[3152] センサーの進化がユーザー・インタフェースを変える

投稿:  著者:


《頼む方も頼む方だが、作る方も作るほうだ(良い意味で)》

■エンドユーザー大変記[14]
 私の制作活動 しょの1/コンピレーション
 ジョニー・タカ

■クリエイター手抜きプロジェクト[295]Adobe Illustrator CS3/CS4/CS5編
 テキストファイル内の文字を配置し保存する
 古籏一浩

■データ・デザインの地平[12]
 センサーの進化がユーザー・インタフェースを変える
 薬師寺 聖

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■エンドユーザー大変記[14]
私の制作活動 しょの1/コンピレーション

ジョニー・タカ
< https://bn.dgcr.com/archives/20111114140300.html
>
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Galaxy Nexusの発売日が決まるまで何も動けないのがもどかしい。今回は、旧テキストの焼き直しでご容赦いただきたい。一部は自分で展開しているブログの加筆であることをご了承ください。しかも今回は脱線が多い。

今回は、私が展開している"創作活動"のことについて書きたい。"コンピレーション"ともう一つは"イメージレスポンス"である。まずは"コンピレーション"から。
元原稿:< http://music.ap.teacup.com/cafedejohnny/3.html
>

誰でも"マイ・ベスト......"というのがあるはずだ。"落ち込んだ時に聴く曲"、"テンションを上げたい時に聴く曲"などを選定し、iTunesとiPodに落とし込んで聴くことがあると思う。

私は単純にそれを"アニメ・ゲーム・マンガのキャラ"にした。理由は簡単で、「それまで誰もやってないから」。下敷きにしていたのはムソルグスキーの「展覧会の絵」である。10枚の絵を見た上で音楽を作る。これを単純に"キャラクター"にしただけである。ギターは弾けても曲を作る才能はゼロに等しいが、選曲ならどうだろう、ということでやってみたのである。

もうひとつは、ゲームを進めている時に、流れているBGMは素晴らしいが、それだけでは面白くない、もっと感情移入できないかと別の音楽を流してゲームを進めると、さらに深みが増すことが分かったからだ。何となく、雰囲気に合わないなぁ、と思うことがあるかもしれない。その違和感を取り除けないか、と思ったからだ。

その機運になったのが橋本徹さん(誤字に非ず。カフェ・アプレミディ代表。元タワーレコード渋谷店店長)の『FREESOUL』であった。
< http://www.apres-midi.biz/
>

『FREESOUL』はコンセプトを決めてレーベル毎に選曲するスタイルだった。これを橋本さんが『FREESOUL』を展開していた95年当時、ピチカート・ファイヴ、小沢健二、サニーデイ・サービスを中心としたはっぴいえんどを始めとする日本語ロックの復権時期であり、元ネタになったアトランティックやライノ中心のメロウ・ソウルも見直されていた。それを橋本さんは"カフェでゆったり聴きたい曲"というコンセプトで選曲したものである。これに触発された。

元々それをやっていて、しかも"選曲家"という職業にしてしまった人がいる。桑原茂一さんだ。私は当然、スネークマンショーをリアルタイムで聴いた世代ではない。というか生まれたばかりだった。ただ、再発されたCDを聴くと、ものすごいシュールなギャグの中に、ツボを押さえ込んだ選曲をする桑原さんは凄いなーと思ったのである。それの代表がこの『アンソロジー!!!』。
< http://www.amazon.co.jp/dp/B0000W3OX8
>

私の中でも、これを手に入れたのはブラック・ミュージックを相当聴き込んでいた時期なので、危険過ぎるギャグの中に入れ込む桑原さんは凄いな、と思ったのである。だが、このコンピレーションを展開してなかったら、自分のネット人生も変わっていたかもしれず、こうやってデジクリで稿を書かせて頂けることもなかったと思う。

たまたま展開を始めたのが『トゥルーラブストーリー』というゲームだった。恋愛シミュレーションという触れ込みだが、"下校会話"という、それまでのフラグでしかなかった要素をあえて詰め込んだゲームだ。"会話"という部分は今でも変わっていない。諸事情あって現状では中古ショップを探していただくしかないが...。
< http://www.enterbrain.co.jp/game_site/tls/
>

そのクラスタに仕事でMacを使っていたり音楽好きな方がいたことで、そういった方々がメンターとならなければこの後どうなっていたかも分からなかった。そして、私が13年にわたって展開していることが浸透しているか、といえばなんとなくそう感じる。iTunesの中で「iTunesMix」というのがあり、pingを使用しているユーザーが聴いているプレイリストや音楽を、共有できたり購入することができる。

このpingはジョブズ最晩年の失敗作の一つに上がるが、基本的にstoreで販売している曲しか上がらないのと、リッピングした曲をMixに上げた場合まったく違う結果が表示されるのだ(同時に、日本の音楽業界の、何たるガラパゴスっぷりというのも思い知った。ピーター・バラカンさんが『BARAKAN MORNING』で常に憤っているのが分かる。関東の方のみで申し訳ないです)。
< http://www.interfm.co.jp/barakan/
>

おそらくLast.fmに対抗した形にしたかったのかもしれないが、手間がかかるし動作が重い分Last.fmの方が正確だった。

そして『ハヤテのごとく!』と『神のみぞ知るセカイ』では、原作者本人が選んだ曲をキャラクターに歌わせている。結局、時間がかかるが、自分のやってきたことが間違いではなかったことが、今になって証明されているのだろう。

そこに自分の名前が上がる必要は、これっぽっちも思っていない。スピリットやエッセンスがあれば、と思っている。自分は、ライフワークとして、どんどん先に行かないといけない。今度の『フォトカノ』でどこまで出来るか。納得したものを作れるか。"見えない相手"との永遠の闘いである。負ける訳にはいかない。

【ジョニー・タカ】johnnytaka32(a)gmail.com
1976年、横浜・関内で生まれ、上州と越後の風を受けて育ち、来世でもFUNKを踊り続けるフリーランサー。ヴァーチャル・キャラクターに曲を付けて選曲を展開する"コンピレーション"を1998年から行っている。2011年は発売未定になったPSPソフト『フォトカノ』のコンピレーションを展開予定(と言っても勝手にやってるだけです。それを続けて今年で13年目)。PS3でも『THE IDOLM@STER2』が発売されたので、そちらの選曲作業も始めてます。
< http://music.ap.teacup.com/cafedejohnny/
>

(日常ブログ)< http://ameblo.jp/johnnytaka/
>

○知っておきたいASEAN事情(5):緊急寄稿:洪水被害のタイ・バンコクのいまとこれから(@IT MONOist)
< http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1111/02/news060.html
>

クリーンルームから入れ替えとなると価格の安定は長期になるな...。というより、今までがおかしかったのかもしれない。2TBが6,000円なんて、工業製品がこの値段? 私が自作を組んだ時は、seagateのHDDが120GBで25,000円だったもんなぁ...。

○初音ミクフィギュアの金型をポリゴンデータから作る(@IT MONOist)
< http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1111/04/news008.html
>

頼む方も頼む方だが、作る方も作るほうだ(良い意味で)。改めて、日本の"ものづくり"の凄さ、というしかない。3Dモデリングにしろボカロにしろ。

○アドビのモバイル「Flash」開発中止とS・ジョブズ氏─2010年の公開書簡を振り返る(CNET Japan)
< http://japan.cnet.com/news/commentary/35010367/
>
○Adobe、モバイル向けFlash Playerの提供中止を発表(ITmedia)
< http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1111/10/news025.html
>

結局、アドビがあのオヤヂの頑固ぶりに折れたのかどうか分からない。だけれども、製作者にHTML5へのパラダイム・シフトを願っているのかもしれない。結局、末端で見るのは我々なので、web制作に当たる方は底辺を考えて欲しい、まずはそこを考えていただきたい、それを感じた。

○TPP交渉へ─何もかも、これからだ(asahi.com)
< http://www.asahi.com/paper/editorial20111112.html
>

TPP参加については反対意見も多いようだが、今は復興優先だが後々参加すべきだ、と私は思っている。今くすぶっている世代は、拾ってくれるなら海外で仕事をしたいと思っている人が多い。私も大学時代に、「日本は今にボーダレスな時代が来る」と教わった世代だが、結局はそれ以上に閉塞的だった。だからこそ、大王製紙や、オリンパスの様な"異様な"ことが罷り通るのだ。

震災や9月の台風でノマドワーキングが重要視されている中、くすぶっている世代が海外で仕事してても文句言わない世界にしたい。サッカーで、長友・本田・長谷部、そして野球ではイチロー・斎藤隆・建山・上原が世界で活躍している。それを見ている世代がくすぶっていない方がおかしい。もっと開かれるべきだ。政治学に入った当初、「政治的な自分の考えは、一切表に出すな」と教えられたのだが...いまはものを言わざるを得ない。

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■クリエイター手抜きプロジェクト[295]Adobe Illustrator CS3/CS4/CS5編
テキストファイル内の文字を配置し保存する

古籏一浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20111114140200.html
>
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今回は、Illustratorでテキストファイル内の文字を配置し、保存するスクリプトです(ネタの使い回しと言えば使い回しなんですが)。Illustratorの場合も、あらかじめ基本となるAIファイルを作成しておきます。この時に一番上のレイヤーにはポイントテキストを作成して、位置決めや文字サイズ、行揃えを行っておきます。その他のレイヤーには、図形や文字など何を配置しても問題ありません。一番上のレイヤーだけひとつのポイントテキストがあれば動作します。


// テキストファイル内の文字を配置し連番AIファイルで保存する
(function(){
var aiFile = File.openDialog("基本となるAIファイルを選択してください","*");
if (!aiFile){ return; } // キャンセルされたら何もしない
var textFile = File.openDialog("配置するテキストファイルを選択してください","*.txt");
if (!textFile){ return; } // キャンセルされたら何もしない
var saveFolder = Folder.selectDialog("保存先のフォルダを選択してください");
if (!saveFolder){ return; } // キャンセルされたら何もしない
var count = 0; // ファイル番号
var flag = textFile.open("r");
if (!flag){
alert("ファイルが読み込めません");
return;
}
while(!textFile.eof){
app.open(aiFile);
var text = textFile.readln(); // 1行読み込む
var layObj = app.activeDocument.layers[0]; // 一番上のレイヤーを指定
layObj.textFrames[0].contents = text;
var saveFile = new File(saveFolder.fullName+"/telop"+count+".ai"); // telop番号.aiという名前で保存する
activeDocument.saveAs(saveFile);
activeDocument.close(SaveOptions.DONOTSAVECHANGES);
count++;
}
})();

指定した範囲内に調整して配置したい場合は、以下のようになります。
Illustratorの場合、widthプロパティに表示サイズを入れるという方法もありますが、それだと文字が左揃えでなければ正しく動作しないので、以下のスクリプトでは1文字ずつ文字幅を調整しています。このため、文字数が多くなると誤差などの関係で、指定した幅よりも文字がはみ出してしまいます。範囲指定の値を小さめにしてから、実行してもらうのがよいかと思います。


// テキストファイル内の文字を調整して配置し連番AIファイルで保存する
(function(){
var aiFile = File.openDialog("基本となるAIファイルを選択してください","*");
if (!aiFile){ return; } // キャンセルされたら何もしない
var textFile = File.openDialog("配置するテキストファイルを選択してください","*.txt");
if (!textFile){ return; } // キャンセルされたら何もしない
var saveFolder = Folder.selectDialog("保存先のフォルダを選択してください");
if (!saveFolder){ return; } // キャンセルされたら何もしない
var count = 0; // ファイル番号
var flag = textFile.open("r");
if (!flag){
alert("ファイルが読み込めません");
return;
}
var maxSize = 720; // 最大ポイント数
while(!textFile.eof){
app.open(aiFile);
var text = textFile.readln(); // 1行読み込む
var layObj = app.activeDocument.layers[0]; // 一番上のレイヤーを指定
layObj.textFrames[0].contents = text;
var d = layObj.textFrames[0].width;
if (d >= maxSize){ // オーバーフローしている
$.writeln("d="+maxSize / d);
for(var j=0; j<layObj.textFrames[0].characters.length; j++){
layObj.textFrames[0].characters[j].horizontalScale = 100 * (maxSize / d);
}
}
var saveFile = new File(saveFolder.fullName+"/telop"+count+".ai"); // telop番号.aiという名前で保存する
activeDocument.saveAs(saveFile);
activeDocument.close(SaveOptions.DONOTSAVECHANGES);
count++;
}
})();

表示範囲は以下の行の720の値を変更してください。

var maxSize = 720; // 最大ポイント数


【古籏一浩】openspc@alpha.ocn.ne.jp
< http://www.openspc2.org/
>

今年度で廃線となる長野県の長野電鉄屋代線。廃線になると知れると、やはりやってくる鉄道マニア。県外から来る人が結構多くいて、混まないうちに撮影に来たと言ってました。まあ、廃線になってしまえば二度と撮れないので。廃線と言っても都会の中の田舎といった感じで、田舎の中の田舎の飯山線とは違う感じでした。飯田線には電波が来ないので、SoftBankのiPhoneなどは使い物になりません。あちこち出かけると結構電波が来なくて、iPhoneは都会の人の持ち物なのかなと思ったり。

来月2日に「Google API Expertが解説する Google Maps APIプログラミングガイド」が発売されます(共著)。こちらも、よろしく。

・jQuery Mobile 1.0RC2例文辞典
< http://www.openspc2.org/reibun/jQuery_Mobile/1.0RC2/
>

・CSS3(スタイルシート Level 3)例文辞典
< http://www.openspc2.org/reibun/CSS3/
>

・改訂5版JavaScriptポケットリファレンス
< http://www.amazon.co.jp/dp/4774148199
>

・10日で覚えるHTML5入門教室
< http://www.amazon.co.jp/dp/4798124184
>

・毎度おなじみASCII.jpの連載
「CSS3でFlash並みアニメが作れるSencha Animator」
< http://ascii.jp/elem/000/000/646/646400/
>

・iPhone/iPad × HTML5アプリ制作
< http://www.amazon.co.jp/dp/4797362618
>
< http://bookpub.jp/books/bp/196
>

・ハイビジョン映像素材集
< http://www.openspc2.org/HDTV/
>

・Adobe Illustrator CS3 + JavaScript 自動化サンプル集
< http://www.openspc2.org/book/PDF/Adobe_Illustrator_CS3_JavaScript_Book/
>
吉田印刷所の「印刷の泉」でも購入できるようになりました。

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■データ・デザインの地平[12]
センサーの進化がユーザー・インタフェースを変える

薬師寺 聖
< https://bn.dgcr.com/archives/20111114140100.html
>
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●タッチが変えるライフスタイル

近年のセンサー技術の進化にはめざましいものがあり、我々の言葉や動作、喜怒哀楽の感情、五感で感知する情報のずいぶん多くが、取得可能となっています。なかでもタッチ・センサーは、スマートフォンの普及によって、ライフスタイルの中に溶け込んでいます。

タッチにより操作できる対象は、いまやディスプレイだけではありません。我々の生活空間へと拡がりつつあります。たとえば、OmniTouchです。
< http://research.microsoft.com/apps/video/default.aspx?id=155040
>

これは、本や壁やテーブルなどの表面をデバイス化してしまうインタフェースです。身の周りの備品すべてを抗菌仕上げにするのは現実的ではないので、壁にタッチしているように見えて、実際はいくらか手前の空間をタッチする、といった形になるかもしれません。

また、PocketTouchは、視覚非依存のマルチタッチ技術です。ポケット、バッグ、財布など別の見えない場所にあるデバイスの操作を可能にします。
< http://research.microsoft.com/apps/video/default.aspx?id=155018&l=i
>

では、これらの技術は、ビジネスや生活に、どのように応用できるのでしょうか? それは、マイクロソフト社が公開している、未来の拡張現実世界を描いた動画「Productivity Future Vision(2011)」の中に見ることができます。
<
>

この中には、カード、書籍、ディスプレイといった、いろいろなサイズの端末が登場します。Webデザイナーの人たちは、対応しなければならない端末が増えるのかと内心おだやかでないかもしれません。が、動画の中の端末は、デフォルトの状態を表したものと考えておけばよいのではないでしょうか。

遅かれ早かれ、複数の端末は単一のデバイスとして居住空間に組み込まれ、ユーザーが表示領域のサイズや表示位置を指定すると、自動的に、指定した位置に指定したサイズで表示されるようになるでしょうから。

というのも、ユーザーによって最適であると感じるサイズが異なるからです。大きな画面で見たい人もいれば、小さい画面の方が集中できるという人もいます。1行ずつ読み進むユーザーは小さな画面を許容できても、斜め読み派のユーザーは、できるだけ一度に多くの行数を表示することを望むものです。近未来のインタフェースは、今よりもっと、ユーザーフレンドリーになるべきです。

●タッチは、過渡期のインタフェース

では今後、タッチ操作が唯一のインタフェースとなるのかといえば、そんなことはありません。それには、ふたつの理由が考えられます。

ひとつめの理由は、すべての人にとって、タッチ操作が最良のインタフェースではないということです。タッチ操作がマウス操作と異なる最大のポイントは、重力を受ける手を支えるものがない場合が多いという点です。これはペン字と習字の違いに似ています。どちらが容易であるかは、身体のハンディキャップの状況により異なります。

また、これはマウスでも同じですが、手を怪我していると操作はできません
(本連載第8回「死にゆく者の意思は守られるか」も参照。
< https://bn.dgcr.com/archives/20110711140200.html
>

もうひとつの理由は、誤操作の問題が付きまとうということす。その昔、メンブレーンスイッチが登場したとき、エンジニアの間で、それはちょっとした話題になったものでした。ところが、押しボタンが薄ければ薄いほどよいのかといえば、そうではないことがあります。

具体的な例で説明しましょう。たとえば、持病を持つ人のための緊急時連絡用のペンダントのボタンは、倒れて動けない時にもわずかな力で操作できるようになっています。そのため、すこし壁や柱にぶつけただけでもボタンが押されてしまいます。

そこで、あきらかに具合の悪い時でなければ身に付けないユーザーがいます。つまり、急に具合の悪くなった時には、身に付けていないことになります。簡単に押すことができるということは、すこしの衝撃で押されてしまうということでもあるのです。操作性向上と、誤動作は、このように、背中あわせの問題なのです。

タッチ操作は重力に逆らった動作であり、次世代の宇宙での暮らしに適したインタフェースではありますが、地球上では過渡期のインタフェースになるでしょう。どのように優れたインタフェースも、100%ユニバーサルではありません。単一のインタフェースではなく、バリアフリーを可能にする他の選択肢も必要です。

●タッチ以外のインタフェースの萌芽

タッチ以外のインタフェースの萌芽は、既に数多く見られます。次のような情報を取得するセンサー技術は、急速に進化しています。

・動作

Kinectのように、ユーザーの動作の情報をデータとして取得し、利用するものです。遠隔地にいるインストラクタや理学療法士がスポーツやリハビリの成果をチェックして助言したり、新米医師が遠隔地にいるベテランから手技を習うこともできそうです。
<
>

ヒトの動作で、ホログラムを扱うこともできます。マイクロソフト社のNUI(ナチュラル・ユーザー・インタフェース)のひとつ、3D映像の物体を操作できる技術「Holodesk」を、ぜひ閲覧してください。
<
>

ホログラムのボールによるスポーツや、ホログラムを利用した対人関係シミュレーションなど、この技術の用途は多数考えられます。

テーブルを叩いて演奏するどこでもピアノなどが実現すれば、喫茶店でお茶を飲んでいたピアニストがテーブルを叩き始めるやいなや、居合わせた客たちが一斉に踊り出す......といった楽しい光景が実現するかもしれません。

さらにホログラムが進化して、ユーザーが設定したデジタル衣装を身にまとうことができるようになれば、Tシャツだけ着ていてもスーツを着ているように見せかけられるようになり、これは節電になるかもしれません。

・音声

音声合成技術は、既に実用段階を過ぎ、ビジネスへの展開方法が期待できる段階です。ボーカロイド技術は、一般ユーザーにも、音声合成技術の現在を示しました。さいきんでは、音声合成技術を利用した、スマートフォン向けの翻訳サービスも登場しています。

・視覚

視線の動きをデータとして取得し、機器を操作するものです。まず考えられる用途は、寝たきり患者とのコミュニケーションです。また、高齢になると、モノの名前が出てこないということがありますが、デバイスをモノの前にかざせば、その名前と説明が音声でアナウンスされるといった処理も可能でしょう。視線を送った先の相手に声をかけるアプリがあれば、内気な青年がすこし積極的になれるかもしれません。

・触覚(温度、湿度含む)

現在のタッチ操作では、指先には、モノに触れたという事実しか残りません。が、その感触のデータを取得したり、設定することが可能になるでしょう。まずは、エステや医療分野で普及しそうです。また、視覚障碍者がモノの質感を感じる処理を、コンシューマー向けアプリケーション開発者やWebサイト開発者が簡単に実装できるようになれば、ユニバーサル化を一歩前進させることができます。

家電に組み込み、たとえばエアコンの温度を設定する際、温度を示す色のスライダーを操作すると、指先にも温度を感じさせるといった、ユーザーにやさしいUIも可能になるでしょう。

・嗅覚

ヒトの最も原初的な感覚であるために、データ化も再現も難しいと思われますが、客を連れて帰宅する前に、遠隔操作して室内に香りを充満させておくなど、香料と連動させる処理なら容易に実現できそうです。香りに対する脳内の反応が個体独自のものではなく、共通点があるなら、脳に対して働きかけることで香りを再現したかのように思わせる技術も考えられます。

・端末の状態

端末に組み込まれたセンサーで、端末の置かれている情報をデータとして取得し、利用するものです。加速度センサーでは端末の傾斜角度を取得できます。また、GPSでは端末の置かれた場所の緯度経度を取得できます。Windows Phoneでの加速度センサーについては記事を書きましたので参照してください。
< http://thinkit.co.jp/story/2011/11/11/2329?page=0,2
>

●脳機能センシングで浮上する課題

前述のようにヒトの外に生じる情報だけでなく、ヒトの脳内に生じる情報もセンシングの対象です。

脳波を取得して、アプリケーションやハードウェアを操作する技術は既に確立しています。WPFアプリケーションにより実装できますし、ネコミミなどの製品も発売されています。脳卒中患者らの脳波を取得して、ロボットハンドを動かす技術も開発されています。

「イメージしたとおり義手が動く世界初の技術」2011年11月3日13時46分
読売新聞 < http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20111103-OYT1T00172.htm
>
現在はまだ、侵襲を伴う実験のようですが、そのうち非侵襲となるでしょう。

これらは、楽しく、あるいは有益な技術であり、その社会的メリットは実に大きいものがあります。しかしながら、ユーモアと善意のない応用では、社会システムを揺るがすような問題が生じます。

最も大きな問題を引き起こすのは、要人の思考のセンシングです。SFがリアルになる日も遠くはないでしょう。国家の姿勢や株価を左右する情報が取得されたなら、それがどのような結果を招くかは想像に難くないでしょう。

経営者の頭の中のビジネスの着想、会議の席で考えられ提案される企画、それらのセンシングも、訴訟のラッシュと経済的摩擦を引き起こしかねません。新商品のアイデアも同様です。もっとも、商品アイデアについては、実施のための技術がセットで必要ですから、ビジネスの着想の方が影響は甚大でしょう。

身近なところでは、医師の脳内情報のセンシングが考えら得ます。自分や家族の病気が治療可能かどうなのかを知りえた時、モラルの低下している昨今では、生命保険金にまつわる事件につながる恐れがあります。また、災害時の未公開情報のセンシングでは、データを持つ者と持たざる者の間で、生死が分かれることも考えられます。

当然のことながら、作品の著作権も、問題になります。第7回で述べたように、作曲の本質は発見です。音楽だけでなく、小説や絵画のイメージなども取得可能になると、誰が考えたのかが不透明になり、クリエーティブな仕事が成立しにくくなります。
「脳活動センシングの進化が、作曲を変える」
< https://bn.dgcr.com/archives/20110613140100.html
>

以上のように、脳内情報を「社会を混乱させる目的で」センシングできるようになると、セキュリティ技術とのイタチゴッコが始まります。

近い将来、認証機能は存在のデバイス化によって代替され、処理と表示の機能はユーザーの脳に組み込まれます。そうなった暁には、「ハードウェア」という言葉の定義は変わります。

そんな未来は来ない、そんなことは遠い先、と思われるでしょうか。こういった問題は、安心しきった生活のうえに、突然降りかかってきます。UIの進化がもたらすメリットを享受し、デメリットを抑えるために、我々は、技術の可能性と問題点を、技術が普及するよりも前に考えておかなければならないのです。


※MSDN Code Recipe「逆引きサンプルコード」
< http://msdn.microsoft.com/ja-jp/ff363212#WinPh
>
ブログ「イメージ AndAlso ロジック」
< http://blogs.itmedia.co.jp/seindesign/
>
に、サンプル解説記事を書いています。Windows Phone アプリケーション開発にご利用ください。

※脳機能をテーマとした2曲入りアルバム「Change The Brain」をAmazon MP3(日、米、英、独)、Mora Win、着うたフル、ほかで発売中です。
http://lyric.seindesign.net/info/ChangeTheBrain.htm


【薬師寺聖/個人事業所セイザインデザイン】
個人事業所 < http://www.seindesign.net/
>
ブログ < http://blogs.itmedia.co.jp/seindesign/
>
PROJECT KySS < http://www.projectkyss.net/
>
< infosei@seindesign.net >

ヴィジュアル、サウンド、テキスト、コードを扱う、四国の個人事業主。科学技術や医療・福祉分野のXML案件の企画デザインに実績があり、コラボレーションユニットPROJECT KySS名義で、XML、RIA、.NETに関する書籍や記事、多数。さいきんは、Windows Phone 対応 Silverlight アプリケーション開発に注力している。
Microsoft MVP for Development Platforms
- Client App Dev (Oct 2003-Sep 2012)

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■編集後記(11/14)

・江戸東京博物館に「世界遺産 ヴェネツィア展」を見に行った。わたしにとってそれほど興味あるテーマではなかったが、こういう企画がお好みど真ん中の妻に連れ出されたのである。2時間近くかけてじっくり鑑賞した。ほどほどの込み具合で見やすく、予想以上に面白い内容で楽しめた。しかし、最後に不愉快な出来事が待っていた。前売りペアチケットには「二人の貴婦人」(今企画の目玉のひとつ)ミニカード引換券もついてきた。それを場外の特設ショップで示すと、引換券の半券が切り取られているからミニカードは渡せないと言う。入場時にペアチケットとその引換券を出すと、受付はなんのためらいもなく二枚とも半券を切り取ったのであった。全券が必要とは知らされておらず、そんなルールがあるなら受付が切り取るはずはないだろう。受付が切り取ったのだと応じたが、半券がついていないと渡せないの一点張り。だって受付が切ったのですよと再び言うと(受付のミスだったのか?)、それでは受付に戻って半券を探してきてくださいと、平気で無茶なことを言うではないか。どうせたいしたグッズでもないだろうし、これ以上のやりとりはめんどうだから「それでは要りません」と穏やかに立ち去った紳士的なわたしたち。家に帰ってから、やはり放置しておくのもよくないだろうと、江戸東京博物館に意見を送っておいたが、たぶん何の反応もないだろう。(柴田)

・「Productivity Future Vision」がすてき。なんだかAppleの動画を見ている気分になったよ。いつかこんな未来が訪れるんだろう。イメージした方向に世界は向かうんだから。デザインかっこいい。ボタンのお話に納得。キーボードも立体的なものの方がいいな。他の動画にも圧倒された。/Adobeのアップグレードポリシーの変更が痛い。今はCS5(Design Premium)を持っているので、6に上げられる権利はある。CSは5.5以外の全バージョンを持っている。6に上げたいのはDreamweaverだけで、他は現状のままでもいいかなぁと思っていた。しかし取引先から6のデータが来るようになったら、下げたデータで再度くれとは言いにくいから、やはり全部をなるべく最新にはしておきたいし、たぶんするだろう。でもしばらく上げずにいるという選択肢が残っているのと、残っていないとでは気持ちが違ってくる。今まで、使わなくなったいくつかのライセンスを捨ててきたが、CS5のは残しておきたいと思っていたのよ。駆け込みで5.5にする人が増えるなら、最低でも5.5は持っておかないと......。Adobe Creative Cloud(年間契約でCS製品使い放題)にするとしたら、Design Premiumユーザは割高になるんじゃないかしら。自分の仕事が、いつどうなるかなんてわからないから、定期的な維持費が苦しい時期にかかるよりは、少し古いバージョンでも、追加料金なしに使い続けられる方がいいしなぁ。うーん。Acrobatがこのポリシー変更から除外されているのがとても気になるわ。Adobe Creative Cloudは最新バージョンしか使えないってことはないよね。安定バージョンを使わないといけない場合もあるしさ。(hammer.mule)
< http://www.adobe.com/jp/support/upgrade_policy/
>
次期バージョンからのアップグレードポリシー変更について
< http://www.adobe.com/jp/aboutadobe/pressroom/pressreleases/20111109_adobe_creative_cloud.html
>
「現在ベータ段階にある最新の画期的なツールを利用可能」「6つのAdobe Touch Appsも利用可能」ほか。魅力的ではある。
< http://www.adobe.com/jp/joc/cashback/
>
どうせ買うなら今のうち? 6直前に無償アップグレードつき5.5が出る?