電子浮世絵版画家の東西見聞録[17]新旧サムギョプサルを堪能する旅
── HAL_ ──

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日本で韓国料理といえば「焼き肉」と「キムチ」を思い浮かべる人が多いのですが、韓国料理は山菜や肉・野菜をバランスよく使い、焼き肉屋でも肉だけではなく沢山のバンチャン(おかず)が一緒に出されます。白菜キムチはその中の一つに過ぎず、新鮮な野菜も山のように出てきます。もちろん「ト、ジュセヨ」(もっと頂戴)と言えば、おかわり自由でムリョ(無料)です。

焼き肉といえば牛肉を思い浮かべますが、韓国では豚肉(デジ)や鶏肉(タッ)が中心です。そして、このデジやタッがとても美味しいのです。高級な焼き肉屋に行けば美味しい牛肉もありますが、安いお店は堅めの牛肉が多く、日本人にはデジの方が美味しく感じられると思います。もちろん、お金には関係なく食べたいという人は高級焼き肉屋にどうぞ行ってみてくださいね。私も一度は行きました。確かに美味しいです。でも、ね。


韓国人にとって焼き肉といえば、当たり前のようにデジのことです。豚の三枚肉の厚切りはサムギョプサルとして人気が高く、三枚肉は油の層がありしつこいように感じますが、焼き上がったサムギョプサルはすっかり油が落ち、食べてみるとしつこさはまったくなく、ジューシーで本当に美味しいのです。

焼き上がったサムギョプサルは、調理ばさみで食べやすい大きさにジョキジョキと切ってくれます。それを、ジャンを塗ったレタスに包んで食べます。好みで他の野菜も一緒に巻きます。もちろん、野菜はムリョです。私の好物は大ぶりの大葉のような形のエゴマの葉です。少し苦みのある味と、独特の香りがやみつきにさせます。

ソウルで最近の流行は、この焼き上がったデジにきなこを付けて食べることです。地下鉄2号線三成駅そばにある、日本の禅からとったという名前のZENZENで始めたらしいのですが、その食べ方はソウル市内に広まりつつあります。もちろん、私たちは老舗のZENZENに行ってきました。ここのサムギョプサルは、「ワイン熟成サムギョプサル」ということで有名です。サムギョプサルの店というと、おじさん達が行く美味しいけれども“汚い店”というイメージがあったのですが、このZENZENがそんなイメージを払拭し、広い店内は清潔に保たれています。

ZENZENのサムギョプサルは、白ワインベースに7つの秘伝を仕込んだタレに漬け込み、竹筒に入れて熟成させるという自慢の肉質です。その自信の程はまさに頬が落ちる味で、きな粉を付けて食べるサムギョプサルは、大豆の香りが口中に広がり素敵なバランスです。その他にも付けダレとして塩胡椒、サムジャン、醤油マスタードとバラエティーに富み、その点も若者に受けて噂が広まったのだと思います。とにかく美味しいので、是非出かけてみてください。
< http://www.zenzen.co.kr/
>

もちろん、昔ながらの店のサムギョプサルもとても美味しいのです。今年9月に行った崇実大入口(チュンシルデイック)の焼き肉屋もとても美味しかったぁ。この店は大学近くということもあり、貧乏学生達が沢山来ている店。決してきれいとは言えない店ですが、とても安くて美味しいのです。三人で食べて飲んでも5000wでおつりが来る。そして、ここのアジュンマがまた楽しくて良いのです。

店に入ったとたん、店員のアジュンマが私の顔を見てなぜか大笑いしているのです。この時の私の格好は特に面白くも何もないのですが、鼻の上にサングラス付きの眼鏡をかけていました。この眼鏡はスモーク部分が片方ずつ上に開くもので、その時は夜だったのでスモーク部分の両方を上げて店に入っていきました。アジュンマはそれがおかしい、そんな眼鏡は見たことがないと大受け。

さらに、スモークの片方だけを下げて、左は素通しガラス、右をスモークにすると、もう可笑しくてたまらないと、腹を抱えて大笑い。その後、どこから来たのか、年はいくつなのか、といろいろな質問をされてしまいました。しかし、このアジュンマには年をピタリと当てられたのもビックリしました、さすが強者の商売人です。

ここのサムギョプサルは、この店独特の鉄鍋で焼いていただきます。これはオーナーの知恵が詰まった、オリジナルの鍋なのだそうです。中央はジンギスカン鍋のようにこんもりと盛り上がり、縁には大小二つの大きさの四つに分かれたスペースがあります。そのうち大きな方にはキムチを入れ、もう一つには出汁に溶いた卵を入れます。小さい方のスペースには大蒜の粒を入れますが、ここには焼けた肉の脂がちょうどよく流れ込むようになっていて、その脂で大蒜が美味しく焼けるのです。なかなか、考えた鍋です。

出汁卵は茶碗蒸しと呼ばれ、熱々になったキムチも美味しく、もちろんこれらのお代わりはムリョ。さらにおまけで豚の皮を出してくれたのですが、この焼いた豚の皮がコリコリ&ねっとりしたコラーゲンの固まりといった感じで、全く臭みもなく非常に美味しい。あまりのおいしさに追加したかったのですが、その前にカルビも頼んであったのでお預けです。肉を焼いていると、かのアジュンマが大きなビニール袋を持ってきてくれました。何をするのかと思いましたが、荷物が汚れるからこれに入れろと言うのです。

はじめに書いたように決してきれいな店ではなく、足元は焼いた肉の油で黒くつや光りし、荷物を置くどころではありません。私たちが荷物をパイプいすの隙間に差し込んで“しのいで”いるのを見て、ビニール袋を思いついたようです。アジュンマはみな力強く働き、可愛く愛嬌があり、とても親切。そしてもちろんサムギョプサルは美味しく、最後は両手で抱き合い、是非また来てくれと言われながら別れてきました。そして、この旅はアガシ(お嬢さん)ではなくアジュンマの旅に終わったのでした。

【HAL_】横浜在住アーティスト hal_i@mac.com
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