Otaku ワールドへようこそ![96]「第6回中華コスプレプロジェクト」と境港と倉吉と
── GrowHair ──

投稿:  著者:


彩雲国物語  黄粱の夢 (角川ビーンズ文庫)鳥取県中央部にある日本最大級の中国庭園「燕趙園」で、5月16日(土)17日(日)、「第6回中華コスプレプロジェクト」が開催された。今回も約100人の参加者が全国から集まり、「三国志大戦」や「彩雲国物語」など、ゲームやアニメの登場人物に扮し、ぐずつき気味の天気の中ではあったが、屋根つきの回廊などで、写真撮影などに興じた。

年2回の恒例イベントとして定着した感のあるこのイベント、私は例によってカメコとしてだが、4回目の参加である。見知った顔ぶれが多く、過去にも参加したことがある人がおそらく半数ほどを占めていた。写真撮影も頼みやすいし、たっぷり撮った後はゆっくり雑談したりして、終始和やかな空気に包まれたイベントであった。

相変わらずテレビや新聞の取材もかなり来ていて、大都市からこんなに離れた地に遠くから人が集まることに一様に驚きを示していたが、理由を聞かれたレイヤーさんたちは、ロケーションのよさを口々に強くほめたたえていた。イベントの模様は関東圏でもテレビ放送されたらしい。



●妖怪だらけの楽しい境港(さかいみなと)

イベントの前日、5月15日(金)には一人で境港へ行ってきた。米子に空港があるのをうっかり忘れていて、鳥取行きに乗ってしまった。鳥取県の西端近くに米子があり、東端近くに鳥取があり、中間に倉吉があり、燕趙園がある。米子からさらに北西方向に延びるJR境線の終着駅が境港である。

鳥取空港からは倉吉駅までバスで行ったほうが早かったのに、鳥取駅へ行くバスに乗ってしまったのも、うっかり。鳥取〜米子〜境港はどこも電化されてなく、気動車のエンジン音が大好きな私はまったく退屈しなかったのが幸い。けど、境港に着いたら、午後だった。

境港は「ゲゲゲの鬼太郎」の故郷。というか、作者の故郷。「水木しげるロード」や「水木しげる記念館」があり、町をあげて妖怪をフィーチャーしている感じである。道の両サイドには「ろくろ首」、「一つ目小僧」、「ぬらりひょん」など、134体もの妖怪のブロンズ像が立ち並ぶ。ねずみ男はなぜかマスクしてるし。「お化けは死なない〜、病気もなんにもない」んじゃなかったっけ?300年も風呂に入っていないという不潔ぶりをめずらしく反省して、菌を撒き散らすまいとけなげな姿勢? と思ったら新型インフルエンザ対策か。
< http://www.sakaiminato.net/
>
< http://www.sanspo.com/shakai/news/090506/sha0905060500002-n1.htm
>

JR境線には、外装に「ゲゲゲの鬼太郎」の登場人物(妖怪)の絵が描かれた「鬼太郎列車」、「ねずみ男列車」、「ねこ娘列車」、「目玉おやじ列車」が走る。乗れば、天井に「一反木綿」が飛んでたりして、内装でも妖怪たちの歓迎を受ける。16ある駅にはそれぞれ妖怪名の別名がふられている。両端の米子と境港は、それぞれねずみ男と鬼太郎である。

妖怪というと、奇怪な姿をして、妖術を駆使して人に悪さをする、といったネガティブなイメージがつきまとい、町おこしの題材としてはどうなんだろう、と思われるかもしれない。人が怖がって逃げていきそうではないか、と。ところがどっこい、毎日新聞の記事によれば、今年、ゴールデンウイークを含む4月25日から5月6日の12日間の水木しげるロードの入り込み客数が過去最高の24万5003人(昨年11日間比5.1%増)を記録したと境港市観光協会は7日、発表した、とある。妖怪、大人気である。

実際、妖怪のブロンズ像を眺めて歩くと、なんだか楽しい気分になってきて、ちっとも飽きない。しまいには、妖怪が大好きになっている。できるものならなりたい、くらいの勢いで。帰りがけに見つけて買った「妖怪大百科」で著者の水木しげる氏は「私は妖怪的生き方を理想としている。バカバカしいことをして、人間の仲間に入らず、せかせかせずにラクに暮らそうといつも考えている」と述べている。長生きの秘訣かもしれない。

妖怪の何が楽しいって、それを生んだ人の想像力が。古くから伝わる妖怪画の多くは、実際に見た姿を写し取ったというよりは、うまく説明のつかない不思議な現象を体験したときに、その現象を引き起こしたヤツはきっとこんな姿をしていたに違いない、という想像の産物であるようだ。例えば「砂かけばばあ」。現象としては、夕方、さびしいところを一人で歩いていると、どこからともなく砂がぱらぱらと飛んできて、からだにかかる。それだけ。現象から受ける印象を損なわず、姿を具現化した、その想像力がすばらしい。

先の本で水木氏は、鳥山石燕(せきえん)という画家の描く妖怪画を絶賛している。「彼が描いた妖怪の絵は、いかにも生き生きとして本当らしく、私たちの想像力を刺激する。彼の絵のほかにも妖怪の絵はたくさんあるが、ただ怖がらすだけの絵で、べつになんの味わいもない」。

悪さをしているようで、教訓的なのもいる。神社などでいたずらしようとするとでっかい頭が鳥居の上からどさっと落ちてくる。これは「おとろし」。柿の実をもぐのをさぼっていると顔になって落ちてくる「タンコロリン」。ぼろぼろの雑巾などを長く放置していると、空中を飛び、毒ガスのような異臭を放ち、人の首に巻きついてくる「しろうねり」。風呂の掃除をさぼっていると垢をなめに来るのが「あかなめ」。

ブロンズ像の妖怪の写真はずいぶん撮った。写真撮影のテクニック指南本などには、人物を写すときは目にピントを合わせよ、とあるけど、「べとべとさん」のように目のない妖怪の場合はどこに合わせるとよいのだろう。「百目」のようにたくさんあってもやはり困るのだけれど。妖怪撮影術、みたいな本、出ないだろうか。

現代の大都市は、わずかな自然を残すばかりで、ほとんどのものは人工物で構成され、夜でもいたるところ明るく、昔に比べれば格段に清潔である。まがまがしさ、おどろおどろしさというものが、ちっとも感じられない。こういうところでは、妖怪は住みづらいだろう。しかし、工事やメンテナンスのとき以外は決して人の立ち入らない領域というのはけっこうあるもので、案外とそういうところに妖怪はひっそりと息をひそめて暮らしているのかもしれない。

つい先日、夜遅い池袋駅構内のJR山手線ホームで、ブザーがビービー鳴り続けていた。「線路内に人が立ち入ったため、運転を見合わせます」とのアナウンス。鉄道警備隊が強いライトで付近をなでまわして捜すが、人の気配など、まるでなし。やがて運転を再開したが。あれはきっと妖怪「センサーだまし」のしわざ。人の目には見えなくても赤外線にはひっかかるような、伸縮自在の触手がいっぱい生えてて、蛸のようにうにょうにょ動かしているんだ、きっと。

●雨でも大した打撃を受けないイベント

さて、16(土)、17(日)は燕趙園で「中華コスプレプロジェクト」。何か月もかけてすごい情熱を注ぎ込んで制作した超豪華な衣装をまとったレイヤーさんたちが、一般的にはまだまだよく知れわたっているとは言いがたい鳥取県中部の中国庭園に、全国から100人近くも集まっているというのはきわめて非日常的な光景なのだが、それも第6回ともなると、いつもの光景が展開しているという安心感に変わっていたりする。

今回は土曜の後半から日曜の終わり近くまで、しょぼしょぼと雨が降っていたのがちょっとした不運で、みんなやや気分が沈みがちだったかも。でも、屋根のある場所に限ったってまだまだ広く、100人ぐらいでは混み合うというほどではない。直射日光の差した、いわゆるピーカンの状態のほうが、顔の上にくっきりとしたイヤな影がつかないようにと、撮る向きに制約を受けたりして、かえって撮りづらかったりする。それに、ピクニックの記念写真みたいになっては軽すぎる。こういう天気のほうが、しっとりとした落ち着きのある絵が撮れたりして、よかったりするのだ。

過去に何回も参加してきた人がけっこういて、久々の再会を喜び合う声がそこここで聞かれ、まるで同窓会のような和気あいあいとした空気に包まれる。今回、私が初めて会うと思って声をかけたレイヤーさんが実は5年ぶりの再会だったことに気がついて、驚き合った。撮っている間は気がついてなくて、後で手帳にコス名を書いてもらったら、見覚えがあり、ぱっと記憶が蘇った。

「大江戸のときの...」と言いかけると、相手にも思い出してもらえた。茨城県にある「ワープステーション江戸」で開かれた「大江戸コスプレ博」以来だ。後で調べると'94年7月のことだ。あのころはフィルムカメラで撮っていて、セミの抜け殻と二重撮りしたのがけっこう面白く撮れていて、誇らしい気持ちで自分のサイトに写真を載せていたのを、実は彼女も見にきてくれていたとのこと。ま、お互いにかなり強烈な印象を残し合っていたということのようで。ルタマさん。
< http://growhair2.web.infoseek.co.jp/Ooedo0407/Ooedo0407.html
>

鳥取県中部(倉吉)を拠点とするIT SOHO集団「鳥〜みんぐ」のサイトのローカルニュースページで、今回のイベントの模様が写真入りでレポートされている。
< http://www.treaming.net/modules/bulletin/article.php?storyid=1870
>

一日目の午後には滝ロケも行われた。去年は有志によるイベント外の企画として滝へ行ったのだが、好評だったのを受けて、イベントに組み入れられた。龍神が棲むと伝えられるこの滝は、ひんやりとした空気、巨大なシダの群生、みずみずしい色のコケなどが、確かにこの世のものでない何かが棲んでいそうなスピリチュアルな気配を感じさせる。やはり重厚な絵が撮れる、絶好の撮影ポイント。

二日目には、恒例のコスプレコンテスト。審査委員長は例によって鳥取大学の野田教授。このごろなぜか「世間は狭い」と思わされることが多々ある私だが、野田教授は、水曜日のデジクリの「武&山根の展覧会レビュー」の武さんとお知り合いなんですね。聞いてみたら、二度ほど会っていることをしっかり覚えていて下さいましたよ。>武さん

二人の司会のうちの一人は、玖珂谷龍斗さん。中野にある私の行きつけのメイドバー「ヴィラージュ・レイ」のkちゃんである。去年の5月に初参加、ゲーム「三国志大戦」の孫権の衣装でコンテストで優勝し、NHKで全国放映された。秋のイベントではポスターに写真が使われて、倉吉のちょっとした有名人に。で、今回は半分スタッフのような形で、司会と模範演技。

お願いするかも、という話は事前に人づてに聞いてはいたものの、ちゃんと仰せつかったのは金曜に鳥取入りしてからだったそうで。ほぼぶっつけ。そんなんで心配になったりしない主催者の古川さんの落ち着きぶりにびっくりだし、はいはい分かってましたとばかりに立派に役目をこなしちゃうkちゃんのしっかりぶりにもびっくりだけど、みんなお互いに性格を分かっていて、こともなげに進行していく息の合いっぷりが一番のびっくりポイントか。

kちゃんは、今回はZelasさんとペアを組んだ。お二人とも東京在住で、歩いて数分の近さなのはまったくの偶然で、しかも、Zelasさんの実家が倉吉なのも偶然。「三国志大戦」の後漢王朝の14代皇帝「賢帝(劉協)」とその母「王美人」を演じる。腹違いの兄「劉弁」が皇帝に就いたけど、先代に負けず劣らず(いや、負けて劣って)のダメダメ人間で、幼少の劉弁が座を横取りするような形で擁立された。毒殺された母親を目の前にして、「母上、母上」と叫び、途方に暮れるというシリアスな場面。二人とも迫真の演技で、会場はしんと静まり返り、空気が締まる。

コンテストには、5組がエントリー。「だんな一座」は第1回から毎回参加で、孫悟空役の小さな女の子がいつも親の期待をよそに、無関心の体で会場を大いに沸かせてくれる。4歳になり、少しは演技するようになり、それもまたかわいい。第3回優勝の筆龍(ペンドラゴン)のお二人は、今回もまた群馬からはるばると。優勝したのは初参加の「ヲダンス部」の4人組で、「十二国記」の景王、供王、延王、六太に扮した。

●倉吉の古い町並みも、見どころいっぱい

5月18日(月)には、主催者たちに、倉吉の古い町並みを案内していただいた。白壁土蔵群・赤瓦は倉吉駅から車で15分ほどのところにある。細い川の片側は道、もう片側は立ち並ぶ土蔵群の白い壁。手すりもなんにもない平べったい石の橋がいくつも渡してある。まるで時代映画のセットのよう。醤油の醸造所は博物館にしてもいいような風情だが、ちゃんと現役で稼動している。よいなぁ。
< http://yokoso.pref.tottori.jp/dd.aspx?menuid=1514
>

イベントの企画として、この辺もコス撮影可能エリアにしようかという話も持ち上がっていたのだが、滝ロケの希望者が圧倒的に多かったために見送られたらしい。実は、こっちにもいい撮影ポイントはいっぱいあるんだけどなぁ。切妻造の豊田家住宅は文化庁指定の登録有形文化財。これがもし東京近辺のフォトスタジオだったとしたら、1時間あたり2万円じゃすまないぞぉ、きっと。それが、偉い人が来たときの接待に使われる以外、ほとんど使っていないというから、めちゃめちゃもったいない話だ。
< http://bunka.nii.ac.jp/SearchDetail.do?heritageId=87687
>
< http://www.nashinohana.com/modules/smartsection/item.php?itemid=64
>

旧牧田家住宅も然り。二間の幅の玄関に式台を設けた構造は、殿様の許可なくしては造れなかったものだそうである。明治以来の御食事処・餅菓子処の「清水庵(せいすいあん)」もまた、時代劇のセットのよう。餅しゃぶがおもしろい。薄っぺらくて固い餅片を15秒ほど湯の中にくぐらせると、くたっとなる。
< http://www.ncn-k.net/seisuian/
>
谷口ジローの「遥かな町へ」は倉吉の上井(あげい)を舞台にした漫画だが、映画化の話が進行しているそうだ。

kちゃんとZelasさんはコンテストのときと同じいでたち。町行く車のわき見運転を誘発していた。目の前でエンストする車まで。下校する小学生には防犯ブザーを鳴らされるし。って、まあ、平和に暮らす町の人々を驚かせてしまったには違いないけど、決して恐怖に陥れたというのではなく、想像の斜め上をいく奇想天外さで笑いを撒き散らした感じ。みんな歓迎ムードで、一緒に楽しんでいただけたと思う。そのノリと勢いを携え、倉吉市役所へ。表敬訪問。副市長の増井氏と議長の段塚氏に会っていただけた。

このイベントは、東京近辺で開かれるコスプレイベントとは一味違ったあたたかみがあり、一度来るとまた来たくなる。実際、リピーターが多く、同窓会のように和気あいあいとしたムードである。スタッフが親切で、町をあげて歓迎していただいている感じが嬉しい。楽しんだ人はこのムードを大切にして、次回また次回と受け継いでいくのが恩返しになるかと思う。次回は10月24日(土)、25日(日)開催で、アジア大会。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp

カメコ。5月24日(日)は京都へ行ってきた。パフォーマンスユニット"Rose de Reficul et Guiggles"の無言劇を見に。ウェブサイトによると、「即興無言劇や歌、踊りに加え、近年では舞踏要素とノイズパフォーマーをエキストラに迎えての舞台を展開」するユニット。この前見たのは、3月8日(日)、サエキけんぞう氏がプロデュースしたイベント"SERAPHITA"で、渋谷の「青い部屋」にて。私の中では、暗い夜道を一人で歩いていたら、いつの間にか異次元に迷い込んでいて、気がつくとサーカス小屋があって、昼とは違ったショウが展開していた、そんなイメージ。ゴシックでダークでシュールなんだけど、視覚的にすばらしくきれい。今回の公演もよかった。ところで、1月24日(土)、永吉さん、くうさん(ヤマシタさん)、べちおさん、濱村さんたちとの大阪での新年会でお会いした方に、このイベントでばったり再会。ほんっと狭い世間。日本の人口って1,000人ぐらいだったっけ?
< http://victorian.cocotte.jp/
> "Rose de Reficul et Guiggles"サイト