Otakuワールドへようこそ![133]天上からの召喚により、ちょっとイタリア行ってくる
── GrowHair ──

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約20年前、聖書に右手を置いて「誓います」と言ったのが、1年2ヶ月後には結果的に嘘になって終わっている罪深き私であるからして、天上方面からの祝福は、金輪際なくて仕方のないものと思ってきた。

ところが、今、奇跡としか言いようのない不思議なご縁により、そっちの方面からお招きがかかっている。行ってみたら「うっそぴょ〜ん、信じたぁ?」とか言われたら、かなりつらいものがあるが、神様に限ってそれはないだろう。まあ、耐えられる程度の試練はきっとお与えになるであろうから、それはがんばって乗り切らなきゃ、とは思っている。

私が人生で初めて、自分が撮った写真を公の場に展示させてもらう機会を得たのは、5年前、'06年4月29日(土)のことであった。場所はイタリア、ブレーシア(Brescia)県内のボッティチーノ(Botticino)という田舎町にある多目的ホールのようなところであった。そこで催された日伊文化交流イベントで、日本の伝統文化を紹介する傍ら、新しい文化も紹介していこうということで、一環としてコスプレ写真を展示したのであった。

そのつながりで、今度は4月3日(日)に同じ趣旨のイベントが、やはりブレーシアで開かれるので、写真をまた展示しませんか、とお声がかかっている。今度のは、規模が拡大しており、場所はバチカンともダイレクトにつながりがあるという大きな教会の敷地内にある美術館である。ミュゼオ・ディオチェサーノ・ディ・ブレーシア(Museo Diocesano di Brescia)。15世紀に建てられたという。
< http://www.diocesi.brescia.it/museodiocesano/
>

前回も今回も、すべてにわたり多大なる面倒をみてくれているのは、ブレーシア在住のバーバラ(Barbara)さんという友人。なんでイタリアにそんなにすばらしい友人がいるのかといえば、8年前、'03年7月27日(日)に原宿でナンパして知り合ったのがきっかけ。コミケの時期に合わせて日本に来ていたのである。コミケ会場でも偶然再会しており、そのときは「君が望む永遠」の涼宮茜のコスをしていた。写真はこれ。
< http://growhair.web.infoseek.co.jp/Utena_et_al/Utena_et_al.html
>



●上品ではないけど、いいですか?

バーバラさんから、メールでイベントへの参加のお誘いがあったのは、去年の5月28日(金)のことだった。こっちは6月18日(金)からのパラボリカ・ビスでの人形と写真のグループ展を目前に控え、10人もの人形作家さんたちの作品の撮影にばたばたしている時期であった(6月6日というぎりぎりまで、ほぼ毎週末、人形を撮影していた)。

その時点からみた翌年、つまりは今年の4月3日(日)に、教会の敷地内にある美術館の主催で、日伊文化交流イベントが開かれることになっていて、日本の伝統文化や現代的なポップカルチャーなどをイタリアの人々に紹介する中で、バーバラさんは「日本の若者文化」という領域を全面的に任されている、とのこと。写真も展示するように言われているんだけど、どうですか、というお誘いであった。バーバラさんは前の年の9月からイギリスに留学してアートを学んで帰ってきたばかりだそうで、英語がすげー上手くなってる。

そりゃあ、めちゃめちゃいい話で、一も二もなくOKなんだけど、さてどんな写真をどう展示するかと考えると、懸念事項はいろいろわいてくる。「日本の若者文化」と言ったら、期待されているのは、たぶん萌え系の漫画・アニメ・ゲームなどの、いわゆるオタク文化なんだろうな。だとしたら、コスプレ写真を展示するのが、向こうからの期待に対してはド真ん中の回答ってことになるのだろう。

けど、日本ではオタク文化が花盛りということ自体は、5年前の時点ですでにけっこうよく知られていた。今ではきっと知らない人のほうが少ないだろう。だとしたら、それを展示したとしても、「ごく最近はボーカロイドなどが人気です」といった形の流行情報のアップデートにしかすぎず、「日本文化の知られざる一側面をここに明かそう」といったインパクトは微塵もなさそう。下手すりゃ、最新情報もすでにリアルタイム伝わっていて、「ああ、あれね、知ってる知ってる」ぐらいで終わっちゃいそう。

私としては、創作人形の写真のほうを展示したいのだが。創作人形は、日本でもまだ一般的に知られているとは言いがたい。それに、表現にこめられた精神性においても、一般的な人形のイメージに沿った愛玩性とか、オタク文化の主流のようになっている「萌え」に限定されない自由さがあって、美術館に掲げるアートとしては面白いのではないか。

しかし、それはそれで懸念事項はある。自由な分、その表現性はダークな方面におよぶことが多い。エロかったりグロかったり。ホラーがかった怖さがあったり。病んだ精神であったり、死を示唆する何かであったり。天からの恩寵を賛美するような宗教美術とは違うんだけど、そういうの、神聖なる教会の敷地内でやっていいのだろうか。バーバラさんに聞くと、これが意外にもだいじょうぶなんだという。

ただし、十字架など、キリスト教のシンボルをアート作品の一部として使用することは、厳重に禁じられているのだそう。教会の外での、一般的な人々の認識はもっと自由なんだけど、教会は保守的なところで、これは「おきて」であってどうにもならないのだという。そこは気をつけるとして、それなら創作人形でいけそうだ。あともうひとつ、封印されてしまったことがある。試しに聞いてみる俺も俺だけど。セーラー服着てうろうろするのは「賢明でない」とのことで。ちぇっ。

秋ごろ、村上隆氏がベルサイユ宮殿で開催した展示が物議をかもし、オーナーだかが中止を求めて裁判所に訴えたというのがニュースになっていて、気になっていた。そういう物議をかもしたこと自体、見る者の精神に不協和音を生じさせようという作品の狙いが成功したことの現われのように私には感じられるのだが。

ごく最近では、苦情に屈しちゃった例として、このニュースが非常に気になる。渋谷の西武百貨店で1月25日(火)から開催されていた「SHIBU Culture 〜デパート de サブカル〜」と題した作品展が、「展示内容が百貨店にそぐわない」との苦情を複数の客から受けて、6日(日)までの開催予定を早めて1日(火)で中止になっている。知り合いのアーティストさんも3人ほど出展していて、行こうと思ってたのにー。
< http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110202/k10013813061000.html
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西武百貨店の元社長である水野誠一氏からの「喝」には、気持ちが救われ、深くうなずく。
< http://togetter.com/li/96047
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●旅には道連れがほしい

こんないい場所で展示できる話が舞い込んでいるのに、たまたまスタッフと知り合いだったという理由で私が全日本代表のような顔をして乗り込んでいくというのは、心許ない。というか、ずうずうしいにもほどがある。ここはやはり、自分は一歩脇に寄ってプロモーション役となり、すごいアーティストさんにご登場願い、「どうだ!」と誇れるような展示にしたい。

かといって、これのために、一面識もないアーティストさんに初コンタクトをとるのは、気が進まなかった。前回、事前に郵送した写真が届かないというトラブルが発生するなど、けっこう苦労している。今回だって、どんな苦難が待ち受けているか分かったものではなく、もしかすると、ものすごい踏ん張りをもって乗り越えていかなくてはならない事態に直面することだってありうる。そういうときに大事なのは、信頼関係だ。よく知らない者どうし、非難の浴びせあい、責任のなすり合いになっては、もたない。

ご批判もあろうかとは思うが「仲良しグループ」でチーム結成したかった。そんな思惑があって、人形作家である清水真理さんと、映像作家である寺嶋真里さんにお声をかけた。お二人は、割とお会いする機会が多いこともあって、たいへん気軽な調子で話ができる間柄であるが、アーティストとしての格においては、私からみれば雲の上である。

清水真理さんは、人形作家として押しも押されもせぬトップクラスを走り、複数個所での個展やグループ展での同時展示なんて、いつものことであたりまえ、という調子でばりばりこなしている。また、みずから人形教室「アトリエ果樹園」を開いている。スーパーリアルでロマンチックな少女の人形もすばらしいし、奇形や人面蒼などの異形の人形もいい。
< http://garirewo.s318.xrea.com/strnew/
>

寺嶋真里さんは、去年の6月25日(金)のこの欄で代筆していただいている。長年にわたって自主制作映像を世に送り出しつづけ、いくつかの輝かしい受賞歴もある。最新作の「アリスが落ちた穴の中 Dark Marchen Show!!」は、パフォーマーグループであるRose de Reficul et Guigglesさんや清水真理さんの人形が登場する作品で、評判上々だ。すでにドイツとオランダで上映されている。オランダは、ロッテルダム国際映画祭の正式招待作品として上映され、お客さんの入りも上々だったそうである。目下、豪華版ART ALBUM+DVDを鋭意制作中で、ボックスの装丁は、日本屈指の装丁家・アートディレクターであるミルキィ・イソベ氏が手がけている。3月20日(日)には、発売記念として、パラボリカ・ビスにて上映会を予定している。
< http://honey-terashima.net/
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お二人をイタリアの展示にお誘いするにあたり、原宿でナンパしたつながりで、ってとこが説得力弱くて困ったが、快諾していただけた。4月3日(日)の当日には、会場に行こうという話になっている。最安値の航空券が、もしモスクワ乗換えの便のだったらどうしようか、なんて話でわいわい言っている。寺嶋さんと私は「ぜーーーったいやだ」って言っているのに対し、清水さんは「私は平気」と言っていて、強いなぁ。

●乙女喫茶会議

夏コミの時期に合わせてバーバラさんが日本に来たので、8月15日(日)に清水さん、寺嶋さんと会っていただいた。場所は池袋の乙女喫茶 "Cougar"。バーバラさんが前回日本に来たのは、2005年の夏こと。コミケの翌日、8月15日(月)に六義園でコスプレ個人撮影を実行している。バーバラさんは、ナルトの綱手(ツナデ)のコスで。ちなみに、今は、その手の撮影には許可が下りなくなっている。

撮影の後、中野のメイドバー「エデン」で飲んでいる。そのとき、ヲタ仲間であるアメフラシさんに来てもらった。アメフラシさんとは、その年の4月22日(金)に秋葉原のメイド居酒屋「ひよこ家」で知り合い、6月11日(土)にはサバゲを経験させてもらっている。エデンに来たときは、カウボーイ姿で、やたらとかっこよくキメていた。

そのアメフラシさんは、今、"Cougar" でてんちょさんをしている。バーバラさんとアメフラシさんは、ぴったり5年ぶりの再会だったことに、今、気がついた。その打合せで、バーバラさんからイベントの主旨を説明してもらい、じゃあがんばりましょう、とみんなで決意を固めたのであった。

●盛り上がる現地スタッフ

3人のプロフィールや過去作品の写真などの資料をバーバラさんに送ったところ、今度は、現地のスタッフたちが大いに盛り上がった模様である。こんなにすばらしい作品が展示されるのであれば、大々的に宣伝をして、できる限りの集客をしましょう、ということになったようで。イベントの1ヶ月前、3月6日(日)に、プレス向け限定でプレ展示をしましょうという話になっている。

さらに、たった一日だけの展示ではもったいなくありませんかー、というこちらの希望を汲んでくれて、我々の作品については、イベント後2ヶ月間、延長展示しましょうという話にしてくれた。

さらにさらに、バーバラさんのお知り合いで、ミラノ在住のキュレーター(学芸員)である、クリスチャン・ガンチターノ(Christian Gancitano)氏が、協力を申し出てくれたそうである。クリスチャンさんは、日本の現代アートやポップカルチャーを研究している数少ないイタリア人のひとりであり、テレビにも出たりする、けっこう有名な人らしい。奥さんは日本人で、現代アート作家である長尾智子さん。かつては歌舞伎や文楽など、日本の伝統文化を研究していて、2004年に歌舞伎座のゲストとして日本に来たとき、長尾さんと知り合ったそうである。

11月6日(土)、7日(日)のデザインフェスタでは、私はセーラー服を着て、ヒゲを三つ編みにして参加し、大いに人気を博し、写真を撮られまくりであったが、どなたかによってネットに上げられた写真をクリスチャン氏が偶然発見し、即座に私だと認識し、「おお、こいつは真のアーティストだ!」と感動の声をあげられたとか。

そんなこともあって、クリスチャン氏はわれわれの展示に手を貸してくれることにたいへん乗り気で、3月6日(日)のプレス向けプレ展示では、われわれの作品について来場者たちに解説してくださるそうである。テレビとか、来てくれるといいな。さらに、イタリア駐在の日本領事館の副領事とお知り合いのようで、近々、会って説明してきてくださるとのこと。

それと、これはまだ内緒だが、日本のとある雑誌が展示のことを取り上げてくださるそうである。

●逆ザビエルになりたい

もし、たくさんの方々にご来場いただき、「おお、日本にはこんなにすばらしいアートがあったのか!! トレビアーン!!」と言っていただけたら(ってそりゃフランス語だ、「ブラボー!!」でいいんだっけ?)、この展示は大成功である。けど、実は、もう少し欲を出して、その先を密かに狙っている。この展示が次の展示を呼び、どんどん波紋が広がってくれないだろうか、と。

今、創作人形は、日本でも一般的にはそれほど知られていないと思う。まして、ヨーロッパでは、ほぼまったく知られていないに等しいと思う。今までにも、日本人の人形作家による展示がヨーロッパで開かれたことはぽつぽつとあり、その都度好評を博してはいたようであるが、大きなうねりには発展しなかった模様である。

もし数年後に、日本発の創作人形に関する知識がヨーロッパ中のほとんどの人に浸透していて、日本のトップ100人ほどの人形作家さんたちの作品がヨーロッパでばんばん売れまくっている、というような状況になっていたとしたら、それはわれわれの展示に端を発していた、ってことになりはしないか。日本にキリスト経を伝来させたフランシスコ・ザビエルみたく、ヨーロッパに創作人形を伝えた人として、歴史に名を残せたりしないだろうか。

日本には、市松人形とか、京人形とか、伝統的な人形の文化があり、現代の創作人形もそこから多少の影響を受けてはいるのかもしれないが、直接的な流れとしては、ハンス・ベルメールに端を発する。澁澤龍彦氏によって日本に紹介され、四谷シモン氏、吉田良氏、天野可淡氏などが球体関節を取り入れてみずから人形制作するようになり、現在はそのお弟子さんの代が人形作家として立派に育ち上がり、創作人形というひとつのジャンルを形成するまでになっている。ベルメールがそんな形で発展をみせたのは日本だけだそうである。だから今、ヨーロッパ発のアートがこんなふうに日本で育ちました、といって投げ返してみせるのが面白いのではないか。

そのあたりのことは雑誌「夜想」の最新号でベルメール特集が組まれ、詳しく解説されている。余談だが、その号ではPEACH-PITさんのインタビューも載っている。PEACH-PITさんは「ローゼンメイデン」の作者であり、そこに出てくる人形「真紅」が俺の嫁である、ということは義理の母ってことでいいのかな?

「夜想」はイタリアでもけっこう知られているみたいで、バーバラさんも一冊持っていると言っていた。われわれのイベントでも販売しようという話になっている。まあ、いろいろ楽しみなイベントになってきた。神様、これからは品行方正に暮らしますんで、よろしくお願いしますよ。パンパン。あ、違った。アーメン。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
カメコ。......という職業はなく。って昨日書きましたね。

写真みたいな歌だな、って思った。薔薇の花に雨滴、子猫のヒゲ、ぴかぴかの銅のやかん、毛糸の手袋、ひもでくくった茶色い紙の小包、私の好きなもの。JR東海「そうだ、京都行こう」の歌。違う違う、ミュージカル「サウンドオブミュージック」の歌 "My Favorite Things"。
隔週水曜日に習いに行っているボイストレーニングで私に課せられた次の曲。元と同じ女声キーなので、全部裏声で。歌っていて、非常に気持ちがいい。けど、脈絡のない言葉が並んでいる歌詞って、覚えられないよ〜。俺バージョンの "My Favorite Things" を考えてみる。猫耳、ツインテール、絶対領域......。そうだ、アキバ行こう。

千葉なのになんで都バスが走ってるのか。都営バスじゃなくて、みやこバスだった。床が木製だった。なにかと力の抜けたフェイント攻撃の多い千葉。イノシシの肉ののった丼飯を「十六丼」という。4×4=16。やられたね。茨城の「佐貫うどん」以来の脱力系名物だ。これが配信される金曜日、大多喜のハーブガーデンに行って、清水真理さんの人形を撮ってきます。結婚式の挙げられるチャペルがあって、そこで撮ったらロマンチックでよいかな〜、と思ったんだけど、あ゛、ぜんぜんだめじゃん。そういうの、イタリアの教会では展示禁止だった。