Otaku ワールドへようこそ![55]「クリエイターの夢、実現に向けて」聴講記
── GrowHair ──

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7月13日(金)、大阪のメビック扇町で開かれたデジクリのイベント「クリエイターの夢、実現に向けて」で、アニメ・ゲームの業界で活躍する吉川惣司氏と川口孝司氏が、若手のころの思い出話から、現在の希望、将来の夢、これから業界を目指す人へのアドバイスに至るまで、熱く語ってくれた。好きなことに迷わず全力を注ぎ込む力強い生き方が、一介のサラリーマンとしてのたくらのたくら生きている私には衝撃的で、何かパワーを注ぎ込まれる思いであった。今回はそれをレポートします。


●人生を捨ててアニメ・ゲーム業界に?

台風4号が九州に接近していて、雨がしょぼしょぼ降る日だったが、水道局庁舎の二階にある学校の教室ほどの広さの会議室には、多くの方々が集まった。クリエイターとしての夢をすでにそこそこ花開かせてるように見える、プロっぽい方々の姿も。

星のカービィ 2ndシリーズ Vol.5予定通り、18:00に二人の講演者と司会者が登場。まずは講演者紹介から。吉川惣司氏は、東京都出身のアニメ監督、脚本家、演出家、アニメーター、舞台演出家。ルパン三世、あしたのジョー、天才バカボン、ベルサイユのばら、太陽の牙ダグラム、星のカービィなど、多くの作品を手掛ける。高2のとき、虫プロ一期生に応募。鉄腕アトムのアニメータ。現在、(株)ダイナメソッド取締役。

川口孝司(たかし)氏は、アニメプロデューサー、ゲームプロデューサー。田尻智氏のアイデアをポケットモンスターとして世に送り出す。ポケモン関連のイベント立案・実行。映画の巻頭に流れるCMのプロデュースなど。

司会者は大阪デザイナー専門学校CG学科講師の鈴置勝信氏。

最初のお題は「現在の道に進むきっかけ」。

◇吉川氏

高校時代、手塚治虫の漫画がダントツにすごくて、追っかけやってた。高2で虫プロ一期生に応募したときは、人生を捨てたつもり。「これでお前の人生はないんだ」と覚悟。

ゲーム・アニメの時代が来るなんて、夢にも思わなかった。「雑誌が取材に来ちゃったりなんかして」と冗談言ってた。それが、脚光を浴びるようになったもんだから、憤った。(会場、笑)「日が当たってきちゃったー」。

正統派としてアートを目指す者は芸大に行った。それに反発する自分。ものごとに逆らっていた、それが生き甲斐。立派な人みたいに見られるのは、自分の思い描いてきた姿ではない。決して立派じゃない。

◇川口氏

吉川さんとは正反対。普通に大学出て、普通に就職。任天堂は、半分はトランプ・カルタ、半分は玩具で収益を得ていた。京都に住んでいて、大阪に就職口があったが、行くのが面倒で京都にある任天堂にした。

とりあえず、会社入んなきゃ、給料もらわなきゃ。サラリーマンとして平穏無事に。できるだけ残業したくない。

それが、とんでもない会社になっちゃった。急に様変わり。あれもやれ、これもやれと、多岐にわたって何でもさせられた。だんだんクリエイティブな仕事もするように。

アニメや漫画は好きだけど、自分はクリエイターではない。どうやって面白いものを作るか、仕組みを考えていきたいと思っていた。

ルパン三世 ルパン vs 複製人間ルパンの映画版を手掛けた吉川さんと知り合った。30年前の時点で、アニメ映画でクローンをテーマに取り上げた吉川さんは天才。ゲーム作らないかと持ちかけて、組んだ。結局ゲームは完成しなかったけど、宮本茂さん(任天堂で「スーパーマリオブラザーズ」を制作した人)が吉川さんの才能認めた。カービィでテレビアニメやらないか、と持ちかけ、吉川さんを監督に。このとき、私も世を捨てた。

●勢いのいいときに暗雲の見える先見の明

第二のお題は「若手時代の話」。

◇川口氏

もともと法務にいた。任天堂はファミコンで飛ぶ鳥落とす勢い。しかし、当時の社長、山内氏は「必ずアイデア枯渇する」と危惧を唱えていた。

このままだとアイデアの使いまわしで、つまらないソフトが濫作される。期待を裏切る。ゲームなんてつまらないと言われて消滅する。「天才を見つけろ!」おおもとのアイデア出せる人が、ほんとの天才だ。

日本のゲームはほとんど漫画が原作。オリジナルのゲーム、ほんとに少ない。いくらでもこれから大きくなれる、すばらしい未来が予見されていたときに、暗澹たる未来が見えていた。先見の明。

◇吉川氏

虫プロに入ったとき、セル買ってきて、すでに8ミリ作っていた。作り方の原理は完璧に分かっていた。マニアとして入ってきた。しかし、原画を知っていないと動画はできない。虫プロは漫画家集団という特殊な会社。動画のノウハウは東映ほどではなかったけど。

日本はアニメ化のための原作には事欠かない。手塚治虫の次はちばてつやに行けばいいじゃないか、と。漫画の資産の蓄積、いかに大きいか。ある意味、アニメにはマイナス。そういう、アニメの矛盾、体験してきた。

●将来の夢を語るにはまず現状の問題認識から

第三のお題は「現在の希望、将来の夢」。

◇吉川氏

夢どころじゃなくて、将来どうしようと途方に暮れる状態。日本のアニメはすばらしいとマスコミは囃したがるけど、幻想。今は戦略が不在。実は危険。浮かれてる場合じゃない。

中国・韓国は国を挙げてやっている。ただし、日本は30年ほどのアドバンテージがある。アニメは大衆芸能。低俗だから面白い。きちんとした伝統芸能に対する対抗カルチャー。

偉いことのように持ち上げられると面食らっちゃう。国家や大学が先導しても駄目。下から這い上がってくる世界。その点、韓国は大変苦戦している。基本的に大衆芸能が育っていない。

そこはアメリカと日本だけが有利。なぜか? 一度、伝統文化が消滅したから。アメリカはイギリスを離れ、野蛮な時代を経験した。日本も、高度経済成長で伝統文化は置き去りにされ、かなり形骸化した。

迫ってくるのは、多分、中国。日本はよろしくない状況。

◇川口氏

やはり、現在の問題意識をまずはっきりさせることから、将来こうなってほしいという夢につなげていきたい。

テレビとともに発展してきたのがアニメ。放送してもらえる枠を取らなくては始まらない。キー局は東京、大阪、名古屋。広告代理店が枠を買っている。今はその構造が破綻してきている。

おおもとに予算1,000万円あっても、アニメ制作会社には750万円しか渡らない。ハイジでは30分アニメ(実尺21分)にセル10,000枚以上使っていたのに、今は3,500枚〜4,000枚。ひとえにコスト至上主義。

重い役割を担っている功労者が最も報われない。創作力を発揮した人が応分の報酬が得られるような構造になっていないと、誰も作ろうとしなくなる。構造を作りかえたい。

●海外にオリジナル作品を

第四のお題は「現在手掛けているプロジェクト」

◇川口氏

オリジナルな企画をアメリカに売り込みたい。日本市場を捨てたというわけではなく、チャレンジとして。

アメリカのアニメ配給会社は、ジャパニメーションのいいところをすべて吸収済み。日本で放送したアニメを持ち込んでも、興味持ってもらえない。オリジナル作品なら話を聞いてもらえる。

●幅広く興味をもって知識を吸収しよう

第五のお題は「これから業界目指す人へ」。

◇川口氏

アニメ・ゲーム制作は、人を楽しませ、喜ばせ、感動させ、内面に触れることができるすばらしい仕事。一人でも増えてほしい。好きだから、という動機が大事。

漫画・アニメ・ゲームに限らず幅広く興味を持とう。吉川さんは人形浄瑠璃にみんなを連れて行った。3Dの基本、ばっちりあり、ものすごく役に立つ。

幅広い知識を自分の中に土壌として蓄積し、役立てていくことが、より高いレベルの作品を生み出す原動力になる。人生にとっても絶対にマイナスにならない。

質の高い作品が認められる、最もフェアな世界。国家がどんなに庇護しても、お金持ちが経済支援しても、そんなことで競争力高くなることは絶対にない。

中国では、国産アニメを保護するために、ある時間帯、日本のアニメを締め出す政策をとった。結果、その時間帯のアニメを誰も見なくなった。つまらないから。

作品の面白さが絶対的にものを言う世界。そこがいいとこ。

●GrowHairの感想:いい話に元気づけられた

正直言って、最初、クリエイターでも何でもない私が業界の裏側を覗き見るような気持ちで聞きに行くのもどうかと迷いがあったが、人生を捨てて好きなことに生きるお二人の真剣な姿勢には、自分の中に深くしみ入るものがあった。

ただし、「漫画・アニメは大衆向けの低俗な娯楽」には少し引っ掛かりを覚えた。確かに、学術の権威やら国家の権力から「これは文化だ」なんて立派なお墨付きを授かる必要性は少しも感じないし、哲学・思想みたいなコムズカシイことを大上段に振りかざしては、視聴者に逃げられる。

だけど、手塚漫画の時代から脈々と描かれてきたものは、単純な勧善懲悪やシンデレラストーリーにとどまらず、社会の不条理や倫理的な葛藤といった深いテーマがあり、それがストーリーの面白さという点で日本の優位性を支えているように思えてならない。海外ウケしそうなカラッとしたエンターテインメントに迎合しようとせず、日本らしくじめっとした路線を崩さなかったところが、独自性として開花しているのではなかろうかと。

昭和前半ぐらいの日本の近代文学は、そうとう深いところを描いているのに、その価値は海外にはあまり認められず、ほぼ黙殺されてきた。しかし、日本の漫画・アニメの面白さはそういう土台があってこそ成り立っているのであって、「対抗カルチャー」として切り離す必要があるのだろうか? むしろ、近代文学をもっと掘り起こして取り込み、連続化すればいいのに、と思うことがある。そういう方向性はうまくいかないのだろうか?

懇親会で吉川氏に聞きかけたのだけど、残念ながら時間切れ。ぜひまたやって下さいまし〜。

初めてお会いしたデスクの濱村さんは、うわさにたがわずきれいなお方で、てきぱきと立ち働く姿が光り輝いてました〜。やはり初めてお会いしたまつむらまきおさん、話題豊富な楽しいお方で、特にアニメなどの作品評論が面白く、飲み会の席でもせっせとメモ取っちゃいました。

日本橋に宿泊、無料の小冊子「えくすとら・おたまっぷ(仮)」を片手に「オタクロード」近辺のメイド喫茶や魔法学校めぐり。台風、どこ吹く風とばかりに、どこもオタクで賑わってました。
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鉄ヲタではないけど。東京駅の東海道新幹線の改札口に「うっかり」東北新幹線の特急券を突っ込むと、小さな液晶パネルに「特急券なし」と表示される。せめて「路線違い」ぐらいにならんもんか。JR東日本の切符は切符にあらず、と言わんばかりなのは、JR東海の姿勢の表れかね? さて今回は逆のうっかり。切符の挿入口に「東北新幹線」と目立つように書いてあり、うっかりのしようがないんだけど。大きな液晶パネルに「東海道新幹線の改札口をご利用下さい」と。さすが。社風の違いかね?