[2295] 「待つ女」と「追う女」

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<DTPエキスパートに合格した>

■映画と夜と音楽と…[350]
 「待つ女」と「追う女」
 十河 進

■Otaku ワールドへようこそ![60]
 パソコンと楽しく将棋を指そう
 GrowHair

■デジクリトーク
 やっぱり、やっちまいました
 桑島幸男


■映画と夜と音楽と…[350]
「待つ女」と「追う女」

十河 進
< https://bn.dgcr.com/archives/20071019140300.html
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●十二歳の少年の心に刻まれた人生の苦さ

──あすは檜になろう、あすは檜になろうと一生懸命考えている木よ。でも永久に檜にはなれないんだって! それであすなろうというのよ。

雪の中で心中している姉のように慕っていた少女の遺体を見つめて、少年は彼女の言葉を甦らせる。そして、「この二人の死を超えて行かねばならない。己れに克って人生を歩んで行かなければならない」と少年は誓う。

その小説を、僕は十二歳のときに読んだ。六つのエピソードで構成された連作長篇の最初の物語は「深い深い雪の中で」と名付けられており、主人公は十三歳の少年だった。後に、それは作者の自伝的な小説なのだと知ったが、自分とほとんど変わらない歳の少年の思いが強く伝わってきたのを憶えている。

物語は鮎太という主人公の十三歳から始まる。第二話は中学三年生、第三話は大学生、第四話は夢を抱いて新聞記者になった頃、第五話は新聞記者として経験を重ねた頃、第六話では結婚し子供も生まれている。しかし「あすは檜になろう」と思っていた少年が、結局、檜にはなれなかったことを苦く噛みしめて終わる小説である。

それが井上靖の「あすなろ物語」だった。エピソードが進むに連れて、少年時代に輝くように抱いていた「あすはなろう」という主人公の思いが、次第に現実の前にしぼんでいく。ちょうど戦争にぶつかる時期でもあるのだけれど、そのことが、幼い僕に人生の苦みを教えた。

「あすなろ物語」は黒澤明が脚本を書き、堀川弘通の監督デビュー作として19 55年(昭和三十年)に映画化されている。堀川弘通は黒澤明監督の「七人の侍」などに助監督としてついていたので、監督デビューを祝って黒澤自らが脚本を仕上げたのだろう。

「あすなろ物語」は僕に人生の苦さを教えたけれど、井上靖という小説家の名はしっかりと刻み込まれ、その後、僕は多くの井上靖作品を読んできた。晩年の一時期、井上靖は毎年のようにノーベル文学賞の候補にあがっていると囁かれたが、結局、受賞せずに亡くなった。

その井上靖の本を書店で探すのがむずかしくなったなあと思っていた頃、NHKが「風林火山」を大河ドラマに取り上げたことで、少しは復刊されているようだ。かつて、井上靖が週刊誌の連載を何本も持つ流行作家だったことなど、今や誰も知らないかもしれない。

それにしても、始まった頃(原作にはないオリジナルの部分だった)に僕はほんの数分しか見ていないのだが、NHKの「風林火山」で山本勘助を演じている内野聖陽はミスキャストのように思える。内野聖陽は、舞台「野望と夏草」で演じた平清盛役が印象深く、力のあるいい役者だと思うけれど、山本勘助のイメージではない。

山本勘助は醜く、すがめで、片足を引きずる小男だと原作にある。歳は五十近い。武田信玄の軍師になり、諏訪家の由布姫に惹かれ、信玄と由布姫を愛す。結局のところ「風林火山」は、勘助と信玄と由布姫の愛を巡る三角関係の物語なのだ。だからこそ、勘助は徹底的に醜い外面を作者によって与えられた。

●勘助だって複雑な思いを抱いて生きていた

映画「風林火山」が公開されたのは1969年3月のことだ。三船プロが社運をかけて制作した大作だった。俳優が自分でプロダクションを作るというスタープロのはしりの頃で、三船敏郎も苦労をしたという。スター同士の連帯感か、信玄は中村錦之助、友情出演で石原プロを率いる石原裕次郎が上杉謙信役で出た。

その年、僕は高校三年生になるのだが、すでに井上靖の多くの作品を読んでいた。特に戦国ものは大好きで「風林火山」「戦国無頼」「風と雲と砦」「天目山の雲」「真田軍記」「淀どの日記」などを読み尽くした。読めば読むほどわかるのだが、井上靖は滅びゆくものを惜しみ、哀切さを謳いあげる名手だった。

しかし、すでに時代劇の巨匠と呼ばれていた稲垣浩監督の「風林火山」は、三船敏郎の大芝居もあって、そういう細やかな情緒が感じられない大作になってしまった。世の人々は合戦シーンのスペクタクルを見たいのだという、制作側の高を括った姿勢が見える作品だった。由布姫を演じた佐久間良子もミスキャストだと思う。

「風林火山」では醜い勘助が美しく高貴な存在(由布姫)を愛し、息子のように思う信玄とは似合いだと思いながらも葛藤する、その特殊な三角関係こそが肝なのだ。そこに生まれる複雑な愛憎を描き切らないと、何も描いたことにはならない。

残念ながら、三船敏郎にそのような演技を要求する方が無理だった。誇り高い由布姫に罵られたとき、勘助のマゾヒズムに充ちた歓びを三船敏郎が表現できるはずもない。また、父を殺し諏訪家を滅ぼした信玄とその軍師である勘助を憎みながら、信玄の子を産む屈辱と喜びを佐久間良子は観客に伝えることができなかった。

稲垣浩監督は時代劇を主に作ってきたが、繊細な人間ドラマを演出できる人でもあった。太平洋戦争の最中に公開された坂東妻三郎主演の「無法松の一生」(1943年)が代表作である。その稲垣浩監督の「戦国無頼」(1952年)を僕は見たくてたまらないのだが、未だに見る機会がない。

「戦国無頼」は井上靖が芥川賞を受賞した翌年の昭和二十六年から翌年にかけて「サンデー毎日」に連載された小説で、その年には映画化されているから、よほど人気があったに違いない。井上靖は、売れっ子の流行作家だったのだ。その連載中に僕は生まれたことになる。そう、五十五年も前の小説だ。

僕が「戦国無頼」を読んだのは十代半ばだった。今でも僕は「最も好きな小説は?」と問われれば、サリンジャー「フラニーとズーイー」、チャンドラー「長いお別れ」、フィッツジェラルド「グレート・ギャツビィ」、ケストナー「飛ぶ教室」、ブロンテ「嵐が丘」、安岡章太郎「海辺の光景」、古井由吉「哀原」、司馬遼太郎「新選組血風録」「燃えよ剣」などと思い浮かべた後、「戦国無頼」と答えるだろう。

●ふたりの典型的なヒロインの間で揺れ動く

「戦国無頼」は、小谷城の落城前夜から始まる。お市の方と三人の姫を織田信長の軍に渡した後、明日は最後の合戦だと城の男たちは覚悟する。その城から三人の男とひとりの女が生き延び、壮大な戦国ロマンが展開されるのだ。

死ぬなら死んでもいいと思っていたのに生き延びてしまったニヒリスト佐々疾風之介、武士らしく豪快に討ち死にしようと大暴れをしたのに醜い顔を珍重がられて捕虜になってしまった鏡弥平次、城と一緒に死ねるかと思っていた強烈な上昇志向を持つ立花十郎太である。

そして、疾風之介を慕う奥女中の加乃が、疾風之介との約束を信じて城から落ちる。「落ちるなら、この女を頼む」と疾風之介に言われた立花十郎太は、加乃を伴って逃げるのである。そして、加乃に惚れ、加乃のために他家に仕官し、立身出世をめざす。

傷つき野に倒れていた疾風之介を助けたのは、落ち武者狩りをしていた野武士の娘おりょうである。おりょうは疾風之介を助け、一度だけ抱かれると命懸けで惚れる。姿を消した疾風之介を「疾風」と叫びながらどこまでも追い続ける。加乃とおりょう、疾風之介を慕うふたりの女がこの小説のヒロインである。

疾風之介を追うおりょうと疑似親子のような関係になるのが、湖賊の親玉になっていた弥平次だ。弥平次はおりょうの心を捉えている疾風之介と再会したとき、とっさに殺してしまおうと考える。また、十郎太は加乃を疾風之介から奪おうと画策する。つまり「戦国無頼」は、三人の男とふたりの女が繰り広げる愛憎ドラマなのである。

未見なのでキャスティングからの推測なのだが、映画版で疾風之介を演じたのは三船敏郎、立花十郎太は三國連太郎、おりょうは山口淑子、加乃は宝塚女優だった浅茅しのぶのようだ。鏡弥平次を演じたのは、市川段四郎という人かもしれない。

おりょうという野生児のようなヒロインの印象が強烈で、現在ならストーカー扱いされるだろう。反対に、加乃は、当時の時代小説のヒロインの王道をいく「待つ女」である。武家に生まれ、慎みと高貴さを持ち、愛する男を待ち続ける薄幸薄命の美女である。

落城寸前の山城に疾風之介がいると聞き、「追う女」おりょうが石垣を登って会いにいく場面は凄まじい。執念という言葉が浮かぶ。疾風に対する執着・恋着は、異常である。古来、日本にはこういうタイプの代表として清姫とか、八百屋お七がいた。

僕は「戦国無頼」を読み返すたびに、どちらかのヒロインに感情移入する。最初、十代半ばで読んだときは加乃の純情さ・高貴さに惹かれた。黙って男を待っている秘やかさにも胸が騒いだ。加乃は「待つ女」だが、その心の中はたぎっていた。慕情が燃え上がっていたのだ。

長い年月を経て、四十代に読み返したとき、僕は自分がおりょうに強く惹かれているのを感じた。おりょうは、偶然、加乃に会ったとき、この女が疾風の心をつかんでいる女なのだと知って殺そうとする。嫉妬を自覚せず、本能の命じるままに生きている。愛する男を追い続け、その男の心が自分のものにならないのなら殺してもいいとさえ思う。

「戦国無頼」は不思議な余韻を残す。加乃は死に、負け戦ばかりの果てについに戦場で死にかけた疾風之介を見つけたおりょうが、「死にたいなら死なせてあげる」と言う。死に場所を求めてさまよっている疾風之介の虚無の心を、おりょうは理解していたのだ。

しかし、突然の啓示のように疾風之介は「生きたい」と思う。おりょうの「生きたいなら生きたらいいわ、疾風が生きるんなら、わたしも生きる!」という言葉があり、ふたりの未来を暗示して終わる。

井上靖の文章は品がいい。流行の言い方をすれば、文章に品格がある。加えて、登場人物たちにやさしい。自分が創り出した人物たちを、作者が愛していることが伝わってくる。その人物たちを、読者にも愛してもらいたいという作者の思いがある。最近の小説では味わえない爽やかさだ。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
ふーっ、とうとう350回。一回分4000字として、よく書いたものです。「よく続くね」と言われることもありますが、そんなときは「続けているんです」と答えたくなります。大人げないので、言いませんけど…(でも、ここで書いてるんだなあ。まったく…)

●305回までのコラムをまとめた二巻本「映画がなければ生きていけない1999-2002」「映画がなければ生きていけない2003-2006」が第25回日本冒険小説協会特別賞「最優秀映画コラム賞」を受賞しました。
< http://www.bookdom.net/shop/shop2.asp?act=prod&prodid=193&corpid=1
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■Otaku ワールドへようこそ![60]
パソコンと楽しく将棋を指そう

GrowHair
< https://bn.dgcr.com/archives/20071019140200.html
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10月の3連休は、どこかへネタ狩りに出かけようという気持ちも多々あったのだが、気がついてみると昼となく夜となくパソコン相手に将棋を指し続け、それだけで終わっていた。楽しんでいたというもんではなく、ただ、止まらなくなっちゃっただけ。オンラインゲームから抜け出られなくなって通常の生活から逸脱してしまった人を「ネトゲ廃人」というが、状態としてはそれに近い。ああ、時間を巻き戻して連休の頭からやりなおしたい。
ドラえもーーーん。(大泣)

という止むに止まれぬ事情により、同じ話題が続いてしまうけど、今回も将棋の話なのです。

●人間失格

外の天気はおろか、時計を見ても午前だか午後だか分からない。人と会うこともなく、言葉を発することもなく、眠くなったら寝て、食いたくなったら食う。なぜかあんまり眠くもならず、食いたくもならず。一日に一回ぐらい近くのコンビニまで往復し、パンだのヨーグルトだの適当に買ってきて、適当なときに適当に食う。

ただひたすらパソコン相手に将棋、将棋、将棋。そんなに熱心に研究に励んでいたのかといえば、そういうわけでもなく、ただ機械的に反射的にぱっぱぱっぱと指してるだけ。頭はほとんど働いていないに等しい。いとも簡単に相手の狙い筋に嵌って、そうかと気がついたときにはどうにもならず、また最初からやりなおし。その繰り返し。延々延々。

しまいには、生きているのが嫌になる。自分の存在そのものが、すげー負担になってくる。いますぐぱっと消滅できたら、それが一番楽でいい。人格、崩壊。

こういう生活、学生時代にやって教訓を得たはずなのに、またやってしまった。あのころはパソコンゲームの黎明期、大学にいると、ソフトがいくらでもタダで手に入った。コピープロテクト外しの名人がいたようで、NEC PC-8801用のゲームが鍵の外れた状態で詰まった5インチ2DDフロッピーディスク(640KB)がばんばん出回り、コピーし放題だった。

森田オセロ、アルフォス、ロードランナー、倉庫番、ドアドア、などなど。アルフォスなんて、バイナリエディタで特定のアドレスの数字をちょちょいといじると、戦闘機を100機ぐらいに増やせた。そんな情報まで流通していた。明け方までゲームやってそれから寝るもんだから、目がさめたらテレビで相撲やってたなんてこともざらだったっけ。それから大学行って、仲間がいると居酒屋行って、起きぬけの一杯。デカダンスの一杯。

考えてみると、あのころすでに人生の変な横道に迷い込んでいたのかも知れない。連休を巻き戻す以前に、人生そのものをリセットして最初からやりなおしたい。

●それだけ面白いコンピュータ将棋

今回ハマったのは、「ボナンザ」というフリーの将棋ソフト。ゲームには一度免疫ができてたはずなのにうっかりハマったのは、やはりそれだけ出来のいいソフトだから。面白さの第一は、まず強いこと。毎年開かれる世界コンピュータ将棋選手権で、2006年に初出場し、いきなり優勝している。今年の3月21日(水・祝)に渡辺明竜王と指して、善戦している。渡辺竜王はブログで「プロの足元まで来ている」と書いている。

将棋の段位・級位はちょっとややこしいので説明しておきましょう。級位はレベルが上がるほど数字が減っていき、一級の上は初段、そこからは二段、三段と数字が増えていく、というところは他のお稽古事と同じ。将棋ではアマチュアとプロとで別システムになっている。アマ3〜4段が、プロ養成機関である奨励会の6級に相当すると言われている。よく「地獄の」と冠して呼ばれる三段リーグを抜けて四段になることをもって、プロになる。女流はまた別システムである。いっしょくたにすると男性ばっかりになっちゃうから。「プロの足元」とは、アマチュアの頭上遥か上ですね。

将棋と兄弟分であるチェスの世界では、1997年5月、IBMの「ディープブルー」が世界チャンピオンであるカスパロフを2勝1敗3引き分けで破っている。将棋は相手から取った駒を味方の戦力として、盤面のどこにでも好きなところに打って使えるので、指し手の数が格段に多く、しらみつぶしの先読みでは、すぐに組み合わせの爆発が起きて破綻する。強いプログラムはそうそう作れないだろうとされていたのだが、ここまで来たのは、大方の予想よりずっと早い。脅威である。

ボナンザの強さは時間とメモリ使用量に制限をかけることで調節できる。デフォルトの3秒、18MBなら、私でも「待った」せずに100局に1局ぐらいは勝てる。だからやめられなくなるのだ。

第二に、ボナンザは形勢判断が数字で表示されている。互角ならゼロで、先手が有利ならプラス、不利ならマイナス。次の手を考慮中にも変化する。「顔色」が見えるのである。もちろんボナンザがそう思っているというだけで、客観的な形勢とはズレがあるかもしれないのだが、自分よりは遥かに強いのだから十分参考になる。

第三に、同一の局面でも指し手を変えてくることがある。一回勝ったからといって、同じ手でいつも勝てるわけではないのだ。いろいろ選択肢がある局面ではランダムに手を変えてくるし、一本道の局面ではちゃんとその手を指してくる。第四に、「待った」ができる。自分を甘やかすのはよくないのだが、単純な見落としで急転直下よりは、なかったことにして続けたほうが面白いということもある。

こっちが形勢有利と出ているのに、どんな手を指してもその途端に不利になっちゃうときがある。そういうときは、対局者をコンピュータ同士に切り替えて、正解を敵に教えてもらう。「そんな手、一生考えても思いつかないよー」という妙手が潜んでいたりして、勉強になる。こうやって進めていけば、とにかく最後には勝てる。

第五に、仕込まれている定跡が膨大。序盤データベース 25 万手。定跡通りに進んでいるうちは瞬間的に指してきて、形勢が0なのでそうと分かる。途中で定跡を外すとすぐに咎める手を指してくるので、なぜいけないかがすぐ分かる。いい研究になるのだ。

「羽生の頭脳」という十巻シリーズの定跡本がある。後手の三間飛車美濃囲いに対して急戦を仕掛けると、羽生の頭脳第3巻に書いてあったとおりに進むことがある。銀桂交換の強襲をかけ、一時的に駒損になるが、その後の桂跳ねが厳しく、これにて先手有利。……のはずが、飛車で銀を取ってくれず、浮いて逃げられちゃう。それならば丸々の桂得で、もっと有利なはずが、その後の指し手が分からない。どう指しても有利になっていかないのである。コンピュータ同士にしてもやっぱり駄目。羽生さーん。

●次の一手問題のカンニングに使えるか

「週刊将棋」という新聞がある。駅のキオスクなどで売っている。段・級位認定問題のコーナーがあり、次の一手問題がレベル別に6題出題される。往復はがきで回答して、正解の返信を12枚集めると、段級位が認定される。このところ、問題の難易度がやけに高い上に、応募者の正答率もやけに高い。15年くらい前は、50〜70%ぐらいだったはずだが、今は、どのレベルも75〜95%である。これは将棋ソフトの棋力の向上と関係があるのか?

いくらなんでも、コンピュータに解かせた回答をはがきに書いて応募する人はいないとは思うけど。そんなズルをして段位をもらったとしても、実際に対局したら級位レベルの手しか指せなかったというのでは恥をかくだけでしょう。ならば、応募する人たちの棋力が向上したのだろうか。いや〜、どうなんでしょ。

私の推測は、こうだ。まず自力で考え、自分の回答を決める→パソコンで確認してみる→不正解だったと分かる→応募しない。これなら納得いく。正答率、上がるわけだ。パソコン、便利だね。そうやってこつこつと往復はがき代を節約していけば、パソコン代なんてすぐ元がとれるだろう。

それはそうと、そもそもコンピュータ将棋に次の一手問題を解かせたら、正解を出してくるのだろうか。どれ、やってみよう。ネットからダウンロードできるフリーの将棋ソフトで、アマチュア初段以上のレベルにあるのは、ボナンザ、K-Shogi、きのあ、うさぴょんの4本である(他にもあるかも)。盤面を編集したり、棋譜ファイルをCSA形式とKIF形式との間で相互変換したりできる便利なフリーソフトには、柿木の "Kifu for Windows" と将棋所がある。これを使って出題図を入力し、棋譜ファイルに落としたのを対局ソフトに読み込ませて、続きを指させるのである。

上記4本のソフトのうち、ボナンザとうさぴょんにはそういうズルを防止する機構がついている。CSAファイルで、最初っから持ち駒のある盤面は読み込めないようになっているのだ。これの裏をかくのはちょっと面倒だが、平手の初手から人間同士で交互に指して、無理やり出題図まで持っていくという手がある。きのあには、コンピュータ同士対戦させるモードがないので、先の手を調べたければ、一手ずつ中断して対局者を入れ替えなくてはならないのが不便。

というわけで、K-Shogiが一番お手軽。週刊将棋10月10日号に解答が掲載されている、前々号の問題を解かせてみる。
初歩クラス:正解。7手を正しく読めて、必勝形。
上級位クラス:正解。歩の叩きの手筋で銀得。
初段クラス:正解。おまけに王手飛車までかけてぼろぼろ駒得。
二段クラス:正解。23手指して、先手勝ち。
三段クラス:正解。29手指して、先手勝勢。
四、五段クラス:不正解。15手目に投了。あれれ。

K-Shogiでは歯が立たなかった四、五段クラス、ボナンザではどうだろうか。あらためて平手の初手から出題図まで持っていき、続きを指させてみる。持ち時間とメモリ使用量を最大に設定。最初のうちは不利の形勢判断で、どんどん悪くなっていくのだが、しばらく考えているうちに、ぐーんと上がってきて、有利に転じる。正解手が思い浮かんだらしい。2分考えて、ちゃんと正解手を指してきた。強い!

もっともこの問題、最初の3手だけは私も自力で正解を見つけられた。金を打ち捨てて、角を相手の歩の上に成り捨てる(と言ってもこれは取れないけど)というド派手な手順なのだ。週刊将棋の四、五段の問題はそういうのが多いと知っていたから解けたようなもんで、実戦でこの形が生じても発見できなかっただろう。それに、その後の変化を読みきれていなかったので、四、五段の実力があるというわけでは決してない。

では、次に、まだ正解の発表されていない、この号の出題問題を4本のソフトに解かせて回答を比較してみよう。せっかくなら四、五段クラスの問題で。邪悪な意図では決してなく、あくまでも好奇心から、ね。結果はなんと、全会一致で同じ手を指してきた。

きのあは対局者を入れ替えるのが面倒で、一手目だけ見て終了。うさぴょんは一手に5〜6分かかり、十数手進んだところで中断した。最初の手を指したからには狙い筋だったはずの順をなぜか見送り、有利とは思えない局面に。形勢判断は表示されないのでどう思ってたかは不明だが。K-Shogiはもとの形勢判断が先手不利だったのが、すぐにピンチをしのぎ、20手ほどで有利に転じた。

ところが、さらに10手ほど進むとまた不利に戻ってしまった。それからも逆転、逆転で、3時間半ほど放ったらかしにしておいたら200手ほど指して最後には負けていた。ボナンザは最初から先手有利の形勢判断。徐々に優位を拡大し、100手以上かけて、危なげなく勝ちきった。2週間経ってみないと分からないけど、これ、正解っぽいなぁ。

というわけで、将棋ソフトは次の一手問題のカンニング、いやいや、自分の答えの確認には相当有効に使えることが分かったのであった。うっかり廃人にならないよう注意しさえすれば、いろいろと楽しく遊べるのだ。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
カメコ。注意深く探すと、タダで拾える将棋ソフトがもう一本見つかる。KCC。2005年準優勝、2006年第3位。北朝鮮製。何か発射したことへの制裁措置だったかのあおりを食らって、今年の大会にはエントリできなかったみたい。政治的にちょっとぐらいトラブったからって、草の根レベルの文化交流まで断ち切っちゃうのって、どうなんでしょ? 将棋ソフトの開発者に制裁を課すって、方向があさってなんでないかい? 向こうは将棋の定跡手を100万手も収集して組み込めるほど日本の情報にアクセスできているのに、こっちは向こうの文化や生活実態をほとんど知ることができず、あてずっぽうにがーがー悪口言ってるだけ。これってなんか負けてない?

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■デジクリトーク
やっぱり、やっちまいました

桑島幸男
< https://bn.dgcr.com/archives/20071019140100.html
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デジクリ読者の皆様、お久しぶりです。最近アニメ監督やっているくわじまです。デジクリに記事を書いてからずいぶんたってしまいました。あれから、色々ありましたが、やっと放送です。
< https://bn.dgcr.com/archives/20070531140300.html
>

だけど、だけど、、、

やっぱり、やっちまいました。商業アニメ監督としてやってはいけない事、やっちまいました。それはなにかというと、セルデータに全て手を入れてしまいました。具体的には、アニメの線をイラストの線のようにデコボコさせるために上から書き込んでいます。あと、影も新しく描き込みました。

監督業、ただでさえ忙しいのに全部のセルにこんな事やったら、絶対ヤバいっす! 終わらなくなるっす! 放送日に間に合わなくなるっす! 線よりもカット割とか演出とか、監督ならもっとやらなきゃならない事がいっぱいあるんですが、やっちまいました。一枚一枚描きくわえてます。

そんなことやってるから、時間ばっかりかかってあいかわらず貧乏です。根性
でなんとかしてますが、疲れました。もうだめっす。個人制作のアート指向の
強い作品ならいざ知らず、そんなに余裕のない商業作品でやってたら、無茶で
す。

放送日は10月20日からっす。キッズステーションさんで、ひる12時55分からで
す。タイトルは、「一期一会 恋バナ友バナ」です。画面が真っ白になってい
ないか、みなさん見てください。いやじつは一話は間に合っていますが、まだ
まだ作業中のため、だんだん本気でやばくなってます。

でもでも、出来上がりは結構いいんですよとても、かわいくて、キュートなア
ニメです。メインターゲットは小学生高学年中学生の女子ですが、大人でもほ
んわかして良いですよ。派手なシーンはありませんが、誰にでもあるちょっと
した想い出こそが、最高の時間なんだ。そんな時間をアニメにしました。

「一期一会 恋バナ友バナ」の見所はたくさんありますが、ふつうのアニメと
は違っている見所も結構あります。いくつか上げてみますと、

【1】線がイラストのようにデコボコしている。

一般に大勢の人が関わるアニメでは作れない、個性ある線で出来上がっていま
す。これって、ふつうのアニメでは難しいのです。じゃあ、どうやっているの
かというと、簡単です。セルが出来上がったあとから線を全部描き直している
のです。監督である僕自身がやってます。
ふつうではありえない事ですが、これだけでも、「一期一会」にかける情熱が
伝わってくると思いませんか? そのため、ふつうのアニメより線がバラつき
ますが、僕はそれこそがこのアニメの味だと思っています。また、線以外も背
景はかなりかわいいです!

【2】声優のピチモたちがかわいい

今回一般に声優さんと呼ばれる人はでていません。雑誌「ピチレモン」のモデ
ルさんたちが声をあてています。これも、ふつうのアニメではありえない事で
す。ほぼ全部を、ピチモのモデルである彼女たちが演じています。それだけに
他のアニメとは違った個性が光っています。
この味は今までのアニメとは違って、とても癖になる味です。声優さんのアニ
メを見慣れているためか、最初は違和感を感じるかもしれませんが、見終わる
頃にはそんな事もまったく忘れていると思います。中学生4人、高校生1人、モ
デルでもあるため、みんな、マジかわいいですよ。

【3】1話ずつ、ひとつの音楽になっている。

これも、ふつうのアニメではありえない贅沢さです。まるで大作映画のようで
す。今回の「一期一会 恋バナ友バナ」は、1話ずつお話が完結して次の回か
らはまったく違う話になります。音楽もそれぞれに合わせて1話ずつ作ってい
ます。オートクチュールの贅沢さ、そのおかげで、お話にぴったり合った音楽
効果が期待出来ます。ぜひ、そのあたりも合わせてみてください。

これ以外にもまだまだ、見所はいっぱいありますが、それはまた次回にでも。
ぜひ、まったりと癖になる「一期一会 恋バナ友バナ」の世界をお楽しみくだ
さい。

【一期一会 恋バナ友バナ】放送スケジュール
2007年10月20日(土)放送スタート! 毎週土曜日 ひる12時55分〜
毎週日曜日 夜6時55分〜 ☆1週間、同じ話数の再放送です。
【一期一会 恋バナ友バナ】公式サイト
< http://www.mindwave.co.jp/ichigoichie_anime/
>
< http://www.kids-station.com/minisite/ichigoichie/index.html
>
キッズステーション
< http://www.kids-station.com/index.html
>
ピチレモン
< http://pichilemon.net/index.html
>

【くわじまゆきお】< http://www.lovemonkey.jp/
>
まだ、前半しか作ってないっす! ホントに間に合うのか! 貧乏っす!

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■編集後記(10/19)

・目がかゆい。くしゃみが出る。鼻水が出る。これって、いわゆる花粉症か。そんな感じが続いていて不快だ。娘も同じ症状で、これはブタクサのせいだという。とくにここ数日は、土手の除草が行われているから、花粉が舞っているのかもしれない。それでも目鼻が一日中ぐちゃぐちゃというわけではない。すっきりしている時間もあるので、季節の変わり目のアレルギーかもしれない。土手はきれいに草が刈り取られて清々しい。背丈の半分くらいまで伸びた草におおわれた道路沿いの斜面には、不法投棄の大型ゴミがあったが、同時に片付けられた。いまは広々と丸裸なので、不心得者のゴミ捨ては心理的に抑止されそうだ。河原に堆積していた漂流ゴミ類も、先日来の小型ブルドーザーの働きできれいに片付けられて、かつてより美しい景観になった。えらいぞ、市役所。ところで、例の水面ゴミ撤去作業はいつのまにかおこなわれ、水面も半分以上が元にもどっていた。小さなブルドーザーが止まっていたが、まさかこれ一台でできた作業ではあるまい。ああ、また決定的な瞬間は見逃してしまった。関連写真をごらんください。わたしが騒いでいた理由が分かります? (柴田)
< http://www.dgcr.com/kiji/20071019/
>

・DTPエキスパートに合格した。ネタがないからと受験したことを後記に書い
てしまったので(受験に至る経緯や体験記は6/28、8/20〜23、30、9/5に)、
不合格だとかっこわるいなぁと思っていたからほっとした。友人は勉強時間がとれず課題提出すらしていないので、受験時にはこの体験をいかしてサポートするぜっ。InDesignがある程度使えるようになったし、DTPやPDF/X-1aの知識もついたし、しんどかったけど受験して良かった〜。付け焼き刃でもどうにかなるもんだなぁ。しかし付け焼き刃だし、メイン仕事じゃないから、ほとんどの知識を忘れかけてるんだよなぁ……。(hammer.mule)
< http://www.jagat.or.jp/expert/
>  DTPエキスパート