Otaku ワールドへようこそ![92]ゴスロリイベント、「青い部屋」がロリィタたちで超満員に
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ファンタジーの世界を自由気ままに遊びまわる、純真無垢で無邪気な少女という白いイメージ、意地悪で邪悪で残酷でグロテスクなものを心に秘めた、孤独で背徳的なアブナイ少女という黒いイメージ、それらを矛盾なく融合させたのがゴスロリという世界。たぶん。そんな世界を、歌や演奏やお芝居や絵で表現するパフォーマーたちによるイベントがあった。

3月8日(日)、渋谷の「青い部屋」で開かれた「SERAPHITA」。イベント名は、バルザックの描いた両性具有の天使から? 会場は渋谷から青山方向へ7分ほど歩いたところの地下にあるライブハウスで、推理作家でありシャンソン歌手である戸川昌子さんが長年にわたって運営している。イベントをプロデュースしたのは、ミュージシャンのサエキけんぞう氏ともうお一方。

30〜40人ぐらい入れば大入りと言えそうなところに60人ほどがつめかけ、後ろのほうでは舞台の見えない通路にまで立ち見(立ち聞き? いや、入場料は払ってるし)が出ていたらしい。パフォーマーたちは、単に歌や演奏が上手いということではなく、表現力が抜群に豊かで、ゴスロリの美の世界はここにあるよ、と導いてくれる感じ。後でブログやmixi日記を読んでまわったら、「素敵だった」「感動した」「思わず涙がこみ上げた」など、大満足のコメントがずらり。いや、私も思った、ほんとによかったよ。



●ドレスコードは白ロリ

白のロリ服で来ると入場料が500円割引になるという特典あり。ロリ服大好きな私は、それで行けたらなぁと思うのだが、いかんせん、そういうものの似合わないこの身では、どうにもならず。戯れにmixi日記で「誰か白いロリ服貸してくれないか」と呼びかけたら、由良瓏砂さんから「宜しければお貸し致しますよ」とコメントが。

うわっち、無〜理無理無理無理っ。着てはみたいけど、人前に姿をさらす度胸のない、ヘタレでやんす。うかつなこと言った私がバカでした、すいませんすいませんすいません。って、前言を撤回するのは男らしくないけれど、じゃあロリ服着てお出かけするのが男らしいかと言えば、それもなんともかんともで、のっぴきならぬ二律背反に陥ってしまった。とかくこの世は住みにくい。

で、会場は、素敵に着飾った白ロリさんがいっぱい。はぁ〜、いいなぁ。白ロリが似合うなんて、なんかすんげーうらやましいぞっ。以前は白ロリというと薄手のコットン素材で冬には向かないイメージがあったけど、今は厚手の生地の白ロリ服というのもあるんだね。白地に白でうっすらと刺繍が入ってたりして、ああいいないいな、もう。あと、男性でも、ロリ服ではないけれど、ヨーロッパのどこかの国の年少の王子といった感じの、全身白で固めた方を見かけた。似合ってるし。か、かっこいい〜♪ あれならきっとドレスコード通ったに違いない。

●地下アイドルの歌にみんな静聴という異例の事態

最初の出演者は、地下アイドルの黒崎真音(まおん)さん。黒のゴスロリ服で登場。頭には紫の大きな花飾り。いつもだと、秋葉原にあるガラス張りの店「ディアステージ」で、ヲタ芸をするファンに囲まれて歌うのだが。この日の一曲目は、しっとりとしたスローテンポから、一気にガンガンなノリへと移行する曲。出だしを聞くだけで、歌のココロをしっかりとつかんでいる実力派だと分かる。

みんな、しーんと静まり返って聴き入っている。これはちょっと意外。秋葉原からヲタ芸師をぞろぞろと引き連れてきて、両サイドの壁際で激しいアクションを見せてくれて、他の来場者たちが目を白黒させる光景を期待していたのに。一曲目を歌い終わったあと、本人も「こんなに大勢の方々に静かに聴いていただけるのは初めてです」と感激していた。

スパムメール大賞 (文春文庫)このイベントをプロデュースしたサエキけんぞう氏は、フランスの歌をみずから訳詩して歌う本格的な歌い手であるが、そのサエキ氏がよりにもよって地下からアイドルを発掘して今回のイベントに起用するとは、ちょっと意外な感じがしなくもない。その辺のところはウェブ版「日刊サイゾー」のインタビュー記事で本人が説明している。

「サエキけんぞうが語る『地下アイドル』の魅力(前編・後編)」。
< http://www.cyzo.com/2009/02/post_1623.html
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< http://www.cyzo.com/2009/02/post_1625.html
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それによると、地下アイドル自体の存在はもともと2003年ごろから知っていたが、以前は「イタい、ダサい」というイメージだった、それが2008年になって基本的なパフォーマンスレベルが一段上がり「エッジが立っている」印象に変わった、実力が上がっただけでなく、作詞作曲や振り付けなどのすべてをセルフプロデュースする表現力がついてきた、とのこと。

たしかに、じっくり聴き入るに値する歌いっぷりなので、ヲタ芸師たちの喧騒の真っ只中で歌うのはもったいない感じもしなくもないけど、それをあえてやるのがいいのだな。年代もののワインをラッパ飲みする感じで。バラード調のスローテンポな2曲目のあと、最後はオリジナル曲「Lisianthus」。「重い感じだけどテンポのいい曲なんで、手拍子などしていただけると」と真音さん。促されるかのように、ヲタ芸やったやつがいた。前のほうの席にひとりだけ。着飾った少女の集う会で、みんなまじめに聴いてるのに、そりゃねーだろ、な感じで、端的に言ってイタい。あ、それ俺だ、ごめん。

しかし、実は、ホントに恥ずかしいポイントはそこではなく、もうひとつ底があった。後で聞けば、ヲタ芸師たちはずいぶん来ていたらしい。けど、うしろのほうはものすごい混雑で、ヲタ芸やるスペースがなかったらしい。それと、こういう場への遠慮もあって、小さく小さくヲタ芸やってたらしい。ってことは、私がテキトーにやってたいんちきヲタ芸がモロバレで、ホントにイタいやつだと思われていたに違いない。アイタタタタタタ……。これは激烈はずかしい。ヲタ芸師さま方、ごめんなさい。

●シャンソンとゴスロリを結びつけるのは黒いカルチャー?

続いて、サエキけんぞう氏の歌。歌とトークで、シャンソンとゴスロリを結びつけるキーのようなものがおぼろげながら見えてくる。'60年代は覇権を握ったアメリカが世界のトレンドをリードし、明るい未来を目指せだとか、みんなで一丸となって全力で文明を発展させていこうだとか、世の空気が元気と希望に満ち満ちていた。

ところがヨーロッパへ目を向けてみると、そこに広がるのは、死臭ただようデカダンスのムード。シャンソンで歌われるテーマは、自殺であったり、ホモセクシャルであったり。そこに魅了されてシャンソンに引き込まれていったのだそうである。一方、ゴスロリの世界も、ゴシックでダークでホラーで退廃的で病んでたりする。サエキ氏がそこになにがしかの共通するものを見出し、ゴスロリをテーマにこういうイベントをプロデュースする気になったのではなかろうか。それは「黒いカルチャー」みたいな何か。

「リラの門の切符切り」は、パリの暗い地下鉄の切符切りを描いた歌。サエキ氏は鉄道員の平たい帽子をかぶり、切符に鋏でパチンと穴を空けて観客に配ってくれた。パリの地下鉄やバスのロゴマークがいくつか入っていて、裏は磁気記録媒体の細い帯。本物らしい。「ちっちゃい穴、ちっちゃい穴、ちいさい穴。俺が空ける小さい穴。穴穴穴穴穴穴穴穴……」。そこだけ聞くと違うテーマの歌みたい。悲哀なのか卑猥なのか。

よくエロスとタナトスはセットにして論じられる。エロスは愛、タナトスは死を司る神なのだが。「ゴエモン」は愛すること、イコール、死の世界を覗き見ること、という世界観の描かれた歌で、「僕と一緒に、死の世界を見にいこうよ」なんて口説き方をする。「お断りします」って言われそうだけど、フランス人だとついて来るのだろうか。「ザーメンの香りで優しく包んであげるから。みだらだろう。神様たちに見せてやろう」なんて、文字通りどろどろした世界だし。もういいか。次。

●ネオネオクラシック? 電氣猫フレーメンと黒色すみれ

「電氣猫フレーメン」と「黒色すみれ」には共通点がある。女性二人組のユニットであること。ボーカルはオペラ歌手のような美声を発すること。バイオリンやピアノを弾きこなし、クラシックの室内楽のようなテイストであること。表現するのは、少女のメルヘンチックな世界だけど、どこかダークなこと。「ネオ・クラシシスム(新古典主義)」というと18〜19世紀のヨーロッパになっちゃうから、「ネオ・ネオ・クラシシスム」とでも呼べばいいのだろうか。

両者はお互いにとっても仲がいい。電氣猫フレーメンの由良瓏砂さんは球体関節人形を作る腕ももった人で、黒色すみれの二人の似顔をかたどったブローチを作ってきて、それぞれにプレゼントして、たいへん喜ばれていた。電氣猫フレーメンは銀座のヴァニラ画廊で開いた写真と人形の四人展のレセプションで演じていただいて以来、何回かステージを見に行っている。今回は「眠レヌ姫の童話」を再演。眠れない奇病にかかったお姫様の話。

この演目は、永井幽蘭さんの既存の曲から瓏砂さんが5曲を選定した上でナレーション部分を作り、ひとつの物語になるようにつなげたもの。幽蘭さんによれば「瓏砂ちゃんの想像力と創造力の賜物」。きのこ採りに興じるところなどは、少女のお遊戯っぽくてかわいらしいのだが、別のところでは突然瓏砂さんの破壊的な絶叫が入ったりして、気が抜けない。今回は、ソフトなプラスチック製の音が出るおもちゃを多用しての演奏が非常におもしろかった。

黒色すみれ。楽しみにしていた。SPYSEEなどで、かなり近いところにいるという気配を感じていて、そう遠からず見れる機会が来るだろうと思ってたんだけど、意外とその機会が早く来て、うれしい。予想にたがわず、よかった。白を基調として、黒のレースに縁取られた少女ふうのドレスで登場。背中には天使の翼を背負っている。ゆかさんはピアノとアコーディオンとボーカル。発声がきれいで、言葉がしゃっきりして聞きやすい。さちさんはヴァイオリン。余裕しゃくしゃくの風情でエレガントに弾く。ほんとうにいつまでもいつまでも聴き続けていたくなるような耳に心地よい音を奏でる。ダークというか、古い洋館が似合う感じかな。

CDとDVDのジャケットの少女の絵は七戸優氏が手がけている。七戸氏はヴァニラ画廊の展示のときに来廊して下さった。この日は、物販コーナーの売り子さんの隣に座っていらした。DVDを買う。黒色すみれの音に七戸氏の絵って、すご〜く得した気分。

●美しき狂気の世界、ローズとギグルス

「Rose de Reficul et Guiggles」。無言劇。美しき狂気の世界を、舞台美術と動きや表情で表現する。歌や叫びは入るけど。かなりの量の大道具小道具は、そのつど奈良から運んでくるのだそうで。極小のサーカス小屋のような小さなテントがもぞもぞと動き、登場人物が一人、また一人と這い出てくるオープニング。

役者たちの狂気じみた動きや表情が、尋常でない空気をかもし出してくれる。このあたり、瓏砂さんが看板女優を張る劇団「MONT☆SUCHT (モントザハト)」と共通するものが感じられなくもない。最初はローズさんの食料にすぎなかったギグルスさんの立場が急上昇して、愛が育まれていく(と私が解釈した)筋書きがおもしろい。

このグループを見るのは、1月9日(日)以来、二度目になる。三田のStudio Cube326で開かれた「アラモード・ナイト」という、オールナイト・イベントで「国内最大級の少女のためのティーパーティー」というキャッチフレーズだった。電氣猫フレーメン目当てで行ったのだが、他の演者たちの出し物もよく、ローズさんたちの美しい舞台は夢中で撮った。

撮れた写真には、大変喜んでもらえた。だから、私が再びお目にかかれるのを楽しみにしてたのは当然として、ローズさんも私が来るのを楽しみにしていたと言ってくれて、感激である。だけど今回は、全体を通じてなんだけど、写真の出来が、アラモードナイトのときに比べて、ちょっとイマイチな感じ。照明の加減で、青い部屋が赤い部屋になっちゃったよー。というか、アラモードのときの照明が実はすばらしかったんだね。

●サプライズで戸川昌子さんの歌

失くした愛最後に、戸川昌子さんの歌。予定になく、サプライズ。これだけでも一回分のイベントの価値はあるよ。戸川さんは3月27日(金)に34年ぶりのライブを予定している。「青い部屋」のウェブサイトに案内が出ている。
< http://www.aoiheya.com/
>

私は何の縁か、最近、イベントに行くと、意外な人にばったり会うことがときどきある。今回は、イベント終了後の物販コーナーで風之宮そのえさんに声をかけられた。花梨エンターテイメントのプロデューサで、乙女向けのホラーゲーム「アニマムンディ」を作ったお方。

2005年の暮れごろ、オーストラリアのテレビ番組収録の件で、英語の話せるコスプレイヤーはいませんか、とデジクリで呼びかけたところ、「ウチのゲームのオフィシャルレイヤーはいかがですか」と反応してくれたことで知り合った。結局、レイヤーのみならず、そのえさんも私も出演したのであった。秋葉原のメイド喫茶でメイドさんとゲームに興じる場面で。

その後も、東京ビッグサイトのイベントなどで花梨のブースにちょっと立ち寄って話すこともあったが、それだって一年以上前の話だ。声かけられても、えーっとどちら様でしたっけ、状態。意外な場所で再会、と思ったが、考えてみると、乙女ゲームの制作者が、こういうイベントで乙女のメンタリティの動向をつかむマーケティング活動をするって、不思議でも何でもないか。

あ、それと。DJのすまきゅーさんは、高円寺にある古着屋「ちょこれーとちわわ」の店主さん。以前、瓏砂さんに案内されて行き、ヴァニラ画廊の展示の案内をウェブサイトに載せて下さった。

……とまあいろいろあって、私にとってはめちゃめちゃ内容が濃く、陶酔感いっぱいで帰途につけたイベントであった。瓏砂さんはmixi日記で「集まった人々の感性が呼応するような、素晴らしいイベントでした」と書いているが、それは私も実感した。こんなすばらしいイベントに行く機会に恵まれるなんて、ああ、乙女でよかったー。

私の撮った写真。いろいろとダメダメですが、雰囲気だけ。
< http://www.geocities.jp/layerphotos/Live090308/
>

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp

倉田まり子卒業シーズンの歌というと、私は倉田まり子の「グラジュエーション」とか、柏原芳恵の「春なのに」なんだけど。今の若い人たちの定番って何なんだろ?高校の卒業式では、破天荒ですっとぼけたことをやらかして大人たちの度肝を抜いてやるのが、カッコいいことだとみんな信じてたっけな。証書を受け取りに壇上に上がるとき、派手にコケてみせたり。答辞を読んだやつは、テレビドラマ「水戸黄門」の主題歌を歌ったっけな。♪人生楽ありゃ苦もあるさ〜。実は何世代にもわたって、変わっちゃいないのだ。「明かりをつけましょ爆弾に、どかんと一発はげ頭、五人囃子は大やけど、今日は悲しいひな祭り」とか「明かりをつけたら消えちゃった、お花をあげたら枯れちゃった、五人囃子も首ちょんぱ、今日は悲しいお葬式」なんて歌って喜んでるガキんちょに苦笑いする大人。自分らも通ってきた道なのだ。