電子浮世絵版画家の東西見聞録[41]カムジャタンは真っ赤な鍋
── HAL_ ──

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さて、はじめてしまったものを、ここでやめては男がすたるというもんです。この見聞録の今後をどうしようかと、ここ一週間悩み続けていました。今年は韓国に行く予定も立ちませんし、東西を見聞するというタイトルがついているのに、いつまでも韓国の話ばかりでも仕方がありません。では、日本の中での見聞をと考えても、さほど国内を歩いて回っているわけでもありませんし、そこらにある観光案内のようなものを書いても、プロの方々の足元にも及びません……。


●七福神巡りでもしてみるか

でも、身近なところで、先日行った個展会場付近にある深川七福神を巡ってみようかな。その後は下谷の七福神、そして新宿七福神、谷中七福神、千住、浅草、亀戸、これを一福ずつ歩いてレポートしてもかなりの量になります。

そこで、早速深川の七福神を見に行ってみたわけです。個展会場から一番近い場所にある、深川神明宮に行きました。この神明宮は、深川という地名の由来になったところで、もとは深川八郎右衛門の名字から付けられたということです。こちらには寿老人がいて、さらに伊東深水生誕の地でもあるそうで「幸先が良い」と喜びました。
< http://www.fukagawa-shinmei.com/
>

次に行ったのが、布袋様のある深川稲荷神社です。神社ですから、それなりの規模を予想して行ったのですが、すぐには見つかりません。散策する時間もあまりなかったので、ちょうどバイクを止め目の前の店に入ろうとしていた、信用金庫の営業マンとおぼしき人を捕まえ「深川稲荷は何処ですか?」と訊ねてみました。信用金庫の人となれば、この辺り一帯は自分の庭の中のように走り回っているだろうと想定しての行動です。

突然声をかけられ、一瞬とまどった営業マンは、しばし固まり、考えを巡らせて「あ、あ、この先を右に曲がった先の角のですか?」と、逆に訊ねられた恰好になってしまいました。「え、知らないのか、この人は。七福神だぞ、深川のぉ」といぶかしく思いつつも、表情は穏やかに笑顔を作り「ありがとうございました」と応じて、言われた方向に行ってみました。

角を右に曲がり100メートルも行かない所に、それらしき石の囲いが見えました。しかし、これがかなり小さいのです。小さいって、何がと言うと敷地が小さいのです。60〜70センチほどの高さの石柵に囲まれた2〜3坪の敷地内にお社があり、その脇に幅50〜60センチの御影石の新しそうな布袋様がちょこんと座っています。お社の中には別の布袋様がいらっしゃるのかも知れませんが、お社はキッチリ締まっていて中を見ることが出来ません。なんだかちょっとがっかりしてしまいました。

まあ、この七福神も回ってみるとそれなりの楽しさはあると思いますが、現在の自分の状況を考えてみると、そんなにゆったりと回っていく時間が取れなそうにない気がします。せっかくお目にかかれた布袋様にはちょっと申し訳ないのですが、追々レポートしてみるとして、では何を、と考えるとまたアイデアは詰まってしまいました。

●やっぱり大好きなのは食文化

枯渇した時は、良い方向に行く前触れです。スポンジのように乾いた脳みそは後は、吸い取るしかないのです。ちょっと、言葉の選択がおかしいのはほっといて下さい。せっかく一年を終え、心機一転するのですから。まあ、あまり思い悩んでも仕方がないので、毎日のように書いているz-blogをひとまとめにして書こうかとも思ったのですが、それでは徐々に増えてきたBlogの読者にも申し訳ないので、取りやめ。しばらく、ほっておくことにしました。
< http://z-blog.hal-i.com/
>

と言うことで、まさにデジクリ発行当日の今朝書いている訳ですが、柴田翁には申し訳ない……。自分が何に対して興味を持っているかというと、毎日の食。これにデジタルを絡めることは無理としても、デジタルクリエイターとして生きる人間の日々の食生活を公開するのもアリかなと思い、「食」を中心にこの記事を展開することにしました。食の東西見聞です。ぱんぱかぱぁ〜ん!!

韓国に旅して、いちばん興味を持ったのも食文化です。自分の舌と胃袋に合う食をとる時間は、何にも比較することの出来ない喜びです。今まで知らなかった「食」に出会う時の喜びは、どんなことにも勝りますね。そこで、まずは韓国料理のお話からはじめましょう。

韓国で一番はじめに出会った感激は、KIDPのそばにあった食堂のカムジャタンでした。いまでこそカムジャタンは日本国内でも食べられるようになりましたが、当時はそんな名前を聞くこともなく、いきなり昼食に出されたカムジャタンを見てびっくりしました。
< http://www.designdb.com/kidp/
>

カムジャタンは真っ赤な鍋です。ソウルで初めて食べたカムジャタンは日本で見るそれとは全く異なり、とことん煮込んだ唐辛子の赤さが全体を覆っています。カムジャとはジャガイモのことで、タンはスープ。そのまま考えると、ジャガイモのスープでNYのフランス料理シェフが生み出した「ビシソワーズ」のような優しい味のものを考えてしまいますが、当然ながら全く異なるものです。

カムジャタンはジャガイモのスープという名前を持ちながら、真っ赤な鍋の中に見えるのは豚の骨のかたまりです。ちょうど、大人のコブシのような大きさの豚の背骨がゴロゴロと入っています。この背骨についた肉を、むしゃぶりつくようにして食べるのが本道だということで、私もそのようにしてみました。でも、鉄の大鍋に入った背骨は熱いのです。とっても熱いのです。それをステンレスの箸を使い、ステンレスの器に取り、手で持てる程度に冷めてきた豚の背骨にかぶりつくとまだまだ熱いのです。そして、辛さが相まってさらに熱く、その熱さが辛さを呼び、さらに辛いのです。

カムジャタンの中に入っているのは、豚肉の背骨とタマネギ、ニンニク、パプリカ、エホッバ(日本の瓜のような南瓜)と、他の鍋料理同様の具材です。そして、人数分の丸のまま茹でたジャガイモが入っています。料理名からは意外にジャガイモは少ないのですが、熱くなった舌の感覚を戻すにはピッタリの具材になっています。また、この中に随時入れながら食べるエゴマの葉の香りのバランスが秀逸です。ちょっとした苦みも、さらにおいしさを加えます。

鍋には別に葉野菜がつきます。そしてやはり生の青唐辛子。これには当たり外れがあり、めちゃくちゃ辛い青唐辛子に当たり、顔をしかめた人も話の肴になります。それはちょっとした舌休み、鍋料理に華を添えます。そして、辛さも熱さもナンのその、青唐辛子の辛さも徐々に超えて、煮詰まっていく鍋の味の良さは抜群です。カムジャタン後半戦は日本での鍋料理と同様、ご飯を入れフィニッシュです。

鍋からは残った具材を別の器にとりだします。この鍋の底に残ったスープはかなりとろみがあります。これは、豚の背骨から出たコラーゲンが他の具材の旨味を吸って出来たスープです。美味くないはずがありません。ここに炊きあがったご飯を入れスープに絡めていくと炒めご飯になります、それは、そのまま鍋に平らに敷き少し火を強めます。そうです、お察しの通り焦げ目をつけていくのです。香ばしい香りが立ってきたら完成です。これがまた絶品!!

そしてお焦げ料理を食べ、もうすでに満腹を超えていた私はというと、辛すぎて苦手だという韓国人の手を押しのけて、別の器に残された豚の背骨を最後までむしゃぶりついていたのでした。

さて、日本で食べるカムジャタンは、さすがに豚の背骨の下処理をするのは大変なので、スペアリブを利用します。スペアリブは水でよく洗い、やわらかくなるまで下茹でをします。これは圧力鍋に長ネギと生姜、焼酎を入れて調理すると早くできます。下処理を終えたスペアリブを鍋に入れ、タマネギ、ニンニク、パプリカ、ジャガイモ、エホッバのかわりのズッキーニ、青唐辛子に赤唐辛子をくわえます。さらに調味料としてコチュジャン、コチュカル、醤油、すりごまで味付け。最後に塩胡椒で味を調えて、なまのエゴマの葉を用意して出来上がりです。

あ、あ、これを書いていたらカムジャタンを食べたくなってきました。最近エゴマの葉が手近に用意できなくなってしまっています、これが残念。さて、今晩のメインディッシュは……。

・ソウルのクロンデジタルで食べたカムジャタン

・我が家のカムジャタン(さすがにジャガイモが多いです)


【HAL_】横浜在住アーティスト hal_i@mac.com
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