[3552] 追悼・富田倫生さん

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《甘い意識の人の写真は出品させません》

■ショート・ストーリーのKUNI[144]
 探偵
 ヤマシタクニコ

■ところのほんとのところ[102]
 【所幸則 コンテンポラリー フォト ファクトリー】
 所 幸則 Tokoro Yukinori

■デジクリトーク
 セミナー『新しい読書をめぐって...』から
 柴田忠男




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■ショート・ストーリーのKUNI[144]
探偵

ヤマシタクニコ
< https://bn.dgcr.com/archives/20130926140300.html
>
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「安田先輩、いてはりますか」

「おお、そういう声は山田山。ひさしぶりやな。遠慮すんな。あがれあがれ」

「では遠慮なく...わ、びっくりした。先輩、えらいりっぱな椅子を買いはったんですね」

「おお、実はおれ、安楽椅子探偵になったんや」

「え、安楽椅子探偵。ミス・マープルとか黒後家蜘蛛の会のヘンリーとかの」

「おお、それやそれ」

「英語でいうとアームチェアディテクティブ」

「それはちょっと違うな」

「いや、もともとそうですやん」

「アームなんとかディテクティブではなんかごつごつして楽そうな感じがないやないか」

「先輩、ひょっとしたら単に楽そうやという理由で安楽椅子探偵に」

「あたりまえやないか。おれももう定年でリタイアしたんや。再就職しようと思ってもどっちみち口はないやろし。それやったら子供のころのあこがれで、しかも名前からして楽そうな安楽椅子探偵になろうと思たわけや。何しろ今までさんざん苦労したからな。地方公務員の一番ひまな出先機関で毎日することがなくて苦労して、そらもうたいへんやった」

「どこが苦労ですか。まあとにかく、さっそくその椅子を買ったんですね」

「やっぱり安楽椅子探偵になるには安楽椅子が必要やろ」

「いや、それはなんとも。で、先輩、実はぼく...」

「おー、みなまで言うなみなまで言うな。おれは安楽椅子探偵や」

「そうでした」

「見た目は単に安楽椅子に座ってるだけにみえるやろうが、おまえが今困っていることは入ってきた瞬間からわかってた」

「そうですか。さすが」

「おまえ、今やばい組織とかかわってるやろ」

「いえ?」

「隠すな隠すな。さっき家に入ってくるときに何回も後ろを振り返ってた。尾行されてる恐れがあるんやろ」

「いえ、ゆうべ寝違えて首が痛くて」

「わはは。また隠す。それに片手をポケットに入れてるのはそこに拳銃が」

「ハンカチと鼻紙があるかどうかチェックしてました」

「小学校の持ち物検査か。しかしもうごまかせんぞ。おまえの腕に妙な数字が刻印されているのは、何かの暗号。それとも組織の一員であるしるし」

「どこにそんな...あ、これはその、昼寝したとき、うっかりしてチラシを下に敷いてしまいまして。そのチラシの数字がついたみたいですね」

「なんやそうか。おれも『さくら卵10ヶ100円』とは変わった刻印やなと思た」

「全然探偵になってませんやん」

「うーん。やっぱりこの椅子の限界かな。閉店セール最終処分で安かったのをさらに値切った」

「椅子のせいにしないでください」

「すまん。山田山。おれでは力不足や。なんか相談したいことがあったら大中先輩とこに行け。実は大中先輩も安楽椅子探偵になってるねん」

「なんか流行ってるんですか」

「手軽に開業できるもんいうたらそうなるやろ。しかも大中先輩の安楽椅子はかなりゴージャスな安楽椅子らしい」

「それは大いに見込みが...そいうもんやないと思うんですけど、ほなまあ行ってきますわ」

■■

「大中先輩、いてはりますか〜」

「おお、安田の後輩の山田山やないか。遠慮せんとあがれ」

「ありがとうございます。安田先輩から紹介されまして。実はその」

「おー、みなまで言うなみなまで言うな。わしを何やと思てる。わしは安楽椅子探偵やぞ」

「そうでした。実際これはまたすばらしい安楽椅子で。いかにも座り心地がよさそうですね」

「ああ、弘法は筆を選ばずというが、設備投資は大切じゃ。このすばらしい安楽椅子のおかげでわしも優秀な安楽椅子探偵になれるというもんじゃ。ちなみに君は今晩ギョーザと冷麺を食べようと思てるな」

「それはこの、ぼくが持ってるスーパーの袋にギョーザと冷麺が入ってるのが見えてるからでは」

「失礼な。そんなものは見ておらん。今このカードで占ったらそう出たんじゃ」

「探偵じゃなくて占いなんですか」

「すわってやるところが共通してるのでついそうなってしまった。なにしろ座り心地がいいのでな」

「全然真剣に安楽椅子探偵やってませんやん」

「そんなことはない。だいじょうぶや。君の困りごとくらい簡単に解決してみせる...と思ったが...」大中先輩は突然がっくりと首を垂れた。

「どどどどどどうしたんですか、先輩!」

「あー...もうあかん。すまんが君、ここから先は...こ、小島先輩に聞いてくれ。そこの大通りに出て、13本目の電信柱の角を曲がったところに公園がある。その公園の小便小僧の鼻先45度の方角にあるアパートの...2階に小島先輩は...住んで...おられる。ああ...もうだめだ...」

「先輩、先輩、しっかりしてください!」

「ぐー...」

「あの...なんや寝てしもたんや。急になんで...あ、この椅子、マッサージチェアやないか! どうもさっきからゆらゆら揺れてると思たら...マッサージが気持ち良すぎて寝てしもたんか...安楽椅子探偵やのうてマッサージチェア探偵かいな、ほんまにもー。しゃあない。その小島先輩とこに行ってみよ」

■■■

「というわけで来ましたが、小島先輩、いてはりますか」

「おお、その声は大中の後輩の安田の後輩の山田山。安楽椅子探偵になったわしの評判を聞きつけてやって来たんか。はっはっは。あがれあがれ」

「はい...これはまた安田先輩とも大中先輩とも違う安楽椅子で」

「わかるか」

「わかります。どこかで見たことあるようなないような。ところで先輩、実はぼく...」

「おー、みなまで言うなみなまで言うな。わしは安楽椅子探偵や」

「はあ」

「硬いことは抜きで、とりあえずシャンプーしてもらおか」

「はあ?」

小島先輩がレバーを操作すると安楽椅子の背中がぐーんと下がり、足元がぱーっと持ち上がった。

「先輩、これは安楽椅子やのうて美容院のシャンプーチェアやないですかっ」

「わかるか。これが気持ち良うてなあ。君もリタイアしたら安楽椅子探偵になったらええで〜」

山田山くんは怒って帰っていった。そういうわけで山田山くんの困りごとが何かはわからないままである。

【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
< http://midtan.net/
>
< http://koo-yamashita.main.jp/wp/
>

食欲がまだあまりないので、あっさりしたものが中心。焼きなすなんかよさそうだけど自分のためにだけ焼くのもめんどうだな...と思ってたら電子レンジを使った焼きなすの作り方が幾通りもネットにあがってる。なーんだ。さっそくやってみたら、確かに、焼いたものと微妙に違うものの十分オッケーなものができた。以来何回も試している。そろそろ飽きるころかも(笑)


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■ところのほんとのところ[102]
【所幸則 コンテンポラリー フォト ファクトリー】

所 幸則 Tokoro Yukinori
< https://bn.dgcr.com/archives/20130926140200.html
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さて、東京渋谷と香川県高松市との二重生活が始まってもう一年が過ぎました。実際こんなにキツいとは思わなかったというのが[ところ]の素直な感想です。

渋谷を撮り続けながら高松も撮り、それに渋谷の森も加わって、さらに新シリーズまで始まってしまったのです。この作品は「月刊CAPA」で、9月号から毎号連載している中でも発表していきますから、ぜひ楽しんでいただきたいと思います。

そのタイトルがすごく気に入りました。【所幸則 コンテンポラリー フォト ファクトリー】です。[ところ]の私塾の名前も、所塾からこの名前に変えました。
< http://ichikojin.sakura.ne.jp/tokorojyuku/
>

今は作家活動をしながら、私塾もやり、香川県の写真のプロジェクトもやり、けっこう時間のやりくりが苦しいというのが本音です。ここに大学からも声がかかり、[ところ]の身体が保つのか疑問ではあります。

フォト・ラボKからの選抜メンバーと、所塾香川チームによって構成される「k-Lovers Photographers」は、高松駅のシンボルタワーでの初展示も3日前に終え、10月1日からは2回目の展示を、栗林公園の側のカフェ想創の二階ギャラリーでも行います。テレビも取材にくるようで、かなり注目されています。

問題はみんなの意識です。やっぱりまだまだメンバーの気持ちが甘い。3回目の展示は春に東京でやりますが、そういう意識の人は出品させないつもりの[ところ]です。

このたびの所塾スペシャル(毎月第4日曜日/宮益坂)では、モデル二人とヘアーメイクとスタイリストも動員しての撮影がかなり楽しかったですね。

最近そういうことを滅多にしていなかったせいもあり、撮影自体にそう乗り気と言うわけでもなかったのですが、性格なのかな。一生懸命メークしてる姿を見ていると、演出や、服装と場所、キャラクターに合わせた設定をすぐ考えて撮ってしまう。もはや習性なのかもしれません。

スタイリストの設定は、近未来から現代にやってきたという、よくあるものでした。[ところ]は、愛し合う二人は追われる者で、未来から2013年に無事逃げおせた瞬間、顔を見合わせるという演出を、その場で加えてやってもらいました。

今回のクルーのうち二人は香港のスタッフでしたが、個人対個人ではこんなに何仲良く出来るんだよなあとしみじみ思いました。よかったら是非みて下さい。
< https://www.facebook.com/yukinori.tokoro
>

さて、数日前に大学の同期の友人が死んだという電話が入りました。告別式が終わっても[ところ]はなんだか実感がありません。死因は書いてはいけないような気がするから書きません。彼は特定の業界では一時期、すごくもてはやされたフォトグラファーです。[ところ]と同じ雑誌を飾ったこともあります。[ところ]はノージャンルな写真家なので、そういうこともあったのです。

時々道ですれちがっては、車のクラクションを鳴らしあう。その程度の付き合いでした。個展にも二回ほど来てくれたでしょうか。そういえば彼の個展には一度も行ってないことに今気がつきました。[ところ]は、職業フォトグラファーの個展にはほとんど行かないのです。しかし、今は、行ってあげればよかった、と思っています。

一年半ほど前に、渋谷のアトリエにその友人が来たことがあります。突然電話がかかってきて、たまには会いに行っていいか、積もる話でもしようと言うのです。一時間ぐらい話したでしょうか、途中からソワソワし始めて、話のネタになるかなと思って作品のファイル持って来た、と彼が切り出しました。

[ところ]は、そういうつもりはまったくなかった。彼とは同級生としてだけ話がしたかった。いいやつだから、なおのことその思いが強かった。しかし、彼の本当の目的はそれだったようです。多分回りのいつもの人に見せても、ちゃんとコメントしてくれる人がいなかったのではないかと思います。

[ところ]は他人の写真を見てお世辞は言えません。とくに二人きりではなおのこと。誰かいれば、ある程度気遣って話せるようにはなったのですが。

数10枚の写真を見ました。[ところ]には彼が言う「作品」には見えなかった。仕事のファイルとしか思えない。確かにうまいと思います。彼の生きて来た世界の中では、充分上級の写真がそこにはあると思う。だけど、面白いとも思えなかった。撮ったとき、媒体に載った時はそれなりに面白かったのでしょう。

いくつかプライベートで撮ったものも見たのですが、どれも面白いから撮ったと本人が思ってるだけで、[ところ]にはアイデアだけの写真にしか思えませんでした。だから面白くないと正直に言いました。もちろん、もう少しやわらかい表現だったと思うけれど。

彼はしばらく時間をおいて、[ところ]の写真を批判し始めました。そうしないと彼の心のバランスがとれなかったのでしょう。その後、彼は落ち着いたようで、さっきの批判はエールのつもりだったと言って帰って行きました。何に悩んでるのか、もう少し聞ければよかった。今はそう思う[ところ]です。

【ところ・ゆきのり】写真家
CHIAROSCUARO所幸則 < http://tokoroyukinori.seesaa.net/
>
所幸則公式サイト  < http://tokoroyukinori.com/
>


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■デジクリトーク
セミナー『新しい読書をめぐって...』から

柴田忠男
< https://bn.dgcr.com/archives/20130926140100.html
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再録【日刊・デジタルクリエイターズ】 No.0205 1998/12/15発行

※本日の編集後記を先に読んで下さい

12月6日(日)の「日本語の文字と組版を考える会」第12回セミナーは、いつもの文字や組版から少し離れて、「新しい読書をめぐって...」という文芸的なタイトル。隔月開催が原則なのに11月、12月は連続である。おかげで、いつもとは違うタイプの参加者も多かったように思う。

さっそく8日の本欄で、デジクリワーカーのGOGA Yukoさんがレポートしてくれたように、なかなかの盛り上がりをみせて、企画担当の私もほっとして、二次会のビールがうまかった。

富田倫生、松本功、萩野正昭の各氏の語りは力強く、こういう人たちの熱意は貴重だと思う。ところが、セミナー常連参加者で、彼らの語りには違和感を覚えた人もいるようだ。「電子出版の人はどうしてあんなに熱く語るのであろうか」と、軽い拒否反応を生じたという声がある。

それは私が、DTP の初期にマックのエバンジェリストたちに抱いた感覚と似たようなものなのかもしれない。だが、今や私も電子出版の渦中にいるのだから、冷やかにはなれない。萩野さんが繰り返し強調していた「書籍の魅力に匹敵する電子出版を具現化したい」という志には激しく共感する。

出版から志が絶えて久しい。今はとにかく「内容はどーでもいーからすぐに売れるもの」が出版の経営者から求められており、編集者もその方面に血道をあげている。もう何年も前から「バカ編の時代」と言いふらしている私としては、電子出版の方に志を語りあえる真っ当な編集者がいることを期待している。

さて、質疑応答が面白かった。誰もが単純に興味があるのは、無料で公開しているプロジェクトに携わる人たちの生活である。生活費である。

青空文庫の富田さんは「デジタル部活率99パーセントといった状態で、ご指摘の食い扶持という要素に関してはとても困っております」と言う。富田さんはデジタル部活者の私を度々引き合いに出すが、さすがに私は60パーセントを超えると黄信号だと思っている。

青空文庫はバナー広告を入れたり、企業や団体から支援してもらうなど色々なトライをしているが「ただこのくらいでは、関わる者、個々の生活を成り立たせるレベルには到底ならないではないかというと、まったくそのとおりです。まあ、人生の選択は色々あっていいわけで、確かに食い扶持の確保は大変だけれど、死んでないんだからいいじゃないかと、そこは実に無責任に構えているのが現状です」

ああ、トンデモな人たちがここにも。私も部活が多いことをグチったりしているが、傾斜角度がまるで違う。どっちがアホやネン? と問いたい。ひつじ書房の松本さんは、「過去現在のひつじの本の販売の利益を投入することによって書評のページを成り立たせている」と言う。

小零細の出版社がやるべきことなのか。「本当は、業界的なインフラなわけで、ひつじ書房が必ずしもやる必要はないのですが、21世紀の出版社をやろうと思うのであれば必要なことであると思って余裕というより切迫感でやっているのです」と言うが、大変だろうなー。21世紀には岩波を超えるという「決意」を持っているひつじだからがんばれるのだろう。

次が、神奈川インターパブリシング協会会長の高橋さんの質問。「富田さんは本の消失、組版の消失ということをおっしゃった。この会のコンセプトとは正反対で、敵陣に乗り込んできたというかんじなのですが、呼ぶ方も呼ぶ方、来る方も来る方だと思いました。どういうつもりでこちらに来たのか、また企画者はなぜ呼んだのか、真意を聞きたい」もちろん、論議を盛り上げる好意的なオモシロ質問である。

富田さんは「組版は消失してもいいと、私は思います。組む者の個人的な美意識が介在していなくても、テキストは受け取れる。それで通せる領域は、かなり広い。さらに、〈本〉という枠組みに関しても、捨ててかまわないと思うようになりました〜(略)〜

組版というものは、省けるのか、省けないのか。組版は、器をきれいに仕上げる美意識でしょう。これまで紙の器を巡って育まれてきたこうした美意識は、ウェッブページのような電子的な器作りの場でも、大いに発揮されるでしょう。けれどやはり、組版というものは、器を越える上位の概念ではない。あってもいいけれど、なくても通じる領域はある〜(略)〜

テキスト交換の本道は、そうした美意識を剥奪してしまったところに形成していった方がむしろ適当であると考えます」と「日本語の文字と組版を考える会」に対して挑発的ではある。

テキスト交換の本道はシンプルなテキストで持っておいて、組版も選択肢であるというのが富田さんの主張であり、そういう考えがあってもいいじゃないかと思う。テキスト至上主義か? 組版オプション論か? こういう概念的な話ならいいのだが、同じ組版オプション論でも、組版なんか好き嫌いだからどんなのだっていいんだ、組版なんかマニアの世界だという意見が印刷業界内にあるのには困ったもんだと思う。

企画した私としては、どういうつもりで呼んだのかと問われても、別に敵味方じゃないから、議論が盛り上がればおもしろいじゃないですかという曖昧な態度でいたところ、ちゃんとガツンと一発かましてくれた人がいた。会のバックボーン(背骨)である鈴木一誌さんだ。

鈴木さんは「さきほど富田さんは、イヴァン・イリイチを引用するかたちで、歴史の中で本が物神化したとおっしゃったが、テキスト交換も、テキストであることを純粋に追求していくと、テキストの意味内容の物神化が起こるのではないかと思う」とコメントした。物象化? 物神化? こうなると私の頭脳はついていけないのだが、すごく本質的な指摘だという印象はあった。

富田さんは、「電子テキスト自体の物象化、物神化が起こる、そういわれると......それは考えてみますってことですね」と、初めてそんなことを言われたと驚いていた。「それは本当に、痛いところにつながる指摘だと思う。そんなところを突いてもらえるんだから、やはり今日は出てきて良かった」

さらに鈴木さんは「テキスト交換を純化していくと、作品が作者という一点に回収されてしまうという、最終的な構造が厳然としてあるのではないか。それが富田さんの本意であったのか」と指摘した。

「新しい読書をめぐって...」のセミナーは、まだ質問者がいたのに時間切れで幕を閉じたが、言いっぱなし、聞きっぱなしで終わらないのが「日本語の文字と組版を考える会」のしつこいところである。講演内容、質疑応答はわかりやすく構成し直し、参加者の感想などもまとめて会報を年内に発行する(この号は本明朝で組む予定)。ホームページでも公開しようという企画もある。

この一週間は部活率85パーセントで、私の経済も赤信号だ。   1998/12/15


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編集後記(09/26)

●25日15時半から、8月16日に逝去された「青空文庫」富田倫生さんの追悼記念イベントが行われ、ニコ生で生中継された。ちょうどその時間、当日締切の途轍もなくめんどうな仕事(しかもノーギャラw)に血眼だったわたしは、とうとう参加できなかった。そこで、深夜になってから富田さんに関連する書籍や印刷物を手にとって、富田さんを偲んだのであった。

出会いはいつだったか忘れたが、DTPやデザイン、出版関連のセミナーの講師として何度かご一緒したことがある。そして、わたしの「ソーホー(SOHO)者」「デジタル部活者」という名乗りがとても気に入られたようで、いろいろな人を紹介してくれたのだった。

わたしは1996年12月に「日本語の文字と組版を考える会」の設立に参加し、ほぼ隔月で毎回200人を超える参加者があったセミナーを企画、運営した。これもノーギャラの「部活」だw。活動の第一期は1998年12月までで(第二期はわたしは運営から下りる)、毎回A4判文字ぎっしり24ページ前後の会報を制作していた。一回3時間以上のセミナーの様子をテープ起こしして原稿にまとめていたのだから、当時のわたしはむちゃくちゃ精力的だったのだ。その冊子は合本され280ページ超の大冊になった。第12回「新しい読書をめぐって......」では、富田さんに講師をお願いした。久しぶりにその回の会報を読んでみた。

メインスピーカーは、富田倫生、松本功(ひつじ書房)、萩野正昭の各氏。それぞれの語りは力強く、会場は熱気にあふれていた。最後の質疑応答では、さらにヒートアップ。「デジタルテキストの交換こそが本道で、組版は消失していい」という富田さんの意見に対し、鈴木一誌さんが鋭く突っ込む。富田さんは「テキスト交換の太い幹は、組版という美意識を排除したところに形成するのが賢明である。本道にはシンプルテキストに限りなく近いものを置くべきだ」と主張してゆずらない。すごかったな、DTP信者の巣窟ともいえる「日本語の文字と組版を考える会」に単身乗り込んで、この主張。

しかし、つくづく思う。わたしの頭脳の劣化だ。この会報をじっくり読んでみたが、もはやよくわからないところがある。原稿をまとめたのがわたしで、スピーカー本人にも手をいれてもらったもので、当時は100%理解して編集していたものである。ほかのページもパラパラめくってみると、セミナーのようすがみごとにわかる上手な編集がなされている。15年以上前にわたしがやった仕事なのだ(部活だけどw)。しかし、いまは......。富田さん、ありがとうございました。ご冥福をお祈りします。(柴田)

< http://www.aozora.gr.jp/cards/000055/card56499.html
>
青空文庫 富田倫生「本の未来」
< http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130925/k10014805581000.html
>
富田倫生さん追悼シンポ 本の未来は[NHK NEWS WEB]
< http://on-deck.jp/archives/751
>
インタビュー:「青空文庫」呼びかけ人 富田倫生氏〜日本が誇る「青空文庫」の軌跡〜[ON Deck]
< http://d.hatena.ne.jp/heimin/20130820/p1
>
メキシコの夏目漱石[平民新聞]


●メモが汚い。字も図も汚い。自分さえわかればいいと思っていて、書き取るスピード優先。電話口で向こうの要望を聞きつつ、自分にわかるように図にしていた。あれをここに、これをそこにして、あーここはアレの技術を使いましょうとか話していた。

一通り話した後に、ワイヤーに起こしたいので、そのメモをくださいと言われた。仕事てんてこ舞い舞い中で、清書する時間もパワーもない。恥を忍んで、そのきったないメモをiPhoneで撮影し、メールした。ここまで字は下手じゃないんですよ、図もね、もう少し直線にできるんです、と言い訳したくなったがこらえた。遠い未来、私のメモを見た宇宙人が、解読に悩むとしたら申し訳ないわ。(hammer.mule)