し、それで生じるトラブルには、「私ってこんなにかわいそう」とどこまでも自己肯定。無茶だ。

ライトノベル愛好家から見てケータイ小説はどうかと、何人かに聞いてみたが、活字離れした人々を呼び戻す効果はあるかも、としながらも、自分が読もうという気は起きないとしている。一見近そうな、ライトノベル派とケータイ小説派の間には、実は世代間の格差のような壁ができているようだ。ずっと上の世代の梅田氏が読むのに相当苦心したというのも頷けるが、しかしそれで「得たもの」っていったい何だろう。

多分、普段接する機会のまったくないタイプの人間がどんなことを考えて生きているのかを垣間見ることができた、ってことなんじゃないかな。社会を論じる者の立場として、交友関係や情報源が偏っていては、ものの見方が偏りかねないので、いろんな人から情報を収集して、広く社会を眺め渡したい。そういう観点で参考になったってことじゃなかろうか。

世代論に関して言えば、太古の昔から上の世代は下の世代を指して「最近の若者はなっちょらん」と言い続けてきたようで、それにしては人類が退化の一途をたどっているふうでもなさそうだから、割り引いて考えないといけない。下の世代というのは、上の世代と同じ土俵で勝負しても勝ち目がないので、土俵をどこか別の場所へと移したがる。どこへ移したのかは、上の世代からは案外見えづらかったりする。元の土俵では劣っているようにしか見えなくても、実は思いもよらぬ領域で着実に力をつけていたりする。

下の世代は上の悪いところをしっかりと見ている。日本はテクノロジーの発展に精進し、工業国として経済的に成功しているが、一方では、自然が破壊される、ストレスがたまる、自殺が増える、少子化が進む、とあんまり幸せになった実感がない。

ついでに言えば、努力して偉くなったような人も、ある日突然、不正行為やいかがわしい行為ががバレて記者会見で深々と頭を下げたり失脚したりと、どうも尊敬できない。ここらで軌道修正して、経済成長は中国やインドに譲り、これからは貧しくても愛のある生活で行こうということか。あるいは、それを尻目にこつこつと勉学に励んだ少数のエリートが工業国日本を牽引し、知的にも経済的にも二極化していくのか。

ケータイは画面が小さい上に、文章入力が面倒だ。これを不便だと思っているうちはまだいいが、慣れて何とも思わなくなったときには、我々の思考の側がケータイに合わせて縮小・退化しているのではないか?

……なんて懸念しちゃうのは、上の世代から見ているからであって、実は、限定された機能にうまく適応して、その特性を最大限に生かして面白く活用するすべをばりばり見出していく能力は下の世代の優位性なのかもしれない。ケータイ小説の世代から何が生まれるのか、心配半分、楽しみ半分である。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
カメコ。5月19日(土)、26日(土)は満開のバラ園でコスプレ個人撮影してきた。蔓バラは春しか咲かないので、秋バラのときはもの足りなく、ずっと心待ちにしていた。今回も、コスプレイヤーたちは、一般の来場者からきれいな衣装だとよくほめられ、人気者になっていた。写真はこちら。
< http://growhair2.web.infoseek.co.jp/RoseGarden070519/RoseGarden070519.html
>


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