Otaku ワールドへようこそ![85]キヤノンキヤノン"EOS 5D Mark II"はここがすごい
── GrowHair ──

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キヤノンのデジタル一眼レフカメラ「EOS 5D」の後継機種にあたる「EOS 5D Mark II」が近日発売される。これに先立って、品川にあるキヤノンSタワーにて、プレミアム発表会が開催された。で、今回はそのレポートなど。

これ、いい! 今までISO 1600までしか上げられなかった感度がISO 6400まで上げられるようになって、しかも画像のガサガサが格段に抑えられている。画素数が1280万画素から2110万画素に増えて、画素サイズが小さくなったにもかかわらず、それを乗り越えて上回る高感度・高画質を実現した技術がすごい。

しかも、これって、めちゃめちゃ欲しかった機能のド真ん中。今まで、薄暗い場所での撮影では、ブレないようにじっと息を止めてシャッターを切っていた。その度ごとに、脳細胞が230個ぐらい酸欠死したんじゃないかと恐れつつ。即、買いだ。間に合ってよかった。



●曇天の 霹靂ほどの 後継機

レポートに入る前に、まずは負け惜しみなど。いや、レポート差し置いていきなり私的な話からというのもどーかと思うが、言っとかなきゃ気がすまんのだよ。

(ゴシック体の巨大文字で)出るのはわかってたさ!

8月ごろから、そろそろ後継機種の出ごろだろうなー、と予感していた。だって、EOS 5Dにない機能が下位機種(EOSは数字が小さいほうが上位)のEOS 40Dに備わってたりするんだもん。ライブビュー機能(※)とか。

※ファインダー代わりに使えるよう、カメラの背の液晶画面にリアルタイムで像を映す機能。

にもかかわらず、8月に買わざるを得なかった事情は前にも書いたかもしれないが、かいつまんで言うと、こういうことである。金融危機に上書きされて、忘れかけてる人も多いかもしれないが、今年の夏はゲリラ豪雨の夏だった。

7月27日(日)、山へロケハンに行ったときのこと、頭上を厚く覆う雲の中でごろごろと低く雷鳴が轟いていたのだから、わざわざ避難小屋を出なければよかったものを、次の休憩地点ぐらいまではもつだろうと楽観して歩き始めたのが大きな判断ミスで、ものの5分もしないうちに、情けも容赦もない破壊的なゲリラにとっつかまった。

ほぼ瞬間的にジーンズを通してパンツまでびっちょびちょになるくらいの、バケツをひっくり返したようなものすごい雨で、しまう間もなくこれにさらしちゃったカメラは、そうとうヤバいことになってるかも、とは思っていた。屋根の下に駆け込んだところで動作チェックをしてみたが、ヤバいなんてもんじゃない。普通にシャッター切っても30秒くらい開きっぱなしだったり、同じ操作をしても、その度に動作が違ったり。

人にたとえるなら、気が狂ったという状態。あれあれ。そうこうするうちに、液晶画面が風呂場の鏡みたいに真っ白々。思わず手でふき取ろうとしたが、ふき取れないのは、内側から曇ってるから。これはどう見てもただならぬ状態で、人にたとえるなら、エクトプラズムを吐いたみたいな感じか。魂を吐き出してしまったカメラは、それからはもうウンともスンとも言わず。

人にたとえないで工学的に言うと、おそらく水でショートした回路が過熱してボディー内部が火事になり、その熱で蒸発した水分が液晶パネルを曇らせた、ということでしょうな、きっと。わっはっは。翌日修理に出したけど、数日後に工場から知らせが来て、当該カメラは破損著しく、修理不能、とのこと。ひぃーっ。

かくして、'07年3月10日(土)に買った、私にとって初めてのデジタル一眼レフカメラは、わずか1年と数ヶ月にして、天に召されていったのでありました。って、これ、私が不運に見舞われたって話じゃなくて、私のような粗忽者に使われたカメラが、って話か。

実は、直後に控えた「世界コスプレサミット」用に予備機のつもりでEOS 40Dを買っていたのだが、帰ってきてから、主要機を失ったことを知らされ、どうしたもんかと迷った。しかし、その後にもここ一番という大事な撮影が控えていて、下位機種に落として撮る気にはとてもとてもなれず、泣く泣く、EOS 5Dを買いなおしたという次第である。近々後継機種が出そうだという予感がしつつも買わざるを得なかったのは、以上のような事情によるものです。

さて、愚痴ったら、だいぶすっきりしました。本題に戻りましょう。って、愚痴を聞かされたほうは、すっきりしませんか。どうも失礼しました。これを「ストレス保存の法則」といいます。愚痴でも罵倒でもマッサージでも、ストレスは人から人へ移っていくだけで、総量は減らないみたいです。吸い出して集めて宇宙空間へ発散させる技術の確立が待たれるところです。

●実地以上の臨場感:すごいディテール表現

プレミアム発表会は11月の週末に4回催されているが、私は第3回、11月15日(土)に行ってきた。品川駅からキヤノンSタワーまでは徒歩5分ほどだが、2階の高さに設けられた屋根つきの歩行者用通路を通って行けるので、ほとんど駅の続きという感覚。要所要所にプラカードを掲げた案内のオニイサンが立っていて、分かりやすい。入場無料のイベントなんだから、メイドさんならなおよかったなんてぜいたく言いません。

途中、一眼レフでそこいらへんの都会都会した景色を撮影しているオジサンをちらほら見かけたので、あ、貸し出して試し撮りさせてくれるんだ、と思ったのだがどうやら勘違いだったようで、発表会に来たついでに、持参したカメラで趣味の撮影を楽しんでるだけだったみたい。敬意をこめて「撮りバカ」の称号を差し上げたい。

3階に上がって、受付を通ると、まずMark IIの特長について、短い言葉でズバッ、ズバッと記してある。来場者が一番知りたいところに、まず、端的に答える形で、そうか、なるほどすげぇんだ、と思わせてくれる。

続いて、プロによる作品の展示。多分、ディテール表現のすごさを訴えかけるような被写体をわざわざ選んで撮っているのだろう。紅葉した樹の一本一本まではっきりと判別できる山の遠景とか、城の築石と砂利とか、森に密集して生える木々のうねって重なり合う枝とか。

実地にそういう場所に立ったときって、目に入ってきた景色全体からひとつの印象を受け取ったら、それ以上詳細に観察したりはなかなかしないものである。ところが、写真になると、葉っぱの一枚一枚まで、砂の一粒一粒まで写ってるんだから、見ろ、見ろ、と迫ってくる。森って、こんなだったっけ、という発見すらあり、実地以上の臨場感があると感じたゆえんである。

次は、実写コーナー。明るくまろやかなライティングの下、人工的な感じの自然を背景に、洋風な感じの和服を着た女性的な感じの女性モデルが2人、ゆったりとポーズを変えていく。手前のテーブルにはMark IIが20台ほど並べられているが、全部使用されて数人の待ち行列ができている。貸与されたコンパクトフラッシュメモリに入る限り撮ることができ、隣りのプリントコーナーで1枚だけ選んで2Lサイズにプリントできる。プリントは持ち帰れるが、画像は持ち帰れない。

1枚だけとなると、迷う。石橋を叩いて渡るか、宙に渡した綱を逆立ちで渡るか。ついつい石橋を渡ってしまう。ISO感度100で、絞り優先、解放絞り、露出補正なし、という面白くもなんともない設定。確かに驚くほどディテールの再現性のよいプリントが持ち帰れたけど、なんかメーカーの意図に素直にはまりすぎた感じ。

見ておくべきだったのは、感度をISO 1600〜3200ぐらいに上げ、絞りをF16ぐらいに絞り込むことによって収差を抑えて先鋭度のさらに高い絵を狙い、しかもシャッター速度は1/200秒以下を確保して手ぶれを防止し、これで高感度による粒状性が十分に抑えられているかどうか、そこではなかったかと後悔。エンジニアとして、テクニカルな観点から厳しくクオリティチェックする機会を見送ってしまった。甘いな、俺。

続いて、ハンズオンのコーナー。四角く囲ったテーブルの内側にキヤノンの説明員が5〜6人いて、来場者はテーブル上に置かれたMark IIをいじりながら話を聞くことができる。私は、従来機との相違点をひととおり聞いたのと、感度向上を実現するのにどのような工夫がなされているのかを聞くことができた。

キヤノンはCMOSセンサーを独自の技術で開発している。EOS 5Dのときも、他のデジタル一眼レフのメーカーに先駆けて35mmフルサイズを実現し、他社はしばらく追従できなかった。この辺の技術力は一頭抜きんでたものがあり、技術者の執念に近いがんばりが感じられて好ましい。本体の重量が約810グラムと、従来機と変わらないところにもがんばりが見える。

発売時期は今月末ごろで、値段はオープンなのでメーカー側からは何も言えないが、予想としては30万円程度、とのこと。その他もろもろのコーナーがあり、9階ではプロの写真家を講師に招いてのスペシャルセミナーが開かれる。1コマ45分。私は諏訪光二氏の「EOS 5D Mark IIの魅力」と題する講座を聴講できた。そのときの聴講者は約80人。

●実は動画がすごい

諏訪氏は、従来機からの向上点のうち主だったところとして、
(1)画素数が約1280万画素から約2110万画素に
(2)高感度設定と画像のざらつきの低減
(3)白トビを抑えるオートライティングオプティマイザ機能
(4)周辺光量低下の補正機能
(5)ライブビュー機能
(6)液晶画面が約23万ドットから約92万ドットに
(7)光量センサがつき、まわりの明るさに合わせて液晶表示
(8)EOSシリーズ初の動画撮影機能、フルハイビジョン
を挙げていた。

画素数に関しては「もういいよ」という人もいて、確かに画素数が多いだけではダメで、トータルバランスが重要なのだが、それが一巡するとやはり画素数の向上へと議論が帰ってくる。大サイズのプリントで高品質を得るには、画素数は多ければ多いほどよい、とのこと。

高感度において画質が向上したことが、従来機と撮り比べた画像で歴然と示される。同じISO 3200(従来機では拡張設定)で撮った夜景の写真では、ざらざら感が格段に低減されている。また、従来機のISO 3200(拡張設定)とMark II の ISO 12800(拡張設定)で、粒状性がほぼ同等に見える。輪郭線の先鋭度だと後者のほうが良いくらい。

従来機では画質を考えると、ISO 800がぎりぎり使える上限ぐらいという感覚を持っていたとのことだが、これは、私も同様に感じていた。それが、Mark IIだと安心して高感度が使えるようになったそうだ。私にとっては、そこが一番の注目ポイント。薄暗い場所でも苦労なく撮れて、もはや脳細胞の死滅を心配しなくて済むのなら、革命的と言っていい。

しかし、諏訪氏が特に強調していたのは、動画撮影機能だ。最初、「動画に期待している人」の問いかけにわずか3人しか手が挙がらず、「動画なんかどうでもいい」に、私も含め、約20人の手が挙がった。ところが、実際にMark II で撮ったという動画が映し出されると、これがかっちょいいのなんのって、逆光きらめく夕景の波打ち際なんて、映画のようにドラマチックだ。

諏訪氏は、今まで静止画を撮りなれた人のために、その延長線上的な動画の撮影を推奨していた。例えば、水槽の底のほうでじっとしている2匹の熱帯魚。よくよく見ればエラがはたはた動いている。あるいは、川の流れを背景にした花。ピントのはずれた背景はまったく形をなさず、抽象的なキラキラ、チラチラが踊る。こういうのは、レンズが自由自在に交換できて、しかも高解像度の絵が撮れる、一眼レフならではの映像。「動画に興味がわいた人」に、約40人の手が挙がった。

このカメラ、すごく人気出そうな予感。買うなら早いほうがいい。暗い環境で、みんながブレブレの写真しか撮れていない中で、一人、しゃっきりした写真を見せつけて、「すっごいクオリティ! さすが、プロは違いますねぇ」なんて褒められてニマニマしてられるのも今のうちだ。知れ渡ってからだと、「そのカメラだったら当然ね」で終わってしまう。

いい写真を撮る上で、カメラの側が引き受けてくれる領域がますます拡大していくと、撮る人の側に一体何が残されるのか。「いい写真を撮る腕とは何か」、「撮る人の個性をどうやって写真に反映させればよいか」、「何が表現されていると、作品と呼ぶに値する写真になるのか」という問いが、いっそう尖鋭化された厳しいものとして、撮る側に突きつけられるのではなかろうか。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp

カメコ。ヴァニラ画廊での展示を通じて、クリエイティブな方面で活躍している方々とお知り合いになれて、うれしい。このところ、返礼訪問も兼ねて、展示やパフォーマンスを見る機会がどっと増えた。11月8日(土)はデザインフェスタへ。森馨さんと埜亞さんの人形とたまさんの少女のイラストを見る。我々の展示を紹介してくれた「トーキングヘッズ」の、同じ号に作品が掲載されたつながりがある。たまさんのイラストは色彩がとってもきれい。イノセントな感じの少女が、まるで日常の何でもないことのように人形の首をハサミでちょっきんしてたりする残虐性もまた、少女のかわいさの一側面なのであろう。初めてお会いするが、手術痕を自慢しあったりして、何とも言えぬ親近感。膝から摘出したという骨のかけらを見せてもらったが、松の実みたいでかわいい。
< http://tamaxxx.egoism.jp/
>

1月9日(日)は、「国内最大級の少女のためのティーパーティー」と銘打った、クラブ的なイベント「アラモード・ナイト」へ。我々の展示のパーティーで演奏と朗読を披露してくれた、永井幽蘭さんと由良瓏砂さんのユニット「電氣猫フレーメン」が出演。他に、清水真理さんの人形の展示、少女テイストな服飾のブランド「ペイ*デ*フェ」によるファッションショー、"Rose de Reficul et Guiggles" によるゴシックで前衛的なパフォーマンスなど。みんな芸のレベルが高くて、美しく、見ごたえあった。特に最後の "Rose ..."。超絶美しき狂気の世界、絶叫と痙攣と悶絶と、って感じで。
< http://victorian.cocotte.jp/
>
< http://www.geocities.jp/layerphotos/Live081109/
>

11月16日(日)は「夜想 ヴィクトリアン展 パート1」へ。我々の展示にお越しいただいた、イラストレータの七戸優さんの少女の絵が3点。七戸さんの描く少女は、観念化されすぎない現実的な存在感を多分にたたえていながら、宙に浮いたうさぎが描き込まれたりしている絵全体は「不思議の国のアリス」を髣髴させる、ファンタジーに満ち満ちている。
< http://www.yaso-peyotl.com/archives/2008/10/post_663.html
>
いろいろ回った展示のすべてに共通するテーマは「少女」。心はすっかり少女に染まってしまったのだわ。

訂正。前回、来廊してくれたシルヴィアさんは、ローゼンメイデンの桜田ジュンよろしく中学時代引きこもっていた、と書いたが、どうやら妄想が暴走してたようで、ご本人からちゃんと学校には行っていた、と訂正が入りました。どうも失礼しました。お詫びして訂正します。