電子浮世絵版画家の東西見聞録[14]市場大好き-3
── HAL_ ──

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前回は緑豆チジミ(ピンデトッ)の話をしましたが、9月の旅ではスンデに挑戦してみました。スンデは豚の腸に豚の血と共に野菜、餅米、春雨などを詰めたものです。元々レバーなど血の強い物は、臭みを感じあまり好きではないのですが、豚の血というだけで引いてしまう私たちにはかなりの冒険です。ただ、今回は韓国人女性が一緒に付いてきてくれていたので、彼女が食べたいというので、そのお相伴にあずかったと言うわけです。

目の前にあるスンデは5〜6センチもある太さで、長さは大きな皿にとぐろを巻いて置いてあるので判断ができません。見るからにグロテスクな固まりなのです。もちろんスンデは蒸されていて、暖かそうな湯気が立っています。それを厚さ1〜2センチくらいまでの適当さにビックリする切り方をして、20枚ほど大皿に出されます。これだけでお腹がいっぱいになりそうな量です。


まずは、蒸されたレバー色の彩度を少し下げたようなスンデ一切れを取り、おそるおそる口にいれます。すると、柔らかく、ぷりぷりした感触が口中に広がり口の中にほどけていきます。食感はまあまあいけそうです。ここのスンデは緑豆春雨が多く入り、餅米のもちもち感はありませんでした。しかし、豚の血の味はそのまま臭みとして残り、味としては二枚目に手を出すのを躊躇するものでした。

切り分けてくれたおばちゃんは、ニコニコして次の料理を出してくれますが、韓国人の彼女と私たちは日本語でしかめ顔をして「ちょっと臭いねぇ!」「あまり美味しくない」と言葉を交わします。彼女は食の流通に関与していたことがあり、味にはしっかりした考え方を持っています。その彼女をもってスンデは「デパ地下」が美味しいと結論づけられてしまいました。

他の料理もあまり感心した味ではなく、一緒に頼んだ麺(ミョン)も全くコシのないユルユルしたものでスープも残念な味。一番美味しく食べられたのがトッポキという結果でした。ゲートから入ってくると、いちばん良い場所で、前回も結構こんでいた店なので安心してしまいました。難しいものです。

その店から振り返った場所には美味しそうな生鮮野菜をビビン(混ぜる)する店があり、そちらがよかったかな、、と、後悔先に立たず。美味しそうに見える屋台でも、やはり食べてみなければ分からない、すべてが美味しいわけではないという良い教訓を得ました。

余談ですが、韓国料理の食の特徴に「ビビンの文化」があります。韓国人はたくさん出るバンチャンはもちろんですが、メインの料理もスプーンに乗せたご飯の上と混ぜて食べることが多く、最後には何でもかんでも混ぜ混ぜして食べる姿をよく目にします。ただし、ご飯の器の中にはおかずを入れて汚すようなことはしません。その混ぜる文化を物語る代表的なメニューとして、仁寺洞の飲み屋で有名になった「軍隊弁当」というものがあります。

軍隊弁当とは、兵隊の昼のお弁当のことです。軍隊では朝、弁当が配給されます。この弁当が行軍中に自然にビビンされ、すべてが混ざり合ってしまいます。それを懐かしんだ酒場の人気メニューで、出された弁当箱は蓋をして両手で持ち、思いっきり振ってから、みんなでスプーンを使ってすくいながら食べるのです。様々な味を単品で味わうだけではなく、混ぜることによって味のバラエティーを楽しんでいるのですね。

広蔵市場の話に戻しますが、ここには有名な一口キムパプの店があります。韓国でキムパプというと太くて中にキムチや卵焼き、野菜などの食材を韓国のりで巻いたものをいいますが、この一口キムパプはサイズが親指大で醤油誰を付けて食べます。この店も聞き知っていたのですが、前回は発見できずにいました。しかし、今回9月の旅ではようやく発見できましたが、お腹が更に食べる状況にはなく、発見してしまっただけに残念な思いをしました。

この店は先の屋台街ではなく繊維の町中に突然存在するという、日本では考えられない店舗構成です。通りかかった時は午前中でしたが、もうすでに多くの客が椅子に座っていました。私たちは二人で「あ、こんな場所にあったんだ」「美味しそうだね」などと話をして通りかかると、客の中の人の良さそうなおじいさんが「美味しいよ」と声を掛けてくれました。この時は朝食後すぐだったので(返す返すも残念!)「もう食べられない」というと、「味だけでも見て行きなさい」と爪楊枝に一口キムパプを差し、醤油ダレと共にさし出してくれました。

この一口キムパプはごま油の香りと老人の優しさが染みわたり、とても美味しくお腹に納まりました。この市場にある生鮮物も保存食もすべてが、飽食で優しいソウルの人々の胃袋に収まるために集まっているのです。そして消費されていきます。

【HAL_】横浜在住アーティスト hal_i@mac.com
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