電子浮世絵版画家の東西見聞録[59]人の生きる意味(2)&雑穀米を使った二品
── HAL_ ──

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●高度経済成長期の汚点

豊かな想像力を持てる人間が、罪を犯すということは考えられません。想像力は未来を見ようとする能力です。光のような速さで走る列車を作り、日本国内を旅行したいと想像力豊かに考えた人は、その夢の実現に向け勉強し研究し「夢の超特ひかり」を作り上げ、さらなる想像力をもとに現在ではN700系という世界一安全で高速な特急を走らせています。世界のHONDAを作り上げた本田宗一郎は、鉄腕アトムを夢に描いてアシモを作り上げます。想像力あふれる漫画家「手塚治虫」が未来を描いた世界観は、数多く実現しているのです。

しかし、この想像力の加速した急成長が、大切な物を伝える芽を踏みつけてしまった時がありました。高度成長期といわれる暗黒の時代です。せっかく培われた先人の知恵は無視され、効率とお金にばかり目がいき、子供達へ伝えるべき大切なものを伝えなかったばかりに、子供達ちょうど現代の親達に当たる世代の人達が、目の前にある現実にしか夢を持てなくなってしまいました。夢を持てないということは、つまり想像力の欠如です。その想像力を豊かに持てなかった日本の人々が、夢というものすら小さくしぼませてしまったのです。

私の生まれたすぐその後に、高度経済成長期は訪れました。この時代は技術革新により経済の発展が加速し、着物・もんぺからスーツやネクタイ・スカート、ちゃぶ台の上の味噌汁と梅干しご飯からパン・牛乳・インスタントラーメン、長屋から団地へと、衣・食・住が大きく変化した時代です。町工場で働いていた工員がサラリーマンとなり、主婦は小売商から離れスーパーマーケットへと買い物に走ります。そんなライフスタイルがあたり前になり、日本国中が中流意識を持った時代です。

サラリーマンは文化的な団地に住み、長い通勤を満員電車の中で過ごします。団地に住み着いた家族達は核家族化していきます。その生活は、夫が一日中家を出て、母親と子供だけの生活となり、母親は子供達には良いサラリーマンとして生きていければという夢を託します。結果、大学への進学率が急速に伸び、大学生活を終えた子供達は家を出てしまいます。残された母親はテレビの世界に浸るしかなく、メディアの垂れ流すコマーシャルに翻弄され、暇をもてあました頭の中で描くことは、隣の家庭との経済の差でしかなくなってしまったのです。

確かにテレビ、冷蔵庫、洗濯機、そしてマイカーへと文化的で豊かな生活に見える家族が、団地というまるで昆虫の巣のように見えるひと塊の住居に住み、生活の中で親と子は断絶され、夫婦までもが会話をなくします。しかし、社会的には家族を大切にしているふりをし続けていき、仮面をかぶった私生活主義を生み出します。家族の中でも会話はなくなり、社会の中でも他と交わらない人間が生まれていったのです。



●言葉の力

地球上で偶然生まれた人類という生物は、知恵を持ち、他の動物たちとは違う伝え方が出来ます。人だけではなく、それぞれ生きている全てがそれぞれに違う伝承方法を持っているのかも知れません。人はこの他とは違う伝える方法を持つことで人間であると言えるのだと感じています。人の生きる大きな力は「言葉」による伝達です。言葉は、特に日本語のように文字一つ一つに意味のある言語では、その組み合わせにより意味が変化します。

私はビジュルアートの世界に生きようとしています。しかし、このビジュアルすらも、言葉の力により見方や作品の捉えられ方が変化してしまいます。私が展示会に出品する作品の中に、四角いキャンバスの中に一つの小さな丸を描いたものがあるとします。すると、それを見た観客はその中に何らかの意味を見いだそうとするはずです。その時に考えるのは、言葉を用いた方法でしかあり得ないのです。

作品の意味が見いだせない観客は、作家に問いかけます「これは何を描いたのですか?」と。私は答えます「太陽です」と。すると観客は「なるほど」とうなずき納得していきます。この観客はその後、白地の中に太陽が描いてあった作品を見たと言うでしょう。しかし、あるときには「丸です」と答えます。すると、客は首をひねって自分なりの回答を得ようとする人、馬鹿にされたと感じる人、様々な反応を示しますが、やはりここでは言葉で考えようとする頭が働くからなのです。

さて、私が描いた作品については「四角いキャンバスの中に一つの小さな丸を描いた作品を制作し展示します」と、言いました。この文を読んでいるあなたの頭の中にはどのような作品が想像されているでしょう。日の丸のような作品ですか?

では、もう一度「  」の中を読んで下さい。私は、一度も色に関しての言葉を発したつもりはありません。その後に続く文章の中では「太陽」の一言を書きました。この一言により、あなたの頭の中には真っ白い作品の中にある赤い丸が想像されてしまった訳です。「太陽」その単語一つから色まで想像してしまった、という結果です。それだけ、言葉の力は強いのです。

現代アートのように音声や言葉を使った静止した平面作品もありますが、私の作品はキャンバスにアクリルやインクを使って描いた作品で、ほとんどの作品はタイトル以外に説明はありませんし、説明することもありません。先の作品が、白地に赤い丸だったとして、その作品は太陽だと捉える人がいても、止まれの信号と捉える人がいても構わないと思っています。それは、象形文字のような固定した考え方ではなく、見る人の解釈によって変化することを前提として描かれるからです。

そして、ビジュアルは制作されたほぼそのままの形で伝承されていきます。その見方も時と共に変化していきますが、制作者の心はその中に留まります。同様に言葉も変化はしていきますが、言葉を組み立てた人の心はビジュアル同様そのまま残るものだと思います。そういった言葉やビジュアルという道具を用い、自分の経験や知識を伝えること、それこそが人の生きる意味を記する大切なことなのです。

●私の見つけた人が生きる意味は「伝えるということ」

人は、いや地球上の生物は全て伝えるために生きているのです。何をどのように伝えるのか、それは考える必要はないのです。イエスキリストも仏陀もアッラーも伝えているのです。その内容自体は考えなくても良いのです。それは、残された言葉やビジュアルなどなどの中に残された、作者の心が残されていくからです。当然、伝えられたことは時代と共に変化していきます。それはそれで良いのです。伝えること自体を目的として伝えていくのですから。

教師、講師は何のために学生に話をして聞かせるのか。もちろん、己の持つ技術や知識を伝えることは重要です。しかし、それだけであれば書物や映像にしてしまえば済んでしまいます。講義の時に講師が何を考え、何を伝えたいと思っているのか、それは書物の中だけに留まらない講師のビジュアルや言葉のニュアンス、そして目の前の学生との呼吸というパフォーマンスが大きな力を持つと考えています。人は言葉や作り出したものからだけではない、目に見えない大きな力も伝えていきます。

この伝えるという連鎖を絶つ、これが日本社会の中で起きた高度経済成長期に起こってしまったのです。日本社会は長屋家族だった時代から、西洋かぶれした誤った個人主義に走った結果、私生活主義を作りあげてしまいました。それはプライバシーの保護という言葉に踊らされ、社会と断絶することを良しとし、日常の中で学ばなければいけない生活を隠し、情報を得る手段は学校の中だけという偏った社会環境が出来上がってしまったのではないでしょうか。

子供達は、人間が生きる上で必要な事柄は家庭の中で自然に覚え、家庭の中だけではなく外へのつながりも家族間のつながりを見て覚えていきます。このつながるということ、それはお互いに伝え合う心がなければ成しえません。幼子は伝えてもらうことからはじまり、成長と共に伝えることの喜びを知っていきます。その中で、自分が必要なことと不要なことを分けて考えられるようになり、そして物の分別が出来るようになっていきます。

まず、伝えましょう。どんなことでもいいから伝えていきましょう。伝えることに年齢差はありませんし、性別もありません。そして、伝えられたことを大切にして再び伝えていきましょう。元もと生物は情報を伝達する遺伝子を持ち、自然に生きることで自然に情報を伝えていく存在なのですから。私は世の中にそういう考えを持った人々ばかりになれば、犯罪も起こらなくなり、環境の破壊もなくなると信じてやまないのです。

●雑穀米はおいしい

最近、ちまたでは雑穀米が再び見直されてきているようです。我が家でも数年前から日常的に雑穀を使うようになりました。雑穀米として売られているものではなく、様々な雑穀を購入し、そのつど混ぜあわせご飯として頂いています。銀シャリ、混ぜ物のない白飯も大好きですが、雑穀米は口に入れ噛むごとにリズムが変わり、味わいも変わっていくので美味しいですよ。

○簡単で美味しいガーリックライス

フライパンにニンニクのみじん切りとオリーブオイルを入れ、火にかけます。ニンニクの香りが出て来たら、雑穀米のご飯を入れて炒めます。ご飯がほぐれたら塩とブラックペッパーをふり入れ、全体に味がまわったら最後に醤油を鍋肌にまわし入れて香りをつけます。

付け合わせはホウレン草のオイル煮です。これは厚手の鍋にほうれん草とニンニクのスライス、塩少々、オリーブオイルをちょっと多めにいれ、火にかけて蒸し煮にします。最後にブラックペッパーをふりかけて完成です。口中に広がる香り高い雑穀米のガーリックライスは、白飯とは違うリズム感のある歯触りが絶品です。

○小豆玄米ご飯と入り豆腐

フライパンにショウガのみじん切りとごま油を入れます。ショウガの香りが出て来たら、水切りした木綿豆腐を手で崩しながら炒めます。醤油を多めに入れて、濃いめの味付けに炒め上げるのがコツです。最後に長ネギの斜め切りしたものを加えて出来上がりです。こちらは、豆腐からしみ出たさっぱりした豆乳の香りと、香ばしい醤油の香りが相まって、舌の奥に広がる大豆の旨味が食欲を増進させます。

【HAL_】横浜在住アーティスト hal_i@mac.com
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