[3080] スマホを持てなくてもいいじゃないか、人間だもの

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《設計者の顔が見えないモノに良いものなし》

■わが逃走[88]
 稚内防波ドームを思い出すの巻
 齋藤 浩

■私症説[29]
 スマホを持てなくてもいいじゃないか、人間だもの
 永吉克之

■イベント情報
 KPR-WEEK(京都リサーチパーク)



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■わが逃走[88]
稚内防波ドームを思い出すの巻

齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20110707140300.html
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とにかく美しいのである。写真で初めて見たときは息をのむというか、もう目が離せなくなってしまった。

もう、何が何でも行きたいと思い、またその美しさを誰かと共有したかったのですが、当時私の周囲の人の多くはお花が咲いてるところかアトラクションがあるところにしか興味がなく、価値を共有できる人に出会えたのは30過ぎてからって感じです。

でもまあおかげさまをもちまして、30代も半ばになってからでしたが、憧れの地に赴く事ができたのです。

北海道の先っちょ、稚内の防波堤にかかる庇、と言ったらわかりやすいかな。形状としては鈴廣のかまぼこをタテに半分に切った感じ。ヤマザキのロールケーキを薪割りの容量で4分割した感じ。

長さ427メートル、高さ11.4メートル、幅15.2メートル。

中に入ると半円筒状の天井が永遠に続いているようで、一点通し図法マニアとしてはたまらない。

完成は昭和11年。地元の方によれば当時この中に木造二階建てのプラットホームがあったのだそうだ。

一階に到着した国際列車から降りて2階に上ると、ここに横付けされた樺太行きの船に乗れたのだ。波にも雨にもぬれずに、である。

これはちょっと格好良すぎでしょう。第一次大戦と第二次大戦の合間の、あの旅行ブーム! カッサンドルがノルド・エクスプレスやノルマンディ号のポスターを次々に発表した時代に、日本でも流線型の蒸気機関車が引く長距離列車に乗って、ここ稚内から世界へと旅立っていったのだ!!

そんなシーンを妄想しながら最果ての地・稚内に立ったオレ。すでに再開発された後でしたが、古き良き昭和の風情もほんの少しですが感じることができました。

なにやら今は稚内駅も超近代的な駅ビルになってしまったそうで、その地の独自性を感じることのできるものが、また一つ減ってしまったかと思うと残念でなりません。おじいちゃんと孫が同じ景色を共有できることって、ものすごい財産だと思うんだけどなあ。

おっと話がそれた。今日のテーマは防波ドームでした。

それでは写真で紹介していきたいと思います。機材は初代EOS kiss DIGITAL。訪れたのは今から5年前の2006年8月。80年代に大規模修繕をしたそうなので、とても良い状態を保っています。

この列柱!
< https://bn.dgcr.com/archives/2011/07/07/images/fig01 >

そして連続する天井のリブの美しさを見よ!
< https://bn.dgcr.com/archives/2011/07/07/images/fig02 >

これを構造美と言わずして何とする?! 設計した土谷実は当時26歳。機能と美しさを兼ね備えた構造をめざしたとのこと。

常々思うが、設計者の顔が見えないモノに良いものなし。もちろん「誰々が設計したから」というように、それがブランドになることは良いことではない。デザイナーも設計者も、あくまで匿名であるべきだと私は考えます。

しかし、売ることを優先し相手の美意識を誤って分析した結果、未だに花柄の魔法瓶やプラスチック製煉瓦外壁の住宅なんかが増殖し続けている現実を見ると、昔の人は自分の責任において、人々に美意識というものを教育していたのだなあと思うのです。立派です。

"売るため"のデザインや、"あたりさわりのない"設計は、結局はその場しのぎで終わってしまいます。

ここ数ヶ月の世の中の激変で、大量生産大量消費社会は確実に終わりに近づいていることがリアルに想像できるようになりました。

だからこそ、デザイナーや設計者は末永く機能し末永く誇れるものを提案し、出資者ではなく使い手のためのモノづくりを、より意識すべきと考える今日この頃です。75年前の建造物の写真を久々に眺めつつ、そんなことを思いました。

全体像。ここに船が横付けされた(当時この道路は海だった?)。
< https://bn.dgcr.com/archives/2011/07/07/images/fig03 >

全体像。礼文島行きのフェリーから撮影。完成時は高い建物もなく、バックの緑との対比がより美しかったに違いない。
< https://bn.dgcr.com/archives/2011/07/07/images/fig04 >

全体像。稚内公園より見下ろす。
< https://bn.dgcr.com/archives/2011/07/07/images/fig05 >

同じく引きのカット。海の向こうは宗谷岬。
< https://bn.dgcr.com/archives/2011/07/07/images/fig06 >

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/
>

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。

・さいきん通巻番号がええかげんになってスイマセン(編集部)

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■私症説[29]
スマホを持てなくてもいいじゃないか、人間だもの

永吉克之
< https://bn.dgcr.com/archives/20110707140200.html
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先月、大阪の天満橋での飲み会に参加するために、ぼくは南海本線の堺駅から電車に乗った。時間に余裕があったので、のんびり腰かけて行こうと各駅停車を選んだ。

電車の座席に腰かけるという行動が刺激となって、パブロフの犬のように反射的にケータイを取り出して開いたのだが、そのとき突然、異次元に迷い込んだような、そう、まるで女性専用車両にうっかり乗ってしまったときのような恐怖に襲われて眩暈(めまい)を催し、次の犬林檎駅で足をもつれさせながら降りると、両膝をつき、orz の体勢になってじっとしていた。

すると駅員が走ってきた。

「どうしました? あなたを絶望させた原因はいったい何なのですか? わたしに話せることですか? 絶望とは死に至る病ですか?」

「いや。絶望してるんじゃなくて気分が悪くなったんです。ぼくの両隣、そして向かい側の乗客たちみんながスマートフォンを使ってるんです。新世代に生きている人びとに対する圧倒的なルサンチマンによって、自分自身を車外に弾き出したと考えるのが妥当でしょう。こんな旧式のケータイをまだ使ってるなんてぼくくらいのものですからね」

そう言って、ぼくは手に持っていた折りたたみ式の古色蒼然としたケータイをぱくぱくさせて見せた。

気分が回復しないので、駅の事務室にあるソファで寝かせてもらうことになった。とはいえ約束があるので、しばらく横になってから立ち上がろうとすると、駅長と名乗る、年齢不詳のぶよぶよした男がにこにこしながら現れて、ぼくの向かいのソファに腰かけた。

「いま駅員から効きましたが、スマートフォンをお餅でないとか。そりゃ波の神経の持ち主なら誰だって気分が割るくなりますわ。いやぁ、まったく細菌は誰も枯れもがスマートフォン......スマホですな......で、振るいケータイを塚っている人間を見ると、そのケータイ、ずいぶん長餅するんですね、なんて火肉を言いよります。駒ったもんですわ。歯歯歯歯歯......」

誤字が多いのが耳障りだったが、親切にしてもらったので我慢して話を聴いていたら、さっきの駅員が、がちゃがちゃと音をさせながら段ボール箱を抱えてやってきた。駅長はそれをテーブルの上に置くように指示をした。

「これですよ、これ」
「何ですか、これ?」
「スマホですよ」
「......?」

ガムテープや配送伝票をひっ剥がした跡があちこちにある「とろろ昆布」と書かれた段ボール箱を開けると、いろんな色をしたスマホらしいものがジャガイモかなんかのように詰め込んであるのが見えた。

「実は旧世代のケータイを漏っているお客さんが、スマホを盛ったお客さんに囲まれて気分が悪くなり、この液で降りるケースがこのところ凸然、笛ましてね。なかにはお泣くなりになる型もおられるんです。これはどうにかせにゃ遺憾と思って、わが犬林檎駅ブランドのスマホを開発したっ宙わけですわ」

駅長の言い方を借りると「芽には芽を、葉には葉を」「武力近郊」。つまり、スマホをもってスマホを制するべきだという信念から、スマホに恐れをなして犬林檎駅で降りた旧世代の乗客には、奉仕価格で犬林檎ブランドのスマホを販売しているそうで、ぼくも薦められた。

「OSはアンドロギュヌス。キャリアはコモドオオトカゲ。で、メーカーが犬林檎駅というわけです。この腸新世代の奇怪が今なら2,980円という歯欠くのお値段でお飼い求めいただけます」

専門的なことはよくわからなかったし、そんなことはどうでもよかった。とにかく安いし、何よりも新世代という言葉に乗せられて買うことにした。奉仕品ということで、身分を証明するものも要らないし、契約書もない。取扱説明書がなかったが、奉仕品ですから、ということで納得した。

電車のなかで、買ったばかりのスマホをいろいろいじってみたのだが、さっぱり使い方がわからない。ディスプレイの上で指を動かしてみたが何も起こらない。試しに、誰もいない自宅に電話をしてみようと番号を入れたが、発信の仕方がわからない。まあ、その後で会うことになっていた連中がこっち方面に詳しいので、その時に聞くことにして、ぼくは天満橋に向かった。

                 ●

酒の席でさんざんっぱら笑いものにされて、ぼくはやっと自分がだまされていたことに気づいた。スマートフォンではなくて、普通の電卓だったのだ。電車の中で、ぼくが懸命に電卓のディスプレイで指を動かしているのを、隣にいた乗客はきっと好奇の眼で見ていたことだろう。

ぼくは憤慨し、怒り心頭に発していたのみならず怒髪天を衝いていた。いや、それだけではない。ガチでムカついていたのだ。酔った勢いにまかせて犬林檎駅で大暴れしてやろうと、途中、コンビニで買った鈍器のようなものを持って電車に乗った。七道駅を過ぎた。次が犬林檎駅だ、さて何から壊してやろうかと、鈍器のようなものを車内でぶんぶん振り回していたら、堺駅に着いてしまった。なんと犬林檎駅が消えていたのだ。

なるほどそういうことだったのか。連中の正体がわかった。駅を装った新世代の詐欺集団だったのだ。偽装した駅に降りた無知な客をだまくらかして偽スマホを売りつけて、バレる直前にその駅をさっさと解体して、また別の路線に偽装駅を作るということを繰り返していたのだ。そう推測するのは容易だった。

                 ●

今にして思えば、うさん臭い駅だった。駅長の他には駅員がひとりしかいなくて、ふたりとも血の滲んだ包帯を頭に巻き、あとは全裸だった。これを見た時点で、こいつらは何か怪しいと判断すべきだったのだ。だいたい犬林檎なんて駅名、南海本線は昔から使っているが、一度も聞いたことがない。

そんな見え透いた詐欺にひっかかってしまったのも、ぼくが旧世代と呼ばれることを何よりも恐れていたからだった。しかし今回の事件で、そんなことよりもずっと大切なものがあることを教えてくれる珠玉の言葉を思い出した。それは「旧世代だっていいじゃないか、人間だもの」(詠み人知らず)。

予想した通り、同一犯と思われる詐欺の被害があった。今日(7/7・棚畑)の新聞によると犯人はまだ特定できていないが、警察に届け出があっただけでもすでに4人が被害にあったということだ。阪急、阪神、近鉄、京阪といった、近畿では大手の路線ばかりを狙った犯行で、被害総額は11,920円。あまりに恥ずかしいので、届けを出さなかったぼくの分を加えると14,900円。

駅を建造するために投入されたであろう費用からすると、割に合わない犯罪だ。これは金儲けを目論んだ犯行ではない。しかも犯人は絶対に捕まらないだろう。なぜなら彼らはある種のメタファとして存在しているからである。

【ながよしかつゆき】thereisaship@yahoo.co.jp
このテキストは、私のブログにも、ほぼ同時掲載しています。
・無名芸人< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz
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■イベント情報
KPR-WEEK(京都リサーチパーク)

< http://www.krp.co.jp/krpweek/
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< https://bn.dgcr.com/archives/20110707140100.html
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まぐまぐが生まれたところとして有名な、純民間ビジネスインキュベーション施設「京都リサーチパーク」。この夏、大型ビジネスイベントを開催。

日時:8月1日(月)〜6日(土)
会場:京都リサーチパーク(京都市下京区中堂寺南町134・京都市下京区中堂寺粟田町93)
参加費・問い合わせ・詳細:サイト参照

主なイベント
●基調講演
「高い塔に登らなければ新たな水平線は見えない 「はやぶさ」生みの親から」
JAXA 小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトマネージャー 川口淳一郎
●マイクロソフト・デイ
●WordPress活用セミナー
●クラウド・ソリューション・フォーラム in 京都 2011 Summer
「クラウドで変わるIT経営 京都ICT集団からの御提案」
●Startup Weekend Kyoto
●デザイン・マーケティングセミナー2011 第5回「広告コミュニケーション」
ほか

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■編集後記(7/7)

・復興構想会議の提言が発表され、朝日、日経、読売がおおむね評価している。つまり臨時増税に賛成ということである。これはじつにいやな雰囲気だが、7/4読売の「地球を読む」で劇作家・山崎正和が「実現へ野党は全面協力を」というタイトルで、この提言を「期待通り提言をまとめたことは喜ばしい」「提案はきわめて適切かつ実際的なものになった。何よりも敬意を表したいのは、この提案が日本の遠大な未来像を秘めながらも、厳密に今回の震災復興という当面の問題解決にしぼられ、国政一般に利用されることを慎重にさけていることである」「復興特区の制定も(略)大胆であるとともに慎重」「完璧に近い今回の報告であるが、当然ながらその内容は実現重視である」と手放しで讃えていたのは異様だった。「国家は初中等学校における歴史教育を廃止すべきだ」と主張する変人だから、さもありなん。そんなにすばらしいものなのかと提言を見ると、全体が下手な文芸ではないか。この自己陶酔な語り口には虫酸が走る。たとえば「原発事故の被災地の中に『希望』を見いだし、あるいは『希望』をつかむことは、被災地内外の人と人を『つなぐ』糧となり得る」って......。「つながり支え合うことによる開かれた復興への道筋を提起した」と自信満々だが、どうかしているよ、この連中。まあ、初会合で何もまとまっていないはずなのに五百旗頭議長が震災復興税に言及していたのだから、はじめから増税という結論を出すための会議なのだ。産経は6/26の社説で「提言に対する最大の疑問は、復興計画の中身が示されていないのに増税の必要性ばかり強調していることだ」と喝破している。増税はイヤ、消費税10%だってイヤに決まっている。わたしはものわかりがいい人、ではない。(柴田)

・マイクロソフトのPowerPointに反旗を翻す「アンチパワポ政党」なるものがスイスでできたそうな。Keynoteメインだからいいよね......ってそういう意味じゃなくて。PowerPointを使った意義のない会議に出ている、準備することによる経済的損失について書かれてあった。PowerPoint以外にも良いプレゼンツールがあるというのを知らしめたいらしい。/Facebookの新機能はテレビ電話であった......。複数人とのチャットと。FacebookのUI使いづらい。でもこれが世界一のSNSなんだから、世界中の人はこの形に納得しているってことよね。/2020年の東京オリンピックは消えたな。/サムスンやヒュンダイのCMに富士山、忍者、相撲、寿司、日本語が出てくるという話は、以前から耳にしていたが、日本企業がサムスンに抜かされたと聞いたら悲しくなった。サンフランシスコのMac EXPOに行った時は、私の持っていたビデオカメラを指差し、来場者(小学生ぐらい)からSONYはアメリカのメーカーと主張されたよ。(hammer.mule)
< http://gigazine.net/news/20110706_powerpoint_political_issue/
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アンチパワポ政党の記事
< http://www.jp.playstation.com/ps3/torne/
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トルネがバージョンアップ
< http://blog.livedoor.jp/video_news/archives/1372854.html
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世界の26%の人が「サムスンは日本のブランド」と誤解
< http://hamusoku.com/archives/5202592.html
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起源を主張するのは儒教のせいだったのか
< http://ikimonomatometyou.blog40.fc2.com/blog-entry-1451.html
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フクロウと猫がじゃれてる
< http://rocketnews24.com/2011/07/05/109405/
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トランプタワー
< http://2ch-news.e-news.bz/2011/06/11/%E5%91%A8%E5%9B%B2%E3%81%AE%E5%AE%B6%E3%81%AB%E5%87%BA%E6%9D%A5%E3%82%8B%EF%BC%81%E3%81%A3%E3%81%A6%E6%80%9D%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%82%8Bssid%E5%90%8D%E8%80%83%E3%81%88%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%82%8C/
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うちの近所ではYKHOME。Yokoさんはどこに住んでいるのだろ