[3939] 新入り3Dプリンター ProJet1200 は物静か

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《ことえりのあほさ加減って、もう(以下略)》

■ショート・ストーリーのKUNI[177]
 ママはロボット
 ヤマシタクニコ

■3Dプリンター奮闘記[62]
 新入り3Dプリンター ProJet1200 は物静か
 織田隆治




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■ショート・ストーリーのKUNI[177]
ママはロボット

ヤマシタクニコ
< https://bn.dgcr.com/archives/20150702140200.html
>
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ぼくのママがロボットだということに、ぼくはとっくに気づいていた。いつごろからかおぼえていないけど。

ぼくはママがきらいじゃない。ママがいやな人だと思ったことも、いなくなればいいと思ったこともなかった。

ママは夜明けの空のような澄んだブルーのひとみをしていた。赤みがさして、ぷっくりふくらんだほほは、とれたてのすもものようだった。ぼくに、それはそれはやさしく、子守歌を歌ってくれた。

雨のこどもはなないろの虹
太陽のこどもは草をわたる風
みんなみんな おやすみ  おやすみ

だけど、どんなにやさしくしてくれたって、ママはロボットなんだ。

美しいひとみもほほも、つくりものなのだ。

それがどうした、っておもう。

ロボットだっていいじゃないかと。

でも、そんなにかんたんなことじゃない。

たとえば、ふだんのちょっとしたしぐさとか、まなざしとかに、ぼくは「あっ」とおもうことがあるのだ。シリアルの中にたった一粒まぎれこんでいた砂を発見したときのように。ああ、ママはロボットなんだ、ぼくとはちがうんだ、と。

そのときのきもちを説明するのはとても難しい。けど、それはなにかしらけっていてきなことで、そういうとき、ぼくはそれに続けて「やっぱりそうなんだ」「だからそうなんだ」とおもってしまう。

砂粒はひとつのひきがねになり、毎日のいろんなことがじゃりじゃりしたものに感じられる。着ている服のどこかがぬれたままいつまでもかわかないような、落ち着かないきもち。

「あっとおもったこと」は、そうしてぼくとママのあいだに入りこみ、いつまでもかげをおとすのだ。

パパはもちろん、ロボットじゃない。パパはいつも、ぼくを心からあいしてくれる。ぼくはパパといるとあんしんできる。パパの笑顔はぼくが、こうあってほしいとおもう笑顔だし、パパの声は、ぼくがこんな声がいいなとおもってる声、のような気がする。

ぼくはずっとパパの声を聞き、パパの笑顔を見て、夜寝る前にはできたらパパに本を読んでほしいとおもっている。ママじゃなく。

ぼくがママはロボットであることに気づいたころ、ママはママで、ぼくが知っていることに気づいた、と思う。

だから、ママは時々、ぼくをぎゅっと抱きしめ、「ごめんなさい」と言った。

そして続けて「でも、ママはあなたのことをだれよりもあいしてるの」「しんじてちょうだい」
そう言った。

ごめんなさい、ママ。ママが悪いんじゃない。すべては、ママがロボットであるからなんだ。

でも、ぼくはロボットのママを受け入れた。ママのいうことをきき、ママが出してくれた服を着て、ママがつくってくれたものを食べ、ママといっしょに公園やショッピングセンターに出かけた。表面上はなにも問題はなかったはずだ。


ある日、パパがぼくを呼んだ。そして、こう言った。

これから、ママのところに行く。でも、決しておどろいてはいけない。ママは、どんなになったって、ママなのだから、と。

ぼくはどきどきしたが、もちろんうなずいた。

ぼくとパパは車に乗り、遠い街に行った。ママは大きな白い建物の中にいた。病院だよ、とパパは言った。

病院の中の部屋のひとつにママはいた。ベッドに横たわり、目を閉じていて、からだのあちこちからたくさんのケーブルのようなものが出ていた。

ママは、やっぱりロボットだったのだ! とうとう故障して、修理されることになったのだ。たくさんのケーブルがその証拠だ。

かわいそうなママ。ママがロボットで、いよいよこわれそうだなんて、だれがそうぞうしただろう。それを知ったらきっと、みんな声も出ないほどおどろいたにちがいない。

かわいそうな、みんな。

かわいそうな、パパ。何も知らないで。

だいじょうぶだよ。ぼくがなぐさめてあげる。ぼくはぜんぶ、とっくのむかしから知っていたんだから。

ぼくとパパは、それから毎日のように病院に行った。ママは目をとじたまま、機械がコツ、コツ、コツ、ゴーッと鳴るのにつれて規則正しい呼吸をしていた。

パパはふだんと同じように話しかけたりしたけど、もちろんママは何も答えなかった。ぼくはパパをなぐさめたかったけど、いざとなるとどうしていいかわからなかった。

その日もぼくとパパはママの病院にいた。パパが、何か用事ができて部屋を出て行った。ぼくに「ちょっとここで待ってるんだよ」と言って。

それでぼくはママのベッドの横にひとりで立っていた。ママの顔を見ようとしたときだ。ずっととじたままだったママの目が、急にぱっと開いた。そして、ぼくの目と合った。

ママの目はぼくを見ていながら何も見ていなかった。ぞっとするほど冷たく、すきとおって、どこまでも深く、ぼくを誘うようだった。何もないところに。

ぼくは叫び声をあげたいほどこわかったが、声がでなかった。しんとした部屋の中にコツ、コツ、コツ、ゴーッ、という音がひびきわたった。ぼくは恐怖のなかでおもった。

──もう、ママは……いや、このロボットはなおらない、絶対なおらない!

ぼくはママのからだにつけられた何本ものケーブルや管を、一本一本、引っこ抜いた。抜き方がわからないものもあった。ぼくはふるえながら、線がつながっている四角い箱を、そばにあった丸椅子でむちゃくちゃに打った。

──こわれたロボットはもうなおらないんだ、ぜったい。だから、こうしたって、いいんだ! いいんだ!

気がつくとパパがそばにいた。

──何をしてるんだ。


ママはそうして、死んだ。

ぼくは、ママはこわれたのだと思うけど、パパもほかの人も、ママは死んだという。どちらが正しいのか、ぼくは知らない。

いろんな人がやってきた。パパの妹とか、お兄さんとか、しんせきだとかいう人たち。そして、パパと話し合った。

──あの子をいつまでおいておくつもりなの?

──あんなおそろしいことをした子を……いくらなおる見込みがなかったとしても……。

──どこかにひきとってもらえば……。

でも、パパはぼくをどこにも行かせなかった。

──あの子は私がいないとだめなんだから。


それから二年がたったある日、パパに呼ばれてリビングルームに行くと、見たことない女の人がいた。パパが言った。

──新しいママだよ。

新しいママはぼくに笑顔を向けた。一瞬で部屋中の空気をあたたかくさせるような笑顔。その笑顔だけで、ぼくはママが大好きになった。ママは手をひろげ、ぼくをだきしめた。

──パパからすっかり話は聞いたわ。つらかったでしょう。

ぼくは抱きしめられるのが気持ちよくてうっとりしてしまった。

──あなたが悪いのじゃないの。設定のせいなのよ。

何を言ってるんだろう。設定?

──あなたはパパの気に入るように設定されていたの。あなたの考え方、感じ方はパパを基準にされていた。だからパパと気があうのは当然だし、ママと合わなかったのは、パパとママがあまりうまくいってなかったことの反映と思われるんですって。

意味がわからなかった。

──でも、これからはうまくいくわ。私とあなたはロボット同士。なかよくしましょう。いえ、なかよくできるように設定されているから心配ないわ。パパは、もう人間はこりごりなんですって。私たちなら病気にもならないし……。


【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
< http://midtan.net/
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< http://koo-yamashita.main.jp/wp/
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最近、時々、このデジクリの原稿をiPhoneで書いたりしていたのだが、意外と書きやすい。画面が小さいのになんで? と自分でも思い……iPhoneの予測変換が賢いせいだ! と気づいた。それにひきかえ、ことえりのあほさ加減って、もう(以下略)。

というわけで、久しぶりにAtokを導入。使えない、ストレスたまる一方のことえりには引っ込んでもらうことにした。


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■3Dプリンター奮闘記[62]
新入り3Dプリンター ProJet1200 は物静か

織田隆治
< https://bn.dgcr.com/archives/20150702140100.html
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7月になりました。今月末は「ワンダーフェスティバル」です。

詳細は書きませんが、模型、フィギュアの展示即売会、といったところでしょうか。詳細はこちら↓
< http://wf.kaiyodo.net/
>

僕はもう七年くらいディーラーという立場で参加しています。年に二回行われているんですが、毎回色々なものを作って持って行きます。

最近は、本業が忙しくなり、なかなか手の入っているものが作れない状況になっていて、少しストレスを感じ出してきています。

まあ、仕事でも模型やフィギュアを作り、趣味でもやってるんだから、幸せって言えばそうなんでしょうけどね。

「仕事ではなく、趣味で自分の作品を作りたい」という気持ちは結構大きいんだなぁ、と思います。

「作りたいもの、好きなものを作る」。これって凄く大事な事ですね。

毎日ちょっとでも時間を作って、出来るだけ制作する、ということができてればいいんですけどね。そうは言っても、案外仕事で作っているものでも、結構楽しんでやっているんですよね。

そこで満足しちゃってる自分がいるのかも。でも、これって自分本来の作品じゃないんですよね。色々作家活動をしている人を見ると、すごく羨ましくなってしまう今日このごろ。

というわけで、ワンフェス頑張りますよ。

で、本題の3Dプリンターなんですが、少し前に ProJet1200 という機種を事務所に入れました。この機種は、光で硬化する液体樹脂で積層プリントする3Dプリンターです。

事務所では、B9creator という、同じく光硬化タイプのプリンターを一年くらい使ってきたんですが、もっと精度が欲しくなったということと、熱融解式のプリンターが増えてきて、狭い事務所では設置する場所がなくなってきましたので、この B9creator と ProJet1200 を入れ替えることにしました。

ProJet1200 の造形範囲は43×27×150mmとなり、B9creator は、57.6×32.4mm、104×75.6mm、高さは約200mmの二つのタイプが選べる仕様になっていました。

フィギュアや趣味でプリントするには、B9creator の方が向いているということになります。

また、新しく出た B9creator v1.2では、三種類の選択が出来るようになっています。これは、プロジェクターの解像度を調整することで、より細かい出力が可能になっているようです。

ProJet1200 の造形範囲がかなり狭いんですが、僕の場合は、ほとんどを熱融解式プリンターで制作し、細かい部分だけを光硬化タイプのプリンターで出力しているので、これくらいのサイズでも問題ないわけです。

ProJet1200 だけですと、使用用途は歯科技工やアクセサリーなどに限定されてしまうサイズですね。

で、造形精度を見ると、かなり ProJet1200 が勝っていて、本体サイズも小さく、スペースを取りません。

そういうふうに、自分の使用する用途によって、いろいろと機種を選定する必要があるわけです。これ、けっこう重要で、せっかく買ったのに、自分の用途には向いていないってこともあるようです。

さて、話を戻しますが、ProJet1200 を使ってみて、まず、驚いたのが「動作音」。B9creator は、造形物をシリコン面から剥がす際に、かなり強引にテーブル(液体の入ったプール)を動かします。

その際、モーターの駆動音が凄いんですよね。壊れてる? って思うくらい。慣れて来ると平気なんですが、初めはびっくりしました。そんなB9creator に比べて ProJet1200 は驚くほど音がしません。

これは、造形物をテーブルから剥がす際の方法が違うからでしょう。本当に動いてるのか? って思うほどです。

B9creator は窓があり、中身が見えますので、どのあたりまで造形されているか? 失敗していないか? なんてことを確認できますが、ProJet1200 はドアが閉まると、内部が見えない仕様になっています。。

ちゃんと出来ているのかなぁ……と不安にもなりますが、だいたいはうまく出力してくれています。

この、光造形タイプのプリンターは、その造形方法の特徴で、形状や出力方向などのミスで、数回に一回は出力に失敗してしまったのですが、ProJet1200 はほとんど出力の失敗はありません。

これ、多分、この樹脂プールから、造形物を剥がす際の手法で決まるんじゃないかな? と思います。もちろん、形状と出力方向の問題もありますが……。

ProJet1200 の樹脂プールの底は、やわらかい素材になっています。一方、B9creator や、Form1 といったプリンターは、透明アクリルのプールの底に、透明シリコンを貼った状態になっており、底面が「そこそこ」固い仕様になっています。

その場合、造形されたものを剥がす際、ある程度の力をかける必要があります。B9creator は横方向に引っぱり、Form1 は斜めにプールを傾ける仕様になっているようです。

ProJet1200 は、底面がやわらかいパックになっていて、それをガラス面に押し付けているようで、剥がす際にもあまり力がかからないようになっているんだと思います。

違ってたらすみませんね……。

ということで、光造形のプリンターにありがちな「造形物の落下」を抑えているだと思います。よく出来ていますね。

ProJet1200 の最大のネックは、その樹脂パッケージの値段です。B9creator や、Form1 などでは、だいたい1kgで二万円くらいなんですが、ProJet1200 は、30gのパッケージで四千円を超えます。

これはかなり痛いんですが、僕のように少しだけ、細かい精度のものが欲しい場合や、歯科技工やアクセサリーを出力する場合は、これで充分なんですね。

この ProJet1200 とほぼ同じスペックの MiiCraft というプリンターがあります。こちらは、500mgでのパッケージになっているようです。

この液体の光造形タイプのプリンターの素材ですが、一度開封するとやはり鮮度が気になります。どんどん造形するような使用頻度でしたら、多めのパッケージでもいいと思いますし、僕のようなたまにしか使わない人にとっては、案外30gくらいのパッケージでいいのかもしれませんね。

こういうふうに、同じ種類のプリンターでも、いろいろと仕様が違います。自分のニーズに合ったプリンター選びが、上達への近道なんでしょうね。

来週は熱融解式プリンターの素材アレコレについて書いてみようかと思っていますが、なにせワンフェス直前なので、どうなることやらです。

さあ、頑張りますよ!


【___FULL_DIMENSIONS_STUDIO_____ 織田隆治】
oda@f-d-studio.jp
< http://www.f-d-studio.jp
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編集後記(07/02)

●梅雨といっても連日雨が降るわけではなく、むしろ降らない日の方が多い。カンカン照りではなく曇っていた方がいい。微風だったらなおいい。自転車で走るときのコンディションの話。何年ぶりかで自転車乗りに戻ったわたしだが、もはや前期高齢者、かつてほどの体力も集中力もない。むしろ危険な行動といってもいいかもしれない。そこで、自転車乗りのリスクに備える、手続きが簡単な自転車保険(交通事故傷害保険と個人賠償責任保険)に加入した。条件は保険料が安くて、ネット上の手続きで済むこと、クレジットカードではなくコンビニ支払いができること。比較サイトがあったのですぐに見つかった。

手続き開始。最初にひっかかったのが、携帯電話番号入力である。携帯電話が稀少価値だった初期から使っていたし(会社員なのに他社から提供されて)、フリーの初期も自前で(それが当たり前)使っていた。やがて急ぐ用もなくなって、いつの間にかやめた。いまどきケータイを持たない人がいるんですよ。携帯電話番号入力しなかったから、エラー告知が出て前に進めない。サポートにメールしたら、固定電話番号でいいですとのこと。自分の分の手続き完了、さて妻の分をやろうとマイページに行き追加契約をしようとしたら、わたしの情報しか出ないので、前に進めない。またサポートにメール。

「契約者と被保険者は同一である」欄で「いいえ」をご選択ください、ということで一件落着。ところで本人確認はどうしたかというと、保険証をスキャンして画像を送ることでOK。ローソンのなんやら便利な端末から、入金の申込書を出力し、レジで支払ってすべてが終了だ。いままでの保険契約は、担当者と対面で書類作成がめんどうくさかったが、ネットとコンビニで一時間もかからず済んでしまうのだからすごい時代になったもんだ。印鑑も使わない。レジ脇のショーケースに「ゲンコツチーズメンチ新発売」とあったので二個買った。弁当のディスプレイを眺めると、けっこう旨そうだ。弁当屋さんより安い。

今日は曇天のはずなので、川口市の新郷図書館に行く予定だ。図書館のサイトで予約した本が準備できましたというメールが来たが、受取館を間違ってチェックしていて、ずいぶん遠くの図書館に配本されてしまった。転送手続きをやれば数日後にいつもの図書館に来るのだが、今回は自分で取りに行く。地図で見たら、先日行ったばかりの安行ではないか。別のルートで行くことにした。5月始めごろは半ズボン(とはいわないか、ハーフパンツか)で白い足を出しているのが恥ずかしかったが、どうにかサマになってきた。自転車で走っていて、嗚呼アレが欲しいと思う。「孫の手」だ。背中がかゆい……。 (柴田)


●マラソン続き。しばらく待っていると男性がコースアウトしてこちらに寄ろうとしたが、女性の列を見てUターンしていった。並びにくかったのかな。

何気なく顔を触るとジャリジャリした。都心だもんね〜と都市の埃だと思ったのだが、手を洗っている時に鏡を見たら、たぶんこれは塩だろうと。黒い帽子だったのできっと白くなっているわと思いつつ。

結局ここで20分程度のロス。これが痛かった。キロ7分だと3キロ走れたはずだもの。コースに戻ると、身体は休息できて楽になっていたが足が重い。並んでいる時になるべく足を動かしていたけれど、十分ではなかったようだ。

そして次のトイレは1キロも離れていなかっただろうコンビニ横に2個。しかし誰も並んでいなかったという……。男性がコースをはずれてすぐに入って行った。「皆が同じタイミングでしたくなる」は正しかった……。続く。 (hammer.mule)