電子浮世絵版画家の東西見聞録[55]木炭画の魔術師・黒田晃弘氏との出会い
── HAL_ ──

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●雨の日のZAIM CAFE ANNEX

2008年9月10日、横浜日本大通りに面した旧関東財務局ビルを利用したZAIM CAFEの別館として、その名の通りZAIM CAFE ANNEX(以降ANNEX)がオープンしました。ANNEXは、ZAIN CAFEオーナーでもある空間デザイナー植竹悦夫氏の手により築84年の民家をリノベーションされた「隠れ家ギャラリー」として運営されています。
< http://zaimcafe.com/annex/
>
横浜市中区石川町 TEL.045-308-8481

この民家は昇り坂の傾斜道に沿ってまるで二階屋のように存在し、さらに上に中庭が展開しているという面白い構造で、そこが気に入って植竹氏が手を入れたという事です。リノベーション後の室内には落ち着いた雰囲気が漂い、窓枠に使ったファサードの古材が洋館風イメージを醸し出しています。内部の家具にも様々なアンティークが配されるといったこだわりを見せ、足を踏み入れたとたん、植竹氏の懐に入り込んでしまったような、こだわりの空間に圧倒されます。

去る10月23日、ANNEXの噂を聞き及び、11月に行うパーティー会場として利用できないだろうかと偵察がてら出かける事にしたのですが、外は大雨。この時同行約束の女性タレントが「雨女!」と自負しているのですから、しかたがない。雨にも負けず、風にも負けず石川町へと向かいました。

ANNEXは石川町から5分もかからない距離。しかし、この辺の地形は横浜特有の谷間を使って上下に折り重なるように立ち並ぶ、古い街並みがそのまま残った場所、狭い路地がくねくねと分岐し、行き止まりも多いところなのです。そして、大雨という事も重なり非常に分かりにくい。

道を間違える事もなく到着はしたのですが、道の途中、心の中は不安で満ち、それにすべての上り坂が川のようになり、足元をすくわれるような激流と化している中を、靴は濡れ放題、靴の中まで雨がにじみ込むという状態で歩いていったのです。



●木炭画の横浜八景

そのとき、ANNEXでは何か展示が行われているらしい、という話は聞いていたのですが、こんな天候の中訪れるのは酔狂な我々ぐらいなものです。案の定、観客はなく展示物をゆっくりと見る事が出来ました。展示は、木炭で木炭紙に描かれている横浜八景。この絵がANNEXの内装とぴったりマッチして、いかにもその場所のために描かれたように自然に存在していました。そして、高台にあるANNEXの窓から見えるのはマリンタワー。まさに横浜を演出しているという気持ちの良い空間になっていました。

中にいたアーティストは黒田晃弘氏。話を聞いてみると、札幌の人で、木炭で描く作品は原点に返って描くという意志の現れだという事で、今までにこの木炭を使った似顔絵を1000人描いているそうです。そして、こだわりは木炭そのものにもあり、札幌の柳の木を自分で焼き木炭を作っているという話でした。展示の中に、NHKの日曜美術館で取り上げられている映像などもありました。

とても穏やかでぬくもりのある話し方をする方で、その風貌からも優しさが見て取れるのですが、眼光は鋭く「物を見る姿勢は確かなものがあるのだなぁ」と感じさせてくれます。絵を見たり室内を観察したり、話をしたりしている中で彼自身にとても興味をもち、何か一緒に出来ないだろうかと思いながら二時間近くをその場で過ごしたのでした。

黒田晃弘似顔絵の旅日記
< http://blog.livedoor.jp/jackuro80/
>

●タブレットと木炭の対決

頭の回転が遅い私なので、二晩かかり思いついたのが、向かい合ってお互いを描くという設定。思いついた時には、私はスケッチブックにボールペンという選択肢だったのでしたが、よくよく考えてみるとデジタルでの仕事がほとんどの私ですから、この際タブレットと木炭の対決という設定はどうかと考えをまとめ、27日に再びANNEXを訪れて黒田氏に話を持ちかけてみました。

この企画、実はこれから立ち上げるサイトの番組として考えていた「クリエイターの制作現場を訪れて映像配信をする」という企画の変形。これは私の周りのクリエイターを題材として映像配信していこうと考えていたのですが、デジタルクリエイターは友好関係をたどると必ず何処かでリンクしてしまい、どうも世界が狭くなる感じがしたのです。それでは何か広がりがない気がして悩んでいたのですが、ANNEXを利用するアーティストを中心に回していけば、これが一気にクリアーでき、取材する私の緊張感が伴って楽しさ倍増です。

黒田氏に話をしてみると、即答で快諾していただけ、早速翌28日には撮影という段取りに。実はこの日が展示の最終日になるので、翌日には札幌に帰ってしまいます。撮影するには、この日しかないのでした。

という事で、機材を担いで翌日は撮影。カメラを設置し、二人で対峙して顔を見つめ合い、それぞれの方法で絵を描き始めます。黒田氏の描き方は、常に対象となる相手に話しかけ、人となりを体感しながら描いていきます。その手始めは、彼の手と描かれる人の手を重ね合わせます。そして、その波動から得たものをきっかけに描き始めるという方法。二人とも、他の来場者のことは後回し。感じ取った様をそのままキャンバスにぶつけていきます。その間の、彼のお話はとても興味深いものです。そのへんは、来月立ち上がるサイトをぜひ楽しみにしてください。
< http://bohemian.jp/
>

●シンプルな食が好き

今回の料理は、「あまり食にこだわりがないのですがシンプルなものが好き」という黒田氏に気に入ってもらえるように、優しい味付けの和食をご紹介する事にしました。こんなコースで軽く一杯はいかがでしょうか。

まずは、秋の味覚のキノコを使った揚げ出し豆腐。豆腐は水切りをして片栗粉と小麦粉を混ぜた薄衣を付けて油で揚げます。キノコはエノキ、椎茸、エリンギにシメジ、等々、何でも良いのですがアクの強いマイタケだけは避けておきましょう。約500グラム程度のキノコを適当に切り分け、沸騰したお湯にさっと通します。

本当に軽く湯通ししただけで笊にあげて下さい。それに塩小さじ1.5杯程度を振り込みます。これを先ほどの揚げ出し豆腐にかけ、緑の物を添えてできあがりです。写真では貝割れ大根を使いました。残ったキノコは冷蔵庫に入れて、3〜4日持ちますので、オムレツやとろみを付けたキノコアンなどに使います。

キノコを湯通し塩を振っておくと3日くらい持つので便利→

次は米茄子とピーマンの揚げ物です。茄子は縦半分に割り、切り口をさいの目に切れ込みを入れておきます。ピーマンは種を取り四つ割りに。茄子は切り口ににじみ出た水分を拭き取り、素揚げして、切り口にテンメンジャンをそのままのせ、やはり素揚げしたピーマンを添えて出来上がり。

テンメンジャン乗せ茄子とピーマンの素揚げ。→

次はちょっとした箸休めの、長いもの千切りです。長芋は千切りにして山葵醤油でも十分に美味しいのですが、今回はちょっとしたおもてなし。上にのせたのは生卵の黄身の醤油漬けです。これは、卵黄だけを醤油に落とし、冷蔵庫で一晩おいたもの。ほどよく固まるので、ちょっとした料理の上にのせるだけで雰囲気ががらりと変わります。味もマイルド。山葵を添えて召し上がれ。

黄身醤油のせ山芋→

最後に、ゴボウ巻きと茄子の煮物で心まで温かくしていただきましょう。普通の煮物と全く変わりませんが、この揚げ物はお出汁がたっぷり出るので、茄子の味が引き立ちます。だし汁は味醂、鰹だし、醤油に砂糖を少々。スナップエンドウはシャキシャキ感を残したままのおひたしに。食は色のバランスで変わりますね。

ゴボウ巻きと茄子の煮物→

【HAL_】横浜在住アーティスト hal_i@mac.com
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>
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