[2811] なんてったって...家族の絆

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《誰も私をわかってくれない》

■映画と夜と音楽と...[455]
 なんてったって...家族の絆
 十河 進

■歌う田舎者[09]
 アタメ 私をしばって!
 もみのこゆきと

■ところのほんとのところ[34]
 神様は[ところ]を散々翻弄する
 所幸則 Tokoro Yukinori



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■映画と夜と音楽と...[455]
なんてったって...家族の絆

十河 進
< https://bn.dgcr.com/archives/20100312140300.html
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センセイの鞄/雪に願うこと/転々/グーグーだって猫である/トウキョウソナタ〉

●アイドルだったキョンキョンは女優・小泉今日子になった

川上弘美さんの「センセイの鞄」は、最近、谷口ジローさんが漫画化して話題になっている。その小説を初めて読んだのは、もうずいぶん前のことだ。読んでいるときにはヒロインの具体的なイメージは浮かばなかったけれど、その後WOWOWでドラマ化(2003年)されたときに小泉今日子が演じ、その記憶が僕の中で完全に定着した。あの小説を読み返したら、月子さんは小泉今日子の顔をして立ち上がってくるだろう。

「キョンキョン、うまくなったもんだなあ」というのが「センセイの鞄」を見たときの印象だった。昔で言えば「オールドミス」、最近の言い方だと「おひとり様」である、ひとりで自立して生きる女性が居酒屋で高校(だったと思う)のセンセイと再会し、淡い交流を重ねる中で次第に恋愛感情を募らせていく物語だ。

ところが、ある夜、突然、月子さんは「センセイに抱かれたい」と情熱的に思い立ち、センセイの家に押しかけ、積極的に迫る。相手役のセンセイが柄本明だということもあり、そのシーンはユーモラスに描かれていたが、キョンキョンにこんな役ができるようになったかと感慨深かった。

「最近の小泉今日子はいいよ」と人に言い始めたのは、根岸吉太郎監督の「雪に願うこと」(2005年)を見た頃からだった。北海道のバンエイ競馬場の厩舎を舞台にした物語だ。東京で事業に失敗した弟(伊勢谷友介)は、厩舎長をつとめる兄(佐藤浩市)を頼って戻ってくる。

その厩舎の賄いのおばさんを小泉今日子が演じ、深い抒情感を漂わせた。こんな役を小泉今日子が...と驚いた。しかし、彼女が演じたからこそ、中年の賄い婦の背景に複雑な人生の重さのようなものを感じさせたのだ。佐藤浩市と小泉今日子は互いに好意を持っているのに、いろいろあった過去の重さが中年のふたりを簡単には結びつけない。

その後、小泉今日子の個性的な演技が光ったのは、「転々」(2007年)だった。はずみで妻を殺してしまった中年の取り立て屋(三浦友和)は、半蔵門にある警視庁へ自首するために東京を歩いて縦断する。その東京縦断に付き合わされるのが、オダギリ・ジョー演じる借金まみれの青年である。

ブラブラと散歩のようにあちこち寄り道しながら、ふたりは警視庁をめざす。最初は嫌がっていたオダギリ・ジョーだが、次第に中年男に感情移入し始める。途中、三浦友和はかつて偽夫の役を頼まれたスナックのママの家へいき、本物の亭主のように振る舞う。

縁側のある古い日本家屋に住んでいる、家庭的なスナックのママを演じたのが小泉今日子だった。たまたま小泉今日子の姪が現れ、三浦友和とオダギリ・ジョーを加えた4人は、まるで疑似家族のように一昼夜を過ごす。オダギリ・ジョーの世話を焼く小泉今日子は、本当に母親のように見えた。

その翌年に公開された「グーグーだって猫である」(2008年)を見ると、40を越えた小泉今日子が妙に可愛いので驚く。彼女の役は猫のグーグーと暮らす女性漫画家(原作は大島弓子)なのだが、独特のゆっくりしたテンポで、独り言のように囁くセリフまわしが、フワーッとしたとらえどころのないニュアンスを紡ぎ出し、ヒロインの生き方のベースのようなものを感じさせる。

犬童一心監督のディテールを重んじる演出の結果なのだろうか。小泉今日子が愛おしくなる演技を見せる。猫の縁でたまたま知り合った年下の男(加瀬亮)を意識しているときの表情、酔っ払った男を自宅に連れ帰ったときの戸惑い、病院でその男が医者として現れ「脱いで」と言われたときの何とも微妙な恥じらいの仕草、そんなひとつひとつが可愛く見えてくる。

同じ頃、小泉今日子は黒沢清監督の「トウキョウソナタ」(2008年)で、大学生の息子がいる母親役を演じた。専業主婦として生きてきた役である。僕から見れば、まだまだ若く魅力的な女性だが、年齢的には立派なおばさんだし、20代前半で子供を生んでいれば、実年齢でも大学生の子供がいて不思議ではない。歳を重ね、離婚を含め様々な経験をし、アイドルだったキョンキョンは、女優・小泉今日子になったのだ。

●4人がそれぞれの秘密を抱え込んで崩壊していく家族

「トウキョウソナタ」は中年夫婦と大学生になったばかりの長男、小学6年生の次男という4人家族の話である。東京近郊に一戸建ての家があり、それぞれが普通の日常を送っていた。しかし、夫も妻も子どもたちも家族に言えない秘密を抱え始め、ドラマが動き出す。何だか山田太一ドラマのようだが、ホラーを得意とする黒沢清監督だから一筋縄ではいかない物語になった。

父親(香川照之)は大企業の総務課長だったが、ある日、リストラされる。そのことを家族に告げられず、毎日、家を出て公園で時間を潰しながら、ハローワークに顔を出す日々だ。そんなとき、ホームレスへの炊き出しをしている公園で友人に会うが、その友人も自分と同じ境遇だった。やがて、友人は妻を道連れに無理心中をする。その家へいった香川照之は、たったひとり残された少女の悲しみの前になすすべもない。

長男は目的が見付けられないまま毎日を送っていたが、ある日、日本人でもアメリカ軍に入隊できることを知って応募すると言い出す。父親は頭から反対する。妻(小泉今日子)は「話だけでも聞いてやって」と取りなすことしかできない。長男は強引に入隊し、それを見送る小泉今日子の表情が悲しみをたたえて、彼女の複雑な感情を窺わせる。彼女は日本人志願兵がイランに派遣されるニュースを見て、心を騒がせる。

次男は学校で濡れ衣によって立たされることに我慢ができず、教師に向かって「この間、電車の中でエロマンガ読んでいましたよね」と反駁する。そのことによって教師は「エロ教師」というあだ名が付き、次男は教師に反抗したヒーローになる。だが、そのことが彼の心の負担になる。そんなある日、ピアノ教室を覗くと美しい教師(井川遥)がいる。彼はピアノを習いたいと両親に訴えるが、父親は「唐突だ。許さない」とにべもない。彼は給食費をネコハバして、ピアノ教室に通い始める。

そんな男たちを抱えて家庭を仕切る小泉今日子は、いつも心をどこかへ置いたままのような顔をしている。もちろん、子どもたちを心配し、夫を気遣い、家事をこなしているのだが、やはり「充たされない何か」を抱え込んでいるのだろう。彼女は長男には「離婚しちゃえば」と唆され、次男が給食費でピアノ教室に通っていたことを知り、夫が公園で時間を潰しているのを目撃する。

ある夜、香川照之が帰宅すると、小泉今日子はテレビをつけたままソファで眠っている。夫が横に立つと、妻は目を覚ます。「食事は?」と訊く妻。「食べてきた」とぶっきらぼうに返事をする夫。妻は「起こして」と言うように両手を差し伸べるのだが、そのときにはすでに夫は背を向けて台所へ向かっている。

それはささやかなすれ違いかもしれないが、そんなことが積み重なって、夫婦の間に大きな溝ができる。そんなものだ、と僕も経験的に思う。小泉今日子の妻は何かを期待し、それが裏切られた失望感を見せる。だが、夫婦をやっていれば、そんなすれ違いは互いに数え切れないほどある。そのことを諦めなければ、夫婦を続けることは困難だ。

●それぞれの立場に立てばそれぞれの正当な理由がある

結局、それぞれの人物の視点で物語を見れば、それぞれの人物の言い分が納得できるのだ。父親は一生懸命に働いてきたし、長男の入隊を反対したのも、長男の命を心配したからだ。次男がピアノを習っているのを知ったとき、前に反対したから簡単に決定を翻せないと意地を張ったのも、父親の威厳を保つためだった。

彼には「家族を守るため」という免罪符がある。しかし、大企業のホワイトカラーだったプライドが棄てられず、自分が失業者である現実を受け入れることができない彼は、家庭の中で権威を保とうとすればするほど空回りし、どんどん家族の心は離れていく。

長男は、何でも頭ごなしに反対する父親を嫌っている。今の時代に家長の権威をふりかざすなんて、ナンセンスだと思っている。彼は充実感のない日々を送るくらいなら、軍隊に入って明確な目的を持って戦いたいと思う。アメリカ軍で戦うのは世界を守るためだ。それは、家族を守ることでもある。そう信じている。

それを、なぜ父親はわからないのだろうか。「あんたは毎日、何やってんだよ。何やってるのか言えないのか」と挑発しても、父親は「おまえたちを守ってきた」としか答えられない。母親だけが味方だ。だから、離婚を勧めた。それが母親の幸せだと思っているからだ。

次男は教師の理不尽な裁定が納得できなかった。だから反抗したのに、その結果、級友たちが異常に反応し教師虐めが始まった。自分の本意ではなかった。そんな中、美しい教師に惹かれて始めたピアノに夢中になる。給食費をネコババしたのは、ピアノ教師への強い憧れからだ。

そのピアノ教師に「あなたには才能がある。音大の附属中学を受けるべきよ」と言われても、それほど嬉しくはない。それよりピアノ教師に「私、離婚したの」と、まるで大人を相手にするように告白されたときの方が嬉しかった。ずっと年上の女性だが、次男は本気で恋をしている。

そんな家族を黙って見守ってきた妻は、自分が何者なのか、自分が必要とされているのか、もうわからなくなっている。手間をかけてドーナツを作ったのに、次男に声をかけても、帰宅した夫に勧めても、誰も食べてくれない。食べ物を作るのは、愛する家族に食べてもらいたいからなのに、そんな想いには誰も報いてくれないのだ。

彼女は公園でぼんやりしている夫を見かけても何も言わず、責めず、取り乱さない。いつか、夫が自ら口を開くのを待っている。それなのに、夫は家長の権威をふりかざす。長男の話を頭ごなしに否定し、次男の音大附属中学への進学も「ピアノは前に反対したんだ。一度決めたことを簡単には変えられない。父親の権威の問題だ」と言う。

そんな夫に呆れ、妻は「失業中なんでしょ、あなた。私、見たのよ。公園にいるあなた」と、夫を傷つけるように口にする。妻が夫へのいたわりを失った瞬間だ。でも、そうさせたのは夫だと、彼女は反駁するだろう。彼女も心の中では、誰も私をわかってくれない、と思っているに違いない。

●一体どうなるのだろうと身につまされながら目が離せない

「トウキョウソナタ」は、家族が崩壊していく姿をジワリジワリと見せる。夫の友人の悲劇を早くに見せておき、もしかしたら香川照之も...と思わせてサスペンスを盛り上げるのは、黒沢監督がホラー映画で培ってきた手法である。この家族は一体どうなるのだろう、と身につまされながら目が離せない。

三分の二ほどが過ぎたところで、急展開がある。それによって、僕は「トウキョウソナタ」が香川照之の悲劇を描くのではなく、小泉今日子の悲劇を描く映画だったのだと知った。映画は転調し、主人公は小泉今日子に移る。彼女が長男に嬉しそうに取得したばかりの運転免許証を見せるシーン、屋根が自動で開きオープンカーになる車を見るシーンが伏線だったのがわかる。

ここからの展開は、僕に昔読んだアン・タイラーの「夢見た旅」という小説を思い出させた。普通の主婦が銀行強盗に遭遇し、人質になり車で連れ去られ...という物語だ。「ブロークン・ハイウェイ」(19991年)というタイトルで映画化されているらしいが、僕は見ていない。スーザン・サランドンが主人公の主婦をやっているので、機会があれば見てみたい。

──これまでの人生がずっと夢で...、ふっと目が覚めたら別の自分だったら、どんなにいいだろう。

小泉今日子は、そうつぶやく。日常から外れ、彼女は何かから解放されたのだ。しかし、それでも40数年の年月の中で培われ、積もり重なり、あるいは沈殿してきたものは決して消えはしない。それらを完全に棄てることは、それまでの自分をすべて消し去ることだが、そんなことは不可能だ。完璧なリセットなどあり得ない。しかし、彼女が望んだのは、それだった。だから、そんな言葉が口をついて出た。

記憶喪失にでもならない限り、40数年生きてきた人間は完全な別人にはなれない。家族の存在、家族への責任、家族への愛情...、そんな感情を棄てることができたらどんなに身軽になれることか、と夢想することは誰にも経験がある。しかし、夢想するだけだ。愛情が憎しみに変わることはあるかもしれないが、それも継続する感情であり、記憶はつながっている。

「トウキョウソナタ」は、立教大学自主映画サークルの時代からホラー映画を撮り続けてきた黒沢清監督らしく先の読めない展開で、この辺になると小泉今日子は自殺してしまうのではないか、というサスペンスが漂い始める。リセットできないのなら、それまでの自分を消去(自殺)してしまうのではないか。そんな予感が漂い始める。

セリフではなく、小泉今日子の姿勢や歩き方、無表情という表情など、全身の演技でそれを伝えてくる。まだまだ容色が衰えていない(凄い言い方だけど)小泉今日子だけに、その姿からアンピバレンツな感情を掻き立てられる。何かが...見る者の心の中に湧き上がってくる。彼女を救いたい、という焦りのようなものか。

「トウキョウソナタ」は、ラストに救いが用意されている。かつて「救済」という意味のタイトルを持つ「CURE キュア」(1997年)を撮った黒沢清監督が示した救いは、一筋の光が差し込む部屋での美しいピアノ演奏だった。心が澄み渡っていくようなピアノの音色である。

「家族の絆」という一種やっかいなものは、一度壊れることによって、その価値をそれぞれの家族に再認識させるのかもしれない。「トウキョウソナタ」は、家族の崩壊と再生を描き、僕にとってはひどく身につまされたけれど、深く記憶に残る映画になった。最後のよすがは、何と言っても家族の絆...なのかもしれない。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com  < http://twitter.com/sogo1951
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金曜日のコラムが配信になると、ツイッターで感想を書いてくれる方もいて、それがダイレクトに入るので、何だか嬉しいような気恥ずかしいような...。僕はまだPCでしかやっていないが、モバイルでやっている人は最も早いニュースソースになるらしい。朝、どこの電車が事故で止まっているかなど、すぐにわかるという。

●306回〜446回のコラムをまとめた「映画がなければ生きていけない2007-2009」が新発売になりました。
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■歌う田舎者[09]
アタメ 私をしばって!

もみのこゆきと
< https://bn.dgcr.com/archives/20100312140200.html
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わたくしこと、窓際事務員の所属する職場は全くもって変っている。連休が近付くと、あれをやれこれをやれと宿題なぞ出しやがり、遊ばせてなるものかと縛りつけるのだ。「わたしって、もしかして小学生だったっけ?」と鏡を見ると、お肌のたるみと小じわが「そんなわけねーだろ」とせせら笑う。

先日、出張の報告書には業務終了後の出来事まですべて詳細に書いて提出せよ!とのイミフな指令が下されたところであるが、「あいや待たれよ。これはまた笑止千万な所業」と異を唱えた同僚は粛清されかけた。ちなみに"イミフ"(意味不明)というのは最近覚えた単語なのであるが、ハマっ子の姪(小学生)が「えー、それってイミフ?!」と事あるごとに連呼していたので、小学生扱いのわたしもちょっと使ってみたかったのだ。

もとい、ブルーノート東京でジプシー・キングスの金癖が右であるか左であるか確認しようとしたことも、青森高校で匍匐前進していたことも(11/13掲載)、これから詳細に報告書に上げなければならないのだ。そりゃなんかおかしくねぇか? と言っても無駄な抵抗である。♪も〜っと〜もっと〜あ〜な〜たを〜も〜っと〜もっと〜知〜り〜たい〜(※1)というフレーズが、針飛びのするレコード盤のように繰り返されるばかりである。

ふっ.........アントニオ。あなたってほんとに縛るのが好きなのね。そんなにわたしのすべてを知りたいの? しかたのない人。


業務終了後に訪ねたのは、遊郭を擬した華やかで隠微な小屋。中に入ると、中央のステージを取り巻くように客席が並んでいる。遠くから聞こえる叫び声。ステージが回ると、鄙びた温泉宿の和室が現れ、柱に縛られた女がふたり。下卑た笑い声を上げる男たちが、安酒をあおりながら女の品定めをしている。

「放して。放してちょうだいッ。綾、助けてッ」
「真佐子お嬢様に手を出すなっ」
「ほほぅ......そうやって縛りあげられていても、さすがに燕返しの綾だな。威勢がいいこった。だがな、いつまでそう言っていられるかな。おまえが言うことを聞かねぇと、真佐子お嬢様がどんな目にあうか......」
「やっ、やめろッ!」
「へへっ、そんな姿になっても強情なアマだ。ところで、おまえさんとぜひ話がしたいってお人が来てるんだがねぇ......タミエ、入んな」

吉三が目配せをすると、障子をあけて女が入ってきた。痩せた頬にかかる幾筋かの髪が女から生気を奪っているが、目だけは爛々と光を宿している。年の頃は30代半ばくらいか。タミエと呼ばれた女はゆっくりと綾の元に歩み寄り、頭からつま先まで舐めまわすように眺めると、口元をゆがめて笑った。

「綾さん、久しぶりだねぇ。よもやあたしのことをお忘れじゃないだろうねぇ。そら、5年前にあんたが刺した善蔵を覚えてるだろう? 善蔵はあれから立ち上がれなくなっちまってねぇ。働くことも動くこともできずに布団の上さ。仕方がないからあたしが身売りして食うしかなかったんだ。あぁ、善蔵はあたしの旦那さ」
「あっ、あのときの......。善蔵は真佐子お嬢様をかどわかして、金品を脅し取ろうとしてたんだ」

「あたしが女郎宿に立たなきゃならなくなったのも、綾さん、全部あんたのせいなんだよ。あぁ、5年前の恨みをこうやって晴らせる日が来るなんてねぇ。ごらんよ、白い肌に食い込む縄が素敵じゃないか。これからたんと良い目に遭わせてやるよ。あぁ、楽しみだねぇ」
綾はタミエを睨みつけるやいなや、その顔にツバを吐きかけた。
「チッ、まだ自分の立場ってものがわかってないようだね。おまえたち、準備しなッ。綾、気をやっておしまいッ!」


「もみのこ〜っ! おっ、おまえは何を書いているんだ、何をっ!」
「は? だから業務終了後の出来事を......」
「誰がいかがわしい小説なんか書けと言った!」
「いや、だから、こないだ出張に行ったとき、社会勉強のために観たショーのことを書こうとしてたんですけど......業務終了後のことも書けって言ったっしょ? 大サービスっすよ。いかがすか? 縛るの好きでしょ? いや、っつーか、この話、まだイントロで、ここからが本題なんすよね、うひひひっ」

「がーーーっ!! おれが提出してほしいのは報告書だ、報告書! これじゃ報告書になっとらんじゃないかっ!」
なんだか逆鱗に触れたようである。あー、そうすか。わかりました。わかりましたよ。報告書ですね、報告書。まったくアントニオったら、わ・が・ま・ま。


             【出張報告書】

「テーマ」風俗営業法第二条第6項の三に該当する興行場の実態把握

「出席者数」
おおよそ200人程度と思われる(出席者名簿を作成するため、出席者の氏名・勤務先をヒアリングしたが、誰からも回答は得られなかった)。

「セミナー受講の目的」
専ら、性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態を見せる興行とはいかなるものであるか、また性的嗜好における嗜虐的な行為とはいかなるものであるかを理解すること。

「セミナーの概要」
鄙びた温泉宿に拉致された女侠客の綾と、大店の娘である真佐子。真佐子を守るため、あらんかぎりの辱めに耐える綾だが、その思いとは裏腹に、眠れる本能が解放されていく女体の神秘を日本情緒豊かに描きだすセミナー。

「受講の結果」
性風俗関連特殊営業については、これまでリサーチの対象から外れていたため、人材育成や職業能力開発などの実態が見えにくかった。しかし、本セミナーを受講することによって、性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人に嗜虐的責めを行う興行に従事するためには、様々な技術の習得が必要であることがわかった。その技術を生かして他業種に移籍をする場合、以下のような職種が考えられる。

・亀甲縛りなど難易度の高い縄掛けの技術が身に付くことにより、運送業・建設業などで玉掛技能者として活躍できる可能性がある。
・鞭を使っての調教に慣れていることから、競馬業界で騎手あるいは調教師として活躍できる可能性がある。
・浣腸を使うことから、肛門科で医療業務に従事できる可能性がある。
・剃毛技術を持っていることから、理容業界で活躍できる可能性がある。
・拘束具の取り扱いに慣れていることから、KGBやCIAなどの諜報機関でワールドワイドに活躍できる可能性がある。

職業能力開発の側面から鑑みるに、このように広範な技術を身につけられる職業は、本業界をおいて他になく、新規学卒者のインターンシップ制度導入による補助金活用も、今後の制度設計に組み入れていくべきだろう。

誰もが風俗営業法第二条第6項の三に該当する興行場に行けるわけではない。そのような消費者のために、知的財産権に配慮しながらも、該当興行を動画コンテンツとして配信していくことも検討の価値がある。

古今東西、ビデオデッキ・インターネット・DVDプレイヤーなど、新しい製品・サービスの普及率向上には、性的欲求を満足させるために製作された映像作品が大きく貢献してきた。今後、アバターに代表されるような3D機能を持たせた"飛び出す裸体"などの映像コンテンツ制作に注力することによって、わが国のコンテンツ産業は一層の発展を見るだろう。
                                以上。


どや、アントニオ。これでええか? ほんまにこういう報告書を出張の度に出してほしいんやな。出すで、ほんまに。

※「アタメ 私をしばって!」
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00006AGIR/dgcrcom-22/
>
主演はアントニオ・バンデラス。こっちのアントニオになら、ちょっと縛られてみちゃってもいいが。
※1「あなたを・もっと・知りたくて」薬師丸ひろ子
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【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp
働くおじさん・働くおばさんと無駄話するのが仕事の窓際事務員。かつてはシステムエンジニア。

ぼく、もみのこゆきとです。小学生です。ほんとうは性ふうぞく関連とくしゅえいぎょうのお店には、まだ行ったことがありません。学校のしゅくだいで、調べてみたら、こうゆうお店は、おまわりさんに怒られないように、こうあん委員会にとどけないと、えいぎょうできないんです。いけないお店なのかな。ぼくのまちには、そんなお店はありません。1/22のGrowHairさんのコラムに、浅草ロック座というところが書いてあったので、しゅうがく旅行で東京に行くときに、一度見てみたいです。

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■ところのほんとのところ[34]
神様は[ところ]を散々翻弄する

所幸則 Tokoro Yukinori
< https://bn.dgcr.com/archives/20100312140100.html
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ここ数年、[ところ]は作家としてピンチの連続だったと思うが、2008年になんとかそれを乗り切る手法を見つけた。時間軸を取り入れた新シリーズをスタートさせる事に成功した。そのあと、様々な人に作品を見せて少し自信をつけたけれど、世界的な評価を得るまではアートの世界じゃ通用しない。

そんな思いから、イタリアのZOOMの編集部にメールで新作を送りつつも、2008パリフォトで、EYEMAZING(オランダ発世界最高のフォトアートマガジン)の編集長に会い、その場で特集を依頼され、アニエスbのキュレターには早く個展をしたいわねと言われ、ZOOMの編集長からはイタリアで2009年の9月には個展しましょうよというメールももらった。だけど、その前後に起きたリーマンショックがアニエスbのみならず、世界を襲って、個展の話は頓挫した。

そして2009年の2月の末には、ミラーリングで完璧にしたはずのHDが4台入ったストレージボックスが読み取れなくなり、EYEMAZINGでの掲載すら危うくなった。その危機は回りの人達の献身的な努力で回避でき、EYEMAZINGの2009年6月号には無事載ったが、これまで6年間仲良くしていたZOOM社からは、ライバル誌で先に特集を決めた事が不快だったのだろうか、約束されていた特集も個展もなにも言ってこなくなった。

そんなものなのだとは、この1〜2年の日本の雑誌社の態度を見て気がついてはいたけれど、やっぱりがっかりした[ところ]だった。それでもその後見せに行ったギャラリー21では、一目惚れされたような状態で、個展をしましょうと言われた。「東京フォト2009」にも、ギャラリー21から出品していい感じであった。その直後に「世界1セコンド」の話が来た。世界のいろいろな都市を、[ところ]が「渋谷1sec」でやっている技法で撮ってきてくれという依頼だった。もちろんいずれはそうするつもりだったので、喜んで引き受けた。

問題は、そのころ政権が交代したという事で、[ところ]が依頼されたプロジェクトも国と無関係なものではなかった。役人や役所の仕事の仕方も見直しが入り、実施まで結局4ヶ月ぐらい延びてしまい、その間費用の立て替えを余儀なくされたり、官僚的で面倒な経費の処理などにストレスが溜まり続けた。

入金はしょっちゅう遅れ、やっていけるのかどうかピンチの連続。凄いストレスだった。加えて、[ところ]を凄く尊敬してくれて手伝ってくれていた弟子(?)みたいな存在の人が、突然豹変したかのように明け方とんでもない内容の携帯メールを送ってくるようになった。そんな時間なのに、返事がないとドンドン過激な内容にエスカレートして行く...。

そこに、前回でも書いたデータの消去事件が重なる。ホノルルに1secの撮影に行く直前だった。ちょっと頭がおかしくなりそうだった。それでも頑張って撮っていた。なんとか大丈夫だという朗報も届いた。[ところ]らしくもなく、毎朝きちんと朝食をとり、ワイキキを中心に撮影を始めた。すごく順調に4日間が過ぎて、いい写真がたくさん撮れている。

あと2日でハワイとはお別れで、また寒い日本に帰るんだなと思っていた。ホテルで寝ていたら、早朝(ハワイ時間朝6時)に英語と日本語で津波警報が流れた。その時[ところ]はタカをくくっていた。警報ってよくあるよなあってレベルで。朝ご飯を食べに、いつものレストランに6時半には降りて行った。食器がみあたらない。そこには透明なプラスチックのお皿が置いてあった。ああ、津波対策ってことなのかと思いながらも、しっかりパイナップルとパパイヤとベーコンとスクランブルエッグを食べた。

外は晴れていたので、海際ではない方向に撮影にでかけてみた。2時間程撮影をしてシャワーを浴びていたら、館内放送が流れた。避難勧告が出たそうで、もうじきエレベーターをストップするという。おいおい、冗談だろうと思ってたら、今度はもうじきホテルとしての機能をストップさせますとか言ってやがる。フロントから人が消えたようだ。エレベーターも動かない。

えーっと、神様は[ところ]を散々翻弄して、最後は津波に飲み込ませるというシナリオを用意してたのかな? とか不安になって、mixiで日記を書いて情報収集。角度的にハワイ島の裏に位置するオアフ島のワイキキは、そんな被害を受けないのでは? 海沿いの一階にいなければ大丈夫では? という書き込みをしてくれるマイミク達。ありがとう。少し安心しました。

最後には、津波が来たとき用に11階のベランダにカメラを用意して待っていたけど、たいした事は何もなかった。ホテル機能も午後2時(ハワイ時間)には戻って来てエレベーターも使えるようになっていた。なにも問題ない。ただ、帰りの空港のチェックインカウンターがもの凄い行列で、ハワイ発日曜朝の飛行機で帰るのはもうやめようと心に誓った。到着は時差の関係で月曜の夕方。

自宅に帰ってからの時差ぼけが凄かった。2日間はもとに戻らなかった。一番酷い時差ぼけはハワイと聞いていたが、これほどとは! 多分20才前後なら関係ないんだろうな。徹夜とか平気でする世代なら、と自分の年を痛感した[ところ]でした。

HDのデータはほぼ無事である事がわかり、データサルベージの会社に感謝。そして、なにより[ところ]の新作達を見たいと思ってくれて助けてくれたマイミク、リアル友、50人にとても大きな感謝を! 本当にありがとう。相変わらず、みんなの助けで生かされてると思う今日この頃。

時差ぼけが治ったころ、ニコニコ動画「写真家の異常な愛情」所幸則 1secが始まった。シグマの名物広報の桑山さんが出演で、しかもカメラショーの直前ということもあるんだろう。本当に最大の盛り上がりを見せた。シグマファンが半端なく見ていたようで、新製品(発売日未定)のDP−Xのβ版のボディが持ち込まれていたことも、みんなのテンションを上げた。ありがとうございました。桑山さん、シグマ関係者のみなさん。

そして、今週末(明日)は変則ですがゲストの都合上20時スタートになります。ゲストはロッキンオンジャパンのアートディレクター田中力弥さん。彼は半端ない写真の目利きなので、写真好きにはたまらない話になると思います。ぜひお楽しみに。最近は視聴者も130人近くなり、普通会員の方ではじき出される人もたまにいるので、よかったらプレミア会員で視聴された方が安全かと。
< http://com.nicovideo.jp/community/co60744
>

[ところ]今世紀最大(!?)の個展所幸則写真展「PARADOX」の開催がいよいよ近づいてきました。
< http://www.gallery21-tokyo.com/jp/exhibitions/2010/yukinoritokoro/
>
ここから詳細が見られますが、この個展のための大掛かりな撮影、特殊な展示は実物を見ないととわからないので、ぜひ足を運んでください。オープニングパーティは4月7日で、ギャラリートークもあります。詳しくはまたお知らせします。

【ところ・ゆきのり】写真家
CHIAROSCUARO所幸則 < http://tokoroyukinori.seesaa.net/
>
所幸則公式サイト  < http://tokoroyukinori.com/
>

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■編集後記(3/12)

・わたしが住む埼玉県戸田市の市長選挙がもうすぐ行われる。告示は14日、投票は21日である。告示前なのに、もう1か月くらい前から、民主党の宣伝カーが市内を走り回っている。「民主党は戸田の市長選挙に○○○○の推薦を決定しました」に続き公約をいくつかならべ、「戸田市でも政権交代をうんぬん」と言っている。どうみても事前運動だが、投票依頼はしていないからこれは政治活動だと主張するんだろうな。ずるい。駅では「政権交代」と幟をたててビラも配布しているようだ。しかし、地方の市長選で「政権交代」ってありえない。Wikipediaには「憲法においては、わが国の地方自治制度として首長制(地方公共団体の長を住民の公選により議会の議員とは別に選ぶ制度)を採用している。普通地方公共団体の長と議会とはともに住民を代表する機関として対等であり、互いに自己の権限を行使し、牽制しあうことで円滑に地方自治が運営されていくことが期待されている」とある。地方政治には「政権」なんか存在しないのである。存在しないものを交代ってなんだそれ? 対立候補となる現市長に「政権」のレッテルを貼り、交代ムードを演出する選挙戦術ってずるい。いや、不正だ。ペテンといってもいい。しかしなあ、民主党の「政権交代」とやらの神通力はもうないんじゃないの。(柴田)

・iPhone版スト4。ビギナーコース、1マッチにトライ。ノーコンティニューでラストまで行け、ムービーが見られた。ビギナーでもおまけ見られるようになっているのが嬉しい。イベント記事を読むと、「コントローラーだけで10カ月くらいかけてチューニングしています。(手塚氏)」とのこと。本気度が感じられる。正直、iPhoneでこのクオリティのゲームができるとは思わなかったよ。/大阪府警天王寺署が、ひったくり防止デー(3月11日なんだって)に、注意をよびかけるのに伴い、アメを配ったらしい。チラシやポケットティッシュでは受け取ってもらえないことがあるからと今回の策。配ったアメは「パインアメ」。中央に穴が開いているおなじみのもの。ひったくり「0」にかけたとか。で、このパインアメの歴史は60年。発売当時はパイナップル缶が高級で、イチゴやレモン味のアメはあったが、南国のフルーツは珍しかったそうだ。穴がないと、ということで一個ずつ割り箸で穴を開けたのだとか。社名までパインに改名。そういやパインアメはどこでも売ってるなぁ。(hammer.mule)
< http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20100311_354051.html
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GAME Watchの記事
< http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/osaka/news/20100309-OYT8T00076.htm
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パインアメ配布します
< http://www.pine.co.jp/
>  パインアメ
< http://www.pine.co.jp/candy/pine.html
>  パインアメの歴史
< http://www.yomifa.com/family/dijest/1003.html#02
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長→→→く売れてます。あの商品の秘話