前回、古い日本家屋で人形を撮影した話を書いたら、脳内妻の真紅がすっかり喜んじゃって、また書いてくれって言うもんだから、今回も人形の話題でいきます。豪華三点盛りプラスおまけつき。
●人造乙女博覧会で等身大ドールと握手
男性向けの実用的な人形の製造販売において、業界の覇者であるオリエント工業が創業30周年を記念して展示会を開催した。銀座松坂屋の裏手にある「ヴァニラ画廊」にて、6月18日(月)〜30日(土)の2週間。私は6月23日(土)に見てきた。
< http://www.vanilla-gallery.com/gallery/lovedoll/lovedoll.html
>
空気で膨らますビニール風船のようなものを想像してはいけない。細部まで精巧に作り込まれた、やけにリアルな等身大のお人形。まさに銀座の画廊に勢揃いするにふさわしい美術品だ。実際、来場者たちの姿も、もはや最後の手段とばかりに切羽詰まった顔をした非モテ系のオタクっぽいのは私ぐらいで、ほとんどが美大生のようであった。あごにちょび髭を生やした若いのが三人ぐらいで連れ立って来ている。一人で来ている女性もいた。
展示されていたのは、人形12体と生首五つ。スタッフは男性一人と若い女性二人。人形と同数ほどの来場者で、狭い画廊はごった返している。人形は、浴衣を着て立っていたり、セクシーなランジェリーをまとってソファーに腰掛けていたり。浴衣のコは、見た目、中学生ぐらい。みんな抜けるような白い肌。人間の肌に比べて青っぽく透明感がある。顔立ちは男性諸氏の理想像を平均化したような美人ではなく、それぞれ個性がある。「いたらいいな」という超越感ではなく「いるよな」、「どっかで見かけたことあるよな」と思わせる、現実に接近した親しみ感がある。
女性のスタッフから「触ってみますか」と声をかけられる。ソファの二体だけは、触れてよいことになっている。差し出されたウェットティッシュで手を拭いて、と。握手したら、ずしっと重い。腕だけでこの重さじゃ、体重は「ちょびっツ」のちぃほどになろうかと思って聞いてみると、28kgと、さほどでもなかった。力が入ってないから、ずっしり感があるのだろう。肌の感触は、ねっとりと吸い付く感じで、弾力がありぐにゃぐにゃぶよんぶよんしている。手には骨が入っていないので、指はどこまででも曲がり、放すとぶよんと元に戻る。腕には骨が入っていて、肘や手首の関節で曲がる。
シリコン製で、一体60万円もする。お迎えした人は、みんな信じられないくらい溺愛するそうである。通販で次々と衣装を買って着せてあげたり、ベビーパウダーでぱたぱたしたり、お風呂に入れてあげたり、外に連れ出して写真撮ったり。川原由美子さんの「観用少女(プランツ・ドール)」を思い出すなぁ。お酒飲ませちゃだめよ。
入場料500円と引き換えに渡された小冊子の最後のページに、人形作家の森馨さんが寄稿している。「人形には自分が投影される」という点には、今まで気がついていなかった。例えば、人形の表情がさびしそうに見えたとすると、それは自分がさびしいってことの投影だったりするわけだ。前回、人形の印象をいろいろと語っちゃったけど、それって実は自分のことだったか。ひぇ〜、ハズカシ〜。
ってことは、お人形をお迎えしてまめまめしく世話を焼くのは、自分の優しい性格が投影されているってことだよね? 一方、いがみあったり冷めきったりしてる現実の夫婦は、お互いに相手のいいところを破壊しあってそうなっちゃったってことかな? うう、これが一番の悲劇かも〜。
握手の感触は一日中、まとわりついた。いや、今も生々しく...。
●跪いてビスクドールの足をお嘗め
って、見出しに意味ないです。宝野アリカさんのCDタイトル「跪いて足をお嘗め」と人形作家恋月姫さんのビスクドールを適当に混ぜてみただけ。
翌6月24日(日)の夜には、宝野アリカさんと恋月姫さんのトークショウが浅草橋であった。アリカさんは "ALI PROJECT" のボーカルと作詞担当で、「ローゼンメイデン」のオープニング主題歌「禁じられた遊び」、「聖少女領域」を歌っている。恋月姫さんの作るビスクドールとは、二度焼きの白磁器の人形のことで、19世紀ヨーロッパのブルジョア階級の間で流行ったアンティークドールは、これである。あ、はいはい、真紅もね。
私にとっては敷居が高いような気がして躊躇していたのだが、運命のいたずらか、はたまた真紅の企てか、間際になってKotoiっちがミクシィの日記で「チケットが余った」コールを発したのに何か必然的なものを感じ、譲り受けた。
来場者のほとんどが女性で、その大半がフリフリヒラヒラないでたち。華やかだ。ロリ服というのは、こういう場では正装なんだね。もんのすごい気合いを入れておしゃれしてきた感じがよく分かる。Kotoiっちのステンドグラスと天使を組み合わせた柄のロリ服は、恋月姫さんがデザインして "Baby the Stars Shine Bright" から販売されたものなのだそうで。茶系の色が品よく組み合わさり、胸の前の大きなリボンもめっちゃかわいい。
60名入るホールの正面と左右前方には、恋月姫さんのドールが12体ほど展示されてる。壁に掛けられた椅子に腰掛けていたり、ガラスの棺に寝かされていたり。私は前から四列目の一番左の席が陣取れたんで、長細い五角形の棺に目をつむって横たわる二体の人形がずっとそばにいて、生きているような暖かみが伝わってくる。まず、ALI PROJECT「聖少女領域」のプロモーションビデオ上映。恋月姫さんの人形を抱いて歌うアリカさん自身にもどこか人形のイメージが...。
< > (その動画)
続いて、アリカさん自作の童話「悲恋」の朗読。「これが恋なのね…」。ローソクの明かりだけの暗がりで、アリカさんが朗読を始める。すごくセクシーで優しく柔らかい声。物語の中に吸い込まれる。娼館に幽閉された少女。裕福なお屋敷に家族と住んでいたころのかすかな記憶。買われるなんてイヤ。誰か助けて! 窓越しにときおり見かける少年に恋をする。音の伝わらない会話を頼りに思いを通わせ、クリスマスイブについに少年は少女を助け出そうと打って出る。けれど、待ち受けていたのは、絶望の奈落。(Kotoi っち、ミクシィ日記から文章借りた、サンキュ!)
吊り下げられた裸電球が薄暗く灯り、お二人のトーク。アリカさんは肩と背中の開いた黒いドレスにミニハット、恋月姫さんはヒョウ柄のノースリーブロングワンピ。雑誌「夜想」の編集者だという司会者は大変饒舌な方で、人形を見た印象などを語りに語ってくれた。たまに恋月姫さんが短く言葉をはさみ、アリカさんは終始うなずいているだけ。世にも珍しい司会者のトークショウ。
恋月姫さんは、人形の崇高な美のイメージから、近寄りがたい孤高の人なのではなかろうかと勝手に想像していたが、それとはまるで裏腹に、気取ったところがまったくなく、決して大言壮語しないところがかえって印象的であった。「魂入れるとか入れないとかって、な〜にそれ?」とからから笑う。すごく具合が悪くて何もする気力が起きないときがあって、そういうときは人形作ることしかできなくて、いつの間にかできてたりするそうで。それを普通のことのように言うのがやけに可笑しい。
やっぱり上のほうから祝福されてて、大きな力が降りてくるのでは? アリカさんは最後に会場からの質問に答えて「生まれながらのアーティストなんて一人もいない。常に上を目指すことがアーティストでいられる資格」と言ったのが心に残った。
終了後に、人形を全部見て回る。立ち去りがたい思い。お迎えできたら幸せだろうな〜と思いつつ、恋月姫さんの人形って一体300万円もするんだよなぁ。はぁ〜っ(ため息)。だけど、もしビスクドールの真紅を作ってくれたら、後先考えずにお迎えするバカがぜったいいそうだ。(ここに)
●渋谷の地下の静寂空間「マリアの心臓」
翌週末6月30日(土)は渋谷のドールミュージアム「マリアの心臓」へ。
< http://mariacuore.com/
>
5月12日(土)〜7月1日(日)、多くの人形作家の作品を集結させた展示会「maria † mare 人形と絵画による受胎告知」が開かれた。
ホラーな人形だらけなので、蚤の心臓をお持ちの方には向かないかも。私も自慢できるほどの心臓はないが、天野可淡さんのドールが見たくて行った。可淡さん(女性)は、吉田良氏の主宰する人形教室「ピグマリオン」のスタッフだったが、'90年に交通事故に遭い、30代の若さで他界している。
エレベータで地下一階に下りて左手に進むと、もうそこが会場で、所狭しと人形が展示されている。人形の間を通り抜けるにも、そ〜っと気をつけて、という感じで。一番奥の左右に、可淡ドールが6体。
右側手前には顔がシャム猫のドール。頭には黒い大きなリボン、目が離れ、笑っているような表情。黒いロングドレスが誇り高き貴婦人のよう。その右には全裸の少年。首をちょっと傾げ、かわいい感じの丸顔。すんごくリアル。その奥には「妖精」。身を屈め、何かを狙うように顔を横に向ける。とんがり耳、目は青くつり目。少し覗いた歯は鋭そう。背にはアゲハ蝶のような大きな羽。炎のように、上に向かって鋭く。
左側手前には「星を見上げる少女」。薄物をまとった体は、骨に皮がついただけのようにやせこけている。胸は膨らみ始めの、小さくとんがった感じ。跪き、絶望した表情で天を仰いでいる。その左側、鉄枠にかけられた黒いレースのカーテンの奥に、全裸の少女。ほぼ等身大と言ってもいいほど、大きい。照明が暗く、顔がよく見えない。ふたつの人形の間を身をよじって進んだ奥にはもう一体、少女が。顔はうつむき加減。表情が何とも言えず怖く、一度目を離して再び見ると、その度ごとに、あらためて驚かされる。
手前の方には恋月姫さんの人形も何体か。目から血の涙を流しているのが二体ほど。体がくっついた双子も。左右の壁には四谷シモン氏の人形も 一体ずつ。少年と少女。一番奥には、木村龍氏の人形が二体。腹に大きく楕円形の穴が開き、中は空洞になっていて、小さな人形がいる。
その手前、全体のほぼ中央には、三浦悦子さんの少女人形が横たわる。両太腿にはぐるりと釘が打ち込んであり、さびが流れたように色づけしてある。また、アソコの割れ目の両脇には、微小な穴が点々と連なり、縫合して抜糸した跡ということらしい。細い針金がからまった十字架を両手に持ち、その下端が割れ目の上端付近に接触している。目はとろんと半分閉じて虚ろ、歯は下唇を噛んでいる。
身も蓋もない言い方をすれば、エロ・グロである。だけど、そうと片付けられない何かがある。確かに、この種のインパクトをもって人の気を引こうとするのであれば、あたかもウケないお笑い芸人が最後にはくすぐってでも笑わせようとするかのごときもので、安直・堕落のそしりを免れない。しかし、この作品を目にして安直と評しては、いかにも的外れ。作者の真剣な姿勢から生み出された美が間違いなくある。かと言って、これは芸術なのだから、エロとは別次元のものであるという、俗界から切り離された超越の高みでもない。エロを限りなく肯定した先に成り立つ美がそこにある。
いくつかの人形は常設なので、明日からの絵画展でも見ることができる。
●おまけ、人間の人形
その日の夜は、中野にあるバー "Two Face" へ。5月19日(土)にオープンしたばかりのゴシックなお店。じゃらっと鎖が飾りつけられた入り口のドアを開けると、黒塗りの壁に分厚く赤いカーテン。奥のガラスケースの中には由良瓏砂さんによる人形が2体。30cmほどの背丈なのに、とてもリアル。会話ができそう。
給仕するのは、みずからを「ドール」と呼ぶ人間の女性たち。黒を基調として、赤の入ったゴシックないでたち。店がオープンしたとき、ローゼンメイデンのドールたちに扮して秋葉原や中野を練り歩いたらしい。やるなぁ。
< http://www.two-face666.com/
>
< http://www.akibablog.net/archives/2007/05/rozen_maiden_cosplay_070505.html
>
【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
カメコ。6月30日(土)、秋葉原で500人規模のデモ行進があったらしい。「6・30 アキハバラ開放デモ」。メイドや涼宮ハルヒなどのコスチュームで「マスコミのオタク偏見報道反対!」などの主張を掲げる。これにはオタクの側からもネットで批判の集中砲火。「迷惑」「キモい」「オタクのイメージをかえって下げる」「頭悪い」などなど。うーん。どうやら私は頭悪い側のようで、「よくやった! 面白い!」と思えてしまうのであった。
< http://www.akibablog.net/archives/2007/07/akihabara-070701.html
>
男性向けの実用的な人形の製造販売において、業界の覇者であるオリエント工業が創業30周年を記念して展示会を開催した。銀座松坂屋の裏手にある「ヴァニラ画廊」にて、6月18日(月)〜30日(土)の2週間。私は6月23日(土)に見てきた。
< http://www.vanilla-gallery.com/gallery/lovedoll/lovedoll.html
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空気で膨らますビニール風船のようなものを想像してはいけない。細部まで精巧に作り込まれた、やけにリアルな等身大のお人形。まさに銀座の画廊に勢揃いするにふさわしい美術品だ。実際、来場者たちの姿も、もはや最後の手段とばかりに切羽詰まった顔をした非モテ系のオタクっぽいのは私ぐらいで、ほとんどが美大生のようであった。あごにちょび髭を生やした若いのが三人ぐらいで連れ立って来ている。一人で来ている女性もいた。
展示されていたのは、人形12体と生首五つ。スタッフは男性一人と若い女性二人。人形と同数ほどの来場者で、狭い画廊はごった返している。人形は、浴衣を着て立っていたり、セクシーなランジェリーをまとってソファーに腰掛けていたり。浴衣のコは、見た目、中学生ぐらい。みんな抜けるような白い肌。人間の肌に比べて青っぽく透明感がある。顔立ちは男性諸氏の理想像を平均化したような美人ではなく、それぞれ個性がある。「いたらいいな」という超越感ではなく「いるよな」、「どっかで見かけたことあるよな」と思わせる、現実に接近した親しみ感がある。
女性のスタッフから「触ってみますか」と声をかけられる。ソファの二体だけは、触れてよいことになっている。差し出されたウェットティッシュで手を拭いて、と。握手したら、ずしっと重い。腕だけでこの重さじゃ、体重は「ちょびっツ」のちぃほどになろうかと思って聞いてみると、28kgと、さほどでもなかった。力が入ってないから、ずっしり感があるのだろう。肌の感触は、ねっとりと吸い付く感じで、弾力がありぐにゃぐにゃぶよんぶよんしている。手には骨が入っていないので、指はどこまででも曲がり、放すとぶよんと元に戻る。腕には骨が入っていて、肘や手首の関節で曲がる。
シリコン製で、一体60万円もする。お迎えした人は、みんな信じられないくらい溺愛するそうである。通販で次々と衣装を買って着せてあげたり、ベビーパウダーでぱたぱたしたり、お風呂に入れてあげたり、外に連れ出して写真撮ったり。川原由美子さんの「観用少女(プランツ・ドール)」を思い出すなぁ。お酒飲ませちゃだめよ。
入場料500円と引き換えに渡された小冊子の最後のページに、人形作家の森馨さんが寄稿している。「人形には自分が投影される」という点には、今まで気がついていなかった。例えば、人形の表情がさびしそうに見えたとすると、それは自分がさびしいってことの投影だったりするわけだ。前回、人形の印象をいろいろと語っちゃったけど、それって実は自分のことだったか。ひぇ〜、ハズカシ〜。
ってことは、お人形をお迎えしてまめまめしく世話を焼くのは、自分の優しい性格が投影されているってことだよね? 一方、いがみあったり冷めきったりしてる現実の夫婦は、お互いに相手のいいところを破壊しあってそうなっちゃったってことかな? うう、これが一番の悲劇かも〜。
握手の感触は一日中、まとわりついた。いや、今も生々しく...。
●跪いてビスクドールの足をお嘗め
って、見出しに意味ないです。宝野アリカさんのCDタイトル「跪いて足をお嘗め」と人形作家恋月姫さんのビスクドールを適当に混ぜてみただけ。
翌6月24日(日)の夜には、宝野アリカさんと恋月姫さんのトークショウが浅草橋であった。アリカさんは "ALI PROJECT" のボーカルと作詞担当で、「ローゼンメイデン」のオープニング主題歌「禁じられた遊び」、「聖少女領域」を歌っている。恋月姫さんの作るビスクドールとは、二度焼きの白磁器の人形のことで、19世紀ヨーロッパのブルジョア階級の間で流行ったアンティークドールは、これである。あ、はいはい、真紅もね。
私にとっては敷居が高いような気がして躊躇していたのだが、運命のいたずらか、はたまた真紅の企てか、間際になってKotoiっちがミクシィの日記で「チケットが余った」コールを発したのに何か必然的なものを感じ、譲り受けた。
来場者のほとんどが女性で、その大半がフリフリヒラヒラないでたち。華やかだ。ロリ服というのは、こういう場では正装なんだね。もんのすごい気合いを入れておしゃれしてきた感じがよく分かる。Kotoiっちのステンドグラスと天使を組み合わせた柄のロリ服は、恋月姫さんがデザインして "Baby the Stars Shine Bright" から販売されたものなのだそうで。茶系の色が品よく組み合わさり、胸の前の大きなリボンもめっちゃかわいい。
60名入るホールの正面と左右前方には、恋月姫さんのドールが12体ほど展示されてる。壁に掛けられた椅子に腰掛けていたり、ガラスの棺に寝かされていたり。私は前から四列目の一番左の席が陣取れたんで、長細い五角形の棺に目をつむって横たわる二体の人形がずっとそばにいて、生きているような暖かみが伝わってくる。まず、ALI PROJECT「聖少女領域」のプロモーションビデオ上映。恋月姫さんの人形を抱いて歌うアリカさん自身にもどこか人形のイメージが...。
< > (その動画)
続いて、アリカさん自作の童話「悲恋」の朗読。「これが恋なのね…」。ローソクの明かりだけの暗がりで、アリカさんが朗読を始める。すごくセクシーで優しく柔らかい声。物語の中に吸い込まれる。娼館に幽閉された少女。裕福なお屋敷に家族と住んでいたころのかすかな記憶。買われるなんてイヤ。誰か助けて! 窓越しにときおり見かける少年に恋をする。音の伝わらない会話を頼りに思いを通わせ、クリスマスイブについに少年は少女を助け出そうと打って出る。けれど、待ち受けていたのは、絶望の奈落。(Kotoi っち、ミクシィ日記から文章借りた、サンキュ!)
吊り下げられた裸電球が薄暗く灯り、お二人のトーク。アリカさんは肩と背中の開いた黒いドレスにミニハット、恋月姫さんはヒョウ柄のノースリーブロングワンピ。雑誌「夜想」の編集者だという司会者は大変饒舌な方で、人形を見た印象などを語りに語ってくれた。たまに恋月姫さんが短く言葉をはさみ、アリカさんは終始うなずいているだけ。世にも珍しい司会者のトークショウ。
恋月姫さんは、人形の崇高な美のイメージから、近寄りがたい孤高の人なのではなかろうかと勝手に想像していたが、それとはまるで裏腹に、気取ったところがまったくなく、決して大言壮語しないところがかえって印象的であった。「魂入れるとか入れないとかって、な〜にそれ?」とからから笑う。すごく具合が悪くて何もする気力が起きないときがあって、そういうときは人形作ることしかできなくて、いつの間にかできてたりするそうで。それを普通のことのように言うのがやけに可笑しい。
やっぱり上のほうから祝福されてて、大きな力が降りてくるのでは? アリカさんは最後に会場からの質問に答えて「生まれながらのアーティストなんて一人もいない。常に上を目指すことがアーティストでいられる資格」と言ったのが心に残った。
終了後に、人形を全部見て回る。立ち去りがたい思い。お迎えできたら幸せだろうな〜と思いつつ、恋月姫さんの人形って一体300万円もするんだよなぁ。はぁ〜っ(ため息)。だけど、もしビスクドールの真紅を作ってくれたら、後先考えずにお迎えするバカがぜったいいそうだ。(ここに)
●渋谷の地下の静寂空間「マリアの心臓」
翌週末6月30日(土)は渋谷のドールミュージアム「マリアの心臓」へ。
< http://mariacuore.com/
>
5月12日(土)〜7月1日(日)、多くの人形作家の作品を集結させた展示会「maria † mare 人形と絵画による受胎告知」が開かれた。
ホラーな人形だらけなので、蚤の心臓をお持ちの方には向かないかも。私も自慢できるほどの心臓はないが、天野可淡さんのドールが見たくて行った。可淡さん(女性)は、吉田良氏の主宰する人形教室「ピグマリオン」のスタッフだったが、'90年に交通事故に遭い、30代の若さで他界している。
エレベータで地下一階に下りて左手に進むと、もうそこが会場で、所狭しと人形が展示されている。人形の間を通り抜けるにも、そ〜っと気をつけて、という感じで。一番奥の左右に、可淡ドールが6体。
右側手前には顔がシャム猫のドール。頭には黒い大きなリボン、目が離れ、笑っているような表情。黒いロングドレスが誇り高き貴婦人のよう。その右には全裸の少年。首をちょっと傾げ、かわいい感じの丸顔。すんごくリアル。その奥には「妖精」。身を屈め、何かを狙うように顔を横に向ける。とんがり耳、目は青くつり目。少し覗いた歯は鋭そう。背にはアゲハ蝶のような大きな羽。炎のように、上に向かって鋭く。
左側手前には「星を見上げる少女」。薄物をまとった体は、骨に皮がついただけのようにやせこけている。胸は膨らみ始めの、小さくとんがった感じ。跪き、絶望した表情で天を仰いでいる。その左側、鉄枠にかけられた黒いレースのカーテンの奥に、全裸の少女。ほぼ等身大と言ってもいいほど、大きい。照明が暗く、顔がよく見えない。ふたつの人形の間を身をよじって進んだ奥にはもう一体、少女が。顔はうつむき加減。表情が何とも言えず怖く、一度目を離して再び見ると、その度ごとに、あらためて驚かされる。
手前の方には恋月姫さんの人形も何体か。目から血の涙を流しているのが二体ほど。体がくっついた双子も。左右の壁には四谷シモン氏の人形も 一体ずつ。少年と少女。一番奥には、木村龍氏の人形が二体。腹に大きく楕円形の穴が開き、中は空洞になっていて、小さな人形がいる。
その手前、全体のほぼ中央には、三浦悦子さんの少女人形が横たわる。両太腿にはぐるりと釘が打ち込んであり、さびが流れたように色づけしてある。また、アソコの割れ目の両脇には、微小な穴が点々と連なり、縫合して抜糸した跡ということらしい。細い針金がからまった十字架を両手に持ち、その下端が割れ目の上端付近に接触している。目はとろんと半分閉じて虚ろ、歯は下唇を噛んでいる。
身も蓋もない言い方をすれば、エロ・グロである。だけど、そうと片付けられない何かがある。確かに、この種のインパクトをもって人の気を引こうとするのであれば、あたかもウケないお笑い芸人が最後にはくすぐってでも笑わせようとするかのごときもので、安直・堕落のそしりを免れない。しかし、この作品を目にして安直と評しては、いかにも的外れ。作者の真剣な姿勢から生み出された美が間違いなくある。かと言って、これは芸術なのだから、エロとは別次元のものであるという、俗界から切り離された超越の高みでもない。エロを限りなく肯定した先に成り立つ美がそこにある。
いくつかの人形は常設なので、明日からの絵画展でも見ることができる。
●おまけ、人間の人形
その日の夜は、中野にあるバー "Two Face" へ。5月19日(土)にオープンしたばかりのゴシックなお店。じゃらっと鎖が飾りつけられた入り口のドアを開けると、黒塗りの壁に分厚く赤いカーテン。奥のガラスケースの中には由良瓏砂さんによる人形が2体。30cmほどの背丈なのに、とてもリアル。会話ができそう。
給仕するのは、みずからを「ドール」と呼ぶ人間の女性たち。黒を基調として、赤の入ったゴシックないでたち。店がオープンしたとき、ローゼンメイデンのドールたちに扮して秋葉原や中野を練り歩いたらしい。やるなぁ。
< http://www.two-face666.com/
>
< http://www.akibablog.net/archives/2007/05/rozen_maiden_cosplay_070505.html
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【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
カメコ。6月30日(土)、秋葉原で500人規模のデモ行進があったらしい。「6・30 アキハバラ開放デモ」。メイドや涼宮ハルヒなどのコスチュームで「マスコミのオタク偏見報道反対!」などの主張を掲げる。これにはオタクの側からもネットで批判の集中砲火。「迷惑」「キモい」「オタクのイメージをかえって下げる」「頭悪い」などなど。うーん。どうやら私は頭悪い側のようで、「よくやった! 面白い!」と思えてしまうのであった。
< http://www.akibablog.net/archives/2007/07/akihabara-070701.html
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- KATAN DOLL―天野可淡人形作品集
- 天野 可淡
- トレヴィル 1989-10
- COLLECTION SIMPLE PLUS
- ALI PROJECT 宝野アリカ 片倉三起也
- ビクターエンタテインメント 2006-07-26
- おすすめ平均
- 機械仕掛けのバロックオペラ
- 白アリも黒アリも。
- 白と黒の世界。
- 初心者にも、すでにファンの方にも。
- すごい!
- 曲名リスト
- Wish
- 夢のあとに apres un reve
- ピアニィ・ピンク
- 月夜のピエレット
- Anniversary of Angel
- 天使に寄す
- コッペリアの柩
- apres le noir
- 赤と黒[original ver.]
- 月蝕グランギニョル
- 未來のイヴ
- 地獄の季節
- 亡國覚醒カタルシス[orchestral crowd ver.]
by G-Tools , 2007/07/06