[4018] パソコンの時代が本当に終わりに?

投稿:  著者:



《二度目の人生はリスクをとる》

■挑んで死にたい、ダンボールアーティストとして[13]
 退職に至るまでの心境
 いわい ともひさ

■グラフィック薄氷大魔王[454]
 「iPad Pro、手に入れられず(泣)」他、関連小ネタ集
 吉井 宏




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■挑んで死にたい、ダンボールアーティストとして[13]
退職に至るまでの心境

いわい ともひさ
https://bn.dgcr.com/archives/20151118140200.html

───────────────────────────────────

●数年前から抱いていた退職の気持ち

前職には10年間勤務し、数々の貴重な経験をさせてもらいました。社内外の素晴らしい人達と知り合うこともできました。この会社での経験がなければ、今の自分はありません。本当に感謝しています。

一方で良いことばかりだったわけではありません。会社の方針と自分の考えが合わず、ストレスを感じることもありました。

会社の方針とは無関係に自分が本当にやりたいことはこれなのか、このままで人生が終わってしまって良いのかということも常に考えていました。

「仲の良い友達とは一緒に会社を作るな」という話を良く聞きます。理由は、必ず方針が合わなくなって仲違いしてしまうからです。

極めて良好な関係の人達同士ですら、こういうことが多いというのですから、誰かが作った会社に多くの人が集っているという状況で、何もかもが自分の思い通りにいくはずがありません。

会社が良いとか悪いとかという話ではなく、自分が思い描いたことを妥協なく実現しようと思ったら、自分で会社を作るしか方法はないのです。

少なくとも私はそのように考えていました。このような考えは、前職でお世話になる前から持っていました。

今どきは大企業に就職しても、一生安泰とはいえないということを多くの人が言いますが、それでも会社という組織に属することによって、経済的にはかなりの安定感が得られます。

また、会社員は会社が倒産しても負債を背負う必要はありません。

前職には最初から退職するつもりで入社したわけではありません。会社という仕組みの、良いところも悪いところも理解した上で入りました。

ただ、固く心に決めていたことがありました。それは、会社勤めはこれで最後にするということです。この会社を退職するときは独立という選択肢しかありませんでした。

●退職したくてもできないもどかしさ

2014年12月末日に退職する数年前から会社を辞めたいという思いはありました。

一つの会社にしか勤務したことのない人にとっては、退職・転職ということ自体がとても大きなことであり、とくに初めてという場合は簡単に動くことはできないでしょう。

私の場合は過去に何度か転職も経験していて、会社を変わること自体への抵抗感はありませんでした。

転職ならすぐに次を見つけて動くことはできました。しかし、今回は自分の中にはその選択肢はありませんでした。

IT業界でよく聞く独立の形として、「受託」と言われるものがあります。これはシステムエンジニアが他社からシステム開発などを請け負うことを指します。

受託の仕事をしながら資金を蓄え、徐々に自身のやりたい仕事を増やしていく方法です。システム開発の仕事は多くの収益が得られるため、経済的なリスクを最小限に抑えて独立できます。

すぐに収益につながる仕事はシステム開発だけではありませんが、いずれにしても私には、退職後すぐに前職と同等に稼げるような特別な能力は持ち合わせていませんでした。

このような状況では独立しようにもできません。退職しても開店休業状態では、失敗するために会社を辞めるようなものです。

しかし、2014年にテレビ局とディズニーから、立て続けにダンボールアート制作の仕事をいただいたことをきっかけに、これを活かして独立できないかと考えるようになりました。

ダンボールアート制作で生計を立てようと思ったわけではありません。紙やダンボールという素材で製品開発を行い、それを販売していけないかと考えたのです。

紙は加工もしやすく原価が安いことに加え、リサイクルがしやすく、製造・廃棄時の環境負荷も比較的低いという利点があります。

様々な可能性が頭に浮かび、独立したいという気持ちが日増しに高まるようになりました。

それでも、退職することをすぐには決められませんでした。経済的な不安、家族に理解を得ること、失敗への恐れなど、負の感情も芽生えました。

元々、とても堅実な性格ということもあり、不安定な状況に陥ることはできる限り避けたかったのです。

それでも最後は独立への強い思いが勝り、自分を動かしました。

●一度だけの人生を悔いなく終えたいとの気持ちが勝った

2014年、退職を決意したときの年齢は42歳でした。これぐらいの年齢になると、同年代ですでにこの世にはいない人達も増えてきます。

病気であったり、自ら命を絶っていたりと、原因や理由は様々です。一つだけ確実なことは、望もうと望むまいと人間はいつか死ぬということです。

それまで生きてきた42年間を振り返ると、大きな苦労もなく生きてくることができました。海外旅行や出張により、国内外の様々な場所も見てきました。

また、インターネットの普及により入ってくる情報量も増え、便利で豊かな生活ができています。

文明が今ほど発達していなかった時代を懐かしみ、昔は良かったなどという人もいますが、犯罪率の低さや医療技術の発達、住環境の充実などを考えると、今の日本は過去のどの時代よりも恵まれていると思います(精神的な部分は別として)。

42歳まで大きな怪我や病気もなく生きてこられたこと自体がとても感謝すべきことであり、100年、200年前の時代ならば、すでに一生を終えていてもおかしくはない年齢です。

80歳まで生きることができるとしたら、40歳までは最初の人生で、その先は二度目の人生。

一度目の人生は手堅く、冒険の少ない人生でした。二度目の人生はリスクをとって、思い切りやりたいと考えました。もちろん、家族や周りの人達には迷惑をかけないという前提で。

友達の言葉も背中を押してくれました。一番効いたのは、すでにクリエイターとして大活躍している友達から言われた「(クリエイティブな仕事で生きていくのは)満たされ方が違う」という一言。

元々持っていた強い思いを自分自身が封じ込められなくなり、家族の了解も得て、2014年10月に会社に対して退職の意思を伝えました。

●色々な覚悟はしたが無計画に退職したわけでは無い

ここまでの内容を読むと、最後は無鉄砲に飛び出したように思われるかもしれませんが、決してそういうわけではありません。

もちろん、独立後は会社勤めのように毎月決まった給料がもらえるわけではないので、リスクはあります。覚悟を持って退職しました。

もしも、マンションや持ち家を購入して30年ローンを組んでいたり、子どもがいたりしたら、この決断はしませんでした。

負債(ローン)はなく、始めようとしている事業が大きな設備投資を必要とするものではないなど、不安要素は最小限に抑えつつ、健康で体力もあり、長年の会社勤めによって得た貯蓄や人脈がといった強みがあったからこそ、挑戦できたのです。

退職した友達が定職にも就いていないにもかかわらず、特に困った様子もなく、以前と変わらず生活をしているということがあり、詳しく話を聞いていみると実は経済的にとても恵まれた家庭環境だったことがわかりました。

このようなことは往々にしてあります。誰かに勧められたからといって、自身の状況も踏まえずに独立してしまえば、あっという間に困窮して、家庭崩壊ということにも成りかねません。

大きな決断は自分自身の状況を冷静に考えた上で、自らの考えで行わなくてはいけません。そうしなければ、上手くいかなったときに大きな悔いが残ることでしょう。

自分の人生は自分で考えなくてはいけないのです。私は自分の挑戦がどのような結果になったとしても、背中を押してくれた友達に感謝することはあっても、恨むことはありません。

彼らの言葉は後押しにこそなりましたが、決めたのは自分であり、全ての責任は自分にあるからです。

もちろん、失敗するかもなどという弱い気持ちで独立を決めたわけではないので、今は自身の成功を信じて疑っていません(笑)

次回は、独立後に役に立った営業経験についてお伝えします。


【いわい ともひさ/ダンボールアーティスト】
Blog http://iwaimotors.com/blog/

Twitter https://twitter.com/iwai

Behance https://www.behance.net/iwai


今週の一言:10月に激しく足首を捻ってしまい、地味に続けていたランニングを二週間ぐらい中断しました。気を付けねばですね(>_<)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■グラフィック薄氷大魔王[454]
「iPad Pro、手に入れられず(泣)」他、関連小ネタ集

吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20151118140100.html

───────────────────────────────────

●iPad Pro、まだ手に入れられず(泣)

発売日の11月11日は、AppleのWebサイトを監視しててもちっとも発売にならないし、近くの量販店に行っても入荷未定だし。夕方になってWebで発売開始されたものの、スペースグレーだけ納期が遅いのはともかく、Pencilが一〜二週かかるって! やめた。

翌日も量販店に行ったら、普通にiPad Proは売ってたw ただし、スペースグレーの128GBだけない(フチが白いと画面が暗く見えるので、黒フチが好きなのだ)。Pencilも未入荷。やめた。Pencilがあったらホワイトでもいいかなと思ったけど。

とりあえず、今やってる立体制作の目処がつくまでは、焦って入手しようとするのはやめることにした。っていうか、本体だけでペンがないんじゃ蛇の生殺し。同時に入手できるまで意地でも待つ。12月に入るころには普通に買えるでしょ。

と思ったら、Pencilが四〜五週出荷に延びてるw この分じゃマジに年内に買えない可能性も出てきた。で、ヤフオクに35,000円とかで出てるぞ。もともと品薄な上に転売屋か?

某量販店の通販で注文した友人は、13日未明(24時間配達だって!)には本体とPencil両方入手できたんだって。ぬかったー。

●サイズや重さ

「でかい」とか言ってる人もいるけど、ペンを主役とする場合の実用的にはまだまだ小さすぎる。13インチCintiqでも小さすぎるのだ。せめて17インチiPad希望。

僕的使用においてはiPhoneで十分だから、iPadを持ち歩くことはほぼない。部屋でのみ使うためのデバイスだったら、サイズや重量を遠慮することないじゃん。もっと大きくしてくれー。

●ツルツルカチカチはどうか?

ガラスにプラスチックのペンで描けば「ツルツルカチカチ」なのは当然。実際使ってみた人も「ツルツルカチカチだから吉井さんは苦手かも」って言ってる。

やっぱそうなんだろうなあ。Cintiqでやっていたように厚手のビニールや樹脂板などを貼って、摩擦を調整できるのなら工夫のしようもあるけど、iPad Proはどうなんだろう? そこが最も気になる点。

もし、ツルツルカチカチのせいでiPad Proがスケッチやドローイングのメインツールとならなくても、ペンが使えることで便利さが増すのは確実。大きめの画面で電子雑誌を読むのも楽しみ。

●Pencilが品薄

それにしてもPencilのここまでの品薄はどういうこと? ペンが使えることが一般の人にはそれほど魅力的なセールスポイントではないから、数を用意してなかったのかもしれない。

でも、真っ先にiPad Proを入手したい人の動機は「画面が大きくて老眼にやさしいから」では決してないはずだw サイズが大きくなったのはオマケで、Pencilが主役なのに。

ひょっとして、従来のiPadユーザーがPencilを使えると思い込んで買ってるのが品薄の原因のひとつだったりしてw

Pencilを付属品にしなかったのをうがった見方をすれば、Magic Mouseの右側の初期設定がわざとらしく右クリックにしてないのと同様、ペンを否定していたAppleのいじらしいカモフラージュなのかもw

●パソコンの時代が本当に終わりに?

「Surface Proは一台だけで全部済ませられる。iPad Proは他のパソコンといっしょに使う前提」という記事もあったけど、用途によってはiPad Pro一台で全部済ませられる可能性もあるんじゃないかと思ったりする。

1週間使ってわかった魅力「iPad Proは悩ましい存在」
http://ascii.jp/elem/000/001/076/1076982/


僕的には、2DのイラストレーターだったらiPad Proで完結できる可能性大きいかも。ファイル管理が不便というのもあるけど、iCloud他のクラウド保存前提でやり方を整えればいいわけだし。どういう場合にiPadで済ませられないのか考えると、一般の用途ではもうほとんど支障ないんじゃない?

MacやPCが今すぐ消え去るわけじゃないし、無理にiPad Proだけで仕事しようとも思わないけど、「仕事や生活がこれの登場の前後で明らかに変わった」ってものにはワクワクする。本当に変わるかどうか確かめてみたい!

●iPadと紙

デザイナーたちは、仕事にiPadをつかっていない:調査結果
http://wired.jp/2015/11/11/sorry-apple-turns-out-designers-dont-use-ipads/


『回答者の64パーセントが「(時代は2015年だというのに)いま最も重要なツールは、鉛筆と紙だ」と答えていることだ。』

デジタル時代になっても、最短距離で考えを書き留められるのは紙と鉛筆(ペン)。それでも、鉛筆と紙以上に便利なものはないものかと誰もがずっと探してた。iPadもその有力候補だったんだけど、ダメだった。

ようやく、iPad ProのPencilが、鉛筆と紙一人勝ち状態を揺るがすかもしれないという期待。使われていないというiPadとiPad Proはペンの有無でぜんぜん違う。

……とはいえ、大量にラフを描かなくちゃいけないからと禁を破ってCintiq13インチを再購入したのに、ほぼ使わずに鉛筆と紙で済んじゃったんだよなあ。

ブラッシュアップはデジタルが向いているとも言えるけど、やはり紙と鉛筆以上に総合的に便利なものないもんね。 Appleは鉛筆と紙を発売すればいいのに。あ、ボールペンなら持ってるw そういえば、フリクションボールは新しい時代の鉛筆になるのかも。


【吉井 宏/イラストレーター】
HP http://www.yoshii.com

Blog http://yoshii-blog.blogspot.com/


パリ同時多発テロ事件。仕事関係はじめ、知り合いがけっこういる。こんなとき、「Facebook災害時情報センター」という仕組みがあるのね。全員の安否確認ができて安心した。

・パリの老舗百貨店Printemps 150周年記念マスコット「ROSEちゃん」
http://departmentstoreparis.printemps.com/news/w/150ans-41500


・rinkakの3Dプリント作品ショップ
https://www.rinkak.com/jp/shop/hiroshiyoshii


・rinkakインタビュー記事
『キャラクターは、ギリギリの要素で見せたい』吉井宏さん
https://www.rinkak.com/creatorsvoice/hiroshiyoshii


・ハイウェイ島の大冒険
http://kids.e-nexco.co.jp


・App Store「REAL STEELPAN」
https://itunes.apple.com/jp/app/real-steelpan/id398902899?mt=8



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
編集後記(11/18)

●菅原道仁「死ぬまで健康でいられる5つの習慣」を読む(講談社、2015)。我ながらこういう類いの本をよく読むと思うのだが、わたしが関わる同窓会ブログでは、こういう本を取り上げるとアクセスが増えるからだ。筆者は緊急の脳疾患の専門医を経て脳神経外科クリニックを開設、毎月1500人以上の診療から「人生目標を考える医療」の診療スタイルを確立した。たくさんの患者と接する中で気づいたのが、以下の五つの習慣が大事だということだった。1)ワクワクする人生の目的をもつ 2)頭の中の健康スイッチを入れる 3)容姿に気を配る 4)小さい不調も放置しない 5)死に至る病気を予想する

2)がわかりにくいが、「人は健康を意識したその瞬間から健康になれる」ということだという。今日から、日々の習慣の一つひとつを見直し、悪習慣は取り除き、良い習慣はキープしたり取り入れようという気持ちを持つだけで、残りの人生は大きく変わるらしい。五つの習慣それぞれについて分かりやすい解説があるが、すべてをやる必要はない。まず、「この悪い習慣を続けていたら、この先病気になりそうだ」というところから始めようという。人生は不確定要素が多すぎるため、すべての病気の予想や予防は不可能だ。そこで、死に直結する病気「がん」「血管の病気」「骨折」を予防することが大事になる。

がんは定期的に健康診断を受け、早期発見・早期治療が必要だ。寝たきりになってしまう原因の第一位は脳の血管の病気、それを予防できれば肺炎にもならない。第二位は骨折だ。転倒が多い場所は意外にも自宅である。これは年齢を問わず要注意だ。血管の病気の原因は動脈硬化である。心筋梗塞は突然死の可能性がある病気の代表格だが(これいいかもと思ったりして)、脳梗塞は死なないまでも身体に不自由が残ってしまい、自分一人で生きることが難しくなる病気の代表格となる(これは最悪だ)。脳梗塞はさまざまな症状が出現するが、次のような症状のあるときは、迷わず救急車を呼べ。それを「FAST」と覚える。

F:FACE 顔のマヒ A:ARM 腕のマヒ S:SPEECH ろれつが回らない T:TIME 病院に運ばれるまでの時間が重要。FSTの症状が出たらTの勝負、発症後4〜5時間以内であれば血栓を溶かす薬tPAが使える。というわけで、転倒防止とFASTは絶対に覚える必要のある知識だ。その他は、まあ当たり前のことを、やさしい言葉でまとめただけで、役に立たないとはいわないが、わたしにとってはタイトルから期待したほどの内容ではなかった。でも「人生目標を考える医療」とは素晴らしい志であり、そのうち脳神経に不安が生じたら相談に行ってみたいが、八王子市とはずいぶん遠い。行く必要がないようがんばろうっと。 (柴田)

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062195135/dgcrcom-22/

死ぬまで健康でいられる5つの習慣


●うちの伯母は旅行好き。特にパリが好きで50回は行ってるだろうか。耳の病気で今は飛行機には乗れないし、一人での旅行は難しくなってしまったが、今は東京が楽しいと話している。

付き添いで旅行に行くことがあるけれど、主にお店での会話を伝えるのが役目。特に食事は難しいようで、どっちにするか、食後はどうするか、これは何々を使った何々という名前の品で〜という会話ができず、わからないまま笑顔で済ますのだと。

メモ帳やハンディタイプのホワイトボードを持ってはいるが、忙しいだろうに書いてもらうのは気が引けるし、何度も大声を出してもらうのもと、あまり外食しなくなった。

方向感覚はしっかりしているし、地図や路線図も読める。方向音痴の私をこっちだと導いてくれる。どっちが付き添いなのかわからない(笑)。頭や足腰、歯はしっかりしているし、大のおしゃべり好きなので、耳の病気さえなければと思う。続く。 (hammer.mule)

http://m2college.net/fes4/

まにまにフェスティバル(まにフェス)P4

伯母が大阪豊中のお伽工房で3人展。陶、ジュエリー、革カバン。11/22〜29。
https://www.facebook.com/pages/%E3%81%8A%E4%BC%BD%E5%B7%A5%E6%88%BF/423506204441926