Otaku ワールドへようこそ![113]非日常の週末、崩壊寸前の自意識
── GrowHair ──

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このところイベント続きで、たいへん慌ただしい。単にスケジュールが詰まっているということならば、がんばって乗り切った自分に対する自己信頼とか、鍛えられて強靭になった精神という形で報われるだろう。肉体的に疲労がたまっているということならば、寝れば回復する。けど、このところのイベントの嵐には、なんか根底から揺さぶられている感じがする。

写真をいっぱい展示して多くの人に見てもらったり、光栄を通り越して畏れ多いというような被写体に恵まれたり、私だけが撮影できる特権を与えられたり、雲の上にいるような才能と実力のある人たちと気軽にお話しできちゃったり、ちやほやしてもらったりして、本来自分が立つべき平面の一段上に立たされているような不安定感に、自意識が崩壊しそうである。



●渋谷ルデコを超満員にしたゴシックでダークなパフォーマーたち

2月19日(金)、20(土)は、劇団MONT★SUCHT初の主催イベント"RosengartenI"が渋谷のLE DECO(ルデコ)1階にて開かれた。この"I"というところに、絶対に成功させて"II"をやるぞ、という主催者の意気込みと自信が伝わってくる。

私も、ありがたく写真を展示させてもらった。A4サイズで44点。一点一点じっくり見てくれる人がけっこういて、自意識がくすぐったい。パンフレットの裏には、セーラー服姿の写真を載せてもらったし。

寺嶋真里さんと再会。馬車道の北仲スクールのときは、帰り際にちょこっと立ち話しただけだったが、今回はけっこうお話しできた。MONT★SUCHTで映像作品というのもいつか実現するといいなぁ。

度肝を抜かれたのは、ウィンドウパフォーマンス。第1部と第2部との間の30分間、会場再設営のためお客さんに明治通りに出て待っていただく間、ウィンドウの一部を小さく囲った中に出演者のひとりが入って、みずからを展示する。超スローな動きをする生きたオブジェ。一日目はダンサーでモデルの薔薇絵さん、二日目は劇団「月蝕歌劇団」の大島朋恵さん。

普通の人だったら、いじめに近い、さらし者状態。きついストレスを感じるに違いない。けど、そこはパフォーマー、後で聞けばお二人ともたいへん気分よく演じられたという。オブジェが実は人だと気づいてたまげる見物人の反応を楽しむ余裕ぶり。演出したMONT★SUCHTの本原さんは、この二人なら任せっきりにしておけば、存在感だけで30分間人の目を釘付けにしておける確信があったという。

大島朋恵さん、永井幽蘭さん、由良瓏砂さんによる、朗読と歌と演奏のパフォーマンスは、芸の上手さに裏打ちされた豊かな表現力とすごい迫力で、会場が完全に引き込まれて、すべてが一体化し、緊張感のある空気が作り出された。私は幽蘭さんのようなすごい人とカラオケに行ったんだー、などとミーハーな喜びに浸ってにまにましていた。許可を得た者以外撮影禁止なので、私がもし大失敗したら何も残らないぞという重圧の下でシャッターを切る。

タロット占いの柴田景子さんに占ってもらった。私は、タロットを、というより、柴田さんの言葉を深く信じる。仮面の作品が壁に掲げられ、そこからスピリチュアルなパワーと人間の精神についての深い理解が伝わってくるような気がしたのだ。カードは手作り。瓏砂さんもそのうちの一枚になっている。

私が開いたのは、ほとんどが女性のカードだった。モテモテ? いや、心当たりないんですけど。人形かな? 人形と言えば、「臘月祭」で櫻井紅子さんの人形を買って下さったAさんがいらしてくれた。あのときは、初日のオープニングと同時にGallery 156にいらして、ラスさんが1体買った後、Aさんが残る2体を買って下さった。Aさんは、以前に瓏砂さんの人形も買って下さっている。

さらに、2月6日(土)にビスクドールを撮らせてもらった吉村眸さんも来てくれた。吉村さんも「臘月祭」に来てくれたことで知り合っている。で、今年の11月ごろ、同じ156で個展を開きたいと計画している。一方、Aさんは156の常連さん。お互いをご紹介することができた。不思議な偶然のような気もするが、こういうことはよく起きる。

・大島朋恵さんの写真
< http://picasaweb.google.co.jp/Kebayashi/DRdCkF#
>

●例によって美登利さんの人形撮影は慌しい

2月21日(日)は、美登利さんの新作人形撮影。私にとっては一番古くから人形作品を撮らせてもらっている作家さん。なので、互いの状況をよく理解しあって、息が合っている。怒涛のスケジュールの合間を無理やりこじ開けての撮影なんてあたりまえ。他の人から言われたら「えーっ!」とのけぞってしまいそうなことでも、美登利さんだとカラスが鳴いた程度の騒ぎでしかない。

前日まで撮影場所が決まってなくたって、あせりもしない。実際、予定していた日の午前中にも急な用事が入ったとかで、撮影場所変更の希望を伝えてきたとき、すでに当日になっていた。その日だって、ホントは福岡に発送しなきゃならない締切日を一日過ぎてるんだけど。もし福岡の展示で売れちゃうと、写真すら残らないから、何がなんでも発送前に撮っておかねば、というわけだ。

1時間ばかりでささっと撮って、発送したら、京橋の「ドルスバラード」へ行って、展示していた人形を撤収というスケジュール。1時を少し過ぎて浦和駅の改札口を出てきた美登利さんは、赤ん坊ほどの大きさの新作をむき出しで両手に抱えていた。「小鳥姫」。顔は幼女で、下半身は鳥。箱を用意している暇なんて、どう考えても捻出しようがなかったそうで。

もしかして、画廊に展示しておくよりも多くの人の目に触れたんではないかい?同じ作品でも見せ方でがらっと違って見えただろうけど。本人からすれば、こうする以外に仕方がないという必然の理由があるから、見かけの突拍子のなさの割には気は確かなのが分かっているけど、たまたま目撃しちゃった側にとってみれば、クエスチョンマークがいっぱいだったろうなぁ。

調(つきのみや)神社は、狛犬の代わりに狛うさぎがいることで有名なところ。しかし、撮ったのは、狐のいる古そうな祠の前。撮っている最中は狐の顔が怖そうに見えて、ひょっとすると見た者は祟られるといわくがつきそうな恐怖写真が撮れるかな、と思ったのだが。写真で見たら、やさしそうな顔をしていてぜんぜん怖くない。

小鳥姫の写真
< http://picasaweb.google.com/Kebayashi/NmYZdK#
>

●ついに撮れたか心霊写真

2月26日(金)は、MONT★SUCHTの内輪の打上げに混ぜてもらえた。会場での写真を渡すという用事もあって。もしかすると、ありがたくも、アラモード・マガジンで使ってもらえるかもしれないとのこと。この劇団らしく、お店はゴシックな雰囲気。私は「堕天使の召喚、処女の鮮血」という名のカクテルを注文。うわっ、苦い。

怖い話題が出た。来場者と出演者交えての記念写真の中に、不審な顔が写っているという。1日目に撮った写真には40人ほどが写っているが、よく撮れていたので、2Lサイズにプリントして、2日続けての来場者や関係者にお配りした。その中に、2人並んだ人の肩の間から、小さな顔の上半分が突き出しているという。誰も写真を持ってきていなかったので、その場では確かめようがなかったが、気づいていなかったよー。

今までに、何万枚写真を撮ったかしれない。墓地で撮ったこともある。ろうそくの炎や線香の煙なども試してみた。けど、心霊っぽいものを捉えられた試しがない。その方面には才能がないのかとあきらめかけていたが、遂にやったか。

そう言えば、と点子さんは言う。夜、ひとり残って会場の設営作業をしているとき、会場内の古いドアをゆっくり開けたら、ぎ・ぎ・ぎ・ぎときしむ音が「せ・ん・ぱ・い」と聞こえた、と。あ、言ってなかったけど、と瓏砂さんは言う。あの会場「でる」らしいよ。ひょえ〜。

帰ってから、元画像を見てみた。5,616×3,744画素。うん、人だろ。どう見たって人だ。mixi日記にアップしたら、「犯人」まで特定されちゃうし。やっぱり才能ない私なのであった。

●清水真理さんに「あの人、何者?」

2月11日(木)〜3月8日(月)、浅草橋の「パラボリカ・ビス」にて清水真理さんの人形展「片足のマリア〜Strange Angels Garden〜」が開催中である。パラボリカ・ビスは雑誌「夜想」がディレクションするスペース。今発売されている号はモンスター&フリークスがテーマ。それに合わせて、清水さんの作品も、額に人面瘡が浮き出ていたり、2体が胴体でくっついていたり、顔が2つあったり、上半身と下半身が逆向きについていたりして、ちょっと怖い。

清水さんは人形界のビッグネーム。人形教室「アトリエ果樹園」は多くの生徒を擁し、去年の4月に渋谷のルデコ4階で開いた教室展では、生徒たちの実力のすごさも示してくれた。頻繁に個展を開き、いつも精力的に活動しているが、ギャラリーだけでなく、ゴスロリ・アングラ系のクラブイベントでも展示することがある。ダークでゴシックな世界観を共有するパフォーマーとして、MONT★SUCHTやRose de Reficul etGuiggles などとつながりが深い。

寺嶋真里さんの映像作品の新作「アリスが落ちた穴の中 Dark Marchen Show!!」には、Rose de Reficul et Guigglesと清水さんの人形が出演している。特別出演でアリスに扮するのは、マメ山田さん。この上映が2月20日(土)と27日(日)にあり、私は後のほうのに行ってきた。また、26日(土)には、Rose de Reficul et Guiggles のパフォーマンスがあり、それも見てきた。それと、寺嶋さんの映像収録と並行して撮ったという、写真家の中村キョウ(漢字は[走喬])氏による写真作品も展示されている。

26日(土)の夕方、パラボリカ・ビスの階段の上には、Rose de Reficul etGuiggle のローズさんがデンと椅子に腰かけていた。この「デン」はローズさんの衣装の形容。ロココ時代のフランスの貴婦人かという盛装で、衣装の派手派手しさのおかげで3まわりぐらい大きくみえる。

去年の5月24日(日)の京都の「夜想」でのイベント以来の再会で、互いに両手を握りあって再会を喜んだ。その時点で、私の悪目立ちは始まっていた。そりゃ、その日の主役、みんなのプリマドンナとやけに親しそうにしているヒゲのおっさんとかいたら、「何あいつ?」って思うわな。ローズさんの隣に立っていたダンディーな紳士が写真家の中村氏であった。紹介していただいた。

写真、非常に面白くて勉強になった。色みをくすんだ感じに渋く抑え、肌の上に年季を経た石材のようなテキスチャを貼り付けている。おかげで、ローズさんたちが、彫像みたくなっている。もともとの被写体の個性の方向性のベクトルと同じ向きで写真家の創意工夫のベクトルを直列つなぎに足し算しているので、面白さがずぎょーんと増幅されているのだ。写真家の仕事とはかくあるべし、という模範を見せてもらった感じだ。

ぎっしりと人が詰め込まれた1階の展示室、ローズさんたちのパフォーマンスの前に、お決まりの注意。かと思いきや、写真撮影OK、ウェブ掲載OKとのこと。うぎゃっ、カメラ持ってきてないよー。この馬鹿者〜と思ったそこのあなた、式子さんという方が写真入りでブログを書かれているので、そちらをご参照下さいませ。
< http://shikiko.blog.shinobi.jp/Entry/1019/
>

終了後、清水さんとお話しできた。デザフェスなどでもお会いしてはいるが、ゆっくり話すのは教室展以来だ。ひそひそ話したほうがよさそうな内容のことを大きな声で話してしまったのも、悪目立ちだったか。後で、清水さんに、私のことを「いったい何者?」と聞いてきた来場者の方がいたそうである。コスプレ写真とか撮ってるただのカメコでやんす。

●中川多理さんを遮光板代わりに

2月28日(日)は、銀座「ゆう画廊」にて3月6日(土)まで開催中の、12人の人形作家によるグループ展「Mellow Yellow〜あの日窓から見たメリーゴーランド〜」の初日。中川多理さんにこの前お会いしたのは、去年の3月1日(日)、横浜での個展にべちおさんと連れ立って行ったときだから、約1年ぶりだ。今回は、夕方ごろ行ったらとっくに帰った後だった。

この前、べちおさんが完全にやられてしまい、夢にまで出てきたという少女はあの時点ですでに売約済みだったそうで。同じ趣向のをまた作ればきっとお迎えしてくれるでしょう、と告げておいた。清水真理さんとばったり会う。18時間ぶり。じゃ、後ほど。

中川さんにお願いして、作品を撮らせていただく。テーブルの上に女の子、下に男の子。男の子は顔に露出を合わせると足が白飛びしてしまうので、苦肉の策で、中川さんに照明との間に立っていただいた。うん、とんでもないことです、どうも失礼しました。

橘明さんとばったり会う。共にオープニングパーティに混ぜていただく。画廊の外のエレベータ前から階段にかけて、人があふれかえっていた。橘さんと一緒に浅草橋に向かう。昨年末の10人展「臘月祭」でご一緒した櫻井紅子さん、枝里さん、長尾都樹美さんがその後来て、大人数で飲みに行って、にぎやかだったらしい。

・中川多理さんの人形の写真
< http://picasaweb.google.com/Kebayashi/203#
>

●ローズさんとの2ショを中村先生に撮っていただく

20時間ぶりに「パラボリカ・ビス」へ。大きな声じゃ言えないけど、清水さんとスタッフの方から特別の了承を得て、設営中に清水さんの人形の写真を撮らせてもらった。じっくり向き合うと、清水さんのフリークスへの愛情や共感や自己投影が見えてくる。そして美しい。そのあたりのことは、ご本人が雑誌「夜想」のインタビュー記事で述べている。

寺嶋さんの新作映像の上映。いや、面白かった。被写体の持ち味を最大限に引き出しちゃう寺嶋さんの腕は、旧作から一貫していて、毎度感服するしかない。泣けるような映像ではないかもしれないけど、泣けた。ローズさんとマメさんのそれぞれ違った個性を持ちながら響きあう純粋性に打たれてしまうのだ。その純粋性は、金銭欲、名誉欲、権力欲などの強い力を原動力とする世の中の荒波の前にはまったく無力で、結局は淘汰されてしまうのかもしれないけれど。

その後、対談。左から、ギグルスさん、ローズさん、寺嶋さん、中村さん、清水さんと並ぶと、みんなお互いに見知った面々だ。やや後方左端の席から伸び上がってカメラを構えると、ステージ上からローズさんが「GrowHair さーん!」と手を振ってくれた。ありがとう。うれしかったよ。けど、他の来場者たちは、「あいつ、何?」ってきっと思ってたろうなー。

終了後、2階で、どういう拍子でそうなったのか思いだせないのだが、ローズさんとの2ショットを中村先生に撮っていただくという幸運に恵まれた。後で送っていただいたのが、この写真。
< http://picasaweb.google.co.jp/Kebayashi/xUfqJL#5444452837829321058
>

イベント続きの週末を存分すぎるくらい堪能できたのはいいけど、本来気配を消すべきカメラマンの分際で、暑苦しい存在感を撒き散らしすぎたか。

・清水さんの人形とローズさんたち
< http://picasaweb.google.com/Kebayashi/RoseDeReficulEtGuiggiles#
>

ここで、はたと困った。デジクリ原稿、どうしよ? まだ一行も書いてない。とても手が回らないので今回ばかりは休載させていただこう。どれほど忙しかったかを書き綴って柴田さんにメールすれば、きっと納得して許してくれるだろう。そう思って書いたわけですが、これが原稿でいいですかね?

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp

私の知己の中に、ほんの2〜3人だが、地獄から伸びてくる手に足首をつかまれちゃってるなー、って人がいる。除霊能力のない私にはどうすることもできない。けど、実は、上から差し伸べられる救いの手もいっぱい出てるんだよなぁ。ことごとく見過ごしちゃってるだけで。

救いの手とは、お金をくれる人でも味方してくれる人でもなく。発想を転換して、生きる姿勢をふっと変えてみることで、すいっと安全地帯に行けるよ、って示唆してくれるヒントのこと。そこいらじゅうに転がっている。

泥沼から抜け出すための答えそのものを、私が知っているわけではない。いちおう、自分専用の生きる指針みたいなものは、ちょっとずつ構築してきてはいる。こういう状況ではこうすべきだ、とか、ある状況で決して言ってはならないこと、とか。けど、自分の世界観なんて、乏しい経験からくる未熟なものに違いないし、常に修正の途上にあるわけだし、人様にとっても有効に作用する普遍性があるのかどうかも定かではない。

だから、とてもじゃないが、自信をもって薦められたもんじゃない。押し付けがましいことは言いたくない。けど、こっちから見ていると、せっかく吹いてきている上昇気流を自分で蹴散らしているんじゃないか、とみえるときがある。そういうときは、なんとかしてヒントを出してあげられないかと気をもむ。ちょっとしたことに気づくだけでいいんだけどなぁ。ひとつところに凝り固まった心を少しだけほぐして、発想を転換するだけでいいんだけどなぁ。

たとえば、自分は損してる、ホントはもっと得してたはずだ、と思うなら、まわりの人も同じように思ってるんじゃないかな、と慮って、まず、自分が得する前に、まわりの人に得させてあげる。お金なら、人のために使えば自分の分は減るという保存則が成り立つけど、幸福というものは、人に与えた分、その瞬間に同じ分だけ自分にもどこからともなく振り込まれているものだ。

また、たとえば、みんなが本当の自分を深く理解してくれようとしない、と嘆くなら、まず自分がまわりの人たちに深い興味をもって、よく理解しようと働きかけてみてはどうだろう。その働きかけを喜んで受けてくれる人なら、こんどは自分について語ったときには耳を傾けてくれるんじゃないかな?
おーい、今のその姿、見ててつらいぞ。頼むよ、気づいてくれよぉ。