ラーメン屋の企画に乗っかって、初めてセーラー服を着て公けの場所に出たのは2011年6月11日(土)のことだから、以来、5年が経過したことになる。
当初、後々どうなるかなんて、なーんも考えていなかった。面白そうだからやってみて、そしたら案外だいじょうぶだったもんだから、ならばどこへでも行ってみて、どうなるかみてやろうとなったのである。
悪ノリがエスカレートしていっただけのこと。そういや、小学生のころ、先生から「すぐ調子に乗る」って、よく怒られてたっけな。
有名になりたいとか、芸能方面で活動したいとか、そういうスケベ心を内に秘めての活動ではなかった。そもそも有名になれると思ってなかったし。だって、女装自体、目新しい概念でもなんでもないし、女性の立ち居振る舞いを上手く真似る才能があるわけでもないし、完璧を目指して努力しているわけでもないし。人々から特別な存在として認めてもらえる要素がなにもない。
なので、各種媒体から取材に来てくれたり、ミュージックビデオなどの映像で使ってくれたりしたのは、私の側からの売り込みによるところゼロで、ひとえに、私にコンテンツとしての価値を見出して使い道を考えてくれた企画者のおかげである。
せっかく起用してもらえているのに、何かを演じようとすると、大根ぶりがひどくてたいへん申し訳ないことになっている。こうなるとあらかじめ分かっていたら、もっと若いころから歌とかお芝居とかちゃんと練習して、芸能方面を目指しときゃよかった。
まあ、世の中そんなに狙ったとおりにはいかないもんで、変な色気を出したら出したで、意に反してちっとも売れず、四流五流の泥沼にもがいている結果になったかもしれないけど。
いまだに飽きられずに使ってもらえているのはありがたい限りで、ここ2か月ばかりの間に何本かの映像の収録に呼んでもらえた。仕上がったコンテンツが、ぼちぼちとネットに上がってきている。
●「アップアップガールズ (仮)」が見せてくれた根性
アイドルグループ「アップアップガールズ(仮)」(略称:「アプガ」)の姿は、2014年8月2日(土)、3日(日)にお台場で開催された『TOKYO IDOL FESTIVAL 2014』の初日に見ている。
そのときは、遠くからステージを眺めるだけだったが、間近にお会いしてごあいさつする機会が2016年2月23日(火)にあった。デジタルハリウッド大学で開催された、故・櫻井孝昌氏の追悼イベントの場においてである。
櫻井氏は、日本のポップカルチャー研究家であり、デジタルハリウッド大学の特任教授であったが、2015年12月4日(金)、電車との接触事故で亡くなっている。『世界カワイイ革命』(PHP研究所、2009年11月)などの著書がある。
櫻井氏は、福岡県が運営するポップカルチャー配信サイト「アジアンビート」のアドバイザーとして、連載コラム「J Pop Culture 見聞録 (60回)」、「櫻井孝昌のJAPAN! JAPAN! JAPAN! (105回)」、「ポップカルチャー見聞録 〜世界が愛する日本を追いかけて〜(41回)」を執筆しており、その中で、アプガが何回も登場する。
http://asianbeat.com/ja/jjj/jjj057.html
櫻井氏は、2014年11月に千葉県松戸で開催されたイベント「Japan Pop Carnival」のプロデューサを務めており、サイトでアプガを下記のように紹介している。
「数々の挫折を乗り越えてきた闘うアイドルの彼女たちは、私が音楽で何かを変えたいと思ったとき、必ずといっていいほどいっしょに臨んでくれた同志です。アプガは私にとって大切なステージはいつも一緒なのです」。
http://jpcc2014.jpn.org/producer_comment.html
お会いしたご縁で、4月5日(火)にリリースされた『パーリーピーポーエイリアン』のミュージックビデオ(MV)で、味付けに、私も出演させていただけた。まさに櫻井氏のおかげである。「現世では何もしてやれなかったからな」と、上のほうから声がした。
映像の収録は3月9日(水)にあった。実は、非常に寒くて、雨が降ってて、けっこう過酷な状況だった。アプガさんたちは、どこかの遠征から帰ってきたばかりとのことで、疲れていたはずである。
貸切の「はとバス」で移動したのだが、これがちょっと残念なことになっていて。こういう天候のときは屋根があるとよかったのだが。代わりに覆っていたのは、ブルーシート。
窪みに雨水がたまり、あちこちからしみ出して、ぽったんぽったん垂れてくる。ときおり、シートを上へ押し返して、水を外に逃がさないとならない。しみ出したのは、タオルで吸い取らないと、人の上に落ちてくる。
この状況下でアプガさんが見せてくれた根性には感動を覚えた。歯を食いしばって忍耐したというのではない。この状況をあたりまえのように受け入れ、終始明るく振る舞い、楽しんでいるふうでさえあった。
ただの一言も愚痴が発せられることはなかった。余計な一言でムードを険悪にしたりはするまいぞ、というプロの心意気を見せてもらった。移動の最後には全員寝てたけど。
アイドル戦国時代にあって、ある一定の水準から上に浮かび上がるのは、並大抵のことではないのだ。尊敬の念を強くした。
ところで、追悼イベントでお会いした、もうお一方の歌い手さんのMVにも出させていただけることになっている。
6月26日(日)に収録があった。残念ながらご本人とご一緒ではなく、私の出る場面だけを単独で収録された。8月にリリース予定。なので、まだ多くを語ることはできないけれど、意外性ある映像に仕上がるはずで、非常に楽しみにしている。
●スマホゲームの宣伝用実写映像で武道の老師役
「株式会社おくりバント」の社長である高山洋平氏から、最初にコンタクトがあったのは2014年7月のことであった。おくりバントのウェブサイトには「私たちは、自己犠牲の精神で、お客さまを得点圏までおくることを最大のミッションにした広告会社です」とある。「ただし、出塁と本塁生還はお客さまにお任せします」とも。
http://www.okuribunt.com/
そのとき来た話は、ポニーキャニオンに所属する歌手・Amour MiCo(アモウ・ミコ)さんの『ジャブーン ジャブーン feat. ビーバンジ』のMVへの出演依頼であった。
2014年7月17日(木)、埼玉県某所にあるプールにて、飛び込み台からジャブーン! セーラー服を着て飛び込むため、リハーサルもできず、撮りなおしも利かず、ぶっつけ本番、一回こっきりの収録であった。共演者には、Ladybeard氏やタワシおじさんも。
高山氏から次に話が来たのは、2015年8月のことで、skillkillsの『Neo Cyber Madness』のMVへの出演依頼であった。私へ振ってきたのは、映画『ベスト・キッド』(The Karate Kid)に出てくるカンフーの老師匠のパロディー役である。なんと、セーラー服姿ではない。
収録は、2015年8月27日(木)、埼玉県の奥地にある日本家屋スタジオにて。平日の昼間は仕事があるので、収録は夜じゃないと無理、という私一人のワガママに、アーティスト本人たちおよび関係者全員を巻き込んでの、夜の収録。
箸でハエを捕ったり、車のワックスがけで円を描く動作を指導したり。演技のできない大根役者の私でも、これなら素でできる。
高山氏の中で、私はこういうのがハマり役と位置づけられたようで。ついに三度目の出演依頼が来た。今年の3月のこと。やっぱりセーラー服ではなく、女子高生に剣の道を指南する老師の役として。
意表の共演! セーラー服の女子高生×セーラー服ではないセーラー服おじさん。
スクウェア・エニックスの新作スマートフォンゲーム『ランガン キャノンボール』の宣伝用に実写映像を制作するという話。
戦闘センス抜群の女子高生「花(ハナ)」は、『ランガン キャノンボール』に参加するため、修行に出た。演じるのは、歌って踊れるダンス・ロックアーティストグループ「Q'ulle(キュール)」のメンバーの一人であるまなこさん。Q'ulle は、ニコニコ動画の「踊ってみた」から出てきたアーティストたちからなる。メンバーはいとくとら、ゆずき、まぁむ、まなこ、やっこの5人。
「花」を鍛え上げるのは「幻龍老師」。演じるのは、私。
収録は、4月27日(水)、千葉県某所にある日本家屋のあるテーマパークにて。役者経験の乏しいわれわれのために、武道の身のこなしのできる役者さんが、指導についてくださった。
数撃ちゃ当たる大作戦。9:00amから5:00pmまで、たーっぷりと時間を取って、ものすごく長い尺を収録。監督さんが頭に描いている絵が撮れるまで、同じシーンを何度でも撮りなおす、というのではなく、ちょっとずつ場所や動きを変えたバージョンをとにかくたくさん撮っておいて、使えるところを編集して使おうという方針のようであった。
セーラー服を着てないセーラー服おじさんを起用するよりは、ちゃんと演じられる役者さんがハゲかつらをかぶって、つけヒゲをつけて演技したほうが収録がラクなような気もするけど、それよりも、旬の話題の人を起用することに価値があるという考え方なのかもしれない。
超人実写映像『花と幻龍老師』編が7月4日(月)に公開された。
超人実写映像『ランガン キャノンボール』完全版が、7月6日(水)に公開された。
ゲームは、7月7日(木)にサービス開始した。
http://www.rungun-cannonball.jp/
●欧米視点で日本社会を描くドキュメンタリー映画、なぜそうなるか
コスタリカから日本に来ているという女性からメールが届いたのは、5月30日(月)のことである。許可をもらったのでフルネーム書いちゃうと、アレグラ・パチェコ(Allegra Pacheco)さん。パチェコ、が苗字ね。
ここ数年、何度か日本に来ていて、私の姿を何度も見かけていて、そのスタイルに好感をもっていたとのこと。現在、日本のサラリーマンについてのドキュメンタリー映画を制作しており、それを通じて、日本社会の複雑な問題について追究したいという。ついては、私にもインタビューしたい、と。
そのような用件が、ちゃんとした日本語で書かれている。敬語もしっかりと使いこなしている。そこはすばらしい。だが……。
過去に似たようなリクエストをもらい、収録に行ったことは行ったけれども、非常に腹立たしい思いをして終わったのを思い出した。あれの同類か?
以前に動画の収録でお世話になったU田氏から久しぶりにメールが届いたのは、2014年7月23日(水)のことである。アメリカを拠点に、世界の国々を訪問し、「自由」をテーマに長編ドキュメンタリー映画を制作している監督がいる。日本での収録では、ぜひとも私を取材したいと言っているが、出演していただけないか、という用件であった。
監督は、Rupert Russell氏。映画のタイトルは『Freedom』。その時点での仮題であり、今は、『Freedom for the Wolf』になっているようである。メールには、概要として、次のように述べられている。
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『自由』とは何か?
自由を手に入れるために課せられる課題は世界各国でどのように異なるのか?チュニジアに"アラブの春"がもたらしたもの、イラクでの民主主義運動、日本で規制される表現の自由、香港での参政権運動、多民族国家インドが抱える民主主義の課題、パキスタンでの無人航空機を使った武力衝突、アメリカでの市民権…映画『Freedom』では、世界各国が直面する様々な問題を通し、『自由』というユニバーサルな考え方を考察する。
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うわっ、これ、やだな、というのが真っ先に受けた印象である。他の国のことはよく知らない。けど、日本についてのこのごくごく簡単な記述を見るだけで、ああまたあれか、って思っちゃう。欧米の人って、みんなおんなじこと言うね。
自由とか人権とか個人主義についての考え方は、われわれが一番進んでいる。発展途上の諸国においては、まだまだ旧態依然とした封建的な考え方が支配的で、人々が不自由を強いられている国がたくさんある。われわれが行って、いっちょ啓蒙してやらねば。
これがいわゆる「白人優越主義(white supremacy)」ってやつなのか。
で、私に対する褒めかたも、観点がズレている。人々からどんなに嫌がられようが、少しも意に介することなく自分のスタイルを貫き通している、その鋼鉄の意志がカッコいいとかなんとか。ぜんぜん違うんだけどなぁ。
日本のサラリーマンについても、言うことはだいたい同じ。誰も彼もがそっくりな格好している。まるでおもちゃの兵隊みたい。あるいは、同一規格のロボットの大群。およそ人間味というものが感じられず、見ていて寒々しい光景。
ちょっとでも個性的であろうとしたり、自己を表現しようとしたりする姿勢を許さず、互いに牽制しあっている、同調圧力の強さを物語っている。
実際、“salaryman”という単語自体、元はといえば、和製英語だった。それを新聞やニュースが面白がってダブルクオーテーションつきで使っているうちに、次第に定着していき、いまや、オックスフォード英英辞典に掲載されている。つまりは、スタンダードな英単語に昇格したってこと。
意味は「(特に日本の)ホワイトカラー労働者」。それも、あの画一的な大量コピーという揶揄的なニュアンスを含んでいる。例文がひどい。
「ダークスーツのサラリーマンの群が、本能で思考が麻痺したシャケの群のように、交差点を渡った」。没個性の象徴みたくみられてるってわけだ。
こういうのを打破して新しい時代の幕を開けようとする革命家は、どっかから出てきたりせんのか。歴史の流れからして、そろそろ出てくるころだろ。そういう意味づけをもって、私にスポットが当たる。
こうとでも答えておけば、模範的なんだろうなぁ。日本は経済的には豊かになり、生活様式は近代化しているけれど、人々の考え方の底流には旧態依然とした封建的なものが、しつこい油汚れのようにこびりついている。
これを打破して、人々が自由を獲得しない限り、真の先進国にはなりえない。日本の相互監視社会の窮屈さにほとほとうんざりしている私は、この悪しき慣習を打破し、新しい風を招き入れるため、戦うことにした。自由の戦士だ。
今のところ、多勢に無勢で、考え方の古い人々からの嫌がらせを受けて、非常に苦しい戦いを強いられている。けれど、どんなことにもめげない鋼鉄の意志をもって長く続けていくうちには、少しずつでも世の中を変えていけると確信している。
わーーー、パチパチパチパチ。きゃー、かっこいいーーーっ!
待ってましたっ! いよっ、大統領!
けっ。言えるかいっ。セーラー服着て歩くよりも100倍恥ずかしいわいっ。そもそもドキュメンタリーなのに、相手の期待に沿うべく心にもないこと言えますか、ってんだ。
その雰囲気を察知したので、私は先手を打って、U田氏に、下記のように釘を刺している。
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日本の社会は「出る杭は打たれる」と言われているように、社会的規範に従わせるべくお互いに監視しあう没個性的な社会である中、自由を求めて、殻を壊すべく日々戦っている、という枠組みでの捉え方にすごーく違和感があります。
むしろ、政治や司法など正式な場では自由・平等を謳いながらも、実生活においては差別・偏見が多くて、不快なリアクションを受けたり身の危険を感じたりすることなく、エキセントリックな外見や振る舞いを行使する自由に関して制約が多いのは西洋のほうなのではないかと思っており、逆に、権利だの差別反対だのと声高に叫ぶ必要もなく、権利行使がすんなり受け入れられ、civilizationのレベルが高いのは日本の側なのではないかと思っています。
しかしながら、英語で発信するニュースやドキュメンタリーで「日本のほうがcivilizationにおいて遥かに進んでいる」というようなメッセージを発したりしようものなら、大反発は必至でしょう。そのあたりにジレンマを感じます。
しかし、なるべくなら、自由を求めて戦う革命家みたいな枠で表現するのは避けていただけると。
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U田氏は、この見方に賛同してくれた。
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読んでいて「なるほどなー確かにな〜」と、思わずもの凄く納得してしまいました。取り上げ方について、そういうことであれば、こちらの方から特に「この枠にはまってこの役を演じてください!」ということは致しません。
むしろ、小林さんの考え方をそのまま語っていただいた方が、こちらで何らかの枠にはめ込むよりもよっぽど興味深い内容になるのではないかと思います。
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私からは、さらに次のようにも言った。
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立場を汲んでいただきまして、ありがとうございます。
日本においても、私のような悪目立ちする行為に対して快く思っていない人は、きっとたくさんいるのだと思います。けど、そういう人は、面と向かって苦言を呈したり悪しざまにののしったりしないんですね。華麗にスルーしてくれる。
人々の価値観は案外バラバラであっても、それが表面的にぶつかり合うことなく、テキトーに共存している、そのテキトーさが、つまりは平和の秘訣なんではないかなー、とか、とか。
なので、そのスルーっぷりは、私にとって、非常にありがたいなぁ、と。こっちからも、これ見よがしに見せつけるような態度をせず、自然に振舞っている限り、(少なくとも表面的には)何の波風も立たない。
日本社会のそのスルー力には大いに感謝しているという立場なので、こちらから、差別反対だの偏見をなくそうだのと声高に糾弾するような立場ではないというわけです。そんな言い回しでよければ、出演してちょこっと語るのは可能です。
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これにもU田氏は肯定的であった。
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小林さんのこの考えかた、私は個人的にとっても納得です。作品としても、ステレオタイプな捉え方じゃなくて、こういうフレッシュな考え方が入ってくるのはとても新鮮で良いことなのではないかと思います。
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ここまでは、たいへんよい雰囲気であった。しかしながら、U田氏は監督さんと私との間の橋渡しをしてくれている立場にすぎず、映画の制作関係者ではない。なので、当然のことながら、収録現場まで来てはくれなかった。
2014年8月31日(日)2:00pm、代々木公園の原宿側の入り口前は閑散としていた。悪いウィルスかなんかを抱えた蚊が出たとかの騒ぎの真っ最中だったので。情報が伝わってないと思しき外国人の姿しかなかった。
映画制作クルーを見た瞬間、私のようなものの考え方を決して理解することのない人たちなのだと直感した。
インタビューには通訳がついてくれた。さっそくの質問は「みんな同じ格好しているサラリーマンをどう思うか」。そーれ来た来た来た来た。
まったく気にならない。そんなところで個性を出そうとしたってしょうがない。見かけが互いに似てるからって、ものの考え方まで画一的だろうと仮定するのは浅すぎる。
デザフェスみたいに、創造的な活動の産物を発表する場はいくらでもあるのだから、個性はそういうところで存分に発揮すればよい。
私は、どんな答えを相手が期待しているのかをちゃんと察知しつつ、そこへはまったく行かずに自分の考えを述べた。
まあ、当然のことながら、相手は満足しませんわな。同じようなことを、形だけ変えて、何度も何度も聞きなおしてくる。言え言え言え言え早く言え、とばかりに。
ある程度の時間が経ったところで、収録は終了となった。制作クルーはいちおう礼を言って去っていった。不快な思いが残り、ああ、来るんじゃなかったと後悔した。
まあ、向こうも、間違ったやつを呼び出しちまったと後悔したことだろう。それっきり何も連絡がない。
いま、これを書くにあたって、ネットを検索してみたら、監督氏のウェブサイトが出てきた。
http://www.rupertrussell.com/
この映画に関するページも作ってある。ティーザー映像は、香港で起きた、市民と警官との衝突の様子を収録したもの。日本で撮ったという写真も数点掲載されているが、私の姿はない。
まあ、監督は私ではないのだし。どんな映画を作ろうと自由だし。勝手にするがいい。
このときのことがあったので、アレグラ・パチェコさんからメールが来たとき、またあれか、と思い、今度は最初っからちゃんと断るぞ、と思ったわけである。
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本件につきましては、心配な点があり、現時点では気持ちがかなり後ろ向きになっています。
私の週末の活動については、あくまでも個人的趣味という位置づけにとどめておき、社会問題と絡めたメッセージ発信をしないという方針でいます。特に、日本社会に根強く残るとされる差別的な意識やステレオタイプなものの見方について、私の側から、是正を図るためのロビー活動のような運動には、しないようにしています。
なので、その映画の中でコメントする役として、私は適当ではないのではないかと考えます。できれば、辞退させていただいたほうがよいように思うのですが、いかがでしょうか。
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パチェコさんからの返信は、聞かれたくないことは聞かないし、答えたくない質問には答えなくてよいし、社会的な問題にはできるだけ触れないようにするので、一度、話をお伺いしたい、というものであった。
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ひとつ懸念が払拭されたのですが、もうひとつありまして。
それは、私の本音の部分での考え方が、制作したい映像の趣旨とズレていて、それがどうにも埋まらないのではないかという懸念です。
日本のサラリーマン社会に構造的な問題がまったくないとは言いませんが、ジェンダー等のステレオタイプについて、人権意識が西洋は進んでいる、日本はまだまだ遅れている、という観点から是正を図っていこうというような視点に、あまりおもしろみを感じていないということがありまして。
私がコメントすると、映像のコンセプトを根っこから全否定することになりかねないというのがあります。
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パチェコさん「お時間ありましたら是非一度お会いし、お話させていただきたいです」。押し切られ、6月14日(火)9:00pmに新宿アルタ前で待合せして、近くの喫茶店で打合せしましょう、という話になった。
会ってみればパチェコさんは日本語がほぼカタコトレベル。メールの日本語は誰かに訳してもらっていたとのこと。で、ご友人のレナ(Lena)さんを通訳として連れてきた。お二人ともたいへんきれいな女性である。「椿屋珈琲 ひがし離れ」に入る。
レナさんの立場を考えて困りつつも、英語を発してみたら、なーんだ、ってことになって、以降はぜんぶ英語になった。
先の映画の一件のことを話すと、パチェコさんは、ものすごくほめてくれた。よく相手の言いなりにならなかったね、と。それを聞いて私もこれなら安心して収録に臨めると確信できた。
打ち合わせが終わって喫茶店から出たところで、これからまっすぐ帰るのかと聞くと、どっかで食事してからという。なんだ、食べてなかったの? 私もなんだけど。というわけで、行きつけの焼き鳥屋に行った。前々回の飲食店紹介で取り上げた、明治35年創業の「鳥修」。
https://bn.dgcr.com/archives/20160610140100.html
話が弾んだ。私は赤ワインをグラスで何杯も飲んだ。英語と酒とは取り合わせがよい。英語で活発になった血流に乗って酒が巡り、べろべろに酔える。
もう少し粘れば終電がなくなって、三人でそこらのラブホテルにしけ込めるかと期待するくらの時間に、二人は帰っていった。
以降、来るメールは英語になった。こっちも英語で返している。
6月25日(土)、原宿での収録はうまくいった。4:00pmから始めて、竹下通りを明治通りまで抜ける間に、ものすごくたくさんの人たちから写真を撮られ、私が歩くとどうなるかをたっぷりと記録してもらえた。
代々木公園に抜けて、インタビュー。もちろん、私の回答に変な注文がつくことはなく、たいへん気持ちよくしゃべることができた。
絞りをF1.2まで開くことのできるレンズで撮られた写真は、背景のボケ味がめちゃめちゃかっこいい。後で送ってもらえた。パチェコさんとは、その後もメールのやりとりが続いている。
http://picasaweb.google.com/Kebayashi/6304663517680788529
●あれのパロディ映像、下手すぎて顔から火が出る
企画段階からリアル女子高生が関わって生まれたというスマホアプリゲームが「株式会社ガルボア(GaLboa)」から出ている。タイトルは『おやじGirly(狩)』。女子高生がおやじ狩りをするゲームである。
これの宣伝に何回か関わらせてもらえた。「おやじが可愛い」というコンセプトを私がもとよりよく体現しているから、ってことらしい。
2015年9月19日(土)、20日(日)に幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ」では、このゲームのブースをにぎやかし、将棋の加藤一二三九段と一緒にステージに上がらせてもらえた。
2016年4月5日(火)に原宿の「国立代々木競技場第一体育館」で開催された『CINDERELLA FES(シンデレラフェス)Vol.3』でも、ゲームのブースに出させてもらえた。女子高生限定で1万人来場するという夢のようなイベントであった。
そして、映像収録。あれのパロディ映像を作る、とは事前に聞いていたが、私は自分の役目をよく理解していなかった。YouTubeには、すでにいろんなバージョンのパロディ映像が上がっている。オタク版とかハゲ版とか。
これって、そわそわと落ち着かない素人くさい立ち上がりから、いきなりキレッキレのダンスに移行する変化が面白さのポイントであって、ダンスが下手なやつがやってもちっとも面白くならない。そこをよーく練習しておけ、っていうことだったらしい。
私はそこをちっとも理解できてなくて、事前に知らされたYouTubeの映像を一〜二回見ただけで、これをどういうふうに料理するのかよくつかめないまま収録に臨んだ。
オリエンタルラジオの『PERFECT HUMAN』。
5月14日(土)、15日(日)。最初の日に女子高生からダンスの指導を受けるも、ぜんぜん予習してなかったもんだから、上手くなる以前に、動きそのものがちっとも覚えられなかった。
その日の夕方になって、映像を繰り返し見て、必死で覚えようと努め、さらにカラオケボックスで練習したけど、少しマシになった程度で、まるで不完全な状態で日曜の屋外収録に臨むことになった。
結局、その下手さを笑いにするという、たいへん恥ずかしい映像になった。仮編集された映像を事前に見せてもらい、これが世に出ていくのはちょっとたまらんぞ、と思っていた。
恐れていた日がついに来てしまった。7月7日(木)。よりにもよって、なんでデジクリ配信日の前日にタイミングよく出てくるかなぁ。みなさん、恥ずかしいので、ぜったいに見ないでください。
【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
セーラー服仙人カメコ。アイデンティティ拡散。
http://www.growhair-jk.com/
〈中国向け映像〉
上記以外にも、5月29日(日)には、中国の猫力Mollyさんの日本旅行を記録する映像の収録が恵比寿であった。彼女は、微博(Weibo)に300万人ものフォロワーがいる。それだけいると、個人ブログといいながら、広告媒体として機能しちゃう。
なので、映像制作会社から、無料でコンテンツ制作しましょうとのオファーが来る。おもしろい映像が上がるもんだから、ますますフォロワーが増えるという好循環。
恵比寿の映像は、まだ上がっていないようだけど。
http://weibo.com/smilemolly
〈香港向け映像〉
6月24日(金)には、香港のメディア「LikeJapan」の収録があった。女性レポーターもセーラー服になるというがんばりであった。
映像はまだ上がっていないようだが、収録風景。
http://picasaweb.google.com/Kebayashi/6304688266460496081
〈中野でやろう!〉
前々回、飲食店を回っているとき、「中野でやろう!」の後藤氏と二度ほどばったり会ったことを書いた。それがきっかけで、また掲載してもらえることになった。
6月18日(土)、高田馬場と中野と高円寺で写真を撮ってもらった。
http://picasaweb.google.com/Kebayashi/6304691926312826801
〈サンクトペテルブルク〉
木、金、月、火と会社を休んで、6月30日(木)〜7月5日(火)、ロシアのサンクトペテルブルク(旧称:レニングラード)に行ってきた。次回、レポートします。