<WEBでもカラーマネージメントの運用を>
■デジアナ逆十字固め…[79]
クライアントはどんな色を見ているのか?
上原ゼンジ
■ショート・ストーリーのKUNI[42]
黒ごきぶりの会
やましたくにこ
■展覧会案内
対決 巨匠たちの日本美術
The Second Stage at GG #23 居山浩二展「文字景─typescape」
■デジアナ逆十字固め…[79]
クライアントはどんな色を見ているのか?
上原ゼンジ
■ショート・ストーリーのKUNI[42]
黒ごきぶりの会
やましたくにこ
■展覧会案内
対決 巨匠たちの日本美術
The Second Stage at GG #23 居山浩二展「文字景─typescape」
■デジアナ逆十字固め…[79]
クライアントはどんな色を見ているのか?
上原ゼンジ
< https://bn.dgcr.com/archives/20080704140400.html
>
───────────────────────────────────
前回はWEBのカラーマネージメントについて書いた。最近のディスプレイには、色再現域の広い製品が増えてきている。鮮やかな色再現が売りのディスプレイを使い、カラーマネージメントをせずにサイトを閲覧すれば、写真やイラストなどのコンテンツは色鮮やかに見えてしまう。
鮮やかになったからキレイでいいや、という話ではなく、クリエイターの見せたい色でなくなり、商品の色も別の色になってしまうという話だから、ちょっと問題だ。従来のWEBのカラーマネージメントというのは、「みんながsRGBで運用していれば、大きな違いはない」というような考え方だった。
でも、ディスプレイの急激な進化により、見ている色の違いも大きくなってしまった。これからは、WEBでもカラーマネージメントの運用をきちんと考えていかなければいけないということだ。
ここで言うカラーマネージメントとは、画像に対してプロファイルを埋め込んで運用するということ。閲覧する側が、カラーマネージメントに対応するブラウザを使い、ディスプレイのキャリブレーションもしていれば、色は正しく伝わる。
たとえば、MacでSafariを使っていれば、デフォルト状態でカラーマネージメントに対応している。コンテンツを作る側が、きちんとディスプレイのキャリブレーションをとり、画像にはプロファイルを埋め込んでおけば、イメージした色が伝えられるということだ。
ここで、一つお詫びと訂正。
前回「現状で、どういう環境だったらカラーマネージメントに対応しているのか、についてきちんと検証したわけではない。私の普段使っている環境(Mac OS 10.5.3)では、Safariはオーケー、FireFoxとOperaは非対応という感じだった」というふうに書いた。しかし、FireFoxの場合も設定を変えることにより、カラーマネージメントに対応させることが可能。失礼しました。で、変更の方法は以下の通りです。
1)URLを入力するロケーションバーに
about:config
と入力する。
2)gfx.color_management.enabled をtrueに設定して再起動する。
この操作を行えば、前回アップしておいたページの画像の明るさが違って見えるようになるはず。つまりプロファイルを認識して、画像の忠実な色再現ができるようになるということだ。
< http://www.zenji.info/color/browser.html
>
制作サイドでプロファイルを埋め込んでおけば、ユーザー側で正しい色の観察が可能という話だが、カラースペース自体はAdobeRGBなんかにはしない方がいいだろう。もし、AdobeRGBにした場合、相手がカラーマネージメントに対応した環境であれば問題ないが、非対応で色再現域の狭いディスプレイを使っていた場合には、成り行きで彩度が落ちてしまう。
あくまで、カラースペースはsRGB。そしてプロファイルは埋め込んでおく、という方法がいいんじゃないかと思う。
●エミュレーションの方法
以前、友人に頼まれて、某下着屋さんのサイトの手伝いをしたことがある。色鮮やかでスケスケの下着をネット販売するお店で、ふだんは買いづらい製品がネットで購入できるということで、そこそこ繁盛していた。
私はその商品の画像の担当をしていたのだが、クライアントのチェックが厳しくて、けっこうしんどい思いをした。「もっと鮮やかに」とか、「生地の質感をもっと出して」というようなリクエストだったのだが、校正のイメージが伝わらなかったり、「それは無理!」というような要望だったからだ。
クライアントには色鮮やかな下着の現物のイメージがあるから、それを出して欲しいというのだが、クライアントの使っていた古いCRTのディスプレイでは絶対に再現できないような色だった。
私は、出せませんよと言うのだが、クライアントには理解できず、「もっと鮮やかに」と言う。しょうがないから調整してアップすると、それを見て「今度は質感がなくなった」とのたまふ。単純に彩度を上げてしまえば、飽和して質感がなくなるのは当然なことだし、特に色域外の色を現物に合わせろというのは無茶なリクエストだ。相対的に鮮やかには見せることはできても、絶対的な色は出ない。
しかも、何のキャリブレーションもしていない、色域の狭いディスプレイで画像を確認しているのだから、話は合わない。毎度毎度同じようなやりとりがあって消耗してしまった。
もう二度とああいう仕事はしたくないものだと思うのだが、今だったら、少しマシな方法もあるかなと思う。それは、クライアントのところに行ってディスプレイを測定し、モニタプロファイルを作成して、自分のディスプレイでエミュレーションする方法だ。
もともとPhotoshopには、画面で校正を行う機能は備わっているが、自分のディスプレイの色再現域が広がり、クライアントのディスプレイの色再現域を完全にカバーできていれば、どんな色でクライアントが見ているのかということが、かなり正確に分かるようになる。
このエミュレーションの機能というのは、ディスプレイに備わっている製品もあるし、なければPhotoshopで設定を行う。「ビューメニュー/校正設定/カスタム」から「校正条件のカスタマイズ」画面を表示させ、シミュレートするデバイスの項目で、クライアントのディスプレイのプロファイルを選択する。
こちらで、クライアントのエミュレーションが出来たからと言って、クライアントの不満が解消されるわけではないが、最低限同じ色を見ながら、意見交換をするというワークフローになっていれば、話は通じやすくなる。たとえば、クライアント側でこんなふうに見えてるんだったら、直して欲しいと思うのも無理ないか、とったことも理解できるようになる。
WEBの世界というのは、ユーザー側の環境がバラバラだから、何を基準にコンテンツを作ったらいいのか悩むところだが、とりあえずはクライアントの環境をエミュレーションするとか、Windowsではどう見えるか? Macではどう見えるのか? ぐらいの確認はしておいたほうがいいだろう。
紙媒体の場合も、同じ校正紙を見ながら、意見交換をするというのが原則だが、互いに信頼できるディスプレイを使い、きちんとキャリブレーションを行えば、校正の回数を減らしたりできるようにもなる。高いディスプレイをみんなが使う必要はないが、編集部や制作に一台、校正用の信頼できるディスプレイを用意しておけば、色のトラブルも減っていくはずだ。
【うえはらぜんじ】zenstudio@maminka.com
◇上原ゼンジのWEBサイト
< http://www.zenji.info/
>
◇「カメラプラス トイカメラ風味の写真が簡単に」(雷鳥社刊)
< http://www.maminka.com/toycamera/plus.html
>
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■ショート・ストーリーのKUNI[42]
黒ごきぶりの会
やましたくにこ
< https://bn.dgcr.com/archives/20080704140300.html
>
───────────────────────────────────
紳士たちの会「黒ごきぶりの会」は月に一度月曜日の夜、閉店後の某うどん店を会場に開かれる。今夜、うどんを前にうかない顔で話しているのは自称一流企業のサラリーマン、中島洋介だ。
「せっかくの楽しい食事会というのに、この通り暗い顔をしていて申し訳ありません。というのも、今日はちょっとした困りごとを抱えておりまして」
「ほう、困りごとですか」柔和な表情で定年間近の高校教師、塩尻が言う。
「仕事上のことですかな、それとも」
「仕事上のことともいえるし、そうでないともいえます。というのも、あるデータを失ったのですが、整理が悪いために、そこには仕事上のデータとプライベートなデータが混在しておりました」
「なるほど、それはお困りでしょう」意味ありげに地方公務員の安田が言う。
「データと言うと、その、何ですか、パソコンを使っていてうっかりゴミ箱に捨てたとか。私もよくやりますがね。はっはっは」笑いながら言うのはかつては会社を経営していたが今はタクシー運転手の本山だ。
「ああ、そうではなく、メディアに入れて持ち歩いておりました。あるメディアを紛失したというべきでしょうか」
「メディアというとCDですか、それともMO。まさかフロッピーディスクではないでしょうな」
「フロッピー。なつかしいですなあ」
「いまでもあるんでしょうかねえ」
「いえいえ、なくなったのはCDやMOではなく、もちろんフロッピーディスクでもなく、miniSDカードです。携帯電話でも使っておりますが、たまたま人から余分にもらったのです。なんでもその人は最近携帯を買い換えたらmicroSDカードだったので、もういらないと。私も別に2枚も不要だと思ったんですが、カードリーダーを使えばUSBメモリのように使えるから便利だと教えられまして。ほら、こういうリーダーがあります。ここにmniSDを取り付けまして」
「それをパソコンのUSBポートに差し込むわけですな。なるほど」塩尻がかまぼこを口に入れながら言う。
「1枚で2GBですから、けっこう使いでがあります。そこで、日々持ち歩いて重宝しておったのですが、それが」
「なくなったのですね」
「ありうることですな。大いにありうる!」フリーのデザイナー、小田が突然熱弁をふるい始める。
「最近のメディアは小さすぎるのです。小さいからなくなりやすい。当たり前です。コンパクトにするにもほどがある。私はかねてから主張しておるんですが、フロッピーくらいでよかったのだ。大きい方が名前も書き込めてわかりやすい。そこにデザインを施す余地も生まれ、自ずと文化が形成されるのだ。LPレコードのジャケットのデザインを考えてみればいい。みなさん、かつては…」
「LPレコードみたいなリムーバブルメディアはあり得ないでしょう」
「Mac miniに入りませんぞ」
たちまち脱線しかけたところを塩尻が引き取って
「それより、なくなったいきさつをお伺いしましょう。中島さん、だいたいどこでなくなったかは見当がつきますか」
「それが家の中だとしか考えられないのです。週末、私は件のカードを含め、細々したものをいつものように鞄に入れて会社を出ました。そのときは確かにありました。そして、家に帰るといつものように自分の部屋の机の脇に鞄を置きました。ところが今日、月曜日の朝、出勤前に中身を点検していて、それがないことに気づいたのです。あわててあちこち探したところ、リーダーは見つかったがカードがない」
「ほー。miniSDカードは自分の意志で歩いていくものですかな」安田が言う。
明らかにおもしろがっている。
「カードは取り付けたままだったと思うのですが…はずしたことがあったかなあ…ちょっと覚えていません」
「ということにしておきましょう。ふっふっふ」安田が言うと、塩尻が小さく咳払いをして
「当然、ご家族の方には聞いてみられたわけですね?」
「はい。ご存じの通り、私は妻と息子、そして妻の父親と同居しております。私はすぐに家族に聞きました。妻と息子は即座に否定しました。そのときいなかった義父が20分ほどして戻ってきましたので、義父にも聞きましたが、案の定『知らん!』の一点張りです」
「あなたの部屋には日常、鍵はかかってないんですね?」
「そんなものはありません。誰でも入れます」
「朝早くからお義父さんはどこに行っておられたのです?」
「近所の歯医者です。ゆうべから虫歯が痛み出したので、歯医者が開くのを待って、いや待ちかねてまだ閉まっていた歯医者を無理矢理たたき起こして診てもらったということでした。『目も悪いし歯も悪くなる。まったくいやになる』とか、ぶつくさ言っておりました」
「土日の間にあなたは外出されましたか?」
「ええ。日曜日の朝、近くのホームセンターで釣り道具を物色しようと思って出かけたのですが、行ってみるとなんとホームセンターは臨時休業中で閉まっていました。予定より早く帰ると妻がいやがるのでその近くの遊戯場、一般的にはパチンコ屋といいますか、そこで時間をつぶして帰るつもりがあっという間に2000円もすってしまい、やはり予定より早めに帰ってしまいました」
「ははは。あなたも家にいるといやがられるわけだ」
本山がうどんのだしを味わいながら言う。
「いやあまったく、ここのうどんはうまい」
「案の定、妻はえらく不機嫌でした。『なぜこんなに早く帰ってくるのよ!』と、それはそれはものすごい怒り方で、さすがの私も頭にきて『亭主が早く帰ってきたのがそんなに気に入らないのか。たまにはうれしそうに迎えてくれてもいいじゃないか!』と怒鳴ったところ、妻はますます怒り出し、もう収拾がつかなくなりまして、その日はついに口をききませんでした。私も不愉快で、寝るのも自分の部屋で寝たくらいです」
「自分以外の人間がそういう境遇に陥るのはまったくもって愉快ですな」
本山はそう言いながららつまようじを使い始めた。
「お義父さんとはうまくいってるんですか」
「全然うまくいってません」
「息子さんとは」
「何年間も口もきいてません」
「ほほう、じゃあカードを盗む可能性は家族全員にあるわけですね」
安田が言う。
「え、盗む?! 私はカードを盗まれたと言ってません。私は自分の家族がどろぼうだとは思っていません。ただ、なくなって困っているので、なんとかして見つけたいと思っているだけです」
「ああ、すみません。つい口がすべったというか。そうですね。確かに、カードが出てくればよいわけですな。そうそう、どんなデータが入っているのかは知りませんが、そのカードが」
「まったくです。まあ誰しもメディアやパソコンの中身は見られたくないものです。ある意味、自分の秘密の部屋のようなものです」と塩尻。
「それどころか自分の頭の中のような、といえるかも知れません」
「そう、だれでも見られたくないものはありますよね、はい」
「ええっと、みなさんが何を考えておられるのか知りませんが、とにかく、見つかりさえすれば、私はいいのです」
「しかし、これは容易にわかりそうにありませんねえ。時間をかけても家捜しするしかないでしょう」
そのとき、それまで黙ってうどんや酒肴を運んでいたこの店の従業員、辺利が口を開いた。
「この会の正式メンバーでもない私が、こんなことを言うのは恐縮なのですが」
「ああ、辺利さん、遠慮なく言ってくれたまえ」安田が促す。
「そうとも。いつもあなたは鋭い考察を述べてくれる。今夜もどうやらあなたの力を借りなくてはいけないようだ」塩尻もほほえみながら言う。
「君のことだからもうだいたいの見当はついているんだろう?」
「はい。私が思いますに、カードを盗んだ、あ、いやいや、えっと、その拝借された方は、何か確認したいことがおありで、それが済み次第もとの場所に戻すおつもりだったのでしょう。ところがそれができなかったので、あわてて一時的にある場所に隠したのです」
「ははーん。つまり、カードの持ち主の帰宅が早すぎたからですな」
「しかも、その晩、中島さんは鞄のある部屋を離れなかった!」
「ああ、そうか!」
辺利はうなずき
「ですから、今晩、中島さまがふだんのように鞄とは別の部屋でおやすみになれば、翌朝にはminiSDカードは鞄に戻っていることと思われます」
「なるほどなるほど、わかりました。それならそれでいいのです。私もカードを持って行った人間を責めるつもりはありませんから。しかし、あわててある場所に隠したというのはいったい…。私もあちこち探したつもりだったのだが」
「中島さま、有名なブラウン神父の言葉を思い出してください」
「木の葉を隠すには森の中がいい、というやつですかな」
「『折れた剣』だ!。死体を隠すには死体の山を築けばよい!」
小田が立ち上がらんばかりに言う。
「その通りでございます。miniSDカードを拝借された方は、持ち主が早く帰ってきたのであわてて隠したのです。おそらくは、戸棚の中の塩昆布の鉢に」
「し、塩昆布ですか!」
「それをうっかりしてお義父さまが食べようとした」
「ああ、それで、歯を!」
「いや待ってください」と小田が割り込んだ。
「確かにminiSDカードは塩昆布と似ていないこともない。お義父さんは目が悪かったようですし、見間違うかも知れない。しかしあれは、お箸ではさめないはずだ!」
「そうです、あれはするするしています。すべります! はさめません!」
本山も同調した。
すると、中島が大きな声で
「思い出しました! みなさん、義父は時々、塩昆布をつまみ食いするのです!妻が『お父さん、やめてください』と再三言うのですが、聞き入れません。だれもいないすきを見計らって、目にもとまらぬ早さでつまみ食いするようです。お箸ではなく、指でつまむのです。だから…すべらないのです!」
「塩昆布のつまみ食いですか、それはよくありませんぞ! お義父さんは血圧は高くないのですか!」
「塩分控えめの塩昆布を買うようにしております」
「ふーむ。いちおう辻褄はあうようだが」
「半信半疑ですな」
「私もです」
すると再び中島が大きな声で
「ああ、なんということだ! こ、これを見てください! 携帯のメモリカードスロットに塩昆布が!」
「おお!」
「この香りは…山椒昆布だ!」
「昨日外出したときは携帯を持って出るのを忘れていたのです。すぐに戻ったので支障はなかったのですが、いまそのことを思い出しまして、確認しようとしたら」
「では、奥様、あ、いやいや、その、カードを拝借された方は相当に混乱して何が何かわからなくなり、思わず携帯のカードスロットに塩昆布を入れてしまったわけですな」
「ううむ。やはり辺利の推理は正しかったか」
「辺利、君にはまったく脱帽だ!」
「それにしても中島さんがどんなデータを隠し持っていたか、あるいは隠し持っていると疑われていたかが気になるところですが、それについては深く詮索することはやめておきましょう」
「そうだとも諸君、ここは紳士の集まり、黒ごきぶりの会ですからな」
「わはは」
「わははははは!」
うどん店に男たちの笑い声が響き、かくして今夜の黒ごきぶりの会もさわやかな余韻を残してお開きとなったのであった。
※これはいうまでもなくアイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」のパロディです。アシモフファンの方で気を悪くされた方がおられたらごめんなさい!でも、私もこのシリーズは大好きで、作者のアシモフには深く敬意を抱いております(#^_^#)
【やましたくにこ】kue@pop02.odn.ne.jp
みっどないと MIDNIGHT短編小説倶楽部
< http://www1.odn.ne.jp/%7Ecay94120/
>
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■展覧会案内
対決 巨匠たちの日本美術
< http://www.asahi.com/kokka/
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20080704140200.html
>
───────────────────────────────────
会期:7月8日(火)〜8月17日(日)9:30〜17:00 金20時 土日祝18時
月休 7/21開館・7/22休館 8/11日開館 ※入館は閉館の30分前まで
会場:東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園13-9 ハローダイヤル03-5777-8600)
入場料:一般1,500円、大学生1,200円、高校生900円
内容:日本美術の歴史に燦然と輝く傑作の数々は、時代を代表する絵師や仏師、陶工らが師匠や先達の作品に学び、時にはライバルとして競い合う中で生み出されてきました。直接の影響関係がない場合でも、優れた芸術家たちの作品を比較すると、興味深い対照の妙を見出すことができます。きらめく才能の拮抗により、各時代の造形芸術はより豊潤に、華麗に開花してきたといえるでしょう。本展では、このような作家同士の関係性に着目し、中世から近代までの巨匠たちを二人ずつ組み合わせ、「対決」させる形で紹介します。国宝10余件、重要文化財約40件を含む計100余件の名品が一堂に会し、巨匠2人の作品の「対決」を、実際に見て比較できるのが本展の最大の魅力です。前期(7月8日〜7月27日)、後期(7月29日〜8月17日)の予定。(サイトより)
運慶─快慶 雪舟等楊─雪村周継 狩野永徳─長谷川等伯 本阿弥光悦─長次郎 俵屋宗達─尾形光琳 野々村仁清─尾形乾山 円空─木喰 池大雅─与謝蕪村 伊藤若冲─曽我蕭白 円山応挙─長沢芦雪 喜多川歌麿─東洲斎写楽富岡鉄斎─横山大観
◇記念講演会「美と個性の対決」
日時:8月2日(土)13:30〜15:00
場所:東京国立博物館 平成館大講堂
講師:辻惟雄(『國華』名誉主幹、美術史家、MIHO MUSEUM館長)
定員:380名(事前申込制)
聴講料:無料(「対決 巨匠たちの日本美術」の観覧券が必要)
申込み:サイトから 7/15締切 申し込み多数の場合抽選
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■展覧会案内
The Second Stage at GG #23 居山浩二展「文字景─typescape」
< http://rcc.recruit.co.jp/gg/exhibition/gg_sec_gr_200806/gg_sec_gr_200806.html
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20080704140100.html
>
───────────────────────────────────
会期:6月30日(月)〜7月17日(木)12:00〜19:00
会場:ガーディアン・ガーデン(東京都中央区銀座7-3-5 リクルートGINZA7ビルB1F TEL.03-5568-8818)
内容:集英社文庫「ナツイチ」キャンペーンなどで注目を集めるアートディレクターの居山浩二が、文字の“部首”や“へん”を解体し、モビールのようにつり下げることで、文字の持つ意味を再検証する試みを展開する。
◇トークショー 大日本タイポ組合×居山浩二
日時:7月11日(金)19:00〜20:30 入場無料
会場:ガーディアン・ガーデン 要予約(TEL.03-5568-8818)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■編集後記(7/3)
・「日本鉄道旅行地図帳─全線・全駅・全廃線─2号・東北」(新潮社)を買う。よく売れているらしい。3軒目の書店でようやく入手できた。分冊百科サイズを予想して探していたので、B5判で中綴じ48ページというチープな体裁に出会い、見つからないわけだと納得。月刊「旅」の付録かと見紛う貧相ぶり、これで680円とは高過ぎる、というのが第一印象だ。でも内容は充実している。情報がきれいにまとまっている(図表は美しいが、写真は暗くて見栄えしない)。これなら鉄っちゃんに支持されるだろう。わたしも「乗り鉄」のはしくれ(だった)から、この本の価値はわかる。新潮社サイトによれば「この地図帳は鉄道旅行を楽しむための基本情報を満載しています。正確な縮尺の地形図上に鉄道路線と駅を忠実に配置することにこだわりました。既存の路線図のように歪んではいません。道路情報にも邪魔されない鉄道地図帳は、実は日本で初めての試みです。」とある。そう、こんな鉄道地図が欲しかった。よくやってくれた。その鉄道旅行地図は南、中部、北と分けてわずか6ページと1/2である。ちょっと拍子抜けだが、情報に不足はない。他は、廃線鉄道地図、車両基地一覧、名駅舎100選、鉄道保存施設、国鉄予定線・未成線一覧、そして本の半分を占めるのが駅名一覧。「車窓絶景15選」という情報が秀逸。でも、それぞれわずか1行の記述、ちゃんと写真で見たかった。薄くて、軽くて、情報はたくさん。見かけはしょぼいが、鉄道旅行に持って行くにはベスト。列車に乗って、窓際に座り、この本を開く至福の時間、ああ旅に出たくなる。(柴田)
< http://www.shinchosha.co.jp/railmap/
> 新潮社 日本鉄道旅行地図帳
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4107900207/dgcrcom-22/
>
アマゾンで見る
・撤退二社の電子書籍ビューア。「リブリエ」はデザインがキレイだしカラー。しかしマック対応ではない、フォーマットが特殊。「ΣBook」は見開きなのがいいがモノクロ。対応フォーマットは豊富。カラーの「Words Gear」は厚みがある。うーん。ヨーロッパ発の電子ペーパー「iLiad」は日本語対応しておらずモノクロのみ。カラー電子ペーパーで対応フォーマットが多く(.doc、.ppt、.bmp、.jpg、.xls、.pdf、.html)、A4サイズが表示できる「FLEPia」に期待しているが、一般発売は高くなりそうだなぁ。携帯性を考えるならA5版で十分か。マック対応でiTunesみたいな連携ソフトがあれば素敵なんだけど。あ、あとフォントも美しく読みやすいものを期待。電子ペーパーはバックライトがない分、目に優しい気がする。ただし、書き換え速度がカラーで10秒、グレースケールで2秒とあって読書に使うには実用的ではない……。ScanSnapした一般書籍をリサイズなしに、手軽に読めたらそれで十分なのにな。iPod touchのA5版が出たら電子ペーパー諦めてそっち買う気もする……。(hammer.mule)
< http://www.sony.jp/products/Consumer/LIBRIE/
> リブリエ
< http://ascii24.com/news/i/hard/article/2006/09/26/664806-000.html
>
Words Gear
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上原ゼンジ
< https://bn.dgcr.com/archives/20080704140400.html
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前回はWEBのカラーマネージメントについて書いた。最近のディスプレイには、色再現域の広い製品が増えてきている。鮮やかな色再現が売りのディスプレイを使い、カラーマネージメントをせずにサイトを閲覧すれば、写真やイラストなどのコンテンツは色鮮やかに見えてしまう。
鮮やかになったからキレイでいいや、という話ではなく、クリエイターの見せたい色でなくなり、商品の色も別の色になってしまうという話だから、ちょっと問題だ。従来のWEBのカラーマネージメントというのは、「みんながsRGBで運用していれば、大きな違いはない」というような考え方だった。
でも、ディスプレイの急激な進化により、見ている色の違いも大きくなってしまった。これからは、WEBでもカラーマネージメントの運用をきちんと考えていかなければいけないということだ。
ここで言うカラーマネージメントとは、画像に対してプロファイルを埋め込んで運用するということ。閲覧する側が、カラーマネージメントに対応するブラウザを使い、ディスプレイのキャリブレーションもしていれば、色は正しく伝わる。
たとえば、MacでSafariを使っていれば、デフォルト状態でカラーマネージメントに対応している。コンテンツを作る側が、きちんとディスプレイのキャリブレーションをとり、画像にはプロファイルを埋め込んでおけば、イメージした色が伝えられるということだ。
ここで、一つお詫びと訂正。
前回「現状で、どういう環境だったらカラーマネージメントに対応しているのか、についてきちんと検証したわけではない。私の普段使っている環境(Mac OS 10.5.3)では、Safariはオーケー、FireFoxとOperaは非対応という感じだった」というふうに書いた。しかし、FireFoxの場合も設定を変えることにより、カラーマネージメントに対応させることが可能。失礼しました。で、変更の方法は以下の通りです。
1)URLを入力するロケーションバーに
about:config
と入力する。
2)gfx.color_management.enabled をtrueに設定して再起動する。
この操作を行えば、前回アップしておいたページの画像の明るさが違って見えるようになるはず。つまりプロファイルを認識して、画像の忠実な色再現ができるようになるということだ。
< http://www.zenji.info/color/browser.html
>
制作サイドでプロファイルを埋め込んでおけば、ユーザー側で正しい色の観察が可能という話だが、カラースペース自体はAdobeRGBなんかにはしない方がいいだろう。もし、AdobeRGBにした場合、相手がカラーマネージメントに対応した環境であれば問題ないが、非対応で色再現域の狭いディスプレイを使っていた場合には、成り行きで彩度が落ちてしまう。
あくまで、カラースペースはsRGB。そしてプロファイルは埋め込んでおく、という方法がいいんじゃないかと思う。
●エミュレーションの方法
以前、友人に頼まれて、某下着屋さんのサイトの手伝いをしたことがある。色鮮やかでスケスケの下着をネット販売するお店で、ふだんは買いづらい製品がネットで購入できるということで、そこそこ繁盛していた。
私はその商品の画像の担当をしていたのだが、クライアントのチェックが厳しくて、けっこうしんどい思いをした。「もっと鮮やかに」とか、「生地の質感をもっと出して」というようなリクエストだったのだが、校正のイメージが伝わらなかったり、「それは無理!」というような要望だったからだ。
クライアントには色鮮やかな下着の現物のイメージがあるから、それを出して欲しいというのだが、クライアントの使っていた古いCRTのディスプレイでは絶対に再現できないような色だった。
私は、出せませんよと言うのだが、クライアントには理解できず、「もっと鮮やかに」と言う。しょうがないから調整してアップすると、それを見て「今度は質感がなくなった」とのたまふ。単純に彩度を上げてしまえば、飽和して質感がなくなるのは当然なことだし、特に色域外の色を現物に合わせろというのは無茶なリクエストだ。相対的に鮮やかには見せることはできても、絶対的な色は出ない。
しかも、何のキャリブレーションもしていない、色域の狭いディスプレイで画像を確認しているのだから、話は合わない。毎度毎度同じようなやりとりがあって消耗してしまった。
もう二度とああいう仕事はしたくないものだと思うのだが、今だったら、少しマシな方法もあるかなと思う。それは、クライアントのところに行ってディスプレイを測定し、モニタプロファイルを作成して、自分のディスプレイでエミュレーションする方法だ。
もともとPhotoshopには、画面で校正を行う機能は備わっているが、自分のディスプレイの色再現域が広がり、クライアントのディスプレイの色再現域を完全にカバーできていれば、どんな色でクライアントが見ているのかということが、かなり正確に分かるようになる。
このエミュレーションの機能というのは、ディスプレイに備わっている製品もあるし、なければPhotoshopで設定を行う。「ビューメニュー/校正設定/カスタム」から「校正条件のカスタマイズ」画面を表示させ、シミュレートするデバイスの項目で、クライアントのディスプレイのプロファイルを選択する。
こちらで、クライアントのエミュレーションが出来たからと言って、クライアントの不満が解消されるわけではないが、最低限同じ色を見ながら、意見交換をするというワークフローになっていれば、話は通じやすくなる。たとえば、クライアント側でこんなふうに見えてるんだったら、直して欲しいと思うのも無理ないか、とったことも理解できるようになる。
WEBの世界というのは、ユーザー側の環境がバラバラだから、何を基準にコンテンツを作ったらいいのか悩むところだが、とりあえずはクライアントの環境をエミュレーションするとか、Windowsではどう見えるか? Macではどう見えるのか? ぐらいの確認はしておいたほうがいいだろう。
紙媒体の場合も、同じ校正紙を見ながら、意見交換をするというのが原則だが、互いに信頼できるディスプレイを使い、きちんとキャリブレーションを行えば、校正の回数を減らしたりできるようにもなる。高いディスプレイをみんなが使う必要はないが、編集部や制作に一台、校正用の信頼できるディスプレイを用意しておけば、色のトラブルも減っていくはずだ。
【うえはらぜんじ】zenstudio@maminka.com
◇上原ゼンジのWEBサイト
< http://www.zenji.info/
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◇「カメラプラス トイカメラ風味の写真が簡単に」(雷鳥社刊)
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■ショート・ストーリーのKUNI[42]
黒ごきぶりの会
やましたくにこ
< https://bn.dgcr.com/archives/20080704140300.html
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───────────────────────────────────
紳士たちの会「黒ごきぶりの会」は月に一度月曜日の夜、閉店後の某うどん店を会場に開かれる。今夜、うどんを前にうかない顔で話しているのは自称一流企業のサラリーマン、中島洋介だ。
「せっかくの楽しい食事会というのに、この通り暗い顔をしていて申し訳ありません。というのも、今日はちょっとした困りごとを抱えておりまして」
「ほう、困りごとですか」柔和な表情で定年間近の高校教師、塩尻が言う。
「仕事上のことですかな、それとも」
「仕事上のことともいえるし、そうでないともいえます。というのも、あるデータを失ったのですが、整理が悪いために、そこには仕事上のデータとプライベートなデータが混在しておりました」
「なるほど、それはお困りでしょう」意味ありげに地方公務員の安田が言う。
「データと言うと、その、何ですか、パソコンを使っていてうっかりゴミ箱に捨てたとか。私もよくやりますがね。はっはっは」笑いながら言うのはかつては会社を経営していたが今はタクシー運転手の本山だ。
「ああ、そうではなく、メディアに入れて持ち歩いておりました。あるメディアを紛失したというべきでしょうか」
「メディアというとCDですか、それともMO。まさかフロッピーディスクではないでしょうな」
「フロッピー。なつかしいですなあ」
「いまでもあるんでしょうかねえ」
「いえいえ、なくなったのはCDやMOではなく、もちろんフロッピーディスクでもなく、miniSDカードです。携帯電話でも使っておりますが、たまたま人から余分にもらったのです。なんでもその人は最近携帯を買い換えたらmicroSDカードだったので、もういらないと。私も別に2枚も不要だと思ったんですが、カードリーダーを使えばUSBメモリのように使えるから便利だと教えられまして。ほら、こういうリーダーがあります。ここにmniSDを取り付けまして」
「それをパソコンのUSBポートに差し込むわけですな。なるほど」塩尻がかまぼこを口に入れながら言う。
「1枚で2GBですから、けっこう使いでがあります。そこで、日々持ち歩いて重宝しておったのですが、それが」
「なくなったのですね」
「ありうることですな。大いにありうる!」フリーのデザイナー、小田が突然熱弁をふるい始める。
「最近のメディアは小さすぎるのです。小さいからなくなりやすい。当たり前です。コンパクトにするにもほどがある。私はかねてから主張しておるんですが、フロッピーくらいでよかったのだ。大きい方が名前も書き込めてわかりやすい。そこにデザインを施す余地も生まれ、自ずと文化が形成されるのだ。LPレコードのジャケットのデザインを考えてみればいい。みなさん、かつては…」
「LPレコードみたいなリムーバブルメディアはあり得ないでしょう」
「Mac miniに入りませんぞ」
たちまち脱線しかけたところを塩尻が引き取って
「それより、なくなったいきさつをお伺いしましょう。中島さん、だいたいどこでなくなったかは見当がつきますか」
「それが家の中だとしか考えられないのです。週末、私は件のカードを含め、細々したものをいつものように鞄に入れて会社を出ました。そのときは確かにありました。そして、家に帰るといつものように自分の部屋の机の脇に鞄を置きました。ところが今日、月曜日の朝、出勤前に中身を点検していて、それがないことに気づいたのです。あわててあちこち探したところ、リーダーは見つかったがカードがない」
「ほー。miniSDカードは自分の意志で歩いていくものですかな」安田が言う。
明らかにおもしろがっている。
「カードは取り付けたままだったと思うのですが…はずしたことがあったかなあ…ちょっと覚えていません」
「ということにしておきましょう。ふっふっふ」安田が言うと、塩尻が小さく咳払いをして
「当然、ご家族の方には聞いてみられたわけですね?」
「はい。ご存じの通り、私は妻と息子、そして妻の父親と同居しております。私はすぐに家族に聞きました。妻と息子は即座に否定しました。そのときいなかった義父が20分ほどして戻ってきましたので、義父にも聞きましたが、案の定『知らん!』の一点張りです」
「あなたの部屋には日常、鍵はかかってないんですね?」
「そんなものはありません。誰でも入れます」
「朝早くからお義父さんはどこに行っておられたのです?」
「近所の歯医者です。ゆうべから虫歯が痛み出したので、歯医者が開くのを待って、いや待ちかねてまだ閉まっていた歯医者を無理矢理たたき起こして診てもらったということでした。『目も悪いし歯も悪くなる。まったくいやになる』とか、ぶつくさ言っておりました」
「土日の間にあなたは外出されましたか?」
「ええ。日曜日の朝、近くのホームセンターで釣り道具を物色しようと思って出かけたのですが、行ってみるとなんとホームセンターは臨時休業中で閉まっていました。予定より早く帰ると妻がいやがるのでその近くの遊戯場、一般的にはパチンコ屋といいますか、そこで時間をつぶして帰るつもりがあっという間に2000円もすってしまい、やはり予定より早めに帰ってしまいました」
「ははは。あなたも家にいるといやがられるわけだ」
本山がうどんのだしを味わいながら言う。
「いやあまったく、ここのうどんはうまい」
「案の定、妻はえらく不機嫌でした。『なぜこんなに早く帰ってくるのよ!』と、それはそれはものすごい怒り方で、さすがの私も頭にきて『亭主が早く帰ってきたのがそんなに気に入らないのか。たまにはうれしそうに迎えてくれてもいいじゃないか!』と怒鳴ったところ、妻はますます怒り出し、もう収拾がつかなくなりまして、その日はついに口をききませんでした。私も不愉快で、寝るのも自分の部屋で寝たくらいです」
「自分以外の人間がそういう境遇に陥るのはまったくもって愉快ですな」
本山はそう言いながららつまようじを使い始めた。
「お義父さんとはうまくいってるんですか」
「全然うまくいってません」
「息子さんとは」
「何年間も口もきいてません」
「ほほう、じゃあカードを盗む可能性は家族全員にあるわけですね」
安田が言う。
「え、盗む?! 私はカードを盗まれたと言ってません。私は自分の家族がどろぼうだとは思っていません。ただ、なくなって困っているので、なんとかして見つけたいと思っているだけです」
「ああ、すみません。つい口がすべったというか。そうですね。確かに、カードが出てくればよいわけですな。そうそう、どんなデータが入っているのかは知りませんが、そのカードが」
「まったくです。まあ誰しもメディアやパソコンの中身は見られたくないものです。ある意味、自分の秘密の部屋のようなものです」と塩尻。
「それどころか自分の頭の中のような、といえるかも知れません」
「そう、だれでも見られたくないものはありますよね、はい」
「ええっと、みなさんが何を考えておられるのか知りませんが、とにかく、見つかりさえすれば、私はいいのです」
「しかし、これは容易にわかりそうにありませんねえ。時間をかけても家捜しするしかないでしょう」
そのとき、それまで黙ってうどんや酒肴を運んでいたこの店の従業員、辺利が口を開いた。
「この会の正式メンバーでもない私が、こんなことを言うのは恐縮なのですが」
「ああ、辺利さん、遠慮なく言ってくれたまえ」安田が促す。
「そうとも。いつもあなたは鋭い考察を述べてくれる。今夜もどうやらあなたの力を借りなくてはいけないようだ」塩尻もほほえみながら言う。
「君のことだからもうだいたいの見当はついているんだろう?」
「はい。私が思いますに、カードを盗んだ、あ、いやいや、えっと、その拝借された方は、何か確認したいことがおありで、それが済み次第もとの場所に戻すおつもりだったのでしょう。ところがそれができなかったので、あわてて一時的にある場所に隠したのです」
「ははーん。つまり、カードの持ち主の帰宅が早すぎたからですな」
「しかも、その晩、中島さんは鞄のある部屋を離れなかった!」
「ああ、そうか!」
辺利はうなずき
「ですから、今晩、中島さまがふだんのように鞄とは別の部屋でおやすみになれば、翌朝にはminiSDカードは鞄に戻っていることと思われます」
「なるほどなるほど、わかりました。それならそれでいいのです。私もカードを持って行った人間を責めるつもりはありませんから。しかし、あわててある場所に隠したというのはいったい…。私もあちこち探したつもりだったのだが」
「中島さま、有名なブラウン神父の言葉を思い出してください」
「木の葉を隠すには森の中がいい、というやつですかな」
「『折れた剣』だ!。死体を隠すには死体の山を築けばよい!」
小田が立ち上がらんばかりに言う。
「その通りでございます。miniSDカードを拝借された方は、持ち主が早く帰ってきたのであわてて隠したのです。おそらくは、戸棚の中の塩昆布の鉢に」
「し、塩昆布ですか!」
「それをうっかりしてお義父さまが食べようとした」
「ああ、それで、歯を!」
「いや待ってください」と小田が割り込んだ。
「確かにminiSDカードは塩昆布と似ていないこともない。お義父さんは目が悪かったようですし、見間違うかも知れない。しかしあれは、お箸ではさめないはずだ!」
「そうです、あれはするするしています。すべります! はさめません!」
本山も同調した。
すると、中島が大きな声で
「思い出しました! みなさん、義父は時々、塩昆布をつまみ食いするのです!妻が『お父さん、やめてください』と再三言うのですが、聞き入れません。だれもいないすきを見計らって、目にもとまらぬ早さでつまみ食いするようです。お箸ではなく、指でつまむのです。だから…すべらないのです!」
「塩昆布のつまみ食いですか、それはよくありませんぞ! お義父さんは血圧は高くないのですか!」
「塩分控えめの塩昆布を買うようにしております」
「ふーむ。いちおう辻褄はあうようだが」
「半信半疑ですな」
「私もです」
すると再び中島が大きな声で
「ああ、なんということだ! こ、これを見てください! 携帯のメモリカードスロットに塩昆布が!」
「おお!」
「この香りは…山椒昆布だ!」
「昨日外出したときは携帯を持って出るのを忘れていたのです。すぐに戻ったので支障はなかったのですが、いまそのことを思い出しまして、確認しようとしたら」
「では、奥様、あ、いやいや、その、カードを拝借された方は相当に混乱して何が何かわからなくなり、思わず携帯のカードスロットに塩昆布を入れてしまったわけですな」
「ううむ。やはり辺利の推理は正しかったか」
「辺利、君にはまったく脱帽だ!」
「それにしても中島さんがどんなデータを隠し持っていたか、あるいは隠し持っていると疑われていたかが気になるところですが、それについては深く詮索することはやめておきましょう」
「そうだとも諸君、ここは紳士の集まり、黒ごきぶりの会ですからな」
「わはは」
「わははははは!」
うどん店に男たちの笑い声が響き、かくして今夜の黒ごきぶりの会もさわやかな余韻を残してお開きとなったのであった。
※これはいうまでもなくアイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」のパロディです。アシモフファンの方で気を悪くされた方がおられたらごめんなさい!でも、私もこのシリーズは大好きで、作者のアシモフには深く敬意を抱いております(#^_^#)
【やましたくにこ】kue@pop02.odn.ne.jp
みっどないと MIDNIGHT短編小説倶楽部
< http://www1.odn.ne.jp/%7Ecay94120/
>
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■展覧会案内
対決 巨匠たちの日本美術
< http://www.asahi.com/kokka/
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20080704140200.html
>
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会期:7月8日(火)〜8月17日(日)9:30〜17:00 金20時 土日祝18時
月休 7/21開館・7/22休館 8/11日開館 ※入館は閉館の30分前まで
会場:東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園13-9 ハローダイヤル03-5777-8600)
入場料:一般1,500円、大学生1,200円、高校生900円
内容:日本美術の歴史に燦然と輝く傑作の数々は、時代を代表する絵師や仏師、陶工らが師匠や先達の作品に学び、時にはライバルとして競い合う中で生み出されてきました。直接の影響関係がない場合でも、優れた芸術家たちの作品を比較すると、興味深い対照の妙を見出すことができます。きらめく才能の拮抗により、各時代の造形芸術はより豊潤に、華麗に開花してきたといえるでしょう。本展では、このような作家同士の関係性に着目し、中世から近代までの巨匠たちを二人ずつ組み合わせ、「対決」させる形で紹介します。国宝10余件、重要文化財約40件を含む計100余件の名品が一堂に会し、巨匠2人の作品の「対決」を、実際に見て比較できるのが本展の最大の魅力です。前期(7月8日〜7月27日)、後期(7月29日〜8月17日)の予定。(サイトより)
運慶─快慶 雪舟等楊─雪村周継 狩野永徳─長谷川等伯 本阿弥光悦─長次郎 俵屋宗達─尾形光琳 野々村仁清─尾形乾山 円空─木喰 池大雅─与謝蕪村 伊藤若冲─曽我蕭白 円山応挙─長沢芦雪 喜多川歌麿─東洲斎写楽富岡鉄斎─横山大観
◇記念講演会「美と個性の対決」
日時:8月2日(土)13:30〜15:00
場所:東京国立博物館 平成館大講堂
講師:辻惟雄(『國華』名誉主幹、美術史家、MIHO MUSEUM館長)
定員:380名(事前申込制)
聴講料:無料(「対決 巨匠たちの日本美術」の観覧券が必要)
申込み:サイトから 7/15締切 申し込み多数の場合抽選
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■展覧会案内
The Second Stage at GG #23 居山浩二展「文字景─typescape」
< http://rcc.recruit.co.jp/gg/exhibition/gg_sec_gr_200806/gg_sec_gr_200806.html
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20080704140100.html
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会期:6月30日(月)〜7月17日(木)12:00〜19:00
会場:ガーディアン・ガーデン(東京都中央区銀座7-3-5 リクルートGINZA7ビルB1F TEL.03-5568-8818)
内容:集英社文庫「ナツイチ」キャンペーンなどで注目を集めるアートディレクターの居山浩二が、文字の“部首”や“へん”を解体し、モビールのようにつり下げることで、文字の持つ意味を再検証する試みを展開する。
◇トークショー 大日本タイポ組合×居山浩二
日時:7月11日(金)19:00〜20:30 入場無料
会場:ガーディアン・ガーデン 要予約(TEL.03-5568-8818)
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■編集後記(7/3)
・「日本鉄道旅行地図帳─全線・全駅・全廃線─2号・東北」(新潮社)を買う。よく売れているらしい。3軒目の書店でようやく入手できた。分冊百科サイズを予想して探していたので、B5判で中綴じ48ページというチープな体裁に出会い、見つからないわけだと納得。月刊「旅」の付録かと見紛う貧相ぶり、これで680円とは高過ぎる、というのが第一印象だ。でも内容は充実している。情報がきれいにまとまっている(図表は美しいが、写真は暗くて見栄えしない)。これなら鉄っちゃんに支持されるだろう。わたしも「乗り鉄」のはしくれ(だった)から、この本の価値はわかる。新潮社サイトによれば「この地図帳は鉄道旅行を楽しむための基本情報を満載しています。正確な縮尺の地形図上に鉄道路線と駅を忠実に配置することにこだわりました。既存の路線図のように歪んではいません。道路情報にも邪魔されない鉄道地図帳は、実は日本で初めての試みです。」とある。そう、こんな鉄道地図が欲しかった。よくやってくれた。その鉄道旅行地図は南、中部、北と分けてわずか6ページと1/2である。ちょっと拍子抜けだが、情報に不足はない。他は、廃線鉄道地図、車両基地一覧、名駅舎100選、鉄道保存施設、国鉄予定線・未成線一覧、そして本の半分を占めるのが駅名一覧。「車窓絶景15選」という情報が秀逸。でも、それぞれわずか1行の記述、ちゃんと写真で見たかった。薄くて、軽くて、情報はたくさん。見かけはしょぼいが、鉄道旅行に持って行くにはベスト。列車に乗って、窓際に座り、この本を開く至福の時間、ああ旅に出たくなる。(柴田)
< http://www.shinchosha.co.jp/railmap/
> 新潮社 日本鉄道旅行地図帳
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4107900207/dgcrcom-22/
>
アマゾンで見る
・撤退二社の電子書籍ビューア。「リブリエ」はデザインがキレイだしカラー。しかしマック対応ではない、フォーマットが特殊。「ΣBook」は見開きなのがいいがモノクロ。対応フォーマットは豊富。カラーの「Words Gear」は厚みがある。うーん。ヨーロッパ発の電子ペーパー「iLiad」は日本語対応しておらずモノクロのみ。カラー電子ペーパーで対応フォーマットが多く(.doc、.ppt、.bmp、.jpg、.xls、.pdf、.html)、A4サイズが表示できる「FLEPia」に期待しているが、一般発売は高くなりそうだなぁ。携帯性を考えるならA5版で十分か。マック対応でiTunesみたいな連携ソフトがあれば素敵なんだけど。あ、あとフォントも美しく読みやすいものを期待。電子ペーパーはバックライトがない分、目に優しい気がする。ただし、書き換え速度がカラーで10秒、グレースケールで2秒とあって読書に使うには実用的ではない……。ScanSnapした一般書籍をリサイズなしに、手軽に読めたらそれで十分なのにな。iPod touchのA5版が出たら電子ペーパー諦めてそっち買う気もする……。(hammer.mule)
< http://www.sony.jp/products/Consumer/LIBRIE/
> リブリエ
< http://ascii24.com/news/i/hard/article/2006/09/26/664806-000.html
>
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