Otakuワールドへようこそ![146]セーラー服着たおっさんが入れない意外な店
── GrowHair ──

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●まさかの入店拒否、しかもそのお店とは......

セーラー服を着て外を出歩くのも、1月29日(日)で38回目になった。もはや私にとっては日常である。夏服、冬服をそれぞれ2着ずつをローテーション、一年中いつでも着て出かけられる態勢が整っている。どこへ行くのもまったく平気。まわりは驚いたり笑ったりしてても、こっちはどこ吹く風の平常心。

最初はそうはいかなかった。まず、人に訳を聞かれたときの答えを用意しておかなければ、というより、自分への言い訳が必要だった。神奈川県鶴見にある通称「ラーメンショップ高梨」が掲げる「30歳以上、セーラー服で来店、ラーメン1杯タダ」の企画に乗っかることで、なんとか敷居をまたぐことができた。

それは去年の6月11日(土)のこと。西武新宿線、山手線、京浜急行を乗り継いで行ってきた。スカートがスースーするだけでなく、心にもなんだか冷たい風がスースー吹きぬけるような感覚があり、まるで自分が自分でないようであった。

それが2度目、3度目となり、特に何も起きないと分かってくると、次第に大胆になっていった。普段行くところは一通り行っておこう。通勤は別として。めったに行かないところにも行ってみよう。コンビニ、スーパー、喫茶店、ハンバーガーショップ、ラーメン屋、カレー屋、回転寿司、中華料理屋、そば屋、ケーキ屋、漫画喫茶、居酒屋、カラオケ、メイドバー、乙女喫茶、スナック、キャバクラ、女装バー、靴屋、本屋、家電量販店、百貨店、画廊、銀行、郵便局、不動産屋、制服専門店、紳士服専門店など。

入店拒否されることは一度もなかった。なので、どこへ入っても大丈夫なものだと思うようになっていった。12月10日(土)までは。青天の霹靂、まさかの入店拒否。その店とは、秋葉原にある「m's(エムズ)」である。大人のデパート。皆様の性生活を応援するアダルトグッズのお店。6階:コスチューム、5階:ランジェリー、4階:コンドーム、ローション、ほか、3階:バイブ、ローター、SM 用品、ほか、2階:オナホール、ダッチ、1階:DVD&Blu-ray、地下1階:DVD&Blu-ray。
< http://www.ms-online.co.jp/pc/
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セーラー服の下に着るキャミソールを入手したかった。1階でエレベータを待っていると、店員に声をかけられる。「制服の方はお断りしているのですが」「えっ?」「入り口にも張り紙がしてあります」「そうでしたか」。仕方なく店を出た。けど、納得いかない。セーラー服着たおっさんなんて、こういうお店にとっては歓迎すべき上客なんじゃないの?

もしかして未成年に見えたとか? いや、いくらなんでもそれはないな。ツイッターではよく60だ70だとつぶやかれる風貌だし。実際は49歳だけど。なら、もしかしてアルバイト店員のマニュアル対応? 未成年を入店させるとマズいので、マニュアルに学生服着用者は入店をお断りするように、とか書いてあって、それを杓子定規に守っただけ、とか?

そこを確認してみたく、後日、店に電話してみた。そしたら、あれは間違いではなく、店のポリシーとして、年齢・性別を問わず、学生服での来店お断りなのだそうだ。理由は? 警察からそういうふうに指導を受けているから。にわかには信じがたい。学生の格好をしていようと、成人を入店させることになんら違法性はあるまい。店側が勝手にビビッてるだけなんじゃないの?




「指導内容を文書で残してありますか?」「それはないですが」。警察からの指導は、ほとんどいじめとかいちゃもんに近い、理不尽なものなのだそうだ。このテの店に対し、風当たりが非常に強いらしい。

権力の座に長いこと胡坐をかきつづけて、その精神においてほぼ四つ足動物のレベルまで堕しているあの集団のことだ、そういうこともあるのかもしれない。たとえ合法的に営業していようと、面倒くさい問題の起きそうな感じのする店舗は、いじめて追い出してでも排除して、仕事を減らしたい、と。そんな感じはなんとなくする。あの合法武装チワワ軍団からは、オレもさんざんイヤな目にあって、ついカッとなりそうなのを、公務執行妨害扱いされても困るんで、我慢してるからなぁ。

そう考えると店にも同情できる。「30人ほど従業員を抱えてまして、営業停止を食らうわけにはまいりませんので」。うーむ。それで、買うかもしれないお客を追い返さざるを得ないとはなぁ。それにしても、セーラー服着たおっさんを入店拒否する、今までで唯一のお店がアダルトグッズ店だとはなぁ、なんとも皮肉なことよ。

私は50年近く生きていても、まだまだ世の中のことがよく分かっていない。だからこういう実験社会学的アプローチは有用なのだ。今後もこつこつと地味に研究を積み重ねていきたい。

●セーラー服で初のコミケ

たいていのところにはセーラー服を着て平気で行けちゃうようになった私であるが、ひとつ、敷居が高くてなかなか一歩を踏み出す勇気が起きない場があった。コミケである。同じ東京ビッグサイトで開かれるイベントでも、デザフェスはまるで私がセーラー服で歩きまわるために用意されたかのような場であるのと対照的だ。空気が違うのだ。

第一に、キャラのコスプレではない。コミケでは、おっさんのメイドさんやら、美少女戦士やら、リリアン女学園の山百合会の薔薇様たちやら、ローゼンメイデンのドールたちやら、うじゃうじゃいるので、女装自体は何の違和感もない。けど、私は普通にセーラー服を着ているだけであって、キャラに扮しているわけではないってとこが、ズレてる。

第二に、コミケはコスプレ来場禁止である。このことの意味を語るには、オタク&コミケの歴史を紐解かねばなるまい。コミケの36年の歴史において、つい最近までオタクは世間から珍獣と同等に見られたり、犯罪者予備軍として危険視されたりする、虐げられた存在だった。

我々第一世代オタクは、自分の好きなものにのめり込んでいたら、気がついてみると世間一般の価値観からズレた、奇異な存在になっていたけど、まあ、好きなもんは好きなんだから仕方ないよね、と、ある程度諦念をもってオタクであることを受け入れる傾向にあった。もっとも'90年代のマスゴミの偏見報道には腹が立たないわけではなかったけど。

しかし、下の世代になると、迫害されている私たち、と、神経をピリピリさせがちであった。子供ではない年齢になっても漫画・アニメ・ゲームが好きだってだけなのに、何で珍獣、変質者、宇宙人扱いされにゃあかんのだ、と。

いずれにせよ、世間から後ろ指さされる材料をむやみに提供しないようにしよう、という暗黙の申し合わせができていて、団結心、連帯感をもって互いに結びついているムードがあった。特に、コミケのような大規模なイベントでは、少数の来場者の逸脱行為が事件として扱われるような事態が発生すれば、存続が危ぶまれる可能性だってある。

だから、こういう申し合わせを破ると、オタクを敵に売った裏切り者とみなされ、たいへんに叩かれるのである。オタクによるオタク叩きはけっこうキツい。私の場合は、普段の週末だって着て出歩いてるわけだから、コスプレではなく普段着だ、という理屈が成り立たないわけではないが、まわりがそう見てくれるかどうか。

12月30日(金)、山根さんちで酔っぱらっている武さん(※)に説明すると、武さんはまったく納得してくれなかった。激しく批判を投げかけてくる。「アイデンティティを引っ込めてまで何しにコミケに行くのだ!」。うーーーん、ごもっとも。オタクがコミケで縮こまっていてどうするよ!

(※)デジクリにチャット形式で「武&山根の展覧会レビュー」を書いている武盾一郎さんと山根康弘さん。

こういう経緯を経て、あまり気は進まなかったが3日目の12月31日(土)、セーラー服を着てコミケに行った。入場待機列の刷けた昼ごろ行ったので、すんなり入れた。スタッフから声をかけられることはなかった。

コスプレ広場へ。キャラのコスではないので、自分としてはコスプレイヤーという認識はまったくなく、あくまでもカメコとして。......のつもりだったのだが、意外とカメコさんたちから撮影リクの声がかかる。デザフェスでは撮られ慣れていても、ここでは面食らう。ニコ生で配信中という人からインタビューを受けた。後日、YouTube に上がっているのを見つけた。「C81コミケ会場にセーラー服おじさん現る(2011.12.31)」というタイトルで。
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この動画のことはツイッターでもちょっと話題になったりしたが(面白いとか、キモいとか)、今はすっかり過去のものとなり、閲覧数は約1,500でほぼ止まっている。数を気にするわけではないけど、同じ日に同じ人が収録したとみられる「C81コミケ会場で10歳のレイヤーに声かけ事案発生(2011.12.31)」のほうは軽く5万件を超えているのはちょっと納得いかない。オレのほうが面白いと思うけどなぁ。需要の差が如実に数字に表れていると言えよう。

帰り。ビッグサイトから出たところでスタッフに呼び止められる。「コスプレではここから出られません」。ちょっと緊張が走る。出られませんと言われても着替えがあるわけでなし。「えーっと、普段着なんですけど。いつも週末はこんな格好でして」。冷や汗たらたらの言い訳。笑って許してくれた。ほっ、助かった。

次回以降、すんなり出入りできるようになるためには、キャンディ・ミルキィさんや安穂野香さんぐらい有名になっておけばいいってことかな? あるいは、女装が大流行りして珍しくなくなってる、とか。みなさん、ご協力よろしく。

●女装子の集うカラオケバー

池袋に女装・ニューハーフ・女子のいるカラオケバー「J's BAR CROSS DRESS」を見つけたのは12月7日(水)のことである。池袋は通勤の乗換え駅で、仕事帰りに晩飯を食うことが多い。この日もなじみの四川料理の店に寄り、その後、腹ごなしに軽くぶらぶらしていた。

「女装」の文字が目に飛び込んでくる。こんな看板、前からあったっけ(後で聞くと店は9月ごろオープンしたが、通りに看板を出したのはつい最近だそうである)。
< http://crossdress.cloud-line.com/
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私はノンケなのでそれほどときめかないけど、何かの勉強になるかと入ってみた。カウンター7席ほどとテーブル席8席ほど。カウンターの向こうには「おネエさん」が3人。暖かく迎えてくれる。お客さんにも女装子さんがいる。こういう方々って、社会一般からはあまりウケがよろしくなく、日陰者として傷つきながら生きてきたのだろうか。感性がとても繊細で、人に対して優しいのである。そういうところが、たいへん居心地よい。

飲み物の選択肢は限定されるけど、飲み放題、歌い放題コースで1時間2,500円という安さも嬉しい。勉強になったと言えば、そっちの世界の用語をいくつか教えてもらった。解説しているとデジクリの品位が著しく下がりそうなので自粛するけれど、興味のある方は、たとえば「ところてん ホモ」ぐらいでググってみれば、ところてんの特殊な意味を知ることができるであろう。

近くにハッテン場があるのをお店の人から教えてもらったが、残念ながらノンケの私には不要な情報であった。なんかすご〜く繁盛していて、順番待ちでなかなか入れないらしい。腐女子の妄想の世界だけかと思ったら、リアルでもホモって増えているのだろうか。この不景気の世にあって、ハッテン場は発展産業なのか。

ユングの心理学に「アニマ」と「アニムス」という用語が出てくる。簡単に言っちゃうと、男性の内面に住む女性的な像をアニマと言い、逆をアニムスと言う。宴会などで男性が戯れに女装して、ウケをとるためにわざとらしく女性っぽい仕草や言葉遣いをすると、たいてい非常に気持ちが悪い。それは、その男性のもつアニマがとても貧弱であるからにほかならない、と私は考えている。

男性でも、その道を極め、アニマが洗練されてくれば、気持ち悪くないのではなかろうか。そのあたりも勉強したいポイントであった。お店の人で、どっからどう見ても女性という人がいた。容姿だけでなく、声も、しゃべり方も、発想も、すべて完璧に女性。「失礼ですけど、あなたは女性ですよね?」「お金かけると、ここまでできちゃうのよぉ♪」「えっ!」。

聞けば、トイレも女子用に入り、誰も怪しまないそうである。うん、むしろこの人が男子用に入ってきたら、ビビる。「女子用はあちらですよ」とか言っちゃいそう。アニマというより、アイデンティティが完全に女性だ。なんか「完璧」って意外とあんまり面白くなかったりするもんだな、とさえ思えた。

2度目は12月10日(土)、セーラー服を着て行った。3度目は1月21日(土)、やはりセーラー服で。もはや常連になりつつある。木を隠すなら森の中、女装子を隠すなら女装バー。って隠れてないか。1月13日(金)には新宿店がオープンしている。
< http://crossdress-shinjyuku.cloud-line.com/
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世間から踏んづけられて、かえって強くたくましくなって生きているという点では、オタクもオカマも同じ穴のムジナなのかもしれない。麦踏みみたいなもんか。ところで、女子高生の真似なんかして短いスカートに生足さらして表を歩いていると、非常に寒い。けど、不思議と風邪ひきそうな気配がまったくない。この健康法、何と呼ぼう。あ、バカは風邪ひかない健康法か。お薦め。セーラー服着て女装バーに行って健康を増進しよう!

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp

カメコ。1月28日(土)には奈良に行ってきた。セーラー服を着て新幹線に乗るのは二度目。前回の9月24日(土)と目的地は同じ。耽美でダークなパフォーマンスグループ「Rose de Reficul et Guiggles」のロウズさんが経営する淑女雑貨のお店「Toe Cocotte (トゥ・ココット)」である。このグループは映像作家寺嶋真里さんの『アリスが落ちた穴の中』に出演しており、寺嶋さんと一緒に行こうという話を去年の8月からずっとしていたのであった。ところが寺嶋さんは上映会や新作の制作などで非常に忙しく、待ちきれなくなった私は9月に一人で行っていた。
< http://toecocotte.com/
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今回、やっと一緒に。京都で学生時代を過ごした寺嶋さんは、そのあたりに知合いが多く、2日前から先に行っていた。で、土曜日に京都駅で待合せた。前回は一人だったので、自分の写真が残っていないが、今回は寺嶋さんに撮ってもらえた。新幹線ホームの下のコンコースで。

修学旅行の季節ではないけれど、一組遭遇した。写真を撮っている時点ではほとんど気づかれていなかったが、その後、堂々と横を歩いたら、めっちゃ笑われた。彼らが後になって、京都で何を見て来たかと振り返るとき、私の姿だけが記憶に鮮烈に刻み込まれ、他が霞んで何も思い出せないなんてことになってたら、すまぬ。しかし、笑うと免疫力が高まり、健康が増進されるというから、その点では私などは表彰されてもいいレベルだと思う。
< https://picasaweb.google.com/107971446412217280378/Kyoto120128
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寺嶋さんの映像収録以降、ロウズさんのグループに新メンバーが入った。Yuwanちゃん(5歳)である。前回行った時点で、すでに一回ステージに上がっているそうである。もうすでにパフォーマーとしての自覚が出来上がっているのか、カメラを構えると、ポーズをとったり、笑ったりと、絵になることをしてくれる。かわいいかわいい。すばらしい被写体。撮れば撮るほどリラックスしてきて、絵が面白くなっていく。

セーラー服着たおっさんがべろべろに酔っ払いつつ、5歳の少女を激写、って図もなんだかシュールな感じがしないでもないが。気づくと300枚近く撮っていた。撮られ慣れてると思ったが、実はそうでもなく、ロウズさんによれば、今まで初めて会った人からカメラを構えられても、あんまりいい表情はしてくれなかったそうである。うん、相性かな。今からツバつけとけば、などと頭をよぎったが、聞けばすでに彼氏がいるそうである。なんと、出遅れたか。
< https://picasaweb.google.com/107971446412217280378/Yuwan110924
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私は日帰りで東京〜京都〜奈良〜王寺〜天王寺〜新大阪〜東京と回ってきたが、このところツイッターを検索しても、目撃情報がめっきり少なくなってきた。こういうオッサンがいるって情報がすでに世の中に行き渡り、あんまり驚かれなくなったってことだろうか。環境がオレに適応してきた、と。